※この作品は作品集90の『長『雨』降りて『林』に芽吹く』の続編にあたります。
この話には『幻想入り』についての独自の視点・考えが入っています。
それについては「そういうもの」と割り切ってくれると助かります。
※この話以降、霖之助視点:◇ 霖視点:◆ 話の中心視点:○ とします。
◆
「ふ~ん霖・・・か。まぁわかったわ」
私が幻想郷に来て早3日。
現状私は森近さんに仕事を教えてもらっている。
いわば研修期間のようなものだ。
とは言っても香霖堂には決まった品並べがないため(森近さん曰く規則性があるらしいけど)やることといったら品物の埃を払うことくらい。
森近さんは今店の奥に入ってしまっている。
何か作業をしているらしいけれど教えてはくれなかった。
まぁ幻想のことをまだわからない私にとって危険な何かなのかもしれない。
そう考えていると霊夢さんが来てくれたため話相手になってもらっている。
名前に関することを話した時の反応は淡泊なものだった。
「できればそう呼んでもらえれば助かります。今後会う方々には『霖』と名乗りますけど霊夢さんは『亜季良』って名前は知れてますから無理強いはしません」
「別にどっちでもいいわよ。霖って呼んでほしいならそれでいいわ」
霊夢さんはお茶を啜って了承をくれた。
前回も勝手にお茶を出してたけど・・・なんでわかるんだろ?
私用のお茶も用意してくれたけど今は店の端にあった機械を拭いていた。
「ところで霖。さっきから拭いてるそれ、なんなの?機械みたいだけど」
あえて名前を呼んでくれた。霊夢さんなりの気遣いだろうか。
「えっとカセットデッキっていうんです。音を録音したカセットっていう器具の音を取り出すための機械なんですけど・・・」
「あら?そのカセットってものなら霖之助さんが持ってなかったかしら?」
「えぇ。昨日話して嬉々として見せてくれたのですけど・・・」
昨日私は外の世界のもので森近さんがどうしても方法がわからないものを見せてもらった。
その中にこのカセットデッキがあったのだけど。
「これが森近さんが見せてくれた『カセット』です」
私は床に置いておいたそれを見せ、霊夢さんに手渡す。
「なんか・・・『小さくない』?このカセット」
霊夢さんはすこしそれを振るとこちらにある機械を見る。
「カケット小さいんじゃないんですよ・・・」
僕は森近さんの落胆した顔を思い出しながらため息をついて
「この機械ただの『カセットデッキ』じゃなくて『エルカセットデッキ』なんです・・・」
そう。私が拭いている機械はただのカセットデッキではない。
およそ30年前に製造されたエルカセットデッキだ。
カセットが文庫本のように大きいと言われた珍しい一品。
珍しいものを扱うという香霖堂らしいと言えばらしい。
祖父が襖の奥に仕舞い込んでいたのを見たことがあったので覚えていたけど。
そういえば森近さんは私が居候を始めたその夜にも物を鑑定を頼まれた。
それはフロッピーだったのだけど、パソコンには入らないらしい。
見てみるとそれは『5インチフロッピー』だった。
なんでそんなものまであるんだろ?
と考えていると、
「使えないものを拭いてどうするのよ・・・」
カセットを机に置いて霊夢さんが呆れ顔でこちらを見た。
「まぁエルカセットがこちらに来ないとも限りませんし」
というより来てなきゃおかしいような気がするけれど。
「ところで霖之助さんは?さっきから奥にずっとじゃない」
煎餅を齧りながら霊夢さんは店の奥を指差す。
「私にもよくわかりませんけど何か急ぎの仕事があるらしくて」
「急ぎの仕事?霖之助さんに限ってそんなことはないでしょ」
話を聞く限りでは森近さんはそういうことは起きえない人のようだ。
常に本を読み、思考を巡らす。
それが森近さんの本質であり思考の中心そのものだったからだ。
「パチュリーあたりと気が合いそうだけどねぇ・・・互いに外に出ないから」
「パチュリー?お知り合いの方ですか?」
少しうなると頭をかいて
「知り合いと言えば知り合いね。すこし弾幕ごっこをしたくらいよ。魔理沙ならもう少し詳しいかもしれないけどね」
とぼやきお茶を飲み干した。
私は拭き掃除を終え丁度少し冷め気味のお茶を一口つけたところ。
私は今の言葉への疑問を素直に聞いてみた。
幻想に染まる、ということが今の私に必要なことだ。現代の世界で聞かなかったことは逐一聞いていかないといけないはずだ。
「えっと・・・弾幕ごっこってなんでしょうか?」
・・・・。霊夢さんは急須を傾けたままこちらを見て静止していた。
そしてあふれた。無論霊夢さんの手にかかる。
「あつっ!」
「霊夢さん!?大丈夫ですか?」
幸い火傷などはしてないようだった。
「そうよね・・・考えてみたらわかるわけないわよね」
手を私が持ってきた濡れ布巾で拭く。
「ん~なんて説明したらいいかしら?」
弾幕ごっこ。
言葉からすると遊戯の一種なんだろうけど言葉が物騒だ。
ごっこというからには実際の弾幕は出ないのだろうけど・・・。
霊夢さんはどう見ても私と同い年かそれ以上だ。
ごっこ遊びをするような歳には見えないのだけど・・・。
「霖?なんか変な誤解してない?」
ムッとした顔で霊夢さんが睨みつけてくる。
「私が里の子供と走りあってるとこでも想像してないでしょうね?」
それは鬼ごっこでは。
霊夢さんの反応を見るに真面目なものなのだろう。
なら注目すべきは前部分の『弾幕』というところだろうか。
弾幕・・・というと戦争や兵器のことしか浮かばないけれど・・・。
それに私はそれほど兵器に詳しくないし。
霊夢さんは見たところ危ない品物を持っているようには見えない。
「別にそういうことではありませんけど、なんとも想像がつかないものですから・・・」
「まぁそうよねぇ。霖之助さんの話じゃ外の人間はそんなことできない見たいだし」
それにスペルカードルールも最近よね・・・と呟く霊夢さんだが正直に言えば私には全くわからなかった。やはりそこが幻想の人間との違いなんだろうか・・・。
だとすると理解力の薄い私では幻想に染まりきることはできないのではないだろうか?
「霖?もしかして『自分がだめじゃないか』とか考えてない?」
図星だ。
「えっと・・・知らないことに考察できないようじゃ染まることはできないのではと・・・」
と言う霊夢さんは大きくため息をついた。
そして、お祓い棒を私に突きつけて
「そういう考えがだめなのよ!幻想に染まるってことは『理解する』ってことじゃないの。それをそれとして『わかる』ことができればそれでいいのよ」
わかる・・・ということは認識?
染まるということは深く知るということじゃないのだろうか?
「まぁ詳しく説明するのは面倒だわ。後で霖之助さんにでも聞きなさい」
「わかりました。お忙しいようですけど・・・」
「そうねぇ。でもとりあえず幻想郷に生きるなら弾幕ごっこは知っておくべきよね」
私がお茶を飲み干し煎餅に手を伸ばすと最後の一個を霊夢さんが取った。
私ほとんど食べてないんだけどな・・・・。
「そうだわ。一番手っ取り早い方法を思いついた」
何か閃いたらしく霊夢さんの顔を綻んでこちらを向き、
「私が弾幕ごっこを教えてあげる。だから一緒に神社まできなさい」
「教えられるものなのですか?物騒な名前ですけど」
「別に軽くよ?ルナティックに慣れろとは言わないわ」
ルナティック?専門用語か何かだろうか。
「行くわよね?ずっと香霖堂にいるだじゃ幻想郷はわからないわよ」
入口に向かって歩いていく霊夢さん。その手には茶葉の袋がある。
「聞いてたでしょ霖之助さん。この子借りていくわよ?」
というと店の奥から森近さんがでてきた。
「彼女には店番を頼んでいたんだが」
「どうせ客なんて来ないわよ。問題ないわ」
「君の偏見だろう。霖がいなくなった途端に客が来たら僕はどうする?」
「いつもの香霖堂になるだけでしょ?3日前のね」
なるほど。確かにそうだ。
「なら話を変えよう。その手の茶葉はなんだ。それは紅魔館も御用達のこの店で二番目に高い茶葉なんだが?」
「授業料よ。一番高い茶葉じゃなくてよかったでしょ?」
というと霊夢さんはスタスタと店の外に出て行ってしまった。
「も、森近さん!行ってきます!」
外に飛びだした私の行動を見てあきらめたのが霖之助さんはため息をついて
「霊夢がいるから問題ないと思うが気をつけて行くんだよ」
と見送りの言葉をくれた。
◇
行ってしまったか。
しかし珍しいな。霊夢があんなに積極的になるなんて。
まぁ彼女には彼女なりの考えがあるのだろうけど。
もしくは巫女としての義務なのか。
彼女は幻想郷の要、博麗大結界を守る巫女だ。
だからこそ霖のような幻想入りした人間に手を差し伸べる義務があるのかもしれない。
ましてや彼・・・ではない彼女はあまりに特殊は事例である。
本来ならそれこそ博麗神社に住まわせることが正しいことだったのかもしれない。
だが僕としては人の里と魔法の森の境にある香霖堂こそが幻想にふさわしいと思う。
博麗大結界と同じ『境』という状況。これは幻想と外の世界の境である彼女に良い影響をもたらすだろう。
次に僕が半妖であること、これも彼女との類似点として彼女の精神を引き付けることに一役買うに違いない。
そして何よりこの香霖堂には外の世界の品物が大量に存在する。外の世界を生きた精神なら必ずや引き寄せられることだろう。
つまり霖をここに置くことは最良の手段である。
幻想に染まりつつ、外の世界の余韻を残すことができるのだから。
きっとそうだ、そうに違いない。
でなければ無縁塚に倒れている彼女を僕が見つけるわけがないからだ。
部屋の隅に立てかけてある剣に目をやる。
手にしたものは天を取ると言われる草薙の剣。
もしかしたら彼女は剣によって引き寄せられたのかも知れないな。
僕が天下を取るために・・・。
いや、さすがにそれはないだろうか。
とはいえ霖が博麗神社に行ったのはいい傾向だ。
彼女は何年も骨董品店の店番をしていたらしいから外に出る、という選択肢が浮かびづらい。
その上周りにも関係がなかったとなれば外への興味の薄さは顕著である。
まぁ幻想郷に来たばかりの時は現状把握と未知への興味が勝っていたようだが。
幻想に染まる必要があると言ってもこの2日店の理解に尽力したせいで幻想を知ることがなかったのも事実だ。
他人からの誘い、とはいっても多少強引だったが弾幕ごっこに慣れることは必ず彼女にとって良い方向に行くだろう。
だが彼女は弾幕を作れないのではないか?
まぁ知るというだけならば問題はないだろう。
僕には教えられないことだ。授業料としての茶葉も許せるだろう。
しかし彼女がこの先霊夢や魔理沙の影響を受けてしまわないかが心配でならない。
幻想を知れと言ったが常識を捨てろという意味ではない。
彼女には今のままの静かで賢明な性格であってほしいものだ。
「だがとりあえず今回は霊夢に感謝だな・・・」
少し気分がいいので箪笥の隠し扉に入れておいた一番高い茶葉でも使おう。
この後も作業が残っている。一休みにはちょうどいい。
だが隠し扉を探したが茶筒は見つからない。
どうしたものかと周りを見ると。
机の上に飲み干されたお茶と半端に残った冷めたお茶。
そして漆塗りに金で模様が描かれた茶筒があった。
やれやれ。
○
霖之助さん気付いたかしら?
あの隠し扉はかなり前に見つけてあったんだけどやっぱりいいものを隠したわね。
とりあえず霖を連れて森の中を進む。
飛ぶわけにもいかないから歩いているけど・・・。
改めて見てみるけどこの子本当に変わってるわね・・・。
「どうしました?霊夢さん」
霖は私の真横を歩いている。
私がそっちを見たのに気付いたみたいだった。
「別に何ってわけじゃないわ。やっぱりあんたは変だって思っただけよ」
「変ですか?やはり私が幻想の人間じゃないから?」
心配そうな顔をする。どうにも卑屈に見えて仕方ない。
話づらいってわけじゃないけど・・・。
何と言えばいいのだろうか。
基本的にこの子は『聞く』ことに重点を置いているからかも知れない。
だから自分から話を振ることがほとんどない。常に聞く側だ。
そりゃ長年店の店員としてだけ生きてきたわけだから自分の意思ってものを持つ必要がなかったのかも知れないけど。
にしたってこの子は動かなすぎる。
悪い意味で霖之助さんとそっくりだ。
霖之助さんは半妖だから読書だけの動かない生活も大丈夫だろうけど。
霖は人間だ。食べなければならないし動かなければ衰弱する。
「そうじゃないわよ。でもあんたももう少し話そうとすればいいと思うわよ?幻想郷についてのことなら可能な限り教えてあげられるわ」
「そうですか?でも霊夢さんは・・・」
「霊夢さんは?何よ?」
「お忙しそうですし。香霖堂に来ているのも休息のためでしょう?なのに教鞭を取らせるのはどうかと思いまして」
変な考え方ね。まぁこの子らしいけども。
「霖之助さんには色々聞いてるんじゃないの?多少なりとも話せてたじゃない」
「森近さんはなんというか・・・嬉々として話してくださるので。教えることがお好きな方ですから」
確かにそれは納得だ。霖之助さんは余計なことまで話し出すのが欠点だろう。
彼女にとってはその余計なことすらも情報として受け取るべきことなんだろうけど。
でもやはり霖は聞くことに徹底している。
演説者と視聴者が噛み合っているいるから問題はないけども。
「とりあえずもう少し話すことに積極的になったほうがいいわよ?幻想郷のやつらは基本話を聞かないやつばっかりだから」
魔理沙にしろ妖怪たちにしろ多少なりとも自分の意見がなければ会話が成立しないだろうから。
「そうですか。善処します。私も幻想の人間になるんですから」
まぁやる気はあるようだからいいかな。
「ところでなんで話し方が変わってるのよ?聞き忘れてたけど。最初に会ったときはもっと軽く話してた気がするのに」
それに『僕』から『私』になってるし。
と聞くと名前の時に話していたことと似たようなことを話し出した。
外の世界の自分を捨てたこと。
幻想に染まるために新たな自分を作ることに決めたこと。
「まぁそれで『私』って変えたのはわかるけど・・・なんでそんな堅苦しい敬語なのよ?前も敬語だったけど輪にかけてじゃない?」
と聞くと霖は少しモジモジとしながら、
「『僕』にとって幻想郷は『分からない世界』で済まされましたけど・・・」
僕、というのは亜季良としての自分なのかしら。
「『私』にとっての幻想郷は『知らなければならない世界』ですから。幻想郷に生きる人すべてが私よりも幻想郷を知っているでしょ?」
「まぁ、そうでしょうね。3日やそこらじゃわかりゃしないわね。ましてや店の中じゃ」
「痛いところを。ですから幻想郷に生きる人すべてが自分より先輩なんです」
何か見えてきた。
「ですから『目上』の方に敬語を使うのは必然かと思いまして」
・・・呆れた。予想以上に変な思考回路を持っているようね。
「あえて言うけどものすごく変な発想よ?それ。それじゃぁあんたは文字も書けない子供にも敬語を使うわけ?」
「幻想郷を教えてくれるのなら、恐らくは」
と言って微笑む彼女の顔には一片の曇りもない。
心からそう思っている顔だ。
本当に予想以上に変な子だった。
「どうかしました?」
「もういいわ。なんでもない」
森の道を歩く。
「うわぁ・・・すごいですね」
神社に着くと霖は走り出して賽銭箱のほうに行った。
足取りは軽いように見える。
骨董品店で過ごしてるくらいだ。こういう神社のような信仰物に興味があるのかも。
「やっぱり神社に来たからにはお参りが必要ですよね♪」
と笑顔で財布を取り出して、
固まった。財布を見たまま動かない。
金がないのかしら?
「どうかしたの?お賽銭がないのかしら?」
「いえ、お金はあるんですが・・・」
財布を見せられる。
そこには紙が1枚と丸い金属が数枚。
紙には見たこともない人物が描かれている。
金属には数値が刻まれているけどもしかして・・・?
「外の世界のお金しかないです・・・すみません」
案の定だった。考えればわかることだったわ。
幻想郷にきてまだ3日、里と交流の薄い香霖堂に住んでいて通貨も持っているはずがないわよね。
「どうしましょう?」
泣きそうな顔でこちらを見てくる。
「とりあえずそのお金をお賽銭にしなさい。ないよりはましだわ」
「すみません・・・」
「謝らなくていいわよ。しょうがないんだから」
銀色の硬貨(100円というらしい。価値の違いがわからないけど)を投げ込んで拝む姿は祈っているというよりも謝っているようにみえた。
「さて、それじゃぁ始めましょうか」
一度神社の中に入り中から道具を持ってきた。
針、札に陰陽玉。
それらを見せると霖はキョトンとしていた。
「これが弾幕ごっこに必要なものですか?」
「正確には弾幕ごっこに私が使うものよ。人によりけりね」
そっちにいって、と指示を出し境内の端と端に行く。
「簡単に言えば弾幕ごっこは文字通り撃ち合いよ。私の場合はこの武器を飛ばすけど魔理沙は魔法を使うし、妖怪なら妖弾も飛ばしてくるわ。それを避けながら倒すのが基本ね」
スペルカードルールについては後ででも構わないだろう。
「やっぱり物騒なんですね・・・」
やはり怯えていた。まぁ言葉だけ聞けば(実際もそうだけど)物騒だものね。
「霖は弾幕は出せないみたいだけど、何か使えそうなものはない?」
と聞くと霖は懐を探り始め一つのモノを取りだした。
「これくらいしか使えそうなものは・・・ほとんどが外の世界に置いていかれてしまったので」
それは一見小さい丸い棒のようなものだけどよく見ると何か折りたたんである。
「十徳ナイフっていうものなんですが・・・使えますかね?」
近づいてきて渡されたので動かしてみる。
捻じれた錐のようなものや小さい鋏、刃渡り5センチ弱のナイフも出てきた。
けれどこれでは使えない。
「だめね。残念だけど弾幕ごっこには使えないわ」
剣なら妖夢がいたけどあれは例外ね。霖は剣も使えないだろうし。
「そうですか・・・」
「まぁいいわ。弾幕ごっこが『何か』ってことを知ればいいだけなんだから」
札を用意してそのうちの一枚を霖に向ける。
「とりあえず軽く飛ばすわよ。霖はそれを避けてくれればいいから」
「避けれる自信がないんですけど・・・」
明らかな拒否反応を示している。
だけど私はあえて笑顔で、
「大丈夫、当たらなければどうってことないわよ」
札を投げた。
手加減しているからゆっくりと飛んでいく札を右に避ける。
そこへ針を2本投げつけ札を3枚用意。
針に気付いて慌ててしゃがむ霖に空中から札を投げつける。今回はすこし強めに。
「霊夢さん!やめっ!」
前に飛び込む彼女。悲鳴を上げているけどとりあえず札を発射。
右へ飛ぶ。しゃがんで避ける。後ろに転がる。
ギリギリで避ける霖は見ていて正直愉快だったけどさすがにかわいそうなのでやめた。
止めるとまだ5分もやっていないのに霖は肩で息をしており今にも倒れそうだった。
「体弱いわね。あれじゃイージーにもなってないわよ?」
「すみ・・・ませ、うんど・・が久々、なもんで」
完全に息が上がっている。
まぁ弾幕ごっこがどんなものか、多少はわかってくれたでしょう。
「神社に入って。お茶くらい出すわよ」
それほど上等ではないお茶と小さな饅頭を出して座りこむ。
「どう?少しは弾幕ごっこのこと、わかった?」
「えぇ、少しは。でも深くは理解できないかもしれません・・・」
縁側でお茶を啜る。そろそろ外は夕焼けで妖怪の時間が始まろうとしている。
「まぁ無理して知る必要はないわ。香霖堂にいる限りはそういうこともないでしょうし」
何より私や魔理沙が異変は解決するだろうしね。
「霊夢さんも大変ですね。こんな危ないことを平然と続けているなんて」
純粋な尊敬の眼差しが刺さる。子供みたいね。
「仕事だもの。慣れたわ」
饅頭を一口。少し甘すぎるかしら?
と右を見ると饅頭を食べて顔を綻ばせる霖がいた。
「甘くておいしいですね霊夢さん。疲れたときには甘いものがいいですし」
「おいしいけどちょっと甘すぎる気がしない?」
「私甘党なんですよ。砂糖菓子とかも大好きで・・・」
ホクホク顔で饅頭を頬張る霖を見て伸ばし手を止める。
もったいないけど私の分もあげよう。
どうせ1つだ。疲れを取るのに手伝ってあげるのもいいかも知れない。
「霊夢さん」
お茶を啜っていると霖がこちらを見て、皿を差し出す。
皿には饅頭が2個。
「どうぞ。教えていただいた私が多く食べるわけにはいきませんから」
私は遠慮したけど霖はどうしてもと引き下がらなかった。
やっぱり変わっている子だ。
◆
「ここからならもう大丈夫ね」
博麗神社を出発してある程度歩いて、霊夢さんがそういった。
「この辺から香霖堂までなら妖怪は滅多に出ないはずよ。安心していくといいわ」
結局神社で夕飯をいただくことになってしまい、外はもう夜。
妖怪が出るだろうからと霊夢さんが安全なところまで見送ってくれた。
森は行きの時とは違い暗くひっそりとしていたためとても心強かった。
森を歩いているうち霊夢さんからは森近さんとの話を聞いた。
出会った経緯、思い出、くだらない愚痴も。
森近さんから聞いたことのあるものもあったけれど語り部が違うだけでその話の内容は一変しておもしろいものだった。
決して森近さんがつまらないのではなく、人の考え方の違いとでも言うのだろうか。
思うところが違うだけでそれほどに変わるのだろうと思った。
「霖、とりあえず帰る前にこれを渡しておくわ」
というと霊夢さんは懐から一枚の紙を取りだした。
長方形の紙に赤く模様・・・文字だろうか?が書かれている。
それは霊夢さんのお札だった。
「私が使ってる『霊撃札』よ。これをあんたにあげるわ」
「えっとでも私は弾幕を扱えないんじゃ・・・?」
というと霊夢さんは目の前でお札を揺らして
「使えなくてもいいの。この辺の妖怪は最低一度は私か魔理沙が倒しているから。そのお札を持っているだけで十分な脅しになるわ。だからもし妖怪にあったらそのお札を突きつけなさい」
と笑って言った。
私がすみませんと言うと霊夢さんは顔をしかめながら
「あんたが妖怪に食べられたら霖之助さんに悪いしね。それに私はあんたみたいな人間を守る役割もあるのよ」
といってすぐに私の頭を小突いて
「だからすぐに謝るのはやめなさい。イライラするもの」
と言い残して飛んで行ってしまった。
確かに私は多少根暗というか卑屈なところがあるのかも知れない。
それは要注意だな。と考えつつ道を歩く。
森は霊夢さんと抜けたので今は開けた街道をあるいていた。
使うときが来るんだろうか?とポケットに入れたお札を取りだす。
霊夢さんが使ったときは大きな音と共に青い波が出ていたけど・・・。
僕には出せないだろうな。だから脅しの手段なんだろうけども。
と考えていると
『こんばんは』
どこからか声がした。
あたりを見回すけれど誰もいない。
『こっちだよ』
声は上からしたので上を見る。
すると私の上には光の球体があった。
何かの形が見えそうではあるけれど靄がかかっているように見えない。
「あなたは妖怪ですか?私を食べに来たので?」
札を突きつけて聞いてみる。
少し怖いのが本音だけど逃げられないのは分かっている。
『後者はいいえだね。あなたを食べる気はないよ?』
球体は下りてくると私の目の前で止まる。
大きさは私よりも大きく、ピカピカと光ってまぶしい。
太陽のような光ではなく月のような光だ。
例えが悪いけれど月を目の前でみているような感じ。
なぜかそれに敵意は感じられなかった。
「えっと前の質問の答えがないのですけど・・・」
というと光は震えたように見えた。笑ったのかな?
『その質問には答えられない。私はそういう存在さ』
どういう存在だろう?
「何故私のところに?霊夢さんでしたら神社に帰りましたが」
『霊夢?聖白蓮を解放したあの巫女がそんな名前だったね』
聖白蓮?解放したということは霊夢さんの知り合いなのだろうか?
今度霊夢さんに聞いてみることにしよう。
『私が興味があるのはあなただよ。あなたは私と少し似ているでしょ?』
光が私の周りを回る。自分よりでかい光球のため目が回る。
本当になんなんだろう。この人(?)は。
「似ているんですか?私があなたに」
何かが似ているのだろうか?幻想郷の理屈がわからない私にはわからないことだと思った。
でもその光の玉の答えは単純で、
『「よくわからない」、それが私とあなたの共通点。どう?わかった?』
よくわからないことが共通点。まぁなんとなくはわかる。
私が幻想を知らないために彼女がわからないように、
幻想を生きる人には私の存在はわかりにくいものなのかも知れない。
霊夢さんは境界を知っている人だし、森近さんもそうだ。
魔理沙さんもこの2人の知り合いであるわけだから問題はない。
そう考えるとその言葉には説得力があった。
『あなたが考える「よくわからない」と私のそれは多分違うものだよ』
光は瞬くと少し上に上がり、
『私のことは幻想を知ってもわからないだろうさ』
・・・!話を聞かれていたのだろうか?
『偶然見ただけ聞いただけ。私はそれで興味をもった』
光は強さを弱めると笑う様に震わせて。
『だからあなたに協力する。私はどこかにいるよ。傍かも知れないし幻想郷の反対側かもしれない。助けがほしけりゃ呼ぶといい。来るか来ないか、気付くか否か。それは私とあなた次第さ』
光が少しずつ消えていく。
「待ってください!あなたの名前は?」
答えは来ずに光は消えた。
そして地面を見ると変な棒が転がっていた。
幻想郷のものとは思えない銀色の棒。
僕はそれをポケットに入れた。
「なるほど。そんなことがあったのか」
私は帰るなり森近さんに博麗神社でのことと先ほどの内容を話した。
「その光の玉だが・・・僕には心当たりがないな。少なくともこの辺の妖怪ではないだろう」
森近さんは幻想郷縁起と書かれた本を読みながらそう言った。
「敵意はなかったのだろう?ならまだ気に病むことでもないだろう。協力すると言ったんだ、そのうちまた現れるさ。その時には霊夢や魔理沙に見てもらえばいい」
確かに。霊夢さんのことは知っていたみたいだし。
次の機会に確認するとしよう。
「ところで弾幕ごっこはわかったかな?あれは僕は教えることができないのでね」
「疲れました。あんな大変なことを霊夢さんと魔理沙さんはやっているのですね」
森近さんは肩をすくめてため息をついた。
「よく店の前でやられてね。騒々しくて仕方がないんだよ」
「わかる気がします」
霊夢さんはあれでは全然力を出していないと言ってた。
なら全力はどれだけ派手なのだろうと思う。
「でも完全に理解することはできませんでした・・・。幻想に染まることは難しそうです」
というと森近さんは諭すように話し出した。
「幻想に染まる、ということは幻想郷の全てを理解しろということではないよ?」
「違うのですか?」
「幻想郷の全てなんて里の稗田家の当主だって知りえはしないさ。幻想に染まるということは幻想郷を『知る』ということだ。それを忘れてはいけないよ」
『知る』と『理解』するは違うのだろうか?
そう質問すると森近さんは幻想入りしていたらしい瓶コーラを手渡した。
「例えばだ。僕はこれを『コーラ』という『飲み物』であることを知っている。君もそれはそうだろう?これが『知る』ということだ。ならば『理解する』とはどういうことか?僕はそのものの形、素材、本質から作り方までもをすべてをわかることを『理解』する、と定義したい。君はコーラを1から作ることはできるかい?」
無理だ。私は首を振った。
森近さんはやはり、といった顔で笑う。
「けれど君はコーラを平然と飲み、味を感じる。もしかしたら原料に毒があるかも知れないのにだ。それは君は多少なりともこれを『知って』いるからだろう?そこに大きな理解は必要とされない。必要なのは大まかな概要だ」
確かにそれはそうだけどもそれは私の幻想に繋がるのでしょうか?
「繋がるさ。君の精神が幻想郷に来て君の体に戻るには幻想郷がこうである、という簡単な型を作ればいい。剣にしたって鋳型に流し込んだだけではただの鉄の棒だ。君に今必要なのはその鋳型を作ること。細かな彫刻や刃先の手入れは鉄の棒ができてからで構わない」
つまりは浅く広く知識を得ることだよ、と森近さんは言った。
深くは考えるな、ということ。
少しずつ身につけていけ、ということ。
つまりはそういうことだった。
「急いては事を仕損じるというだろう?ゆっくりこの幻想郷に慣れるといい」
森近さんはコーラを一口飲んで
「ついでに僕に外のことを教えてくれればなおいいね」
と自分の欲を見せてくれた。
「そうだ、君に渡すものがあるんだ」
コーラを飲み終え片づけを終えた所、森近さんが私を呼んだ。
「なんでしょうか?」
森近は店の奥に入りそれを持ってきた。
それは着物だった。
鮮やかな橙色の着物。
サイズは違うものの模様や細工は森近さんの着物とほぼ同一のものだ。
「君が香霖堂の店員として働くのなら店員服は必要だろう?」
「ありがとう・・・ございます」
嬉しい。霊夢さんといい森近さんといいなんて優しい人たちだろうか。
「おいおい泣かないでくれないか?僕は君に働いてもらうために」
「はい、わかってます。ありがとうございます!さっそく着てきますね」
◇
喜んでくれたようだ。
泣くほど嬉しいとはな。霊夢や魔理沙では絶対にない反応だったから驚いてしまった。
まぁあのまま外の世界の衣服のままでは幻想に染まることにも支障がでそうであったし。
何より霖があの着物を着ている間、僕は外の世界の服を研究できる。
これは等価交換だ。決して悪意ではない。
「森近さん!どうですか!」
茶髪の彼女に燈色の着物はよく似合う。
彼女が来ていたパーカー。
あれからもらった色だったが、やはり最適だったようだ。
おそらくそれが彼女の『色』なのだろう。
彼女の暖を表す色の燈。
僕の冷を表す色の青。
対となり同時に調和を生み出すであろうその姿と彼女の屈託のない笑顔を見て僕は顔を綻ばせた。
続きに期待
×「・・・」→○「……」 三点リーダは2つ使うので注意!
×「―」→○「――」 ダッシュは2つ使うので注意!
「!」や「?」の後は全角1文字の空白スペースを空ける
本文中なら ×「霖?なんか変な誤解してない?」→○「霖? なんか変な誤解してない?」 と言う具合です
これらは文章を書く上でのお作法の様な物なので、是非覚えておいて下さい
では内容の感想
霖之助の気さくな気遣いがカッコイイです
そしてぬえが相変わらずの暗躍モード。今後どうなるのか気になります
臨場感についてはそういった描写をしている文章を読んだり、
コツを本を読んで会得したり、インターネットで調べたりするくらいしか思い浮かばないですね。
文章も安定していて個人的には読みやすくこれからの展開が気になります
誤字?報告
「カケット小さいんじゃないんですよ・・・」
カセットが小さい