Coolier - 新生・東方創想話

如月の恋想夢

2009/10/14 22:53:02
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深々と幻想郷に雪が舞う。

それは体を冷やし、時として命を奪う。

一部を除き、大抵の者は冬の寒さ、雪の冷たさに耐え切れない。

そんな寒さにぶつぶつと呟く者がここに一人・・・。

「ったく、寒いったらありゃしないぜ。誰だ、

冬なんて作った奴。ぶっ飛ばしてやる」

誰に言ってるのか定かではない文句を呟いた魔理沙は、

寒いと言ってるにも関わらず縁側に出ていた。

「神様に喧嘩売ってどうすんのよ。中に入って我慢することね」

霊夢は寒い冬にも関わらず、いつも通り腋の開いた巫女服を着ていた。

「どっちかというと、霊夢のほうが寒そうなんだが」

腋が開いてる巫女服は風通りが良すぎるため、普通なら着ないものである。

「巫女が巫女服着ないでどうすんのよ。

 それより中に入るか、このまま外にいるか決めてよね。寒いんだから」

やっぱり寒いようである。

やせ我慢してまで着ることは、巫女としてのプライドなのか。

「変なプライドだな」

「誰に言ってるのよ」

「いや何でもない。そうだな、前者を選ばせてもらうぜ」

そして二人の姿が中へと消えていった。







「ところで霊夢。今日は何日だ?」

二人はコタツの中で、みかんを食べていた。

「あんた、そんなことも忘れたの?今日は7日よ」

丁寧に白い皮を取りながら、霊夢は答えた。

「7日かぁ・・・。時間ないなぁ」

珍しく魔理沙が悩んでることに少し驚いた霊夢は、

「何?あんたが悩む事でもあるの?」

と失礼な事を言っていた。

「霊夢の私の人物像ってどんだけ能天気なんだよ・・・」

「え?違ったの?」

魔理沙はがっくりと肩を落とし、蹲ってしまった。

「じょ、冗談だって。それより、なんで時間が無いのよ」

「ほら・・・あと少しで・・・な?」

「な?って言われても分からないものは分からないわよ」

「だから・・・バレンタインデーだよ、バレンタイン!チョコ渡すやつ!」

幻想郷には様々な妖怪が存在する。

それは日本だけでなく、西洋などからも来るため

様々な文化も入り混じる形になる。

それはバレンタインも然りということだ。

「あー、バレンタインねー。確かにあと少しだわね」

女性率が高い幻想郷ではバレンタインというのは、

それほど必要価値のないイベントである。

もちろん、百合の花が咲くことも無いことは無いが・・・。

「それで?何で焦ってるのよ」

「だってほら、香霖が・・・」

魔理沙がいつも通ってる香霖堂には、昔からの馴染みである霖之助がいる。

「霖之助さんには毎年渡してるじゃない。今さら何を――」

その時、霊夢の頭に豆電球が光った・・・ような気がした。

「はっはーん。なるほどねぇ、だからかぁ」

今の霊夢の顔は、悪魔と言っても過言ではないほどに、にやけていた。

「ど、どういう意味だよ」

「魔理沙は義理よりも本命を渡したいってことなのよね?」

その意味は言わずとも分かるであろう。

「ち、違っ」

「だって毎年平気な顔して渡してるのに、今年だけ焦るって変でしょ?」

逆に言うと、毎年霊夢は魔理沙が霖之助に

チョコを渡してるのを目撃しているということになる。

それはそれで犯罪の臭いがするが、魔理沙は気づいていない。

「だ、だから・・・」

「じゃあ義理なのね?」

霊夢がここまで執着な理由は一体何なのだろうか。

「いや義理では・・・」

「ということは本命。つまり好きなのね?」

「そうだよ!悪いかよ!?私は香霖が好きなんだよ!昔からな!」

ヤケクソになったのか、自らの想いを叫んでいた。

「別に悪くはないわ、人の恋なんて様々だしね」

先程の悪魔のような怖さは消え、いつもの霊夢に戻っていた。

「さて、私はレミリアの所へ行くけどあんたはどうする?」

外に行くにもやっぱり巫女服な霊夢であった。

「そうだな、パチュリーに聞くこともあるし同伴させてもらうぜ」

「あら、そのマフラーは?」

霊夢は魔理沙の真っ赤なマフラーが目に入った。

「ここに来た時から持ってたんだが・・・。

 まぁいいか、これは去年のホワイトデーに香霖がくれたんだ」

その時のことを思い出したのか、魔理沙は顔を赤くしてにやけていた。

ただの店の在庫処分であることはもちろん知らない。

「まったくラブラブね」

マフラーと同じ色に顔を染めるあたり、まだまだ魔理沙もウブである。

「ちょ、だから!」

「はいはい、ごちそうさま。さっさと行くわよ」

「違うってー!!」

その言葉は霊夢には届かなかった。








まっさらな白銀の世界の寒さに身震いしながら、彼女らは紅魔館についた。

ついた頃には、霊夢の歯が音を奏でていた。

門番は・・・見当たらず。

「中国の奴、またサボってるのか・・・。だから給料が出ないんだ」

主に給料が下がる理由の半分は魔理沙自身であることを自覚していないらしい。

仕事とは言え、こんな寒さで仕事をさせる主人の鬼畜さにも頭は下がるが。

「まぁいいわ。勝手に入らせてもらいましょ」

「当たり前だぜ」

魔理沙にしてみれば、それが普段の入り方である。








「お邪魔するぜ」

「あら、こんな日でも窃盗かしら?ご苦労様ですこと」

目の前に急に現れたのは、紅魔館のメイド長であった。

「窃盗とは人聞きが悪い。私はただ借りてるだけだぜ。死ぬまでな」

「窃盗を辞書で引いてみるといいですわ」

魔理沙と咲夜の間で火花が散ってるように見えた。

「レミリアに呼ばれたんだけど」

疎外感を覚えたのか、眉間に皺を寄せて霊夢が間に入ってきた。

「すみません。何せネズミがうるさいものでして・・・。今案内しますね」

「そんなにネズミが出るのか。ここも古くなったな」

彼女に皮肉が通じてるのかは定かではない。

そして霊夢らが去った後、魔理沙の足元に1本のナイフが刺さっていた。

「冗談が通じない奴め。パチュリーのとこでも行くか」









地下の図書館に、通称「動かない大図書館」で有名なパチュリーがいた。

「よう、パチュリー。遊びに来てやったぜ」

窓がないここは、少し埃臭かった。

「あら、いらっしゃい。本はあげないわよ」

「別にいいぜ。借りてくから」

「・・・はぁ。今日はそれだけ?」

いつも無理矢理本を持って行くので困った顔をしてるのだが、

どこか満更ではなさそうだった。

「いや、今日は別の用で来たんだ」

「別の用?」

毎回本を奪うためだけに来るので、違う理由ということで少し驚いたらしい。

それはそれで、悲しいものがあるが・・・。

「ああ、実はかくかくしかじかでチョコの作り方を教えてほしいんだ」

かくかくしかじかで通るとは便利なものである。

「小説だからな」

「誰に話してるの?」

「いや何でもない。それより教えてくれるか?」

魔理沙は自分の想いを伝えるということもあって目が燃えていた。

「そういうことなら私より咲夜が得意だと思うけど」

彼女にとってチョコを作るということは造作もないことかもしれない。

「あー、あいつはダメだ。色々あってな」

先程の件により、できたチョコの成分が血でできてしまってもおかしくはない。

「うーん、ならそうね・・・。こあ、A197の棚の右から9番目の本を持ってきて」

「はいはーい♪」

すべての本の場所を知ってるとはさすが「動かない大図書館」である。

少しして、小悪魔が1冊の本を持ってやってきた。

「これですね」

「ありがと、この本なら分かりやすい説明だと思うから参考にしてみて」

便利なんだが魔法やそれに関係する何か以外の本があって、

パチュリーは読むのだろうか。

「お、サンキューな。借りてくぜ」

「ちゃんと返してよね」

魔理沙に持っていかれた本はこれで何冊になるか分かったものではない。

「死ぬ時にな」

死ぬまで借りる。それが彼女の言い分である。

魔理沙が図書館を出ようとした時、

「魔理沙さん」

小悪魔が声をかけた。

「何だよ。ちゃんと返すって」

「いえ、そうではなくてこれを」

と言って、彼女が出したのは小さな小瓶。

赤い容器でいかにも怪しそうなものであった。

「これは?」

「媚薬です。軽いものですが、これでイチコロにすることができます」

何でそんなものを持ってるかは定かではない。

「いや、遠慮しとくぜ。自分の力で落としたいからな」

伊達に「恋色魔法使い」を名乗ってるだけはある。

「そうですか。では、がんばってくださいね」

「私を誰だと思ってる。言われなくてもがんばるぜ」

背を向け、歩きながら喋るその姿は妙に男らしかった。







「あら、魔理沙。遅かったじゃない」

霊夢は一足先に玄関へと来ていた。

「遅いってまだ30分も経ってないぜ」

「私からしたら30分も遅いのよ」

どんだけせっかちなんだか。

「はぁ。これでやっとネズミを退治できましたわ」

咲夜はいかにも疲れた顔で、嘆いていた。

「そうだな。けど油断すると今度はゴキブリが飛んでくるぜ。

 もっと汚くなるな」

「ええ、黒くて大きくてすばしっこく飛び回るゴキブリがね。

 気をつけなくちゃ」

「フフフフフフ」

「うふふふふふ」

彼女ら二人の笑顔は黒かったと後に霊夢は語る。

「ほら、さっさと帰るわよ」

またしても同じように無視をされて不機嫌な霊夢は、

魔理沙に帰るよう促した。







帰る途中。

「霊夢は何でレミリアに呼ばれたんだ?」

来る時よりも幾分雪が収まって、寒くはあるが来る時程ではなくなった。

にも関わらず、やはり服が服なので霊夢は変わらず歯で音を奏でていた。

「何でも来週パーティーがあるから来いってさ。うぅ、さむ」

丁度バレンタインデーと同じ日である。

何かを狙ってることだけは確実に頷けるのがレミリアである。

「行くのか?」

「どうせ能力で操られるのがオチだからね」

レミリアの強大な能力で霊夢がパーティへ来るようにすることも可能である。

実際に能力を使ったという感じがしないので、

何とも信憑性の薄い能力である。

「ふーん。あ、家近いから私は戻るぜ。じゃあな」

「じゃあね、私もあなたと霖之助さんとの恋が実るように祈っておくわ」

「もー!」

もうその時には彼女の姿は見えなかった。







「まったく霊夢の奴・・・」

霊夢の事でブツクサと文句を言いながら、

彼女は自宅へと戻ってきた。

「さて、今年も香霖をギャフンと言わせてやるぜ」

今年もどころか毎年ギャフンのギの字も言わせてはおらず、

涼しい顔のままの香霖であることは、安易に想像できよう。

「さてと・・・」

部屋中が外と変わらず氾濫していても、

とりあえず無事なソファーに腰掛け、

彼女は、一ページ目を開いた。

目次には、

「本命と思わせないような義理チョコ・・・却下。

 ベロンベロンに酔わせるチョコ・・・却下。
 
 確実に意中の人を落とせるチョコ・・・おっ、これでいいな」

彼女はその項目のページを開いて、噴出しそうになった。

その内容とは・・・。

「体中にチョコを塗ってリボン?いや、まぁ・・・でもなぁ・・・」

自分が全身にチョコを塗ってリボンをまいて行くとする。

正せさえ難攻不落の城なのに、他の連中に知られると思ったら・・・。

「間違いなく、死にたくなるな」

ということでこれも却下となった。

「普通のチョコの作り方は載ってないのか、これ」

パラパラと読み進んでいくが、目に入るのは

『食べるとネコ語になるチョコ』や、

『食べたら笑いが止まらないチョコ』など、

もはや毒チョコのような物である。

「ったくパチュリーめ。何が分かりやすいだよ、ったく」

半ば諦めかけていると、最後の最後に普通のチョコの作り方が載っていた。

「いや、これは最初に載せとけよ」

誰に言うわけでもなく、突っ込んでしまう魔理沙。

「まぁいいか。ちゃっちゃと作ってしまうか」

頭の中で色々な想像ができ、にやけたり赤くなったりと、

大急ぎな彼女であった。






大体ができあがり、後は冷やすだけとなった。

「一週間持つかな?さすがに作るのは早すぎたか」

材料はまだ余ってるので、あと1個くらいは作れる。

もし、悪くなってもまた作ればいいだけの話だ。

「ふう、疲れた。少し休むとするか」

そう言うと、彼女は頭から毛布をかぶり、

余程疲れていたのか、すぐに眠りの世界へ旅立ってしまった。










「うぅー緊張するぜ」

かれこれ30分は香霖堂の前で入ろうとし、躊躇うの連続だった。

もし、これでフられてしまったら・・・。

「考えるのはやめだ。直球でいくぜ」

嫌な想像を振り落とすかのように、頭を振り

必要ないのに、拳をパキポキいわせてるあたり、

まるで喧嘩しに行くようである。

「よーう、香霖。遊びに来てやったぜ」

「魔理沙か。今忙しくてね、冷やかしなら帰るといい」

いつもとどこか違う霖之助に、違和感を覚えつつも、

これくらいで素直に引き下がる彼女ではない。

「釣れないな。私との仲じゃないか」

「だったら早くツケを払ってくれないかな」

何やら怪しいものを弄くってる霖之助は、

さっきから彼女の目を見ずに話している。

「人の目を見て話せって教わらなかったか?」

「ツケを払ってくれたら見て話すよ」

もはや埒が明かないと思った彼女は、

「今日はいいものを持ってきたんだ」

と、切り出した。

「ツケかい?」

「もっと素晴らしいものだぜ」

と言い、取り出したのは綺麗に包装されたチョコであった。

「ほら、バレンタインだぜ」

このときも彼女の顔は真っ赤だった。

「開けてみてもいいかい?」

「あ、ああ。いいぜ」

これまでの努力が試される時間であった。

そして、彼が最初に言った言葉は、

「なんだい、これ」

である。

「だからチョコだって。バレンタインくらい香霖も分かるだろ?」

「バレンタインは分かる。けどこれは・・・チョコなのかい?」

確かに少し形は崩れているが、チョコには変わりない。

「確かに名称はチョコだ。

 しかし僕の知ってるチョコは少なくとも紫色はしていない」

気づけばチョコはいつのまにか毒々しい紫色の斑点ができていた。

「違う!これはいつのまにか・・・」

「分かったから、これは魔理沙が食べるといい。僕は遠慮するよ」

頭の中で何かが崩れる音がした。















「はっ、夢・・・か」

起きたときには、冬にも関わらず脂汗がじっとりと浮かんでいた。

彼女は急いで冷凍保存してあるチョコへと走った。

「よ、よかったぁ~・・・」

とりあえず、夢にあったような毒々しい斑点は見つからなかった。

しかし、あんな夢の後だ。

少なくとも彼女には、平常でいられるわけがなかった。

彼女は誰かに悩みを聞いてもらいたくて、一目散に飛び出した。






「あら、いらっしゃい。一体どうし―」

どうしたの?と言おうとしたパチュリー目掛けて、魔理沙は、跳びついた。

「げほっ、げほっ。本当にどうしたのよ、もう」

「パチュリ~。香霖がぁ、香霖がぁ」

目に涙を浮かべ、途切れ途切れに単語しか聞こえない。

「落ち着きなさい。何があったか順序よく話してみて、ね?」

赤子を諭すかのように、優しく頭を撫で魔理沙に落ち着かせた。

「実は――」

半分嗚咽やぐする音が聞こえながらも、

一生懸命夢であったこと、それで心配になったことを話した。

「そんなことがあったの・・・。でもきっと大丈夫よ」

「どうして・・・そんなことが分かるんだよ?」

落ち着いてはいるが、やはり不安は募る一方のようだ。

「彼が嫌々と断ることがあったかしら?

 例えあっても、冗談かあなたの無茶なお願いくらいでしょ?

 努力して作ったものを無下にする人ではないはずよ」

パチュリーが喋っている間、彼女は下を向き無言で佇んでいた。

「あなたの話を聞いてる限り、一生懸命努力したことはとてもよく分かるわ。

 多分彼も同じように感じるはずよ。元気だしなさい、それでもあなた

 本当に『恋色の魔法使い』かしら?」

最後の言葉を聞いて、彼女の肩がピクッと動いた。

「本当に・・・大丈夫、かな・・・」

「この図書館の本全てを賭けてもいいわ」

それだけパチュリー自身も霖之助を信じているということなのだろう。

「そうだな、くよくよしても始まらないよな!」

「それでこそいつもの魔理沙よ。まだバレンタインまで時間はあるわ。

 今の以上の物を作れるようがんばりなさい」

「サンキュー、パチュリー。いつもすまないな」

謝ってばかりだが、その表情はいつもの輝かしい魔理沙の笑顔だった。

「そう思うなら早く本を返してくれるといいんだけど」

「それはそれ、これはこれだぜ。いつもどおり死ぬときに返すさ」

そういって帰ろうとする時にパチュリーは、

「あ、帰るならコレを渡しておくわ。後で食べなさい、元気がでるから」

「お、サンキュー」

魔理沙はきっと、パチュリーの気持ちには気づいていないだろう。

だがそれでもよかった。

魔理沙の元気な顔を見るほうが好きだったのだ。

たとえ、同じ魔理沙でもあんな弱弱しかったら何とも思っていなかっただろう。

彼女の去っていく後姿を見ながら、知識の魔女は小さく息を漏らすのだった。







そして、バレンタイン当日。

やっぱりダメになってしまったチョコを作り直して、

今まで以上にいいものを作ってしまうあたり、

やはり素質はあるのかもしれない。

朝早くから彼からもらった真っ赤なマフラーを首に巻き、

足早に、香霖堂を目指すその姿は恋する乙女であった。






店の前まで来るとやはり緊張してしまう。

霊夢の姿はなかった。

まだ寝てるらしい。

もし失敗したら・・・という想像が頭を過ぎり、

今にでも逃げ出したかった。

そうしなかったのは、彼に対する想いか、或いは・・・。

震える声を抑えながらも、元気に店へと入っていった。

「おーっす。香霖、生きてるかあ?」

毎日と変わらない挨拶をするのがこんなに緊張するなんて

彼女は思っていなかった。

それほど緊張してると言えよう。

「魔理沙かい。こんな朝早くからご苦労なことだ」

霖之助は、何かを弄くってるらしくこちらを見ていなかった。

ふと、彼女の頭に前の夢の出来事が過ぎった。

もしかしたら・・・と思う想像を振り払って、

彼女は懐から丁寧に包んだチョコを渡した。

「・・・なんだい、これ」

「今日バレンタインだろ?だからチョコを持ってきてやったんだ」

平然そうに喋ってはいるが、内心緊張と不安で倒れそうだった。

「あぁ、借金のツケにかと思った」

「それはまた何時かの話だぜ」

手に渡る前に断れなかったので、それで随分余裕はでてきた。

「毎年すまないね」

感謝されてるものの、無表情で言われても実感がわかず、

「おいおい、この私が渡してるんだ。もう少し愛想良くなったらどうだ?」

調子に乗ってしまうのは彼女の悪い癖かもしれない。

その一言で、気分を害したのか繭に皺が寄ってしまった。

「大きなお世話だよ。好きで無表情になってるわけじゃない」

しまったと思っても、もう遅かった。

「用事は済んだかい?できれば邪魔をしてほしくないんだが・・・」

調子に乗って自分で墓穴を掘ってしまったことに悔いたのか、

彼女は俯いて泣き出してしまった。

「ご、ごめんなひゃ、い。わた、ひっく、しはただ・・・ひっく」

「・・・僕も少し言い過ぎたよ。すまない」

そういうと、彼は彼女の目の高さに合わせ優しく頭を撫でるのだった。

「ひっく、ううん・・・悪、いのは・・・私だから・・・」

「いつも君のチョコには感謝してるよ。本当に」

「うん、分かってる・・・。な、なぁ香霖?」

顔はまだ上げないが、どうやら何か決心がついたらしい。

「なんだい?」

頭を撫でる事はやめない。

そして静かに彼女は口を開いた。

「私さ・・・。昔から香霖のことが好きだったんだ。

 それがいつ気づいたのかは知らないけど、

 私はいつのまにか香霖の事が好きになっていた」

霖之助は口を開かず、無表情で聞き入っていた。

「いつもいつも無茶ばかり言ってるのに、

 嫌そうな顔をしても最後には納得してくれる所とか、

 くだらない相談でも乗ってくれる香霖が・・・好きなんだ」

彼女はまた、涙を流していた。

そして、彼もまた静かに声を発した。

「そうか・・・。君の気持ちは良く分かった。

 君が僕の事を好いてくれるのは嬉しい。

 僕だって君の事が好きだよ。
 
 と、言っても家族的な意味でだが」

と、言うと彼女は、

「どうして私じゃダメなんだ?年齢が離れすぎているからか?」

「それもあるけど、僕は君を妹みたいに思ってる。

 済まないが、男と女という関係で見ることはできない」

だが、と言って彼は続ける。

「君は魅力的な女性へと成るだろう。

 何時の日か素敵な人だって現れる。

 そうすれば魔理沙だって――」

言葉を最後まで言う前に、彼女は霖之助の頬を叩いていた。

「香霖は、私が今までどんな風に見てきたか知らないだろ!?

 私は、香霖がいいんだ!香霖じゃないとダメなんだよ!」

彼女は今にも泣きそうだった。

「すまない・・・」

「いや、叩いてしまったことは謝る。けどこれだけは言わせてくれ」

そう言うと、彼女は彼にそっと抱きついて、こう言った。

「別に好きになってもらわなくても構わない。けど私は香霖が好きなんだ。

 間違っても他の男と・・・なんて言わないでくれ」

すると、彼も抱き返し、

「ああ、約束しよう」

とだけ告げた。









「さて私はもう行くぜ」

「今日はすまなかったね」

彼女が帰る頃には普段の魔理沙に戻っていた。

「この私を悲しませたんだ。来月は高く要求するぜ」

ただでもおきない所が魔理沙らしい。

「お手柔らかに」

「いいや、容赦しないぜ」

そして、最後に彼は飛ぶ直前に、

「そのマフラー似合ってるよ」

顔を赤くし、何も言わず飛んでいってしまった。

去る姿を見届けると、

「さて、店の準備でもするか」

と、中へ入っていった。









「で、どうだったのよ?結果は」

魔理沙は、やっぱり毎日同じ服を着て寒そうな霊夢と、コタツの中でお茶を飲んでいた。

「んー?良かったし、悪かったかな・・・」

「はぁ?何言ってんの、あんた」

「ふっ、霊夢には分からなくて当然だな」

隣で霊夢が何やら文句を言ってるが彼女の耳には届かなかった。

(絶対に落としてやるからな、覚悟しとけよ香霖)

そう言って、彼女は静かに目を瞑るのだった。
毎回霖之助なとこはすいません。

他のキャラだとアイデアが出にくいもので・・・。

とりあえず今回は視点を変えてみました。

なので、霖之助はあまり出てこなかったです。

霊夢のキャラは・・・好きなんですけど、あんななっちゃいました。

最後にこの小説を楽しんで読んでくれると幸いです。

ありがとうございました。
白黒林檎
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コメント



0.1330簡易評価
18.100名前が無い程度の能力削除
いい感じっす。やっぱ魔理霖は俺の乙女心
22.100名前が無い程度の能力削除
よかったと思うよ。次回作にも期待!