Coolier - 新生・東方創想話

酒の肴は乙女の心

2009/09/03 22:18:06
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幻想郷にも春が訪れ、春告精が活気で溢れている時期。

魔法の森の入り口にある香霖堂にも、春は来る。

尤も、森のせいで陽射しが入ることは少ないのだが。

そこの主人は趣味でやってるのか、マジメにやってるのかはわからないが、

長い間そこで営んでいる。

開店時間は主人―霖之助の起床時間であり、閉店時間は彼の就寝時間である。

おまけに、店をやってる間、彼はずっと本を読んでいるという、

趣味とでしか言いようがないような生活を送っている。

彼曰くマジメにやってるらしいのだが…。




香霖堂に向かって一筋の光が流れる。

―カランカラン

店内に乾いた音色が響く。

「おーっす、香霖。春だから来てやったぜ」

自称「普通の魔法使い」を名乗る人間の少女、霧雨魔理沙である。

幻想郷で2番目に早いということを気にしてるのだろうか。

口にしたら怒るらしい。

「魔理沙か。春じゃなくても君は来るだろ」

「せっかく来てやってるのに、失礼なやつだぜ。そんなんじゃモテないぞ?」

長い付き合いだからか、こんな軽口の言い合いなど日常茶飯事だった。

「モテる気なんて、サラサラないけどね。それで?今日はどうしたんだ?」

整った顔立ちに、落ち着いた雰囲気でやろうと思えば、モテるはずなのだが、

静かな場を好む彼にとって、それはあまり好きではないようだ。

「そうだった、今日な神社で宴会があるんだ。香霖も来いよ」

「せっかくだけど遠慮しておくよ。君たちだけでやるといい」

風流を肴に酒を飲むのがうまいのであって、

ガブガブ飲むのは会わないらしい。

「つれないぜ。皆待ってるぞ?多分」

多分と言ってる辺りそこらへんは適当なんだろう。

「そうですわ。霖之助さんが来ないと、私も寂しいですわ」

突如霖之助の後ろから隙間が開いて、

優雅な金髪を浮かせ上半身だけ浮き出た紫が出てきた。

「できれば、ドアから来てくれると助かるんだが」

これは何回も言ってきたのだが、

聞く様子がないので半分諦めている感じだった。

「あら、いやだわ。私との仲ではないですの」

そういうと彼女は、霖之助に体をもたれていた。

丁度、彼女の胸が頭に乗っかる感じである。

「おい、紫。香霖から離れろ」

彼女の周りからはゴゴゴゴと効果音が付きそうな迫力だった。

「あら、ごめんあそばせ。そうねえ、魔理沙じゃこれは無理かしらね」

紫はその豊かな胸の前で腕を交差し、胸を強調してみせた。

「む、胸は関係ないだろ!」

彼女も年頃なのか、気にしてる感じだった。

「あら、いつの時代も男を落とすのは顔と胸は付き物よ。

あなたじゃ到底無理な話でしょうけど」

長い間生きてきた紫が言うのだから、それも1つの真実なのだろうが…、

彼女に鼻で笑われて、黙っている魔理沙ではなかった。

「上等だ!女は顔と胸だけじゃないって証明してやる!

香霖、宴会来なかったらこの店吹っ飛ばすからな!」

そういうと、彼女は箒に乗りどこかへ飛んでいった。

「らしいですよ。どうしますか?」

「え?何のことだい?」

紫と魔理沙が激突(?)してる間、彼は本を読んでいたのだ。

あの状態で本を読めるというのもさすがというべきか。

「宴会に来ないと、店を吹っ飛ばすらしいですわよ」

「ふむ、それは面倒な事になりそうだ」

彼女が吹っ飛ばすと言ってるのだ。ほとんど嘘ではあるまい。

かと言って、あの騒がしい場所へ行くのも億劫するというものだ。

「もし来てくれたら、秘蔵のお酒を分けてあげてもよろしいですわよ?」

紫としても、霖之助には来てもらいたいらしい。

それはからかう玩具が欲しいからか、それとも…。

「ふむ、じゃあ少し付き合うとしようか」

秘蔵の酒を飲めるなら、少しくらい騒がしくてもガマンできるというものだ。

「ふふふ…これで霖之助さんを…じゃなくて、ではお待ちしておりますね」

今の彼女を動物に例えると、イタズラを企てる狐以外に思いつかないだろう。

「ああ、だが少しだけだからな」

「ええ、分かっています。ではまたあとで」

というと、彼女は隙間へ帰っていった。

「ふう…何も起こらなければいいが…」





場所は変わって、ここはマヨヒガの一角。

紫とその式神の藍や、橙が住んでいるところである。

「らあああああああぁぁああぁぁん」

帰ってくるや否や、式神の名を叫んでいた。

「どうしました?紫様」

「霖之助さんを宴会に招待してしまったわ!」

さっきまでの落ち着いた雰囲気はどこへやら。

「それはよかったですね、がんばってください」

「どうすればいいか、藍も考えてよー!」

幻想郷一最強と呼ばれている彼女も、

この時だけは普通の少女と何ら変わりない。

「普通に一緒に飲んで、しゃべるじゃダメなんですか?」

「魔理沙が何か仕掛けてくるみたいなのよ。普通じゃ負けちゃうじゃない!」

元はといえば、紫自身が蒔いた種なのだが。

一応、主人の頼みなのでマジメに考えてみる藍だった。

「そうですね…。酔ったと見せかけて、大胆に抱きついてみるとか」

「そんなこと、もうやってるわよ!」

結果は言うまでもない。

「大体、紫様はどんな風に見られたいのですか?」

我侭な主人に多少のイライラを顔に乗せて聞いてみた。

「そうねぇ…。優雅で落ち着きのある、大人の女性として見られたいわ」

何を想像してるのか、彼女の顔は真っ赤だった。

「だったらそういう風にしておけばいいんじゃないですか?」

最早、投げやりな言い方である。

「だから、それだと魔理沙に先越されるって言ってるでしょう!?」

矛盾すぎる主人の考えに式神はとうとうついていけなくなってしまった。

「私にも分かりませんね。あ、橙が呼んでいるので、これで失礼します」

もちろん嘘である。

「え、ちょ、らああぁあぁあぁああぁん!?」

式神に見放された紫はどういう手をとるのか…。




また場所は変わり、ここは魔理沙宅。

「うふふふふふふ…」

怪しい声を出しながら、彼女は本を読んでいた。

本の題名は『鈍感男を落とす方法』

最早霖之助の為にあるような本である。

「これで香霖は私の…うふふ」

一歩間違えれば、危ない人である。

「お母さん、あの人なにやってるのー?」

「しっ、見てはいけません」

と言われるような危ない人である。





数刻が過ぎ、夕暮れ時となってきた。

日が落ちるにつれて、博麗神社にぞろぞろと妖怪が集まってきた。

そして、皆が飲み始めてしばらく経った後に霖之助はやってきた。

「やあ、霊夢」

騒がしい境内を抜け、神社の中で忙しく回ってる彼女に声をかけた。

「あら、霖之助さん。珍しいわね、明日は雨かしら」

「いろいろあってね…。それより忙しそうだね。手伝おうか?」

「あら、ますます珍しい。明日は雨どころか槍ね」

いつもの霖之助の接客態度を知ってるからか、霊夢は心底驚いていた。

「何、天狗や鬼などに酒を薦められるよりかはマシさ」

酔っていても無理矢理酒を注ぎ込んでくる者と、

あまりいたくないのが本音である。

「あら、そうなの?残念。もっとほかの理由かと思ったのに」

彼女はさも残念そうに、肩を落とした。

「ほかの理由?」

「なんでもないわ。それよりこれをあっちに持っていって」

といわれ、手渡されたのが直径1mぐらいある大皿に山盛りにされた肴である。

人数の上に某無限胃袋亡霊がいるので、これくらいが妥当なのだろうが。





大皿を運んだ直後に遠くから自分の名を呼ばれた。

「霖之助さーん、こっちよー」

酒のためか、顔を若干赤らめた紫がいた。

「やあ、随分と飲んでいるね」

霖之助は彼女の隣に腰を下ろした。

「これでもまだ抑えてるほうよ。さ、飲みましょ」

というと隙間に手を突っ込み、そこから一升瓶を取り出してきた。

「それが秘蔵の酒というやつかい?」

元々、秘蔵の酒が楽しみで来ているので、早く飲みたいのが心情だった。

「飲みたいのは分かるけど、まだよ。まずは軽く一杯…ね?」

「そうだね、じゃあ乾杯しようか」

コップに並々と注がれた日本酒を手に、

「私と霖之助さんの出会いを祝って」

「「かんぱい」」

それがワインなら尚更似合ってたころだろう。

「ふむ、これも中々…」

「でしょう?秘蔵のはもっと美味しいはずよ」

霖之助を釣ることができた紫も満面の笑みだった。

すると、どこからともなく、

「おーい、香霖はいるかー?」と

空から声が降ってきた。

「魔理沙か。僕はここだよ」

「よし、約束通り来たな」

誰だって自分の大切なものを来なければ壊すと言われれば、

参加せざるを得ないというものだ。

「あら、無理矢理来させておいてよく言うわね」

少しは静かに酒を楽しむということができないのだろうかと、

霖之助は呆れていた。

「それじゃ、香霖。邪魔するぜ」

そう言うと、彼女は霖之助の膝の上に腰を下ろした。

「あら、私の目の前で良い度胸ですこと」

夕刻の暗さでよく分からないが、青筋でも立ててそうだった。

「へへん。昔から香霖の膝の上は私の特権って決まってるんだよ」

昔から、魔理沙は霖之助といる時は膝に座っていたらしい。

今は年頃のせいか少なくなってるが、

それでも座りたいとい気持ちは消えていないらしい。

「君が前に座ったら僕が飲めないじゃないか」

目の前にはウェーブのかかった金髪が垂れているので、

このままでは自由には飲めない事になる。

「大丈夫だぜ。こうやってすれば…」

そういうと、彼女は酒を1口含み霖之助の口へと近づけてきた。

何故こんな事をし始めたのかと言えば、

宴会へ来る前に彼女が読んでた本にあった。

『鈍感な彼にはいつもと違う大胆な攻撃がオススメ!』

なんて書いてあったからだ。

「もう酔ってるのかい?そういうのは軽々としない方がいい」

「そうですわ。お子様は早く帰って寝ることね」

この流れに同上し、紫も霖之助から離そうとしていた。

「うっ…これはジョークだよ、ジョーク。何気にしてんだよ」

笑ってはいるが、明らかに顔に落胆の色が見えていた。

「そうかい?ならいいんだが」

そういうと、霖之助は魔理沙を隣にずらして、また飲み始めていた。

「ちっ。もう少しだったのに…」

最早彼女の顔は酒を楽しむそれではなかった。






しばらくの時間が過ぎた頃、

あちらこちらで酔いつぶれている者や、

未だに飲み続けている者がちらほらいた。

「ほら、魔理沙。夜だし冷えてくるから帰るぞ」

先程、霖之助に断られた魔理沙は、

ヤケクソになったのか、一升瓶をグビグビ飲んでしまった。

「ほら、紫も。ここで寝るのはよくない」

紫も紫で、霖之助に構ってもらえず魔理沙程ではないものの、

早いペースで飲んでいたので、

酔いが回って寝てしまった。

「えへへ、香霖の腕だ。もう離さないぜ」

魔理沙を抱こうとしたら、逆に彼女が霖之助の腕に

抱きついてしまい、取れなくなってしまった。

いかに軽い少女と言えど、数十キロの物体を

片腕で支えるというのは、聊かきついものである。

「うーん、霖之助さーん。歩けなーい」

紫の場合は、寝言なのかは分からないが。

「藍を呼ぶことはできないのかい?」

「できません。酔っちゃいました」

せっかくのチャンスを式神で台無しにはしたくない紫であった。

「仕方ない…」

そういうと、霖之助は背中に紫を乗せ、

両腕で、魔理沙を抱く形になった。

「それじゃあ霊夢。僕はここらでお暇させてもらうよ」

霊夢は、境内で翠香と飲んでいた。

「あら、霖之助さん。もう帰るの?」

「二人が寝てしまったからね。おいておくと風邪を引きかねない」

紫の場合は問題ないだろうが、人間である魔理沙は

風邪を引いてもおかしくない。

優秀な薬師がいるので、大丈夫だろうが、

できれば引かせたくないのが、人情と言うものだろう。

「それじゃ、また明日」

「おやすみなさーい」

「店主。いつか一緒に飲もうな!」

霖之助は何も言わず、手を振って神社を後にした。







香霖堂へ帰る途中に、

「うーん…香…霖」

「なんだい?」

うっすらと目に涙を浮かべた魔理沙に、

霖之助は自然と、返事をしていた。

「好き…だ…ぜ」

「ああ、僕もだよ」

そういうと、涙は溜まっているものの、

彼女の寝顔は、安らかな寝顔へとなっていた。

「ん…霖之助さん?」

「やあ。起きたかい?」

揺れで紫が目を覚ました。

「いけない、眠ってしまってたわ」

「そうだね。歩けるかい?」

「ええ、ここからは…いえ、まだ無理ですわ」

ここで歩けると言ったら水の泡になってしまうので、

嘘をついてしまった。

「藍を呼ぶことは?」

「無理のようですね。スキマも開きませんし」

もちろんこれも嘘である。

「仕方ないね、今夜だけだぞ」

それは、香霖堂に泊まっていいということである。

「やった!ありがとう、霖之助さん!」

というと、紫は後ろから抱き付いてきた。

もちろん、背中に当たるものもあるが、

霖之助は、さも気にしてないようで、

「ほんとに歩けないのかい?」

と、聞いてきた。

「あ、歩けないわ。それより早く行きましょ」

「やれやれ…」

さて今宵、霖之助の夜がどうなったのかは

霖之助のみぞ知る。
うーん…霖マリのつもりで書いたんですが、

出番無かったですかねぇ…。

今回の話で、紫が悪者扱いというか

黒くなっていますが、

もちろん紫霖も好きなので、

悪しからず。
白黒林檎
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コメント



0.2270簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
こーまり……大好物です^q^
7.70名前が無い程度の能力削除
鈍感を通り越して無感の域に至ってるぞ香霖w
12.80名前が無い程度の能力削除
ゆかりんうふふ
20.40削除
誤字報告
>落とすのは顔と胸は付き物よ
落とすのに顔と胸は付き物よ

お話としての不備は見当たらないのにどこか面白みに欠けるような気がしました。
しかし、このゆったりできるような雰囲気はいいものですね。
21.100奇声を発する程度の能力削除
>翠香
萃香?

紫様が可愛かった!
31.100名前が無い程度の能力削除
こーりん俺と代われ
32.無評価名前が無い程度の能力削除
なぜだろう・・・
店主と酒を飲みたがる萃香が一番気に入った