村紗 水蜜(むらさ みなみつ)
Captain Murasa Minamitsu
種族:舟幽霊
能力:水難事故を引き起こす程度の能力
ガラガラガラガラ
「んー、重いなぁ。んしょ、んしょ……。」
白を基調としたセーラー服に胸元には赤いリボン。
幼さの残るあどけない顔立ちに、頭上にはトレードマークの船長帽。
彼女の名は村紗水蜜(むらさ みなみつ)
通り名はキャプテン・ムラサ。
ルナサではない。勘違いしないように。
彼女は朝食に使う井戸の水を組み上げている最中である。
必死になって引っ張るが、満タンになったバケツを吊るすロープは相当重い。
元々、小柄で非力な彼女では中々持ちあがらない。
「こうなったら、一気に……てーい!」
埒が明かないと判断したか、一気に持ち上げようとする。
しかし地上までは上がりきらず、反動で逆に村紗の体がロープに引っ張られる。
「うわ、引っ張られ、わ、わー!」
バシャーン!!!
見事に村紗の体は井戸の中にダイブする。
「うう……またやっちゃった……。」
村紗水蜜。
今日も元気に水難事故を引き起こしていた。
ターゲットは主に自分。
---------------------------------------------------------------------------------------------
結局あの後どうやって出ようか迷っている所に聖が来て助けられることとなった。
村紗はびしょ濡れになって、セーラー服が肌にぴっちり張り付いている。
「……ふぅ。何度も言ってるでしょ。井戸の水を組み上げる時は
無理をしないで他に誰か呼びなさいって。」
「す、すいません聖様。今日こそはと思ってたんですが……」
濡れた自分の状態を気にすることなくぺこぺこと謝る村紗。
そんな様子に怒る気を失くしてしまう。
そもそも聖は本気で怒ってはいない訳だが。
「あと、引っ張られそうになったらロープを離せばいいんですよ。」
「はっ!なるほど!そんな方法があったんですね!」
全く気がついていなかったと言わんばかりの村紗に聖は苦笑する。
「とりあえず着替えてらっしゃい。びしょ濡れですよ。」
「は、はい!」
たったったっと寺に戻る村紗を見て聖は溜め息を一つつく。
聖輦船の船長をしている時は凛々しい姿を見せているのに、
どうして日常生活ではあんなにも抜けた子になってしまうのだろう。
「あの子ももう少し落ち着いて行動すれば良いのに。
まあ、そんなところも可愛いんですけどね。」
さて、とりあえずは水を汲もう。
聖は魔法の力でお手軽に井戸の水を引き上げようとする。
「あー、聖様、駄目です!私がやります!」
「あら、もう着替えてきたの。早いわね。」
「えへへ、もう慣れちゃいましたから。
それよりも!水汲みは私にやらせてください!」
「うーん……。」
聖としてはやらせてあげるのは別に構わないのだが、
先ほどの光景を見ている分どうしても不安が先走ってしまう。
「そうですね、では二人で一緒にやりませんか?」
「え、一緒にですか?」
「はい。貴方だけでは大変でしょう?」
「でも、聖様にそんなことさせる訳には……。」
「いいじゃないですか。私だっていつも頑張ってくれてる村紗のお手伝いがしたいんですから。」
「ひ、聖様……!」
感動のあまり、目を潤ませる。
憧れの聖と一緒に仕事が出来るということで、村紗は俄然張り切る。
「ではいきますよ!」
「はい!」
二人は気合いを入れて、勇ましい掛け声と共に一気にロープを引っ張った。
「いざ、ナムさん!」
「天空×字拳!」
ぐぅううううん!!!
グラリ、
バシャーン!!
……南無三
---------------------------------------------------------------------------------------------
「……で今度は勢いが良すぎて引っ張り上げたバケツが引っくり返ってしまったと。」
「やれやれ、としか言いようがないね。」
「ふふ、私としたとこが年甲斐もなく調子に乗ってしまいました。」
食事の支度をしながら星とナズーリンは呆れ気味に笑う。
聖は特に気にしていないようだが、村紗は二度までも失敗したことで落ち込み、
しょぼんとしている。
「本当にごめんなさい!聖様の服をびしょびしょにしてしまって……。」
「気にしなくていいですよ。服なんて着替えればいいんですから。
それよりも、貴方は大丈夫でしたか?」
「は、はい。平気です。」
「それなら良かった。」
聖は柔らかな頬笑みを浮かべて村紗の帽子を取り、その頭をゆっくりと撫でる。
「あう……。」
「服のことなんて気にしないでいいですから、怪我だけはしないように
気をつけてくださいね。」
「あ、ありがとうございます!」
それでやっと元気になって、笑顔を見せる村紗。
星もナズーリンも一輪も、いつもの光景に皆笑っていた。
朝食が終わり、皆それぞれの仕事を始める。
村紗も船の調子をチェックするために外に出ようとする。
「あ、村紗、ちょっと良いですか?」
「はい、何でしょうか、聖様?」
「ちょっとお使いを頼みたいのだけど、平気かしら?」
「お使いですか?」
「そう。これをちょっと博麗神社に届けて欲しいのよ。」
そう言って、聖は風呂敷包みを取り出す。
「博麗神社ってことは、あの紅白の巫女さんに届けるんですか?」
「ええ。宴会に呼んで貰ったりしてお世話になったし、これから長く付き合う
ことになるだろうから、親交を深める意味合いも兼ねてね。」
博麗神社と言えば、少し前にボコボコにされたあの巫女がいる所だ。
ちょっと怖いなと思ったけど、聖の役に立ちたいという気持ちがそれを上回った。
「分かりました、私に任せてください。」
「ごめんなさいね、貴方にも貴方の仕事があるのに。」
「いえ、聖様のお役に立てると思えばなんてことはないです!
ではすぐに出かけてきます!」
「ふふ、ありがとう。気を付けて行ってらっしゃいね。」
---------------------------------------------------------------------------------------------
お使い自体は想像していたような大きなトラブルもなく、無事に終えることが出来た。
博麗神社で打ち水をしていた所に飛び込んで、思いっきり水が掛かってしまったが些細なことだ。
悪いと思った霊夢が乾くまで居ていいわよと言ってくれたけど、これくらいならすぐに乾くからと丁重に断った。
風呂敷包みの中身は菓子折りだったようで、霊夢は喜んで受け取り、
「ありがと。そっちも来たばっかりで大変だろうけど、頑張ってね。」
と笑顔でお礼を言ってくれた。
初めて会った時は問答無用で弾幕をされたという怖いイメージしかなかったけど、
普段はこんな優しい笑顔が出来るんだなあ、と村紗は感心した。
そんなこんなで村紗は命蓮寺への帰り道を上機嫌で飛んでいた。
(聖様にこのことを報告したら喜んでくれるかな?)
どうやって説明しようか嬉々として考える村紗。
その頬に、ぽつ、と水滴が当たる。
「え?」
空を見上げると、いつの間にか灰色の雲に覆われていた。
ぽつ、ぽつ、と顔に当たる水滴が増えていき、そのまま大雨となる。
ザーーーー!
「う、うわ!何で突然こんな大雨になるのー!?」
慌てて周囲を見渡すが、雨を遮ることが出来そうな建物はない。
仕方なく、降下して森の中で雨宿りをすることにした。
「ふう、ここなら少しはマシかな……。」
木が茂っている為、少なくとも雨に直接打たれることはない。
防ぎきれなかった露が少し垂れてくるが、それくらいは仕方がない。
「はあ、どうして私こんなに水に嫌われてるんだろ。」
誰に聞かせることもなく嘆いてみるが、本当は理解している。
生前から自分は「水」に対して良い思い出が余りない。
川で溺れたこともあったし、水溜りの上に派手に転んだこともある。
だが、最大の水難と言えば、舟が転覆して幽霊になってしまったあの時のことだろう。
その時に、未練と共に身に付けた『水難事故を引き起こす程度の能力』。
自分はかつてこの能力を用いて、たくさんの舟を転覆させた。
そんな日々を終わらせてくれたのが聖白蓮だった。
自分に聖輦船の船長という役割を与えてくれて、呪われた海を捨てることが出来た。
「でも、私の能力なんて聖様のお役に立てないしなあ。」
村紗は聖に、いくら返しても返しきれないほどの恩を感じている。
何とかしてそれに報いたいと思い、聖を復活させる為に必死に頑張った。
でも結局、自分はほとんど役に立てなかった。
宝塔を探し出したのはナズーリンだし、飛倉の破片を持った人間を引きいれたのは一輪だ。
星は聖を助けようとする自分達をまとめ上げて、指示を出してくれた。
翻って、自分は何をしたかと言えば……舟を出しただけだ。
それも、聖に与えられた舟を。
結局のところ、自分の能力は誰かを不幸にしか出来ないのだ。
かといって能力を使用しないことは妖怪としての自らを否定することと同義であり、
反動で結局自分が水難に遭ってしまう。
どうしようもないジレンマを感じ、村紗は落ち込む。
そんな村紗に忍び寄る、一つの影があった。
「うらめしやー!」
「うひゃあ!」
木の陰から突然出てきた、変な傘を持った女の子に驚いて尻もちをつく。
その女の子はそんな村紗を見て呆然としていた。
「嘘……。驚いてくれた?驚いてくれたの!?
う、うう……。良かった、まだ唐傘お化けの居場所はあったんだ……。
三日前からずっとこの木に隠れてたのは無駄じゃなかった……!」
何故か妙に感動している様子である。
よく見ると目には涙まで浮かべている。
一方の村紗。
濡れた地面に尻もちをついた為、スカートの部分がまた濡れてしまった。
水の染み込む冷たさが、村紗の心までも冷やしていくようだった。
「う……うう……。」
「え?」
「うわーん!」
「え、ええ、どうして泣きだすの!?」
「うぐ、ひっく、どうして私ばっかりこんな目に遭うの……。」
「あの、えっと、ど、どうしよう。」
急に泣きだしてしまった村紗にどうして良いか分からずおろおろする女の子。
驚いてくれて嬉しかったはずなのに、何故か素直に喜べなかった。
「あ、あの、良かったら入る?」
おずおずと自分の傘を差し出す。
「ひっく、ひっく、うん……。」
そうしてしばらくの間、二人は無言で佇んでいた。
しとしとと木から滴る雨の音と、ぽたぽたと傘から漏れる露の音のみが響いていた。
---------------------------------------------------------------------------------------------
「……落ち着いた?」
「……うん。」
「あの、さっきはごめんね、服大丈夫?」
「うん。ちょっと濡れちゃったけど、大丈夫だと思う。」
傾いたままだった村紗が顔を上げ、女の子の瞳を捉える。
唐突に目が合い、その女の子は少し照れたように顔を赤くする。
(うわぁ、可愛い子だなぁ)
村紗は一目見てそう思った。
エメラルド色の髪の毛。
すらりとした綺麗な足。
何よりも印象に残ったのは、左右で色の違う瞳だった。
左は赤、右は髪の毛と同じエメラルド。
思わず、じっと見つめてしまいたくなるほど綺麗だった。
茄子のような蔕のついた紫色の傘だけはどうなんだろうとも思ったが。
「ねえ、どうしていきなりあんなことしたの?」
怒っているという風ではなく、純粋に疑問といった表情で村紗が尋ねる。
女の子は少しバツの悪そうな表情になる。
「私ね、人を驚かせるのが生き甲斐の妖怪なの。
でもね、昔と違って今の人達って化け傘くらいじゃ驚いてくれないんだ。」
「そうなんだ。」
「だからどうやったら驚かせることが出来るんだろう、っていつも考えてるの。
でも大抵上手くいかないんだけどね。」
「どうしてそこまでして驚かせたいの?」
その言葉に女の子は腕を組んで、首を捻る。
「どうしてだろう?私にも分からない。でもこれが私の生き甲斐だから、
私は多分この生き方を続けるんだと思う。
……まあ、皆もうほとんど驚いてくれないんだけどね。」
自分と少し似てるなあ、と村紗は思った。
「ねえ、私のお話も聞いてもらっていいかな?」
女の子はこくん、と頷く。
「私ね、水難事故を引き起こすことが出来るんだ。
この能力を身に付けた時は、喜んで何も考えずに使ってた。
でもね、今は私を助けてくれた人の為に何かしたいと思ってるの。
だけど私の能力じゃどうしたってその人に恩返しをすることは出来ないし……。
かと言って能力を使わなければ、自分に水難が振りかかるだけだし。
多分、この大雨も私が無意識に引き起こしちゃったんだと思う。
もう、どうしたらいいのか分からなくなっちゃったの。」
溜まっていた自分の気持ちを吐き出すように、村紗は言葉を紡ぐ。
考えがまとまってない為か、微妙に前後の文脈が繋がっていない。
それでも女の子は横槍一ついれず、じっと聞いていた。
自分と少し似てるなあ、と女の子も思っていた。
かたや、自分の能力を使おうとしても使えない妖怪。
かたや、自分の能力を使う意味を見いだせない妖怪。
形は違えど、妖怪としての自分の姿を探している二人。
「おんなじだね、私たち。」
「うん。おんなじだね。」
そうして二人は笑い合う。
どちらともなく、二人はお互いの手を繋いでいた。
繋いだ手から体温が伝わってきて、村紗はもう冷たいとは感じなかった。
「あ、ほら、見て!雨が上がったよ!」
「本当だ!」
今まで間断なく響いていた音が止み、日差しが森に降り注ぐ。
「ねえ。」
「何?」
「――走ろっか?」
「――うん!」
二人は走り出す。
お互いの手は繋いだまま、互いに笑いあって。
走ることに特に意味はない。ただ、お互いにそうしたかったというだけだ。
そうして、森の外まで二人は駆け続けた。
「ねえ、お名前教えてもらってもいいかな?
私、多々良小傘っていうの。」
「村紗。村紗水蜜だよ。」
「水蜜ちゃんって言うんだ。うん、すごく良い名前だね。」
「本当?えへへ、ありがとう。」
森の出口までたどり着く。
そこで見上げた光景に、二人は心を奪われる。
「うわぁ……!」
「綺麗……!」
――見上げた空には、大きな虹がかかっていた――
二人はしばらく虹を見つめていたが、再び向かいあう。
小傘は言おうかどうしようか悩んでるみたいだったが、決心して話し始める。
「私ね、水蜜ちゃんに感謝してるんだ。」
「へ?どうして?」
「だってさ、水蜜ちゃんが『水難を起こしてくれた』から、
私は水蜜ちゃんに会えたし、こんなに綺麗な虹も見ることが出来たし。」
雨があるから、虹も出来る。
村紗はその言葉に思わず泣きそうになるのを必死に堪える。
自分の能力が誰かを喜ばせることが出来るなんて、思わなかったから。
「それにね、何よりも。」
「それに?」
小傘は傘を掲げてくるりと一回転して
「私に驚いてくれたから!」
とびっきりの笑顔でそう言った。
そして二人はまた大声で笑い合った。
「ねえ、小傘ちゃん。」
「何?」
「良かったら、今度遊びに来てくれないかな?」
「いいの?」
「もちろん!」
まだ何かが変わった訳じゃないけど、もしかしたら変われるかもしれない。
小傘の手の温かさを感じながら、村紗はそんなことを思うのだった。
村紗かわいいよ村紗
寝ます
でも村紗かわいいからOK
……私も沈められたい。
それはそうと村紗かわいいよ村紗
村紗もだけど、いじられキャラじゃない小傘というのも良かった。
二次創作で、小傘がちゃんと驚かすことが出来た作品を初めて見たかもしれないw
よかったね小傘ちゃん。村紗のみっちゃんも健気で可愛く書かれてるのが良いねー。
なので問題ナッシングでした。
やばい、みんな可愛すぎるよ!
むらこがってのもいいですね!