――それは、ある夏の一日。
☆☆☆
普通の魔法使い、霧雨魔理沙は空を飛んでいた。
目的地は、紅魔館近辺にある大きな湖である。
「暑いぜ暑いぜ暑くて死ぬぜ」
物凄い速さで空を駆け回り、青春の汗を流しながら、魔理沙は一人そう呟いた。
こう言うとなんとなく爽やかな気分になるが、実際に彼女の顔を見てみると全然爽やかでは無い。
全身汗だらけの小汚い溝鼠。まさにこの言葉がぴったりと当てはまってしまう。可愛らしい顔が台無しだ。
ちなみに、彼女が暑がっている原因は解りきっている。黒白装束の衣装のせいだ。
友人たちは彼女のことを思って「そんなに暑いならその暑苦しい格好をどうにかすればいいじゃない」と言ってやるのだが、魔理沙は「これが魔女の正装だ!」と全く取り合ってくれない。
これでは自業自得である。
「おーい、チルノいるかー?」
ようやく目的地である湖に着いた魔理沙は、箒に乗ったまま器用に垂直落下し、目的の人物――妖精を呼ぶ。
どうやら、彼女がここまで足を運んだのはチルノに会うためだったらしい。
普段は道すがら邪魔してくるところをマスタースパークで吹き飛ばすだけなのに、彼女がわざわざ会いに来るのは珍しい。
「私を呼ぶのは誰だー」
はたして、チルノは居た。声が聞こえたと思ったら魔理沙のすぐ近くにあった岩陰から姿を見せる。
そして、魔理沙の姿を確認すると、「おっ」と声を上げた。
「来たな黒いの! 今日こそあたいが勝って――」
「チルノゲットだぜ!」
「ふぎゃっ」
魔理沙に向かって威勢よく啖呵を切り始めたチルノだったが、言葉の途中で魔理沙が突進してきたため、カエルが踏み潰されたような声を出してしまう。
ちなみに、魔理沙は突進した勢いのまま、チルノにへばり付いた。汗でべたついていた体が、チルノの冷気に冷やされてひんやりと気持ちよくなる。
「何すんだこのやろーっ。離れろー!」
「やなこった。こっちはお前に会うためにわざわざここまで来てやったんだぜ?」
「……って、それはただ単にあたいの体が目当てなんでしょー!?」
「そうとも言うな」
「そうとしか言わない!」
聞く人が聞けば卑猥な会話になるのを平然と言うのが怖が、それだけ彼女たちが純粋であるということなのだろう。
チルノの胸を魔理沙がまさぐっていても、それは子猫同士のじゃれあいにしか見えず、全然色っぽくない。
「こらー! どこ触ってんだこのやろーっ!」
「……っふ、私の勝ちだぜ」
「んなっ……あたいのほうが大きいもん!」
「だったら、比べてみるか? ほれ、ほれほれ」
「上等よ! 負けて吠え面かかせてやるわ!」
☆☆☆
結果、魔理沙の勝ちとなった。身体的に考えたら当然の結果である。
「――で、誰が吠え面かくって?」
「お、覚えてなさいよーっ!」
チルノ脱走。
魔理沙は飛び去っていくチルノの後姿を見て「あ」と声を上げる。
「もう少し冷気をもらっておけばよかったぜ……」
夕刻。魔法の森の上空では、再び汗だくの溝鼠状態となった魔理沙が目撃された。
Fin
どっかで黒い服の方が表面は熱いけど中は涼しいみたいなことを見たけど、あれはマジなんだろうか
ご馳走様でした
これからのご活躍、期待してます。