今日も上白沢慧音の寺子屋は大人気だ。朝早くから人妖区別なく、楽しくも厳しい授業が始まる。
「さて、みんな揃ったかな? 元気かー!?」
「「はーい、元気です!」」
「はいは~い。元気元気ー」
子供たちの歓声に間延びした声が混じる。慧音が教室を見渡すと不審人物が1人、一番後ろにちょこねんと座っていた。
「なんで貴女が居る……聖白蓮。ここに命蓮寺の連中は来ていないぞ」
「えっと、それが……、村紗たちに言われまして……」
曰く、封印から開放されたばかりの聖は、千年の時差ぼけ状態だから少しリハビリが必要、ということらしい。
「そんなわけで、今日一日、人里で一番の教え上手な上白沢さんの元で学んできなさい、だって」
丁寧に紹介状を持ってきていた。訝しげに書状を開くと『聖をよろしくお願いします』と書かれている。
「ふむ……」
慧音はしばらく考え込む。この僧侶、他意は無さそうだ。自分も里の子を預かる身、万が一があっては困る。白蓮の表情を窺う。曇りない瞳で自分を見つめている。純粋な、まるで子供のような瞳……。
「まぁ、大丈夫だろう。いいか、みんな! 今日はスペシャルゲストで命蓮寺の白蓮さんが授業に参加する。みんな仲良くしてあげるように」
「「はーい」」
◇ ◇ ◇
一時間目、英語。幻想郷でスペルカードルールが流行りだしてからというもの、英語が授業に積極的に取り入れられるようになってきた。スペル宣言するとき横文字の方がなんかかっこいいじゃない、と紅魔の主が慧音に進言したのだ。目まぐるしく変化する情勢のなか、世界に通用する幻想郷っ子を育てるためにも英語の教育が必須、と考えていた慧音は独学で英語を習得したのだった。
「じゃあリピートアフタミー。ジス、イズア、ペン」
「「ジス、イズア、ペン!」」
とはいえ、ネイティブな発音に触れていない慧音も発音は不得意であった。そんな中、白蓮はきらりんと瞳を輝かせて張り切る。
「あっ、英語なら得意よ! This is a pen」
「ほぉ……中々、発音が良いな」
流暢な白蓮の発音に慧音は感心した。
「ええ、封印されている間は外の様子を断片的にしか見ることができなかったから、自然にね。黒船の皆さんの会話は中々面白かったわ」
千年もの間、島国の地下に封印されていたのだ。新しいモノ、新しい刺激には興味津々だったのだろう。慧音もまさか白蓮がこんなに英語に精通しているとは思わなかった。しかし、これは正しい発音を子供たちに学ばせる、ひいては自分も学習するチャンスだ。
「よし、じゃあみんな、白蓮お姉さんのあとに続けて発音してみよう!」
「私、張り切っちゃいます」
白蓮は得意満面に胸を張り、英語を紡ぐ。
「Geisya,Harakiri,Ninja!! Hahaha,funk,fujiyama,Yeaaaahhh!!!!」
「おいこらちょっとまて」
「開国シテクダサーイ」
「「開国シテクダサーイ」」
◇ ◇ ◇
二時間目、歴史。慧音の最も得意とする分野である。寺子屋には数千年を生きる大妖怪や不死人が時折ふらっと遊びにやってくる。そのたびに、生きた歴史に触れ、認識を新たにするのが慧音の楽しみだった。白蓮は一体どんな歴史を知っているのだろうか。考えただけでも涎が出てしまいそうだった。
今日の話は大江山、鬼と人の最後の合戦。
「あっ」
「ん、どうした白蓮」
「なんて……こと! 坂田さんが……おっとこまえ!?」
ガクリ、と慧音は肩を落とした。教科書の姿絵はあくまでも想像図。
「まぁ、有名な絵師に10割増しくらいで描かせたんじゃないか?」
「そうね。そうよね! 愛すべきあの団子ッ鼻が無いなんて嘘です!」
「そ……そうか。みんな聞いたかー」
今日の豆知識。坂田金時は団子鼻。
「それに、大江山のお話だって、人間が一方的に虐殺しただけなのに……」
「私が教えているのは人間の歴史だからな。勝者に都合良いように描かれるのが歴史というものだ」
だからこそ、慧音は歴史に隠された事実を求めるのだ。矛盾と矛盾を突き合わせ、歴史の真実を暴く。
「私は、妖怪の復権を望みます!」
白蓮の説法によって歴史の時間は終わってしまった。
◇ ◇ ◇
三時間目、算数。生活に必要な、最低限度の算術を教えるのがこの授業だ。本来、究めれば学問に値する難解なものであるが、そんなのは高度な弾幕を展開するときや式を扱うときにしか使わない。人里の子にはおそらく無縁だろう。
「さんすーさんすー。スイスイ……すーすー」
「寝るなっ!!」
白蓮は授業が始まるや否や寝息を立ててあお向けにひっくり返っていた。静かな寝息に二つの膨らみが上下する。よほど先の授業で体力を消耗したのだろう。千年の時差ぼけは伊達ではなかった。慧音はいや、せめてうつ伏せになれよ、と思わず心の中でつっこんでいた。
「ふぇ……、あ、ごめんなさい。ちょっと難しいお話だったから。えっと、大正でも暮らし?」
「それを言うならデモクラシー。それに今は算数の時間だ。七の段いくぞー、みんな!」
「「しちいちがしち、しちにじゅうし、しちさんにじゅういち――」」
「わっ、ちょ、ちょっとまってぇ! しちいちがいち、ひちにじゅうし、ひちさう゛っ」
ブチ。
いやな音が教室に響き渡り、白蓮が口を押さえて悶絶する。鮮血が白蓮の口からボタボタ流れ出て、床を染め上げる。
「お、おい……大丈夫か?」
「だいひょうふー。ひょーひん、ひひひひゃふへんはほほ!」
超人だから大丈夫。と言いたいのだろう。白蓮の意を汲み取った慧音はいい加減めんどくさくなってきたのだった。
「そうか、良かったな」
◇ ◇ ◇
「ごはんっ、ごはんっ! 今日の村紗ご飯は何かしらぁ。パカっと……。おおおぉぉぉぉ!! 季節のお野菜の煮つけに黒豆さん。それにこれは……! ああ、いけない、いけないわ。私は僧侶なのに。けど、村紗の気持ちを無碍にするわけにはいかないわ。極上、芳醇な香りのするゴマダレに……焼き加減はレアね。きざんだ唐辛子がさながら紅一点。ああ、私のお弁当箱に紅が満ちる……」
ぐうぐう鳴るおなかを押さえ、割り箸をパチリと割った。
「その姿、まことに鮮く、焼肉定食であるっ! いざ、南無三!!!」
「うるせえ、早弁すんな!」
-終-
白蓮様の貴重な歴史の授業やネイティブ譲りの英語はもちろん、物の無くし方探し方、年上の親父をうまくあしらう方法、船の操縦法その他もろもろ……
つまりなにが言いたいかというと坂田銀時とペリー自重www
こういうのも有りだねwww
早弁するときの彼女の台詞にニヤニヤしました。
白蓮さんはいいキャラしてるなぁ…
南無三ーッ!
だが・・・それもいい!!
よし胴上げだそれしかありませぬ
可愛すぎるだろホンマw
聖さんかわいいよ聖さん。
胴上げされて笑顔の聖さんが目蓋に浮かびます。
美鈴「誰かに呼ばれた気がする!」
聖お姉さん可愛いなぁw
卒業おめでとう……!