晩秋のある日。
博麗霊夢は、いつも通りまったりと、境内を掃除したり、お茶を飲んだりして過ごしていた。
「今日は来客も無くて、静かで平和ね。いい一日だわ」
普段の日なら、人だろうが妖怪だろうが構わずに、誰かはここへ来るものなのだ。
珍しく誰も来ない神社にて、霊夢は思う存分一人の時間を満喫していた。
だが。
「しまった・・・一日のんびりしすぎて、忘れてた」
夕日も沈む頃になり、さて夕飯の支度でも、と重い腰を立ち上げた霊夢は、とても困っていた。
米を切らしてしまっているのを忘れていたのだ。野菜があるから副菜だけなら作れるが、主食の無い食事など、何とも締まらない。
あいにく今神社には、パンやうどんなど、主食になるようなものの買い置きが無かった。まして、彼女がインスタントラーメンなども持っている訳が無い。かといって、今から人里の店へ行って買ってくるにしても、この時間ではもう閉まっているだろう。今夜の食事はどうしたものか。
あちこちと台所を探した結果、どうにか一つ、主食になりそうなものが見つかったものの。
「これじゃあねえ・・・あんまり時期が違いすぎるし・・・」
霊夢が見つけたのは、夏場毎日のように食べた素麺だった。
あっさりとしていて、何度食べても飽きるということがない。それこそ、夏場はこの素麺こそが主食のようなものだった。
しかし、それはあくまでも夏の暑さがあっての話だ。秋の日、しかも夜に食べるとなると、流石に食べていて辛いものがあるし、お腹の具合も心配になってくる。
どうしたものかと頭を抱えていると、ふいに、ドンドンと神社の戸を叩く音があった。
「はーい、どちら様ー?」
「こんばんはー、霊夢さん、いらっしゃいますねー?」
来客は、山の神社の風祝である早苗だった。
(あら、珍しい)と霊夢は思った。早苗が来ること自体はそうでもないが、わざわざ夜になってから来るのは稀なことだった。
霊夢は、とりあえず夕飯の問題を置いておいて、早苗を迎えるべく玄関へと向かった。
「はいはい、今開けるわ。どうしたのよ、早苗。こんな時間に」
「お夕飯のおかず、作りすぎちゃったので持ってきました。お口に合うと良いんですが」
そう言った早苗の手に握られていたのは、小鍋に入った煮物だった。
よほど急いで持ってきてくれたのだろう。鍋の中は、まだほかほかと温かそうだ。
冬も近づき、寒さが増すこの時期には、うってつけの差し入れだった。
「わざわざ持って来てくれたの?ありがとう、早苗」
「いえ、どうせ余ってしまっては勿体無いですし」
「でも、素麺食べながらだと、これ一緒に食べても体冷えちゃうわよねえ・・・」
「・・・え?素麺ですか?」
思わずぽかんとする早苗に対し、霊夢は先程までの事を説明する。
「実は、今米切らしちゃってるのよ」
「はあ、そうなんですか。でも、だったらうどんとか」
「それも無いのよ・・・あ、パンとかも無いからね?言っとくけど」
「それで、素麺だけが見つかったと」
「そういうこと。何か、色んなやつが『お中元』とか言って、持ってきてくれたものがね。はあ・・・この時期に素麺食べるのは辛いけど、しょうがないか。自分が悪いんだし」
あ、煮物ありがとうね。せいぜいこれで暖まらせてもらうわ。
そう言って、再び奥へと戻ろうとする霊夢。そんな霊夢に向かって、早苗は、思わず声をかけていた。
「あ、あの、霊夢さん!」
「・・・どうかした?早苗」
いきなり呼び止められ、怪訝な表情で霊夢が振り向く。
「何も、冷たくして食べるばかりが、素麺じゃないですよ?」
「え?」
そう言ったかと思うと、早苗は、玄関から上がりこんで台所へと向かっていった。
「さ、早苗!?」
「ちょっと台所お借りしますね。任しといて下さい♪」
慌てる霊夢を他所に、早苗はてきぱきと料理の準備を進めていく。
「ちょ、わざわざいいってば、早苗」
「遠慮するなんて、霊夢さんらしくないですよ?」
大なべにたっぷりと水を入れて沸かし、その間にネギなどを刻む。
「と、野菜使っちゃって良かったですか?」
「もう切っちゃってるじゃないの・・・好きにしなさい」
「ありがとうございます」
霊夢は、呆れ顔で、勝手にやってくれという感じだった。
そんな様子の霊夢などお構い無しに、早苗はてきぱきと調理を進めていく。
ぐつぐつと煮立ったお湯に、素麺を投入。
軽くほぐれたところで、お湯を切って笊へと上げる。
「何よ、普通の素麺と変わらないじゃない」
という霊夢のもっともなツッコミが入るが、早苗は「これから、これから」と言いながら、先程より小ぶりな鍋に、再びお湯を沸かしていく。
「霊夢さん、めんつゆありますか?」
「めん・・・?何よ、それ」
「あ、じゃあ、鰹節は?」
「それなら、ここ」
霊夢に渡された鰹節をお湯に入れてダシを取ると、酒と醤油で薄めに味付けする。
そして、具となるネギと大根を入れ、煮立てていく。
おおよそ大根に火が通ったところで、先程笊へ上げた素麺をつゆへと入れ、温めれば、完成だ。
手際の良い調理で、早苗の作っていた料理はあっという間に出来上がった。
「お待たせしました。煮麺(にゅうめん)です」
「・・・NEW MEN?」
「違います!『にゅうめん』です!」
NEW MENってどんなのですか!と叫ぶ早苗を無視し、霊夢はしげしげと出来上がった料理を見つめる。
「へえ、あったかい素麺ってどんな味なのかしら」
「私は子供の頃から結構食べてますけど・・・美味しいですよ?」
「そうなの。それじゃあ、早速頂くわ。ありがとう、早苗」
「いえいえ」
どういたしまして、と言った早苗のお腹が、寂しそうにぐうとなった。考えてみれば、彼女自身夕飯を食べる前だったのだ。
既に日はすっかり沈んでいる。お腹が減るのも当然のことだろう。
「・・・一緒に食べていく?」
「え?いいんですか!?」
嬉しそうに満面の笑顔でそう言う早苗。
その笑顔を見て何とも言えない複雑な気分になりながらも、霊夢は自分用のとは別に、もう一つ丼を用意してやった。
二人揃って、仲良く「いただきます」の挨拶をしたあと、麺を啜っていく。
と、初めてこの料理を食べる霊夢の顔に、驚きの表情が浮かんだ。
「・・・美味しい!」
それは、霊夢が今まで食べた事のある麺とは全く違う味だった。
蕎麦のような独特の癖も無く、うどんよりもずっと細いため、つるつると喉へ入っていく。
冷たい素麺が美味しいのは当然だとしても、これはこれでまた格別の美味しさだった。
「これ、いくらでも入るわね。ズルズル」
霊夢は、初めての食感に夢中になりながら、ドンドンと食べ進めていった。
「ふふ。気に入って頂けたようで、良かったです」
早苗も自分の料理の出来栄えに満足しているようだ。ゆっくりと、一口一口味わって箸を進めていく。
「あとで詳しい作り方教えてね、早苗」
「ええ、お安い御用です」
「実は、まだ大量に素麺余ってて、困ってたのよ」
「・・・どれだけお中元頂いたんですか?」
「数えるのも嫌になるくらい」
そう言って、霊夢は肩をすくめた。早苗は、思わず苦笑する。
「人気があるのも困りものですねえ」
「全く。そりゃあ食べ物貰えば嬉しいし、助かるんだけどね」
「食べ切れなきゃ、しょうがないですね」
そう言って、くすくすと、2人は笑い合う。
「しかし、あんた料理上手なのね。びっくりしたわ」
「え?そんなことも無いと思いますけど・・・」
「いや、そんなことあるわよ。プロ。天才。毎日食べたいくらい」
「そ、そうですか?」
霊夢の言葉を聞いて、えへへ、と、早苗の顔に笑みがこぼれる。
「そういうわけで、明日から毎日ここで」
「料理をしろ、なんて、流石に言いませんよね?霊夢さん」
「う・・・」
にっこりと笑みを浮かべた早苗の表情が、何故だかとても怖く感じる霊夢。
「まあ、たまには今日みたいに差し入れしますから」
「え、本当!?ありがとう、早苗!」
「ふふ、いくらなんでもそこまで褒められたら、何かしてあげたいなって思っちゃいますよ」
そう言って微笑む早苗に対し、霊夢はとても嬉しそうな表情を向ける。
「じゃあ、明日は・・・そうね。最近寒いから、おでん!」
「今、たまにはって言ったばかりじゃないですか!」
リーンリーンと鳴く虫の声と、少女2人の姦しい声が、同じように響き渡る。
月明かりが照らす中、博麗神社には、ただただ穏やかな時間が流れていった。
平和だなあ・・・
new menってww
この話読んで食べたくなりました
ニューハーフが幻想入りしたらこんな風に呼ばれるのだろうか…?
しかしにゅうめんの美味しい季節になりつつある
そしてかなすわww早苗さんは帰った後も食べて肥えるんですねわkウワナニヲスルキサマラー
Here comes The NEW MEN!!
平和が良し!って感じ
キャラの行動にわざとらしさがないのが好き
楽園の巫女、博麗霊夢は守矢早苗の『アレ』なのだ!!
そうめんは夏よりも冬に暖かいの作るほうが多いなー
豚汁大量に作ったりしたときにかけるのもうまいよー
でも、分社があるんだから様子見れるんじゃね?
素麺大好きです。
また・・・食べたかったのにな。
・・・来年訪ねよう。
オッサン用語ですけどね
このほのぼの感がGJ
白飯との相性も抜群よ!
腹が減るSSは、良いSSだ。
ん~、夜に読んだのはマズかった気がしてなりませんが、二人が可愛いのでまあいっか。
にゅうめんはクタクタになるまで煮込んでもヨシ。