水橋パルスィは霧の湖へと向かっていた。
先日身体だけレベルが上がりまくって、妖怪の山でハッスルしていた氷の妖精の様子を見に行くためである。
(地底からやってくるのも骨が折れるわね……。別に地上に出ても問題なくなったわけだし、せめて縦穴の地上側に引っ越そうかしら)
今まではチルノともたまに会う程度だったからよかったものの、ああなっては目を離さないわけにもいかない。自分に何が出来るかなんて知れたことかもしれないけれど。
(それにしても神奈子さんが勝ってくれてよかったわ)
Lv.99になったチルノは魔理沙や早苗を倒す勢いだったものの、最終的に神奈子に敗れた。
もしもチルノが勝っていたら、チルノはどこまで行っていたのか想像がつかない。
射命丸とかいう天狗が、彼女は一度負けたほうがいいといっていたが、きっとそのとおりだったんだろう。
(むう、妬ましい)
その判断力が妬ましい。チルノのことをわかっているのが妬ましい。
「……」
頭を振って、払う。
(こんなこと考えてる場合じゃないわね。もうすぐチルノの家につくし)
以前教えてもらったことがある。霧の湖でチルノがいつもどのあたりに陣取っているのか。
だいたい決まったところに氷で家を作って住んでいるのだと言う。
(そう、ここを曲がれば見えてくr)
パルスィは思わず足を止めた。
なんでこんなことに。いや、むしろなんでもっと早く気がつかなかったのか。霧か。霧のせいか。
パルスィは混乱したが、今更何を考えてもどうしようもない。
ただ精一杯に、やるせない呟きを、ため息に乗せて吐き出す。
「……うわぁ、大きなノイシュヴァンシュタイン城」
『ちるのさんLv.99』
みっつめ
みっつめ
「……なにあれ」
霧の湖近くに居を構える紅魔館。
そこで、奇妙な城の存在にいち早く気づいたのは、紅魔の門番長である紅美鈴であった。
門を守っている間はやることがあまりないため、風景でも眺めていたのだが、そうしてしばらくしてやっと気づいた。
それほどに、その城は風景に溶けるように、薄かったのだ。色合いが。
だが、確かにそれは存在する。彼女とて視力には自信がある。
「まずは報告ですね。報告連絡相談。あぁ、今日はほうれん草が食べたいですね」
美鈴は門番妖精部隊に門を任せ、紅魔館内部へと急いで入る。
庭を抜け、ロビーに入り、そうして二階に向かったところで、ちょうど紅魔館のメイド長たる十六夜咲夜と鉢合わせる。
「あら、どうしたのめーりん? 門は?」
「あぁ、咲夜さん。門は部下に任せてあります。とりあえずは窓の外をじっと目を凝らして見てみてください」
「は? ……どれどれ」
美鈴の言葉に咲夜はいぶかしがりながらも、外をじっと見る。
「っ、あれは!?」
「はい」
「木陰で妖精たちがあんなことを! あぁっ、こんなことまでっ!?」
「すみません。もうちょっと場所を具体的に説明すべきでした」
咲夜の見た妖精が森の妖精でないことを祈りつつ、美鈴は再度具体的にどこらへんを注目すればよいかを説明する。
「っ、あれは!?」
「はい」
「あの雲の様子だと明日は雨ね……」
「違います」
美鈴ははたと思った。紅魔館内部の者たちはあんな城の存在などとっくに気づいていて、今更話題にするまでもないというオチなのではないかと。
というわけで直球で聞いてみた。
「咲夜さん、あの薄い城のこと、もうみんな気づいてるんですか?」
「え? 何それ。ってうわっ本当にうっすらと城がある!」
「違ったみたいですね」
無表情で美鈴は呟いた。
「え、どうしよう何あれ。蜃気楼の類? それとも秀吉の一夜城!?」
「落ち着いてください咲夜さん」
慌てる咲夜を美鈴がなだめる。
「そ、そうよね。一夜城なんて良く考えればアネハ建築なわけだし……」
「いやその落ち着き方はおかしい」
無表情で美鈴は呟いた。
そもそも一夜城と現代建築では意義がまったく違うというのに。
「……とりあえずお嬢様やパチュリー様に連絡すべきかと思いますが」
「そうね、行ってくるわ!」
「あ、時止めちゃ」
美鈴がそう言った瞬間には、既に咲夜の姿はなかった。
「だから大急ぎで伝えたはずなのですが……」
「いくら急いでいても時を止めたままじゃあ聞こえないわ」
「すみませんお嬢様。私が言うのが遅かったばっかりに」
「むきゅー(美鈴、あなたが気にすることは無いわ)」
紅魔のお嬢様、レミリア・スカーレット。
華人大門番長、紅美鈴。
かんぜんでしょうしゃなめいどちょう、十六夜咲夜。
大図書館の主、パチュリー・ノーレッジ。
紅魔館の主たるメンバー四名が会議室と位置づけられた部屋に集まった。ここの窓からは湖がよく見える。
「で、問題があの城なワケね。確かに意識しないと気づかなかったわ」
レミリアが口元を三日月に歪める。
「対岸にあんな物を建てるなんて……これは我が紅魔館への挑発行為と受け取って良いのかしらね?」
レミリアの発言に、咲夜が猛る。
「そうとしか考えられませんわ。早速摘み取りに行かないと」
そんな咲夜をなだめるように、美鈴が発言した。
「まぁまぁ咲夜さん。そう急くことはないでしょう。とりあえずは私が先行して様子を見てきます」
言いながら、美鈴はレミリアやパチュリーに目配せする。
「その間にゆっくりと協議し、もし一時間経っても私が帰ってこないようであれば、第二陣を送り出してください。それでよろしいでしょうか?」
「良いわ」
「むきゅー(そうして頂戴、美鈴)」
「むぅ、お二方がそう言うのであれば」
レミリアとパチュリーの即答に、咲夜もさすがにそれ以上言えなくなる。
「では私紅美鈴、紅魔の露払いたる役目を果たしてまいります。とるに足らぬ露ならば、払ってまいりますゆえ」
美鈴は一礼し、湖が良く見える窓から勢いよく飛び出していった。
「元気のよい門番ね。門は守っていないけれど、成すべき役目は踏まえている」
「むきゅー(そうね。門は守っていないけれど。しかしこれであの城の正体についてあれこれ推論するのは、雑談以上の意味は持たなくなったわね。お茶でも飲みながら、あの子が戻らなかった場合、もしくは敵性判断の報を持って帰った場合の第二陣の人選でも考えておきましょう)」
「そうね」
パチュリーの言葉に、レミリアは鷹揚と頷いた。
「はいはい第二陣は私に!」
「咲夜はダメ」
「がーん!」
◆
「ようこそあたいの城へ!」
「うんまぁなんというか……文字通り城ね……」
どうすべきか呆然としているところをチルノに見つけられて、パルスィは氷の城の中に招き入れられていた。
率直に、寒い。
「なんか今までよりすごい家が作れそうだったから、あたい頑張ってみたんだ! えへへー、どう?」
「へ、へー、しかしホントにすごいわね……」
何せ外見だけならともかく、部屋割りはもちろん、無駄に調度品まで凝っているのだから恐ろしい。
まぁ、凝っているといっても遊び道具ばっかりなのだけれど。
(城の中にブランコて。……おお氷製野球盤!? チルノ以外がやったら溶けるでしょこれ!)
内装におどろく一方、パルスィはチルノの放つ褒めて褒めてオーラにどう対処すべきか悩んでいた。大人の身体のくせにこのオーラは色々と反則である。
(うー、なんていうか、撫でたい。頭を)
しかし、いかんともしがたいこの身長差。
(ええい、女は度胸! なんでもやってみるものさ!)
一念発起したパルスィはチルノの頭に手を伸ばそうとし――
そして、顔が胸に埋もれた。
「あっ……」
(……やっちまった)
そう、でっかくなったのは背だけではない。そんな単純なことにも気づけないでいた。
わーひんやりしてやわらかくてきもちー。
「パルスィ……」
「わああ! ごめん! ごめん!」
慌ててパルスィは飛び退る。へんなことを考えてたから狼狽の相も顕著。
だが、チルノは裏腹にわくわくした面持ちで言い放つ。
「今のはご褒美の新しい形か!?」
「ダメ! そういう方向に誘導しないで! ここじゃないどこかに引越ししなきゃいけなくなっちゃうう!」
必死に煩悩を振り払わんとするパルスィであつた、が。
一度そう意識してしまつたといふことが、途方も無く彼女の体の魅力を掻き立てる。
たわわに実つた双丘が私を摘んでとねだつてゐるのである。蒼きスカアトからちらりと見える白き脚が、私を撫でてと誘つてゐるのである。
「地の文もなんかそれっぽくなるなあああああ!」
彼女が『背が届かないなら飛んで頭を撫でれば良いじゃない』といふ単純な事実に気づくのも、まだ先のことになりそうである。
「……何か、来る」
「えっ!?」
ピンク空間を一刀両断、にわかに、蒼い空気が席巻する。
そしてまた蒼い空間を切り裂くように、壁面を上る赤い影。
「――哈ァっ!」
裂帛の気合と共に、肌色が円を描く。瞬間、平べったい円柱と化し、内部に蹴りいれられる氷の壁面。
そして生成された穴から中へと潜り込んでくる、帽子の龍の字が眩しい中華娘。
「なんかすごい方法で中に入ってきた! 窓開いてるのに!」
「せっかくですから」
パルスィのツッコミを涼しげな顔でいなし、華人小娘悠々と立ち上がる。
「いやしかし、どうにも薄い城だと思っていたら、まさか氷製だったとは」
物珍しげに辺りを見回す美鈴を、チルノが鋭い目で射抜く。
「誰?」
チルノの視線に対応し、美鈴は少し頭を下げる。
「ふむ、申し遅れました。私、姓は紅、名は美鈴、字は中国」
「中国!?」
「対岸に構える吸血鬼の居城、紅魔館の先手として参りました」
美鈴の自己紹介に、パルスィが驚く。
(吸血鬼!?)
こんな湖畔に吸血鬼が住んでいたとは。
そしてこの紅美鈴という妖怪が殴りこんできたということは、この城によって向こうに自動的に喧嘩が売られていたと見ていい。
(黙ってても厄介なことになるなんて……)
これ以上厄介ごとを呼び込んでいる場合ではないのに。
だが当事者といえば意に介せずというように堂々と胸を張り。
「あたいはチルノである。姓はまだない」
「そう来たか!」
なぜかインテリゲンチャな雰囲気漂うチルノの言葉に、美鈴はいぶかしげな声をあげる。
「チルノ? はて、どこかで聞いたような……」
「で、そのチューゴクたるメイリンとやら、最強たるあたいに何の用かしら?」
チルノの言葉に、美鈴はおおそうでしたと手を打つ。
「我が主レミリア様は、対岸に城を建てるというこの行為が、我々と敵対するという意思を示しているのかどうか。それを確認したがっておられます。返答をお聞かせください」
「そ、そんな小難しい言葉遣いで喋っちゃダメよ!」
パルスィの危惧に美鈴が首をかしげる。するとチルノの元気な声。
「なんだかわかんないけど勝負なら受けてたつわよ!」
「こうなっちゃうでしょう!」
「あぁ、なるほど」
美鈴は納得したような声色を発しながらも、その顔はしたり顔であった。
「……でも大正解。私の判断はきっと大正解よ」
言って、美鈴はスッと戦いの構えをとる。
「こうでなくちゃ面白くない。さぁ、あまり拍子抜けはさせないで下さいよっ!」
(雰囲気が変わった!)
パルスィは理解する。紅美鈴というこの妖怪は、最初から喧嘩を売るつもりでやってきたのだと。
「ふん、最強のあたいに挑むなんて、いい度胸ね。神様には負けたけど」
そしてもちろん、チルノは受ける。
「チルノ……よしんばあなたが最強でも、この妖怪の後には色々と控えてる。危険よ!」
「何いってんのさ、逃げても何にもならない。戦わなきゃ何にもならないわ」
「……!」
確かに、事ここに至れば単純なほうが正解だ。喧嘩を売ってきたならば、ただ、買うのみ。
パルスィは思い直す。もしものとき、そのために自分がいる、と。どこまで出来るかはわからないけれど。
「……わかった。がんばってね、チルノ」
「もちろん!」
チルノも臨戦態勢の証として、周りに立ちこめる冷気を濃くした。
「参ります!」
まず動いたのは美鈴。虹色の気を拳に集中し、一気に距離をつめる。
「っ!?」
弾幕戦闘ではなく、いきなり突っ込んできた美鈴にチルノは面食らった。
慌てて氷弾で迎撃するも、気に弾かれてしまう。
「――螺光歩!」
「ひゃっ!」
美鈴の拳がチルノを捉えた。
チルノはとっさに氷壁でガードしたものの、余波で後ろに吹き飛ばされてしまう。
「チルノ!」
パルスィが慌ててチルノをかばいに入り、後ろ向きに飛んでくるチルノを抱きとめた。が、勢いが止めきれずにころりと後ろに転がって、チルノの尻に敷かれた状態になってしまった。
「みぎゃあ!」
「あいたたた……ご、ごめんパルスィ」
慌ててチルノはパルスィの上からどく。
「うう、大丈夫。だけど、あの妖怪……」
「いきなり打撃なんて……!」
チルノたちが慌てて体勢を立て直す間に、美鈴は静かに構えを取ってこちらに威圧を向けている。
「私は弾幕は不得手ですからね。――ちょっと得意分野に持ち込ませていただきますよ」
美鈴の言葉に、チルノはにやりと口元を歪める。
「ふん、ならばあたいにも迎撃の容易ありだわ!」
「そーれクナイ弾クナイ弾!」
「言ったそばから弾幕使ってきた!」
本当に言ったそばから、鮮やかな虹色のクナイ弾がチルノを襲う。
「わわわ! 何よ! 格闘戦にするんじゃなかったの!?」
美鈴の予想外の行動に、チルノは弾を凍らせる暇も無く、慌てて回避し続けるしかなかった。
「迎撃の用意があるところに突っ込むほどの勇気は持ち合わせていませんので」
チルノの非難に、美鈴はにこりと笑ってそう答える。
(……的確! それでいて大胆!)
パルスィはその笑顔にかなりの手ごわさを見た。
確かに力自体にそこまで強大なものは感じない。だが、相手の意表をつく戦い方は、単純な思考をするチルノとすこぶる相性が悪い。
美鈴との戦いにおいては、格闘戦と弾幕戦の両方に警戒しなければならないから。
(でも、意表はつき続けられるものではないわ)
チルノもやられっぱなしではないはず。
「冷体っ! 『スーパーアイスキーーーーーック』!」
冷気を纏い、チルノが渾身の飛び蹴りを放つ。どうやら格闘戦に持ち込んでみることにしたらしい。
「気符『地龍天龍脚』!」
美鈴も気を纏った蹴りで迎撃する。そして、長く打ち合うことを避け、すぐに身を翻して跳躍する。
「降華蹴!」
そして、翻した勢いをそのまま乗せて、チルノの頭に踵蹴りを叩き込んだ。
「あわびゅ!」
チルノは下に蹴り落とされ、再びかばいに入ったパルスィを尻に敷く結果となった。
「うう、すっかり尻に敷かれ隊だわ……」
「ごめんパルスィー! あいつ強いよ!」
「格闘戦に持ち込んじゃダメよ。相手はそっちの方が得意なんだから」
そう、格闘戦なら経験に裏打ちされた戦術を有する美鈴が圧倒的に有利である。
だが。
「おお、長時間の打ち合いは避けたというのに……」
美鈴の膝から下、調度向こう脛の部分が氷に包まれている。スーパーアイスキックとの一瞬の打ち合いでできたものらしい。やはりパワーはチルノに分がある。
「黄震脚!」
美鈴はその場を踏みつけて、その衝撃波で脚を覆っていた氷を散らせる。
「やるなー! しかも氷の上で格闘してるのに全然滑らないし!」
「私の気を持ってすれば、氷上など普通の地面と変わりありませんよ」
「ならこれが避けられる!? 氷符『アイシクルマシンガン』!」
美鈴の言が大げさだと感じたのか、チルノは氷の弾を乱射する。不得手な弾幕戦に持ち込まれ、しかも激しい攻撃を受けている。
だが、美鈴は妖しげに笑う。
「ふっ、そんな弾幕よりカンフーのほうがかっこいいですよ!」
「な、なんだあの動きは!」
――それはおよそ一切の弾幕合戦に聞いたことも見たこともない、奇怪な避け方であった。
「ま、まるで暗黒舞踏!」
「カ、カッコイイ……!」
流れるような謎の動きで、美鈴はアイシクルマシンガンを華麗に避けていく。
その流麗さにはさすがのパルチルも見とれざるを得ない。
避けきった美鈴がやや得意げな顔で胸を張る。
「どうですか、中国武術の力は。そーれクナイ弾クナイ弾!」
「また言ったそばから弾幕やってきた!」
中国武術のカケラすらないその意表をついた虹色弾幕攻撃に、しかし、チルノは今度こそ対応し、十八番のスペルを打ち込む。
「凍符『パーフェクトフリーズ』!」
チルノの放った寒波に、クナイ弾が空中に凍り付いていく。
「なんと、弾幕を凍らせるとは! しかし――っ!?」
美鈴はなおも攻勢に出ようとし、そして、脚が動かないことに気づく。
「足裏が凍らされている! さっきの寒波!?」
「足元がお留守だったわね! とどめよ! 雪符『ダイアモンドブリザード』!」
チルノの放った弾幕の吹雪が美鈴を襲う。
「まだだ! まだ終わりませんよ! 星気っ『星脈地転弾』――ッ!」
絶体絶命かと思われた美鈴が、奮起した。
瞬時に極大の気を練り上げ、ダイアモンドブリザードを迎撃する。
「いくら強くとも弾が拡散している『吹雪』ならッ! 一点集中で突破も可能なはずッ!」
「ここに来てこんな大きな気弾を!?」
パルスィが驚いたが、美鈴の手はまだ終わっていなかった。
「彩符『彩光風鈴』!」
スペルの力を使って回転し、足を床から強引に引き剥がす。
少し浮いてしまったが、星脈地転弾が予想より強力だったのか、弾幕が弱まっており難なく着地できる。
そして、すぐに跳んだ。
星脈地転弾がこじ開けた、ダイアモンドブリザードの穴へ。
「この一撃に賭ける! 華符――」
そして、勢いに乗せて突き出された美鈴の掌底は、確かにチルノの形を捉えた。
「『彩光蓮華掌』っっ!」
「なあっ――!」
掌底に込められた虹色の気がチルノを包み、静かに、そして激しく炸裂する。
「チルノーーーっ!」
鮮やかな攻撃に、チルノは吹っ飛ばされて壁に叩きつけられる。そして木霊するパルスィの叫び。
「はぁ……はぁ……さすがに、相手が強力すぎるとやりにくい……。ムキになってしまいましたね……」
と肩で息をしつつ反省する美鈴の後ろから。
「ははは馬鹿め! そっちは影武者だ!」
「なっ!?」
元気の良い声。
振り向くと、満面のどや顔を浮かべたチルノが、そこに立っていた。
「凍符『コールドディヴィニティー』!」
そのチルノの言葉と共に、先ほど壁に飛ばされたチルノ――幻影が、氷の彫像が割れるように砕けて消えていった。
「……そうか、あの時弾幕が弱まっていたのは。……私がムキになっている間に、宣言をしていたんですね。……なんともはや。私の、完全敗北です」
ムリにスペルカードを乱発した反動が来て、美鈴は敗北宣言の後、がくりとくずおれた。
「っと、大丈夫?」
その後ろから、すっかり受け止め役が板についてしまったパルスィが美鈴を支える。
「……おや、敵に情けをかけてくれるのですか?」
「……別に。チルノも私も本気で争う気はないんだから。ね、チルノ?」
「え? あ、うん、そうね」
「ここ一番で聞いてなかった!」
「うん、でも弾幕ごっこ楽しかったよ!」
「もうー!」
色々と台無しだったが、美鈴はくすりと笑みを漏らす。
「ありがとうございます。個人としてはとても感謝しますが、しかし私の役割は紅魔館の先手」
美鈴は懐中時計を取り出し、確認する。
「もうそろそろ、紅魔館より第二陣が到着するはず」
「……やっぱり、これで終わりじゃないのね」
パルスィはため息をつく。
(美鈴の様子から見ると、向こうも本気で争っているわけではなさそうだけれど……)
「何が来ようがあたいにかかればけちょんけちょんよ!」
チルノが息巻く中、窓の外に一つの影が映る。
「来たようですね……って、え?」
美鈴の目が丸くなる。
そんな丸い目で見つめられた影はゆっくりと浮遊して入ってくる。――正座姿で。
「むきゅー(私、参上)」
「パチュリー様ッ!?」
美鈴は驚いて、パチュリーに駆け寄る。
「なぜパチュリー様が!?」
割と喘息もちで主に頭脳労働を担当し、基本的に出不精なパチュリーがなぜ第二陣に。
「むきゅー(意表をつくという戦略を込めてあえて私が参上したわ)」
「いや、相手こっちの情報知りませんから。意表突かれるの私だけですから」
「むきゅー(ええ、主にそれが狙いよ)」
「……」
美鈴はとてもやるせない気持ちになった。
やるせない美鈴の後ろで、パルスィとチルノがパチュリーの存在に戦々恐々としていた。
「何あの人……むきゅーとしか言ってないのに言わんとしていることが手に取るようにわかる……!」
「あたい(一体何者なのかしら……!)」
「!?」
そんな二人を見て、パチュリーはわずかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと正座を解いて氷の床に降り立ち、そして滑ってスッ転んだ。
「……」
「……」
「……むきゅー(さあ、ふるえるがいい)」
「!?」
~続~
苦労人なパルパル・・・。
さくぽっぽとパッチュさんが紅魔館の癒しに。
流石は瀟洒な大図書館です。
さぁて次回はパルパルが何処までツッコミきれるか、若しくはピンクオーラをどれだけ開放するかが見所ですね。
とりあえずパルスィが苦労性でツッコミには匠の業を感じてステキに可愛い。
しかしなんというカオス。咲夜さんはひらがな表記だし、パルスィはおっぱいに埋まるしw
チルノとの身長差にもめげずに頭を撫でようとして見事失敗したパルスィと純粋なチルノにキュンキュンした。
これは次回に期待だなぁ。
そろそろパルチルが浸透してくる頃合か……。
いっそ自ら中国を名乗る美鈴だと!?新しい!
だがそれがいい
尻に敷かれ隊に
はいりたい
な
そーれクナイ弾クナイ弾!
ぜんぶひらがなだぜさすがしょうしゃだな
あと、むきゅリー可愛いです。
褒めようとしてるのに不器用でできないパルスィ百合可愛い