ふと食べたアメが原因でレベルが上がりまくってしまったチルノさん。
そして体だけ滅茶苦茶レベルアップしてしまった彼女をはらはらしながら見守るパルスィさん。
――これはその二人を取り巻く、ヒッポロ系ニャポーンな物語である。
『ちるのさんLv.99』
ふたつめ
ふたつめ
博麗の巫女と共に数々の異変を解決してきた実力者、霧雨魔理沙を倒したチルノ。
その彼女が次にいったいどういった行動をとるのか。どこかへ無駄な喧嘩を売りに行くのじゃないか。
「うーん、とりあえず大ガマの池にでも遊びにいこっか!」
そういった水橋パルスィの懸念は、かっこよい顔つきと無邪気な笑顔のアンバランスコンボに即ホームランされた。
もしかして自分が最強なのは元々であり、今更アピールするまでもないとでも思っているのだろうか。
(とにかく、普通でよかった……)
なんていう橋姫の安堵は、またまたホームランされることになるのであるが。
「ほーらほら置いてくよパルスィーっ!」
「ぢょっと、まってった、らぁ!」
大ガマの池を目指して妖怪の山へと突入する。
さすがにLv.99にパワーアップしただけのことはあり、その速さは今までと比べ物にならない。パルスィはあわや取り残されるところだ。
「っていうか周りの木が凍っていってるしぃっ!」
なんということでしょう。チルノの氷の羽のはばたきによる冷風にあおられ、周りがどんどん冬景色に。
妖怪の山は今、未曾有の寒冷前線に襲われていた。
「むぁてーい!」
「!?」
突如、威勢のいい声が響く。
そうしてチルノの前に踊りだした影が、二つ。
「突然現れて冬を撒き散らすとは不届き千万笑止千万!」
「そんなにホイホイ冬にされては商売上がったりなのです!」
パルスィはその姿には見覚えがあった。
以前にチルノにつれられて山にやってきたときに会った豊穣神の姉妹。
「世界の秋を守るため!」
「世界の冬を防ぐため!」
「愛と真実の芋を貫く!」
「ラブリーチャーミーな豊穣神!」
「その決め台詞に繋ぐの!?」
しかしパルスィはもっととんでもないことに気づいた。
彼女らはチルノの前に立ちふさがった(というか飛びふさがった)わけだが、高速先行していたチルノの減速が全然間に合ってないという事実。
「ちょ、あぶな」
「秋、静hおぼふ!」
「秋、穣kたわば!」
「森崎君のごとくフッ飛んだ!」
「ごめん……あたい、急に止まれなくて……」
「ううん……いいの、急に飛び出したりしたあたしたちが悪いの……」
「ふふ……私たちが笑止千万よね……」
「なんかテンション低くなって意気投合した!」
しかし、普段は傍若無人なところもあるチルノも、不可抗力でやってしまったことには引け目を感じるらしく、珍しくしおらしい。
そんな彼女もまた新鮮でいいんじゃないかなーとか思ったりしちゃったりして。
(邪念退散!!!)
すぱこーんといい音を立ててパルスィーは自らの頬をはたいた。
「何やってんの?」
「なんでもないっ!」
赤くなった頬をぷいっとそむける。
「なんか赤くなってるよ? 冷やしたげようか?」
なんていいながら、チルノはごく自然にパルスィの両ほほに手を当てた。
それはひんやりとしていてとても気持ちよく……
「ってホアァーッ! ホァーッ!」
しかしほどなく絵面があやしいことになっていると気づいたパルスィは奇声をあげながら身を翻す。
「どったの?」
少し呆気にとられたようにチルノが聞くと。
「ノーセンキュー! ノーセンキュー!」
となぜか英語で返す橋姫だった。
「変なパルスィ」
チルノがいぶかしげに首をかしげていると、スカートをくいくいと引かれる感覚。
見ると穣子が倒れたまま力なく手を伸ばしていた。
「うう……あんた何者なの……? 戦闘タイプでないとはいえ、神二柱を突進で一蹴だなんて……」
「あたいはチルノ! 幻想郷さいきょーの妖精だよ!」
秋姉妹に電流走る――!
「妖……精……?」
「妖精がこんな戦闘力を持てるものなの……!?」
「えーと、これには深いわけがありまして」
これ以上放っておくとグダグダになる。それを嫌った橋姫は簡潔な説明を試みた。
すなわちこの強さはアイテムの恩恵によるものと。
「なるほど……しかし妖精がこれほどのものになるとは」
「ふん、そんなのあってもなくても、あたいはいつだって最強なのよ!」
根拠のない自信満々にチルノが大きな胸を張る。その様子を見て静葉が苦笑した。
「あはは……まぁ、もう私たちは止めようとは思わないですけど、この先に進むのはよしたほうがいいと思うのです」
「どうして?」
チルノが聞き返す。
「この先には天狗の勢力があって、そして山頂には守矢神社があります。今の妖精さんは影響力がハンパないのですから、何事もないというわけにはいかないと思うのですよ」
「天狗は個別でも強い上に、一部といざこざを起こしても社会全体を相手にすることになるし、守矢の神は私たちとは違う、強大な力を持った戦神だ。いくらLv.99といえど、ただではすむまいよ」
静葉の話を穣子が具体的に補足する。
「天狗と守矢か……」
パルスィは唸った。
以前妖怪の山に登った時に、その二つの勢力の片鱗には触れている。あまりにも片鱗過ぎて実感は湧かないのだが。
しかしその勢力がどの程度であろうとも、問題はそこにはない。
「田ボだろうがモリガンだろうが、今のあたいの敵じゃないわね!」
「もう間違ってる!」
そう、チルノに警告なんかしたら逆にノリノリになってしまう。
(ま、まずいわ。何か策を講じなければ……)
パルスィが顎に手を当てている間に巻き起こる冷風。しまったと思ってみるや既に遅く。見えたのはチルノの後姿と冷気に当てられて倒れた秋静葉。
「うう……穣子、お姉ちゃんはもうだめ……」
「ねーちゃーん! しぬなー! ねーちゃーん!」
「大変なことになってる!」
穣子は静葉を抱きかかえながら涙を浮かべて呼びかけている。
「うう……最期に……舌平目のムニエルが……食べたかった……」
「ねーちゃーん! 最期に海の幸かよねーちゃーん!」
「がくっ……」
「ねーちゃーーーん!」
「ええと、大変そうだけどあっちもあっちだから行くね! お大事に!」
パルスィは少し迷ったが、「がくっ」を口で言ったりと割と大丈夫そうなので、チルノを追うことにした。
「くっ……早く追いつかないと……」
パルスィは急いで飛び立った。
チルノは山頂に向かって加速していて、寒冷前線はなおも驀進中。この調子だったら間違いなく天狗か守矢に目を付けられる。
「どうにか気分を萎えさせられれば……」
そうは思うがなかなか思いつくものでもない。
「っ、何かが来る!」
斜め前方からしゅたっ、しゅたっ、と駆け下りてくる影。それはチルノの前には立ちふさがらず、木々に飛び移ってパルスィと併走する形をとる。
「あんたは……」
「やぁ、久しいな橋姫殿」
大きな曲刀と盾を持った、白い狼を連想させる少女。
白狼天狗、犬走椛。彼女もまた以前山にやってきたときに会った者だ。知り合いではあるが、これで天狗には遭遇してしまったことになる。
「なんだかものすごいものがやってくると思ったら、その後ろに貴女がいるじゃないか。一体全体何がどうなっているんだい」
「それは……かくかくしかじかで」
パルスィの説明を聞くと、椛はむぅ、と唸った。
「なるほど。あれはチルノだったか。こりゃまた厄介な」
「どうにかして止めたいんだけど、何かいい方法はない?」
パルスィの問いに、椛はふむぅ、と唸る。
「……犬走家には伝統的な戦いの発想法があってな」
「逃げるんですねわかります」
言うが早いか椛は再び加速して山頂へと戻り始める。
「速ッ!」
パルスィの驚きの声に、椛は振り向きながら言う。
「逃げるんじゃあない。戦略的撤退だ。哨戒天狗が事件を伝える前にやられていたら意味がないからな」
「……ってことは、天狗の上層部にこのことを!?」
「言わないわけにはいかない」
椛とは知り合いだからまだなんとかなる。そう考えていたパルスィはその考えが甘かったと思い知った。
聞き及んではいたが、やはり天狗の社会は強固。椛もまたその立派な構成員なのだと。
「何、心配しないでくれ。きっと悪いようにはしない」
パルスィがその言葉にはっと顔を上げたときには、椛の背はもう小さくなっていた。
「む」
チルノは自分の前方に誰かが立ちふさがったことに気づいて、止まった。
もちろん急には止まれなかったが、それはちゃんとぶつからないように後ろに下がる。
「あやややや……お久しぶりですね、チルノさん。いやまぁまったく立派になられて……。おっと、一枚失礼」
いつも一枚撮る余裕を忘れずに。
黒き羽を広げ、最速幻想ブン屋、射命丸文がそこに立つ。
「んーっと、いつぞやの天狗ね。何? あたいに挑みに来たの?」
花の異変の時、文は手加減をした状態でチルノに敗れている。よって、手加減のことを知らないチルノからしたら格下な認識。
抑止力などはないに等しく、しかもチルノがLv.99である今は、本気でやってもどうなるかわからないレベル。
だが、犬走椛は射命丸文を呼んだ。
「やっとおいついた!」
パルスィがぜえはあと荒い息をつきながらチルノの後ろに飛んでくる。
そして、視線を上げて息を呑んだ。
(天狗が来ている……!)
「あ、パルスィやっと来たわね」
「あ、じゃないわよ……先走っちゃって、もう……」
愚痴を吐きながら、ちらりと天狗の方を覗う。
ばっちり目が合って、にこりと微笑まれた。
「っ!」
「あや、そんな怖い顔をなさらず。ええと、初めまして。私、射命丸文と申します。あなたが水橋パルスィさんですね。お噂はかねがね」
「は、はぁ……」
笑顔を崩さず挨拶してくる。
なんともやりにくい相手だな、と純粋にパルスィは思った。
(しかし、天狗の目的は、一体?)
椛が連絡していったにしては、差し向けられたのはただ一人。社会を構築している天狗らしくない。
「で、どうすんの? 戦う?」
「いやいや、まさかまさか」
射命丸は苦笑を浮かべてピンと一本指を立て、スゥッと緩やかにその指先を移動させる。
そして、唐突に叫んだ。
「あぁッ! UFO!」
「なんつう古典的な!」
即座に反応したパルスィに比較して、チルノは不思議そうな顔をして首を傾げるばかり。
「……ゆーふぉーってなに?」
「おおっとぉ、これは盲点でした!」
射命丸文は冷や汗を流しながら一拍おくと、再び指を先ほどの方角に指し。
「あぁッ! ZUN!」
「同じ手使っちゃった!」
「えぇっ!? ZUN!?」
「そして引っかかっちゃった!」
「……どこにもいないじゃない!」
チルノが射命丸文を睨む。しかし、文は今度は茶化さずに真剣な目でチルノを見返す。
「いいえ、私は見ました。あの建物に入っていくのを」
「む、そうなのか! 行くよパルスィ! こりゃうかうかしてられないわ」
「何が貴女をそんなに駆り立てるの!? ZUNって一体何なの!?」
しかしそんなパルスィの叫びは、再びばびゅんと飛び出していったチルノに、届かない。
「さすがは文様、見事な手際です」
チルノが去ったことを見計らい、がさりと枝を揺らして、椛が現れる。
文は得意げに口の端を上げた。
「ふふ……私の手にかかればこんなものよ」
「結構危なっかしかった気しかしないんだけど!」
文の得意げな顔にパルスィが物申す。
「あやや、パルスィさんにつっこまれたときは流石にヒヤっと……」
「それに! あんたの指し示した方角!」
おどける文を無視してパルスィは続ける。
「この山から追い出すならばまだわかる! でもあの方向は、あの建物は……」
文の策はもたつきこそしたが、発想自体は上手かった。
一つのことに夢中になってしまうのが妖精なのだから、もっと別の興味を与えてやればいい。
そんないい発想を使ったからこそ、パルスィは憤りを覚える。
「あれは……守矢神社じゃない! なんでわざわざあんなところに!」
パルスィの勢いに文は団扇で口元を隠し、努めて静かに話し出した。
「……彼女は天狗に特別に敵意を抱いているわけではなく、単なる天災のようなものであり、方向を逸らせるならば特に手を出す理由は無い。それが一つ」
射命丸文は指を一つ立てる。
「妖怪の山への興味を少しでも潰しておかなければ、彼女は再び山に登る。それが二つ」
指を二つ。
「彼女は彼女自身のためにも、一度勢いを挫かれるべきだ。守矢の神、八坂神奈子ならそれが出来ると私は信じる。以上、三つ」
指を三つ。
「これが私が彼女を守矢神社に向かわせた理由です。おわかりいただけましたか?」
「っ……!」
流石にものを考えている。
そして彼女は彼女なりに、チルノのことを考えている。
「妬ましい、わね」
「は、はい?」
唐突な嫉妬宣言に文は戸惑ったような表情を見せる。
「パルスィ。早くチルノの後を追うべきだ。これより後は貴女にしかできない」
「言われなくても!」
椛の言葉に、パルスィは息巻いて答え、飛び出していった。
「……ねえ椛、私はなんで妬まれたのかしら」
「さてはて。乙女心は難解でありますからな」
パルスィはまた大急ぎでチルノを追いかけていた。
文の話が長かったため、頂上に行くまで追いつけないのではないかと思っていたが、割と簡単に追いつくことが出来た。
……緑髪の巫女と対峙していたからである。
(守矢の巫女!)
あれも仲良くはなっていないが、以前会ったことがある。守矢神社の巫女、東風谷早苗。
パルスィの緊張が高まる。しかも、なにやら守矢の巫女は憤慨している様子。チルノは何をやらかしてしまったのか。
「ミラクルフルーツは……元々暖かいところに生育する植物で……とてもデリケートな植物なんですよ……」
「……はい?」
「そして、桃栗三年、ミラクル七年と言われるように、育てるのに根気の要る植物です」
「そーなん?」
チルノが問うてくる。
「いや、そんな言葉聞いたことないけど……ってまさか」
先ほどとは別の意味で嫌な予感を感じる。
「……私のミラクルフルーツ農園が……冷気で……」
「まだ農園持ってたこの巫女!」
しばらくすすり泣くようなしぐさを見せていた早苗だったが、突如、視線鋭くチルノをにらみつける! チルノの防御力が下がった。
「お前を……殺す」
「巫女にあるまじき発言が出た!」
「ただでは殺しません。奇跡的に殺します」
「どんな殺し方よ!?」
ピタゴラスイッチの最後のおもりに押しつぶされるとかそんなんだろうか。嫌過ぎる。
でもチルノは奇跡的な殺害予告をされても涼しい顔で。
「ふふん、ならあたいは写実的に殺すわ」
「写実的!?」
元気に意味のわからない殺し方の返礼をすると、双方戦闘体制に入る。
「最初からクライマックスで行きますよ! 開海『モーゼの奇跡』!」
早苗がカードを掲げて宣言すると、濁流のごとき弾幕が動きを制限するかのように両脇を席巻する。その勢いに、さすがのチルノも息を呑む。
「開運『なんでも鑑定団』……恐ろしいスペルね」
「全然違うよ!」
開しか合ってないあんまりな間違いにパルスィが戸惑う中、チルノもカードを一枚取り出す。
「ふふん、じゃああたいもとっておきを見せるしかないね」
「何が来ようと、モーゼの奇跡が全てを飲み込む!」
制限された空間の中襲い来る弾幕。
「くらえ! 雪祭『スノウフィギュア』!」
チルノが放ったのは、先ほどからあたりを凍らせていた、羽ばたきから生み出される大寒波。
それは相手の弾幕を鈍らせ、さらに早苗本体を襲う。
「うにゃぁーっ!? こ、これはっ……!」
早苗の弾幕は確かに強力だったが、所詮は怒りに任せた攻撃。相手に攻勢に出られると対応ができない。
かくして寒波が過ぎ去った後には、早苗は早苗自身をかたどった(しかし絵柄は原哲夫)氷の塊に覆われてしまっていた。
「ある意味写実的に葬った!」
「あたいったら天才ね!」
チルノは笑顔でピースサイン。
(か、かわいい……かわいいんだけど……)
パルスィはもう一度雪祭りを見る。
(この状況が異常すぎて……)
原哲夫で氷付けな青巫女がヤバイ。
どうしたもんかと思っていたところに。
「あ、よいしょー!」
突如、軽快な掛け声と共に何か柱のようなものが氷像に突き立ち、原哲夫が粉砕される。
しかし、綺麗に中身の早苗さんは無傷なまま放り出された。
「あぁっ、あたいの力作が!」
「ま、まぁあのままにしとくわけにもいかなかったし」
「ちぇー、あたい博物館の第一歩にしようとおもったのに」
「ヤな博物館だなぁ……」
チルノとパルスィがうにゃうにゃ会話をしてる間に、早苗は放り出されて地面に落ちる。
「ふんみゅ!」
そしてぐってり起き上がると、涙目でおしりをさする。
「あいたたたぁ……私としたことがぁ……」
「まったく、果物に入れ込みすぎよ。あなたは」
凛とした声が響く。その声に早苗はびくりと体を震わせた。
「や、八坂様……!」
早苗が顔をあげ、チルノとパルスィもそちらへと向き、全員の視線が集まった先には、赤い衣と青紫の髪。そして、背に負った大きな注連縄が特徴的な女性が立っていた。
「妖精にあっさり負けちゃって……。信仰低下は死活問題なのよ?」
「す、すみません……」
しゅんと早苗はうなだれる。あの青巫女が屈する存在。それはもう一つしかない。
「守矢の神……八坂神奈子……」
「そのとおり」
パルスィの呟きを肯定して、八坂神奈子はにっこりと微笑む。
「まずはウチの巫女の無礼を謝っておこう。昔からちょっと一途過ぎて、思い込んだら暴走してしまうこともしばしばだったからねえ」
(それ、妖精の性質と……)
思ったがパルスィは言わなかった。彼女は大人である。
「さてと、天狗から話は聞いてる。あんたが色々とすごいことになってる妖精、チルノだね」
「そうだけど、そんなことよりZUNはどこにいるのよ」
「そういえばそんな理由でここまで来たんだっけ……」
チルノの疑問に、神奈子はふむ、と少し考える。
「まぁ、私に勝ったら教えてやろう」
「ほんと!?」
チルノが目を輝かせる。
「こちらとしても巫女がやられたままってわけにもいかないしね」
そうして神奈子はにいっと歯を見せて笑った。
(い、今までの敵とは雰囲気が違う……!)
パルスィは息を呑んだ。思えばこんなカリスマ丸出しのやつとやるのは初めて。チルノのパワーアップが、こんな戦いを呼び寄せてしまったのか。
「チルノ……」
思わず、弱気な声が出る。
「大丈夫」
それにチルノは、曇りのない笑みで返した。あまりにも純粋なその笑みに、パルスィの胸がどくんと波打つ。
(ええい! こんな時くらい自重しろ私!)
そんなパルスィの心情を知るわけもなくチルノは息巻く。
「だってあたいは、最強の中の最強だからね!」
それを聞いて、神奈子は笑った。
「さてと、早苗、下がってなさい」
「ひゃい!」
早苗さんがいっぱいいっぱいの返事を残して下がるのを皮切りにして、戦いは始まった。
「さて、まずは小手調べと行こうか」
まずは通常弾幕の撃ち合いに持ち込む。お互いの実力を測り、牽制する。
「むむ、やるわね」
(えーい私のバカバカ! ……ってもう始まってる!?)
パルスィが正気に戻った。
「ほらほら、どうしたの?」
弾の手数は神奈子が勝っている。自分の両脇からひっきりなしに弾幕を炸裂させて、それだけで圧倒しようと試みているかのよう。
「今までとは違うわ! ええい! 凍符『パーフェクトフリーズ』!」
チルノはたまらずパーフェクトフリーズを発動させ、弾幕を凍らせる。
だが、その瞬間。
「神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』!」
八坂神奈子の傍らに、巨大な柱が創出される。
「あ、よいしょお!」
再び軽快な掛け声とともに、ドゥンと勢いよくオンバシラを射出。凍らされた弾幕を強引に砕き、その勢いのままチルノを掠める。
「う、うわわ!」
「チルノが押されてる! これはさっき原哲夫を粉砕した技!」
チルノがひるんだのなんて初めて見た気がする。
神奈子は技を出すタイミングもしっかりと考えている。
「凍符『マイナスK』っ!」
だがいつまでもひるんでいる氷精ではない。おかえしとばかりに、チルノは冷気を凝縮した弾を放つ。
「ほう、だが――」
避けようとした神奈子の眼前で、その凝縮された冷気が爆ぜた。
「むあ!?」
「入った!?」
パルスィが興奮気味に叫ぶ。
さしもの神もその弾には驚いたらしい。
「今だ! 雪符『ダイアモンドブリザード』!」
畳み掛けるようにチルノが嵐のごとき弾幕を追加する。神奈子はそれを見て顔をしかめた。
「やってくれるじゃないか! 忘穀『アンリメンバードクロップ』!」
神奈子の背中に御柱のようなものが四本現れる。
「よくやったな、粥をやろう」
そしてその中から怒涛のように流れ出る――米。
「おおおおおお!?」
「なにこれ!?」
さしものパルチルもその光景に唖然とする。
「米の弾幕で何も見えないわ!」
チルノが某動画サイトを見ているかのごとき言い草で狼狽する。
「あーんしてやろう!」
突如米の奔流の中からにょきっと現れた神奈子が、唖然として大口をあけていたチルノに、匙でおかゆを放り込んだ。
「むぐー!?」
「わはは、お米食べろ!」
そうして再び米の中に帰っていく神奈子。
「完全に遊ばれとる!」
パルスィも神の遊び心には頭が下がる思いだった。涙すら出てくる。
「むきー! ふざけやがって!」
怒ったチルノが粥を嚥下しつつダイアモンドブリザードを最大出力に上げた。冷たい暴風が米を吹き飛ばす!
たちまち、神奈子の姿が現されてしまった。
「おおっ!? 私のアンリメンバードクロップが」
神奈子自身、妖精と神のこのいかんともしがたい実力差に、多少たかをくくっていたところはある。自分の弾幕が押し切られたことに驚きを示していた。
「むむむ……」
「何がむむむだ! くらえー!」
弾幕も出せずにいる神奈子に、チルノはとどめの弾幕を浴びせかける。
――しかし
「チルノ!」
「え? っうわ!」
パルスィが叫び、チルノが振り向いた視線の端に見えたのは、こちらへと高速で飛んでくるオンバシラ弾。
「あぶなっ……! なんで誰もいない方向から!?」
なんとかかわしたチルノが、あたりをきょろきょろと見回す。
「あぶないところだった……。念のために奥の手を張っておいてよかったよ」
神奈子が額をぬぐうようなしぐさを見せる。
「ふふ……私は米にまぎれて、私の神域結界を張り巡らせていたのよ!」
「「な、なんだってー!」」
あたりを見回すと、そこはいつの間にか御柱が乱立する謎の世界へと変貌していた。
これが結界を示しているのだろうか。
「触れれば発射される『私』の『結界』はッ! すでにおまえの周り半径20m! おまえの動きもパルスィの動きも手にとるように探知できるッ!」
「ちょ、この言い草は……」
パルスィの危惧に応えるかのごとく、神奈子は得意げにチルノを指差して叫んだ。
「くらえッ! チルノッ! 『半径20mエクスパンデッド・オンバシラ』を────ッ!」
「すげえ技出しちゃったよーーーッ!?」
あたり一面から発射されるオンバシラの群れに、パルスィはただ叫ぶことしか出来ない。
「っていうかこれはマジでシャレにならないんじゃ……」
「大丈夫……任せてパルスィ!」
「チルノ!?」
「こんなこともあろうかと温存しておいたスペルがあるのよ」
絶望的な状況に思われたが、チルノは冷や汗を流しながらも、全てを捨ててはいない目で一枚のカードを取り出す。
「いっくよー!」
――氷帝『氷の世界』
「なんかある意味似たようなことやり返した!」
「ほぅら、凍れ!」
だが、その効果は絶大。群れを成して襲ってきていたオンバシラが、チルノの波動によって瞬時に氷柱に変えられ、止まってしまう。
「す、すごい!」
マジでヤバかったあのスペルを返すとは――
「さて、この柱、返す……ってあれ?」
チルノが自信満々に見据えた先……神奈子がいるはずの場所には、誰もいなかった。
「どこいった? 逃げたの?」
「いやまさか……」
あたりを見回すチルノとパルスィ。
だが何も見つけることは出来ず、御柱の影にでも隠れているのかと攻撃を警戒したところで。
――神符『神が歩かれた御神渡り』
突如浮かび上がった亀裂のごとき弾列が、チルノを直撃した。
「……え?」
そばで見ていたはずのパルスィが、何が起こったのかわからずに絶句する。
「な、なんじゃこりゃあ……」
直撃を食らって落ちるチルノを、下を『歩いていた』神奈子がお姫様だっこ的に受け止めた。
しかしチルノは大人の姿なので、不思議な雰囲気がするやら神奈子の力に感心するやら。
「あ、あんた……」
驚いたように神奈子を見るチルノに、神奈子はにこりと笑いかける。
「冬、諏訪湖の湖面が全面凍結して割れ目が生じることがある。そして朝の昇温に伴ってその氷が膨張し、割れ目の部分を押し上げて氷堤を作る現象……。それを神が通った跡に見立てて、『御神渡り(おみわたり)』というの。……素敵な冷気をありがとうね。妖精さん」
その説明で、パルスィ、そしてチルノも理解する。
『技を逆用された』のだ、と。
「まぁ、まさか対抗して新技を出してくるとは思っていなかったけれどね」
おそらく、あの無駄に壮大な半径20mエクスパンデッド・オンバシラも、チルノの最大の技を誘い出すための囮に過ぎなかったのだろう。そのカウンターとして、最高の御神渡りを叩き込むための。
おそらくはパーフェクトフリーズLv.99を誘うつもりだったのだろうが、結果としては同じことだ。
「す、すげえ」
チルノに悔しさの表情はない。ただただ感嘆といった面持ちだった。
(たぶん、あのときの私と同じなんだわ……)
パルスィは悟る。
かつて自分はチルノに敗北を喫した。
力で劣ってたわけでは決してない、と思う。だが、嫉妬の妖怪が相手の嫉妬をまったく誘うことができず、敗北したという実感を突きつけられたのだ。
レベルが違うのではなく、世界が違う。
そんな完全敗北は、嫉妬すら生まない、と思う。
そこから自分はチルノに惹かれ、友達になったのだから。
「良い弾幕ごっこだったわ。楽しかった? チルノ」
「うん!」
チルノも元気よく返事をする。
そこに嫉妬の気はない。完全敗北だからと言う以上に、彼女自身の素直さも手伝っているのだろうが。
(むう妬ましい……自分もチルノをあんな気分にさせてみたい……)
パルスィが感じるのはやはり嫉妬。
恋愛にたとえれば、今の状況は自分からチルノへの片思いに過ぎない。自分が付きまとうばかりではなく、相手を振り向かせてみたいと思うのは道理。
(きっと、いつか……)
パルスィは小さく胸に決意をともした。
いまだにこやかに会話をしているチルノと神奈子を見ながら。
「また遊ぶ?」
「うん!」
「守矢神社信仰する?」
「うん!」
「待て待て待て待て!」
パルスィが慌てて割り込む。
「何さ」
「何ナチュラルに宗教に引き込もうとしてるのよ!」
「いいじゃないか別に。私神なんだし。宗教だって個人の自由だろう。それに、あなたはチルノの何なのかしら?」
ツッコんだつもりが、即座に反論を並べ立てられてパルスィはたじろいだ。
「む……と、友達よ」
歯切れ悪く答える。必要不十分な答えであることがわかっているだけに。
「そうね、友達は大事だもんね」
だが、神奈子は微笑んでチルノをパルスィに手渡す。
「おおう」
「わわわ!?」
びっくりするチルノと慌てるパルスィを見て神奈子は満足そうに話す。
「良く考えるのは大事。でも考えすぎも良くないよ。誰にだって限界はあるしね。そこらへんをどうにかするためにも宗教はあるってことをわかっていてほしいかな」
「……大きなお世話よまったく」
パルスィはチルノを下ろしながら、ため息を吐く。
「ま、あるがままに、ね」
考えすぎな彼女は、自分が気遣われていることに気づいてしまうから。
「それでは諸君。私が勝ったからZUNのことは諦めてもらうが、まぁ、また気が向いたら来るがいいよ」
神奈子は小さく手を振る。
「ちぇー、残念だなぁ」
「まぁ仕方ないわよ。帰ろう。チルノ」
「うん。またね神様」
「はいよー、またな」
チルノは未練が残る様子だが、だが真っ向から敗れた以上、あきらめるだろう。
なんだかんだで律儀な妖精なんだから。
「帰っていきましたねー……」
ひょっこりと早苗が顔を出す。神奈子は苦笑した。
「あぁ、うん。愉快な奴らだったねえ。あいつらを巫女にしても面白いかもしれん」
「ええ!? 本気ですか!?」
「面白いってところはね」
笑う神奈子の後ろに、一つの気配が降り立つ。
「やさしーね、神奈子は」
目玉飾りのついた変な帽子を被った黄色の髪の少女。守矢のもう一柱の神、洩矢諏訪子である。
「はは、まぁ、あのころは神と言えば祟り神だったしな。土着神の頂点にとっては手ぬるい処置だったかな?」
「ううん、別に。神奈子のそーいうとこは好きだしね。私」
あまり表情を変えずにしれっと言ってのける。
「おやおや」
神奈子が微笑する。さすがに長い付き合いだけあるようだ。
「あわわ」
一方、勝手に盛り上がる早苗に苦笑して、諏訪子はチルノたちの去っていった山の下のほうを眺めた。
「うーん、今度来たら、私も相手してあげなきゃねえ。ふふ」
「そうするといい」
二柱の神は、そうして山を見下ろしていた。
「すごかったね、神様」
「うん、すごかったねえ」
チルノとパルスィは、妖怪の山を降りていた。
「……どうすんの? 入信とかなんとかかんとか」
「んー、よくわかんない」
パルスィが心配げに切り出すと、予想通りの答えが返ってきた。
「でもまぁ、とにかく、もっと強くなる。それだけは決めたから」
「チルノ……」
まぶしい笑顔。だが危なっかしい笑顔。
今の強さとて、仮初のものでしかないのに。
――あなたはチルノの何なのかしら?
そう、パルスィの一存で、森近霖之助にチルノを元に戻す方法の調査を依頼した。
それは、一人の友人として出すぎた行為だったのではないだろうか。
――良く考えるのは大事。でも考えすぎも良くないよ
(考えても仕方が無い……か)
チルノだって我がままを通しているんだ。自分だって、少しぐらい我がままを通してもいい。今はとりあえずそう思うことにする。
そう、あるがままに。
「とりあえず強くなるためにしっかりと計画を立てて蛙を凍らせていこうと思うんだ」
「今までそんな城の周りでスライム狩るような修行してたん!?」
――あるがままに。
~続~
さ⑨やさん戦もみてみたいですー。
そしてチーちゃんの努力っぷりに全パルパルが哭いた。
じゃあ努力値ためてもう1つLVあげれば6ボスだなwww
「ふふ……私たちが笑止千万よね……」が、なぜかツボにw おそらく直前のハイテンションからの急降下のせいだちくせう! 秋姉妹が素敵ッ
パルスィの頬に手を当てるチルノの図は今はチルノの方が背が高いからパルスィを見下ろしている状況でありさらにパルパルが涙目で上目遣いならばその破壊力は――(落ち着けと
あと、あとがきで咲夜さんよりもパルスィとお嬢様の仲はきっと良いと想像して萌えたのは秘密。
がんばれパルスィ。ポケモンマスターになるその日ま――あれ?
いや…、むしろ高騰なのか……?
爆笑しましたwww
とりあえず、秋姉妹はラブリーチャーミーだよ!
そしてほのかにかほり始めたチルパルの匂い
神奈子様あかんそれ時を凍らされて『精一杯の……メッセージです』フラグや!
と思ってしまったがそこから跡部様に行くとは斜め上だった
多すぎると萎えるけどこれはちょうどいい
後、氷帝で吹いたwww
楽しかった!
すごい楽しみにしてました!
続きも楽しみです!
チルノがカマドウマで
パルスィがくりまんじゅうですか?
これはもうお米食うしかありませんね。
あ、神奈子様、おかゆ1人前お願いします