チルノちゃんは開口一番、
「大ちゃん! あたい、大ちゃんとの子供がほしい!」
その前までは、本当に変わらないいつもの日だったのに。
この日の始まりは、こうだった。
いつもの湖畔のほとりで、いつもの四人が、チルノちゃんを待つ。
「チルノちゃん、遅いねー」
ミスティアちゃんがいつもの台詞を吐く。
それにつられて、
「ごめんね。もう少しでくると思うから」
「別に大ちゃんが謝ることじゃ無いよ。チルノちゃんが遅刻するなんていつものことだし」
私とリグルちゃんが、いつものやりとりをして。
「そーなのだー」
「ルーミアちゃんも、チルノちゃんほどじゃないけど、いつも遅れてくるじゃん」
「そーなのかー?」
ルーミアちゃんがこう突っ込まれるのも、いつものことだった。
ぽかぽかのお日様に当たりながら、のんびりとチルノちゃんを待っている間、みんなでいつも他愛のないおしゃべりをする。
「紅魔館の門番さんっているでしょ? チルノちゃんは最近その人とよくおしゃべりしてるみたい」
「ふーん。あの妖怪さんって、やさしいよね」
「うん。でも何はなしてるんだろう。大ちゃん知ってる?」
「ううん。話してくれるけどよく分からない。最強がどうしたとかで」
「チルノちゃんの話はよく分からないからねー」
「それ言っちゃ悪いよ。でも確かに」
こういう時は、なぜかいつもチルノちゃんのおかしな話になっていく。そしてやってきたチルノちゃんに怒られるのだ。
私たちの所にやってくるチルノちゃんを見つけるのは、いつだって目のいいミスティアちゃんだ。
「あ、あれチルノちゃんじゃない?」
だけどこの日は、
「本当だ。あれ? なんだか急いでるみたいね」
「なんかあったのかな?」
ここで、息せき切って飛んできたチルノちゃんの、冒頭の爆弾発言だった。
「へ? えっと、なんで?」
「あたいさいきょーだけど、めーりんが言うには、あたいのさいきょーはしんのさいきょーじゃないんだって!」
最強なのと、私との子供に何の関係があるの?
「とにかくあたいがしんのさいきょーになるには、あたいの赤ちゃんがひつようなの!」
「つまり、話をまとめると、チルノちゃんは大ちゃんと、子作りしたいって事?」
ミスティアちゃんが顔を真っ赤にしてキャーキャー言い始めた。
「そう! まさにそのとおりよ!」
「おめでとう大ちゃんにチルノちゃん! 私、応援してるわ!」
うわあ、ミスティアちゃんが完全に浮かれてる。
ひとりではしゃぐ様子に、こっちまで恥ずかしくなってきた。
まってチルノちゃん。
「チルノちゃん。やり方知ってるの? ……その、子作り」
「うんにゃ、知らない。だから、大ちゃん教えて!」
やっぱり。私は肩を落とす。
それにしても、物を知らないチルノちゃんはかわいいけど、もう少し位、知識を身につけた方が良いんじゃないかしら。
「でも、子作りっていうのは好きな人どうしでつくるのはあたいでも知ってるから、あたいはあたいのいちばんだいすきな大ちゃんと子作りしたいの!」
とてつもない大声で野に言い放つチルノちゃん。
多分、半里位の距離にその声は響いたと思う。
チルノちゃんは、私が一番大好きだって。
顔がどんどん赤くなっていくのが自分でも分かる。
心臓がバクバク言ってる。ミスティアちゃんの、私を見る目つきがいやらしい。
「でもでも、私とチルノちゃんは――」
「チルノちゃん落ち着いて。今のままじゃ駄目なのよ――」
そう、リグルちゃん。言ってやって!
「――結婚もしてない二人が子作りするなんて、倫理的に認められるはずがないよ!」
そうきたか!
あ、リグルちゃんも目が笑ってる。
私ちょっと息切れしてきた。鼻が鉄くさい気もするし。
「そうよ! い、いきなり子作りって、そんな急に。ほかに前段階とかがあるでしょ?」
何言ってるのかしら私。
「その前に結婚しなきゃいけないこともあたいはしってるよ! だから、あたいがおとうさんで、大ちゃんはおかあさんね!」
私がチルノちゃんのお嫁さん?
チルノちゃんが私のお婿さん?
おかえりなさいチルノちゃん、いえあなた。ご飯にする? お風呂……はむりね? それともわ・た・し?
なんという、なんという幻想郷!!!
いやいや、おちつけ。おちつくんだ私。こんな時は素数を数えるのよ。
いち、に、さん、し。
よし落ち着いた。私は鈴仙……じゃなかった冷静よ!
「なー?」
ルーミアちゃんだ。
「結婚式ってなに?」
「二人が永遠に愛し合って夫婦になる事を誓う儀式のことよ」
ミスティアちゃんが乙女モード全開で答える。
「よく分からない」
「まあ、他の人はその二人を祝福したり宴会したりするだけだけどね」
「ごちそうがたくさん出るのかー?」
「もちろん!」
「そーなのかー」
「っていうか、今回は私がたくさん作っちゃう!」
「結婚式たのしみー」
ルーミアちゃんは心底うれしそうだ。
ああ、私も今のルーミアちゃんがほんのちょっぴりうらやましいわ。
「今から準備しないと! 今日はこれで、じゃね!」
「私も手伝うのだー」
ミスティアちゃんとルーミアちゃんはそういって、あっという間に飛んでいった。
チルノちゃんはそれを見て、
「あれ? 今日は遊ばないの?」
「チルノちゃんは大ちゃんと結婚するんでしょ? じゃ、色々準備しないと」
あの、リグルちゃん?
「でもどんなじゅんびすればいいのよ?」
「まず会場を押さえとかないと。やっぱり神社よね。大ちゃん、博麗神社と守矢神社、どっちがいい?」
「え? 結婚するのはもう決定なの?」
「どっち!!!」
「ええと、どっちかと言えば、博麗神社かな……?」
「じゃあ決定! 善は急げよ。日取りとか、裏方は全部私に任せて! 打ち合わせとかあるから、チルノちゃん、神社に付いてきて。いこっ!」
生き生きとした表情のリグルちゃんは、チルノちゃんを連れ去って、私一人残して立ち去ってしまった。
「はぁ」
思わずため息が漏れる。
色々考えることがあるけど。頭がぐるぐる回りそう。
それにしても、何でチルノちゃんは急に子作りなんてしたいと思ったんだろう? 私と。
チルノちゃんたちとは、落ち着いてからじっくりと話し合うとして。
その謎を解くために、私は紅魔館に行くことにした。
「やあ、あなたは確か大妖精とかいったよね」
紅魔館の門番さん、めいりんさん(漢字でどう書くのか知らない)は、私を見るなり一発で名前を言い当ててきた。
ぱっと見ほかの妖精と区別が付かない私なんかを。
前にめいりんさんとは、少しおはなしをたことはあっても、自己紹介した覚えはないのに。
「ええ、なんで私の名前が?」
「チルノからよく聞いてたからね、かわいらしいその姿。それに貴方の格好を見てすぐに分かったよ」
門のそばの、煉瓦の壁に寄りかかって、クスクスと笑う様が実に様になっている。
それ以上に。
なんて言うか、包容力がある。
いい意味で、ものすごくお母さんだ。
「チルノちゃんとよくお話しをするんですか?」
「ええ、よく話すよ」
チルノちゃんとめいりんさんだけの会話。私はちょっと妬ける思いがした。
「でも、チルノの話はあなたの話題ばかりでね。三日前に、大ガエルを説得して、チルノを助けてあげたんだって?」
「そんなことまで」
思わず恥ずかしくなる。あの時は、飲み込んだカエルさんに土下座して、チルノちゃんを吐き出してもらったんだった。
「チルノはね、『あたいはあたいだけでもさいきょーだけど、あたいと大ちゃんならもっとさいきょーなの!』だって」
「そうなんですか――」
って、そう! 私が聞きたいのはこのあたり!
「チルノが真の最強になりたいから、自分の赤ちゃんが欲しいって、そういったの?」
「はい。だから、私とこ、子作り……したいって……」
「どういう考えがあればそーなるの?」
「めいりんさんがそういう話をしたんじゃないんですか?」
「うーん」
めいりんさんは、しばらく考え込むと、不意に微笑み始めた。
「ああ、そういうことね」
「チルノはさ、昔から自分が最強だと思ってるでしょう?」
「うん」チルノちゃんは、自分が最強であることにすごくこだわりがあるみたい。
「私は拳法使いだから、よく色々な武闘家とかに勝負を挑まれるんだけど。それを見てるチルノが、しょっちゅう私に勝負を挑んできてさ」
「え」
いくら妖精の中では強いチルノちゃんとはいえ、どう考えてみても拳法を使うような妖怪相手に勝ち目はない。
「で、さっきも勝負して負かしたんだけど、チルノは納得がいかないようでね」
その様子が私にも目に見えるようだ。地団駄踏んで、そのあとついでに地べたに寝そべって、泣きながら駄々こねるチルノちゃんが。
「私、いったのよ。『今のチルノの力の使い方は、最強の者の力の使い方じゃない。真の最強の者は、さながら親が子を守るような時にその力を発揮するんだ』って」
それかー。
だから、チルノちゃんは自分も子供を持てば真の最強の者になれるって思ったのね。
なんというか、チルノちゃんらしいや。
「それで、チルノはあなたと結婚して赤ちゃんを作りたいって言ったのか」
「そうみたいです」
ほっと力が抜ける。めいりんさんがわたしをみて笑う。
「それにしても」
「はい?」
「チルノは、結婚したい人はと聞かれて、ためらわずに貴方を選んだんだって? そこまで好かれてるなんて、ちょとうらやましいねぇ」
「えへへ」おもわず出た照れ笑い。
私だけのチルノちゃん。チルノちゃんだけの私。
「そこまでまっすぐに愛して、守りたい人がいる。ああ、なんとうらやましいことか!」
「そんな、恥ずかしいです」
「恥ずかしいところなんてこれっぽっちもありはしないよ。チルノはあの通り裏表のない妖精だ。そのチルノが一番大好きっていってるんだから、それは絶対に真実だよ」
うん、それは私も確信している。
「チルノには守りたい人がいる。それはそれはとても幸せな事よ」
「そうなんですか?」
「守る事をお仕事にしてる門番さんがいうのよ。間違いないわ」
アチョー、とよく分からない拳法の構えをとっておどけてみせるめいりんさん。その仕草が、とってもチャーミングだった。
めいりんさんは遠い目をする。
「チルノは無敵では無いけど、間違いなく最強ね」
「はい」
私は自分がほめられたわけでは無いのに、無闇にうれしくなった。
「守られるあなたも相当な果報者ね」
「はい」
「あなたもチルノちゃんが好きなようね」
「はい! 大好きです!」
臆面もなく言えた。小心者の私なのに。信じられない。
ふう、めいりんさんがため息をついた。
「わたしもそこまで愛し合う相手が欲しいな-。あーあ、私が男だったらなー。今すぐ咲夜さんに求婚するのになー」
「門番さぼって、言いたいことはそれだけ?」
気がつくと、めいりんさんの側に見知らぬメイドさんが立っていた。
あわわ、と慌てるめいりんさん。
だけど、めいりんさんのその瞳は、いまの私にもよく分かる心の気持ちをもって、メイドさんに向けられていた。
メイドさんも、凶悪にナイフを振り回してはいるけど、めいりんさんを見る目つきは、あくまで暖かだった。
そうなのだ。
私はチルノちゃんが大好きで。
チルノちゃんは私が大好き。
そういうこと。
ほかにどんな真実が必要だというのだろう。
翌日、チルノちゃんがとってもしょんぼりした様子で私のすみかにやってきた。
今の私は、正直、チルノちゃんを直視できない。
チルノちゃんは、私がうつむいているというのにもかまわずに、私に話しかける。
「大ちゃんしってた? 神社の紅白巫女に聞いたんだけど、結婚も子作りも、おとこのひととおんなのひとじゃなきゃだめだって」
「うん。知ってた」
私は、顔がにやけるのを我慢して答える。
「それに、妖精だから別に年齢は気にしなくてもいいらしいんだけど、おんなのこ同士だと子供はできないんだってさ。ざんねーん、せっかく大ちゃんとのあかちゃん、すっごく欲しかったのになー」
勇気を出して、チルノちゃんを正面から見据えると。
そこには頬をふくらましているチルノちゃん。
かわいい。
私はもったいぶって、ちょっとした真実を口にする。
「チルノちゃん知らなかった? 私、おとこのこだよ?」
「大ちゃん! あたい、大ちゃんとの子供がほしい!」
その前までは、本当に変わらないいつもの日だったのに。
この日の始まりは、こうだった。
いつもの湖畔のほとりで、いつもの四人が、チルノちゃんを待つ。
「チルノちゃん、遅いねー」
ミスティアちゃんがいつもの台詞を吐く。
それにつられて、
「ごめんね。もう少しでくると思うから」
「別に大ちゃんが謝ることじゃ無いよ。チルノちゃんが遅刻するなんていつものことだし」
私とリグルちゃんが、いつものやりとりをして。
「そーなのだー」
「ルーミアちゃんも、チルノちゃんほどじゃないけど、いつも遅れてくるじゃん」
「そーなのかー?」
ルーミアちゃんがこう突っ込まれるのも、いつものことだった。
ぽかぽかのお日様に当たりながら、のんびりとチルノちゃんを待っている間、みんなでいつも他愛のないおしゃべりをする。
「紅魔館の門番さんっているでしょ? チルノちゃんは最近その人とよくおしゃべりしてるみたい」
「ふーん。あの妖怪さんって、やさしいよね」
「うん。でも何はなしてるんだろう。大ちゃん知ってる?」
「ううん。話してくれるけどよく分からない。最強がどうしたとかで」
「チルノちゃんの話はよく分からないからねー」
「それ言っちゃ悪いよ。でも確かに」
こういう時は、なぜかいつもチルノちゃんのおかしな話になっていく。そしてやってきたチルノちゃんに怒られるのだ。
私たちの所にやってくるチルノちゃんを見つけるのは、いつだって目のいいミスティアちゃんだ。
「あ、あれチルノちゃんじゃない?」
だけどこの日は、
「本当だ。あれ? なんだか急いでるみたいね」
「なんかあったのかな?」
ここで、息せき切って飛んできたチルノちゃんの、冒頭の爆弾発言だった。
「へ? えっと、なんで?」
「あたいさいきょーだけど、めーりんが言うには、あたいのさいきょーはしんのさいきょーじゃないんだって!」
最強なのと、私との子供に何の関係があるの?
「とにかくあたいがしんのさいきょーになるには、あたいの赤ちゃんがひつようなの!」
「つまり、話をまとめると、チルノちゃんは大ちゃんと、子作りしたいって事?」
ミスティアちゃんが顔を真っ赤にしてキャーキャー言い始めた。
「そう! まさにそのとおりよ!」
「おめでとう大ちゃんにチルノちゃん! 私、応援してるわ!」
うわあ、ミスティアちゃんが完全に浮かれてる。
ひとりではしゃぐ様子に、こっちまで恥ずかしくなってきた。
まってチルノちゃん。
「チルノちゃん。やり方知ってるの? ……その、子作り」
「うんにゃ、知らない。だから、大ちゃん教えて!」
やっぱり。私は肩を落とす。
それにしても、物を知らないチルノちゃんはかわいいけど、もう少し位、知識を身につけた方が良いんじゃないかしら。
「でも、子作りっていうのは好きな人どうしでつくるのはあたいでも知ってるから、あたいはあたいのいちばんだいすきな大ちゃんと子作りしたいの!」
とてつもない大声で野に言い放つチルノちゃん。
多分、半里位の距離にその声は響いたと思う。
チルノちゃんは、私が一番大好きだって。
顔がどんどん赤くなっていくのが自分でも分かる。
心臓がバクバク言ってる。ミスティアちゃんの、私を見る目つきがいやらしい。
「でもでも、私とチルノちゃんは――」
「チルノちゃん落ち着いて。今のままじゃ駄目なのよ――」
そう、リグルちゃん。言ってやって!
「――結婚もしてない二人が子作りするなんて、倫理的に認められるはずがないよ!」
そうきたか!
あ、リグルちゃんも目が笑ってる。
私ちょっと息切れしてきた。鼻が鉄くさい気もするし。
「そうよ! い、いきなり子作りって、そんな急に。ほかに前段階とかがあるでしょ?」
何言ってるのかしら私。
「その前に結婚しなきゃいけないこともあたいはしってるよ! だから、あたいがおとうさんで、大ちゃんはおかあさんね!」
私がチルノちゃんのお嫁さん?
チルノちゃんが私のお婿さん?
おかえりなさいチルノちゃん、いえあなた。ご飯にする? お風呂……はむりね? それともわ・た・し?
なんという、なんという幻想郷!!!
いやいや、おちつけ。おちつくんだ私。こんな時は素数を数えるのよ。
いち、に、さん、し。
よし落ち着いた。私は鈴仙……じゃなかった冷静よ!
「なー?」
ルーミアちゃんだ。
「結婚式ってなに?」
「二人が永遠に愛し合って夫婦になる事を誓う儀式のことよ」
ミスティアちゃんが乙女モード全開で答える。
「よく分からない」
「まあ、他の人はその二人を祝福したり宴会したりするだけだけどね」
「ごちそうがたくさん出るのかー?」
「もちろん!」
「そーなのかー」
「っていうか、今回は私がたくさん作っちゃう!」
「結婚式たのしみー」
ルーミアちゃんは心底うれしそうだ。
ああ、私も今のルーミアちゃんがほんのちょっぴりうらやましいわ。
「今から準備しないと! 今日はこれで、じゃね!」
「私も手伝うのだー」
ミスティアちゃんとルーミアちゃんはそういって、あっという間に飛んでいった。
チルノちゃんはそれを見て、
「あれ? 今日は遊ばないの?」
「チルノちゃんは大ちゃんと結婚するんでしょ? じゃ、色々準備しないと」
あの、リグルちゃん?
「でもどんなじゅんびすればいいのよ?」
「まず会場を押さえとかないと。やっぱり神社よね。大ちゃん、博麗神社と守矢神社、どっちがいい?」
「え? 結婚するのはもう決定なの?」
「どっち!!!」
「ええと、どっちかと言えば、博麗神社かな……?」
「じゃあ決定! 善は急げよ。日取りとか、裏方は全部私に任せて! 打ち合わせとかあるから、チルノちゃん、神社に付いてきて。いこっ!」
生き生きとした表情のリグルちゃんは、チルノちゃんを連れ去って、私一人残して立ち去ってしまった。
「はぁ」
思わずため息が漏れる。
色々考えることがあるけど。頭がぐるぐる回りそう。
それにしても、何でチルノちゃんは急に子作りなんてしたいと思ったんだろう? 私と。
チルノちゃんたちとは、落ち着いてからじっくりと話し合うとして。
その謎を解くために、私は紅魔館に行くことにした。
「やあ、あなたは確か大妖精とかいったよね」
紅魔館の門番さん、めいりんさん(漢字でどう書くのか知らない)は、私を見るなり一発で名前を言い当ててきた。
ぱっと見ほかの妖精と区別が付かない私なんかを。
前にめいりんさんとは、少しおはなしをたことはあっても、自己紹介した覚えはないのに。
「ええ、なんで私の名前が?」
「チルノからよく聞いてたからね、かわいらしいその姿。それに貴方の格好を見てすぐに分かったよ」
門のそばの、煉瓦の壁に寄りかかって、クスクスと笑う様が実に様になっている。
それ以上に。
なんて言うか、包容力がある。
いい意味で、ものすごくお母さんだ。
「チルノちゃんとよくお話しをするんですか?」
「ええ、よく話すよ」
チルノちゃんとめいりんさんだけの会話。私はちょっと妬ける思いがした。
「でも、チルノの話はあなたの話題ばかりでね。三日前に、大ガエルを説得して、チルノを助けてあげたんだって?」
「そんなことまで」
思わず恥ずかしくなる。あの時は、飲み込んだカエルさんに土下座して、チルノちゃんを吐き出してもらったんだった。
「チルノはね、『あたいはあたいだけでもさいきょーだけど、あたいと大ちゃんならもっとさいきょーなの!』だって」
「そうなんですか――」
って、そう! 私が聞きたいのはこのあたり!
「チルノが真の最強になりたいから、自分の赤ちゃんが欲しいって、そういったの?」
「はい。だから、私とこ、子作り……したいって……」
「どういう考えがあればそーなるの?」
「めいりんさんがそういう話をしたんじゃないんですか?」
「うーん」
めいりんさんは、しばらく考え込むと、不意に微笑み始めた。
「ああ、そういうことね」
「チルノはさ、昔から自分が最強だと思ってるでしょう?」
「うん」チルノちゃんは、自分が最強であることにすごくこだわりがあるみたい。
「私は拳法使いだから、よく色々な武闘家とかに勝負を挑まれるんだけど。それを見てるチルノが、しょっちゅう私に勝負を挑んできてさ」
「え」
いくら妖精の中では強いチルノちゃんとはいえ、どう考えてみても拳法を使うような妖怪相手に勝ち目はない。
「で、さっきも勝負して負かしたんだけど、チルノは納得がいかないようでね」
その様子が私にも目に見えるようだ。地団駄踏んで、そのあとついでに地べたに寝そべって、泣きながら駄々こねるチルノちゃんが。
「私、いったのよ。『今のチルノの力の使い方は、最強の者の力の使い方じゃない。真の最強の者は、さながら親が子を守るような時にその力を発揮するんだ』って」
それかー。
だから、チルノちゃんは自分も子供を持てば真の最強の者になれるって思ったのね。
なんというか、チルノちゃんらしいや。
「それで、チルノはあなたと結婚して赤ちゃんを作りたいって言ったのか」
「そうみたいです」
ほっと力が抜ける。めいりんさんがわたしをみて笑う。
「それにしても」
「はい?」
「チルノは、結婚したい人はと聞かれて、ためらわずに貴方を選んだんだって? そこまで好かれてるなんて、ちょとうらやましいねぇ」
「えへへ」おもわず出た照れ笑い。
私だけのチルノちゃん。チルノちゃんだけの私。
「そこまでまっすぐに愛して、守りたい人がいる。ああ、なんとうらやましいことか!」
「そんな、恥ずかしいです」
「恥ずかしいところなんてこれっぽっちもありはしないよ。チルノはあの通り裏表のない妖精だ。そのチルノが一番大好きっていってるんだから、それは絶対に真実だよ」
うん、それは私も確信している。
「チルノには守りたい人がいる。それはそれはとても幸せな事よ」
「そうなんですか?」
「守る事をお仕事にしてる門番さんがいうのよ。間違いないわ」
アチョー、とよく分からない拳法の構えをとっておどけてみせるめいりんさん。その仕草が、とってもチャーミングだった。
めいりんさんは遠い目をする。
「チルノは無敵では無いけど、間違いなく最強ね」
「はい」
私は自分がほめられたわけでは無いのに、無闇にうれしくなった。
「守られるあなたも相当な果報者ね」
「はい」
「あなたもチルノちゃんが好きなようね」
「はい! 大好きです!」
臆面もなく言えた。小心者の私なのに。信じられない。
ふう、めいりんさんがため息をついた。
「わたしもそこまで愛し合う相手が欲しいな-。あーあ、私が男だったらなー。今すぐ咲夜さんに求婚するのになー」
「門番さぼって、言いたいことはそれだけ?」
気がつくと、めいりんさんの側に見知らぬメイドさんが立っていた。
あわわ、と慌てるめいりんさん。
だけど、めいりんさんのその瞳は、いまの私にもよく分かる心の気持ちをもって、メイドさんに向けられていた。
メイドさんも、凶悪にナイフを振り回してはいるけど、めいりんさんを見る目つきは、あくまで暖かだった。
そうなのだ。
私はチルノちゃんが大好きで。
チルノちゃんは私が大好き。
そういうこと。
ほかにどんな真実が必要だというのだろう。
翌日、チルノちゃんがとってもしょんぼりした様子で私のすみかにやってきた。
今の私は、正直、チルノちゃんを直視できない。
チルノちゃんは、私がうつむいているというのにもかまわずに、私に話しかける。
「大ちゃんしってた? 神社の紅白巫女に聞いたんだけど、結婚も子作りも、おとこのひととおんなのひとじゃなきゃだめだって」
「うん。知ってた」
私は、顔がにやけるのを我慢して答える。
「それに、妖精だから別に年齢は気にしなくてもいいらしいんだけど、おんなのこ同士だと子供はできないんだってさ。ざんねーん、せっかく大ちゃんとのあかちゃん、すっごく欲しかったのになー」
勇気を出して、チルノちゃんを正面から見据えると。
そこには頬をふくらましているチルノちゃん。
かわいい。
私はもったいぶって、ちょっとした真実を口にする。
「チルノちゃん知らなかった? 私、おとこのこだよ?」
いやしかしそれはそれで…いや…うーん…
ご馳走様でした
それじゃ俺と結婚できないじゃないか!
いや待てむしろご褒美じゃないか?ご褒美じゃないか!
まじっすか?