※日蝕を観察する時は直接目で見る事は(太陽と目の間に何かを挟んだとしても)やめましょう。目を傷つけます。
※専用のメガネや、ピンホールで投影して見るのが最も安全です。
――日蝕。
月が太陽を覆ってしまう天文現象である。
ある神話でその現象は、は不死を得たアスラの首が引き起こすとされた。
つい最近、幻想郷にもこの首だけのアスラが現れたようで幻想郷は僅かな間、闇に閉ざされた。
夜は妖怪達の世界である。
人間達は家に篭り、静かに過ごし、妖怪達は手を打ち鳴らし喜びの声をあげた。
僅かな時間ではあるが、完全に光を追いやったとして紅魔館では盛大なパーティーが催された程だった。
幻想郷全域で確認されたこの現象は数日経った今でも人々、妖怪たちの話題に上っていた。
当然、幻想郷の狭間に位置する博麗神社でもそれは変わらなかった。
博麗神社の縁側で遊びに来たルーミアに
「この間のアレであなたも騒いでたの?」
「……この間?」
「ほら、日蝕があったでしょ。 あんたもどこかで見てたんでしょ?」
しかしルーミアはきょとんとした表情で首を横に振る。
「ううん、見てないよ?」
「……うそ?」
「だって私、普段は闇を纏ってるから……」
「あぁ、そうだったわね」
霊夢の前では頻繁に姿を現している為すっかり忘れていたが 日光を嫌うルーミアは周囲を闇で閉ざして過ごしている。
彼女の姿を目の当たりにする事の方が珍しい位だった。
数日前の日蝕の日も、普段と変わらず闇の中で過ごしていた為に見逃したのだろうと霊夢は推測した。
「ちょっとまってて」
霊夢は部屋の奥に転がっていた新聞を持ってくると、ルーミアに広げてみせる。
「ほら、コレよ」
そこには天狗が撮った日蝕の写真がデカデカと掲載されていた。
暗い空に、光の輪が浮かんでいるように見える。
写真を眺めながら、ルーミアがぽつりと呟く。
「ほぇー……、なんだか空に穴が開いてるみたいね」
「中々面白い事を言うのね」
霊夢はルーミアの頭をクリクリと撫でる。
「えへぇ」
「私にとっては不吉で面倒な現象だけれど……」
霊夢は日蝕が起こると、太陽の女神がいち早くが岩戸から出てくるように祝詞を捧げていたのである。
更に、調子に乗って暴れる妖怪を調伏したり、紅魔館のパーティーでご馳走になったりと大忙しだった。
「けれど?」
「隠れていた日が再び姿を現す瞬間はとっても素敵だったわ」
「でも太陽なんて見て眩しくなかったの?」
日光すら眩しいと嫌うルーミアにしてみれば、日光を照射している太陽を見るだなんて考えられない。
「霖之助さんが、――えぇっと魔法の森の近くにあるお店の人が専用のメガネを譲ってくれたから大丈夫よ」
と霊夢は見るからに安っぽい作りのメガネをルーミアの目の前に掲げてみせる。
「??、……ぁ」
黒色の薄い膜のようなレンズを通すと、視界は彼女好みの暗さになる。
思い切ってレンズ越しに太陽を見てみると、まるで満月の様にその輪郭をはっきり確認できた。
「すごーい!」
「ダイヤモンドリングって言ったかしら……、あれはもう一度見てみたいわね」
しみじみと言う霊夢の顔を見て、日蝕に対し、さほど興味の無かったルーミアの中で見てみたいという衝動が沸き起こり、言葉となって零れ落ちる。
「……いいなー、見てみたかったなぁ」
「そうね、今度は一緒に見られるといいわね」
ルーミアの独り言に霊夢は柔和な笑みで答える。
それに釣られてルーミアもにこりと微笑む。
「ね、ね、今度はいつ見れるの?」
「うーん……、私にはちょっと判らないわね」
「うー」
期待した答えが返ってこず、ルーミアは子供みたいに不満そうに呻く。
霊夢は虚空をみあげて、日蝕前の事を思い出す。
「でも、日蝕が起こる前から天狗たちが騒いでたし、香霖堂でもこのメガネを売り出してたわね」
「どういう事?」
「どこぞの知識人なら知ってるかもしれないって事よ」
誰かが予測できなければ、情報を扱う天狗も新聞が作れず、香霖堂も事前に商品の入荷ができない。
そして予測、もしくは計算をするとなると、それだけの知識を持っていて、なおかつ調べる時間がある暇なやつである。
「そっか!」
不満一色だったルーミアの表情が、笑顔でいっぱいになる。
あぁ、やっぱり笑ってる方が可愛いわね、と霊夢は密かに満足する。
が、当のルーミアは
「それじゃあちょっと聞いてくるー」
と風のようにルーミアが飛び立ってしまう。
これには流石の霊夢も呆気にとられてしまった。
「え、ちょ、ちょっと……、あーぁ、行っちゃった……」
空を見上げていた霊夢は、寂しそうに部屋の片隅を見やる。
そこには包装された菓子箱が置かれていた。
「せっかく美味しそうなお菓子、貰ったんだけどなぁ……」
この後にあったであろう、さらなる笑顔とスキンシップという霊夢の至福の時間はお預けとなってしまった。
§
風のように飛び出したルーミアが向かった先は、紅魔館だった。
知識人と言われ、彼女の脳裏に浮かんだのはパチュリー、慧音、永琳、そして紫だった。
それぞれ、紅魔館、人里、永遠亭と場所はわかっているが、なんでも知っているであろう紫だけはその居場所は見当もつかない。
最初、神社から一番近い人里へ向かったルーミアだったが、慧音は生憎の授業中であった。
人間の子供が集まる寺子屋に突然妖怪が姿を現せば一騒動である。
「それで人里から近いウチに来たって訳ね」
そういいながら、図書館の主であるパチュリーはジト目でルーミアを睨み付ける。
不機嫌ではあるが、敵意を持って睨んでいる訳ではない。
彼女は純粋に目が悪いだけである。
「まったく、うちの門番は本当に役立たずね」
吐き捨てるように呟くと、それにルーミアが反応する。
「気持ち良さそうに寝てたよ?」
がっくりとうな垂れたパチュリーは深い溜息を吐き出す。
「……ハァ」
それは諦め以外の何者でもなかった。
「まぁいいわ、何が知りたいの? 教えてあげるからさっさと帰りなさい」
パチュリーにしてはずいぶんと譲歩していた。
招かれざる客人がどこぞの黒くて早い魔法使いならばこんな対応はしないだろう。
ルーミアは破顔するとさっそく質問をぶつける。
「日蝕って今度はいつ見られるの?」
「ふむ、もう一度騒ぎたいのかしら? それとも見損ねたから?」
ぶつぶつと独り言を言いながら、パチュリーは小悪魔に命じて一冊の本を持ってこさせる。
「幻想郷でもう一度見たいのなら……、6585日と少し掛かるわね」
「ろ、ろくせ……?」
とんでもない日数に、ルーミアは目を白黒させる。
日数の多さと、それが何ヶ月、何年になるのかよく判らないからであった。
それを察したパチュリーが説明を続ける。
「だいたい18年と十日後。各地を巡ったラーフが再び戻ってくるのにそれだけ掛かるのよ」
「そんなに掛かるんだ……、ハァ……」
「……知りたいことはもうお終い? ならばさっさと帰りなさい」
「はぁい……」
がっくりとうな垂れたルーミアは素直に図書館の出口へと歩き出す。
その寂しそうな背中をジト目で眺めていたパチュリーは、視線を外すと本へと向き直る。
「……」
そして、ルーミアに背を向けると口を開いた。
「……日蝕はラーフが太陽を飲み込むから起こるのよね」
「んぅ?」
パチュリーの突然の独り言にルーミアは振り返るが、パチュリーは背中を見せたまま、一人言葉を紡ぎ続ける。
「太陽を隠すことができれば似たような事は起こせるはずよね、うん」
「……?」
「それと、関係ないけど遠くの物は小さく見えて、近くのものは大きく見えるわね」
パチュリーの言わんとしている事を察して、落ち込んでいたルーミアの表情が見る見るうちに明るくなる。
「ぁ……、ありがとう!」
その言葉に、パチュリーは素っ気無く答える。
「……なに? 私は今読んでいる本の内容を確認しただけよ?」
そんなパチュリーにルーミアはただ微笑み、手を振ってさよならを告げる。
「えへへ……、ばいばいっ」
「……」
ルーミアが出て行くと、パチュリーは彼女の居た空間を一瞥する。
「……はぁ、くだらないわね」
§
「そうよ、私の闇なら太陽の光なんて目じゃないわ」
ルーミアの操る闇は魔法の闇である。
どんな光も遮ってしまう。
その闇を纏って空に昇れば太陽を遮ることができる。
位置取りとか角度とか調整は難しいだろうけれど、地上からそれを見れば、日蝕ときっと変わらない。
これで霊夢に日蝕を見せることができると喜び岐路に着くルーミアだったが、ふと気がつく。
「……あ、でもこれじゃあ私は見れない……」
彼女の望みは、「霊夢と一緒に日蝕を見ること」である。
「うぅ、どうしよう……、18年なんて待ってたらきっと忘れちゃうよ……」
何か良い案は浮かばないかとうんうん唸って見ても、出てくるのは知恵熱くらい。
「どうしたの? 小さな私」
声と共に大人びた彼女自身が、長い金髪を風に靡かせて、彼女自身の中から姿を現す。
『ルーミアのリボンは御札である』
ルーミア自身、触ることのできない代物である。
これは封印であり、外れれば姿や力が開放され、その都度異変を引き起こしていた。
今の様に、大人な姿の自分自身が別の存在として現れるようになったのも、ある日妖怪の賢者が暇潰しにイロイロやった結果だったりする。
ひょっこりと現れた大人ルーミアは暴走するような素振りは微塵も見せなかった。
「あなたは知ってるでしょ?」
それは「どうしたの?」との問いへの答えだった。
大人びたルーミアはクスクスと笑いながら、「そうね」と答えた。
同じ存在であるから、見聞きした事は当然、思いも悩みも共有している。
ただ違うのは思考。
そして記憶を引き出す速度である。
「何を悩む必要があるの? 答えを既に持っているというのに」
その言葉にルーミアははっと気がつく。
そして、彼女が自分だからこそ、申し訳なさそうに口を開く。
「お願い、協力してくれる?」
ルーミアの言葉に、大人ルーミアはフルフルと横に首を振り、微笑を浮かべる。
「協力とは言わないでしょ? だって私はあなたですもの」
あなたは私。
私はあなた。
言わんとする事は判っていた。
だから、ルーミアは先ほどの言葉を訂正する。
「うん、それじゃあ……、頑張ってくれる?」
今度は縦に首を振った大人ルーミアは目を細めて答える。
「万事任せなさいっ 私達の幸せの為だもの」
§
「霊夢~、霊夢、いるー?」
神社へと帰ってきたルーミアは早速霊夢の元へと向かう。
霊夢は丁度夕飯の支度に取り掛かっていたところだった。
割烹着姿の霊夢が振り返る。
「なに? ご飯ならもう少し後よ?」
「ちーがーうー」
ルーミアは霊夢の袖をぐいぐいと引っ張る。
「いいから今から外に出て!」
「何? 何なのよ?」
ルーミアの勢いに飲まれた霊夢は引きずられるように外へと出る。
「まったく……、一体なんのつもりなの?」
「いいから、少し待っててね」
ニコニコと上機嫌なルーミアは、詳しいことは説明する気が無いようだった。
「……はぁ」
状況がつかめない霊夢は諦めてルーミアに付き合うことにした。
そして、ルーミアが何をしたいのかをまもなく把握する事になる。
「あ、そろそろだよ!」
ルーミアの言葉の後、急に辺りが薄暗くなる。
その変化に霊夢は空を見上げるが、空は雲ひとつ無い快晴である。
「雲……? 違う……!?」
霊夢が驚く間にも、周囲は日が暮れたようにどんどん暗くなってゆく。
日はまだ空にあるというのに。
そこに至って霊夢も気がつく。
太陽が昇っていようと、雲ひとつ無くても、闇を操れる彼女なら光を遮ることができる。
「ルーミア、あんたの仕業……?」
「えへへ……、もう少し、もうすぐ……」
そう呟くルーミアは空を見上げている。
霊夢もつられて空を見上げる。
「一体、何を……?」
そこには、太陽があった。
眩い光を放つ事無く、その輪郭をはっきりと浮き上がらせた黄色い球体。
「これ……、どこかで……」
そして霊夢は思い出す。
特殊なメガネを通して見た世界と同じ事を。
「もしかして、あなたがやろうとしてることは……」
「始まったよ!」
ルーミアの言葉と共に、太陽が欠け始める。
「日蝕……」
「わぁー」
ルーミアは目を輝かせて、空を、欠ける太陽を凝視している。
霊夢はその横顔を見て、自分の言葉を思い出していた。
――「あれはもう一度見てみたいわね」
――「そうね、今度は一緒に見られるといいわね」
あぁそうか。
この子は、私の願いを……
フっと、周囲の光量が減り、がいっそう暗さを増す。
太陽が完全に隠れてしまった証拠だった。
「っ!」
すかさず霊夢も空を見上げる。
隠れきった太陽が、ゆっくりとその姿を見せる。
鈍い光が暗い世界を照らし始める瞬間、闇の中、微かな光が宝石のように輝きを発する。
「ダイヤモンド、リング……」
その輝きに霊夢は心奪われ、ルーミアは最も単純で最も最適な言葉を漏らした。
「……きれーい」
§
世界は再び光を取り戻す。
空には燦々と輝く太陽が浮かぶ。
「霊夢、日蝕すごかったね!」
「えぇ、本当に……」
ルーミアは今にもはしゃぎだしそうな程、興奮気味である。
そんなルーミアの頭に、霊夢の手がポンと乗る。
「うゅ?」
「ルーミア、ありがとね」
なでり、なでりと髪を優しく撫で付ける。
「……えへぇ」
ルーミアは満面の笑みを浮かべて、霊夢の腰にきゅっと抱きついたのだった。
-----オチ?----------
「こんなもんでいいかしらね?」
「ラーフの分霊もちゃんと回収したし、後は私の元に帰るだけ……」
「待ちなさーい! 日蝕を連続で引き起こすなんて異変、霊夢さんは見逃しても私は許しませんよ!」
「あー……、そういえば山にも巫女が居たわね」
「さぁ、退治してあげますから大人しくしてくださーい」
「……面倒事になる前に帰ろうっと」
「あ、こらー、まちなさーい!」
ほんわかした雰囲気がとても良かったです。
だがそこがいい
そして大人ルーミア(Ex)の見事なスル―スキルに吹いたw
霊ルーだったりするんですかね?(間違ってたらごめんなさい)
最後は、EXルーミアと誰だろう?ちょっと気になったり。
ごちそうさまでした。
あ、霊夢とルーミアが一回別れるときに「」が連続して出てきたので第三者の発言かと思いましたが、霊夢一人ですよね?
山の巫女さん=早苗さんです。
妖怪退治に目覚めたばかりなのでwktkしながら飛んできました
>セリフ連続
霊夢一人です。
やっぱり間に動きを挟んだほうが良かったかな?
ここの部分はコメント後少しだけ修正します。