Coolier - 新生・東方創想話

ちるのさんLv.99 いつつめ

2009/10/06 23:22:43
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 <前回のあらすじ>
 パチュ「むきゅー!(次鋒パチュリー・ノーレッジ行きます!)」
 パチュ「むきゅきゅきゅきゅ」
 チルノ「氷符『ソードフリーザー』!」
 パチュ「むきゅうーっ!(ギャアーッ!)」


『ちるのさんLv.99』
いつつめ



「むきゅー(……べ、別にそんな鎧袖一触で倒されたわけじゃないんだからねっ!)」
「はい、パチュリー様はすごく善戦しましたよいろんな意味で」
 美鈴に抱き起こされて、パチュリーは尻をさすりながらゆらりと立ち上がる。
 その様子を見て、チルノはふん、と鼻を鳴らした。
「で、あんたらで打ち止めなワケ?」
 そんなわけはないだろうな、とパルスィは思った。当の吸血鬼はいまだに姿を現していない。だが後詰めとしてここに来るかは微妙なところだ。
「むきゅー(ふ……私は美鈴をびびらせるためだけにここに来たのではないということを――。教えてあげるわ)」
 パチンとパチュリーが指を鳴らすと、浮遊していた魔導書が素早くチルノとパルスィを取り囲む。
「これは!?」
 魔導書は等間隔に位置取り、光を放っていくつかの魔導書と繋がってゆく。
「むきゅー(ついでのいやがらせよ)」
「うおっ、まぶしっ」
「ひどいいやがらせだ!」
 ついでにのびた光にチルノがまぶしがる中、そうして光に描き出されたのは三角を組み合わせた図形。
「――魔法陣!」
「むきゅー(私が来たのはあなたたちを『招く』ため。次の舞台は、吸血鬼の居城よ)」
 パチュリーは、にいっ、と笑顔を作ると、再び指をパチンと鳴らした。
「むきゅ(――転送)」
 囲む光が大きく、そして一瞬目もくらむほどにまばゆく光り、そして、消えた。
 中にいたチルノもパルスィも、全てを連れて。
「上手くいきましたかね?」
「むきゅー(たぶんね。じゃあ私たちも帰るわよ美鈴。歩いて)」
「わかり……歩いて!?」


 ――気がつくと、奇妙な洋風の一室にいた。
 もっとも洋風と断定できる要因は、床が板張りであり、白い壁に赤い魔法陣が書きたくってあるくらいのものなのだが。
 全面そんな調子で、出入り口のようなものは前方に一つあるだけである。
「どこ? ここ? あたいの城は?」
 チルノがきょろきょろとあたりを見回す。
「さっきの光でどこかに転送されたようね。足元にも魔法陣があるし……。なんだか気味が悪いわ」
「早く出よ!」
 チルノが飛び出そうとしたそのとき、前方に赤い魔法陣が出現し、上方に浮かび上がって、消えた。そしてその動作が終わった後には、赤い髪をさらりと靡かせ、蝙蝠のごとき羽を背と頭に有した――小悪魔という形容が相応しい少女が、そこに現れた。
 全裸で。
「ふおおおおおお!?」
「す、すげえ……!」
 急に全裸が来たのでと言わんばかりの狼狽ぶりを見せるパルスィと、何がしかの威圧感を感じ取って息を呑むチルノを一瞥し、その小悪魔は何事も起こっていないかのごとく、平然と、慇懃に一礼する。
「これはこれは、全裸で失礼いたします」
「いや失礼って言うか、ええと、もう、なんでそんなに平然としてんのよー!」
「私、パチュリー様の元で働いております、しがない小悪魔でございます」
「むきゅーの手下か!」
 チルノが叫ぶ。
 奴の手下。それだけですべてが説明づくような、そんな錯覚を覚えた気がした。
 しかし小悪魔は何も動ぜず淡々と言葉を紡ぐ。
 全裸で。
「ここは吸血鬼の居城、紅魔館の一室です。この度レミリア様が考案されたゲーム……『紅魔ラビリンス』の全容を説明するためにこの私が遣わされました」
「ルールよりむしろなんで全裸なのかが知りたいわ……」
 なぜか平然と話を進めようとする小悪魔に、パルスィが頬に汗を滴らせながら疑問をぶつける。
「あぁ、それでしたら。まずこの部屋に誰かが招かれて来た時点で私が説明役に召喚される仕組みになっているのですが、そのとき私はお風呂に入っていたのでそのまま来ました」
「そのまま来るなよ!」
「っていうか中途半端な時間にお風呂入ってるわね」
 チルノの言葉を聞いて、小悪魔は手の甲を唇に当てて、微笑んだ。
「ふふ、紅魔館において時間など、幾ばくの意味を持ちましょうか。……ともあれ、湯冷めしてきたので手早く説明いたしますよ」
「うん」
 良く冷える原因が相槌を打つと、小悪魔は話し始めた。
「まずこの部屋の出口は正面のこの扉しかありません。壁は魔法で護られていますので悪しからず。……この扉を抜けると、館内の空間をランダムにつなげた迷宮が姿を現します。そこをさ迷い、三つの謎を解き、レミリア様のいる部屋にたどり着けたら、クリアでございます」
 小悪魔の説明を聞いて、チルノがつまらなさそうな顔をする。
「なんでそんなめんどくさいことしなきゃいけないのよ!」
 チルノの不満に、小悪魔はにこりと全裸で微笑みながら言った。
「そこに愛があるからです」
「そうなの!?」
「愛なら仕方ないな……」
「納得した!」
 チルノの意思確認を終え、小悪魔は慎ましやかな胸を揺らしながら勢い良く扉を指す。
「さぁ、いざ迷宮の旅路へブヘックショォオイ!」
「ついに冷えた!」
「うう……お風呂に入りなおしてきます……」
 鼻をすんすんとすすりながら、小悪魔は再び魔法陣と共に消えていった。
「むぅ、全裸様もいなくなったことだし、腹をくくって迷宮に挑むしかないようね……」
「がんばろうパルスィ! 迷路の攻略法だったらバッチリ知ってるし楽勝よ!」
「迷路の攻略法? 右手を壁についてとかそういうの?」
「いや……右手の指を鼻の穴に入れ、左手でボクシングをしながら、『いのちをだいじに』と叫んではいけないっていう……」
「ぜんぜん違う上に攻略法ですらないよそれ!」
 単なる禁止事項である。
「あたいも何かがおかしいなと思っていたのよね……」
「まったくもう……チルノったら」
 覚悟を決めてこわばったパルスィの表情が、いつもの微笑ましい苦笑にかわっていく。
(そうね。がんばらなきゃ。……チルノと一緒なんだもんね)
「じゃあ行くよチルノ!」
「おおー!」
 珍しくパルスィが先導して、勢い良く迷宮の入り口を開け放った!

 ――迷宮を開けると、そこは風呂場だった。

「きゃあのびたさんのエッチ!」
「誰がのびたさんよ!」
 飛んできた洗面器をパルスィは手刀で払う。
「っと。何かと思ったら先ほどのお客さんではありませんか」
 タイル張り大浴場の湯船であひるちゃんを弄んでいた小悪魔が、すっくと立ち上がった。もちろん全裸で。
 白い肌を雫が幾条も伝わり落ちていく。
「なんとまぁ、お早い再会で」
「なんでスタートして即風呂なのよ!?」
 にこりと挨拶した小悪魔にかまわず、パルスィは思いのたけをぶつける。
「なぜって、空間はランダムにつながっていると申し上げたはずですが」
「風呂とかもおかまいなしなの!?」
 なんという鬼畜。
 なんというノンプライベートスクウェア。
「あなたはそんな現実に何か思うことはないの!?」
「全裸が怖くて悪魔が勤まるか!」
「怒られた!?」
 不意の憤怒に反省するパルスィであった……。
「広いお風呂だねー」
 そんな中、チルノはやはりマイペースに浴場を見渡している。
「湯気とかめちゃくちゃ出てるけど平気なの?」
 小悪魔にかける言葉をなくしたパルスィが素朴に尋ねる。
 チルノは少しむっとしたように答えた。
「馬鹿にしないでよ。湯気くらいなら昔から平気だわ。あたいに近寄る前に冷えちゃうもんね!」
「……で、冷たい飲み物を入れた缶みたいにべちゃべちゃになってるわけね」
「うん……すごくきもちわるい……」
 テンションが一転してしょぼくれる。
 そんなチルノを見かねたかどうかは知らないが、小悪魔がしれっと言った。
「お風呂入っていきます? 水風呂もありますよ」
「え、いいの?」
「お風呂……だと……」
 表情を輝かせるチルノと戦慄するパルスィ。
(チルノとお風呂ってやばくない!? ……いや私が何を言っているんだ。どこもおかしくないよね同性だし。いやでも私の本能がやばいと告げて……)
「それじゃあ脱ごっかな」
「わああああああ私達まだ早すぎるよチルノ!」
「おおう!?」
「何をテンパっているのですか」
 パルスィは目を回しながら小悪魔に指をさす。
「そうよ! こんないつ誰が来るとも知れないノンプライベートスクウェアなんかにいられるか! 私は次の部屋に進む!」
「なんか死亡フラグっぽくなってますよ。……まぁ、この部屋の出口はあちらになりますが」
 言って、小悪魔は入ってきた扉と反対側にある扉を指差した。
「あたいはお風呂入りたいけどなー」
「行くわよチルノ!」
「……すごい力だ」
 チルノも驚きの火事場の⑨力で、パルスィは浴場を突っ切り、扉を開ける。
「さぁ、次はどんな部屋!?」
 隣の部屋に乗り込んだパルスィはザザザザと床に摩擦をかけて、勢いを殺して停止してゆく。
 ――高い部屋だった。
 とにもかくにも高い部屋。
 天井が闇に包まれ、月と星々が睥睨する。
「何これ……ここ建物の中じゃ……っていうか今は日中じゃ……」
「……お早い到着だったわね」
「!」
 見れば、玉座に座る、ウェーブがかった青紫の髪が印象的な吸血鬼が……って。
「ゴールじゃねーかここ!」
 パルスィの魂の叫びが響いた。
「え? もう出口?」
「三つの謎とかは!? 風呂場にしか行ってないぞ私ら!」
 吸血鬼――レミリアが少しばつが悪そうに咳払いし、傍らに控えているメイドに詰問するように視線を送る。
「えー、咲夜?」
「はい! ランダム要素です!」
 咲夜さんはヒマワリが咲くようないい笑顔で答えた。
「即ゴールするようなランダム要素があるかおバカーっ!」
「ショウシャッ!?」
 その笑顔にレミリアは容赦なくツッコミ裏拳を叩き込む。咲夜は瀟洒この上ないうめき声を上げて吹っ飛んだ。
「まったく……楽しい余興にしようと思ったのに、これじゃ小悪魔が全裸になっただけじゃないの」
 レミリアは手の甲をふぅと一吹きし、玉座からとん、と軽く降りる。そしてチルノたちに不敵に微笑みかけた。
「……ともあれ、ようこそ紅魔館へ。私はこの館の主、レミリア・スカーレット。……ちなみに、そこでのびているのがウチのめいどちょうの十六夜咲夜よ」
 レミリアは顎で先に吹っ飛ばされたメイドを指し示す。
(これが……吸血鬼……)
 パルスィは慎重にレミリアを見据える。さすがにあの連中をまとめているだけあって、あの山の神に勝るとも劣らぬ重圧感。
「わかっているとは思うけど、美鈴やパチェを遣わしたのは私よ」
「……手勢を送り込んでくるのはともかく、本拠地に招いてゲームまでやらせようとするなんて……なんでそこまで?」
「なんでって、面白そうだったからね」
 パルスィの問いに、レミリアはしれっと答える。
「パチェからの言霊は届いているから、あなたたちのことも良くわかっているわ。チルノにパルスィね」
「そうよ。幻想郷最強の妖精、チルノとはあたいのこと。そしてペルシャ生まれの宇治育ち、パルパル君とはこの子のことよ」
「なんだその紹介!」
 パルスィがチルノにがなる様を見て、レミリアはくすりと笑う。
「不思議な妖精ね。美鈴やパチェを破るほどに強く、そしてそんなに美しい妖精など、私は見たことがないわ」
(!? 口説きモード!?)
「自然の具現だというのにことさらに不自然……。いったい何があったというの? それがあなたがくっついている理由ではなくて? ……水橋パルスィ」
(!? 私に来た!?)
 パルスィは張っていた気を努めて落ち着かせる。八坂神奈子も考えすぎるなと言うたじゃないか。努めて、素直に。
「……この子が強くなっているのは単に不思議アイテムの恩恵。私が一緒にいるのは、単に友達だからよ」
「もー、だからあたいはそんなんなくても最強なんだってば」
「はいはい」
 パルスィの返答に、レミリアは少し意外そうな顔をする。
「へえ。意外とあなたも、変わり者なのね」
 言いながら、パチンと指をはじく。
「起きなさい咲夜」
「はい! お嬢様!」
 壁際でうつ伏せに倒れたままモブと化していた十六夜咲夜が、突如バネ人形のように起き上がる。
 それを横目で見ながらレミリアは続けた。
「私はね、美鈴のときもパチェのときも、妖怪でありながらサポートとツッコミに徹して目立った動きを見せなかったあなたに、少し興味を抱いているの。……だから、この勝負は二対二で受けてもらうわ」
「な、なんだって……!」
「さて、どうするかしら?」
 レミリアの突きつけた条件に、パルスィは息を呑む。
(……でも、確かに自分だけミテルだけっていうのは、何か卑怯くさいかもしれない)
 確かに自分は流れでずっと観戦役をしていたわけであって、別に戦えないわけではない。チルノと出会ったころはもっと直接的な協力戦闘もしていた。
 ただ、初めてなのは相手が二人であるということ。しかもこんな最終局面に、だ。
「パルスィ……」
「そんな心配そうな顔をしないでよ、チルノ。大丈夫。私はこの勝負、受けるわ!」
 いつもチルノの後ろにいては、何も始まらない。自分だって頑張ってみせる。
 チルノの相方として恥じない存在になるために。
 ――しかし、その決意があんな悲惨な結末を産むとは――
「誰も思わなかったのです……」
「不吉なこといわないでよ!」
 ちなみに言ったのは咲夜。続けて咲夜は自信たっぷりに言い放つ。
「ふふ、その不吉な未来、私とお嬢様なら、十分に実現可能な運命よ!」
「むー、のびてたくせにえらそう! パルスィ! がんばるよ!」
「おう!」
 チルノの言葉にパルスィも応じ、それを受けてレミリアが宣言する。
「ふふ、では試合開始ね。こんなに月も……別に紅くもなんともなく普通だから、普通に戦うわよ」
「!?」
 かくして始まった戦闘の中、いち早く動いたのはパルスィ。
(とにかく早く片方をつぶして、いつもの戦いに持ち込まなきゃ……)
 吸血鬼を先につぶせるわけはないので、人間を狙うしかない。なんかドジっぽいし。
「くらえ!」
 咲夜に弾幕を浴びせかける。――だが。
「――幻在『クロックコープス』!」
 いつの間にかそこに咲夜はおらず、代わりにたっぷりのナイフがこちらに向けて設置されていた。
「え? あっ!?」
「あぶない! 雹符『ヘイルストーム』!」
 とっさのチルノの援護射撃が、パルスィに襲い掛かっていたナイフ群を吹き飛ばす。
「あ、ありがとうチルノ。でも、今いったい何が……」
 混乱するパルスィの背後から。
「ここの空間を引き伸ばしているのは私。ここの時間を進めたのも私」
「!!」
 底冷えのするような声が、響く。
「私の能力は、時間を操る程度。時間を操るものは空間もまた操る。簡単に、倒せるとは思わないことですね?」
 水橋パルスィは戦慄した。吸血鬼の共をしているのだからただの人間ではないとは思っていたが。時間を操るなど尋常な能力ではない。
(くっ、人間の癖に妬ましい奴……。勝てるの? こんな奴に……)
 パルスィの頬を冷や汗が伝う。――その時。
「ねぇ、メイドん」
「何よ氷精」
「さっき吹き飛ばしたナイフが、あっちの人に当たってるんだけど」
 チルノに言われて咲夜が見てみれば、レミリアにいっぱいナイフが刺さっていた。
「フフ……痛いわ」
「お嬢様あああああああ!」
 猛然と駆け寄るめいどちょう。
 だが、レミリアは色々刺さってる割に落ち着いた口調。
「落ち着きなさい。この程度で私はどうにかなるものではないわよ」
 言って、レミリアはその身を大量のコウモリに変じ、群れを作って舞い上がる。そして上空で再び少女の形を取った。
「さぁ、お返しよ。くらいなさい!」
 そして放ってきたのは大量の紅い大型弾。高速でばら撒かれるそれを見て、チルノが叫ぶ。
「パルスィ! この弾は!」
「どうしたの!?」
「目玉の親父に似てる!」
「どうでもいいよ!」
 言いながら二人は大型弾を避けていく。
「掛け合いの片手間に避けるとはなめてくれるじゃない。……咲夜!」
「はいな! 幻幽『ジャック・ザ・ルドビレ』!」
 咲夜がそう宣言した次の瞬間には――大型弾の隙間を縫うように、ナイフが設置されていた。
「っ!? 避けきれ……」
「凍符『パーフェクトフリーズ』!」
 強化された二重弾幕を、チルノが全て凍らせる。
 そして不意に凍って動きの止まった大型弾に、時間停止を解除したてで勢いのついていた咲夜さんが衝突した。
「あだっ!?」
「何やってるのよ咲夜!」
「うう……メイドは急に止まれない……」
「なにそれ!?」
 レミリアの声が響く中、チルノがパルスィに目配せする。
「危なかったねパルスィ」
「あ、ありがとう、チルノ」
 チルノのフォローに礼を言ったものの、パルスィの心中は穏やかではなかった。
 既に三回、チルノに窮地を救われている。
(くっ、何が自分だって頑張ってみせる、よ)
 口惜しい。
 今のチルノと自分では力の差が開いているのはわかっていたつもりだ。だが、それ以前に。
(自分の攻撃に、汎用性がなさすぎる……!)
 パルスィのスペルはチルノのように扱いやすいものではなく、場が整って初めて真価を発揮するもの。今改めて、その事実が圧し掛かる。
 まるで自分を見失っていたよう。
「からきしね、橋姫」
「……!」
 レミリア・スカーレットが落ち着いて舞い降りながら、酷薄に笑む。
「私はあなたが、妖怪でありながら、妖精のサポートを買って出ているところを面白いと思っていたの。……でも、あなたは私の誘いに乗って前に出てきてしまった」
 ふわ、と、地面につかぬように浮遊し、静止する。
「……間違えたの? 私は」
 パルスィは愕然とつぶやく。
「そう、その時点で、もう既にあなたは負けているのよ! 紅符『スカーレットシュート』!」
 強烈な魔力を纏った紅い魔弾が、パルスィに向けて放たれる。
 避けられなかった。避けようとすることが出来なかった。
 どうするべきか。その道を見失った水橋パルスィには。
「パルスィーーーっ!」
 だが、その時。魔理沙もびっくりのスピードでチルノが割り込み、パルスィを抱き上げて離脱する。
 お姫様抱っこで。
「え? え? え?」
 パルスィは何がなんだかわからない風に、目をぱちくりとさせる。
「いやー、危なかったねパルスィ」
 言いながら、安堵したように微笑むチルノに、何も迷いが見えなくて。
 今更のように、この妖精の真っ直ぐさを、思い知らされる。
(――あるがままに)
 チルノに降ろしてもらいながら、この前、山の神に言われた言葉が頭をよぎる。
「それにしてもパルスィ、あのメイドにさっぱり弾が当たらないんだけど――どうしたらいい?」
「!」
 チルノの問いに、パルスィは目を見開く。
「私に……意見を求めたの?」
「ん? うん、パルスィってこういうとき結構いい事言ったりするからさ」
(……そっか)
 チルノは、自分に、何も難しいことなんて求めちゃいない。
 求められているのは、いつもの自分。
 そう。
(――あるがままに!)
「何をごちゃごちゃと話しているのかしら? 呪詛『ブラド・ツェペシュの呪い』!」
 その隙を突き、レミリアが弾幕の軌跡を描くナイフで追撃をかける。――だが。
「人を呪わば穴二つ。その恨みは、あなた自身に舞い戻る」
 ――恨符『丑の刻参り』
「その余裕、妬ましいのよ」
 瞬間、レミリアの呪いのナイフが向きを反転する。
「へえ?」
「お嬢様のスペルが返された!?」
 一転して、レミリアたちがそのスペルを避ける羽目になった。
「やっと面白くなってきたじゃない」
 自らのスペルをかわしながら、しかしレミリアは笑う。
 余裕を崩さないレミリアを緑色の眼で眺めながら、パルスィは宣言した。
「もう背伸びとかやめたわ。私らしい全力で相手してやる! ……チルノ!」
「うん!」
「――倒すよ! 吸血鬼の主従を!」


 ~続~
どうも、ナルスフです。
なんだかかっこいいとこで切れましたね。
なんというかこいつら、呂布と陳宮というか、キン肉マンとミート君というか……。
シリアス部分がちょっと増えちゃったのはきっと前回の反動でしょう。ええ。

ひとつめのあとがきで『そう長くは続かない……と思いますが』とか言ってましたがなんだかんだで結構長くなりそうですね。
みっつめで言ったとおり、紅魔館編は元々予定外のストーリーでしたから。
それでも普通にふたつめとかの伏線を拾える展開に行けたあたり、紅魔館勢のすごさを改めて感じます。

と、なんだか過去を振り返ってばかりのあとがきになってしまいましたが、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
あと、小悪魔さん、マジでごめ(ry
ナルスフ
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コメント



0.1610簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
全裸で。

今回はこれがキーワードかwww
7.100名前はある程度の能力削除
ランダム要素すげえwww
9.100名前が無い程度の能力削除
ランダムだったら着替え中の咲夜さんの更衣室にたまたま移動してP(ryを確かめられるかもしれないwww
10.100名前が無い程度の能力削除
かんぜんにしょうしゃなめいどちょうがダメ過ぎるw
11.100マイマイ削除
こぁの全裸……ゴクリ
13.100名前が無い程度の能力削除
むきゅむきゅ言うから
「パチンとパチュリーが指を鳴らすと…」の部分が
「ムキュンとパチュリーが指を鳴らすと…」
に見えてしまったじゃないかw
14.100名前が無い程度の能力削除
この紅魔ラビリンスに挑戦したいです。全裸で。
15.100名前が無い程度の能力削除
⊃ホットミルク&風邪薬
17.80名前が無い程度の能力削除
こぁさん・・・せめてタオル巻こうよ
19.90名前が無い程度の能力削除
全ての文の最後に
全裸で
をつけてみ?
笑い話になるから
20.100謳魚削除
こあさんが全裸でおわしますのは紅魔館の日常、咲夜さんが『限り無く残念なショウシャ』であらせられますのは紅魔館の常識ですね分かります。

さぁここからが本当のパルチル…………!
27.100名前が無い程度の能力削除
この咲夜さんはwww
28.無評価名無しの権兵衛削除
魔方陣グルグルネタがあった
妙に懐かしさをかんじた
29.100名無しの権兵衛削除
↑点数忘れ
33.90名前が無い程度の能力削除
小悪魔www
41.100名前が無い程度の能力削除
魔法陣かっけぇと思ってたら、全裸でに吹いたw
52.100名前が無い程度の能力削除
いいねぇ
54.100名前が無い程度の能力削除
なんだかんだでかっこいい