紅魔館。
その大広間近くのダイニングルームに設けられた、二十人は座ることができる円卓に、主、レミリア・スカーレットは着席していた。
背後には、メイド長が一人で控えている。
この広大な部屋に、只二人。
だが、そのうちの一人の身体から、とてつもなく巨大な威圧感が発せられていた。
レミリアは、自身のために用意されたワイングラスに口をつけ、彼女なりに微笑んで見せた。
だが、何も知らない第三者がその光景を目撃したら、心身が凍り付いたことだろう。
「今宵の食後酒は甘口ね。さすがは我が紅魔館のメイド長といったところか。丁度いまの私の気分にぴったりよ」
「ありがとう御座います。さりとてお嬢様」
「皆まで言うな、咲夜。分かっているわ」
「これは、大変差し出がましいまねを。失礼しました」
その返事を聞いたレミリアは無言で頷き、ワイングラスを食卓に置く。
全くの同時刻に、陰のようにメイド長が彼女の口元を拭った。
「門番が、また、魔理沙に惨敗したそうね」
「私からきつく言っておきます」
「止めなさい。彼女の敗北は間違いなく、主である私に非がある」
「しかし、紅魔館の皆にしめしが――」
「ねえ咲夜。もし門番がスペルカードルールなどと言う物に囚われずにあの黒白魔法使いと闘ったら、どちらが勝つと思う?」
多少の沈黙の時間があったのは、彼女なりに逡巡した証拠か。
「まず間違いなく、私たちの門番ですわ」
「その通りよ。あの黒白魔法使いの放つ魔法の威力は、実は貧弱。種類も、パワーも、パチェの比には及ばない。彼女の切り札である、最大出力のレーザーでさえ。私が本気になれば、正面から受け止め、堪えきる事すらできるわ。嘲笑の顔をうかべながらね」
レミリアの解説は続く。
黒白の闘いの手段はいずれも、スペルカードルールという、攻撃の強度をあまり問題にしない場合でのみ通用する戦い方。言い方を変えれば、この世界の決闘の作法に最も効率的に適応しているやり方。
「一方、門番は拳法を主体とした完全な近接戦闘型。弾幕ごっこには最も不向きなタイプ。現状でも、いくらかは気を駆使してやりくりをしてはいるようだけど、それでも自身のポテンシャルに比して圧倒的に不利な事は否めないわ」
「はい」
メイド長は瀟洒に同意した。
「ならば、なぜ門番はそこまでスペルカードルールに縛られた闘いしかしないのかしら? そんなルール、無視すれば、今頃は黒白はこの世に居ないのに」
「それは」
「そう、お前も知っての通り、私が命じているからよ」
事実だった。
「門番だけではなく、紅魔館の全ての住人に、スペルカードルールの遵守を強いているのは、ほかでもない、この私。私以外にあり得ない」
単純に実力のみで言えば、紅魔館の面子は、結界の守護者達たる八雲達にも対抗できうるでしょう。と、この館の主は言い切った。
「紅白巫女などは歯牙にもかけない。特にフランなどは、容赦もなく、それはそれは楽しく手足をもいで、愉快に巫女を血まみれにするでしょうね。
たとえるなら、この、トマトソースがたっぷりとかかった人参ステーキのように」
「はい」
「殺し合いは素敵よ。とっても素敵。奇跡のような悪魔の味。どんな銘酒でも、時間のたった酢程度にしか感じられない位に」
レミリアは、過去を郷愁するように語る。
「飛び散る肉片の姿、吹き出す血の味、急所をつかんだときの触感、叫び声をあげる音、佇む死の臭い。どれをとっても感覚を極限にまで高めさせてくれる」
それは、確実に存在していた歴史。
「でも、それは一回遊び終えたら、それで終わり。終焉を迎えてしまう」
幻想郷の、忌むべき経験。
「また同じ甘美な時を味わいたいと思っても、相手は既に壊れている」
「その点、あのルールはすばらしいわ。弱者も強者も、運命の神のもと平等となる。それはもう理不尽に、強者が培ってきた時間を否定して見せるけれども。
その代わり、どんなに弱い相手にでも、常に本気を出して決闘を行うことができる。それこそ何度でも。
負けることはあり得ない、と言うことはあり得ない。どんな弱者を相手にしても」
「私は決闘が好きだ。
私は弱い者を、否、不屈の精神を持つ弱者をいたぶるのが好きだ。
五度か、十度か、それとも幾百度? 幾多の敗北をくぐり抜けてなお、ようやく攻略した弾幕の果てに、新たに迫り来る、さらなる密度のスペルカードを目撃したときのあの絶望の顔! 混乱、悲哀、困惑の表情!
恐怖をそのちっぽけな身にまざまざと感じながらも、心の奥底に残っていた精一杯の勇気をかき集め、なおも我が弾幕に向かってくる一途な健気さ!
どんなに強者を地獄に蹴落としたとて、あの時に感じる享楽には変えられない。そのためには、気まぐれの神がもたらした僅かの敗北など、喜んで奴らに捧げよう!」
メイド長は、再度、瀟洒に己の主に同意した。
「仰せの通りに」
「この快楽のために、私個人の、この快感のためだけに、今後も、紅魔館はスペルカード以外の闘いを行うことを禁ずる」
「分かっております」
「よって、その闘いの経過の如何によらず、全ての勝敗の結果の責任は、全て私にある」
「はい」
「なぜなら、それは、私が望み、私が作り出した勝負の環境なのだから。門番の敗北は、私が運命づけた事と同じ」
「はい」
「ある種の環境においては、それを作り出した者こそが責任をとらなければならない。咲夜、それは貴方にわかって?」
「この咲夜、我が心に肝に命じておきます」
「と、いうわけで、私はもうごちそうさまするからこの人参は作った咲夜が――」
「オモシロイ冗談デス事」
「……うー」
その大広間近くのダイニングルームに設けられた、二十人は座ることができる円卓に、主、レミリア・スカーレットは着席していた。
背後には、メイド長が一人で控えている。
この広大な部屋に、只二人。
だが、そのうちの一人の身体から、とてつもなく巨大な威圧感が発せられていた。
レミリアは、自身のために用意されたワイングラスに口をつけ、彼女なりに微笑んで見せた。
だが、何も知らない第三者がその光景を目撃したら、心身が凍り付いたことだろう。
「今宵の食後酒は甘口ね。さすがは我が紅魔館のメイド長といったところか。丁度いまの私の気分にぴったりよ」
「ありがとう御座います。さりとてお嬢様」
「皆まで言うな、咲夜。分かっているわ」
「これは、大変差し出がましいまねを。失礼しました」
その返事を聞いたレミリアは無言で頷き、ワイングラスを食卓に置く。
全くの同時刻に、陰のようにメイド長が彼女の口元を拭った。
「門番が、また、魔理沙に惨敗したそうね」
「私からきつく言っておきます」
「止めなさい。彼女の敗北は間違いなく、主である私に非がある」
「しかし、紅魔館の皆にしめしが――」
「ねえ咲夜。もし門番がスペルカードルールなどと言う物に囚われずにあの黒白魔法使いと闘ったら、どちらが勝つと思う?」
多少の沈黙の時間があったのは、彼女なりに逡巡した証拠か。
「まず間違いなく、私たちの門番ですわ」
「その通りよ。あの黒白魔法使いの放つ魔法の威力は、実は貧弱。種類も、パワーも、パチェの比には及ばない。彼女の切り札である、最大出力のレーザーでさえ。私が本気になれば、正面から受け止め、堪えきる事すらできるわ。嘲笑の顔をうかべながらね」
レミリアの解説は続く。
黒白の闘いの手段はいずれも、スペルカードルールという、攻撃の強度をあまり問題にしない場合でのみ通用する戦い方。言い方を変えれば、この世界の決闘の作法に最も効率的に適応しているやり方。
「一方、門番は拳法を主体とした完全な近接戦闘型。弾幕ごっこには最も不向きなタイプ。現状でも、いくらかは気を駆使してやりくりをしてはいるようだけど、それでも自身のポテンシャルに比して圧倒的に不利な事は否めないわ」
「はい」
メイド長は瀟洒に同意した。
「ならば、なぜ門番はそこまでスペルカードルールに縛られた闘いしかしないのかしら? そんなルール、無視すれば、今頃は黒白はこの世に居ないのに」
「それは」
「そう、お前も知っての通り、私が命じているからよ」
事実だった。
「門番だけではなく、紅魔館の全ての住人に、スペルカードルールの遵守を強いているのは、ほかでもない、この私。私以外にあり得ない」
単純に実力のみで言えば、紅魔館の面子は、結界の守護者達たる八雲達にも対抗できうるでしょう。と、この館の主は言い切った。
「紅白巫女などは歯牙にもかけない。特にフランなどは、容赦もなく、それはそれは楽しく手足をもいで、愉快に巫女を血まみれにするでしょうね。
たとえるなら、この、トマトソースがたっぷりとかかった人参ステーキのように」
「はい」
「殺し合いは素敵よ。とっても素敵。奇跡のような悪魔の味。どんな銘酒でも、時間のたった酢程度にしか感じられない位に」
レミリアは、過去を郷愁するように語る。
「飛び散る肉片の姿、吹き出す血の味、急所をつかんだときの触感、叫び声をあげる音、佇む死の臭い。どれをとっても感覚を極限にまで高めさせてくれる」
それは、確実に存在していた歴史。
「でも、それは一回遊び終えたら、それで終わり。終焉を迎えてしまう」
幻想郷の、忌むべき経験。
「また同じ甘美な時を味わいたいと思っても、相手は既に壊れている」
「その点、あのルールはすばらしいわ。弱者も強者も、運命の神のもと平等となる。それはもう理不尽に、強者が培ってきた時間を否定して見せるけれども。
その代わり、どんなに弱い相手にでも、常に本気を出して決闘を行うことができる。それこそ何度でも。
負けることはあり得ない、と言うことはあり得ない。どんな弱者を相手にしても」
「私は決闘が好きだ。
私は弱い者を、否、不屈の精神を持つ弱者をいたぶるのが好きだ。
五度か、十度か、それとも幾百度? 幾多の敗北をくぐり抜けてなお、ようやく攻略した弾幕の果てに、新たに迫り来る、さらなる密度のスペルカードを目撃したときのあの絶望の顔! 混乱、悲哀、困惑の表情!
恐怖をそのちっぽけな身にまざまざと感じながらも、心の奥底に残っていた精一杯の勇気をかき集め、なおも我が弾幕に向かってくる一途な健気さ!
どんなに強者を地獄に蹴落としたとて、あの時に感じる享楽には変えられない。そのためには、気まぐれの神がもたらした僅かの敗北など、喜んで奴らに捧げよう!」
メイド長は、再度、瀟洒に己の主に同意した。
「仰せの通りに」
「この快楽のために、私個人の、この快感のためだけに、今後も、紅魔館はスペルカード以外の闘いを行うことを禁ずる」
「分かっております」
「よって、その闘いの経過の如何によらず、全ての勝敗の結果の責任は、全て私にある」
「はい」
「なぜなら、それは、私が望み、私が作り出した勝負の環境なのだから。門番の敗北は、私が運命づけた事と同じ」
「はい」
「ある種の環境においては、それを作り出した者こそが責任をとらなければならない。咲夜、それは貴方にわかって?」
「この咲夜、我が心に肝に命じておきます」
「と、いうわけで、私はもうごちそうさまするからこの人参は作った咲夜が――」
「オモシロイ冗談デス事」
「……うー」
好き嫌いをしてるれみりゃはかわいいと思う
ぐんぐんと上昇していたカリスマ値が一気にフリーフォールしてしまった
僭越ながらこの私がその人参の処理を
人参美味いのに人参。
よって、人参の美味しさを知るために永遠亭にホームステイの刑w
「それを言っちゃおしめえよ」的なことをさも得意げに語るのって無粋というか小物というか。
オチの前振りに過ぎないとはいえ透けて見える。
もそっと考え方を練りこんでは。
片言で返す咲夜さんも秀逸
それほど的外れな解釈だとは思えんが
いくらでも解釈できるものに無粋も小物も何も無いだろうに
それにしてもおぜうさま、大蒜だけでなく人参まで苦手なんて
ただでさえも弱点が多い吸血鬼の弱点を更に増やしているだけですよ
ただ、あっさりしすぎている上に読みにくいところがちょっと気になったかな。
しかしこの本文に関しては俺の意見とも合う部分がいくつかあるのでオーケーだ。
可愛いなぁ、おぜうさま。これは良い短編。
長い語りは最後の1行のためかよ
好き嫌いがあるお嬢様はかわいい
いや、こういうの、凄い好きですけども w
必殺カリスマ落としwwww
この展開は読めなかった……完敗です。
と言うわけで私はハッキリ言って不快でした。
なんつーかスペカと実戦の違い云々とか
実は美鈴は魔理沙とか問題にならないほど強いとか
いい加減持て囃され過ぎだわ、何の根拠もないのに。
勿論それを全否定するわけじゃなく、独自の設定を上手く調理して表現してるならそれは面白い作品になったでしょう。
でもただ単に脳内設定の羅列を会話文風に飾り付けしただけってどうなんですか?
まあそれが面白いと言うなら面白いんでしょう。
正しい解釈と言うならそうなんでしょう。
…貴方の中ではね。
気を使うとかは大体想像つくんだけどね
運命操るとか時間止めるとかそれこそ最強だよね
耐久は妖怪>人間ってイメージあるけど妖怪って空想だから実際よくわかんないよね
まぁ、能力合戦なら幽々子最強なんだけどね
まあそれはともかく
ちょーっと内容が無さすぎる気が…もうちょっとお話を膨らませても良かったのでは?
ほぼ会話文だけでその上この長さってのは…
オマケに地の分を挟まず同じキャラが連続して喋ってたりして、はっきり言って読み辛いです
オチにはまあ意表を突かれましたので、この点数で
「血の滴るような真っ赤なニンジンはどこだ~」
くらい言おうよw
是非このレミィには、玉ねぎを食べて硫化アリル中毒になって
「バカな!?スペルカードルールを守らないだと……!?私が玉ねぎ如きに……」
なんて最期を迎えて欲しい。
まぁ面白かったですよ
-20は読みづらい部分もあったかなってことで
そしてそういう解釈もあるのか、と思いつつ。
――√ ̄ ̄ ̄|_
実際問題、スペルカードルールなしでは人間ごときが妖怪に勝つことなんてできないお。うん。
魔理沙ファンさん悔しいのは分かりますがちょい自重してくださいね。
あなたのコメントでこっちがふかい