秋。
いよいよ風が肌寒い季節。
高く昇った太陽の下、とある神社に一筋の影。
「ここ……ね」
赤を基調とした着物に身を包んだ、黒髪ロングの少女。
その少女はここ、博麗神社にたった今到着した。
「…………」
名は輝夜、性は蓬莱山。
不死の少女である。
彼女は境内に降り立った足で、神社へと歩を進める。
ゆっくり、ゆっくりと。
一歩一歩、踏みしめるようにして彼女は古ぼけた賽銭箱の前へと到着する。
「ここに来たのも久しぶりね……」
ここ最近、来ていなかった。
特に理由はない。
来る必要がなかったとも、意味がなかったともいえる。
(家にいるほうが、落ち着くしね)
賽銭箱に、つつと指を滑らせてみる。
人差し指に乗った埃の量が、この賽銭箱の使用頻度を物語っていた。
「さて……」
彼女は、体を引き締めて神社と対面した。
「……いるんでしょ?」
返事はない。
「そこに、いるんでしょ?」
「ねぇ、永琳……」
─────────
どれくらいそこにそうしていただろうか。
温かい甘酒の一杯でも飲みたくなる、そんなやや寒い風の吹く境内。
輝夜はしんと、もう何十年もそこにあった木のように静かに立っていた。
時間にして、数分。
やがて、神社内からため息が聞こえた。
それは一種の諦めのようなため息だった。
「……姫様も、頑固ですね」
「やっぱり、いた」
「こうなっては、あなたはてこでも動きませんからね」
今度は、輝夜がため息をついた。
「これだけ生きてたら、そりゃね」
数分間待ったくらいでなにを、と言いたいのだろう。
「わかってると思いますが、私はあなたに会いたくなかった」
「今は、でしょ」
「ええ、少なくとも"今は"まだ……」
障子を隔て、永琳は呟くように言った。
「今、私は姫様に顔を見せられません、いくらあなたがそれを望んでも、私が頑として拒否します」
「そう……」
永琳には見えないことだが、この時、輝夜の顔はひどく落ち込んでいた。
(見たい)
そう、見たいのだ。
永琳の顔を、その顔を。
力ずくでも見ようと思った。
しかし、それは最終手段にしたかった。
できれば、言葉で説き伏せたい。
力ずくでは、逃げられてしまうかもしれない。
そして、逃げられてはこの広い幻想郷で見つけることは難しくなる。
いや、もしかしたら見つけられなくなるかもしれない。
いくら時間があるといっても、相手が警戒していては見つけることは容易ではない。
なまじできたとしても、それはいつになるか。
(できれば、今)
今、この瞬間彼女に会いたかった。
─────────
「思えば、ここに来てから色んなことがあったわね」
ここ、とはもちろん幻想郷である。
永琳は応えない。
「最初は、そうね、あんまり覚えてないわ」
ふっと、声のトーンが下がる。
「日々隠れて、窮屈で、詰まらなかったわ」
そうそう、と付け加えた。
「妹紅が来てからは、それほど退屈じゃなかったかな」
ガタっと、障子の向こうで音が聞こえた。
「……まぁそれも、退屈凌ぎと言うには、少々生々しすぎるものだったけど」
血で血を洗う、とか、血の雨が降る、などという表現がある。
あの頃の二人は、まさにその表現か、それ以上の惨劇の毎日だった。
永琳は止めなかった。止めるべきではないと思っていたし、そもそも無意味だった。
最初、彼女は輝夜が勝って終わりだと思っていた。
しかし妹紅が同じ蓬莱人だとわかると、すぐに興味を失った。
意味のない戦い、永遠に終わることのない殺し合い。
せめて輝夜の暇つぶしになればいいと、それぐらいの気持ちだった。
「妹紅……ですか」
「ふふ、意外なところで反応するのね」
本来、輝夜と妹紅、輝夜と永琳が直接の因果がある。
妹紅と永琳は、同じ蓬莱人ということを除けば、その接点は輝夜を中心にするだけである。
輝夜は、自分の話題でピクリともしなかった永琳が、妹紅の名前で反応したことに少しムっとした。
「いや、意外というか、まぁ、あれです」
「どれよぉ」
「…………」
「…………」
沈黙。
それを作ったのは永琳であり、破るのも永琳だった。
「……妹紅は、まだ見つかりませんか」
今度は輝夜がピクリとする番だった。
「…………探してはいるんだけど、ね」
もう、妹紅がいなくなってからどれくらい経っただろうか。
もちろん、探した。
しかし結果は今言ったとおりである。
少しの間の後、輝夜は茶を濁すことにした。
「でも、ほんとあなたは相変わらずねぇ、永琳」
「と、いいますと?」
「何でも鋭くて、それでいて思ったことをストレートで言ってくるわ」
「……合理主義なんです」
知ってるわ、と輝夜。
それも知ってます、と永琳はからかった。
「で」
何の話だったっけと、輝夜は言った。
「退屈がどうのこうのって」
「そうそう」
何が可笑しいのか、輝夜はふふと笑っている。
「スペルカードルール、これは"いい"わ」
「スペルカードルール……」
オウム返しをする。
「普通に殺し合いをするのもいいけど、どうせ死なないし、第一しんどいのよね」
「しんどい、ですか」
「そ、しんどい」
この、"しんどい"は様々な意味が含まれている。
殺し合いという生々しいこと自体や、それによって生まれる後味の悪さなどである。
その点、スペルカードルールは"いい"、というのだ。
「なにより、後腐れなくていいわ」
「ははぁ、まぁ、そこは同意です」
「でっしょー?」
いわゆる、純粋な勝負という形で対決をするため、勝ちと負けが明確である。
そしてそれによって相手が血を流すこともない。
これ以上ないクリーンで、かつ解りやすい戦いだった。
「作ったのは、霊夢ですね」
「本当、あの貧乏巫女の数少ない偉業ね」
「…………」
博麗霊夢。
彼女を慕う者、多数。
当の輝夜もその一人だったりする。
それが、こんな軽口を叩けるのはなにも彼女が生来の金持ちだからではない。
「霊夢……ですか」
「彼女は…………早々にリタイアしたわね」
あえて、リタイアという表現を使う。
「……早かった、ですね」
「うん、魔理沙もね」
「彼女は、もうちょっと粘ると思っていましたが」
輝夜は、記憶を辿るようにして次々に名前を口にだした。
十六夜咲夜、魂魄妖夢、東風谷早苗などから始まり、次々と妖怪人外の名が出ては消えていく。
「そして、最後に残ったのが」
あなた達、永琳と妹紅よ、と。
「ふぅ…………やれやれ、ですね」
「ま、いずれこうなることはわかってたわよ」
「私達は我慢強さは誰にも負けませんからねぇ」
なにせ、永遠の時を生きるのである。
いつ気が狂ってもおかしくない。
いや、むしろ狂ったらどれほど楽だろうか。
しかし、彼女達はまだ狂わなかった。
「もう、探さないんですか?」
「ん?」
輝夜はとぼけてみせた。
「妹紅です、本当ならいま、こうやって私のところにいる暇はないでしょう」
「んー」
考える。
「だってさ、ほら、妹紅はあれじゃん、絶対に私と勝負するから」
にっこりと微笑む輝夜の顔は、永琳には見えない。
隔てたままの障子越しに、彼女は言う。
「だから、放置ですか」
「まぁ、あの単細胞なら正々堂々とくるでしょ、ひょいっと現れてね」
「……わかりませんよ」
「わかるわ」
有無を言わせない。
輝夜の言う"わかる"とは、そう信じる、ということだった。
「だから、もう探してないの」
はい、この話はこれでお終い、と輝夜は手をうち、言った。
「というわけで、あなたの顔を見るまで、ここを動かないわよ」
永琳は、ははと乾いた笑いをした。
「弱りましたね」
「…………」
(もう、限界かな)
そう、思った。
そろそろ、潮時だと思った。
言葉では、適わない。
力ずくでも、永琳の顔を見てやると、そう決心した。
神社に足をかけ、障子に手を伸ばした。
当然、中では動きがみられた。
「待ってください!」
「何? 話なら後で聞くわよ」
引き手に、指を掛ける。
「それを、開けますか」
「……」
一瞬、戸惑う。
「開けるわ」
「先ほども言いましたが、私は今の姿をあなたに見せたくないのです」
「わかっているわ」
「それでも、開けるというのですね」
「当然じゃない、私は永琳、あなたに会いに来たんだから」
「あなたはきっと、いえ、絶対、私を見たとたん駆け出すでしょう」
「そんなことないわ」
嘘だった。
「ふふ、私は何を当たり前のこと言っているんでしょうね」
「当たり前……ねぇ」
輝夜は、永琳がそう言うのも仕方がないことだと思った。
「決心してくれた?」
「もはやそれは、こっちのセリフです」
彼女の場合、決心、というよりも、心の準備、である。
輝夜は早まる動悸を懸命に抑え、ついにその手を動かした。
─────────
「……っ!?」
輝夜が見たのは、永琳の後ろ姿だった。
それで十分だった。
輝夜は身を反転、空に飛び立った。
「輝夜!」
そう、叫び、永琳も飛んだ。
差は縮まらない。
輝夜はどんどん加速をする。
対し、永琳はつかず離れずの位置でついていくのだ。
中途半端だった。
彼女を追って飛び出したはずなのに、追いつかない。
追いつけないのではなく、追いつかない。
そんな彼女の事情などお構いなしに、輝夜は飛ぶ、飛ぶ。
やがて、輝夜は広い土地へと舞い降りた。
辺りになにもなく、まるで荒野のような土地だった。
一足遅れ、永琳も降り立つ。
輝夜の呼吸は、荒い。
しかし、それを整える時間は無かった。
振り返り、輝夜は叫んだ。
「永琳見っーーーけ! ポコペン!」
ガン、と、空き缶を踏みつける音だけが辺りに響く。
そして、高らかに嘲笑した。
「はーっはっはっはー! えーりんのばーかばーか! 私を舐めすぎるからこうなるのよ!」
永琳は、俯いている。
それを悔しさゆえととった輝夜は、更に増長する。
ついには腹を抱えて笑い出した。
その時、永琳は、笑った。
ニヤ…………と。
「輝夜!」
笑い転げている輝夜は、横目で負け犬の方を見た。
そこの負け犬は、髪を掻き揚げ、勝ち誇った笑みを輝夜に見せた。
輝夜は、大きく口を開けたまま蒼ざめた。
「ざーんねんだった、ね! て・る・よ」
青と赤の服に身を包んだ"藤原妹紅"は、ウインクを送った。
「だだだ、だっ、ほほ、ほら、か、かみ、かみ……とか……」
ガクガクと、震える輝夜。
「あぁこれ? カツラ」
ぽいっと、銀髪のカツラを投げ、頭をぽりぽりと掻く。
呆然と、それはもう呆然としている輝夜の後ろ、彼女の肩に手を置く者がいた。
「お手つきだZE」
満面の笑みである。
魔理沙は、天高く缶を蹴った。
─────────
博麗神社、一人茶を啜りながら永琳は微笑んでいた。
「だから言ったのに、ね」
いよいよ風が肌寒い季節。
高く昇った太陽の下、とある神社に一筋の影。
「ここ……ね」
赤を基調とした着物に身を包んだ、黒髪ロングの少女。
その少女はここ、博麗神社にたった今到着した。
「…………」
名は輝夜、性は蓬莱山。
不死の少女である。
彼女は境内に降り立った足で、神社へと歩を進める。
ゆっくり、ゆっくりと。
一歩一歩、踏みしめるようにして彼女は古ぼけた賽銭箱の前へと到着する。
「ここに来たのも久しぶりね……」
ここ最近、来ていなかった。
特に理由はない。
来る必要がなかったとも、意味がなかったともいえる。
(家にいるほうが、落ち着くしね)
賽銭箱に、つつと指を滑らせてみる。
人差し指に乗った埃の量が、この賽銭箱の使用頻度を物語っていた。
「さて……」
彼女は、体を引き締めて神社と対面した。
「……いるんでしょ?」
返事はない。
「そこに、いるんでしょ?」
「ねぇ、永琳……」
─────────
どれくらいそこにそうしていただろうか。
温かい甘酒の一杯でも飲みたくなる、そんなやや寒い風の吹く境内。
輝夜はしんと、もう何十年もそこにあった木のように静かに立っていた。
時間にして、数分。
やがて、神社内からため息が聞こえた。
それは一種の諦めのようなため息だった。
「……姫様も、頑固ですね」
「やっぱり、いた」
「こうなっては、あなたはてこでも動きませんからね」
今度は、輝夜がため息をついた。
「これだけ生きてたら、そりゃね」
数分間待ったくらいでなにを、と言いたいのだろう。
「わかってると思いますが、私はあなたに会いたくなかった」
「今は、でしょ」
「ええ、少なくとも"今は"まだ……」
障子を隔て、永琳は呟くように言った。
「今、私は姫様に顔を見せられません、いくらあなたがそれを望んでも、私が頑として拒否します」
「そう……」
永琳には見えないことだが、この時、輝夜の顔はひどく落ち込んでいた。
(見たい)
そう、見たいのだ。
永琳の顔を、その顔を。
力ずくでも見ようと思った。
しかし、それは最終手段にしたかった。
できれば、言葉で説き伏せたい。
力ずくでは、逃げられてしまうかもしれない。
そして、逃げられてはこの広い幻想郷で見つけることは難しくなる。
いや、もしかしたら見つけられなくなるかもしれない。
いくら時間があるといっても、相手が警戒していては見つけることは容易ではない。
なまじできたとしても、それはいつになるか。
(できれば、今)
今、この瞬間彼女に会いたかった。
─────────
「思えば、ここに来てから色んなことがあったわね」
ここ、とはもちろん幻想郷である。
永琳は応えない。
「最初は、そうね、あんまり覚えてないわ」
ふっと、声のトーンが下がる。
「日々隠れて、窮屈で、詰まらなかったわ」
そうそう、と付け加えた。
「妹紅が来てからは、それほど退屈じゃなかったかな」
ガタっと、障子の向こうで音が聞こえた。
「……まぁそれも、退屈凌ぎと言うには、少々生々しすぎるものだったけど」
血で血を洗う、とか、血の雨が降る、などという表現がある。
あの頃の二人は、まさにその表現か、それ以上の惨劇の毎日だった。
永琳は止めなかった。止めるべきではないと思っていたし、そもそも無意味だった。
最初、彼女は輝夜が勝って終わりだと思っていた。
しかし妹紅が同じ蓬莱人だとわかると、すぐに興味を失った。
意味のない戦い、永遠に終わることのない殺し合い。
せめて輝夜の暇つぶしになればいいと、それぐらいの気持ちだった。
「妹紅……ですか」
「ふふ、意外なところで反応するのね」
本来、輝夜と妹紅、輝夜と永琳が直接の因果がある。
妹紅と永琳は、同じ蓬莱人ということを除けば、その接点は輝夜を中心にするだけである。
輝夜は、自分の話題でピクリともしなかった永琳が、妹紅の名前で反応したことに少しムっとした。
「いや、意外というか、まぁ、あれです」
「どれよぉ」
「…………」
「…………」
沈黙。
それを作ったのは永琳であり、破るのも永琳だった。
「……妹紅は、まだ見つかりませんか」
今度は輝夜がピクリとする番だった。
「…………探してはいるんだけど、ね」
もう、妹紅がいなくなってからどれくらい経っただろうか。
もちろん、探した。
しかし結果は今言ったとおりである。
少しの間の後、輝夜は茶を濁すことにした。
「でも、ほんとあなたは相変わらずねぇ、永琳」
「と、いいますと?」
「何でも鋭くて、それでいて思ったことをストレートで言ってくるわ」
「……合理主義なんです」
知ってるわ、と輝夜。
それも知ってます、と永琳はからかった。
「で」
何の話だったっけと、輝夜は言った。
「退屈がどうのこうのって」
「そうそう」
何が可笑しいのか、輝夜はふふと笑っている。
「スペルカードルール、これは"いい"わ」
「スペルカードルール……」
オウム返しをする。
「普通に殺し合いをするのもいいけど、どうせ死なないし、第一しんどいのよね」
「しんどい、ですか」
「そ、しんどい」
この、"しんどい"は様々な意味が含まれている。
殺し合いという生々しいこと自体や、それによって生まれる後味の悪さなどである。
その点、スペルカードルールは"いい"、というのだ。
「なにより、後腐れなくていいわ」
「ははぁ、まぁ、そこは同意です」
「でっしょー?」
いわゆる、純粋な勝負という形で対決をするため、勝ちと負けが明確である。
そしてそれによって相手が血を流すこともない。
これ以上ないクリーンで、かつ解りやすい戦いだった。
「作ったのは、霊夢ですね」
「本当、あの貧乏巫女の数少ない偉業ね」
「…………」
博麗霊夢。
彼女を慕う者、多数。
当の輝夜もその一人だったりする。
それが、こんな軽口を叩けるのはなにも彼女が生来の金持ちだからではない。
「霊夢……ですか」
「彼女は…………早々にリタイアしたわね」
あえて、リタイアという表現を使う。
「……早かった、ですね」
「うん、魔理沙もね」
「彼女は、もうちょっと粘ると思っていましたが」
輝夜は、記憶を辿るようにして次々に名前を口にだした。
十六夜咲夜、魂魄妖夢、東風谷早苗などから始まり、次々と妖怪人外の名が出ては消えていく。
「そして、最後に残ったのが」
あなた達、永琳と妹紅よ、と。
「ふぅ…………やれやれ、ですね」
「ま、いずれこうなることはわかってたわよ」
「私達は我慢強さは誰にも負けませんからねぇ」
なにせ、永遠の時を生きるのである。
いつ気が狂ってもおかしくない。
いや、むしろ狂ったらどれほど楽だろうか。
しかし、彼女達はまだ狂わなかった。
「もう、探さないんですか?」
「ん?」
輝夜はとぼけてみせた。
「妹紅です、本当ならいま、こうやって私のところにいる暇はないでしょう」
「んー」
考える。
「だってさ、ほら、妹紅はあれじゃん、絶対に私と勝負するから」
にっこりと微笑む輝夜の顔は、永琳には見えない。
隔てたままの障子越しに、彼女は言う。
「だから、放置ですか」
「まぁ、あの単細胞なら正々堂々とくるでしょ、ひょいっと現れてね」
「……わかりませんよ」
「わかるわ」
有無を言わせない。
輝夜の言う"わかる"とは、そう信じる、ということだった。
「だから、もう探してないの」
はい、この話はこれでお終い、と輝夜は手をうち、言った。
「というわけで、あなたの顔を見るまで、ここを動かないわよ」
永琳は、ははと乾いた笑いをした。
「弱りましたね」
「…………」
(もう、限界かな)
そう、思った。
そろそろ、潮時だと思った。
言葉では、適わない。
力ずくでも、永琳の顔を見てやると、そう決心した。
神社に足をかけ、障子に手を伸ばした。
当然、中では動きがみられた。
「待ってください!」
「何? 話なら後で聞くわよ」
引き手に、指を掛ける。
「それを、開けますか」
「……」
一瞬、戸惑う。
「開けるわ」
「先ほども言いましたが、私は今の姿をあなたに見せたくないのです」
「わかっているわ」
「それでも、開けるというのですね」
「当然じゃない、私は永琳、あなたに会いに来たんだから」
「あなたはきっと、いえ、絶対、私を見たとたん駆け出すでしょう」
「そんなことないわ」
嘘だった。
「ふふ、私は何を当たり前のこと言っているんでしょうね」
「当たり前……ねぇ」
輝夜は、永琳がそう言うのも仕方がないことだと思った。
「決心してくれた?」
「もはやそれは、こっちのセリフです」
彼女の場合、決心、というよりも、心の準備、である。
輝夜は早まる動悸を懸命に抑え、ついにその手を動かした。
─────────
「……っ!?」
輝夜が見たのは、永琳の後ろ姿だった。
それで十分だった。
輝夜は身を反転、空に飛び立った。
「輝夜!」
そう、叫び、永琳も飛んだ。
差は縮まらない。
輝夜はどんどん加速をする。
対し、永琳はつかず離れずの位置でついていくのだ。
中途半端だった。
彼女を追って飛び出したはずなのに、追いつかない。
追いつけないのではなく、追いつかない。
そんな彼女の事情などお構いなしに、輝夜は飛ぶ、飛ぶ。
やがて、輝夜は広い土地へと舞い降りた。
辺りになにもなく、まるで荒野のような土地だった。
一足遅れ、永琳も降り立つ。
輝夜の呼吸は、荒い。
しかし、それを整える時間は無かった。
振り返り、輝夜は叫んだ。
「永琳見っーーーけ! ポコペン!」
ガン、と、空き缶を踏みつける音だけが辺りに響く。
そして、高らかに嘲笑した。
「はーっはっはっはー! えーりんのばーかばーか! 私を舐めすぎるからこうなるのよ!」
永琳は、俯いている。
それを悔しさゆえととった輝夜は、更に増長する。
ついには腹を抱えて笑い出した。
その時、永琳は、笑った。
ニヤ…………と。
「輝夜!」
笑い転げている輝夜は、横目で負け犬の方を見た。
そこの負け犬は、髪を掻き揚げ、勝ち誇った笑みを輝夜に見せた。
輝夜は、大きく口を開けたまま蒼ざめた。
「ざーんねんだった、ね! て・る・よ」
青と赤の服に身を包んだ"藤原妹紅"は、ウインクを送った。
「だだだ、だっ、ほほ、ほら、か、かみ、かみ……とか……」
ガクガクと、震える輝夜。
「あぁこれ? カツラ」
ぽいっと、銀髪のカツラを投げ、頭をぽりぽりと掻く。
呆然と、それはもう呆然としている輝夜の後ろ、彼女の肩に手を置く者がいた。
「お手つきだZE」
満面の笑みである。
魔理沙は、天高く缶を蹴った。
─────────
博麗神社、一人茶を啜りながら永琳は微笑んでいた。
「だから言ったのに、ね」
やられた。
深い話と思ったらこれかよ!!
だけど面白かった!
話自体は面白かった。
でも面白かったです。
面白かったです
なんでだろw
いやまてよ…。逆にこれはこれでお約束的な話でいいということか…。
2周目でようやく理解しました。
読み直して、己の未熟を痛感した…。
確かに、霊夢は早々リタイヤしそうですね、めんどくさがってww
―――缶蹴りって、燃えるよね。
見事に騙されたさw
だから100点だ
寿命ネタかと思えば、缶けりだった。
そんな作者に畜生の意味を込めて100点
死後幽霊になるであろう妖夢が死ぬわけ…と思ったが…
やられちまったぜ!w
そう思っていた時期が、俺にもありました。
缶蹴りかよ! 騙されたからこの点数だ! 持ってきやがれ100点満点!!
逃げてしまうの!?かぐやあああああああああ!!
っておい!!!
こりゃあいいフェイク(満面の笑み
しんみりさせた挙句がこれですかぃ!w
永琳がどうかしたかと思ったら・・・!w