Coolier - 新生・東方創想話

『忘れ物』は何ですか?

2009/10/19 00:23:18
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カーテン越しに、うっすらと差し込んでくる光で目が覚めた。ぼんやりとしていた意識が、時間と共に覚醒してゆく。
朝独特の冷たい空気と、日光の暖かさが、ないまぜになって心地良い。
勢いよくカーテンを開け放つと、キラキラと眩い太陽の光が、部屋いっぱいに降り注いだ。ああ、今日もいい天気だ。レミィは嫌がるだろうけど、私はこの瞬間が嫌いではない。

今日も良い日になりそうだ。
さあ、早速我が根城で読書に勤しむとしよう。

私、パチュリー・ノーレッジは、もう数十年間ずっと変わらずそうしているように、起き上がるなり、さっさと愛すべき図書館へ足を運んだ。

「パチュリー様、おはようございます。良い天気ですね」
図書館へ到着すると、小悪魔がトーストと紅茶を準備していた。毎朝食堂へ行くのが面倒なので、最近は咲夜に代わって小悪魔が、ここで朝食を作ってくれているのだ。我ながら、合理的なアイデアだと感心している。別に食べなくても平気だけど、やっぱり朝は糖分を摂ったほうが頭が働くしね。
「おはようこあ。仕事増やしちゃって悪いわね。毎朝ご苦労様」
いつものようにそう声をかけると、小悪魔はふにゃっと表情を緩めた。
「えへへー、そんなの気にしないで下さい。むしろ私は食事のお世話まで出来て喜んでるくらいなんですから」
「・・・はいはい、ありがと」
悪魔らしからぬ笑顔で、嬉しそうにそう言う小悪魔。その顔を見て、何となく照れくさくなった私は、ごまかすようにぷいと顔を背け、それだけ言った。
「それじゃ、頂くわね」
「はい、どうぞ」
見事な狐色に焼き上がったトースト。これに、苺のジャムをたっぷりと塗っていく。咲夜お手製のジャムは、私もお気に入りだ。
一口食べると、苺の持つ風味が口いっぱいに広がった。うん、美味しい。
一緒に飲む紅茶の味も決して悪くない。小悪魔め、この所毎朝入れているから、上達したのだろう。向上心が伺えてよろしい。

しばらくはむはむと朝食を食べていると、不意に小悪魔が声をかけてきた。
「そういえば、今日でしたね」
「は?何が?」
「またまたあ。毎年そうやって忘れたふりして、お祝いさせてくれないんですから!本を読むのは一年通して出来ますけど、今日という日は一日しかないんですよ?」
ですから、今年こそはたっぷりお祝いさせてもらいますからね!
何故か得意げにそう言ったかと思うと、小悪魔は「さ、その前に仕事仕事~」と飛んでいった。
―はて?今日は何かあっただろうか・・・?
祝わなければならないような、大切な何かが・・・?

「レミィ、今日は何の日だったかしら?」
小悪魔の言葉が気になった私は、あれから今日の予定を変更し、日付に関する文献を読み漁った。
その結果、今日が「すき焼き通の日」であり「たすけあいの日」であることは分かったものの、それは別段祝われることでもないと思った。そこまですき焼き好きでもないし。(どうでもいいけど「たすけあいの日」って、わざわざ制定しないといけないものなのかしら。そんなものなくても、常日頃から助け合うのが「人情」とかいうものではないのだろうか。人間も案外冷たいものだ)
困り果てた私は、笑われることを承知でレミィに相談したのだった。
「ああ、そうだったな。おめでとう。パチェ」
「は?」
何故かニヤニヤと笑うレミィに対し、そんなまぬけな言葉しか返せない私。身に覚えも無いのに、いきなりおめでとうと言われても、困惑してしまう。
「まったく。わざわざ『今日は何の日?』なんて催促しなくてもいいのに。私が忘れてると思うのか?自分の親友のことだもの、あとで嫌というほど祝ってやるさ」
そういうと、レミィはさも愉快だと言わんばかりに、どこかへと羽ばたいていった。あとには、ぽかーんと口を開けた私だけが取り残された。
・・・結局、レミィからも、今日が何の日だかを聞き出すことは出来なかった。

その後、咲夜や美鈴にも今日が何の日か訊ねてみたが、先の2人同様に「冗談がお上手ですわ」とか「急かさないでくださいよう」などと言われてしまった。
妹様にも会ったけれど、最近地下から出てこれるようになったばかりの妹様は、そもそも今日が何の日か知らないようだった。

空を見てみれば、とびきりの快晴。だというのに、私の心はどうにも沈んでいた。
私にとって、今日は何か特別な日。他ならぬ、自分自身のことなのに、私にはそれが何なのか分からない。
(思い切って、もう一度小悪魔に聞いてみようか?)
―駄目な気がする。本気で体の具合を心配されて、下手をすれば永遠亭送りにでもされかねない。
(魔法の森辺りまで飛んで行って、アリスとかに聞いてみるのはどうだろう?)
―確かに顔見知り程度には知り合いだけど、そこまでお互いのことを知るほど深い仲ではない。行くだけ時間の無駄になるだろう。

(ああもう、何なのよ!今日は!)
私はもう、本を読む気にすらならず、図書館でぼんやり座っていた。
自分のことなのにさっぱり思い出せないのが、やるせなくて、悔しい。
こんな気分の時には、一人で過ごせるこの場所へ居るに限る・・・そんな風に考えていたとき。突然、バーン!と大きな音をたて、図書館へと侵入してくる者があった。
こんな派手な登場の仕方をするのは、あいつしかいない。

「パチュリー!今日も来たぜ!」
自称「普通の魔法使い」こと、霧雨魔理沙。
私の図書館にしょっちゅうやってきては、本を持っていく厄介者だ。
よりによってこんなときに来るなんて、と、私は内心で舌打ちをした。
「あんたも相変わらずね。今日こそは、一冊たりとも渡さないわよ!」
「いいじゃないか、どうせ死んだら返す・・・じゃなくて、今日の目的は本を借りることじゃないぜ」
え?と出しかけていたスペカをひっこめる私。
魔理沙は「どのみち本絡みなことには違いないけどな」と言いながら、懐から1冊の薄い本を取り出した。
「ほらよ。お前、これ読みたがってただろ?」
そう言って魔理沙に渡された本は、確かに私が以前から興味を持っていた、恋愛小説だった。

そういえば、以前魔理沙に話した事がある気がする。
里で流行っている小説を読んでみたい、と。

そんなもの、読みたければ自分で買いに行けばいい、という人もいるだろう。しかし「知識と日陰の少女」なんて二つ名を持ってると、こういった本は、どんなに欲しくても買い辛いものなのだ。
だって、それはそうだろう。世間での私のイメージといえば、お固い魔道書を眺めながら、実験に勤しんでいるような姿である。それが、実際のところは恋愛小説に現を抜かしているだなんて噂がたったら、最後にはどんな尾ひれがつくか分かったもんじゃない。
当然、こんなこと、小悪魔に話すのも躊躇われるから、彼女に買って来てもらうことも却下。
咲夜に買いに行ってもらうことも考えたが「瀟洒なメイドが実はこんな本を読んでるなんて思われたら」と却下された。別にいいじゃない。咲夜のケチ。
そんなことを魔理沙に愚痴ったら「自分の事を棚に挙げて、よく言うぜ」と笑われたのだった。

魔理沙に本を渡された私は、すっかり固まってしまっていた。
だって、あまりにいつもと立場が逆すぎるから。どうしていいかが分からなかったのだ。
そんな私の態度に、魔理沙は不服そうな表情を浮かべた。
「何だよ、嬉しくないのか?」
「・・・どうしたのよ、この本」
「里の本屋で買ってきたんだよ。私のキャラじゃないから恥ずかしかったけど。お前、読みたがってただろ?」

ええ、ずっと気になっていた本だもの。本当に嬉しい。ありがとう、魔理沙。

「貴女でもちゃんとものを買うなんてことがあるの。うちでもきちんと手続きを踏んで、本を借りていってほしいわね」
「なっ!?・・・もういい!帰るぜ!」
しまった。素直に思ったことを言えない悪い癖が、こんなところで出てしまうとは。
飛び立とうとする魔理沙に「待って!」と声をかけようとしたが間に合わず。
「来年こそは、お前をあっと言わせるようなものを持ってきてやるからな!」
捨て台詞を吐いた彼女は、窓をぶち破って飛び立ち、あっという間にお空を流れる星になった。

「パチュリー様、魔理沙死んだんですか?」
「まさか。殺したってそうは死なないでしょ?・・・て、こあ!あなたいつからいたの!?」
「そうですね。パチュリー様が、一人アンニュイな様子で物思いに耽っていた辺りからでしょうか」
あのぼんやりぶりが、アンニュイとやらに見えるのか。気を遣ってくれているのか天然なのか、彼女の思考は時折全く読めない。
私はため息を一つつくと、小悪魔に訊ねた。
「それで、何の用かしら?」
すると、小悪魔は心底嬉しそうな顔で「パーティーですよ、パーティー!」と弾んだ声を上げた。
「会場の準備が整ったんです。もう皆集まってますよ!あとはパチュリー様だけです!」
声を弾ませてそう言ってくる小悪魔。そんな彼女に向け、私は、最後にもう一度だけ訊ねてみることにした。
「ねえ、小悪魔。本当に、今日は何の日なの?」
「もう、そういうのいいですから。ほら、行きますよ!」
・・・私が思い切って投げかけた問いをあっさり流すと、小悪魔は歩き出していった。方角からすると、食堂の方だ。おそらくは、そこが会場なのだろう。
もう、何でもいいからおとなしく祝われよう。魔理沙が本をくれるなどという異常事態が起こるほどなのだから、今日は私にとってよっぽどめでたい日なのだ。そんな風に無理やり自分を納得させ、私も小悪魔の後を追うことにした。

「皆さん、お待たせしました!本日の主役が到着でーす!」
そう言いながら小悪魔が食堂のドアを開けると、わー!という歓声が上がった。
レミィ、咲夜、美鈴、一人いまいち状況が掴めていない妹様。それに門番隊や妖精メイドの面々。
皆が皆、私の方を見て「おめでとう」と言いながら、微笑んでいた。
・・・すごい。長く生きてきたけど、こんな体験は初めてだった。嬉しいやら恥ずかしいやらで、思わず頬が熱くなってしまう。
そして、ようやく私は思い出すことができた。机の上に乗っている、沢山のロウソクが並べられたケーキを見て。何より、部屋の中央に掛かっている「パチュリー様 10×才おめでとう」と書かれた幕を見て。

「そっか。誕生日なんてすっかり忘れてた・・・」
「ええ!?パチュリー様、本気で覚えてなかったんですか!?」
「だから、何度も聞いたでしょう。『今日は何の日?』って」
驚く小悪魔に対し、そう言ったときの私の顔は、きっと泣き笑いになっていたと思う。
誕生日なんて、別にどうでもよかったのに。
そんなものを祝う暇があったら、本を読んでいたかった。だからこそ、いつしかその存在すら忘れてしまったのだろう。
・・・それを、わざわざこんな風に祝ってくれるなんて。

机の上にあるものは、ケーキだけではない。普段はちょっとお目にかかれないほどのご馳走が並んでいた。料理の準備も大変だっただろう。
食堂の内部をよく見回してみれば、あちらこちらに花が飾ってあったり、紙で作った鎖がかかったりしていた。何も、こんなにしてくれなくても良かったのに。

部屋の中央にあるケーキの元へと辿りつくと、小悪魔が「さ、パチュリー様!ロウソク消してください!」と言いながら電気を消した。
真っ暗な部屋の中で、ロウソクの光だけがゆらゆらと揺れる。こんな光景を見たのは、いつぶりだろうか。
そんなことを考えながら、幻想的に煌くロウソクの火を吹き消す。すると、あちらこちらからパチパチという拍手が起こった。
小悪魔が再び電気を付けたタイミングを見計らって、パーティーの準備を進めてくれた皆が、私の元へと集まってきた。

「おめでとうございます、パチュリー様」
「ありがとう、咲夜。あの料理は貴女一人で?」
「いえ、私一人では、とてもあんな量は作れませんわ。今日はおめでたい日ですから、妖精メイドたちも普段より頑張って手伝ってくれました」
咲夜がそう言うと、それまで皆に料理を配っていた妖精メイドたちが、堰を切ったように話し始めた。
「はい!私はシチューが焦げないようにかきまぜてました!」「私はチキンを切り分けました!」「ケーキにクリームを塗らせていただきました!」
そのあまりの勢いに、苦笑を交えながら「はいはい、皆ありがとう」と返事をすると、妖精メイドたちは満足げに仕事へと戻っていった。
「皆、はりきってたんですよ。パチュリー様のことは、館の誰もが尊敬されてますから」
いつものきりっとした表情ではなく、優しい笑顔を浮かべてそんなことを言う咲夜。
私は何だか気恥ずかしくて、顔はきっと林檎みたいに真っ赤になってしまっていた。

「パチュリー様、お誕生日おめでとうございます」
赤くなった顔もようやく治まった頃、美鈴が声をかけてきた。字を書くのが上手な彼女の担当は、きっとあそこだろう。
「美鈴もありがとう。あの幕に書かれてるの、貴女の文字よね?相変わらず達筆だわ」
「いえ、あのぐらいしか出来ませんので」
そう笑いながら、ポリポリと頭を掻く美鈴。あれだけの字が書けるのは、本当にすごいと思ったのだけれど。
「日本語はまだ不慣れなので、あまり上手く書けなかったんですけどね」
「・・・あなた、母語で書道でもしたら『無形文化財』とか呼ばれちゃうんじゃない?」

「パチェ、おめでとう」
最後に声をかけてきたのは、レミィだった。今回の首謀者は、まず彼女で間違いないはずだ。
「レミィ、ありがとう。あなたね?こんな大げさなパーティーなんて考えたのは」
「盛大と言ってほしいな。でも、皆結構ノリノリで準備してたんだぞ?」
パチェを本気で驚かせてやりたかったからな、などと言いながら、レミィはニヤニヤと笑った。
「実際、驚いただろう?」
「・・・ええ。悔しいけど」
「そうか。なら、私も頑張った甲斐があったってもんだ」
貴女は何してたの?と聞いたら、紙で鎖作ってた!と胸を張って言うものだから、思わず噴出しそうになってしまった。
「何だよう!意外と難しいんだぞ、あれ作るの」
「うんうん、分かってるわよ。ありがとう」
素直な気持ちでそう言うと、レミィは「えへへ、どういたしまして」と、蕩けるような笑みを浮かべた。
本当に。紅い霧の時もそうだったけど、人を驚かせるようなことばかり上手なんだから。

「さて、宴もたけなわですが、そろそろお開きにしたいと思いまーす。最後に、パチュリー様から一言どうぞ!」
あれだけ並んでいた料理もあらかた無くなった頃、唐突に小悪魔がそういったかと思うと、私の手元にマイクが廻ってきた。皆の視線が私に集まる。
「・・・えーと」
何を言ったものかしばし頭を巡らせるが、突然だったこともあり、どうも気の利いたコメントは出てきそうに無い。
だから、今の心情をそのまま言葉へとすることにした。
「今日は、私なんかのために、こんな大がかりなパーティを開いてくれて、本当にありがとう。思えば、毎年毎年『別に祝うようなことでもないから』と言って無視しちゃってたけど、もし、誕生日の度に、こんな素敵なことになると分かってたら・・・今までは、随分勿体無いことをして来てたんだなって思う。だから・・・良かったらで、いいんだけど・・・」
来年も、また皆でお祝いしてくれる?

そう聞いたら、皆が笑顔で拍手をしてくれた。

今日は良い日だったな―。心地よい疲れを感じながら、そんな事を思いつつ、寝室へと戻ると。
バリーン!!という、派手な音をたてて、窓から飛び込んでくる影があった。こんな登場の仕方をするのはあいつしかいない。
もう。折角いい気分に浸っていたというのに。
「魔理沙!あなた一体どういうつもりよ!」
一々窓を破らないで!と思わず怒鳴ったが、彼女は私の言葉になど耳を傾けずに言った。
「パチュリー!やっぱり来年まで待てなかったから、今から驚かしてやるぜ!」
博麗神社で大宴会だ!という魔理沙の言葉に、私は思わず耳を疑った。
「ちょっと、それどういうことよ?」
「どうもこうも、パチュリーの誕生日を祝って、皆で飲もうってことだぜ!」
魔理沙の説明によると、私の言葉が悔しかった魔理沙は、あれからすぐ、私をびっくりさせるために様々な場所へ動いたとのことだった。
皆『今日、親友が誕生日で』って言ったら、喜んで集まってくれたぜ!と、魔理沙は笑顔で言うけれど。
・・・それって、私は単なるダシなんじゃないの?
よっぽどそう聞いてやろうかと思ったが、あまりにも純真無垢な魔理沙の表情を見てると、どっちでもいいかと思えるようになった。今日の私は機嫌がいいのだ。

「さて、それじゃ行くぜ、パチュリー!」
断られる、などとは微塵も考えていないだろう声で、魔理沙は言う。いつも思うけど、何故彼女はこうも自信満々なのか。普通に考えれば、夜にいきなり押しかけられて「これから宴会だ!」などと言われても、そうそう行ける者ばかりではないだろう。・・・でもないか?幻想郷の住人も大概暇だし。
本音を言えば、パーティーのこともあって疲れてるし、早めに眠りたかった。でも、こうなったらしょうがないか。
もう、皆集まってしまってるみたいだし。魔理沙はきっと言っても聞かないだろうし。
観念した私は、おとなしく魔理沙の箒の後ろに跨った。
「まったく。今日は祝われっぱなしの一日ね」
「あー?紅魔館でもなんかあったのか?」
「ええ、おかげさまで。皆でパーティーなんて開いてくれたわ。貴女が出て行ってすぐね」
「ちぇー!ごちそうとか出たんだろ?あのまま残ってればよかったぜ」
本当につまらなそうな声でそう言う魔理沙。
そんな彼女の声が面白くて、思わず声を上げて笑ってしまった。
「魔理沙」
「うん?」
「・・・あの本、ありがとう。大事に読ませてもらうわ」
「・・・おう!」
ふと気付けば、博麗神社が、すぐそこまで見えてきた。
境内には「大宴会」の名に相応しく、沢山の人妖が集っていた。

現在の時刻は夜9時。―今年の誕生日も残り3時間ばかり。だけど・・・私の素敵な時間は、まだまだ終わりそうに無い。
おまけ。
パチュリーの誕生日から数ヵ月後。
「紫様!誕生日おめでとうございます!」と、式の式に言われた紫は、すっかり固まっていた。

「ちぇ、橙!確かに今日は紫様の誕生日だが、それについて触れてはいけないと言っただろう!」
「どうしてですか?あのムラサキの人は、お祝いされててとても嬉しそうでしたよ?」
私も、誕生日をお祝いされたら嬉しいです!と、橙は邪気のない笑顔で言った。
「ふ、ふふ・・・いいのよ、橙。私も嬉しいもの・・・。また一つ、大人の女に近づけたのだから・・・」
思ったより落ち着いた様子の紫を見て、藍は安堵した。流石紫だ。大きなダメージを受けこそすれ、この程度で我を忘れるようなことはなかった。
「紫様もこれ以上大人になるんですか?」
あ、分かりました!と何かを閃いた様子の橙。何故か、藍の背筋に冷たい汗が流れる。
「おばあちゃ」
「うわああああああああああああ!!!!!!」
この言葉を聞かせてしまえば、今度こそ大変なことになる。
橙の暴言に、藍は、大慌てで愛する式の口を塞いだ。

しかし、その時は既に遅く。
自らを見失った紫は「誕生日が来なければ、これ以上歳を取る事もないのよ!」と、「平日」と「誕生日」の境界を弄った。こうして、異変に気付いた霊夢たちが解決に乗り出すまで、幻想郷から誕生日の概念は失われたという―。

―――――――――――――

初めに、ちょっとだけ注意。
作中でパチュリーが触れている「すき焼き通の日」「たすけあいの日」は実在します。
ですが、これは、作者がこの作品を書いていた日が偶々そうだったというだけで、パチュリーの実際の誕生日がこの日だという公式設定は全くありません。
ぶっちゃけ「すき焼き通の日」という響きが気に入っただけですw

どうも。ワレモノ中尉です。
前回コメント下さった方、ありがとうございました。初めての100点評価に狂喜乱舞しました。

今回は「もしパッチェさんが誕生日を迎えたら」というシチュのお話でした。
作中でもそうなんですが。彼女は絶対、自分のことより本を読むことを優先するタイプだと思うんですよね。だから、誰かが率先して動かないと、自分にとって大切な瞬間でも見逃してしまう。そんなタイプだという解釈で書かせていただきました。
まあ、幻想郷って基本長命な方が多いので、その方たちにとってどこまで誕生日に価値があるのかは分かりませんが・・・。

しかし、ここまで盛大ではなくても、こんな風に祝ってくれる友達が欲しかったorz

とりあえず「このパッチェさん幸せだなあ」と思っていただければ、僕としては大満足です。
それでは。
ワレモノ中尉
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コメント



0.1180簡易評価
7.100名前が無い程度の能力削除
このパッチェさん幸せだなぁ
12.100名前が無い程度の能力削除
紅魔家族はいいなあ
16.80名前が無い程度の能力削除
>「平日」と「誕生日」の境界を弄った
 下手すりゃ、平日全部が誕生日w

電気?
19.100カギ削除
長生きしてると忘れるものなのだろうね、誕生日。
優しい話でした。ただ、魔理沙に一言言いたい。
「ドアから入れ」
22.100名前が無い程度の能力削除
パチュリーの可愛さと家族の暖かさ、魔理沙の優しさ、全てが私好みでした!
いいお話をありがとう