○プロローグ
博麗神社に、じゃらりじゃらりと、雀牌をかき混ぜる音が響いている。
この音は東風谷早苗に、幼い頃から慣れ親しんだ神々の腕の中にいる時よりも、あるいは温かな奇跡の風に全身を包まれた時よりも、遥かに大きな安心をくれる。それは母親の腹の中にいた時に聞いていた音、それに似ている。身体の中に流れる血の音。それは可能性の音なのだ。期待、不安、雀士たちのあらゆる思いを込めて混ぜられる牌が奏でる音は、まるで奇跡のように、どくんどくんと脈打つ命の響きを思わせてくれる。別に奇跡じゃなくてね、あなたがお腹の中にいた間もお母さん達は毎日寝る間を惜しんで麻雀を打っていたのよなんて言われても、その気持ちは消えずにいる。むしろ自分がここに無事に存在していられるという奇跡を噛み締めずにはいられなかった。
実は、世の中の八割くらいは麻雀で回っている。早苗の十数年の、短くはあれど全力で生きてきた人生の、それが結論である。麻雀に勝てばすべての黒は白になる。誰かと意見が割れた時、お小遣いが少ないと思った時、信仰が足りない時──人生におけるおよそあらゆる分岐点は、麻雀によって左右されてきた。あの時神奈子がを切らずにいれば、向こう側を捨てて幻想郷に来る必要も無かったのだ。
それに、こうやって幻想郷という非常識の場所に来てみても、自分はこうやって牌をかき混ぜている。こうなったことにさほどの理由はない。そういえば新参だしまだやったこと無かったわね、なんて言われて隙間妖怪に引っ張られてやって来たは博麗神社、常には無い鋭い雰囲気を漂わせる巫女や魔法使い連中を見てすわ新参イジメかとびくついてみたが、結局はこれである。どいつもこいつも、麻雀が打ちたいだけなのだ。そして、それに真剣になっている。
麻雀。常識の概念結界の外でも内でも変わらない。人間だろうと人間で無かろうと普通に打つようだ。それはつまり、常識だとか非常識だとか、そんなつまらない境に影響されない──もっと深いところで我々に刻み込まれている、いわば真理ではないかと早苗は思うのだ。
示し合わせたかのように、四人の手が同時に止まる。オール伏せ牌での山積みが始まる。
イカサマ無しのこのルールなら自動卓を持ってきた方がよいのではないかと最初は思ったが、なるほどそれはあくまで普通の人間が打つ場合だ。八雲紫。アリス・マーガトロイド。そして博麗霊夢。ほとんど人外にして出鱈目な能力を持った連中を相手にしたこの状況。イカサマ無しとの取り決めがあるとはいえ、自動卓のように自分が見えないところで山を積まれてしまうよりも、すべての牌を常に視界に入れていられる手積みの方が、格段に安心できる。
「さあ、始めましょうか」
八雲紫がにたりと笑う。
ラスはトップの命令を一つ聞く──そんな取り決めは、しかし四人の闘志になんら影響を与えない。
麻雀を打つ。雑念は要らない、ただその一事だけで、自身の持つすべてを懸ける価値があるのだ。
※麻雀を知らない人はこの戦いにはついていけそうにないのでここに置いていきます。
※一応「咲-saki-」みたいな感じで知らない人も楽しめるよう努力したつもりではありますが……。
※インチキ麻雀です。作者の麻雀の程度が知れるかもしれませんが、微笑ましく眺めていただけると幸いです。
※トップはラスをおもちゃにできます。(ただし性的でない意味で)
※25000点持ちの30000点返しで問題ない気がしますが、賭けられてるのはトップがラスで遊ぶ
権利のみなので、30000点返す意味は無いかもしれません。
お賽銭的なものを賭けると犯罪なので賭けてません。
※トビあり半荘戦、和了り連荘。アリアリ、形聴あり、赤は各一枚、喰い替えは無し。西入も無いです。
※頭ハネで、ダブロンは無し。オーラス終了時に同点の場合は、起家から見て上家が上位になります。
※博麗神社ではあらゆるイカサマは禁止とされています。
東家:博麗霊夢
南家:アリス・マーガトロイド
西家:東風谷早苗
北家:八雲紫
観戦者(驚き役、解説役):霧雨魔理沙、洩矢諏訪子
◆ ◆ ◆
○東一局
親:博麗霊夢 ドラ:
霊夢: 25000点
アリス:25000点
早苗: 25000点
紫: 25000点
霧雨魔理沙。本来ならば今アリス・マーガトロイドが座っている位置にいるはずだった彼女が席を譲ったのには、理由がある。東風谷早苗の実力にも興味はあるが、それ以上に興味のある相手がいるのだ。
博麗霊夢。魔理沙が最も頻繁に麻雀を打つ相手であり、最も苦渋を舐めさせてくれる相手である。初めて彼女と麻雀を打ったのは、三歳の頃であっただろうか。自分は魔法を使えず、霊夢もまともに飛ぶことすらできない。命名決闘法案もまだ制定されていない──当時の彼女達の闘争といえば、麻雀の他に無かった。
自分の和了り率や振込み率、和了り役等々の記録、統計を取るようになったのは五歳の頃だ。自身の打ち筋を客観的に見つめ、少しでも高みに達しようとするための努力。しかしそれらをあざ笑うかのように、博麗霊夢は常に霧雨魔理沙の上にあった。何千、何万戦と打ってきた結果、霊夢が自分と戦った時の勝率は七割を超えている──その事実は魔理沙にとって、もはや屈辱という言葉すら生温い。絶望であった。すべてを賭けて乗り越えるべき壁であった。
背後から霊夢の打ち筋を観察する。その決断を下すまでに魔理沙がどれだけの苦悩を経たか、知る者はいない。幾度となく胸とベッドとシャワーを貸したアリス・マーガトロイド、胸は貸さなかったが大量の研究書とベッドとシャワーを貸したパチュリー・ノーレッジ、彼女らをしても、魔理沙が霊夢に抱く気持ちの、ごくごく浅いところまでしか知ることはできていない。それは魔理沙の意地であった。
出会ってから十年以上。なんとなくそれはしたくなかった、と言ってしまえばそれだけの理由であるのだが、十年以上もの間貫いてきた事柄である。
それを曲げ、そうして今、魔理沙は霊夢の背後にいるのだった。
霊夢 配牌
漏れそうになる溜息を、魔理沙は押し殺した。ギャラリーにあらゆる反応は許されない。
それほどに悪くない配牌ではある。だが、特段に良いというほどでもない。魔理沙は、何か期待していたのかもしれない。霊夢には自分が何をしようと及びつかない、いわば天運のようなものがあって、常人とは桁違いの好配牌やツモに恵まれているのではないか。運が多くの要素を占める麻雀というゲーム、自分が勝てないのは当たり前ではないかと、安心したかったのかもしれない。
だが、そうではない。そうではないのだ。
霊夢はを切り出した。東一局の開始である。
アリス 配牌
ツモ
魔理沙は東家と南家、すなわち霊夢とアリスの斜め後ろに陣取っている形である。もう一人の観戦者である諏訪子はその反対、紫と早苗の手を見ている。
自分の代わりにそこにいるアリス。「なら、私が霊夢を倒しちゃおうかな」なんて笑っていた。彼女を応援する気持ちが素直に湧いてくるのは、霊夢が負けるはずないという一種の信頼からきていることも否定はできないが、それだけではないと、魔理沙は思う。
アリスの配牌も悪くはないが、さほど良いとは言えないだろう。をツモってきた手をほんの一秒静止させ、アリスが切ったのはであった。チャンタは見ない。どこかアリスらしいなと、内心で苦笑する。
早苗がほぼノータイムで南、紫がを切る。早苗が麻雀を打つ姿を見るのは初めてであるが、それに意識を向けるまでもなく、また霊夢の番が来る。ツモ、切り。アリスが当然のように引いてきた牌は、。チャンタにこだわっていたならこの時点で大きな痛手を負っていた。流れるような手つきでアリスはを切り飛ばす。
卓上に言葉は無い。雀牌の駆け引きが彼女らの会話だ。
かちゃ、たん。かちゃ、たん。そんな音が何度響いただろうか、魔理沙から見える場の状況が動いたのは八順目であった。
霊夢 手牌
ツモ
捨牌
霊夢:
アリス:
早苗:
紫:
ドラを引いて平和三色ドラ1確定のテンパイ。もちろん霊夢はそれを欠片も態度に出さず、それまでと同じリズムでを切り飛ばす。配牌はそこまでではなかったとはいえ、結局中張牌を一枚切っただけで11600をテンパイである。うげえ、とはしかし声には出さない。
同順、アリスにもテンパイが入る。
アリス 手牌
ツモ
切り、リーチはかけない。両面テンパイとはいえ真ん中に近いのもあり出にくい。早苗の実力が不明ということも、アリスをより慎重にさせたのだろう。当の早苗はをツモ切りした。紫は僅かに口元に笑いを浮かべ、をツモ切る。こいつは二人テンパイに気づいてるのか、そんな予感が胸をかすめた。
そして次順、霊夢のツモはであった。
霊夢 手牌
ツモ
あー、これは振り込んだな。魔理沙は内心で呟いた。
普通に打つならか切り。どちらもアリスに振り込みだ。リーチもかかっていなければそこまで不自然な捨牌も無い東一局の親で九順目、これで以外を切ってて(魔理沙としては切りもありえない、断固として切りであるが)勝てるわけが無い。
だが、霊夢は切った。ほんの数秒を置いてを手に入れ、掴み出したのはドラの。「リーチ」の声と共に場に叩き付ける。唖然とする魔理沙をよそに、ポンの声が響く。早苗が手牌からを二枚倒し、そして切ったのは──であった。
「ロン」
ロン
目を見開く早苗と対照的に、霊夢は和了りに沸くことも無く、どこか低血圧を思わせる半眼で、裏ドラを確認する。「裏無し……3900ね」
呆然とする早苗と、魔理沙も、おそらくはアリスも同様のことを思っているだろう。紫はくつくつと笑い、魔理沙と同じ観戦者である諏訪子は、片眉を上げていた。
こんな妙な打ち方をする奴だっただろうか。魔理沙が記憶を探っている間に、早苗は点棒を取り出し、霊夢の前に置く。霊夢がそれを取ったのを確認すると、ふうと一息つき、黙って手牌を潰した。魔理沙はちらりと、早苗の手を視界にとらえた。おそらく、それはこのような形であった。
(ポン)
タンヤオドラ5の延べ単テンパイ。を除いて安牌も無いこの状況。が通り、も四枚見えている。自分も同様に打ち、同様に振り込むだろうと魔理沙は確信した。跳ね満を逃したこんな振込みを後に引かない切り替えの良さから考えても、早苗は少なくとも人並みには打てる。あの状況でアリスへの振込みを回避した霊夢が異常なのだ。
「今日は、珍しいギャラリーが見てるからね」
言って霊夢は、魔理沙に振り返る。悪戯っぽい笑みをちらと向けて、再び卓の三人に向き直った。
計りかねてはいるが諦めてはいない、必死に頭を回転させているであろうアリス。こんな程度じゃ心は折れないというように好戦的な笑みを返す早苗。楽しそうに、愛おしそうに霊夢を見つめる紫。まだ、勝負は始まったばかりだ。
「初めての早苗には悪いけど──本気で潰すわよ」
(東一局一本場に続く)
◆ ◆ ◆
○東一局一本場
親:博麗霊夢 ドラ:
霊夢: 28900点 (+3900)
アリス:25000点
早苗: 21100点 (-3900)
紫: 25000点
『ツモ! メンピン一発ツモイッツードラ2……8000オール!』
『とーんーだー』
『アリスって本当に強いわね……』
それは、遠い遠い昔の記憶。まだアリスが幻想郷に来ていなかった頃。
アリスにとって麻雀とは、絵合わせに過ぎなかった。他人の手を、仕草を、捨牌を見る必要など無い。アリスを勝たせていたのは、ただただ豪運。信じがたいほどの配牌とツモで誰よりも早く和了り、ごく稀に先にリーチがかかっても、手なりで切っていっさい振り込まず、追っかけリーチで吹き飛ばすことが常だった。
その頃に自身を他の者がどう呼んでいたか、思い出すたびにアリスは苦笑せずにはいられない。
──神に愛された子、か。
そしてその苦笑は、今この時も同じだった。
博麗霊夢。神どころか幻想郷そのものに愛されているような相手だ。
東風谷早苗。正真正銘、神を愛し、愛されている少女だ。
八雲紫。この幻想郷においては、ほとんどこいつは神に近い位置にいる。
この中で神という言葉に最も遠いのは、間違いなく自分だろう。
既にアリスの中から去ってしまったもの。他を寄せ付けぬ強運。幻想郷に来ることで失くなってしまったそれが顕在なら、あるいは、この連中を手玉に取ることも容易かったのかもしれない。
けれどアリスは、これでいいと思う。苦戦を予感させる、今の状況。これもまた麻雀だ。耐え忍び、考えに考え、一手一手に思考をつぎ込み、そうして創り上げた手で勝つことの楽しさ。他者の思考を読み、知り、理解しようとする楽しさ。誰しもがそうしているのだという高揚感、一体感。何も考えずに打っていたあの頃とは違う。麻雀とは、一人遊びではないのだ。
霊夢は言った。珍しいギャラリーが見ているから、と。
けれどそれは、アリスも同じだ。麻雀の楽しさを教えてくれた奴が、後ろにいる。自分の手を、思考を、すべてを見ているのだ。
魔理沙と出会って、そのおかげで知ったやり方で。自分のやり方で、戦い抜いてみせる。
人形遣いアリスの、それが決意だった。
アリス 配牌
ツモ
霊夢の切りに合わせて、を切る。早苗はを切り、紫はをツモ切った。
次順、霊夢はを手出し。アリスのツモは。
まだ二順目。しかし、もう二順目だ。場を眺めるように視線を卓に釘付ける霊夢、その顔を、アリスはちらと見やる。それは、覚えがあるものだ。
かつての自身。絶対に和了れるという確信。ただいつものように、何も気にせず打っている、それだけでもう負けるはずが無いという目だ。
アリスは、この局の自身の和了りの可能性は限りなく低いと受け入れた。少し考えて、を切る。
早苗が、左端からを落とす。それをアリスは見ている。霊夢は見ていない。霊夢は頓着していない。まったく気に留めていないのだろう。
自分が一順目に右から二番目の牌を切ってそれがであったことも。二順目に切ったが一順目時点での最右端だったことも。先の局で一順目に切ったが、理牌の時点で右から三番目だったことも。三番目に切ったが理牌時点で右から二番目だったことも。七順目に切ったが、理牌時点で最右端だったことも。先の局での霊夢の和了り牌の並びが、萬子、筒子、索子の順であったことも──。
気にする必要が無い。絶対的強者は、他者を見ずに麻雀を打つ者は、そんなことを気にしないのだ。
確信があるわけではない。零や百でない、間違いの入り込む余地のある事柄に決断を下すのは、結局のところ、勘だ。魔理沙と出会ったことでアリスに生まれ、そしてこれまで育んできた、大切なものだ。
紫はをツモ切り。霊夢はを手出し。アリスはをツモ切り。早苗はを手出し。紫はをツモ切り。そして霊夢はを手出し。
そのは、最右端だった。
アリスはツモってきたドラのを手に入れる。
アリス 手牌
ツモ
迷いは無かった。一人で遊んでいた頃なら、絶対に切らない牌。アリスの切ったに、早苗はまったく反応しなかった。違いますよ、と笑っているようにすら感じた。早苗は、(5)をちらりと目を向けることすら無くツモ切りした。それはまるで、念を押しているかのように見えた。
アリスは、霊夢を見る。相変わらず、ここに自分しかいないかのように卓上を見つめている。打っている相手のことなんか見向きもしない。霊夢を倒す算段がこんなにも堂々と組まれているというのに、気づいていない。
霊夢はを手出し、一順ツモ切ってからリーチをかけた。
捨牌
霊夢:
アリス:
早苗:
紫:
早苗は訝しげにしているようだが、アリスにはなんとなしにわかる。何もしなければ、おそらく霊夢は次の順で一発ツモる。
アリスは確信していた。かつての自分とまったく同じかわからないが、霊夢は似たような感覚を持っているに違いないと。絶対的強者として、かつての自分と同じように、慢心しているに違いないと。
アリスはもう、何をツモってきたのかも見ていない。その手にかけるのは。早苗が三順目に手出しした、その時より右側にあった四枚の牌。これであたらないという確証は無い。だが──。
「ポン!」
アリスの指がまだ牌をほとんど隠している、そんなタイミングでの発声と共に、早苗は切り。これでテンパイだ。霊夢の視線を感じる。驚きを含んだ視線だ。どうしてそこで躊躇い無く生牌が切れる、とでも言いたげな──。
「ロン……7700の一本場は8000」
霊夢がツモ切ったに、早苗が手牌を倒した。
(ポン) ロン
早苗と、そしてアリスを霊夢は睨みつける。「い……」と言い掛けるが、ぎりと歯を噛み合わせてそれを止めた。おそらく「イカサマだ」とでも言おうとしたのだろう。それはある意味で正しく、またある意味で正しくない。故にアリスも早苗も平然としている。
なるほど、ここ博麗神社において、すべてのイカサマは禁止とされている。(紅魔館や地霊殿など、イカサマの類が公然と認められている場所もある。が、そうするとどちらも館の主が反則的に強くなってしまうので幻想郷の少女達からの人気は低い)
たしかに、アリスと早苗がアイコンタクト等々の通しをあらかじめ決めておき、完全なるコンビ打ちで霊夢一人をむしろうとしたならば、それはイカサマとの誹りを受けることになるかもしれない。だが、そうではない。二人とも、ただ牌を切っていただけだ。お互いがお互いの意図を推測する形で、通じ合っていただけだ。これをイカサマと主張したところで、霊夢に理は無い。
──本当は、あなただって聞けたはずなのよ。
卓上での会話を。牌を通したやり取りを。
麻雀の何を楽しむか、それは人それぞれだ。しかし、おそらく霊夢は知らない。一人で踊ることしか知らずにいる。以前のアリスと同じだ。
「さあ、東二局よ」
できることなら、教えてあげたい。それ以外の世界を。霊夢が知らずにいる、他の人と踊る緊張感。お互いがお互いを知ろうと強く求めるゲーム。麻雀の楽しさを──。
(東二局に続く)
◆ ◆ ◆
○東二局
親:アリス ドラ:
霊夢: 19900点 (-9000)
アリス:25000点
早苗: 30100点 (+9000)
紫: 25000点
霊夢 配牌
東二局、ほとんど十三不塔に近い霊夢の配牌を見て、ここまで落ちるものかと魔理沙は舌を巻いた。霊夢の秘密は、運の良さに類するものではなさそうだとの確信を強める。おそらく霊夢はこの局、ほとんど何もできないだろう。今の霊夢は、一時的ではあろうが、麻雀の神に見放されている。
麻雀の神。それは、たしかにいるのだ。信仰が高すぎてハイになったかと思えば否定の念が強すぎて夏の雪女状態だったりと、躁鬱が激しい。……とは諏訪子の言だ。硬派を気取っていて誰ともつるまない、かと思えばなんだかよくわからない基準でその辺の誰かに一目惚れしたりと、忙しい神様であるらしい。麻雀の神とてたかが神、諏訪子や神奈子らを見ていると、多少の好き嫌いは仕方ないかと思えてしまう。
麻雀の神は麻雀が行われているどこにでもいて、麻雀が行われているどこにもいない。気まぐれに降りてきて、雀士達をもてあそんでいく。
魔理沙の見立てでは、いま標的にされているのは、霊夢ではなく──。
アリス 配牌
積み重ねてきた経験が、その手の気配とでも言うべきか、ほとんど確信に近い予感を伝えてくる。
この(ドラ)は、癌だ。これが重なることはまず無い。この手を真っ当に和了るためには、必ず切らなくてはならなくなる。
それに共鳴するように、この一順目の時点で、切れないという予感がある。二つの予感は本質的には同じものだ。他家が持っているから自分には集まらないし、切れないのである。
その予感の元は、早苗の手。その気配。
早苗はおそらく、先の局で、アリスの観察能力について学習したのだろう。理牌が不自然だった。そうした振りだけで、理牌自体していない可能性が高い。
しかし、慣れてないそれが裏目に出たのだろう。傷があった。自身の風牌ドラ二枚重ね。他家には扱いずらく、かと言って不用意に切ると鳴かれてインスタント満貫。それが、その武器であるのかはわからない。だが早苗はたしかに、バラバラの手牌の中で、二枚を他より強く確認していた。
魔理沙が気づいているのだから、アリスが気づいていないはずが無い。それが必ずしも南二枚である確証はないが──アリスは黙ってを切った。絶対に切れないと判断したか、あるいは自身のテンパイまで待つのか。
早苗、紫もを手出し。霊夢がツモってきた、場に既に三枚切れたを見て、国士にもいけなさそうかと魔理沙が不憫に思った次の瞬間、「ポン」と早苗の声が響き渡った。霊夢が切ったを早苗が鳴いたのだ。そしてを手出し。アリスにとってはツモを飛ばされた上に早苗が和了りに近づく、最悪のポンである。ここで早苗に和了られると、勢いをつかせてしまう。
次順、アリスはをツモって切り。早苗はをツモ切り。さらに次順、アリスはこの手の急所といえたを引き入れ、一向聴となった。
アリス 手牌
しかし次順、早苗は何かを引き入れ、を手出し。手が進んだ。一向聴か、場合によってはテンパイか。
もはやアリスと早苗の一騎打ち。アリスはを、早苗はをツモ切り。を引くことができればアリスの勝ちだが──魔理沙が思っていると、その南は、意外なところに舞い込んできた。
霊夢 手牌
ツモ
霊夢はを切らない。を切り飛ばす。
だがこうなると、早苗がを二枚重ねていると仮定した場合、アリスに和了りは無い。霊夢がこの手でドラを切ることは無いだろうし、当然ながら早苗も切らないからだ。
もちろんそれをアリスに伝えることは許されない。霊夢の挙動にほんの一瞬の反応を見せた(しかしそれは、おそらく魔理沙でしかわからない程度のものだっただろう。他者の挙動を観察するアリスは、自身の挙動にも注意を払っている)ことを考えると、もしかしたら霊夢がを持ってきたことには感づいているかもしれない。感づいていても、どのみちを切ることはできない。
アリスがツモってきたを即座に切る。
早苗は、ツモってきた牌にほんの数秒の思考を与えた。アリスの手牌に、アリス自身に目を向け、ほとんど睨みつけるような視線を向け、そして──ツモ切った。だった。
次順、アリスはをツモった。これでを切れば待ちのテンパイ、で高目三色である。
アリス 手牌
ツモ
捨牌
アリス:
早苗:
紫:
霊夢:
。
は切れるのか。
アリスは親の仇でもあるかのように早苗の手牌を見つめた。そして捨牌の。あの時早苗には選択肢があった。早苗にはの対子がある。その仮定が正しいとするなら。早苗は何を迷ったのか? アリスは早苗の手牌をじっと見ている。きっと、魔理沙には見えないものが見えている。アリスの方が観察力があるからというだけではない。違うのだ。観客席と卓上では違う。卓に実際に座っている彼女らにしか見えないものが、たしかにある。観客席からでは聞こえない声が麻雀にはある。アリスはそれに耳を傾けているのだ。
早苗の手牌には幾通りもの可能性がある。しかしアリスが切る牌は限られている。アリスの答えは単純にして明快だった。アリスは──早苗の安牌を切った。
早苗はをツモ切り。この順目での和了りは無かった。
しかし次順、アリスは当たり前のようにをツモる。魔理沙も予感していたことだ。こうやって雀士をあざ笑うのが、麻雀の神様は大好きなのだ。
もはや死んだ手。未練は無いとばかりに──早苗の安全牌を落とす。そして早苗は、でツモ和了りを宣言した。
(ポン) ツモ
東ドラ2の1300・2600。限りなく大きな和了りである。なるほどな、と魔理沙は納得した。
。あの2をツモった時点での早苗の手牌はこのような形になる。
(ポン) ツモ
この手、和了りきることだけを考えたら切り以外に無い。六順目、の三門張。既に多数が捨てられている薄い待ちというわけでもない。 では、なぜ早苗は2を切ったのか? 霊夢のように、が来ることを予想したとでもいうのか?
答えはアリスの手牌である。アリスがを処理しきれずにいたことを、早苗も勘付いていたのだ。アリスにを切らせないために、アリスを殺すために、待ちを維持できるが待ち牌数も少ない切りを選んだのである。そしておそらく、アリスもまたそれに気づいていた。もしも早苗が三門張に受けていたら、間髪いれずに南を切り飛ばし、4000オールをツモ和了っていただろう。
まるで蛇のような執念深さ。抜け目無さ。既に新人扱いなどない。魔理沙は早苗を、ライバルたる一人として認めていた。
「さあ、東三局ですね」
点棒を受け取り、早苗が笑顔で手牌を崩す。
麻雀の神様。この局でそれに試されていたのは、実はアリスではなく、早苗だったのかもしれない。
(東三局に続く)
◆ ◆ ◆
○東三局
親:早苗 ドラ:
霊夢: 18600点 (-1300)
アリス:22400点 (-2600)
早苗: 35300点 (+5200)
紫: 23700点 (-1300)
「ロン」
──東風谷早苗からすれば。
その局はその声で始まったと同時に終ったようなものだった。はっと夢から覚めたように、声の元を見やる。
何が起こったのかわかってはいても飲み込めないままで、八雲紫が手牌を倒すのがやけにゆっくりに見えた。
紫 手牌
ロン
「8000」
麻雀に絶対は無い。しかし麻雀に潜む魔物は、しばしば「この牌姿なら絶対に勝てる!」という甘い幻惑に雀士達を誘い込む。「絶対」とは、安心なのだ。それは思考の放棄。常に他家の様子を目に入れ、自身の手牌と見比べるプレッシャーからの解放。それは安らぎなのだ。
そして、本来それが存在するはずのないこの戦場だからこそ、その誘惑に囚われる。
アリスと力を合わせて霊夢を殺した。そのアリスにも競り勝った。紫は来ていない。これはいけるかもしれない──そんな早苗の予感、いや期待に、少なくとも配牌は、そしてツモは応えていたのだ。
早苗 配牌
打、ツモ、打、ツモ、打、ツモ、打、ツモ。テンパイにとって打として、ムダヅモなしで五順目親のタンヤオドラ4、テンパイ。
噛み合っているとの認識。これはいけそうだとの予感。さらに次順、をツモるに至って、早苗は自身の勝利を確信した。
早苗 手牌
ツモ
切りでの五門張。リーチの声と共に切ったに、しかし下家が手牌を倒したのだった。
早苗はその瞬間、自分が他家の捨牌などをまったく見ていなかったことを知った。いや、視界に入れてはいた。それについて考えることをしていなかった。自分の手牌しか頭の中になかった。
捨牌を見ていたところで、これには振り込んだ可能性が高い。しかし、それは問題ではないのだ。早苗は自身の両頬を叩き、気合を入れた。まだ勝負は半分も過ぎていない。いくら配牌に、ツモに恵まれようと、油断などもってのほかだった。
「はい」
点棒を紫に渡す。これで自分は原点からやや浮きの二着。授業料は高い。
早苗は自身の物覚えの悪さを呪う。今まで、似たような状況──自分の手に溺れ、他家を見なくなったがために負けた──に遭遇したことは二度や三度ではない。それは、雀士達に付きまとう病だ。一生離れられない宿敵だ。そのくせ気を抜くと視界の外へと隠れ、油断したところをブスリと刺してくる。
早苗の敵は卓上の三人だけではない。自分でもある。自分の手でもある。
この先自分に気の緩みは無いと、早苗は拳を握り締めた。
(東四局に続く)
◆ ◆ ◆
○東四局
親:紫 ドラ:
霊夢: 18600点
アリス:22400点
早苗: 27300点 (-8000)
紫: 31700点 (+8000)
紫 配牌
決して良くはない配牌。九種九牌で流すこともできる。だが紫はくすと笑んで、を切り出した。
八雲紫は、人間だ。ただ麻雀を楽しむ人間でしかない。
妖怪の賢者と呼ばれた八雲紫にとって、麻雀はもはやゲームではない。
紫を知る者ならば、計算能力に秀でた彼女にとっては、ただ計算上最良の牌を切るだけの『作業』だからと理解するだろう。しかし、そうではない。八雲紫に許された身体能力は、牌に付いた人間には見えない程度の傷から、すべての牌を判別することも容易に可能とする。いや、『可能とする』のではない。ごく普通のものとして見え、区別できてしまうのだ。
たとえば普通に目が見える人間であれば、とを見間違える者はいないだろう。それと同じだ。妖怪八雲紫には、小さな傷が当たり前のように、文様のように見え、区別できてしまう。見間違えようが無いのだ。すべての牌を表にして麻雀をしているようなものなのだ。
だから八雲紫は、麻雀というゲームに接する時のみ、人間になる。
『境界を操る程度の能力』はもちろんのこと、自身の妖怪としての身体能力、さらには計算、記憶能力までもある程度封印して、そうして麻雀を行っている。
魔理沙あたりがこれを知れば、全力ではないということに腹を立てるかもしれない。しかし、それが紫の、麻雀へのスタンスだ。麻雀は、見えないからこそ面白い。わからないからこそ面白い。すべてが見える妖怪の立場では楽しくないゲームだと、紫は考える。
八雲紫が麻雀においてあまり良い戦績を残していないことを、多くの者は、ただ手加減しているだけと思っているだろう。それは正しくはあるが、真実ではない。八雲紫はいまこの時、全力で戦っている。自身が人間だったらというIFのもとに人間八雲紫を具現化し、その上で、全力で麻雀を楽しんでいる。八雲紫を暗殺する最高の機会が麻雀の卓の上にあることを、知る者はいない。
紫 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
霊夢の字牌切りの思い切りの良さ、そして彼女の手牌の字牌がもう切れたであろうことも考えると、復調の『予感がする』。
その曖昧な感覚を、紫は愛している。表情には出さなかったが、先ほど早苗から仮テンを和了れた時も、心の中でガッツポーズをした。確実では無いからこそ、得るものに価値があるのだ。
この手牌は三色でいけるのだろうか。純チャンまでいけるのだろうか。胸を躍らせて、紫は東を切った。
その期待に応えるように、次順ツモ、打、さらに次順ツモ、打となる。
紫 手牌
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
純チャン三色イーペーコー。なんと綺麗な形であろうか。あの配牌がここまで化けるなんて!
麻雀をする者が、つい夢に見てしまう美しい形というものがいくつか存在する。いま紫が目の当たりにしているこれもまた、雀士達の無意識にこびりついて離れない形の一つである。(同様のものとして、清一純チャンリャンペーコー平和でドラ無し数え役満! などがある)
そして紫もまた、夢見る少女であった。美しい形に恋する、純粋たる乙女であった。
霊夢のツモ切り、アリスのツモ切り、早苗のツモ切りを経てやってきたを「あんたなんかいらないわよ!」と心の中ではしゃぎながらツモ切ってしまったのも、致し方ないことであっただろう。下家の霊夢がぱたりと牌を倒す音を聞いて、紫は硬直した。
「ロン……3900」
霊夢 手牌
ロン
ちょっと泣きそうになった。こころなしか潤んだ目で、霊夢の牌を見た。
何度見ても、平和イーペーコードラ1、立派な3900である。何度見ても、霊夢の河には無い。文句の付けようのない和了りであった。
いいんだ。これでいいんだ。あそこで平和イーペーなんていかない。あれは切りだ。泣かなくていいんだ。
背後の諏訪子が、ぽんと肩に手を置いてくる。子供みたいに無理矢理振り払って、点棒を払う。受け取った霊夢が言う。
「さあ南場、私の親ね」
ああ、もう南場だ。親が終ってしまった。あれが和了れてればほとんどトップ確定だったのに。ううう。でも大丈夫、オーラスがあるし、まだ点数的にはトップだから。がんばる。がんばれる。
必死に自分に言い聞かせる紫は、心を乱しきっていた。しかしこのままならなさ、不確定感もまた、紫に麻雀を楽しませてくれる要因の一つなのである。
(南一局に続く)
◆ ◆ ◆
○南一局
親:霊夢 ドラ:
霊夢: 22500点 (+3900)
アリス:22400点
早苗: 27300点
紫: 27800点 (-3900)
紫 配牌
早苗が8000の振込みを引きずっていないことを確認し、諏訪子は紫の手牌へと視線を移した。早苗は普通の相手には負けることのない程度の運を持ち合わせているが、いま同卓している相手は普通ではない。事実、現時点で二回和了っているが二回振り込んでもいる。
幻想郷に来て初めて打つ麻雀ということもあり、メンタル面で不安があったが──少なくとも、今のところは大丈夫なようだ。
紫はというと、おそらく前局をまだ引きずっていた。理牌が微妙に遅い。並び替えが終わる前に、他の三人は既に牌を切っていた。
霊夢は、アリスは合わせるように、早苗はである。紫はツモってきたをろくに見ることもなく、霊夢とアリスに合わせてであろう、ちらりと河を見てほとんど手拍子でを切った。
背後で見ていた諏訪子に、何か、ちりっと嫌な電流が走る。紫も一瞬後に気づいたようで、ぴくりと身体が震える。
案の定、と言うべきか。紫の次のツモは。紫はまたぴくりと震え、を切った。次順、ツモ。麻雀の神の人の悪い笑みが見えるかのようであった。
紫はを切る。まだ混一色を見ているのだろうか──嫌な予感を押し込めて、諏訪子はあえてそう考える。
そして次順、ツモ。紫はに手をかけた。その狙いはもはや明らかである。
だめだ。やめろ。しかし諏訪子の心の声はもちろん届かない。紫はを切った。
あるいは、この時他の牌が──たとえば萬子をツモれば混一色という小さな道も見えたのかもしれない。そうでなくとも、次順に『それ以外』の一九字牌をツモれば、混老対々や七対子という細くはあれど現実的な道が見えたのかもしれない。だが次順、紫がツモったのは無情にも──そう、無情にも、であった。
紫 手牌
ツモ
紫は、一を切った。フリテンの国士無双待ち、しかも残りは一枚である。
一順目に手拍子で切っていなければ。あの時、もっとちゃんと手牌を見ていれば。悔やんでも悔やみきれない。しかしそれを必死で噛み殺し、紫はを待っていた。自分のツモ山にあると信じて待っていた。諏訪子が思っていたよりも遥かに、彼女は夢追い人だった。
──まあ、嫌いじゃないけどね、そういうの。
呆れでも、感心でもあるような小さな気持ち。ただ、胡散臭いと思っていた相手だったが、これからはちょっとだけ好きになれそうかななんて、そんなことを諏訪子は思う。敵とはいえ、そのひたむきな姿勢は気持ちいい。さあ、ここからは彼女の戦いだ。がんばれ、と気持ちだけを残す。
見守っててやると言った、自身の巫女がいる。この局に入ってからまだ見てやってなかった。さあどんな調子かなと視線をやる。
早苗 手牌
なんで、こんな……!!
諏訪子はやりきれなさに震えだしそうな身体を無理矢理押さえつけた。できることなら泣き出したかった。天に向けて慟哭したかった。しかし許されない。ギャラリーはものを考えるだけの人形でなくてはならないのだ。
早苗が悪いのではない、それはもちろんわかっている。タンピンドラ1、うまくいけば三色も含むかという文句なしの一向聴、この状況で『三人に通る』を安牌として持っておく判断は、間違いとはいえない。誰も悪くなんてない。麻雀に善悪は無い。本質的には、正しいか間違いかも無いのだ。あるのはただ、勝つか負けるかのみ──諏訪子は、何度も目の当たりにしてきたはずの現実を、必死に飲み込もうとすることしかできなかった。
静かに場が進む。早苗はテンパイしない。ツモ切りを繰り返す。霊夢とアリスも決定的な形にならないようで、手をこねくり回している。紫はすべてに脇目も振らず、ツモ切り、ツモ切りである。紫の河に追加される、、、、。七対子を狙っていけば既に──それらツモ切る牌すら紫にとってあまりに残酷なものであった。諏訪子はついに紫から目を逸らした。
そして十順目──。
早苗 手牌
ツモ
紫 手牌
捨牌
霊夢:
アリス:
早苗:
紫:
早苗の、当然の、必然の帰結として──が切り出される。
紫は、一見すると、何の感慨も無いようであった。しかし諏訪子は知っている。彼女の心は、もう折れそうになっている。当然の結果と笑うこともできるだろう。しかし、紫は、僅かな可能性を信じていたのだ。それに全身全霊を捧げていた──その手が、折れたのだ。
紫がツモってきたは親と早苗の安牌。そのまま切り飛ばす。すると次順、霊夢がをツモ切ってリーチを宣言した。
アリスの手が止まる。を落としてきた早苗もテンパイの気配が濃い。微差とはいえ現状ラスのアリスとしては、どちらにも振り込みたくないところだろう。
アリスはを切った。霊夢のスジ、早苗の現物である。
早苗はそれを鼻で笑うようにして、「チー」とをさらした。喰い替え無しのルールでは切れない。早苗が切ったのはだった。霊夢とアリスの顔色が変わる。妙な打ち方をする霊夢に対し、何の勝算も無しに打てる牌ではないが──早苗の後ろで見ている諏訪子は知っている。このには、何の保証も無い。にもかかわらず早苗は打った。そのことを悟って、アリスと霊夢は驚いているのだ。
早苗 手牌
紫は黙ってベタオリ、霊夢はをツモ切った。和了り宣言はない。ツモ順がずれたからだ。鳴きが無ければ霊夢が一発ツモっていたと仮定すると、アリスの元には霊夢の当たり牌がいったはずで──つまりアリスは霊夢の当たり牌に、見当がついている。
アリスはを、通っていない牌を切り出した。それはを強引に切った早苗が、このあたりの牌を多少余らせているとの配慮からだろう。明らかにサポートしていた。早苗はをツモ、を切り出す。テンパイ。しかもこのあたりは、霊夢の和了り牌ではない。
次順、霊夢は和了ることも振り込むことも無かったが、早苗が自力でをツモ和了った。タンヤオドラ1の500・1000。霊夢にとっては親流れかつラス落ちと、手痛いダメージである。
しかし、トップからラスまで10000点ほどしかないこの状況、まだどうなるかはわからない。しかも──どうやら、紫の精神的ダメージが思った以上に大きそうだ。おそらく次の局は、一人死んだ、三麻も同然の状況となる。今まで以上の乱戦が予想されるのだ。
──八雲紫。早く起きろ。このままじゃまずいぞ。
早苗の味方として、八雲紫はあくまで敵である。だが、彼女が無残に負ける姿を見たくないのもたしかだった。
だがもちろん、卓上に容赦という言葉は無い。点棒の受け渡しが終ると、もちろん休憩など挟むことなく、洗牌が開始された。
◆ ◆ ◆
○南二局
親:アリス ドラ:
霊夢: 20500点 (-2000)
アリス:21900点 (-500)
早苗: 30300点 (+3000)
紫: 27300点 (-500)
麻雀の打ち方は、個人によって千差万別である。
牌効率に従うだけが麻雀の打ち方ではない。「なんとなくこっちの方が来る気がする」といった、理由にもなっていない理由で非効率的な打ち方をする者がいようと、それを否定する権利は誰にも無い。たとえばすべてを勘で打つ者がいようと、それで麻雀を楽しんでいるなら、何の問題も無いのだ。(おそらく勘のみで打つ彼あるいは彼女の多くは、局を重ねるほどに、ある程度の理に沿って打つ者に負け越していくことになるだろう。その、他人より多い敗北──有り体に言えばカモにされているという事実を含めて楽しむことができているのなら、であるが)
そしてここにも一人、理よりも感に信頼を置いて麻雀を打つ者がいる。
牌効率は性に合わない、そんなものに縛られず、自分の打ちたいように、自由に打とう──それが、博麗霊夢であった。
霊夢は、それでも理に拠る打ち手に勝利を重ねた。
それは博麗の巫女としての勘だろうか。
他の三人が普通に打っている限り、どのようにすれば和了りに最も近づけるかなんとなく感じられた。次の順目にツモってくる牌が有効なものかどうか、なんとなくわかる気がした。他人の当たり牌を掴んだ時は、自分の中の何かが注意を促してくれているように思えていた──。
幼少時代の霊夢は、手加減を知らなかった。感に頼る彼女は、理に頼る他人からすれば不自然な打牌で勝利を重ねた。重ねすぎた。麻雀は運に大きく左右されるゲームである。勝ちすぎる霊夢は羨望ではない、疑心の対象となった。イカサマをしてるんじゃないのか。そんな中傷をぶつけられた。
ただ、自分が感じるとおりに。自分が打ちたいように打っているだけなのに。辛くて悲しくて、麻雀を楽しむことなんてできそうになかった。魔理沙に出会わなければ、負けても負けても何度でも挑んできてくれる彼女がいなければ、霊夢は麻雀をやめていただろう。
霊夢 配牌
──このは切れない。
告げてくる直感を、霊夢は信じている。霊夢にとって飜牌のドラとは、一順目の時点で抱え落ちることを決めるか、引いてくるという確信のもとで武器にするか、この局では誰も使えない、または鳴かれても勝てるなどといった感覚に従って適切な場面で切る(ドラの在り処を知らせないことで、他家を萎縮させたり、ドラが山に寝ていると信じさせて夢を追わせたりといったこともできるので、処理する場面はその時々によって異なる)か、といったものでしかない。
来るかもしれない、切れないかもしれない、などといった曖昧な感覚とは無縁なのだ。
その霊夢が、今回、切れないということを感じ取った。誰かが二枚抱えている。そして、切ってしまうとどうにもならなくなる、致命的だと勘は告げているのだ。
霊夢がを切るとアリスはを切り、早苗はを切った。
他家の様子をあまり気にすることの無い霊夢だが、今回は、少しばかり感じるところがある。上家の紫である。
他の二人、いや、自分も含めて三人に比べて、明らかに覇気が無い。前の局で何か大きい手を逃したのか、おそらくは、それを引きずっている。紫は点数的にも二着、できれば一着の早苗から奪うほうが望ましいが──しかし、今の紫はカモになる。霊夢はそう感じていた。
その紫は、第一打──ドラのを切った。んなっ、と霊夢は小さく声に出してしまう。アリスも同様であるようだった。「ポン!」端の二枚を倒したのは、早苗である。
「え、あっ……!?」
しかし霊夢やアリスよりも驚いているのは、当の紫だった。ドラだと確認せずに手拍子で打ったのだろう。心を折られかけた者が同様の無様を晒すのを霊夢が見てきたのは、一度や二度ではない。霊夢には縁の無いことだったが、これもまた魔理沙曰く、雀士に付きまとう病の一つであるのだという。
を鳴き、を切った早苗は、勝ったとでも言いたげな、会心の笑みを浮かべていた。肩を落としてをツモ切る紫から目を逸らし、この悪役顔が、と霊夢は口中で呟いた。
カモとはすなわち、勝利の女神である。うまく利用できた、微笑んでもらった者が勝つ。混一色気配の下家にその色を多数落とす、明らかに飜牌後付けでしか和了れない相手にその牌を切る、そして今回のように、不用意にドラの飜牌を切る──しかし、そんな彼らの行いに愚痴を言ったところで、何も始まらないのだ。弱者がいるなら、普段は出ない牌が出る。その状況を受け入れ、できる限り利用しようと努力するしかない。それができない者もまた、敗者となるしかないのだ。
霊夢はまだ諦めていなかった。たしかに勘は、霊夢が切ったを鳴かれれば勝てないと告げていたが──を鳴かれたのは、紫だ。ツモ順は、運命は、敗北必至の流れからずれている。
勘は、まだ勝てると言ってくれていた。しかしこの勝負には二つのイレギュラーがある。正気を保っていない紫と、殺すべき相手を殺すために小賢しい牌を切ってくるアリスだ。
霊夢はを切った。アリスをちらりと見やる。アリスもこちらを見ていた。アイコンタクトやその他物理的な何かを交わしたわけではないが、それでも、何かが通じ合った気がした。イレギュラーの一つは自分に味方してくれると、霊夢は知った。
紫は、しかし、既に手牌しか見えていないように思えた。ドラを鳴かれたことがショックだったのか、顔を上げて河を見るようにはなったが──あれは、心ここにあらずで打っている。どうやら、この局では何もできないであろう紫が勝負を左右することになるらしい。それを感じ取って、霊夢は僅かに苦笑を浮かべた。
それからというもの、アリスは完全に早苗に合わせ打った。親であるということを完全に見切って、アリスは合わせ打った。早苗はアリスの牌を、チーはもちろんポンすることも無かった。
紫も合わせ打ちに近いことをしているようであったが、あれはおそらく自分を見失っているだけだろうと霊夢は結論付けた。早苗からのチーがあるアリスはともかく、紫がポンまで気をつけたところで効果は薄い。一鳴きされたとはいえベタオリするにはいくらなんでも早すぎる。それならば安手でもいいから速さ重視で打って和了ることを狙った方が勝算が高いだろうに──思っていた霊夢だったが、普段は意識しない場の空気というもの、それが妙であるということを察知して、そうも言っていられなくなってきた。
霊夢 手牌
捨牌
アリス:
早苗:
紫:
霊夢:
萬子が高い。
早苗が混一色まで付けて跳ね満を狙っているという可能性。それは決してゼロではない。満貫でも十分ではあるが、点数というのは持っているに越したことは無い。ドラポンで皆が萎縮しているその隙にと考えても、おかしなことではないだろう。
普通に打っていれば。
自分も早苗もアリスも紫も普通に打っていれば、この局は自分が獲れるという予感がある。自分は普通に打っている。早苗も普通に打っている。アリスもおそらく、親とはいえこの状況では牌を絞るのが、彼女の普通の打ち方なのだろう。
しかし、紫がいる。自分を見失っている紫が。おそらく、普通に打ててはいない紫が。
そしてその紫の手が、ツモって、止まった。
安全牌が切れたか。嫌な予感が胸をかすめる。紫はしばし悩んで、ほんの少し震える手で、一を切った。
ロンの声はかからない。だが代わりに、霊夢の勘が警鐘を鳴らす。この局は、獲られた。勘はそう言っている。おそらく紫が、次に振り込むということだろう。を切ったことで、紫の思考の方向性が確定されたということだ。想像する形としては、たとえばを三枚以上持った上でのワンチャンス切りか。おそらく紫の手には萬子が溢れていて、『普通に』打つと、次で振り込む。
霊夢は唇を噛んでツモ山に手を伸ばす。引いてきたのは、だった。
霊夢 手牌
ツモ
切りでテンパイ。では早苗にはあたらない。それどころか、おそらく自分の手牌に早苗の和了り牌は無い。
だが、テンパイに受けても和了るのは早苗だ。それが、なんとなくわかった。もうどうしようもない。早苗が紫からロン和了り、それで終わりだ。
本当に?
霊夢は、紫を見た。いつも余裕ぶっていて、自分をからかって、抱きついてきたり、抱き締めてきたり、頭を撫でてきたり──そんな奴が、自信を失って、俯いて、ほんの少し震えていて、ほとんど泣きそうになっている。
それが、霊夢には。
本当に不思議なことに、それが霊夢には──なんだか苛立たしくて、悔しくて仕方なかった。
ぎりと歯を鳴らし、霊夢が切った牌。それを切らせたのが自分の中の何なのか、霊夢にはわからない。ただ結果として、河に置かれたのは、ではなくだった。ロンの声は、かからない。
驚きに心を揺らしながら、どうして気づかなかったんだろうと、霊夢は心の中でひとりごちる。
紫に安牌が無いなら、自分が創ってやればいい。敗北の確信は、いつのまにかどこかに消えうせていた。
紫がはっとした顔で、霊夢を見る。その顔が穏やかな笑みに変わるのを見ているのがなんとなく恥ずかしくて、霊夢は目を逸らす。だがその先にはアリスと早苗がいて、二人ともが、どうしてか笑っているような気がした。
アリスは口元を緩めたままで、牌を切る。早苗はしかし次の瞬間には、敵対者としての目で霊夢を見ていた。早苗がツモ切った牌は。既に早苗の河にあるため、安牌を増やすことは無い。だが紫には、既にちゃんと、安牌があるはずだ。紫は、まさしくその通り、を切った。
霊夢は次順ツモ、を切る。残り一枚のカン待ちは、しかし和了れない予感がした。
アリスは合わせ打ち、早苗はツモ切り、紫はを手出し。
そして次順、霊夢はをツモり、静かにを切った。これが完成形だと、確信した。
霊夢 手牌
「……ロン。5200」
倒された霊夢の手牌を、早苗は信じられないというふうに見つめていた。しかしそれもほんの少しの間。ふう、と大きく息を吐いて、点棒を霊夢に渡してきた。
渡された霊夢は、なにか不思議な気分でいた。普段の自分とは違う打ち方。本来ならあの時、諦めてを打っていたはずなのに。勝ちに向かう、という意味では変わらない。けれど自分の中で、何か新しいものが生まれた感覚があった。
ふと上家を見ると、紫は完全復活というように、嬉しそうに微笑んでいた。下家に視線を向けると、アリスは、まだまだ勝負はこれからとでも言いたげに好戦的な笑みをしていた。そして対面には、次は負けないと言うように、意志を込めて見つめてくる早苗がいた。
そうね、と霊夢は手牌を崩す。自分の中に起きた、何かしらの変化。それを考えるよりも前に、今はただ、この最高の戦いを終局へと向かわせよう。
じゃらりじゃらりと、牌をかき混ぜる音が、博麗神社に響き渡った。
(南三局に続く)
◆ ◆ ◆
○南三局
親:早苗 ドラ:
霊夢: 25700点 (+5200)
アリス:21900点
早苗: 25100点 (-5200)
紫: 27300点
かつて外の世界にいた時、早苗が超攻撃型の麻雀打ちであるという事実を知った者は、みな一様に驚いたものだった。誰も彼も、おとなしい性格に似合わないといったようなことを言うのだが、実際に早苗と麻雀を打ってみると、そんなことを言う者はいなくなった。
麻雀において、攻撃力は運、防御力は実力と、早苗は思っている。どんなに良い成績を収めている者だろうと、結局のところ、配牌とツモが振るわなければ和了ることは不可能だ。そこに選択肢は無い。しかし、どんなにひどい配牌とツモでも、振り込まないことはできる。選択肢があるのだ。その選択肢を冷静に選び取る能力こそが実力なのだと、早苗は思っている。
早苗は、自分の運に自覚的だった。それは神からの寵愛を受けているからかもしれないし、あるいは現人神に向けられる僅かながらの信仰ゆえだったのかもしれない。ともかく、早苗は他の人間に比べて異様にツいていた。それも自分の一部と受け入れる程度には、割り切ることができていた。
神の力にしろ、信仰の力にしろ、早苗は、自分の運を信じることに決めていた。盾は持たない。一本の刀を磨き上げて研ぎ澄まして、それのみを武器として敵を狩る。それこそが早苗のスタイルだった。
だがそれも、少しばかり揺らいでいたのかもしれない。
早苗 手牌
捨牌
早苗:
紫:
霊夢:
アリス:
アリスが切ったにどうして自分が発声してしまったのか、早苗自身わからなかった。「ポン」と気がついたときは言葉にしてしまっていて、もうどうにもならない。鳴いてしまったからにはクイタンのみでも和了ってもう一度親をやるしかない。
気圧されているのだろうか。思いながらを切る。すると紫が、見せ付けるかのようにをツモ切った。そして紫は次順、もツモ切り。早苗は鳴かなければ、既にテンパイしていたことになる。どうしてあんな鳴きをしたんだろう。キー牌というわけでもなければドラでもない、クイタンのみに手を限定してしまう、ただ一手を進めるためだけに多くのものを捨ててしまう鳴き。今まで、あんな弱気になったことは無かったのに──。
いや、と頭のどこかが否定する。一度だけ、こんなふうに弱気になって麻雀を打った時があった。それは、まだ早苗が幼かった頃。神奈子と諏訪子、そして母と打った時のことだった。
信じられないほどに負けた、おそらくは今まで生きてきた中で最もひどい負け方をした、あの麻雀。神様をやっつけてやるなんて大口を叩いて、そのくせ振り込みまくって、いつもなら和了れるはずの手が和了れなくて。わけがわからなくて、それまでやったことの無かった飜牌のみの鳴きだとかを繰り返してそれでも和了れないでいるうちに、麻雀が何かひどくおぞましいものに見えてきて、途中で泣いて逃げ出した、あの麻雀。早苗の黒歴史にして、決して忘れられない、そして神奈子も諏訪子もいまだに忘れないでいてたまに早苗と喧嘩した時などに掘り返してくる、人生最低の麻雀だ。
けれども、そのあと。
泣いて布団を被った早苗に、諏訪子と神奈子は言ったのだ。
そんなふうに泣いているのは似合わない。早苗は自分の運を信じて、がつんとぶつかっていけばいい。そうやって麻雀を打っている早苗が、一番楽しそうなんだから。
紫と霊夢はいくらか手を変化させているようだったが、アリスと早苗はツモ切りが続いている。なかなか決定的な牌をツモれない。アリスも鳴かせてくれない。中盤になって早苗が焦りを覚え始めたところで、場が動いた。紫がを切ったのである。
「ポン」
早苗はすかさず鳴いた。これで待ちのテンパイである。
早苗 手牌
(ポン) (ポン)
捨牌
早苗:
紫:
霊夢:
アリス:
この鳴きで、早苗は腹をくくった。自身の手と心中する覚悟。今まで麻雀をする時は常に持ち合わせていた、ついさっきの局でもたしかに胸に抱いていたはずのものだというのに、ひどく懐かしい感じがした。
自分は、間違えたのかもしれない。ただの事実、結果論かもしれないが、を鳴かずにいれば、和了っていた。
後ろで見守ってくれている諏訪子。視線を向けることはしない。ただただ、思い出す。
涙でぐしょぐしょになった自分を抱いてくれた、暖かな手のことを。
間違えたとしても、これで終わりではない。たとえこの局が流れても、南四局があるのだ。あの時もそうだった。南三局に諏訪子に振り込んでもう親も無く、そのまま泣いて布団に飛び込んで、けれど神奈子と諏訪子の腕に抱かれて呼び戻されて、まあそれはそれとして最後までやろうねと席に座らされて南四局を始められて、そして役満をツモって逆転してやったあの時も。
麻雀に、奇跡はある。
信じゆく者にもたらされる奇跡。強き者にもたらされる奇跡。その存在を、早苗は知っている。
アリスのその和了りが、早苗を揺るがせることは欠片も無かった。
霊夢のような異常な者に限らず、麻雀には、おかしな感覚が働くことがある。ふと切った牌、それから指を離したその瞬間にそれが当たり牌だと察知する、そのような妙な感覚の経験がある者は少なくないだろう──早苗も、そうだった。
一を河に置き、指を離す直前に覚えた、これは誰かの当たり牌だという感覚。その通りに、アリスが手牌を倒す。
「ロン。5200」
自分の感覚が研ぎ澄まされていくことを早苗は感じ取っていた。おそらく次は、次の局では、牌を掴んだ時点で察知できる。何か不思議な、ゾーンに入りゆく感覚。麻雀の高みだ。
ただただ無心で、奇跡を疑いなく想う自分がそこにいた。
アリス 手牌
ロン
背から感じる諏訪子の視線。それが心配を含んでいるような気がして、大丈夫ですよと、早苗は笑みを作る。
5200を支払う早苗の心は、晴れやかですらあった。この場で自分は大切なものをまた忘れかけて、そして思い出した。
幻想郷だろうと外の世界だろうと、自分は自分。ただ、貫き通すだけ。
自分は、幻想郷でも変わらず麻雀をやっていける。そんな気がした。
(南四局に続く)
◆ ◆ ◆
○南四局
親:紫 ドラ:
霊夢: 25700点
アリス:27100点 (+5200)
早苗: 19900点 (-5200)
紫: 27300点
オーラス。オーラスである。
点数状況によって雀士たちの悲喜こもごもを見ることができるオーラスであるが、この場において、少なくとも『悲』である者はいなかった。もちろん誰もがトップを、トップのみを目指している。他人のリーチなどなんのその、誰もが攻撃姿勢をとり、ラス落ちもいとわず、ただひたすらにトップを目指して打つこととなるだろう。ペナルティの無い二着や三着で満足したり、とりあえずペナルティありのラスさえ回避できれば良い、などといった者はこの場にいなかった。
点数状況は、なかなかに複雑である。
霊夢は、トップになるには出和了りだと2000が必要になるが、ツモの場合、一飜のみの300・500でも良い。この場合、霊夢、アリス、紫の三者が26800で並ぶことになるが、霊夢が起家であるため、この場合は霊夢がトップとなる。しかしできるなら二飜以上を作りたいところである。流局時にも場合によってはトップになれるが、それは条件が厳しいため、あてにするべきではないだろう。
アリスは、ただ和了れば良いという立場である。一飜でいい。しかしこれは裏を返せば、和了らなければトップは無いということでもある。アリスが得意とする、他者をコントロールして調子の良い者を殺すといった手は使えない。一切の小細工なく、自分が和了らなくてはならない。流局した場合に紫がテンパイしていない、かつアリスがテンパイしていてもトップであるが、これをあてにするのは少々不確実か。
早苗は、トップと7400差、二着と7200差である。リーチ棒などを考えなければ、出和了り7700以上、ツモだと1600・3200以上を考えるのが現実的か。言うまでもなく、他の三人よりも条件が厳しい。苦難の戦いを強いられることになるだろう。
紫は、現状トップではあるが、あまりに微差である。アリスや霊夢の一飜や二飜で逆転するようなトップに、余裕など欠片も無い。流局時にテンパイしていればそれでもトップであるが、点差的にリーチがかけられないという不利を含む状況でもある。場合によっては、テンパイ速度よりも役を作ることを重視しなくてはならないだろう。
紫 配牌
霊夢 配牌
アリス 配牌
早苗 配牌
オーラスは、紫の(ドラ)切りで始まった。
この微差において、ドラのが意味を成すのは早苗に対してのみである。赤牌が含まれているとはいえ、ドラ無しで逆転の点数を作るのは難しい。しかし、早苗が自身の風牌でないを鳴いた場合、その手作りの方向は著しく限定される。混一色か、チャンタか、飜牌か、それ以外か──いずれにしても、牌を絞るのは主に上家であるアリスの仕事になる。もし鳴かれても、アリスに苦労してもらえばいい。それは八雲紫らしいといえばらしい考え方であった。
それぞれが和了りに向かって貪欲に手を進めていく。ツモって切る音だけがよどみなく流れていく中、五順目で早苗の手が止まる。
早苗 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
この局面でドラを重ねられる。しかも赤牌が一つ。切りづらかった飜牌のも、霊夢が切り飛ばした。
霊夢が何を感じ取って麻雀を打っているのかはわからない。だがその切りや三順目の切りは、他家を楽にさせるものだと、気づいているのだろうか?
──気づいてないんでしょうねえ。
早苗は微かに笑んで、を切る。
先の南二局。霊夢の中の、何かが変わったような印象。けれどそれは、おそらく、まだ変化の始まりでしかない。まだまだ霊夢も自分も、これからだ。
戦いは中盤に差し掛かろうとしている。七順目、「失礼……」と手を止めた霊夢は、ここが分水嶺だと感じ取っていた。
霊夢 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
普段なら、切りで平和に向かうところだ。だが、感覚は、平和を誰かから和了れると伝えてくる。誰かから、だ。ツモではない。感覚に従って和了っても、トップは無い。リーチをするのは躊躇われる。なにせ、リーチをした結果、不自然な打ち回しによって今までに二度も和了りを潰されているのだ。この局にそのようなミスは許されない。
勝ちたかった。思うがままに打つということはたしかに楽しい。だがそれ以上に、今の霊夢は勝ちたかった。勘に従って好きなように打つだけで、今までは満足していた。けれど、その先がありそうな気がしていた。勝利を目指すことがこんなにも楽しいことだと、どうして自分は忘れていたのだろう。
変わりゆく何かを自覚して、霊夢は、を切った。普通の打ち回しを逸脱。勝敗の行方はまた揺らぎ始めた。
九順目。早苗の手が、また止まる。
早苗 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
切りでカンのテンパイ。(ドラ)を三つ重ねたことにより、和了りさえすれば逆転はできる、そんな手に育てることまではできたことになる。しかし、役が無い。ダマにしてツモることに賭けるか、リーチして相手を押さえつつ出和了りに賭けるか。
早苗はを切った。牌を横にすることは無い。ダマテンで待つことが早苗の選択だった。
そんな弱気な、と諏訪子は思うが、早苗としてはそのような気は無かった。南三局、自分の中の何かが研ぎ澄まされてゆく感覚があった。今の自分は、磨き上げられた剣になりつつある。しかし、その研ぎ澄まされた感覚は、この最後の局において、まだ使われていない。ここでリーチしてツモ切るだけの凡夫になるのは、その剣を使わずして捨てることになる。そのことへの違和感。運命じみた何かへの信頼。それが早苗に、ダマテンを選ばせた。
静かに進んでいた場が、にわかに熱を帯び始める。
紫 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
切りでカンか、切りでカン。どちらにせよ決して有利な待ちではないが、紫としてはテンパイを取らざるを得ない。打。イーペーコーができているため、が場に出た時点で、紫の勝ちが決まる。
霊夢 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
を切ることでカンテンパイ。三色含みのためダマで待てるが、勘は、これでは出和了りできない、しかしこれで待てと伝えてくる。ツモれる気はしない。だが、これで待つべきだ。
その感覚に、霊夢は従う。
アリス 手牌
ツモ
やれやれ、とアリスは心の中でひとりごちる。カンテンパイ。しかも役なし。素直に打っていたら、こうなってしまった。できればをツモる前にあたりにくっついて平和の形になって欲しかったが、こうなってしまっては仕方ない。アリスは素直に、を切った。袋小路に入ってしまった気がするが、どうしようもない。
アリスがこの状況で求める牌は四種。まずは言うまでも無く。または平和がつけられる。出和了りが効くようになるも、状況次第では悪くない。
しかしもう一種、この状況を好転させられる牌がある。アリスがその牌を引いたのは、誰もがツモ切りを繰り返した、二順後のことであった。
アリス 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
三色が付く。待っていた牌の一つ。アリスは躊躇い無くを切り出した。カン待ちは変わらないが、ダマで出和了りが効く。勝利に大きく近づいた格好である。
早苗がを切る。ここから十三順目、河が三段目へと移行する。終盤戦だ。
その十三順目、ツモってきたに、早苗は手を止めた。
早苗 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
切りようによって、、、のいずれかで待てる。しかし既に終盤、煮詰まった場だ。を切ってテンパイに受けた直後のツモに、早苗はいくらか不穏な気配を感じていた。
に手をかけると──ちりちりと、首の後ろに寒気が走る。それは、研ぎ澄まされた感覚からの贈り物であるように思える。
アリスはツモ切りだった。霊夢がを切った直後であるため、は通る。ここは、ほんの少しでも安全が欲しい。早苗はを切り、単騎へと待ちを変えた。
しかし次順、をツモってきて早苗は凍りついた。を切っていたなら和了り、勝っていたはずの牌。
もとよりツモ以外に和了りは無い形。フリテンに受けることも考えたが、既に二枚、三枚が見えている。は他家も使っているであろうことを考えると、もう残っていない可能性も高い。一度和了りを逃したそんな牌をツモれるだろうか──思って、を切った。
十五順目、霊夢の手が再び止まる。
霊夢 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
は切れない。これを切ると死ぬ。
霊夢の手が伸びたのは、だった。これ以外を切ると、勝ちは無い。だが──これを切っても、『勝てるとは限らない』。
それは霊夢にとって、馴染みのない感覚だった。常に確信を下してきた勘が、初めてよこした曖昧な何か。どこかかすれたように、消えゆくように告げてくるそれに従ってみるのも、どうしてか、悪くないように思えた。
早苗 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
このツモで、早苗は腹をくくった。を切れば、待ち。残りはが一枚とが二枚。残っていない可能性もある。だがこの状況、もはやこれらの牌を止める余裕のある者はいない。いたとしたら、それは──トップを諦めた者だけだ。
「リーチ!」
リーのみドラ3の両面待ち。鳴きが入らなければ、ツモはあと二回。状況が状況だけに出和了りも期待しなくはないが、それよりは、二回のツモを得る可能性を少しでも上げたいという意味も含むリーチだった。
──結論を言うと、山に早苗の待ちは寝ていない。残りの一枚と二枚は、アリスと霊夢によって使われている。二人がこれらを切ることはまずありえないだろう。
だが、を切り飛ばしていれば紫に振り込んでいたというのも事実である。これが早苗にとって最上の選択だったことはおそらく間違いない。最上の選択をしても勝てないことがある、それが麻雀なのだ。
リーチなど見えないというように紫は打。そして霊夢は──。
霊夢 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
紫が通したを切って、テンパイ。だが、を自分で切っている。霊夢から見える限り、残りはが三枚とが一枚。
だが、これではだめだ。和了れない。勘が再び、明瞭に告げてくる。それを感じ取っている間にアリスと早苗がツモ切り、そして紫がをツモ切る。あたれない。
唇を噛み締めてをツモ切る。敗北の確信。残りのツモは一回。海底だ。だが、このツモでは和了れないのだ。目の前が真っ暗になりそうになって、霊夢は慌てて右手を床に着き、自身の身体を支える。
──でも。
それならいったい、さっきのは何だったのだろう? 『勝てるとは限らない』という曖昧な感覚。それは、『勝てるかもしれない』という微かな希望でもある。絶対の保証ではなかったけれど、思いのほか心地よかったそれは、どうして。
どこか世界が、ゆっくりに見えていた。アリスが牌をツモる。どうやら和了り牌ではなかったようで、そのまま卓に叩きつける。その牌は、──。
「ポ、ポン!」
霊夢自身信じられないことであったが、そのを鳴かせたのは、霊夢の感覚、霊夢の中に潜む絶対的な何かではなかった。を切り飛ばしたところで、理解が遅れてやってくる。『は鳴くべき』『はあたらない』『これで、勝てるかもしれない』。脈打つ鼓動を抑えるのに、霊夢は必死だった。
ツモが増えたことを喜ぶべきか否か──思いながら、アリスは山に手を伸ばした。
アリスの待ち牌、は、比較的単純でわかりやすい牌だ。いちいち見なくても、指の感覚でその牌かどうかはわかる。この手触りは違うと、アリスは感じ取った。それどころか、まったくもってお呼びでない牌だ。
アリス 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
。この状況では、およそ最悪と言ってよい牌だ。
麻雀において、完全なる安全というのは少ない。状況が状況なのでアリスもかなり前に出ていたが、土壇場で運が向いてくれたというのもあったのだろう、ほとんど端の牌しか切っていないというのにテンパイまでたどり着き、和了ることこそ無いにせよテンパイ後も端の方の、比較的安全度が高い牌ばかりを切ることができていた。二順前のや前順のは、が四枚見えていてが他の三人ともに現物であるため、これも比較的安全度が高かったのである。
しかし、。それも赤。アリスが見やるは下家、早苗のリーチである。相変わらず理牌せずにやっていたのだろう、手牌を見る仕草などから中身を推測することはできなかったが、捨牌からだけでも、これが切れない牌だというのはわかりすぎるくらいにわかる。
、、が切れてることから、索子待ちは考えにくい。ドラが見えていない、かつ霊夢が鳴いたということは、早苗に集まっている可能性が高い。だが二枚までの集まりだったら、平和にを加えて平和ドラ3狙いで問題ないのではないか。それだとリーチする必要も無い。リーチするということは、三枚集めての役なしか。
が見えていないので確証は無いが、リーチ直前のというバタバタした筒子の処理を考えると、も持っていないように思える。これらは三枚とも手出しだった。たとえばと持っていたなら、を先に切るだろう。の処理が遅い。もともとの形を持っていてを切ったところにをツモって裏目、それで筒子に愛想を付かせたと考えると……やはり、の重なりは無さそうだ。
早苗が一枚も切っていない萬子が危険であるのは明らかだ。が通っているから、危険なスジはと、そして。まともな待ちとしたら、これら以外に和了りは無いと言っても良いだろう。
切れる牌ではない。霊夢や紫にも安全とはいえない、むしろあたられても何もおかしくない牌だ。(二人とも、との間がぽっかり空いている)
だが、は、切れる。テンパイも維持できる。
アリスの、ここが分水嶺だった。
残りのツモは二枚。三色を捨てて役なしテンパイにとっても、河底なら和了れる。流局なら、三色があろうと無かろうと関係ない。
ここでを切り、三色を捨てるデメリットは、たった一つ。この危険牌を抱え込むことに対するリスクとしては、かなり安いはず。
だからアリスは、を切り出しながら、来ないでくれ、と半ば祈るようにしていた。だが一方で、そうならない予感も強く感じていた。
麻雀というのは、ひどく、本当にひどく、意地の悪いゲームなのだから。
早苗のツモ切ったを見て、ああ、とアリスは声を漏らしそうになった。を切って、それが通っていたら勝っていた。次に河底で紫が万に一つを出しても、同順であたれない。あとはただ、紫がテンパイしていないことを祈るのみ。アリスの戦いは、終わったのだ。
──そして、最後の一枚。
紫 手牌
ツモ
捨牌
紫:
霊夢:
アリス:
早苗:
ままならない。紫は、ほうと息を吐いた。
が来ればそれでよし。が来ないにしても、無害な字牌や現物にして欲しかったものだが──まったく、ままならない。
紫に与えられた最初の選択肢。それは、テンパイを選ぶか否か。たった今早苗が切ったならば、あたる可能性はゼロ。しかしテンパイが崩れるため、霊夢とアリスが共にノーテンでなければ、自分のトップはなくなる。
紫の選択は決まっていた。霊夢を、ちらと見やる。をポンしてくらいついてきた、勝利を貪欲に求める可愛い巫女。この期に及んで彼女がノーテンと見るのは、いくらなんでも楽観が過ぎるだろう。アリスもそうだ。手出しの二には何かを諦めた気配があったが、早苗のリーチに対応したとしても、テンパイまで崩しているとは限らない。
切るしかない。テンパイを維持する、かを。
心地よい緊張に震える紫の指は、へと動きつつあった。この牌は河底。フリテンでなければ、誰にでも和了られる可能性がある。が通ったとはいえ、やはり真ん中かつ生牌のよりは、少しでも端に近いのほうが良いのではないか。は三人ともに通っていないが、はアリスの現物であるという事実もそれを後押しした。
紫は一度指を止めて、また息を吐く。
もしも普段の自分なら、妖怪の賢者たる自分なら、こんなふうに悩んだりしないんだろう。もっと早くに勝負は決まってしまっていて、こんなギリギリの戦いを楽しむことはできなかったのだろう。
ここでこんな牌を切らず、もっとうまく、クールにやっていたんだろう。
紫は楽しげに微笑んで、その牌を切った。
◆ ◆ ◆
○エピローグ
「霊夢は柔らかいわね……ほら、ふにふに、ふにふに」
「ちょっと、ほっぺたつつかないでよ」
「いいじゃないの、エトペンなんだから。ほら、ふにふに」
博麗神社の縁側に腰掛けた紫の膝の上に、霊夢がちょこんと腰を下ろしている。背後から霊夢に抱きついて頬をつつく紫に、けれど霊夢はさほど抵抗の意を示さない。黙ってつつかれるまま、抱きつかれるまま、頭を撫でられるままだ。霊夢のそれは一応は勝者権限に配慮しているからか、あるいはそれ以外の何かからか。
トップの紫がラスの早苗に要求したのは、「私のエトペン(抱き人形)になって。そうね、一……時間、くらい」というものだった。おそらく最初は「一日」と言うつもりだったのだろうと、霊夢は思っている。紫が自分の方を見てそれを「一時間」と言い直したのは、ちょうど自分の背後にいた諏訪子への配慮だろうとも。
魔理沙が「霊夢、紫が早苗にエトペン言った時、すごい強張った顔してたぜ」なんて茶化してきたことはたぶん関係ない。
その後、「まあ、早苗も初めてにしてはよくやったし、いきなり罰ゲームってのも可哀想だから、今回は私が代わってあげようか?」なんて言ってしまったのは、口が滑っただけだ。アリスも諏訪子も、助かったはずの早苗までもなにかニヤニヤしていたのが、気に食わないと言えば気に食わない。
ぎゅうと抱き締められて、紫の柔らかい胸が暖かくて、うとうとしてしまいそうだったから、霊夢はとにかく、口を開くことにした。「ねえ、紫」「なに? 霊夢」頭を撫でながら、優しい声で紫は返してくる。
「どうしてあの時、を切ったの? どっちも危険だったし、強いて言えばじゃない? 最初はを切ろうとしてたみたいだったけど」
そう、紫は一度に手をかけ、河に置く直前までいったが、ぎりぎりでそれを戻して、を切ったのだった。
理由など無い、ただの勘と言われればそこまででしかないが、紫がを切っていれば自分がトップだっただけに、なんとなく訊いておきたかった。
紫は、くすと霊夢に笑いかけた。
「だって……霊夢は、私(八)を待ってるんじゃないかなって、思って」
その楽しげな眼を霊夢が見つめたままだったのは、視線を逸らすことすら忘れていたからだった。
「んなっ……なっ……」何言ってんの、というたったそれだけすら言葉にできないまま、ただ顔に熱が集まっていく感覚。にこにこ笑う紫に顔を見られたくなくて、霊夢はまたその胸に顔をうずめて、「う~……ううう……」と言葉にならない言葉を発することしかできなかった。
<了>
そしてこの作品からは私の好きな「雰囲気」を感じました
それにしてもゆかれいむはたまらんのぅwうへへへへwww
ただ、最後に微妙に咲ネタを混ぜたのが画竜点睛を欠いた…と個人的に思います。
ネタを混ぜるなら全体的に散りばめるか、とことんパロディにするかがいいと思う人間ですので、単発でちょろっとってのは若干の違和感を覚えてしまいました。
これはゆかりんに萌えておく作品なのだということはわかりました。
紫 配牌
四八(223478)3東西北白發
霊夢 配牌
二八(2349)23467東中
アリス 配牌
一四(112399)256西北
早苗 配牌
三七(5)15r789南西北發中
オーラスは、紫の西(ドラ)切りで始まった。
> 早苗 手牌
三三五六七(57)5r789西西 西ツモ
アリスの西はどこいった?
でも面白かった。いつか誰かやってくれると思ってた。GJです。
オーラスでは故あって慧音に五回くらい歴史を食べてもらったのですが、
どうやら食べ残しがあったようです。食べ残しよくないのでこんどこそ
きっちり食べてもらいました。
ご指摘ありがとうございました。
二三四五r(5)3466 (345)(チー)
南一局かな?十巡目に早苗がウーソーツモって手に入れた筈だけど……12枚しかないですよ;;
最初インチキ麻雀とかあったから上家ゆかりんが霊夢に何かアシストするのか?とか邪推しちゃったけど、そんなことはなかったぜwてか霊夢がゆかりんの為にアンパイ作ってやるとか……霊夢めっちゃ男前やな!惚れるわw麻雀は東南西北それぞれに役割があるけど、それ+勝つリズム負けるリズムの人を良く観察するのが大切だと再認識したです。面白かったですよ
ゆかれいむもあって二度おいしいですw
また食べ残しか!
……と思ったけどこれは単純に私の書き忘れですね。前順の手牌をコピペして加えて削って、という感じにやってたのでこんなことが起こる。
ご指摘ありがとうございました。
ただ、最後のほうに魔理沙の視点があればよかったかな。
魔理沙 対 霊夢 みたいに始まったので何かオチがほしかったです。
これを基盤に、麻雀以外の情景……例えば麻雀するに至るまでの物語とかその後とかも織り交ぜてみたりしたら、たぶん東方SSでの新ジャンルに成り得る……。
内容も表現方法も面白く、非常に興味深い作品をありがとう。
出発点と収束点がちょっと噛み合ってないような。
ゆかれいむでお茶を濁している感じ。話に一貫性が感じられない。
てか霊夢、大会でも何でもないただの遊びでいつも勝ったり負けたりしてる紫が凹んだだけで苛立つってどんだけなんだw
本編は熱い内容でよかったです