藤原妹紅の朝は早い。
まだ透明な朝の日差しが部屋に差し込む早朝、瞼を開く。
窓の外を見やる。快晴だ。木々の枝の隙間から見える空は蒼く広がっていた。
彼女はある日ふと思い立ち、布団を敷いて寝るようになった。故に、彼女は布団の中にいる。ふわぁ、と欠伸をひとつ。上半身を起こし、伸びをして欠伸をもうひとつ。妹紅は布団を蹴飛ばし、立ち上がる。
そして灰がかった色の寝間着をぱっぱと脱ぎ捨て、傍にきっちりと畳まれたブラウスともんぺ(本人は否定する)を手に取り、身に着けた。
着替えを終え、なんとなく構えを取ってみる。正拳突き。朝から調子は良いみたいだ。
部屋を出、すたすたと廊下を進む。そして襖を開け、
「おはよう」
「おはよう、妹紅」
台所に立っていた慧音が返事をする。妹紅は、しばらく慧音の家で世話になっていた。
振り向き様に笑顔と共に飛んできたその言葉は、いつまでも妹紅の心を捉えてやまない。
食卓の上には一通りの食事が整っていた。
お椀から立つ湯気を見れば、作られて間もないことは推測するに及ばない。
生活リズムに合わせて作ってのけることができるのは、おそらく互いのリズムを把握しているからなのだろう。
彼女らは二人で食卓を囲む。
「暖かいご飯だ。いただきまーす」
「いただきます」
妹紅が沢庵を取り、白米の上に乗せてから味噌汁を啜る。しじみの香りが鼻腔を満たして通り抜けてゆく。
やっと、沢庵が口に放り込まれる。白米と共にかきこみ、咀嚼する。
「うん、慧音の作るご飯はいつも美味しい」
「なぁに、この程度なら誰でも出来るさ」
「いいや。この沢庵は慧音にしか作れない。私はこの沢庵が大好きなんだよ」
「嬉しいな。好きなだけ食べてくれ」
「遠慮なく。ああ、それと」
「ん?」
「結婚しよう」
「残念だがー」
「あうん」
妹紅は糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。
目は半分ほど閉じられ、だらしなく開く口が美しい遺体など無いことを語っていた。(後に凍死すればきれいだよ、と当人が言うがそれは置いておく。)
「冷めてしまうぞ」、と慧音が声をかけると死体はすぐに飛び起きた。
「ああ、まったく。慣れないなー」
「これで5回目だぞ。プロポーズ死」
「慧音がオッケーしてくれたらいいのに」
「だからダメだ。それと、これは単なる好奇心だが……」
「なに?」
「どうして死ぬんだ?」
「なんか心のメーターの針が針盤振り切って刺さるんだよね、心臓に」
「えらく具体的だなぁ」
言い終えて焼鮭を頬張る。骨が歯に当たった。舌で硬いモノを押し出し、摘んで皿に返した。
ずずず、と汁を啜る音と雀のさえずりが二人の空間に響く。
小動物のように頬を膨らました妹紅が口の中のものを奥へ押し込むと、次は卵焼きに手を伸ばす。
「ああ、妹紅」
「ん?」
「今日は授業も無いし、何かしたいことでもあるか?」
「ん。わかんない。その場のノリだよね、やっぱ」
「そうか。じゃあ私は歴史書の編纂でもしていようか」
「おっけー」
各々食後の挨拶をし、それぞれの行動に移る。
書物を取りに奥へ行った慧音を見つめながら、畳の上に横になる。頭が落ち着かないので、座布団を手繰り寄せた。
今日の過ごし方を考えてみる。慧音はこれから本を書くから、私一人になってしまう。
アイツのところへなんか行く気は無いし、里に用事も無い。弾幕ごっこ気分でもなければ、修行という気も起きない。
ここで寝ていようか。
慧音が戻る。手には数冊の歴史書があった。だが、興味なげに視線を逸らし、天井を見上げた。
天井に描かれた年月の文様が視線を引き付ける。が、それも数瞬で見飽きる。
落ち着かない視線を慧音の方へやった。まじまじと横顔を見つめてみる。
綺麗だ。無論顔立ちも含むが、どこか、違った美しさを心で感じ取っていた。
細くてしっかりした輪郭。ツンととがる鼻に、少しの紅色を含む大きな黒目。
あの白い肌に触れてみたい。
思うが早いが、既に指を伸ばしていた。
「ん」
ぷに。
「どうしたんだ、妹紅」
「あぁ、暇だったから」
「あー、悪い。何かするか?」
「いいや、いい。暇があったっていいんだ」
「そうか。ならば、好きにしててくれ」
ぷに。
それはとても柔らかかった。女性的な肉付きで、押せば返る弾力と、指をとらえて離さない包容力。
しばし夢中になっていたが、はっと慧音のことを考えるといつまでもしていられなくなった。
そうして、ふたたび横顔を見つめる状態に戻ってしまった。
ふと、慧音が邪魔だと思ったのか、髪の毛を後ろへやる。耳に引っかかった髪は作業の邪魔をしない。
……ああ、なんだろう。あの形の良い耳。普段は隠れている耳が露になって、また欲望が芽生える。
思うと同時に身体を起こして慧音に近寄る。そして耳元で、
「ふっ」
「ひゃん」
「ぷっ……」
「な、何するんだ。びっくりしただろう」
「ああ、可愛い。嫁にしたい」
「冗談は天狗の新聞で間に合ってる」
「そんな軽いものじゃないよ。結婚しよう」
「だからな、それは」
「あうん」
髪の毛を振り撒き倒れる。すでに息は無い。
ただ倒れただけのように見えるが、髪の毛が爆散しており中々不気味な死亡図になっていた。
「起きろ」、ふっと耳に息を吹きかけてやるとゾクゾクと震えながらその死体は起き上がった。
「はい、6回目」
「今度はタイミングが悪かったかなぁ」
「関係ない。いくら絶好のタイミングでも私の心は揺らがんだろう」
「何よ。好きなやつでもいるの?」
「いいや。そんな理由じゃなくて……」
「じゃなくて、何?」
「言えん」
「だろうと思った。くそー」
妹紅はもやもやした気持ちを抱えながら立ち上がる。
知りたいのに教えてくれない。掴みたいのに届かない。
適当にはぐらかされて、流されてしまう。自分はどうでもいいんじゃなかろうか?
私に優しくしてくれるのも実は面倒なのか?
自身の心ではっきりとそういった文字に表せられるようなことを考えているのかはわからない。
ただ漠然と、もやもやした気持ちを抱えていた。
次に斧を手に取り、
「うおおーっ!」
薪割りを始めた。すっきりしないときには思いっきり体を動かすのだ。せやぁ、とりゃあ、などとどこぞの勇者が修行しているようにも見える。
次々と丸太を立て、続けざまに斧を振り上げ掻っ捌いていく様子はもう鮮やかとさえ形容できた。
「兜割りぃ!」
高飛びからの急降下振り下ろしである。バキィ、と乾いた音を立てて、最後の木が割れる。
「ふう、一仕事終えちゃったよ」
「お疲れ様。そうだな、こんなにも天気がいいんだから表へ出てみよう」
「ああ、それはいいね」
「少しばかり準備の時間をくれ。妹紅は縁側で休んで待ってるといい」
「はいはーい」
と、慧音が台所へ向かっていった。することは思案するに及ばない。決まっている。
それはまた、妹紅が期待していたことでもある。縁側で足をぶらぶらと揺らし、徐々に色づき姿を変える秋の木々を見つめていた。
慧音は手早くそれを終えると、私室のある方へ行き、帽子を持ってきた。
「ほら、妹紅も」
「ああ、ありがと。持って来てくれたの」
慧音から布を受け取る。それは、いつも着けている自分のリボンであった。
後ろ手にリボンを結わえようとすると、手になんだかひやりとするものが触れた。
「結んでやる」
何だかとってもほっとした。その手が髪の毛をかきあげる度に心がむずむずする。
細い指が髪の間をすり抜け、ふわりと揺らして離れる。それが幾度か繰り返される。
それはたまらなく幸福で、永遠の半分をくれてやってもいい程に心地よかった。自分一人じゃあ体現し得ないのがまたもどかしい。
髪が結わえられる。至福との離別に、思わず懇願の音をあげてしまった。もっと、なんて欲張りな言葉なんだろう。
「甘えん坊さんだな」
この幸福が続くならそれでもいいな、と彼女は思った。
「あー行きたくないーもっとー」
「どうしたんだ、急に。せっかくお弁当も作ったのに」
「んー。じゃあ行こう」
「別に家で食べてしまってもいいのだが」
「いいや。お弁当は家で食べるものじゃないでしょ」
「そうだ。弁当とは、持ち運んで家の外で食べるもののことを指すのだからな」
「んー、まあそれが正しいんだけど。なんていうかね、まあいいか」
太陽が空のてっぺんに達しようかという頃、家を出る。
行き先は、近くの草原。少しばかり森の奥に進み、開けた場所に出るとそこがそうだ。
周囲は森がうっすら暗くなる程度の木々が並んでいる。向こうを見れば小さく見える樹が草原の広さを理解させる。
びっしりと茂る短く青い草が日光を反射して、さながら光る草原のようだった。
草原の緑と空の蒼の生み出すコントラストが非常に心に染み渡る。二人が自ずと足を運ぶ訳はここにある。
「いいなあ、いつ見ても。私はこういうのが大好き」
「同感だ。心が洗われるように美しいところだ」
「さてと!それじゃあ……」
「ああ」
「へへっ、いただきまーす」
慧音が持ってきた鞄から取り出されたシートの上に包みを並べ、我先にと妹紅はそのうちの一つを掴み取る。
がっつくな、という慧音の言葉は聞こえているのか定かではないが、綻ぶ彼女の顔を見ていると咎めることができなくなってしまっていた。
包みを開けば、出てきたのはおむすび。塩にぎりと、梅。おかかも少しだけ。区別なんて付けなかったからどれを引くかはわからない。
妹紅の引いたのは、梅。
「この梅には優しさが足りない!」
「ん、酸っぱかったか?蜂蜜梅の方がよかったかな」
「私は蜂蜜梅の方が好きかな。だけど慧音が紫蘇派なら両方作ればいいと思う」
「そうはいかんのだ」
談笑する二人、一人は口をすぼめて泣いて笑った。
腹も膨れて満足した彼女らは日の光の下で脱力しきっていた。
倦怠感から及ぶものではなく、それは生物の多くにおいて至極当然なことであった。
自分の眼に映る光景と、優しく(時に荒々しくもあるが)、包み込むように照る太陽。
そして、それを欠けては何物でも足り得ぬ相手と共にその身で感じているのだ。
「……えいっ」
「おやおや」
慧音にしな垂れかかっていた妹紅が離れたかと思うと、今度は体を倒して自らの頭を慧音の腿の上に乗せた。俗に言う膝枕である。
正座して佇む慧音は、少しばかりの驚きのあと、妹紅の額を撫でた。
若干の幼さを残した小さな顔。大きな瞳に丸みを帯びた鼻。ぷくりとした唇は健康的なピンク色で、穢れを思わせるものではなかった。
頬を撫ぜ、顎まで指を沿わせてみる。少々顔に赤みが差したような気がした。
「さっきの続きをしてやろう」
「ん」
髪をさらりと撫ぜる。生え際を撫でてやると、もぞもぞと体をくねらせる。
掬ってみれば綺麗な白髪である。つやつやとしており、手入れは行き届いているように思えた。
「きちんと手入れはしているみたいだな」
「慧音に触ってもらえるから」
「そうか」
「あ、」
でも、汚くすれば慧音に洗ってもらえるかな。慧音は苦笑した。
不意に、びゅうっと強い風が二人を襲った。慌てて鞄を抱え込む。
大地の息遣いが荒くなり始めた。先ほどまでは穏やかだった天候が今はもうである。自然とは、いつも気まぐれだった。
「いつも自然は気分屋さんだな」
「そうだね」
「仕方ない、帰ろう」
強風に煽られながら、二人はその場を後にする。
里に着く。少々髪やらが強風の所為で乱れてしまっている。それをさっと手で軽く直し、家の方へ歩いていく。
「妹紅、今日はどうするんだ?」
「家に帰ろうと思う」
「そうか。少し寂しくなるな」
「いつも一緒じゃない。寝る家が違うだけだよ」
「それもそうだな。じゃあ、今日は泊まっていかないということか」
「うん。今日は家に帰って竹細工でもして……かな」
まだ日照の強さに陰りのない時分、数日振りに妹紅は自宅へと踵を返す。
後ろ手に手を振り、慧音に別れを告げた。
◇◇◇
幾百幾千の気が遠くなる程の年月を重ね
彼女と出逢ってからいくつもの四季を巡った
桜を肴に美味い酒を共に潰れるまで呑んだ
汗水垂らし泥まみれになって畑いじりをした
落ち葉を焚きつけて芋を焼いて共に食べた
共に作ったかまくらで餅を焼いて腹を暖めた
ある、夜空にまんまるの月が浮かんだ日の夕刻。妹紅が袋を携えて里守の慧音の家までやってきた。
「おいす」
「おお、妹紅。よく来たな」
「今日はお土産つきよ」
カサカサと音のする白い袋を掲げて言う。柔そうな袋の中には、それに反して中々に重量感のあるものが窺えた。
そしてそれを取り出して、見せた。
「ふふっ。ワイン」
「ワイン?それはまた洋風なものだな。紅魔館なんかで見かけそうな代物だ」
「とは言ってもコンビニで買ってきたんだけどね」
てへ、とちょっぴり舌を出して笑う。それから、慧音がにこりと微笑み
「うむ。今日は洋風でいこう」
「おー!慧音の作る洋食なんて楽しみだなぁ」
「なるべく美味くなるように手を尽くしてみる」
「私も手伝うことにするよ」
白いエプロンに身を包んでうきうきとした様子で台所に立つ妹紅。
……ややあって、料理が仕上がった。少々炭っぽい臭いが漂うのは火を扱う彼女が慣れないことをしたからである。
決して、料理が下手というわけではない。
「……」
「ま、まぁ慣れというのはとても大切なことでな」
「うう……ごめんね、慧音」
「謝るな。手伝ってくれただけで嬉しいぞ」
「そう?」
「ああ」
「よかった」
「ところで……ハンバーグって洋食なの?」
「今更何を言うんだ。決まっているだろう」
「ずっと和食だと思ってた」
「確かに、普及率を見れば勘違いしてもおかしくはないか。定番だからな」
芳しい匂いのする料理の盛り付けられた皿を食卓へ運ぶ。
てきぱきと並べ終えて二人は向かい合って座った。
「いただきます!」
「いただきます」
きちんと手を合わせて言った。
そして箸を手にとって、ハンバーグを一口大に分けて口へ運ぶ。
「美味しい」
「よかった」
「……私は箸を使ってる。つまり、これは和食といってもいいんじゃない?」
「……箸は決め手じゃあない。まず国外に起源を持つその根本は揺るがないわけだ」
「んあ、難しくなりそう。まぁ美味しければどっちでもいいか」
えらく簡単な話の終結だった。物事にあまり深く執着することが少ない妹紅らしい終わり方といえるだろうか。
次に開けたワインをグラスにとっ、とっ、と注ぐ。なんとも、全てが日本らしい家によくある日本の食卓の上では、それは明らかに浮いていた。
「ぷっ、合わないね」
「ああ……まぁ、雰囲気はともかく味の相性は悪くもないだろう」
果実の芳香がふわりと広がって、後にツンとした酒の臭いがやってくる。
それを軽く空気と混ぜた後、くいと軽く飲んでみた。
「……」
「ん、美味いな」
「……本当に?」
「……まぁ、宴会で飲んだ日本酒の方が好きだが……」
「ああ、私も実はそう思った」
小さな声で本音を吐いた。
やはり、彼女らは根っからのこの国の人なのだ。
「何、新鮮だぞ。こういうのもな」
「ちょっぴりあいつらの気分が味わえたかもね」
「ああ。吸血鬼というのはいつでもこんなものを飲んでいるのか……?」
少々疑問に思いながらもちびちびとそれを呑む。嫌いではないが、日本酒の方が大方口に合うのである。
しばし無言の時が流れる。
食物を咀嚼する音と、食器の触れ合う音しか聴こえない。
沈黙を破ったのは、妹紅だった。
「慧音」
普段することのない神妙な顔つきで、厳かにその名を呼んだ。呼ばれた慧音はというと、その目で返事をしていた。
「これから言うことはすでに解かっていることかもしれない」
「慧音」
「一万年と二千年前から愛してる。結婚しよう」
「……答えは──」
「ノーだ」
「あうん」
張り詰めた空気がいっきに泡沫の弾けるがごとく放散した。
数分を待ち、起き上がった妹紅が言う。
「なんでなのさぁ」
「どうしても、なんだ」
「慧音、わかってるんだろ……」
「何のことだ」
「これは、これは……」
「百万回目の告白、ってことか?」
「……」
「わかってる。初めての告白から今の今まで、全て覚えてる」
「忘れるものか。日に何度も迫ってきたり、今日も来るかと思えば一週間以上顔を出さなかったり」
「大雨でずぶ濡れになって、仔猫のように震える妹紅がか細い声で告白してきたこともあったな。あれは辛かったぞ」
「だったらどうして!」
「それだけの時を経てもわからなかったのか!!!」
「っ!?」
穏やかだった慧音がいきなり激昂したものだから、妹紅は驚いて後退る。
「お前は永遠の時を生きる人間だ。そして私は所詮人より永く生きる程度の人間」
「私には命の灯火が消えてしまう時がやがて来るんだ。それは、別れだ」
「妹紅。お前はきっと悲しんでくれるだろう。だけど私はそれが辛い」
「そう、結ばれてしまえば切り離されるときの痛みも増すのだ」
「わかってくれ、」
そう、言い終わり掛けた時。
「ビビってんのか」
「え?」
「そんなくだらねーこと考えてたのか?」
「くだらなくなんかない!」
「そんなもん一万二千年前に置いてきちまったよ!!」
「!」
「人を失うことの恐怖なんてどっかに置いてきちまったよ」
「今だよ。未来と過去の狭間、今は一瞬しかない」
「今を生きているんだ、私は。いつまでも今を生きている」
「その今を、一瞬をとても快いものにしようともがいて生きてきた」
「お前と過ごした時はどんなに素晴らしかっただろう!ああ、生きているって素晴らしい」
「そう、感じさせてくれたんだ。私の心はお前を求め続けたんだ」
「わかりやすいように話してやろうか。失う恐怖より生きる喜びの方がでかいんだ」
「お前と生きる時は何物にも変え難いんだ」
「慧音、そこに並べた理屈なんて私の前では意味を成さないぞ」
怯み、目を潤ませた彼女が一転、瞳に輝きを取り戻してこう返した。
「慧音は苦しいことなんか考えなくていいんだ」
「妹紅……」
「ねえ、慧音。こんなこと話したのって初めてだよね」
「……」
「私は今すっきりしてる。何もかも吐き出した感じ」
「ああ……」
「慧音。何を隠しているの」
「!」
「本心を聞いてない」
「……言うぞ」
「うん」
「っと、その前に」
「ん?」
「隠し事をしていたお詫びだ」
「~~っ!?で、で、でこちゅ……」
ぷしゅう、と妹紅が真っ赤な顔から湯気を立てて卒倒した。
そこに続けて慧音が言う。
私の一生に一度だけの我儘を聞いてほしい。
恋って、楽しいな。
そう、とても恥ずかしいことを言っているような気がするが……
結婚って、終着点な気がするんだ。
だから私は、今のままがいい。今を生きたい。
このまま妹紅と過ごしていたいんだ。
だからこれからも、よろしくな、妹紅
百万回と一回死んだ妹紅。
<了>
欲を言うと、もう少し展開があればよかったかな・・
タイトルが素敵