Coolier - 新生・東方創想話

山カラ還ル

2009/10/09 01:43:56
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 気がついたら、空には満天の星空が見えていて、ひゅんひゅんと、まるで雀が夕焼けの空を飛ぶように―いや、もっと早く―空から星が一杯落ちていた。

 首が痛くなるほどそれを眺めていると、気が付けば両足は水にぬれていて、足元には確かに流れる水の音が聞こえた。 そこで、初めて自分が暗い、とても暗い山の中に居るんだ、って自覚した。

「おねえちゃん」

 一緒に居たはずのお姉ちゃんが居ない。まるで、心の中まで沢の水が流れているような、底知れぬ冷たい感覚が体を貫いた。

「おねえちゃん、おねえちゃん!」

 無我夢中で歩き出す。まるで自分が沢の一部になったように、足から体を伝って、頭から顔を伝って涙が沢に落ちて行く。 いつしか私は、自分が泣いていることも忘れて、沢を一心不乱に降りていて―



 空が、落ちてきた。



「大丈夫?」

 綺麗なお姉さんが、私の腕を掴んでくれた。頭が、痛い。体中がびしょびしょで、きっとあのまま流れて滝に落ちて、そこで私は―。

 身震いをする。 左手に大切そうに何かを抱えたまま、お姉さんは私を抱え起こすと

「あなた、お名前は?」

「私の、なまえ―」

 なんだっけ。 あったような、無かったような・・・、いや、確かにあった。なんで忘れたのだろうか。

「きく。 きくって言います」

「そう、きくちゃん。 貴方、帰り道は分かる?」

 心がズキリとした。分からない。ここが、いつも眺めていた山なのは分かる。けれど、山の何処なのかが分からない。

 夜の闇が山を漆黒に染め、見渡す限り、星よりも明るいものは何一つ無い。

 無言でかぶりを振る私に、お姉さんは優しく微笑んだ。

「分かった。 じゃあ、一緒に帰りましょう」

 お姉さんは右手を差し出した。綺麗な手。 私は、恥ずかしくてうつむきながら、お姉さんの綺麗な右手を握った。



 暗い道を歩く。 耳を傾けると、眠る獣の息遣いや、草木のこすれる音がまるで一つの曲のように、体に染み渡ってくる。 右側に居るお姉さんは、遠くの方を見ながら、てくてくと迷いの無い歩みを続ける。

「あの・・・、お姉さん」

「なあに」

 それが、とても消え去りそうで。 遠くの方を見るめるお姉さんは、まるで陽炎のようにふっと消えてしまいそうで、怖くて、怖くて。

「何か、お話をして下さい」

 我ながらずうずうしいな、と思う。けれど、お姉さんは嫌な顔一つせず、

「そうね、じゃあこんな話はどうかしら」

 そう言って、私にお話を聞かせてくれた。



―ある所に、小さな女の子が居ました。その子が三歳になる誕生日に、両親は立派な人形を、わざわざ町の行商から買ってくれました。女の子はそれがとってもうれしくて、何処に行くにしてもその人形と一緒で、ずっと、大切にしていました。



 いつしか沢の音も消え、月明かりだけが煌々と道を照らす中、お姉さんは尚もお話を続けます。



―その子が五歳になるときの事です。 ずっと、ずっと雨が続き、折角耕した畑は全てドロドロになってしまい、作物の実りもずっと遅くなってしまいました。

 そう、村長さんの息子さんが新しい畑を作るとき、引っかかってしまった竜神様の池を少し、埋めてしまっていたのです。

 お怒りになった竜神様は村に長雨を降らし、必死で竜神様のお怒りを沈めようにも、依然として雨は降り続けていました。



 お姉さんの顔が冥く翳る。



―村長さんや、村の男どもが話し合って、一つの結論を出しました。

 ならば、人を捧げよう。

 〝七つ子は神の子〟の名のとおり、七つにならない子供を捧げよう。そうして竜神様の怒りを治めるしか、私たちに生きる道は無い。



「こうして、女の子は竜神様に捧げられる事になりました。 でも、女の子は怖くありませんでした」

「なんで?」

「女の子には大好きなお人形があって、そのお人形と一緒なら、きっと何処だって寂しくは無かったから」

「へんなの」

「本当、変な、話」

 そう言ったお姉さんの顔は、とても悲しそうに歪んでいた。

 深い暗闇が、いつしか粘つくような息遣いで私とお姉さんを包む。 そんなはずは無いのに、まるで後ろに何か居て、私とお姉さんが油断するのをまるで期待しているような、そんな気配がした。

「お姉さん」

 私は、怖くなってお姉さんの手をギュッと握った。 お姉さんは優しく、包み込むようにその手を握り返した。

「大丈夫。 あと少しだから」



 ずっとずっと歩いて、いつしか道は綺麗になって。 そのうちに、お地蔵様が見えてきた。

「いい? あのお地蔵様を越えたら貴方の住む場所よ。 決して振り返らないで、ちゃんと真っ直ぐお帰りなさい」

 お姉さんの真っ直ぐな目を真っ直ぐ見返した。

「お姉さんは、戻らないの?」

「私は良いの。 帰る場所はここじゃないから」

 そう言って遠くを見るお姉さんの顔は、とても寂しそうだった。私は、握ったままの手を改めて握ると、

「お姉さん―」

「何かしら」

 ありったけの勇気を振り絞って私は言葉を紡いだ。

「お名前を、教えてください」

 最後の方は掠れて聞き取れなかったかもしれない。 しかし、お姉さんは優しく微笑んで、

「私の名前は、鍵山 雛。 縁があったらまた会いましょう」

 さ、行きなさい。 そう言われ、ずっ握っていた、暖かい物が離れていった。 変わりに背中を押されるように、私は真っ直ぐお地蔵様を抜けた。



 暖かな光が体を包む。あぁ、ここが、私の家―



     ―*―

 そんな、懐かしい夢を見た。 幼い頃に死んだ、妹の夢を。

 そういえば、あの子はいつも人形を一緒に持っていた。 私が作った粗末なお人形さん。それでもあの子は大切に、大切に使っていた。足の向くまま、朝日が照らす村を歩く。いつしか足は村境へ向かっていた。



 村境には、小さなお地蔵様があって―

 そこにはあの日、妹の魂と共に流した人形と、小さな花が一輪。



  ―了―
 はじめまして。 うろすけと申します。



 流し雛を考えると、川に厄を流して祈願する訳で。その根っこの方は、人を川に捧げて川の氾濫を防ぐのと同義でありまして。となると、結局は厄を流すと言う一点において流し雛も人柱も変わらない、そこまで考えるのは考えすぎなのでしょうか。



 えらい短い話ではありますが、読んで頂ければ幸いです。
うろすけ
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