朝、目が覚めると我が姉、綿月豊姫お姉さまがブリッジしながら私の顔を覗き込んでた。
……って、なんでよ。何なの? この意味不明な朝の目覚め。軽くトラウマになりそうなんだけど。
「お姉さま、何してるんですか?」
「あら、おはよう依姫。見てわからない?」
わからないわよ。きっと私達の恩師であられる八意様ですら理解不可能だと思う。
一体どこをどう考えたら、この状況を見ただけで理解が出来ると思うのか、是非とも問いただしたい。
あとお姉さま。腰をぐいんぐいん回すの止めてください。はしたないです。
「ごめんなさい、わかりません。あと、どいてください」
「何よー、一発でわかってほしかったわ」
「わかるわけないじゃないですか、意味不明すぎます。いいからどいてください」
「もう、しょうがないわねぇ。それじゃ、教えてあげるわね」
「……お姉さま、せめてキャッチボールしてくれませんか? 主に言葉の」
にっこりと満面の笑みを浮かべるお姉さま。それはいいのだけど頭に血が上ってるのか顔が真っ赤になって危ない感じになってる。
それでも、まったく持って私の話に聞く耳持たないのだから尚の事たちが悪い。
はぁっ……と、小さくため息をついてお姉さまの話に耳を傾けることにする。
この様子だと、どうにも話を聞いてもらえそうにもないし。
「それで、どうしたんですか?」
「うん、実を言うとね、依姫が上司に言われて大事に保管してた神具、壊しちゃった☆」
てへっと、ブリッジしたままのたまう我がお姉さま。
本人は可愛くしたつもりなのかもしれないけれど、ぶっちゃけブリッジされたままそんなこと言われても正直不気味なだけです。
……あれ、今なんて言ったこの人?
そろりそろりと、部屋の隅に置いていたはずの神具に視線を向ける。そこには見るも無残にも、木っ端微塵になった神具の成れの果てが。
……なんてことしてくれてんの、この人。
「……お姉さま、あれは上司から大切に自室で守っておけといわれたシロモノなんですが?」
「うん、わかってるわ。だからこうやって土下座して謝ってるんじゃない」
ジト目で低い声を出す私に、お姉さまはあっけらかんとした様子でさも当然のように応える。
へ~、そうなんだ。近頃の土下座ってブリッジのことを言うのね。
知らなかったわ、まだまだ私は未熟者なんですね、八意様。
……。
「ゴッドハンドクラッシャアァァァァァァァァァ!!!!」
「ちぶっ!!?」
んなわけないでしょうが!! という心の叫びと共に私の右腕に神が宿り、振りぬかれた拳は遠慮なくお姉さまの腰に抉り込む。
私の拳と神の拳による二重打撃。たまらずお姉さまは奇妙な悲鳴を上げて空高く打ち上げられ、私の部屋の天井をぶち抜きながら空の星となった。
ありがとう、エジプトの神様。遠路はるばるありがとうございます。
はてさて、一体どこまで上空を彷徨っていたのやら、お姉さまはたっぷり二十秒たってようやく空の旅行から帰ってきた。
ズダァァンっと床に叩きつけられ、それでもすぐに復活する辺りはさすがお姉さまと言うべきか。足をガクガクと生まれたての小鹿のごとく震わせながら私の元に歩いてきた。
……ごめんなさい、お姉さま。ちょっとやりすぎたかも。
「ふ、さすがは私の妹。いい右を持ってるわ」
「私は今、お姉さまの妹に生まれたことを心の底から呪っているところです」
しかし、私の傍に来るなりボケるお姉さま。それでさっきの私の申し訳なさも綺麗さっぱり消えてくれた。
全然思いつめる必要もなくなって、よかったって言えばよかったんだけど……それだけじゃ終われない感情の不思議。
小さくため息を一つ付き、私は布団から起き上がると箪笥から着替えを取り出し、寝巻きから私服へと着替え始める。
「それで、どうしてこんなことしたんですか?」
私は呆れを隠さずに、お姉さまにそう言葉を投げかける。
すると、お姉さまはなんだかむーっと頬を膨らませて、すとんとソファーに座り込んだ。
「だって、あれ神具とは名ばかりの盗撮盗聴アイテムなのよ。そんなのが依姫の部屋にあったら、姉としては破壊しなきゃ」
「盗撮に盗聴って……まだ解けてなかったんですか、私達の疑い」
お姉さまの言葉に驚きながら、私は疲れたように言葉を続ける。
疑いというのも、先日の地上の民が月に攻めてきたときのことだ。
地上の民の中に神を使役できる人物がいたようで、連中は神の力を借りてこの月にまで訪れたのだ。
その時に疑われたのが、神の力を行使できる私だった。上からすれば、八意様と親しかった私達姉妹が手引きしたのだと考えたらしい。
まったくもって酷い言いがかりだが、上の考えもわからなくもない。
何しろ、月の都では八意様が反乱の首謀者だという噂もあったのだ。非常に不本意ではあったが、仕方のないことなのだろう。
そう思っての言葉だったのだけれど、お姉さまから返ってきた反応は意外なものであった。
「違う違う、もうとっくに疑いは晴れてるわ。連中はね、盗撮した写真を高額で裏に流してるのよ。自覚ないかもしれないけど、人気あるのよあなた」
「……あー、そうなんですか。出来れば知りたくなかったです」
疑われてた方が何百倍もマシだったと心底思いながら、着替えを終える。
そういえば、あの神具という名のプライバシー侵害道具を渡した上司が異常に鼻息荒くしてたのを思い出す。よくよく思い出せば、目も血走っていた気がしないでもない。
あの時は熱でもあるのかと思ってたけど、そういうことだったのか。完璧にセクハラじゃないのよ。
と、それはひとまず置いておいて、今問いただすべきことは。
「ところでお姉さま、なんで人の箪笥をあさって私の下着を帽子の中に詰め込んでるんですか?」
「え、これ?」
着替える私の隣で、さも当然のように奇行に走るお姉さまに問いかける。
彼女のトレードマークでもある帽子の中には、恐らく私のであろう下着が山の如し。
そして物色を終えたお姉さまはその帽子をそのままかぶり、満面の笑顔で一言。
「裏で売るのよ」
ブルータスお前もか。
「返してください。今すぐ返してください、お姉さま。あとお姉さま、帽子の隙間からはみ出てます、なんか色々」
「えー」
ちょっぴり泣きそうなお姉さまは、心底不満げな言葉を零す。
なんでよ。なんで涙目なんですか。むしろ私が泣きたいわよ、こんちくしょう。
「イイじゃない、依姫。下着の一つや二つ」
「山のようにちょろまかそうとしてる人が何を言ってるんですか。しばき倒しますよ」
「グスッ、どうしてこんなに冷たい妹になってしまったのかしら。お姉ちゃん悲しいわ」
「その下着を戻してくれたら今すぐにでも優しくなります」
ジト目で睨みつけながらキッパリと言葉にする。すると、お姉さまはしぶしぶといった様子で箪笥に下着を戻していく。
一体、どうしてこんなことになっているのだろうか。朝の目覚めから一時間と立たずに気分は最悪に近い。
憂鬱になるなというのは、土台無理な話だ。いくらなんでも幸先が悪すぎる。
「というか、なんで裏マーケットみたいなのがあるんですか。これは、私が直々にそのマーケットを叩き潰さないといけないみたいですね」
「ふふ、相変わらず真面目ね、依姫は」
「当たり前です。ていうか、正直他人事じゃないので」
何しろ、私の恥ずかしい写真やら何やらが大量に流出している可能性があるのだ。放っておくなんて馬鹿なことをするつもりはない。
見つけて丸ごと根絶やしにしてやるわ。首謀者ごと。
そんな誓いを胸に秘め、俄然やる気を出して手に力を込めた刹那。
「んー、でも困ったわねぇ。私が仕切ってるのよねぇ、そのマーケット」
なんて、我が姉はとんでもないことを口走りやがったのである。
ギギギっと、首が軋んだ音を鳴らしながら私はお姉さまのほうにゆっくりと振り向く。
すると、彼女は「あ、やべ」とでも言わんばかりにさっと視線をそらした。
「……お姉さま、どういうことなんですか?」
正直、どうしてこんなに恐ろしい声が出せるのかと、私自身不思議であった。
びくんっとお姉さまは体を震わせ、ゆっくりと視線を戻そうとして、私と視線が合うや否やまたもやさっと視線をそらす。
一体、どうしてお姉さまはこんなことをしてしまったのだろう。何か理由があると思いたい。本当切実に。
そんな私の想いとは他所に「あー、うー」と返答に困っていた様子のお姉さまだったが、やがて私の方に振り向くと意を決したように一言。
「そこに、萌えがあったから!!」
色々最低なことを口走りやがった。
「ゴッドハンドインパクトォォォォォォォォォォォ!!」
「でらべっぴんっ!!?」
私の両腕に再び遠路はるばるエジプトの巨神兵様降臨。
両腕を組み、眼前に突き出すと巨大なエネルギーがお姉さまを再び空高く打ち上げる。
ついでに、エネルギー波はそのまま直進して行き、宇宙を飛び越えて地球に着弾した。
……いけない、加減を間違えた。
地上の民とはいえ、けが人が出ないことを祈るばかりだ。正直、ごめんなさい。
それから、度々ありがとうございますエジプトの神様。こんなツッコミに使ってごめんなさい。
しかし、私の危惧など露知らず、エジプトの神様はフランクにグッと親指を立てると自身の帰るべき場所に帰っていった。
さすが神様。懐が深いわ。
「依姫さま、先ほどすごい音がしましたけど大丈夫ですか!!?」
と、そんな神の慈悲深さに感謝していると、最近私達姉妹が飼い始めた玉兎、レイセンが慌てた様子で私の部屋に入ってきた。
あぁ、駄目だ。ついさっきまで色々疲れる状況だったから、本当に癒される。
「大丈夫よ、レイセン。なんでもないから」
「……部屋中ボロボロなんですが?」
「必要な犠牲だったのよ」
私の遠い目をしながらの言葉に、レイセンはイマイチ納得が行っていないのか「はぁ」と気のない返事を返すだけ。
いけないいけない、月の使者のリーダーたる私がこんな調子じゃ、部下にも示しがつかないわ。
んーっと軽く背筋を伸ばして、気持ちを入れ替える。
「レイセン、裏マーケットって知ってるかしら?」
「あ、豊姫様が仕切ってるあのマーケットですね。私達みんな依姫さまと豊姫様のブロマイド持ってるんですよ!!」
キャーキャー言いながら心底嬉しそうに話すレイセン。ていうか、あなた達も利用者かよ。
その様子に私は何も言えず、天井に開いた大穴からのぞく地球の姿を視界に納めながら、瞳に熱い何かがこみ上げてくるのを感じて涙した。
涙が流れたって仕方ないじゃない。だって女の子なんだもの。ていうか、味方が誰一人いないってどういうこと?
「もうヤダ。この都」
八意様、私は近いうちに其方に行くことになりそうです。
ぶっちゃけ、もう耐えられません。いろんな意味で。
隣ではレイセンが惚けたようにキャーキャー言いながらブロマイドを覗き込み、元凶たる我が姉は今しがたようやく落下して地面に叩きつけられる。
流れる涙は、しばらく止まりそうにはなかった。
……神様、私何か悪いことしましたか?
……って、なんでよ。何なの? この意味不明な朝の目覚め。軽くトラウマになりそうなんだけど。
「お姉さま、何してるんですか?」
「あら、おはよう依姫。見てわからない?」
わからないわよ。きっと私達の恩師であられる八意様ですら理解不可能だと思う。
一体どこをどう考えたら、この状況を見ただけで理解が出来ると思うのか、是非とも問いただしたい。
あとお姉さま。腰をぐいんぐいん回すの止めてください。はしたないです。
「ごめんなさい、わかりません。あと、どいてください」
「何よー、一発でわかってほしかったわ」
「わかるわけないじゃないですか、意味不明すぎます。いいからどいてください」
「もう、しょうがないわねぇ。それじゃ、教えてあげるわね」
「……お姉さま、せめてキャッチボールしてくれませんか? 主に言葉の」
にっこりと満面の笑みを浮かべるお姉さま。それはいいのだけど頭に血が上ってるのか顔が真っ赤になって危ない感じになってる。
それでも、まったく持って私の話に聞く耳持たないのだから尚の事たちが悪い。
はぁっ……と、小さくため息をついてお姉さまの話に耳を傾けることにする。
この様子だと、どうにも話を聞いてもらえそうにもないし。
「それで、どうしたんですか?」
「うん、実を言うとね、依姫が上司に言われて大事に保管してた神具、壊しちゃった☆」
てへっと、ブリッジしたままのたまう我がお姉さま。
本人は可愛くしたつもりなのかもしれないけれど、ぶっちゃけブリッジされたままそんなこと言われても正直不気味なだけです。
……あれ、今なんて言ったこの人?
そろりそろりと、部屋の隅に置いていたはずの神具に視線を向ける。そこには見るも無残にも、木っ端微塵になった神具の成れの果てが。
……なんてことしてくれてんの、この人。
「……お姉さま、あれは上司から大切に自室で守っておけといわれたシロモノなんですが?」
「うん、わかってるわ。だからこうやって土下座して謝ってるんじゃない」
ジト目で低い声を出す私に、お姉さまはあっけらかんとした様子でさも当然のように応える。
へ~、そうなんだ。近頃の土下座ってブリッジのことを言うのね。
知らなかったわ、まだまだ私は未熟者なんですね、八意様。
……。
「ゴッドハンドクラッシャアァァァァァァァァァ!!!!」
「ちぶっ!!?」
んなわけないでしょうが!! という心の叫びと共に私の右腕に神が宿り、振りぬかれた拳は遠慮なくお姉さまの腰に抉り込む。
私の拳と神の拳による二重打撃。たまらずお姉さまは奇妙な悲鳴を上げて空高く打ち上げられ、私の部屋の天井をぶち抜きながら空の星となった。
ありがとう、エジプトの神様。遠路はるばるありがとうございます。
はてさて、一体どこまで上空を彷徨っていたのやら、お姉さまはたっぷり二十秒たってようやく空の旅行から帰ってきた。
ズダァァンっと床に叩きつけられ、それでもすぐに復活する辺りはさすがお姉さまと言うべきか。足をガクガクと生まれたての小鹿のごとく震わせながら私の元に歩いてきた。
……ごめんなさい、お姉さま。ちょっとやりすぎたかも。
「ふ、さすがは私の妹。いい右を持ってるわ」
「私は今、お姉さまの妹に生まれたことを心の底から呪っているところです」
しかし、私の傍に来るなりボケるお姉さま。それでさっきの私の申し訳なさも綺麗さっぱり消えてくれた。
全然思いつめる必要もなくなって、よかったって言えばよかったんだけど……それだけじゃ終われない感情の不思議。
小さくため息を一つ付き、私は布団から起き上がると箪笥から着替えを取り出し、寝巻きから私服へと着替え始める。
「それで、どうしてこんなことしたんですか?」
私は呆れを隠さずに、お姉さまにそう言葉を投げかける。
すると、お姉さまはなんだかむーっと頬を膨らませて、すとんとソファーに座り込んだ。
「だって、あれ神具とは名ばかりの盗撮盗聴アイテムなのよ。そんなのが依姫の部屋にあったら、姉としては破壊しなきゃ」
「盗撮に盗聴って……まだ解けてなかったんですか、私達の疑い」
お姉さまの言葉に驚きながら、私は疲れたように言葉を続ける。
疑いというのも、先日の地上の民が月に攻めてきたときのことだ。
地上の民の中に神を使役できる人物がいたようで、連中は神の力を借りてこの月にまで訪れたのだ。
その時に疑われたのが、神の力を行使できる私だった。上からすれば、八意様と親しかった私達姉妹が手引きしたのだと考えたらしい。
まったくもって酷い言いがかりだが、上の考えもわからなくもない。
何しろ、月の都では八意様が反乱の首謀者だという噂もあったのだ。非常に不本意ではあったが、仕方のないことなのだろう。
そう思っての言葉だったのだけれど、お姉さまから返ってきた反応は意外なものであった。
「違う違う、もうとっくに疑いは晴れてるわ。連中はね、盗撮した写真を高額で裏に流してるのよ。自覚ないかもしれないけど、人気あるのよあなた」
「……あー、そうなんですか。出来れば知りたくなかったです」
疑われてた方が何百倍もマシだったと心底思いながら、着替えを終える。
そういえば、あの神具という名のプライバシー侵害道具を渡した上司が異常に鼻息荒くしてたのを思い出す。よくよく思い出せば、目も血走っていた気がしないでもない。
あの時は熱でもあるのかと思ってたけど、そういうことだったのか。完璧にセクハラじゃないのよ。
と、それはひとまず置いておいて、今問いただすべきことは。
「ところでお姉さま、なんで人の箪笥をあさって私の下着を帽子の中に詰め込んでるんですか?」
「え、これ?」
着替える私の隣で、さも当然のように奇行に走るお姉さまに問いかける。
彼女のトレードマークでもある帽子の中には、恐らく私のであろう下着が山の如し。
そして物色を終えたお姉さまはその帽子をそのままかぶり、満面の笑顔で一言。
「裏で売るのよ」
ブルータスお前もか。
「返してください。今すぐ返してください、お姉さま。あとお姉さま、帽子の隙間からはみ出てます、なんか色々」
「えー」
ちょっぴり泣きそうなお姉さまは、心底不満げな言葉を零す。
なんでよ。なんで涙目なんですか。むしろ私が泣きたいわよ、こんちくしょう。
「イイじゃない、依姫。下着の一つや二つ」
「山のようにちょろまかそうとしてる人が何を言ってるんですか。しばき倒しますよ」
「グスッ、どうしてこんなに冷たい妹になってしまったのかしら。お姉ちゃん悲しいわ」
「その下着を戻してくれたら今すぐにでも優しくなります」
ジト目で睨みつけながらキッパリと言葉にする。すると、お姉さまはしぶしぶといった様子で箪笥に下着を戻していく。
一体、どうしてこんなことになっているのだろうか。朝の目覚めから一時間と立たずに気分は最悪に近い。
憂鬱になるなというのは、土台無理な話だ。いくらなんでも幸先が悪すぎる。
「というか、なんで裏マーケットみたいなのがあるんですか。これは、私が直々にそのマーケットを叩き潰さないといけないみたいですね」
「ふふ、相変わらず真面目ね、依姫は」
「当たり前です。ていうか、正直他人事じゃないので」
何しろ、私の恥ずかしい写真やら何やらが大量に流出している可能性があるのだ。放っておくなんて馬鹿なことをするつもりはない。
見つけて丸ごと根絶やしにしてやるわ。首謀者ごと。
そんな誓いを胸に秘め、俄然やる気を出して手に力を込めた刹那。
「んー、でも困ったわねぇ。私が仕切ってるのよねぇ、そのマーケット」
なんて、我が姉はとんでもないことを口走りやがったのである。
ギギギっと、首が軋んだ音を鳴らしながら私はお姉さまのほうにゆっくりと振り向く。
すると、彼女は「あ、やべ」とでも言わんばかりにさっと視線をそらした。
「……お姉さま、どういうことなんですか?」
正直、どうしてこんなに恐ろしい声が出せるのかと、私自身不思議であった。
びくんっとお姉さまは体を震わせ、ゆっくりと視線を戻そうとして、私と視線が合うや否やまたもやさっと視線をそらす。
一体、どうしてお姉さまはこんなことをしてしまったのだろう。何か理由があると思いたい。本当切実に。
そんな私の想いとは他所に「あー、うー」と返答に困っていた様子のお姉さまだったが、やがて私の方に振り向くと意を決したように一言。
「そこに、萌えがあったから!!」
色々最低なことを口走りやがった。
「ゴッドハンドインパクトォォォォォォォォォォォ!!」
「でらべっぴんっ!!?」
私の両腕に再び遠路はるばるエジプトの巨神兵様降臨。
両腕を組み、眼前に突き出すと巨大なエネルギーがお姉さまを再び空高く打ち上げる。
ついでに、エネルギー波はそのまま直進して行き、宇宙を飛び越えて地球に着弾した。
……いけない、加減を間違えた。
地上の民とはいえ、けが人が出ないことを祈るばかりだ。正直、ごめんなさい。
それから、度々ありがとうございますエジプトの神様。こんなツッコミに使ってごめんなさい。
しかし、私の危惧など露知らず、エジプトの神様はフランクにグッと親指を立てると自身の帰るべき場所に帰っていった。
さすが神様。懐が深いわ。
「依姫さま、先ほどすごい音がしましたけど大丈夫ですか!!?」
と、そんな神の慈悲深さに感謝していると、最近私達姉妹が飼い始めた玉兎、レイセンが慌てた様子で私の部屋に入ってきた。
あぁ、駄目だ。ついさっきまで色々疲れる状況だったから、本当に癒される。
「大丈夫よ、レイセン。なんでもないから」
「……部屋中ボロボロなんですが?」
「必要な犠牲だったのよ」
私の遠い目をしながらの言葉に、レイセンはイマイチ納得が行っていないのか「はぁ」と気のない返事を返すだけ。
いけないいけない、月の使者のリーダーたる私がこんな調子じゃ、部下にも示しがつかないわ。
んーっと軽く背筋を伸ばして、気持ちを入れ替える。
「レイセン、裏マーケットって知ってるかしら?」
「あ、豊姫様が仕切ってるあのマーケットですね。私達みんな依姫さまと豊姫様のブロマイド持ってるんですよ!!」
キャーキャー言いながら心底嬉しそうに話すレイセン。ていうか、あなた達も利用者かよ。
その様子に私は何も言えず、天井に開いた大穴からのぞく地球の姿を視界に納めながら、瞳に熱い何かがこみ上げてくるのを感じて涙した。
涙が流れたって仕方ないじゃない。だって女の子なんだもの。ていうか、味方が誰一人いないってどういうこと?
「もうヤダ。この都」
八意様、私は近いうちに其方に行くことになりそうです。
ぶっちゃけ、もう耐えられません。いろんな意味で。
隣ではレイセンが惚けたようにキャーキャー言いながらブロマイドを覗き込み、元凶たる我が姉は今しがたようやく落下して地面に叩きつけられる。
流れる涙は、しばらく止まりそうにはなかった。
……神様、私何か悪いことしましたか?
よろず屋でのノリが癖みたいになってますね。
そこんとこ意識して強化なり修正なりしていけば更にレベルUPでしょう。
豊姫の言葉や行動とか面白かったです。
さて裏マーケットに行かなくては…
次は太陽神ですか? 天空神ですか?www
しかしよっちゃんは苦労性だなあww
さて、穢れ(煩悩)を発するけしからんブロマイドは回収せねばな……
永遠亭に飛んでったのはインパクトだけで、豊姫は別方向に吹っ飛びました
>「あ、豊姫様が仕切ってるあのマーケットですね。私達みんな依姫さまと豊姫様のブロマイド持ってるんですよ!!」
妹「さま」と、姉「様」の違いが気になる
>「ゴッドハンドインパクトォォォォォォォォォォォ!!」
これ生贄が必要なやつだ