Coolier - 新生・東方創想話

少女発狂中

2009/09/27 14:27:09
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■随分とグロテスクな表現がございますのであらかじめご了承下さい























随分と昔の事。一人の妖怪が暗い闇の中で地に伏し蹲[うずくま]っていた。
既に息も絶え絶えで自力で何かが出来るような状態ではない。

「ねぇ、紫これ以上するとこの人死んじゃうよ…」
「それでいいのよ霊夢、早くトドメ刺してあげなさい」
「でも」
「でもじゃないの。貴女は博麗の巫女としてこれから幻想郷の秩序を守っていかなければならないの」
「うん…」

博麗の巫女としての最低限の修行を終えた霊夢は紫に妖怪退治へと連れられていた。
妖怪を殺す。確かに相手は人間ではないしそれどころが人間の天敵ですらある。
しかし、それでも霊夢には人型の者を殺すのが躊躇われたのだ。

「分かっているなら早くおやりなさい」
「…はい」

ひゅー、ひゅーと細い息を漏らす妖怪の前へと一歩踏み出すと、額に一つのお札を貼り付け、滅した。呆気ない。
血の臭いはしない。退魔の札で爆ぜた妖怪の体は肉片一つの残すことなく消滅する。そういう仕組みだ。
霊夢にとってこれはありがたかった。後味の悪さを少しでも誤魔化す事が出来るから。

「…」










そこそこ昔の事である。既に片腕を失った一人の妖怪が少女を対峙していた。
妖怪は腕以外にも甚大な被害を体中に被っており最早勝ち目は無いと見て問題ない。
少女は特に怪我もしていなければ疲れた様子も無い。ただ精神統一にと深呼吸を繰り返している。
瞬間、妖怪は少女から突如投擲された多量の退魔針を避け切れず全身にそれらを受けることとなった。
針の刺さった部位から赤黒い煙が吹き出すと直ぐに妖怪は動かなくなった。

「霊夢も随分と手際良くなってきたわねぇ」
「嬉しくないわ」
「もう、私の同伴も必要無いかしら」

霊夢は辛そうに溜息をつくと巫女服についた土汚れを叩き落とす。
針は距離があっても強力な攻撃をお見舞いできるから罪悪感を軽減できるお気に入りの武器となっていた。

「…これで十七人目か。後何人殺すことになるのかな…」










まあまあ昔の事である。大きな妖怪と小さな妖怪が一人の少女と対峙していた。
大きな妖怪は胸を広げて立ちはだかり、小さな妖怪と少女との間に壁を作っている。

「邪魔、しないで頂戴」
「人の面を被った悪魔め! こんな小さな子供を捕まえて何が妖怪退治だ! 恥を知れ!」
「…五月蝿い!」

何が恥を知れだ! こちらとて軽い気持ちで仕事をしている訳ではない!
もういい。仕事の邪魔をするならばお前も私の敵だ。まとめて居なくなってしまえ!

『夢符・封魔陣』

「! なんだこれはッ!」
「余計な真似をしなければ貴方は死なずに済んだのに」
「貴様、ふざけ」

あとは弾幕の炸裂音に紛れてしまい聞き取ることが出来なかった。
まあ、あれだけの弾幕を張っていればどちらも逃げ切ることはかなわないだろう。
退治の仕事とは本当に後味の悪いものだ。泣いて怯える子供と憎悪に震える父親の表情が頭から離れない。

「百五十八体目…このペースだと私の体力が持たないわ。対策は立てたのになあ…」









ちょっと昔の事である。同じくらいの背丈の少女が向かい合っていた。
一人は紅白の衣装を身にまとい、もう一人はボロ雑巾のようなみっともない格好である。

「罪状は里の中で人を食べた罪よ。覚悟はいいかしら」
「お腹がすいてただけなのに…」
「魚でも猪でも捕まえて食べてたら良かったじゃない」
「まともにお腹を満足させてくれるような大きさのものは全て力の強い烏天狗に奪われてしまうわ」
「運が無かったわね」
「酷い! それじゃぁ私にどうやって生きろって言、こッはぁ…!」

言葉が上手につむげない。見ると喉下には一本の針。霊夢の退魔針が刺さっていた。
どんどん力が入らなくなっていく。針の効果なのだろう。

「あな、たは…鬼よ…」
「…人間よ」
「人、のフリ…をした、鬼…!」
「人のフリだの面を被っただの、妖怪というのは本当に失礼ね」
「あ」

右手に霊力を籠めると思い切り少女の頭に振り抜いた。
頭部の上半分が無残に飛び散り赤い霧が周囲の噴出される。
返り血が衣装の白い部分までを赤く染めていく。紅白の素敵な楽園の巫女は赤い巫女になった。
最近の霊夢は専ら自分の手で妖怪の命を絶つ事にしている。相手の存在を忘れずに済むから。

「三百二十…何匹目だったかしら。」

近年、霊夢は最初の方に殺した妖怪達の顔が思い出せなくなっていた。
衝撃の強かった一番最初や悲惨な物語で飾られていた者達は別として、最早何を言われたかも思い出せない。
何度繰り返した所で慣れることなのない筈の妖怪退治は既に霊夢の日常に組み込まれていた。

「面倒くさいわね…。早くお風呂に入って寝よっと」

既に罪悪感などは霊夢の中には存在していない。
そこにあるのは罪悪感を感じられない自分を客観的に見つめた少量の自己嫌悪だけだった。















日も沈み妖怪の活動が徐々に活発化していく宵頃、
情緒溢れる自然に囲まれた博麗神社の一室で肉を頬張る少女がいた。
名を博麗霊夢という彼女は最近えらく肉料理に凝っている様であり、
先日、先々日に続いて本日の食卓にも肉料理が並んでいる。
柔らかい肉質から溢れる肉汁と蕩ける様な風味に頬を思わず綻ばせる。
さてさて霊夢が十代半ばの少女であることを考えれば、
濃厚な料理を好き好む事などはごくごく自然の流れであり、
やはり彼女も普通の少女なのだなと思わなくもないが三日連続肉料理とは此は如何に。

ところでそんな食事中の霊夢の元を今し方訪れた白黒の名は言わずもがな。
魔理沙は霊夢の食事を見るや否やいつもの様に自然に夕食をたかり始めた。
霊夢は当然に表情で拒否反応を示すのだが
魔理沙がその程度の意思表示では引き下がらないことなど周知の事実。

「どうして私が魔理沙にご飯を奢る義理があるのよ」

そう言うも、一度その気になった魔理沙を退けることが
並々ならぬ大仕事であることもこれまた一つの周知の事実。
縁側に箒を立て掛けてからよっこらせっくす等と掛け声掛けて
室内に侵入する魔理沙を見て霊夢は割と本気で顔を渋らせる。

「ちょっとちょっと、あんたにやるご飯なんて本当に無いわよ」

その反応に魔理沙は驚いたような、眉を少し持ち上げる表情を作るが
すぐにニカッと笑って机をはさんで霊夢の正面に座った。

「なんだなんだ、普段より随分とマジで嫌そうじゃないか」
「私でなければこれよりももう十倍は激しい拒否反応を示すに決まってるわ」
「いやいや、他人がどうこうじゃなくて霊夢にしては嫌がり方が激しいなと」

肉を突っ突きながら来客(と呼べるのだろうか?)に対応する霊夢は
巫女が素面で作っていいとは到底思えない程度に歪んだ表情で魔理沙を見る。

「普段から嫌がってるのが分かってるのなら、前触れも無くご飯をたかる様な事はしないようにしてくれない?」
「随分だぜ」
「あんたのその厚かましさの方が随分よ」
「厚かましさなら幻想郷の五本指だぜ」
「下らない」

はあ、と溜息を洩らして視線を逸らす霊夢の隙を突いて肉を一つ口の中に放り込む。
溜息をついた時に視線を足元、手元、横の風景の何れかに視線を逸らす霊夢の癖などは
魔理沙にとっての"対霊夢時基本動作一覧表"の"項目その一"に過ぎないのだ。
霊夢が視線を戻さないうちにさっさと噛み砕いて嚥下する。味わう時間など刹那だった。
ちなみにこのお肉、非常に入手し辛い貴重な一品なのだが
瞬く間に口内で散り散りにして味をも殆ど確かめず食した魔理沙には知る由も無い。

「あ」
「あん?」
「あ、あんた今一個食べたでしょ」
「 」

魔理沙は絶句した。勿論バレからではあるがバレたこと自体は別にどうでもいいのだ。
問題は、魔理沙が絶句した所以は、食した肉が、一枚ものでなければ、サイコロ型でもない、
豚肉料理のように、野菜と共に炒められた、バラバラ状態のものだった、それなのに、霊夢は気付いた、ということだ。
食い意地の修羅、幽々子でさえも小さな肉片一つ消えたくらいでは気付か無いだろう。

「はは…その記憶力…他に使えよ」
「しち面倒臭い」
「 」
「ところで、そのお肉どうだった?」
「え…普通に美味かったぜ」
「ほ、本当に?」
「ほ、本当だぜ」

実際のところ味も肉質も殆ど確認していない為、
内心は冷や汗だらだらな魔理沙であったがそれが悟られることは無かったようだ。
霊夢の嬉しそうに釣り上がった口の両端も見れば喜んでいるのがよく分かる。

「よかった。それならあんたも食べていきなさいよ」
「おお? どういう風の吹き回しだ。私はてっきり怒鳴り散らされるかと思ってたぜ」
「私はそんなケチな人間ではないわ」
「 」

この短時間に絶句三回。完全な霊夢ペースでちょっと悔しい。
最初の拒否反応は何処へ行った、などと言っても得することはありえないので黙っておく。
急ぐ理由も無くなったし折角なので今度はちゃんと味を噛み締めることにした。
まずは米は放り込まず肉だけを満喫する。
よくよく噛み締めてみるとそこから溢れる肉汁は実にジューシーで質感も非常に心地よい。
脂の乗り具合も絶妙で、これなら胃の弱い人間でも中ったりしないだろう。
とどのつまるところすごく美味しい。もう一度言う。すごく美味しい。

「マジ美味いなこれ。しかし、これは豚でも牛でも鶏…でもないよな? 何の肉だ?」
「でしょでしょ? でも何のお肉かは企業秘密よ」
「なんだと、やっぱり霊夢はケチな奴だな。」
「あんただって人に見られたくない魔法式の一つや二つあるでしょう。それと違いないわ」
「肉と私のファイナルスパークを同列に並べないでくれ」
「夢想転生の仕様を教えてあげてもいいわよ」
「才能的な技とも同列に並べないでくれ。隙間ババァの能力を説明されてお前は満足するのか?」
「ババァって言った奴面に出ろ」

一瞬、楽しかったはずの団欒[だんらん]の空間が凍結される。いや、固まったのは、魔理沙だけか。
先程まで魔理沙と喋っていた霊夢は、魔理沙の後ろを、誰もいない筈の場所を、
地鳴りのように低い声の聞こえてきた方向を眺めてニタニタと笑っている。
ギギギと立て付けの悪くなった障子が地面を擦る様な滑りの悪さで後ろを振り向くと
予感的中、顔面中に血管を浮かべて扇子を握りつぶしている八雲紫の姿があった。

「くっくっく」
「よ、よう…ゆ、紫。き、ききょ今日も、ごき、ごきご機嫌麗っしゅしゅう…」
「魔理沙、今なんと言ったかしら?」
「くっくっく」
「ご、ご機嫌うる」
「その前」
「くっくっく」

顔面蒼白、絶賛冷や汗発汗中。
そんな魔理沙を見て先程から霊夢がくつくつと笑い続けている。
事が終わってから弾幕勝負で墜としてやるなどと考えてる余裕は魔理沙には無かった。無理。

「魔理沙、面へでなさい」

二度目の宣告。本気だ。あからさまに本気だ。かなり不味い。
逃げるか?いや、しかし、隙間妖怪に睨まれて逃げる手段など…。いや…。

「す…」
「す?」
「…くっくっく」
『彗星・ブレイジングスター!』

高らかに叫ばれたのは魔理沙の最速スペルカードの発動宣言。
直後、縁側に立て掛けられていた箒に淡青色の光が収束し発光、部屋全体が白と青の明滅に支配される!
慌てた紫が振り向いた時には、時既に遅し。くっくっく。
射命丸文を子供と嘲る様な速さで突撃する箒が、魔理沙の方角に照準を定めていた。

「この魔法使い!逃げるなんて許さないわ!」

箒と魔理沙の間に隙間を作らなければ、このままでは逃げられてしまう。くっくっく。
しかし時間は人間、妖怪、幽霊、天人、死神、変体、咲夜以外、誰に対しても平等であり、
それは齢千を超える大妖怪と魔法少女の間に於いても無視されることない絶対の現実であった。間に合わない。

「悪いが私はまだ死ねないんだ!説教なら今度の宴会の席ででも聞いてやるぜ!」

そう言いながら超速の箒に右手を差し出し、黒の尖がり帽子を左手で支える。
少女の握力でその箒に掴まれるのかという疑問は無意味で、魔法使いの持つ箒に細工が無いわけもなく、
箒は危機に瀕した主と魔法で繋がり博麗神社に大口径の逃走用通路を開けんと更にその身を強く光らせる。くっくっく。

「霊夢、すまん!」

霧雨魔理沙とて自分の蒔いた種で他人の家に穴を開けるのには多少の罪悪感を覚えた。
しかし先程から私の危機を眺めてくつくつ笑いを繰り返し、
挙句に腹筋崩壊とまで言い始めたあの所業を思い返せば不思議とそんな気持ちは消え失せる。くっくっく。
さて、逃げおおせたらどうしようか。霊夢と紫の追跡を考えれば自宅にだけは帰れないな。
「それじゃ、おさらぶぁっ!?」

べちん!

「ぉ…ぁあ?」

突如、霧雨魔理沙と箒が力を失い畳の上に倒れ伏した。
何が起こったのか分からない、そんな思考と再度窮地に立たされたという絶望がない交ぜになり
見るも無惨な表情が魔理沙の顔に表れていた。
しかしその顔面、表情がどうこうなどということは正直どうでもいい状態にある。
鼻からは止め処なく鼻血が溢れ、余りにも度を過ぎた痛覚の為か見開いた目は完璧に涙目である。
口はパクパクと開閉されて情けなく「ぁ」や「ぉ」などの声にならない悲鳴を上げていた。

「ぅぁ…な、何がぁ…」
「あらら、魔理沙大丈夫?」
「れ、れぃむぅ……痛ひ…ぃ…ょ」
「霊夢これはちょっとやりすぎよぉ」
「霊夢が…やっは、のは?」
「壁に穴開けられたくなかったから結界張ったのよ。まさか気付かずに突進するなんて…」

その言葉に魔理沙と紫は目を見開く。
魔理沙の方は先程の状態から更に見開いたのですごい大きさになっている。

「私の隙間も間に合わなかったのによく出来たわねぇ」
「魔理沙が『す』って呟いた時点ですでに張り始めてたのよ」
「成る程、それでずっと笑ってたのね」
「魔理沙の慌てふためく姿が見たかったんだけど、これはちょっと予想外だわ」
「それにしても、よく『す』だけで見通せたわね」
「こいつに何度ブレイジングスターで逃げられてると思ってるのよ」
「あら霊夢、魔理沙動いてないわよぉ?」

見ると魔理沙は不定期に小さく痙攣しながら焦点の定まらない目で空虚を眺めていた。
動いてなくはないが動いていないよりもある種もう一段階くらい切羽詰った感じではある。

「え! ちょ! あんた死んでないでしょうね! この歳で人殺しの称号は荷が重いわ!」
「すでに何人の妖怪を殺してるのよ」
「同族殺しはいつの時代も重罪よ!」
「あら、博麗の巫女たるもの常に中立の立場であるべきよ。人間だけを仲間と見なすのは頂けないわねぇ」
「あんただって妖怪よりの考えでしょうに、そんな所で文句をつけないで頂戴」
「ん~まぁいいわ、これ以上魔理沙を酷い目に遭わせるわけにも行かないし帰るわね」

式が用意してくれているであろうご飯の献立に想像を膨らませながら隙間を開く。
霊夢の方は左小指で側頭部を掻きながらどうしたものか思案していたが、
左手で握り拳、右手で平手を作るとそのふたつを叩いてポンと音を立てた。

「そうだ魔理沙手当てしないと。帰る前に永遠亭に隙間を開いてくれない?」
「はいはい。やっぱり霊夢は私が居ないと駄目ねぇ」

紫が空中に指を走らせると次元を無視して現れた暗闇の中に大量の眼球が浮かび上がる。
霊夢はいつ見ても気持ちの悪い光景だと思いながらも
背に腹は変えられぬこの状況でどうにもならない文句を言うつもりはない。
大人しく魔理沙を担いで隙間に片足を突っ込むと大量の視線に包まれる嫌悪感に堪えながら奥へと消えていった。

「さて、私もはやく帰って藍の美味しいご飯を食べ…」

隙間で帰りかけて、違和感を感じて、鼻に手拭[てぬぐい]を当てて、言葉を切った。
紫は先程までは気づかなかった近場から感じる微かな異臭と妖気に眉をひそめる。
妖気の方は博麗神社ではよくある話というか自分も妖怪なので別段どうということはないのだが、
暇さえあれば掃除をしている霊夢の住む神社で異臭がするということに若干の疑問を覚えた。
別に短時間でそこまで思考したわけではないのだが、いつ訪れても快適な場所なので直感でそう感じたのだ。

「騒いでいた時は気づかなかったけど随分と臭いわ。何かしら、濃くはないのだけれど…」

疑問を残したままにすると後々までもやもやするので異臭のする方向へと足を進めていくと一つの襖に到達した。
元の染色は既に靄がかかったように薄くなっており、全体的に薄黄色くなったそれは短くない年季を思わせた。
紫がそれを開こうと手を伸ばしたその時、襖は触るよりも早く紫に向かって倒れ掛かった。

「きゃ」

それは別に神社が腐食して倒壊し始めたわけではなく、酔っ払った萃香が勢い余って潰してしまっただけのことなのである。
襖が畳に身を預けると同時に本来襖のあるべき部分の向こう側に
しゃがみ込んで頭を抱える疎と密を操る鬼の姿が見て取れた。もちろん小脇には瓢箪が抱えられている。

「何をやっているの萃香?」
「おお紫か。どうしようこれ?」
「あなたが壊したの?」
「足元が随分とふら付くもんだから支えにしようとしたら、な」

外れただけなら嵌め直せばいいだけの話なのだが、鬼の力で潰された襖は修復不可能な感じに変形していた。
酒ではなくこの状況がという意味で不味いな、などと言いながら瓢箪を傾ける萃香から緊張感を感じ取ることは出来ない。
紫は魔理沙のお蔭でひしゃげた扇子をなんとか開くと萃香に向けて仰ぎ始めた。

「っぷは、どうしたんだ」
「あなた随分と酷い臭いしてるわよ」
「うん、そうみたいだな。いつもより大分酔ってる」

紫は両の手に手拭と扇子を持って悪臭を回避している。
かなり失礼な気もするが鬼が本格的に酔うとなると相当な臭いらしい。

「はぁ、それじゃ私は帰るわね」
「ん? おう、何してたんだ? 霊夢は?」
「霊夢は怪我した魔理沙を抱えて永遠亭に行ったわ。遊びに来てただけだし私は帰るところ」
「そうかそうか。ところで、出来ればこの襖を何とかして欲しいんだが」
「んー」

指を口元に当てて思案したい紫だが両手共に活動中なのでできそうにない。
襖について思案しながらも、悪臭の原因が萃香であったことに気付くと心の中で嘆息した。
紫でも萃香が酔い切ってしまう程の酒を飲めば永遠亭行きを免れることは出来ないだろう。
それ程までに酒に溺れるとは何か嫌なことでもあったのだろうか。
陽気な性格から考えるに、滅入って酒に逃避していた、ということでも無さそうなので心配あるまい。
鬼という種族の挙動については細事を一々気にしていてもキリがないのでそこでその思考を打ち切って会話に戻る。

「隙間で新しい襖を出してもいいのだけれど、柄が不揃いになって結局霊夢にはバレるわね」
「あーそれでも全然かまわん。頼む。出してくれ」

霊夢の最も嫌う事は手を煩わされることである。萃香はそれを知っている極力襖を綺麗にしておきたかったのだ。

「仕方がないわね」

慣れた手つきで切り裂き開いた暗闇に手を突っ込むと染み一つない綺麗な襖が姿を現した。
柄は幻想郷では全く見かけないものであり、他の襖と比べて結構な異彩を放っている。

「おお! 悪いな!」
「いいえ。私と貴方の仲じゃない」

霊夢や魔理沙が見れば胡散臭いと一蹴する紫の表情にも鬼は目を輝かせて嬉々とする。
陽気というより単純といった感じの萃香の反応を暫く楽しんで紫はマヨヒガへと帰っていた。
残された萃香は襖を嵌めると居間の机の前に座り込む。
机の上には先程まで霊夢と魔理沙の食していたであろう夕飯が並んでいた。

「結局私一人か。ぷは、酒があれば大丈夫だけどやっぱり少し寂しいな」

ふと目の前の肉料理が目に付いた。そういえば昼以降は酒を飲んでいただけで何も食していない。
ちょっと貰うだけなら大丈夫であろうと肉に手を伸ばして上に乗った苦手な野菜を振り落とした。

「頂きまーす♪」

えいっぱく。

「不味ッ!」

ぶっ!

「なんだこれ!?」

人の食事を頂いておきながら非常に申し訳ないのだが吐き出した。
肉質や脂の乗りは格別悪くないのだが如何せん味が酷すぎる。
一口噛むだけで口内に広がる風味の悪さには吐き気を催したほどだ。
とどのつまるところすごく不味い。もう一度言う。すごく不味い。

「あいつらは何て物を食ってんだ! 何の肉だこれは! ここまで不味い肉は生まれてこの方初めてだ!」

口直しに酒を流し込む。萃香は礼儀を疎かにしていいなどとは微塵も思ってはいないのだが、
今回ばかりは流石に耐え切れず料理した本人も居ないことだし口の中に残る肉の風味を一気に消し去ってしまった。
あまりに不味すぎたのだ。そして肉の味が残っていないのを確認するとようやく一息をついた。

「吃驚した。あー、本当に吃驚した。襖が外れた時よりも吃驚した」

とりあえず落ち着くと夕食に手を出すのはやめた。うん、やはり人の物を勝手に食べてはいけない。
しかし夕食を見て認識してしまった結構強い空腹感がどうも収まりそうに無いので台所へと向かう。
博麗神社は人里から離れているので食料には大量の備蓄がある。だから冷蔵庫を覗けば何かしらいいものがあるのだろう。

「ふんふんふふ~ん♪ 何があるかな~何があるかな~♪」

スー。

「臭ッ!」

ピシャッ!

「ふおおぉぉおぉおおぉぉ…く、臭! 臭すぎる!」

博麗神社の台所は臭かった。襖を開けると瞬く間に萃香の鼻腔を制圧したその悪臭は尋常なるものではなかったのだ。
襖の開閉作業に要した時間はまさに刹那。鬼が本気を出したその腕の動きは神速と称するに値するものであろう。
とにかく萃香は悶絶していた。ちなみに襖は崩壊していた。おかげで再び臭いが外へと漏れ始めた

「こ、こりゃ敵わん…」

そう言うや否や萃香は博麗神社からふらふらと逃げ出したのであった。
今日の博麗神社には随分と被害者が多いものだと苦笑いの堪え切れない魅魔は悪臭の原因を眺めて漂っていた。















翌日、日も出て間もない朝方ごろ、青空を疾走する一人の少女の姿があった。
白の大きなフリル付きリボンで飾られた黒い尖がり棒を頭に乗せ、
黒と白のツートーンとえらく単調なドレスエプロンに包まれた姿で箒に跨る彼女はそれなりに怒っていた。

「霊夢の野郎他のやり方もあっただろうに。お蔭で永遠亭に一泊二日のお泊り会だったぜ」

十割くらいの速度で博麗神社に向かう魔理沙は既に弾幕[や]る気満々だ。
あの結界はどう考えたってやり過ぎと思うし、他にも不服な点があるのだ。

「問いただして納得できる答えが返ってこなかったら、ていうか絶対納得できねえからマスパを見舞ってやる」

鼻にコルセットをあてた少女のイライラは、先日の騒動の中で唯一余裕をかましていた少女に向いていた。
そうこうしているうちに見えてきた博霊神社の境内に丁度神社の中に入っていこうとする霊夢の姿が見えたので声を掛けた。

「霊夢、昨日はよくもやってくれたな」
「ん? あぁおはよう魔理沙」
「おはようじゃねえよ。こりゃ一体どういうつもりだ」

魔理沙は霊夢の前に着地すると領収書を目前に突き出した。
それには永遠亭での魔理沙の治療費が可愛らしい丸字で記述されており、支払い主の欄には霧雨魔理沙と達筆で書き殴られていた。
前者は恐らくはうどんげの、後者は間違いなく見慣れた霊夢の文字であった。
霊夢は表情を極力動かさずに欠伸を噛み殺しながらそれに応える。

「どうって、あんた昨日怪我したから」
「何で支払いが私になってるんだって言ってるんだ」
「どうしてもこうしてもあんたの自滅でしょうに」

予想通りの返しではあるが、やはり魔理沙にとっては理不尽だとしか思えなかった。
霊夢は魔理沙に感づかれないように欠伸を噛み殺す。

「いやいや、お前あのタイミングで結界張れるならそれこそ他に対処法あっただろう」
「人の家に風穴を開けようとした人間に許される言い分でないわ」

そこで霊夢はもう一度欠伸を噛み殺す。
魔理沙はほほうと声を漏らすと、ニヤリと右頬を大きく吊り上げくつくつと笑い始めた。

「あーあー、これはちょ~っと口論じゃ解決できないパターンだなぁ」
「え?」
「よし霊夢、こういうときは後腐れの無いように、な?」
「な、何よ」

霊夢は顔を引きつらせながらも魔理沙にだけは感づかれないよう必死に欠伸を押し堪えた。

「弾幕で決着を着けようぜ」
「…」

魔理沙のによによ笑いから察するに間違いなくバレている。
霊夢は盛大に嘆息した。それでも一応申し訳程度に悪足掻きをしてみる。

「嫌」
「おいおいおいおい、創始者さんが幻想郷の規律にならないでどうするつもりだ」
「お昼ごろにもう一度来なさい。その時相手してあげるから」
「私がお前に勝つなら今しかないんだよなー」
「いつやったって同じよ」
「じゃあ今でも一緒じゃん?」

魔理沙の嫌らしい歪んだ笑みはますます勢力を増していく。
霊夢の表情には少しずつ焦りが浮かんでいた。

「いや、だから、今は…」
「今は?」
「…」
「理由がないならおっ始めようぜ。徹夜明けの巫女さん♪」

霊夢の表情が見る見るうちに荒々しいものへと変貌していった。

「あんた! 分かってるんなら後にしなさいよ!」
「おお? 寝不足だとは思っていた徹夜明けか。鎌はかけてみるもんだな?」

しまったという表情を作るが時既に遅し。
魔理沙はスペルカードの枚数を数え始めている。

「万全のお前と正面からやり合うほど私の頭は春じゃないし氷精住むほどの冬でもない」
「なんて卑怯な奴」
「魔女はいつだって狡猾で利口なんだぜ?」
「狡い[こすい]っていうのよ」
「まあ頭の回転がいいってことだな」
「とにかく絶対嫌だからね!」

そういって霊夢は踵を返す。
留守の間に何者か手によって破壊された台所の襖とその木片の処理に加え、
予想以上に腐敗の早かった肉とその悪臭処理に追われて気が付けばもうこの時間だったのだ。
どうせだから掃除も済ませてしまいさあ今から心置きなく惰眠を貪ろか、という丁度その時にこの有様である。

「おーおー逃げるのか?」
「誰が!」
「だったらやろうぜ。負けるのが怖いのか?」

魔理沙はからかう様なおちょくった声を出す。
ここで挑発に乗ってはいけない。一睡してからボコボコにしてやるのだ。
負け惜しみという訳ではないが言われっぱなしも軽く癪なので霊夢を言い返す。

「ふん、今の状態でもあんたなんかにゃ負けはしないわ」

しかしそれは霊夢自身の首を絞めることとなり。

「じゃあ今でも一緒じゃん?」

一度なんとか流してしまったはずの流れに戻ってしまったのだ。

「私は今勝負がしたい、霊夢はいつやっても同じと言う。
 それなら今やったほうがより後腐れの残らない戦いになるっていうもんだぜ?」

やはり一度その気になった魔理沙を止めるのは至難の業のようであった。
霊夢は結局渋々と承諾する羽目となった。

「~っ! 分かったわよ! その代わり私が勝ったらボロ雑巾のようにこき使ってやるんだから!!」
「そー来なくっちゃ面白くないぜ!」

『符の壱・夢想妙珠連』

「ってうおわっ! いきなりは卑怯だぜ!?」

楕円形に模られた[かたどられた]七色の弾幕群が魔理沙を包み込むように襲撃する。
これ自体はそれほど脅威ではなく、指で数えていては足りないほどに大量の抜け道がある。
しかしこの弾幕、抜けやすい大穴だけは絶対に利用してはならない。何故といわれれば実に簡単な答えが存在する。

『符の弐・陰陽散華』

咲き乱れる華の如き援護弾を率いて超大な陰陽玉が魔理沙の周囲を乱反射し始めた。
この時、符の壱で目に付いた非常に通りやすい抜け道の全てが花びらのような弾幕に覆い尽くされているのだ。
しかしその他の隙間も、魔理沙が利用した隙間も乱反射する陰陽玉に幾度となく襲われる。
回避しているばかりでは勝機はない。ありがたいことに今の本調子でない霊夢なら十分に魔理沙の射程圏内である。
型に嵌った弾幕では霊夢が寝呆け眼でも感性だけで避けてしまうのでそれを防ぐため星型弾幕を無秩序にばら撒く。

「んっ」

魔理沙のこの選択は正解で一見では初見技に見えてしまう弾幕群に霊夢は後れを取った。
決して濃くはない弾幕相手にグレイズを立て続けている。

『天儀・オーレリーズユニバース!』
「ちっ」

魔理沙の弾幕の飛び方に意図が篭められていない事にようやく気付くと霊夢は舌を打った。
何をやらせてもいちいち卑怯臭い魔理沙にペースを取られるのはかなりよろしくない。
しかも自分が戸惑っている間に大型スペルの発動宣言を許してしまったとなれば尚更である。
魔理沙の周囲で円を描く六つの魔法玉が眩く瞬き始める。

「どうした霊夢、もう一発お見舞いするぜ!」

再び放たれる星型弾幕。そこに加えられた魔法玉によるレーザーとのコンビネーション。
これも一見では初見技に見えてしまうが同じ手は喰らうまい。
今度の弾幕には大きく通りやすい道を確実に使って再び攻撃態勢を整えるのだが―――――

「いらっしゃいませご主人様ーッ!」
『符の参・魔じょ…は?」
『恋符・マスタースパーク!!』

そこで霊夢は自分の左右に逃げ場がないことを初めて意識した。














「こんなことの為に本当に新しい弾幕を披露するなんて、派手にやってくれたわね」
「霊夢が豪語してた割には手応え無くて勿体無かったかもだぜ」
「豪語はあんたの専売特許かもね」

魔理沙は勝利ににへへと笑う。霊夢の方は元気を削がれこそしたが怪我は無い。
マスタースパークの直撃を受けてしまったのでは人間である霊夢にとっては致命傷になりかねないので
スペカを利用せず普通に強力な結界を張ったのである。勿論、ルール違反で即刻負けとなるわけだが。

「はあ、領収書かしなさい。あとで私が支払いに行くわ」
「その件なんだが、条件さえ呑んでくれればやっぱり私が支払うぜ」

霊夢は眉をひそめて話を終わらせようとする。

「どうせロクな条件じゃないんだから聞く必要も無いわ。私が払ってはいお仕舞い」
「昨日の肉の正体を教えて、それで一飯分奢ってくれればそれでいい」
「…あんたまだ気にしてたの?」
「どうしてももう一度食べてみたくてな」

無視して条件を提示する魔理沙に対して呆れるような苦笑いでそう言う。
しかし最初の反応とは裏腹に霊夢はかなりありがたい条件なのではないかと思考していた。
もちろん懸念はあるが魔理沙なら大丈夫だろう。そう確信して霊夢はこう言い放った。

「いいわね、その条件呑んであげる」















その夜、日も落ちて間もない戌一つ刻ごろ、夜空を疾走する一人の少女の姿があった。
白の大きなフリル付きリボンで飾られた黒い尖がり棒を頭に乗せ、
黒と白のツートーンとえらく単調なドレスエプロンに包まれた姿で箒に跨る彼女はそれなりにわくわくしていた。

「霊夢の奴その場で教えてくれたっていいだろうに勿体振りやがって」

十割くらいの速度で博麗神社に向かう魔理沙は既に食う気満々だ。
夜にならないと見つけにくい奴の肉らしくて、一緒に捕りに行くから戌一つ刻(=19時)に来いと霊夢に言われたのである。
鼻にあてられている筈のコルセットは既に取り払われていた。恐らくは魔法用品で治癒力を高めるなりしたのであろう。
夜が活動時間の旨い肉といえば何があっただろうか、
と頭の中で数えながら箒を飛ばしているうちに見えてきた博霊神社の境内には
踵を地面に付けたまま爪先で地面を叩く霊夢の姿が見えたので声を掛けた。

「よっす霊夢」
「遅刻よ遅刻。遅くても戌一つ刻になる頃にはこいって言ったでしょ。さっさと行くわよ」

ふわりと飛び上がる霊夢の横に魔理沙は同伴しながら魔理沙は左腕に着けた改造版デジタル時計に目を落とす。
なるほど、確かに19時(戌一つ刻)より53分遅れた19時53分(戌三つ刻)を示していた。
ちなみにこれ、小型の薄っぺらな魔法石を時計板の裏に組み込めば動く仕組みである。

「30分くらいだろ」
「30分ていうのはどのくらいの時間よ」
「つまり今は戌二つ刻」
「大遅刻よ馬鹿」

手の甲でぽかっと頭を殴られる。
天体以外で時を図る術を持たない霊夢が
53分を30分と23分の二つに分けて30分に満たない23分の方を切り捨てて約30分とする
遅刻時専用の魔理沙式計算術に気が付くことは今後も無い。

「あんたのそれ、デジタル時計っていうのはどの程度正確に時間を計ってくれるものなの?」
「それはもう秒単位で」
「遅刻魔の手に掛かれば豚"の"真珠ね」
「豚"に"真珠」
「それは魔理沙"に"デジタル時計。魔理沙"の"デジタル時計は豚"の"真珠よ」
「なる程、マスパ喰らわしたろか」
「今日はもう朝の奴でお腹一杯よ」

軽口を叩き合いながら妖怪の山の中へと霊夢と魔理沙は進入していく。
昼間は小動物のそれくらいしか感じない気配も今では濃厚な妖気に満たされていた。
かさかさと風に揺れる木々が不気味な世界を作り上げるが二人は意に介さない。

「で、その肉ってのは何の肉なんだ? いい加減教えてくれないと探すに探せないぜ」
「そのうち向こうから現れてくれると思うんだけど」
「ふーん? なんでもいいけど早くしないと先に妖怪が現れちまう。そうなると面倒臭いぜ」
「おでまし」
「へ?」

鬱葱[うっそう]とした草木が一段大きく揺れ動く。
がさと更に大きな音を立てて木々が揺らぐとそこから一人の人影が姿を現した。

「あやや、今回は魔理沙さんもご一緒ですか?」
「射命丸」
「射命丸、今回は一人だと聞いていたけれど」

霊夢の言葉と視線に反応して魔理沙も同じ地点を注視する。
すると射命丸の手先には縄で縛られ猿轡[さるぐつわ]を噛まされた二人の妖怪が居た。
片方は可愛らしい感じの少女で目からぽろぽろと涙を零しており、
もう一人の方は随分と体格のよい大男で霊夢の方を鬼の形相で睨みつけていた。実際は鬼ではなく両者とも烏天狗であるが。

「おい霊夢、これは一体どういうことだ」
「…」
「まぁ、なんといいますか、幻想郷の原則を侵した違反者ですね」

男と視線を合わせて逸らさず反応しない霊夢の代わりに射命丸が魔理沙の問いに答える。
縄で縛られて飛べそうにも無い二人を見つめて霊夢は口をへの字に曲げた。

「二人だから今日は楽に運べると思ったんだけど、今日は荷物も二倍のようね」
「あれ? もしかして私は妖怪運びにこれから手伝わされるわけか?」
「いぇす」
「おいおいおいおい、Yesじゃないぜ! 霊夢、肉はどむぐっ!」

霊夢が敏速に魔理沙の口内に陰陽玉を放り込んだ。
むぐむぐしか言えなくなった魔理沙に耳打ちしてから陰陽玉を取り除く。
射命丸はというとよくわかっていないようで二人のやり取りが終わるのを律儀に待っている。

「がほっ…霊夢、神社に戻ったら説明しろよ」
「分かってるわよ。それじゃ射命丸二人を引き取るわね、とその前にどうして二人なの?」
「…捕らえようとする彼女を彼が執拗に庇うので同罪ということになりました」

少女の方が大きな涙を地面に落とした。男はなんとか縄が解けないかと抵抗している。
射命丸の方もも普段おハイテンションから鑑みては考えられないほどに元気が無い。

「それじゃ、行くわよ魔理沙」

魔理沙に呼びかけると霊夢は少女の方を背負って神社の方角へと体を浮かべていった。

「お、おい! ちょ待てよなんで私が、ふぐぉ、重たい方なんだよおぉおぉぉ!」

大男を魔法で浮かしながらもそれだけでは浮力が足りないので自分で担いで魔理沙もそれに習う。
正直理不尽ではないかと思うが、確かに自分以外の者を浮かべることの出来ない霊夢では
この大男を博霊神社まで運ぶことは出来ないだろう。あくまでも"空を飛ぶ程度"の能力というわけだ。

「なあ霊夢、この二人は」
「射命丸が言ったでしょう。この二人は違反者なの」

魔理沙と霊夢がお互いに相手の背中に乗っている烏天狗に視線をやる。

「でもどうして射命丸が」
「妖怪の山の者が不祥事を起こした場合、烏天狗の重鎮が紫に対する面子を気にして
 自分達で違反者を捕らえて私に差し出すようになっているのよ。」
「えぐ」

魔理沙は少女から視線を逸らした。

「射命丸は同胞を売るのが嫌でその制度を嫌ってるけどね」
「でも率いてきたのはあいつだったぜ?」
「皆あの役を嫌がるらしくて押し付けられたらしいわ」
「誰だって仲間を差し出すのは嫌だよな」
「それもあるけど、妖怪の天敵になっている私には会いたくないのよ。そこにおいて射命丸は私の知人だからね」
「なるほど…。あいつもそうだが、お前の周りの妖怪はどこか人っぽいよな。」
「そうかもね。逆にあんたや咲夜みたいに人とは思えない奴もいるけれどね」
「お前が一番…っておい、背中の! あまり動くと下に落ちるぞ!」
「あら私はそれなりに人間やってるつもりよ」














「で、着いたわけだがこいつらどうするつもりなんだ?」
「急かさない急かさない。ちょっと台所から包丁とってくるからそこで待ってなさい」
「おい」

魔理沙は境内に妖怪二人と共に放置されることになった。
正直、二人の四つの目線が痛い。少女の方は涙を流して男の方も懇願するような目線をこちらに送っている。

「おい、そんな顔すんなよ」

もちろん、そんな顔をされたってどうしようもないし、そんな事をいったってどうしようもない。
ここで二人の縄を解けば多少は胸が透き通るかもしれないがそれには何の意味も無い。
それどころか霊夢にはこっぴどく怒られるだろうし、妖怪の山の連中に目をつけられる事となる。
紫にまでお咎めをもらうかもしれない。それに―――――

「ここで逃げたってさ、どうせ追い詰められてさ、それくらい分かんだろ?」

少女は顔を伏せ男は目を細める。

「なにやってるの魔理沙」

霊夢の声にはっとして振り返る。
その両手には取り取りの包丁が握られており、そのどれもがぎらりと月夜に輝いていた。

「霊夢?」
「先に女の子の方からやってもいいんだけどそういう趣味はないからね」

そういって包丁を地面に並べると(何か法則があるのだろうか、霊夢は並び順に意識をしている)男の額に手を当てた。
そうすると霊夢の指先から青白い光が淡く溢れ出し、男の瞼が徐々に徐々にと下がり始める。

「霊夢、それって…」
「安楽死。罪人が安楽死できるなんてウチか早苗の所くらいなもんよ」
「…まじかよ。おいおい私はこんなのに付き合いに来たわけじゃないんだぜ」
「んー!んー!!!」

もがく声の方向を向くと少女が顔を青く染めて何かを言おうとしていた。
男はそれに微笑んで返す。二人の間にどういう関係があったのかは分からない。
しかし先の射命丸の話から類推するとこの二人は家族か恋人かそういう間柄であったのだろう。
それから暫くすると男は完全に瞼を閉じてこと切れた。

「畜生、後味の悪い」
「私も何回目か忘れるくらいだけど慣れないわね」
「慣れないわねじゃねえよ。どうして私がこれに突き合せれてるんだ」
「肉でしょ」

霊夢は並べられた包丁のうち随分と細くて鋭いものを手にとって少女に歩み寄る。
男の方からは手を離すことになるので支えを失った体が地に横たわった。
少女の方はというとは俯いており顔を上げる気配は無い。男の死によって完全に絶望したのだろう。

「大丈夫、貴女もできるだけ痛くないように殺してあげる」

そして首筋や手首などに包丁で深く切れ目を入れていく。
その行為に魔理沙は目を逸らし気味にしながら霊夢に問うた。

「霊夢、そっちは安楽死とは…」
「この子は駄目よ」
「…同罪扱いでも主犯と取り巻きとでは重さが違うってか」

霊夢は次々と少女の体に切れ込みを入れる。
傷口からは多量の血が溢れ周囲に鉄の臭いを充満させて地面を黒く塗りつぶしていた。
薄暗い月明かりしかないため殆ど赤黒い色など殆ど黒にしかに見えなかった。
博麗の巫女はこのようなことまでしなくてはならなかったのか、と魔理沙は心を痛めた。
実はと言うと魔理沙は弾幕勝負以外で霊夢がどのように妖怪を退治するのかを今の今まで知らなかったのだ。

「それもあるけれど…」

魔理沙は身の毛がよだつ思いであった。人が死に行く姿を見慣れていないわけではない。
しかしそれでも親友が人型の者をてきぱきと裁く姿を見て平気でいられたのならばそれは既に狂気にあるといえるだろう。
それは弾幕勝負とは訳が違う博麗霊夢の、博麗の巫女の存在意義の根底にある本業であった。
だが、何故、私を誘ったのか。今日こんなことがあるならば肉は明日でも良かったのに。それとも急な用事だったのか。
それがどうしても分からずに思考したまま随分と時間が経った頃、霊夢は包丁を地面に置いた。

「こんなもんかしらね」
「 」

既に少女から生気を感じることは出来ない。彼女の命は停止していた。
魔理沙は顔をしかめる。先程まで生きていた少女の助けを求めるような顔が脳裏に焼け付いて離れない。

「死体はどうしてるんだ」
「男の方はそうね、明日にでも山に埋めてくるわ」
「そっちは…処理が違うのか?」

霊夢は魔理沙に視線をぶつける。
心なしか冷めたような物を見るかのような目をしている気がした。
少女にはもう流れ出す程の血も無いようであり、今となっては血の流れすらも停止している。

「肉」
「今この状況で食えるか馬鹿」
「この子が、烏天狗が魔理沙と私の食べた肉よ」
「は?」

意味不明だぜ。そんな反応。
昨日の肉が妖怪? そいつが肉になる? 何言ってんだこいつ。

「何だって?」
「だから、昨日魔理沙が食べたのは烏天狗のお肉で、今日用意するお肉というのもこの子の事なの」
「趣味の悪い冗談だ」
「私、洒落にならない嘘はつかないわ」

そうなのだ。霊夢は冗談を言わない人間ではないが、言って良い事悪い事の弁[わきま]え位はつけている。
そんな霊夢が「私と貴女は妖怪を食べましたし今からそうします」などという嘘をつくだろうか、いやつくまい。
不謹慎にも程があるだろう。あれ? しかし死んだ妖怪の肉を食べることは不謹慎ではないのだろうか。
いやいや私は何を考えている、それは不謹慎云々以前に人としてあってはならないことだ。
それでは霊夢はどうしてこのような事を口にしたのだろうか。何が目的で、どんな理由があって。
魔理沙が思考を回らせているうちに霊夢が別の包丁、いや、鉈を手に取って大きく上に振り上げる。

「お、おい何をして」
「首はとても食べられたものじゃないのよ。

そして首に照準を当てて大きく鉈を振り下ろす、どすん。
馬鹿かこいつは。何をしている、何をしている、どすん。

「馬鹿! やめろ!」
「どうして」
「マジで洒落になってないぜ!」
「当たり前。私は本気よ」

霊夢はまだまだと首に鉈を落とし続ける、どすん。
もう出ないだろうと思われていた血が切り口から再び大きく飛沫を上げた。

「面白くないつってんだろ!」
「笑わせるつもりは無いもの。だから本気。むしろ笑われたら怒ってたわ」

どすん。どろりと固まりかかった糊上の血塊が零れる。

「うくっ…」

魔理沙は胃の奥からこみ上げてくる何かを必死に堪える。
両手を頭上に持ち上げて、全力で握った鉈を首にもう一度振り下ろすと、がきん。
金属と石畳のかち合う音がして、少女の頭が転がった。

「な、何やってんだよ馬鹿野郎…」
「肉が食べたいといったのは魔理沙、貴女よ」
「―――!」

零時間移動。先程まで少女に鉈を振り上げていた霊夢が上半身はそのままの姿勢で魔理沙の前に現れる。
顔面を返り血に濡らした霊夢に、鼻がいつ触れてもおかしくないような距離で睨まれた魔理沙は
腰を抜かしてその場にへたり込みそうになる。鋭い刃のような視線が魔理沙を捉えて離さない。

「だが、まさか、妖怪の肉だなんて、聞いてない…」
「だって言ってない」
「そ、そう、だから、そう! そうだ! ああ、お前の勝手だ、だから、私は、これで、失礼する…」
「魔理沙、貴女がお願いするから思い切って教えてあげたのに貴女はそれを無下にするの?」

今すぐ此処から逃げ出したい気分だったし実際そうしようとした。
しかし足が硬くなって思うように動けなかった。動け私の足と何度念じても足はがくがく震えたままである。
自分はどうしてこんなにも目の前の少女を恐れているのだ。いつもの傲岸不遜な私は何処へ行った。
だが、以外なことに霊夢は魔理沙から直ぐに離れると距離をとった。ただし視線は逸らさずに。

「まぁ、急に言われても吃驚するわよね」

にこりと微笑んで魔理沙から視線を逸らさない。
チャンスだ。魔理沙は思った。この狂った状況から抜け出すチャンスは今しかない。
箒は、箒は何処にある。ぐるぐる回って視野360度全方位を見渡すが無い、箒が何処にもない。何故。

「魔理沙は烏天狗がおいしいと言ったけれど、私が妖怪を食べるのはただおいしいからだけじゃないのよ?」

霊夢だ。箒は霊夢は隠したのだろう。ならばここを抜け出す手段はもはや話術しかない。
そう、霊夢をうまくあしらっておさらばだ。でなければ、私はきっとこの異常に巻き込まれる。

「き、気になるな、どうして妖怪を食べるんだ?お前は」

霊夢は満面の笑みを浮かべた。私は自然に話せているだろうか。

「やっと聞いてくれる気になったのね」
「あ、あぁ、まあ今回の件の言いだしっぺは私みたいなもんだからな…」

こういう気が触れた奴はまともに相手しないに限る。
霊夢を落ち着かせてから首尾よくこの場から立ち去るのが得策だ。その後は紫にでも相談するとしよう。

「私が妖怪を食べるのはね、彼ら彼女らと一緒に人生を歩むためなのよ」

何言ってんだこいつは。白玉楼の奴は別として、死んだ者の肉体はそのまま朽ちて魂は輪廻する。
こいつはそんな事も見落としているのか。やっぱり霊夢は狂ってしまっている。
いつからこんな奴になってしまったのだろうか。それとも知らなかっただけで昔からそうだったのだろうか。

「そういえば、ヴワル魔法図書館で見つけた本のひとつに魔法の概念としてそんなような事がかかれていたような」
「あ! もしかして〔食人思想はどうしてなくならないのか?〕って本じゃないそれ?」
「たしかそれだそれだ。お前パチュリーの所に通ってたのか?」
「通ってるわけじゃないけどどうしても暇な時とか分からない事がある時に使わせてもらってるわ。
 それで偶々その本を見つけてね。食べた人が自分の中で生きる糧となってその魂と供に人生を歩めるって考えに感銘を受けたの」
「へー、成る程な」

正直な話、魔理沙はそんな本を読んだことが無い。
しかし今この状況で霊夢の機嫌を損ねることだけは避けたかった。
この状況で霊夢は目をキラキラと輝かせていた。共感を得られるかもしれないと悦んでいるのだろう。
だがそれはあり得ない。

「しかしまたどうして奴らと一緒に生きようと思ったんだ?」

自分で自分の言っていることに嗤いが溢れ出しそうになる。
殺して共に生きる。言ってることが支離滅裂だ。
霊夢にとってはこれが真実なのだろうが、それは魔理沙の理解の範疇に無かった。

「私は今まで何百という妖怪を裁いてきた。彼らはそれぞれが口々に呪詛を私に向かって吐き続けたわ」
「まあ、殺されるとなればな」
「私は最初の頃は彼らの顔や罪状、発言、場所、名前まで全てを暗記していたわ。
 それくらい人型の物を殺すというのは私にとって大きなことだったの」

しかしそれはおかしくないだろうか?
霊夢がそんなに心優しい者ならば、それこそ死者の肉を口にしたりなどは決してしないはずではないか。
やはり霊夢はここでも矛盾している。魔理沙にはそう思えた。そしてその先が気になった。

「でもね、時を重ねるにつれて、裁きを重ねるにつれて私の感覚はどんどん麻痺していったわ。
 最初は殺しに対する躊躇いが軽くなる程度だったけどそのうち全然嫌じゃなくなってきて
 終には【また?面倒臭いなぁ】ってね。一人の命を奪うのに面倒くさいだなんてちゃんちゃら可笑しいでしょ」

霊夢は自虐するようにハッと笑った。
魔理沙は困惑した。
霊夢は確かに度重なる殺しによってあるべき感性すら殺してしまったようだが今の話から鑑みるに、
そんな自分を客観的に捕らえて嫌悪し、叱咤するくらいの理性は保てているように見える。
だのにどうして今回のような暴挙にでたのだろうか。

「霊夢、お前は人を殺して罪悪感を感じない自分に対する嫌悪感くらいは感じているんだろう?」
「あたり前でしょう」

霊夢の眼光が魔理沙の体中に突き刺さる。
霊夢はこの件に関してかなり敏感になっている。
うまく誘導しなければ霊夢だけでなく魔理沙もただでは済まないだろう。

「そ、そうか。それなら問題ないんじゃないか?」
「何が問題ないというの?」
「お前は妖怪達を忘れないために肉を食うといったが、自分に嫌悪感を抱くという事はつまり
 奴らを殺すことにやっぱり心のどこかで罪悪感を覚えてるという事じゃないのか?」
「…罪悪感を感じる人間が面倒臭いだんて思うかしら。相手の顔を忘れたりするかしら」
「そりゃ数が数だけに仕方ないんじゃないか? 少なくとも負の感情を抱えてる間は立派に人間だと思うぜ」
「…」
「だからわざわざ肉なんて食わなくたって、ちゃんと閻魔様が奴らの魂を正しく導いてくれるさ。だから」
「それは違う!!」

霊夢が物凄い剣幕で魔理沙の胸倉を掴みにかかる。
間違えたか。霊夢の腕を振り払って後ろに跳ぶ。飛び出したいが箒は無い。

「妖怪達の恨みを閻魔が清算したのでは私の犯した罪は償えないわ!」
「お前の罪は、お前が死んだ時に閻魔が善行と照らし合わせて解決してくれるさ!」
「だから他人任せじゃ私が押しつぶされそうなのよ!!」

霊夢が押しつぶされる? まさか、肝心な部分を見落としていたのは、霊夢でなく、私か?
今までは霊夢が狂ってしまったことを前提において物事を考えていたが、まず霊夢がそうなってしまったのは何故か。
それは至極簡単で命を奪う重圧に耐え切れなかったらに違いないだろう。
だから押しつぶされそうだと彼女は叫んだ。
実際、既に彼女の心は半壊状態にある。
そこだ、そこを解決すれば霊夢は救われる?
どうすれば解決できる。
霊夢を助けたい!
魔理沙の思考は既に保身を忘れ、ただ一人の人間の親友を助けることに尽力を尽くしていた。

「そうか、辛かったのか…」
「…ぁ」

魔理沙は霊夢を柔らかく抱きしめた。
霊夢を助けることに目的がすり替わっているとはいえ保身を完全に忘れたわけではない。
しかしそれでも、理性の飛びかけた霊夢に近づく危険を冒してでも霊夢を助けたかった。ただ、それだけの話。

「ぅ、くっ…」

霊夢も魔理沙の背中に手を回した。霊夢の嗚咽が鼓膜に響く。
泣いている。そうか、霊夢には支えが必要だったのか。
ここまでくればもう一息だ。きっと霊夢を救える。

「なぁ霊夢、私はお前の力になってやりたい」
「…魔理沙?」
「どうすればお前の為になれる? なんでも言ってくれ。絶対に力になってやる」

狡猾な魔女であると自負している筈の魔理沙が"絶対"などという
融通の利かない台詞を吐いたことに霊夢は強く心を打たれた。普段の魔理沙では見せてはくれない優しさだった。

「…あなたが肉について知りたいといった時、私は正直ラッキーだと思ったわ。
 自分からでは打ち明けにくいことを相手にせいにしてぶちまけることが出来るって」
「あぁ」
「卑怯よね。『あんたが言いだしっぺなんだから』って無理矢理あんたを引き摺りこもうとしてた」
「でも、お蔭で霊夢が何を抱えているの知ることが出来た。霊夢の力になれるかと思うと私は嬉しいぜ」
「…ばか」
「それで、私はどうすればいい」

とは言ったものの魔理沙の中でも殆どその答えは出てきていた。
恐らく一番最初に自分が危惧したこと、霊夢が一番最初に私に期待したことそのまま要求されるだろう。
もしかして失敗したかな。魔理沙は心の中で思った。
でも、それで霊夢の支えになれるなら、霊夢がこれ以上壊れないで済むのならそれでもいいかな。なんて。

「…魔理沙」

魔理沙の背中を掴む霊夢の力がぎゅっと強くなる。
少しだけ霊夢の背丈の方が高いのでどちらが慰めてるのか分からなくなりそうだ。

「私と気持ちを共感して」
「ああ」
「私の支えになって」
「ああ」
「私と一緒に歩きましょうよ」
「ああ」










「これからお肉を食べる時は二人一緒よ」















「あらあら、萃香に悪臭の話を聞いて遊びに来てみれば面白いことになってるわねぇ」

大妖怪は二人を上空から見つめて呟く。
なんと微笑ましい光景なのだろうかと口の両端が釣り上がるのを感じてひしゃげた扇子で顔の半分を覆った。
くすくすとどうしても笑いが漏れてしまうが、まあこの距離なら気付かれることもあるまい。

「一人の壊れた親友を救うために自分も片足を突っ込むなんて正気の沙汰じゃないわぁ」
「どうされるんですか紫様」
「藍、あなたはどう思う?」
「私には理解しかねます」
「私もよ」
「博麗の巫女が影で魔女と妖怪を食べている…些かまずくは無いですか?」
「幻想郷を支える存在だもの。これくらいで丁度いいのよ」
「左様ですか」

紫は上機嫌に笑う。
藍はあからさまに溜息をつく。

「して、その心は」
「人間って面白いわねぇ」
真心です。初めて一つの作品として小説を書き上げることが出来て興奮しています。
初めての作品で長文に挑んだ時点で覚悟はしていたのですが
テーマの難しさもあってかなりの悪戦苦闘を強いられてしまいました。
どうも理由付けに使った時間が長すぎで、肝心のラストがすこしあっさりしすぎた気もします。
しかしどうにか予定通りの方向性でずれることなく進んだのとりあえずこれにて完成ということで。
感想アドバイス、勿論批判的内容でも大歓迎ですのでコメントを頂けると嬉しいです。それではまた。


コメント番号6.7さんありがとうございます。至急、追記しました。
コメント番号45さんありがとうございます。今更ながら訂正しました。
真心
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コメント



0.2260簡易評価
1.60名前が無い程度の能力削除
誤字>ブワル魔法図書館
たしかパチェの図書館は正式名は不明ですが、曲名からヴワル魔法図書館と呼ばれることが多いみたいです。
4.80名前が無い程度の能力削除
霊夢の心理描写がなかなか面白かったです。
先は正直読めてしまいましたが、面白い話でしたので気になりませんでした。
6.無評価名前が無い程度の能力削除
せめて注意書き書け馬鹿
二度と投稿すんな、気分悪くなったわ
7.90名前が無い程度の能力削除
処女作としてはなかなか良いのではないでしょうか。次回作にも期待しています。
ただ、「グロ注意」とか「カニバリズム」等のタグを付けるか、作品の最初に注意書きを書いておくかした方が良いと思います。グロが平気な人や、私のようなグロ好きな狂気じみた人間なら良いのですが、そうでない人には地雷同然なので。
10.70葉月ヴァンホーテン削除
待ってました。
いや、なかなかに面白かった。どろどろとした空気と、魔理沙の緊張が伝わってくるようでした。
ただ残念なのが、前作と重複してる部分に修正が施されていないこと。前作コメント3の人が言っているところは直してほしかったです。
11.50名前が無い程度の能力削除
題材は良いと思います。
後は、読む側の事を考慮して書いてもらえればもっと良かったかもしれません。文章的な意味で、ですが。
また次も頑張って下さい
13.100名前が無い程度の能力削除
おもしろかった!また書いてくれ!!
14.80名前が無い程度の能力削除
実に面白い。
が、もそっとドロドロとした部分が欲しかったかな。
17.70名前が無い程度の能力削除
グロは忌諱する人も多く最悪クーリエを出入り禁止に成る事も有るので
今後もこの系統で書いていかれるのなら
他の場所での投稿も検討されても良いかもしれません
19.60名前が無い程度の能力削除
誤字報告
>射命丸の方もも

実に面白い。こういった話としての面白みのある作品は大いに歓迎できる。
真相なんかわかりきっているのに読み進める手が止まらず、答えが出てきて頃には「ほら、やっぱり!」と叫びたくなる爽快さがある。典型的な結末もいい味わい。
20.90名前が無い程度の能力削除
それほど狂っているという印象はなかったですね。
真性なら「面倒くさい」の後に罪悪感なんてつかないでしょうし。
でも面白かったですよ。
21.100名前が無い程度の能力削除
綺麗事だけでは片づかない幻想郷もいいですね
なんだかんだ言いながら霊夢の為に行動できる魔理沙が良かったです
24.70名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
博麗の巫女としての役儀とそれを通して変わっていく霊夢、それ故の常軌を逸した行動。
こんな可能性もあり得るだろうなぁと素直に思えました。

(以下小姑タイム)
ただ惜しむらくは、現代の話になるまでのほんの短い文章の中だけでも、助詞やら接続詞やらがおかしいものが多分に含まれていることでしょうか。
まさかこの後もこんな頻度で出てくるのか?と思っていたら案の定でしたので、正直読み辛かったです。
初書きで興奮していたということですし、自分の文章を読み返すのはちょっと気が引けるとか色々あるとは思いますが、もう少し推敲をお願いしたいと思います。
28.80名前が無い程度の能力削除
面白かった。重いテーマだけど、真理描写が妙に真に
迫っていたのが良かった。一気に読んでしまいました。

救いがあるのか無いのか微妙なところですが、魔理沙
の行動は素晴らしかったと思う。
40.90名前が無い程度の能力削除
霊夢の最後の呼びかけに,魔理沙がなんと応えたかを想像する余地がうまく残った様に思います。

食う食われるの関係を逆にした妖怪退治の舞台裏には,ほのぼの話ばかりではなく,
このSSの霊夢のように,葛藤しながら死刑執行をするような場面もあるのかも知れませんね。
暗部を描く作品は賛否あるかと思いますが,非常に興味深い題材だと思いました。
43.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
こういった、幻想郷をほのぼのの視線だけではなく、
別の視点から考察する作品というのは、新しい観点を提供して頂け、面白いものです。
妖怪ってどんな味するんでしょうねぇ。
人間は、羊の味だとか、豚の味だとか言われることがあるらしいですが。
目の筋肉、心臓、内臓、ペニスといった部分が美味しいらしいですね。
ちょっと食べてみたいな。
44.90名前が無い程度の能力削除
これは……なんなんだ。
グロくて悲しくて。
とにかく一気に読み進めてしまいました。
45.無評価名前が無い程度の能力削除
誤字報告
>>突如投擲されたした多量の
→突如投擲された多量の
>>霊夢はが怪我した
→霊夢は怪我した
>>夕食を見て気認識してしまった
→夕食を見て認識してしまった(?)
>>霊夢自信の首を
→霊夢自身の首を
>>弾幕に多い尽くされているのだ
→弾幕に覆い尽くされているのだ
>>魔理沙も同じ地点を中止する
→魔理沙も同じ地点を注視する
>>口々に私は呪詛を私人向かって→?
>>肝心な部分を見、落としていたのは、
→肝心な部分を見落としていたのは、(?)
48.90リペヤー削除
れ、れいむがこわれた……まりさまで……
そして紫まで怖すぎますよ!
まさに「本当は怖い幻想郷」なお話でした。
53.90名前が無い程度の能力削除
東方は何でもある点に驚愕しました。
お陰で「取り敢えず否定だけする」
なアホな事は絶対にしないようになりました。
68.100絶望を司る程度の能力削除
……oh,なんてこった!