師走と書いてえーりんダッシュと読む、幻想郷の十二月ももう終わりに近付いていた。
そして年の終わりと同時に近付いてくる、一年一度の慕情咲き乱れる狂乱の宴。
ちらちらと降る粉雪の粒が全て楔弾に変化してしまったかのような、幻想郷最悪にして最高の一日。
そう、それは人呼んで──
「今日は俗に言うクリスマスらしいぜ」
「そう かんけいないわね」
きっと、君は来ない──
■ X ■
師走の二十五日、うっすらと境内に雪が積もりどこなく切なさを醸し出す風情となった博麗神社。
いつもの黒白の服から何やら目に痛い原色で固めた紅白の衣装に着替えた魔理沙が
そのまま夢の世界へと旅立っていきかねない程のハイテンションに水を差され、叫んだ。
「何だそのやる気無い事この上ない怠惰な台詞はッ!今日は一年に一回しかない聖なる夜!
人生は長いようで短いんだから楽しめる時には楽しんどかなきゃあっという間に彼女は無口に畳の下だぜ!?」
見るも無残な程興奮して何やら訳のわからない台詞までも口走る魔理沙。
そんな友人を複雑かつ微妙な表情で見ながら、今日に限らずいつでも紅白な巫女
ミス無重力との呼び声も高い博麗霊夢は冷ややかに言い放った。
「別にクリスマスだから騒がなきゃいけないって決まりがあるわけじゃないでしょ」
「ッかぁ──ッ!いくらなんでも無重力にも程があるぜ霊夢さんよッ!
この勢いだとその内『日付なんかにゃ縛られねぇ』とか言って一月一日に海水浴行ったりするんじゃないのか!?」
これまた実にアンチェインな霊夢の言葉を聞き、魔理沙が思わず激しくのけぞった。
長い付き合いだからこいつの何者にも縛られない生き方は知っていたが、まさかこれ程のものとは。
のけぞった腰と背中の間の角度はそんな魔理沙の歯がゆさとある種の苛立ちをを感じさせる。
ちなみに角度は69°だ。
「馬鹿ねぇ、真冬の海水浴だなんてそんな場所は七年位前に通過してるわよ」
「そう!馬鹿ッ!こんな素敵な聖夜を無為に過ごすだなんてのは正月に泳ぐのと同位の愚かしい行為ッ!
そこまで分かっててクリスマスが関係ないとは何事だッ!?」
のけぞったままの腰に負担をかけそうな状態で再び魔理沙が慟哭する。
と、霊夢から今までのどこかぼんやりした表情が消え、その代わりに苦々しい表情が姿を現す。
そして、どことなく遠慮がちにぽつりと呟いた。
「……いやまあその……ちょっとクリスマスにはあんまりいい想い出がなくて」
「何だ?幼い頃朝起きて枕もとのプレゼントを見たら誰かの生き肝だったとかか?」
「……生き肝の方がまだマシだったかもね。そんな昔じゃなくてここ数年なんだけど……」
そう言って、霊夢がぽつぽつと思い出を語り始めた。
血塗られた聖夜に咲いた、惨劇の華の花弁を一枚ずつ千切っていくように。
「一昨年はアレね、紅魔館の面子って言うかレミリアと知り合ったのが惨劇の発端だったわ……」
・ ・ ・
二年前のクリスマスの日。
生憎この日の幻想郷はホワイトクリスマスとは行かなかった。
雲ひとつ無い夜空には美しい満月が燦然と輝き、雪どころか風すら吹いていない穏やかな夜。
そしてそんな静かで荘厳な聖夜をぶち壊す悪魔が博麗神社の霊夢の寝室、その枕元に立っていた。
「うふふ……何て無防備な寝相と寝顔……とてもこの私を倒したなんて思えない姿ね……」
いつものフリフリの付いた服ではなく、紅白二色でビシッと決めた何やら怪しい格好をしているレミリアが囁く。
それは誰がどう見てもサンタクロース、プレゼントの入った袋の重さに思わずへたり込んでしまいそうな
可憐極まりない幼女系サンタクロースの姿がそこにあった。
そしてその幼い姿には不相応な妖しい笑みを浮かべ、霊夢の顔の近くにぺたりと座り込むレミリア。
「それにしてもよく寝てるわねぇ……あら、寝巻きの胸元が開いてるじゃない。
これはきっと私へのクリスマスプレゼントね」
そう言って霊夢の寝巻きの中に手を突っ込み、
本来のサンタクロースの役目とは程遠すぎる行為をおっぱじめるレミリア。
と言うかプレゼントを届けに入った家の女の子の身体をまさぐる等と言うのは
サンタクロースどころかただの平和な日常を脅かす変質者だ。
「んー、つまんでも起きないなんて……よっぽど深い眠りに入ってるみたいね。
ふふ、じゃあこれも大丈夫かしら」
レミリアが妖艶な笑みを浮かべ舌なめずりをし、あろう事か霊夢の首筋に唇を近づけていく。
チャンスの神様には前髪しかないから通りかかった瞬間にとっ捕まえろとはよく言ったものだ。
しかしその際に前髪を思いっきり引っ張られる神様の気持ちも考慮して欲しい。
つまり早い話がレミリアの勝手な行為によって霊夢の色んな所がピンチだという事だ。
「きらめく牙ーを♪ー首に突ーきたーてー♪動かーないー霊夢にキス・し・たっ(はぁと)いただきまー」
「人の寝床で何やってんのよこの推定490年分若作り変態吸血鬼ィ──ッ!!」
まさにレミリアの口が霊夢の首筋に触れたその刹那、豪快に布団をはね飛ばして霊夢が飛び起きた。
流石にこれで起きなかったら呼吸と鼓動を確かめるべきではあるがとりあえず結果オーライだ。
「ああん、もうちょっとでナイトメアビフォアクリスマス的な聖夜の光が燦然と輝いたのにぃ」
「寝言は寝てから言いなさい!杭打つわよ杭!」
折角のチャンスをむざむざ棒にふったと言うのにさほど悔しそうに見えないレミリア。
恐らく最初からふざけ半分で血を吸うフリをしていただけなのだろう。
万が一本気でやってアレだとしたら目どころか色々と当てられない。
「……さてと、気を取り直して……今日は霊夢とプレゼント交換しに来たのよ」
にっこりと笑いながらも、これまた唐突な事を言い出すレミリア。
勿論プレゼント交換などまったくの初耳である霊夢は一瞬呆気に取られ、僅かにうろたえた。
「交換って言われても……私何も用意して無いわよ?って言うかそう言うレミリアこそ何も……って……」
そう、霊夢はともかく言いだしっぺのレミリアすら手ぶらであった。
これではプレゼント交換どころか普通にプレゼントを渡す事すら出来ないではないか。
500年も生きてると流石にちよっと色々衰えてくるのかな、とそこまで考えた瞬間、霊夢の全身に凄まじい悪寒が走った。
「何言ってるの、恋人達のクリスマスといえばお互いをお互いにプレゼントって那由他の時の彼方から決まってるじゃない」
「勝手に百合の花咲く妙な関係を構築するなって言うか何でいきなり服脱ぎだすのよォ──ッ!?」
「ふつつつつつかものですがー」
「(人の話聞いてない上に無理してるッ!無理して日本式の挨拶してるッ!)」
霊夢の嫌な予感は見事に当たってしまった。
レミリアがもこもこと着込んでいたサンタ衣装を露わにはだけ、
霊夢の寝ていた布団の上に三つ指をつき深々と頭を下げた。
愛し合う二人の二度目くらいの共同作業であり初会の契りであり
ヴァージンロードの愛情賛美歌、ありていに言えば私を抱けッ!との意思表示だ。
愛し合ってるわけでも無いし女同士だし二度目以前に一回目の共同作業すら経験してはいないのが問題だが。
これから始まる破廉恥な事極まりない阿鼻叫喚の気配に、慌てて霊夢がレミリアの止めに入る。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!プレゼント交換とはその名の通り
お互いの意志の疎通があり双方に交換の意がある時にのみ成り立つモノッ!
レミリアの気持ちはまあ嬉しくも無い事無いんだけどあいにく私は自分を大事にしたいっていうか何と言うか……ッ!!」
「そうなの?そういう事なら仕方ないわねぇ、プレゼント強奪に変更しなくちゃ」
「うっわ悲惨ッ!その聖夜ものすご悲惨ッ!」
ダメだった。
悲しいくらいにダメだった。
恋をすると人は愚かになる、愚かにならなきゃ恋は出来ない。
一旦奔りだした列車はそれ自体の力で止まることは決して無い、滅亡と言う名の終着駅に着くまでは。
レミリア弾丸超特急はもはや宇宙の果ての涅槃の果てまでも突き進む勢いで霊夢に向かってきている。
「赫に染まりな──!!」
「のわぁぁぁぁぁぁ!私へのプレゼントに助けてサンタクロォォォォォォス!」
静かな聖夜の夜空に、何とも微笑ましい少女たちの笑い声が響いた。
まるで幻想郷中の愛し合う者達を祝福する天使のラッパの様に……。
・ ・ ・
「……まあその時たまたま手元にあったにんにくサーベルでぶん殴ったら静かになったからそのまま畳の下に押し込めて事無きを得たけど」
「にんにくサーベル!?」
「ちなみに今魔理沙が座ってる畳が丁度レミリアをぶち込んだ所よ」
「そーなのかー!?」
「そして去年は……まあ、言うまでもないとは思うけど……アリスがねぇ……」
・ ・ ・
「ふう……今年はうまくクリスマスと新月が重なってくれて助かったわ。
今頃レミリアはれみりゃと化して咲夜に色々されてる時分だろうし、今年はのんびり出来るわね」
昨年のクリスマス。
ちらちらと雪が降っているため月の姿は見えないが、周期的に今日は新月の筈だ。
前年に散々な目に遭った霊夢はその苦い経験を生かし、
神社中に吸血鬼避けのキッツイのを張り巡らせて穏やかな時を満喫していた。
新月に加え自分の渾身の呪詛をぶち込んだ術式、今夜は枕を高くして眠れる。
しかしそんな霊夢の淡い希望を、何者かが木っ端微塵に叩き壊した。
「今晩は~(はぁと)霊夢~、貴方の心の劣情人形師、アリス・マーガトロイド華麗に参上よ~」
「あらいらっしゃい(そう言えばこいつが居たッ!失念ッ!残念ッ!)」
顔はにこやかに挨拶しながらも、心の中ではバク宙しながら頭を抱える霊夢。
首吊り蓬莱人形などと言う禍々しい事この上ないお供を連れて入ってきたのは
ご存知七色魔法馬鹿アリス・マーガトロイドだった。
へらへらと笑いながら霊夢に歩み寄るアリス。
「やあねぇもう、こんな素敵な聖夜に一人寂しくしてるなんて……今日は本来終日スケベな事に費やすべき日なのよ?」
「何を馬鹿な……ッ……アリス、あんた……酔っ払ってるわね?酒くさいわよ?」
「お酒の勢いで霊夢を手篭めにしに来たのよ~」
「手篭め!?」
近くに寄られて、アリスの顔がほんのりと紅く染まっている事に気付く霊夢。
酔っ払っている事を自覚している辺り案外酔いは深まっていないようだが油断は出来ない。
酒が身体に回るにつれとんでもない事態を引き起こす可能性が高いからだ。
そう思っていた矢先に夜這いなどと言う昨年の傷を抉る単語を聞かされ、思わず戦闘態勢に入りかける霊夢。
「うっふふ……冗談よぉ……ほら、ちゃーんとプレゼントも用意してきたんだから……」
しかしアリスはそんな事を意に介さずくすくすと笑い、スカートの中からなにやら取り出した。
「人形……ってこれ、もしかして……私?」
「そう、愛しの霊夢に心からのプレゼントよ~(はぁと)」
それは一寸五分ほどの大きさの霊夢型人形だった。
確かに精巧に出来ているし、アリスが作ったのだから人形としての質は完璧に近い。
とは言え自分の形した人形貰ってもなぁ、と霊夢が思った、その時である。
「ふふ、これはただの人形じゃないんだから……例えば……こうやって……!」
アリスの目に鋭い光が宿った。
手に持った霊夢人形を床に置き、両腕と両足ををぐり、と捻ったその刹那、霊夢の腕からがくんと力が抜けた。
「──ッ!!?ちょッ……なッ……な、何これッ!?手足が……くッ……!」
ある意味予想通りではあるがそれでも予想外の事態に驚愕する霊夢。
とは言え自分の身に何が起こったかなど、この状況と照らし合わせて考えれば数秒も掛からず理解できる。
アリスの持ってきたあの人形、アレに何らかの呪詛が仕込んであるのだろう。
「あは、やったぁ……大成功ッ(はぁと)」
「あ、アリスッ!何なのその人形!?」
どこか焦点の合っていない目で心底楽しそうに言うアリス。
床にべったりと張り付く形になった霊夢が叫ぶが、その表情はまったく揺るがない。
「ただの人形じゃないって言ったでしょ?これはこの日の為に八ヶ月かけて作り上げた汎用人形決戦兵器
『ハネムーン半強制展開装置・ソドムチックラブジェネレイション』よ。ほら、こうすれば……んっ……」
「……ッ!(禍々しいッ!何だかすっごく禍々しいッ!!)」
そう言って、床に置いた人形にそっと口付けるアリス。すると今度は声が出せなくなった。
とんでもないネーミングセンスやら何やらに突っ込もうとした霊夢だが、その口は空しくパクパクと動くだけだ。
そしてもはや糸の切れた操り人形と化した霊夢を優しく抱き上げるアリス。
「もはやここに居るのはまな板の上の鯉ならぬお布団の上の霊夢……ああ、ついに待ちに待った時が来たのね!」
「(よだれが!アリスのよだれが腕にッ!ああ駄目だわ完全にトリップしちゃってる──!)」
お姫様抱っこの状態にされ、霊夢はこの時初めてアリスの黒目が消えている事に気付いた。
不味い。不味すぎる。喰われるやられる揉まれる吸われる。ありとあらゆる種類の危険をその身に感じ、
アリスに抱かれて運ばれていく寝室の入り口が地獄への門の様に見える霊夢。
「私は一年いい子にしてたからプレゼントを貰う権利がある筈ッ!
夜這い成就のためにッ!博麗神社よ!私は帰って来たぁぁぁぁぁぁ!!」
「(夜這いの相手を怪しい術で拘束して襲い掛かるなんて
どう考えてもいい子って言わないでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!)」
寝室に着いた途端そう叫んで、霊夢ごと布団にダイブするアリス。
その姿はまるで愛するものを救う為に荒れ狂う大海原へその身を投げる勇者の様に、美しくそして勇ましかった……。
・ ・ ・
「……まあその次の瞬間、どうやら夜這いに来る前に飲み過ぎたみたいで
アリスがいきなりぶっ倒れたから助かったものの……危うく殺人鬼の仲間入りするところだったわ」
「命奪う程ッ!?」
「馬鹿は死ななきゃ治らないって言うでしょ?後で紫に生と死の境界いじって貰えばいいし」
「駄目だったらどうするってちょっと待てあからさまに目をそむけるなよ」
・ ・ ・
「いやぁ……それにしてもモテモテだな、霊夢」
霊夢の凄まじいベクトルに捻じ曲がったクリスマスの思い出を聞き終わり、感慨深げに魔理沙が呟く。
霊夢が話している間中ずっと死ぬ気で笑いを堪えていたと言うのは魔理沙しか知らない秘密だ。
「魔理沙こそ……知ってるわよ、去年も一昨年も紅魔館で破壊魔と引き篭もりがあんたの争奪戦を繰り広げてたって」
「ははは、霊夢には負けるぜ?知らないかもしれんが霊夢は結構狭き門なんだよ」
ジト目で魔理沙を睨む霊夢ところころと笑う魔理沙。
用意されたお茶をずず、と啜り、ふうと一息をついた次の刹那。
「──そろそろ私もAのカードを切るべきだな」
「ッ!?」
凄まじい魔力の奔流と威圧感が世界を席巻した。
魔理沙がそう言った瞬間、空気がずしんと重力を得、周囲の世界が歪む。
「──ッ!?これはッ……だ、弾幕結界ッ……!!」
霊夢がぐるりと周囲を見渡す。
黒と白の力場が部屋を隙間無く囲み、バチバチとエネルギーが火花をあげている。
間違いない、これは魔理沙式の弾幕結界に他ならない。
「結界って言っても擬似的だけどな、パクらせて貰ったぜ。
私じゃ霊夢や紫ほど強い結界は展開(は)れないが、その代わり──」
部屋の中に展開されていた結界がぶわっと霧散する。
しかし魔力の奔流は今だ収まらず、逆に強くなっている気さえする。
「──この神社をすっぽり包むくらいは出来る」
霊夢が外に目を向けると、何やら薄い壁の様な物が見えた。
強度と密度を犠牲に有効範囲を広げたらしい。
魔理沙の言うとおり神社の周囲を黒と白の結界が包囲し閉じ込めている。
まさに牢獄であり密室、擬似的とは言えこれ程の威力ならば弾幕ごっこに使っても問題は無い程だ。
「そしてッ」
「きゃっ!?」
コタツを飛び越え、魔理沙が霊夢に飛びかかり組み伏せた。
どさぁ、と座布団の上に押し倒され、両手を押さえつけられる霊夢。
「やっ……ちょっ……は、離しなさいよ魔理沙ッ……!」
「霊夢は努力と訓練知らずの天才……故に体力的には今まで散々努力してきた私に分があるッ」
「あんたの努力って筋トレだったの!?」
「はーいおめかししましょうねー」
茶化す様にそう言い、霊夢の巫女装束に手をかける魔理沙。
ああ、何で私はクリスマスのたびに貞操の危機を味合わねばならないのだろう。
確かに普段巫女の癖して針ばら撒いて毛玉刈ったり化け猫に座布団ぶつけたり
夜雀ぶっ飛ばしたりハクタク吹き飛ばしたりしてるけど。
不味い、何だかこの現状が当然の報いの様に思えてきちゃった。
そんな筈は無い、幾らなんでも貞操まで奪われるいわれは無い筈だ。
そこまで考え、霊夢が再び抵抗を試みる。
「こ、こんな事してッ……レミリア達に見つかったらアンタもただじゃ済まなくなるわよッ!?」
「心配無用、三日前から神社の周りにニンニクを埋めてレミリア対策、
そしてアリスは霊夢からの手紙と偽ってどっか遠くに呼び出しておいたからな。
少なくとも事が終わるまでには二人とも間に合わないぜ?」
「事って具体的に何ってやっぱり言わなくていいわ想像つくからッ!」
これで外部からの救助の可能性は絶たれた。
この至近距離ではスペルカードも針弾も座布団も大した効果は生まないだろうし、
第一手を押さえられているから発射すら不可能だ。
蹴飛ばすにしてもお腹の少し上辺りに陣取っているから膝も届かない。
このまま無残にも魔理沙に喰われてしまうのか、霊夢が諦めかけたその瞬間。
「……通報するわよー」
「……ッ!?なッ……あの結界を突破したってのかッ!?」
「ふふ、あの程度で結界だなんて笑っちゃうわ。私のに比べたらあんなの紙どころか湯葉よ湯葉」
どこからともなく空間が裂け、そこから何者かが怠惰にしかし颯爽と現れた。
境界の住人であり幻想郷屈指の実力者であり同時にゴクつぶし、八雲紫その人である。
最強の敵の出現にハチミツタイムを邪魔され歯噛みする魔理沙と、紫の登場にほっと一息つく霊夢。
「ゆ、紫……助かっ」
「人様の夜食に手を出すなんて感心しないわねぇ」
「アンタもなのぉぉぉぉぉぉ!?」
よくない事は重なるものである。
自分を助けに来たと思った正義のヒーローは別に悪では無かったけどとりあえず敵だった。
あまりにも悲惨な運命と紫の破廉恥な発言に感動の涙を流す霊夢。
「だって藍は橙と何やら春度の高い行為に勤しんでるし……色んな所に顔出してみたけど
既にどの場所でもピンク色の百合が咲き乱れる桃源郷が展開されてて入り込む余地が無かったから……」
「ふん、香霖堂にでも行けば良かったじゃないか?こういう日はアイツ何だかんだいって暇な筈だぜ?」
「行ったわよ?ちょこっとからかってみたら『豊満な女性に興味は無い』って言われちゃったけど」
「聖夜に随分罪深い事言ってるなぁアイツ」
二人の横でこれを聞き、うすうす感づいていた友人の微妙な性癖にちょっぴり戦慄を覚える霊夢。
しかしその感情はすぐさま霧散した。今は他人の変態趣味より自分の身の安全だ。
どう考えてもそんなの守れないのは一目瞭然だが諦めるのはまだ早い。
「ちょっと二人ともッ!あんた達が何しようと勝手だけどせめて私に被害の及ばない手段で……ッ!」
「それはそれとして……相手がお前さんだからって今回ばっかりは退く訳には行かないぜ」
「あらあらあらあら……そんなに命を粗末にしてもいいのかしら?スケベなゴキブリさん?」
「話聞いてよぉぉぉぉぉぉ!」
やはりダメだった。
二人ともこの聖なる夜の狂気とも言える雰囲気に飲まれ完全に正気を失っている。
もはや一触即発どころか触れなくても爆発しかねない危険な雰囲気。
一瞬の静寂の後、二人がまったく同時にスペルカードを取り出し、それが決戦開始の合図となった。
「聖なる夜に塵と化せ、隙間の年増!」
「星降る夜に芥となれ、無謀な魔砲」
「せめて外でやってよぉぉぉぉぉぉ!きゃぁぁぁぁぁぁ!レーザーが!結界がぁぁぁぁぁぁ!!」
博麗神社に光と弾幕の華が咲く。
それはまるで宇宙に銀河が誕生するその瞬間を写し取ったように美しく、儚げでそして荘厳だった……。
「何で私ばっかりこんな目に──!メリークルシミマスぅぅぅぅぅぅ!!」
・ ・ ・
一方その頃、幻想郷のとある竹林では。
「ふ、ふふ……わざわざこんな竹林の奥深くに呼び出すなんて……。
霊夢ったらだいた……は、は、はーっくしょん!!あら……だ、大丈夫よ上海人形……。
来るべき霊夢との逢瀬を思い浮かべれば……ほら……うっ……と……り………………」
その後、八意永琳の元に凍死寸前の少女が運び込まれたのはそれから三日後の朝だったという。
──一人きりの、クリスマスイヴ。
(クリスマス「イヴ」じゃねぇという事を隠しつつ終わり)
そういえば、彼女がここまで人付き合いで切羽詰ってるのは珍しい気がしますね。
しかし、1年の2/3を人形作りに費やし、しかもほとんど詰んでおきながら自滅したアリスに合唱。
いやはや、こういうノリで突っ走れる人は羨ましい限りです。
自分の場合は酒か何かでタガを外さないと(ry
ともあれ、容赦無く爆笑させていただきました。あとエロいです先生。
咲き乱れる百合の花と爆発は幻想郷の華、これからも頑張ってください。
暗いのも、明るいのも、私の中では全部等価値。楽しめればOK
いつもの如く楽しませていただきました。
「色んな所に顔出してみたけど」って紫嬢…?
それは立派なのぞ(弾幕結界)
>『豊満な女性に興味は無い』
これは…照れ隠しですか?それとも…まさか…
喉が嗄れきって、過呼吸で頭と胸が痛くて、腹部がクワドラプル決めて千切れそうです。
素ン晴らしい崩壊のギザギザハートにやられ、今の自分を一言で表すと「抱腹絶命」といった気配。
面白うござんした、と冷静に書くのに物凄い苦労を要しました。
では、深呼吸してきます。
酔ったウドンゲに迫られて逃げているのかな?
レミリアの気持ちが嬉しくないことも無い霊夢が・・・あともう一押しだ!レミィ
あとは・・・うっとり 蝶素敵
読み返すたびに春度の高さにうっとり。
コメント失礼します。
霊夢の散々な受け役に合掌。
レミリア→アリスときて「次は魔理沙だろう」と思わせておいて、その流れに従いつつもここ一番ゆかりんを乱入させる絶妙の掠りテク、見事です。
こーりんが割と美味しい所を持って行く、たった一言であのインパクトはその台詞の危険度の為せる業か‥‥。
その笑いのセンスの十分の一でも分けて頂きたい。
腹が割れそうな百合系コメディ、ごちそうさまでした。
脳内にインプットされた私です。