とあるよく晴れた日の、川べりの出来事である。
「似合うじゃないか」
ふふ、とやたら大人びた風に慧音は笑った。
と、それとは正反対に、まるで子供のような顔でふてくされているのは――慧音と同じワンピースに身を包んだ妹紅であった。
「どこが、だ」
不機嫌極まりない声と顔で妹紅は言い放つ。慧音とは目も合わそうともしない。
が、上機嫌の慧音はそんな彼女の態度も気にしてはいなかった。
「似合っているよ。ちゃんと自分の姿を見てみればいい」
そういって、妹紅の姿を水に映させようとするが、彼女は川べりの大きな石に腰掛けたままてこでも動こうとしない。
昔はきっと素直だったのかもしれないが、今では扱いはそれなりに困難だ。慧音はやれやれと呟いて、手にしていた「洗濯物」をぱんっと広げた。
洗濯物、というのは本来妹紅が纏っている白いシャツに紅いもんぺだった。青空の下で、白いシャツはきらきらと光を反射して輝いている。
さて。
妹紅の衣服がなぜ慧音の手で洗われて、妹紅は慧音の替えの服を借りているという珍妙な状況に陥っているかというと(前略)(中略)(後略)、――とどのつまり慧音の生徒に川に突き落とされたせいだった。
妹紅が子供のいたずらに本気で怒るような人間でなかったのは幸いだ。そうでなければ今頃は、黒焦げの何かが三つばかり彼女の足元に転がっていただろうから。
「着心地はどうだ?」
「……悪くないけど、スースーする」
「ふふ、妹紅はスカートは慣れないだろうからな」
また慧音は笑って、木の枝で即席に拵えた物干し竿に妹紅の服を掛けた。
妹紅はと言えば、実のところどうしようもない着心地の悪さを顔に出さないようにするのでいっぱいいっぱいだった。
「……こんなところあいつに見られたらどうしよう」
妹紅の言うあいつ、ともちろん輝夜のことだ。
基本的にあれは箱入りだからこんな外をうろうろしているわけもないのだが、それでも心配になる。
見られたらあれにどれだけ馬鹿にされるかわかったものではない。
「ははは、彼女がこんなところにいるわけないだろう?」
慧音は、過敏になって周囲をきょろきょろと見回す妹紅を笑った。
「……それは判ってる」
けれど、気になるのはどうしようもなかった。
「妹紅。私はまた寺子屋に戻るから、服が乾くまでは大人しくしているんだぞ」
「判ってるよ、判ってる」
――そしてそんな二人を影からこっそり見つめるウサギが一匹。それは幼い顔に似合わない悪質な笑顔をにやり浮かべて、くるりと踵を返したのだった。
「どうしてお前がここにいるんだ」
苦々しい表情を浮かべながら妹紅が言う。
「面白い見世物があると聞いて、わざわざ足を運んだのよ」
対極的ににっこりと笑っているのは輝夜だった。
ちなみに、足を運んだとはいっても、実際輝夜を籠でここまで運んだのはてゐと鈴仙の二人だったのだが。
飛んできたほうがよほど速いはずだが、それでも籠を選ぶのはやはり姫様ゆえんだろうか。
「しかし、馬子にも衣装とはよく言ったものね」
嫌味である。もちろん。
そしてあいにく、妹紅には嫌味に嫌味で返す話術は持ち合わせがない。彼女は弾幕ごっこででほとばしらせる炎のごとく顔を真っ赤に染めた。
「お前……!」
「せっかくほめたのに。何が気に入らなかったのかしら?」
輝夜の後ろには疲弊しきっている鈴仙と、こんなはずじゃなかったのにと言わんばかりのてゐ。そう、姫に妹紅の様子を告げ口したのは彼女だった。
「そういう格好も、よく似合うのに。まるで女性のように見えるじゃない」
――ぷつん。
輝夜の一言で、妹紅の何かが切れた音がリアルに聞こえたような、そうでもないような。
実際その音は輝夜の耳にも届いたのだけれどその真偽を確かめる間もなく、妹紅は彼女に飛び掛った。
ただの人とは到底思えない身のこなしとスピードで襲い掛かる。
が、輝夜はそれがたいしたことでないように長いスカートをひらり翻し、妹紅の初撃をかわす。妹紅の拳はそのまま行き場をなくして地面を叩き、爆音とともに土を抉った。
「人間は野蛮ね」
はじけ飛ぶ土の向こう側で輝夜がぽそり呟く。と、それが聞こえたのか、身を翻した妹紅が再び攻撃を仕掛けてきた。
「!」
今度は肉弾ではない。
一瞬にして妹紅を囲むように円柱が立ち上り、そしてそれは不死鳥を形作った。
炎弾幕がすぐに妹紅から放たれて、それは輝夜めがけて一直線に襲う!
「昼間から川辺でキャンプファイア? 趣味じゃないわ」
「煩い! 不死の鳥に焼かれるがいい!」
「私に炎で挑むなんて無知も良いところ。不死となって鍛えたのは体だけ?」
輝夜は呆れたように、いや見下すように目を細めて笑った。人のものとは違う、圧倒的な威圧感だ。
鈴仙とてゐはというと、既に籠を持って避難も完了し、遠くから二人の日常喧嘩を見守っている。
「もぉお、なんで姫様をけしかけるような真似したのよてゐ!」
「えー、いや、うまくやれば小遣い稼ぎくらいにはなるかと思ったんだけど。うまくいかないわ」
「? 何それ、あの不死者がどうしたらそうなるの」
「つまり(略)ってこと」
つまるところ、姫が妹紅の仮装に興味を持つようなら写真の一枚でも姫に献上する腹積もりだったそうだ。それがまさかわざわざ直に見に行くと言い出すとは、てゐにとっては全く計算外だったのだ。
「案外姫様、あの不死者がお気に入りなのかもね」
「さあ、知らないわよそんなこと」
しかしてゐの姑息振りに恐れ入るわと鈴仙は溜息を吐いて、再び視線を喧嘩中の二人に戻した。
相も変わらず眩い弾幕は二人の間を行き交っている。
川べりはもはや二人のスペルカードの応酬で無残にも穴ぼこだらけになっていた。水の流れまで吹き飛んでしまわないかいくらか心配である。
と、ひときわ大きな爆音が聞こえて鈴仙はうさぎ耳を抑えた。
「ひゃっ」
もうやだ、と鈴仙とてゐはぴょいんと逃げ出していく。後々姫に怒られるかもしれないがそのときはそのときだ。
が、二匹が逃げ出したあとも二人の戦いは続いていた。むしろ、はじめから眼中になかったのだが。
「輝夜、いつまでも逃げ回るな!」
「しつこいわね。私はあなたの間抜けな仮装を見に来ただけだからもう用はないのよ」
ゴォッと突風にも似た爆音とともに妹紅が飛び掛り、それをぎりぎりの距離で輝夜が避ける。妹紅の攻撃が輝夜を掠めるたびにカリカリと引っかくように音が鳴った。
当たりそうで当たらない、スペルカード勝負においては輝夜相手に限らずよくあることではある、が、それが苛立たないといえば嘘だ。
「ちっ」
慣れないスカートが妹紅の足にまとわりつく。
いっそ破いてしまいたいが、慧音からの借り物であることを思い出して自重した。
――と、輝夜が、
「いい加減飽きたわ。見世物も堪能したし、そろそろお暇しようかしらね」
とぽつり呟く。そして背後をうかがい見て、自分のお供が既に逃げ出しているのに気づいて顔をしかめた。
「――そんなこと、させるか!」
輝夜の視線が外れた隙に、妹紅は地面を蹴って勢いよく輝夜に向かって飛んだ。もはや弾幕ごっこでなくただの殴り合いの喧嘩に持ち込む気満々だ。
「食らえ!」
妹紅は輝夜の顔面を狙って片ひざを突き出す。少女同士の喧嘩とは思えないダイナミックさだ。
――そして彼女のひざが輝夜を捕らえるより一瞬だけ速く、輝夜の手のひらが妹紅の内腿を弾く。その一撃は華奢な手からとは思えない威力で、妹紅の勢いを殺し体勢を崩させた。宙に浮いていた妹紅の体はがくんと斜めって、受身を取れないまま地面へ落ちる。
慧音に借りたワンピースが土まみれになって、転がりながらも思わずしまったと妹紅は顔をゆがめた。それに加えて、スカートが捲れあがってあらわになった足も酷く汚れてしまったがそれには構いもしない。
「っ、くっ」
手でばんっと反動をつけて妹紅はすぐに起き上がる。
輝夜の追撃に備えるためだ。
が、妹紅が完全に起き上がるまで、輝夜はその場に立ち尽くしたまま何も仕掛けては来なかった。
「…?」
何? 舐められているの? と、妹紅の脳裏に考えがよぎる。
妹紅にも高いプライドがある。もしそうだとしたら輝夜を許せなかった。
思わず、――ぎっときつく彼女を睨みつけるも、輝夜は妹紅の考えているような表情はしていなかった。
てっきり余裕に満ちた見下す表情をしていると思ったのに、むしろ眼前の輝夜はその真逆、呆然とした顔をしているのだった。これには逆に妹紅が唖然としてしまう。
輝夜は一体どうしたというのか。
妹紅が身構えるのも忘れて輝夜を見返していると、しばらく押し黙っていた輝夜がゆっくりと口を開く。
「あなたが、どんな仮装するのも別に勝手だけれど。――でもね、せめて下ぐらい履いたらどうなの?」
ひどく、呆れたように。
むしろ、照れているように。
そう輝夜が言う。
そして言われた妹紅はというと、……数秒ばかり何を言われたのかが理解できずに立ち尽くし、そしてその数秒後にようやくことを理解した。
そういえば妹紅は自分の身につけていたものは何から何まで全部慧音に任せてしまった。
つまるところ。
妹紅のワンピースの下は、………………、だった。
「~~~~っ!」
事に気づいた妹紅は今更スカートを手のひらで抑えこむ。
そんなのは今更過ぎるが、今の妹紅にはそんな当たり前のことに気がつく余裕なんてない。
顔が一気にゆでだこのごとく真っ赤に染まって、白髪に良く映えてしまっていた。
「見た!? 見たの!?」
「見たわよ、全部。というか見せられたわ」
詫びてほしいくらいよ、と輝夜は呆れ調子で続けて、そんななりでこれ以上続きも出来ないでしょと妹紅の返事も待たずに踵を返す。
お供のウサギ2匹は既にないから、輝夜は一人ふわんと浮き上がってそのまま妹紅を無視して飛んでいってしまった。
妹紅はそんな輝夜を真っ赤な顔で睨むように見上げて、やがてその姿が完全に見えなくなるとその場に座り込む。さっきまでは慧音の服を汚すことに抵抗があったがもはやそれどころではない。
「……あああ、もう」
長年生きてきてそれなりに色々経験してはいるはずなのに、これはそれまでの出来事がすべて吹き飛ぶ大事件にもなりかねない。
こんな状態をあいつに見られるなんて。
まだ真っ赤な顔を手のひらで隠しながら、妹紅は重い溜息をついた。
「……次会ったときは絶対に殺す」
なんて。
出来るわけもないのは重々承知だ。
火照りを覚ますために妹紅は勢いで水に飛び込んだ。一番深いところでも腰ぐらいの高さしかなかったがそれで十分だった。
冷たい水で全身がぐしょ濡れになってようやく顔の火照りはようやく収まったけれど、それと同時に背後で何やら不穏な気配。
「……」
満月の昇る夜でもないのにやたら殺気だった女の気配がしたから、妹紅は振り返らずにそのまま緩い流れの中を手で掻いた。
「似合うじゃないか」
ふふ、とやたら大人びた風に慧音は笑った。
と、それとは正反対に、まるで子供のような顔でふてくされているのは――慧音と同じワンピースに身を包んだ妹紅であった。
「どこが、だ」
不機嫌極まりない声と顔で妹紅は言い放つ。慧音とは目も合わそうともしない。
が、上機嫌の慧音はそんな彼女の態度も気にしてはいなかった。
「似合っているよ。ちゃんと自分の姿を見てみればいい」
そういって、妹紅の姿を水に映させようとするが、彼女は川べりの大きな石に腰掛けたままてこでも動こうとしない。
昔はきっと素直だったのかもしれないが、今では扱いはそれなりに困難だ。慧音はやれやれと呟いて、手にしていた「洗濯物」をぱんっと広げた。
洗濯物、というのは本来妹紅が纏っている白いシャツに紅いもんぺだった。青空の下で、白いシャツはきらきらと光を反射して輝いている。
さて。
妹紅の衣服がなぜ慧音の手で洗われて、妹紅は慧音の替えの服を借りているという珍妙な状況に陥っているかというと(前略)(中略)(後略)、――とどのつまり慧音の生徒に川に突き落とされたせいだった。
妹紅が子供のいたずらに本気で怒るような人間でなかったのは幸いだ。そうでなければ今頃は、黒焦げの何かが三つばかり彼女の足元に転がっていただろうから。
「着心地はどうだ?」
「……悪くないけど、スースーする」
「ふふ、妹紅はスカートは慣れないだろうからな」
また慧音は笑って、木の枝で即席に拵えた物干し竿に妹紅の服を掛けた。
妹紅はと言えば、実のところどうしようもない着心地の悪さを顔に出さないようにするのでいっぱいいっぱいだった。
「……こんなところあいつに見られたらどうしよう」
妹紅の言うあいつ、ともちろん輝夜のことだ。
基本的にあれは箱入りだからこんな外をうろうろしているわけもないのだが、それでも心配になる。
見られたらあれにどれだけ馬鹿にされるかわかったものではない。
「ははは、彼女がこんなところにいるわけないだろう?」
慧音は、過敏になって周囲をきょろきょろと見回す妹紅を笑った。
「……それは判ってる」
けれど、気になるのはどうしようもなかった。
「妹紅。私はまた寺子屋に戻るから、服が乾くまでは大人しくしているんだぞ」
「判ってるよ、判ってる」
――そしてそんな二人を影からこっそり見つめるウサギが一匹。それは幼い顔に似合わない悪質な笑顔をにやり浮かべて、くるりと踵を返したのだった。
「どうしてお前がここにいるんだ」
苦々しい表情を浮かべながら妹紅が言う。
「面白い見世物があると聞いて、わざわざ足を運んだのよ」
対極的ににっこりと笑っているのは輝夜だった。
ちなみに、足を運んだとはいっても、実際輝夜を籠でここまで運んだのはてゐと鈴仙の二人だったのだが。
飛んできたほうがよほど速いはずだが、それでも籠を選ぶのはやはり姫様ゆえんだろうか。
「しかし、馬子にも衣装とはよく言ったものね」
嫌味である。もちろん。
そしてあいにく、妹紅には嫌味に嫌味で返す話術は持ち合わせがない。彼女は弾幕ごっこででほとばしらせる炎のごとく顔を真っ赤に染めた。
「お前……!」
「せっかくほめたのに。何が気に入らなかったのかしら?」
輝夜の後ろには疲弊しきっている鈴仙と、こんなはずじゃなかったのにと言わんばかりのてゐ。そう、姫に妹紅の様子を告げ口したのは彼女だった。
「そういう格好も、よく似合うのに。まるで女性のように見えるじゃない」
――ぷつん。
輝夜の一言で、妹紅の何かが切れた音がリアルに聞こえたような、そうでもないような。
実際その音は輝夜の耳にも届いたのだけれどその真偽を確かめる間もなく、妹紅は彼女に飛び掛った。
ただの人とは到底思えない身のこなしとスピードで襲い掛かる。
が、輝夜はそれがたいしたことでないように長いスカートをひらり翻し、妹紅の初撃をかわす。妹紅の拳はそのまま行き場をなくして地面を叩き、爆音とともに土を抉った。
「人間は野蛮ね」
はじけ飛ぶ土の向こう側で輝夜がぽそり呟く。と、それが聞こえたのか、身を翻した妹紅が再び攻撃を仕掛けてきた。
「!」
今度は肉弾ではない。
一瞬にして妹紅を囲むように円柱が立ち上り、そしてそれは不死鳥を形作った。
炎弾幕がすぐに妹紅から放たれて、それは輝夜めがけて一直線に襲う!
「昼間から川辺でキャンプファイア? 趣味じゃないわ」
「煩い! 不死の鳥に焼かれるがいい!」
「私に炎で挑むなんて無知も良いところ。不死となって鍛えたのは体だけ?」
輝夜は呆れたように、いや見下すように目を細めて笑った。人のものとは違う、圧倒的な威圧感だ。
鈴仙とてゐはというと、既に籠を持って避難も完了し、遠くから二人の日常喧嘩を見守っている。
「もぉお、なんで姫様をけしかけるような真似したのよてゐ!」
「えー、いや、うまくやれば小遣い稼ぎくらいにはなるかと思ったんだけど。うまくいかないわ」
「? 何それ、あの不死者がどうしたらそうなるの」
「つまり(略)ってこと」
つまるところ、姫が妹紅の仮装に興味を持つようなら写真の一枚でも姫に献上する腹積もりだったそうだ。それがまさかわざわざ直に見に行くと言い出すとは、てゐにとっては全く計算外だったのだ。
「案外姫様、あの不死者がお気に入りなのかもね」
「さあ、知らないわよそんなこと」
しかしてゐの姑息振りに恐れ入るわと鈴仙は溜息を吐いて、再び視線を喧嘩中の二人に戻した。
相も変わらず眩い弾幕は二人の間を行き交っている。
川べりはもはや二人のスペルカードの応酬で無残にも穴ぼこだらけになっていた。水の流れまで吹き飛んでしまわないかいくらか心配である。
と、ひときわ大きな爆音が聞こえて鈴仙はうさぎ耳を抑えた。
「ひゃっ」
もうやだ、と鈴仙とてゐはぴょいんと逃げ出していく。後々姫に怒られるかもしれないがそのときはそのときだ。
が、二匹が逃げ出したあとも二人の戦いは続いていた。むしろ、はじめから眼中になかったのだが。
「輝夜、いつまでも逃げ回るな!」
「しつこいわね。私はあなたの間抜けな仮装を見に来ただけだからもう用はないのよ」
ゴォッと突風にも似た爆音とともに妹紅が飛び掛り、それをぎりぎりの距離で輝夜が避ける。妹紅の攻撃が輝夜を掠めるたびにカリカリと引っかくように音が鳴った。
当たりそうで当たらない、スペルカード勝負においては輝夜相手に限らずよくあることではある、が、それが苛立たないといえば嘘だ。
「ちっ」
慣れないスカートが妹紅の足にまとわりつく。
いっそ破いてしまいたいが、慧音からの借り物であることを思い出して自重した。
――と、輝夜が、
「いい加減飽きたわ。見世物も堪能したし、そろそろお暇しようかしらね」
とぽつり呟く。そして背後をうかがい見て、自分のお供が既に逃げ出しているのに気づいて顔をしかめた。
「――そんなこと、させるか!」
輝夜の視線が外れた隙に、妹紅は地面を蹴って勢いよく輝夜に向かって飛んだ。もはや弾幕ごっこでなくただの殴り合いの喧嘩に持ち込む気満々だ。
「食らえ!」
妹紅は輝夜の顔面を狙って片ひざを突き出す。少女同士の喧嘩とは思えないダイナミックさだ。
――そして彼女のひざが輝夜を捕らえるより一瞬だけ速く、輝夜の手のひらが妹紅の内腿を弾く。その一撃は華奢な手からとは思えない威力で、妹紅の勢いを殺し体勢を崩させた。宙に浮いていた妹紅の体はがくんと斜めって、受身を取れないまま地面へ落ちる。
慧音に借りたワンピースが土まみれになって、転がりながらも思わずしまったと妹紅は顔をゆがめた。それに加えて、スカートが捲れあがってあらわになった足も酷く汚れてしまったがそれには構いもしない。
「っ、くっ」
手でばんっと反動をつけて妹紅はすぐに起き上がる。
輝夜の追撃に備えるためだ。
が、妹紅が完全に起き上がるまで、輝夜はその場に立ち尽くしたまま何も仕掛けては来なかった。
「…?」
何? 舐められているの? と、妹紅の脳裏に考えがよぎる。
妹紅にも高いプライドがある。もしそうだとしたら輝夜を許せなかった。
思わず、――ぎっときつく彼女を睨みつけるも、輝夜は妹紅の考えているような表情はしていなかった。
てっきり余裕に満ちた見下す表情をしていると思ったのに、むしろ眼前の輝夜はその真逆、呆然とした顔をしているのだった。これには逆に妹紅が唖然としてしまう。
輝夜は一体どうしたというのか。
妹紅が身構えるのも忘れて輝夜を見返していると、しばらく押し黙っていた輝夜がゆっくりと口を開く。
「あなたが、どんな仮装するのも別に勝手だけれど。――でもね、せめて下ぐらい履いたらどうなの?」
ひどく、呆れたように。
むしろ、照れているように。
そう輝夜が言う。
そして言われた妹紅はというと、……数秒ばかり何を言われたのかが理解できずに立ち尽くし、そしてその数秒後にようやくことを理解した。
そういえば妹紅は自分の身につけていたものは何から何まで全部慧音に任せてしまった。
つまるところ。
妹紅のワンピースの下は、………………、だった。
「~~~~っ!」
事に気づいた妹紅は今更スカートを手のひらで抑えこむ。
そんなのは今更過ぎるが、今の妹紅にはそんな当たり前のことに気がつく余裕なんてない。
顔が一気にゆでだこのごとく真っ赤に染まって、白髪に良く映えてしまっていた。
「見た!? 見たの!?」
「見たわよ、全部。というか見せられたわ」
詫びてほしいくらいよ、と輝夜は呆れ調子で続けて、そんななりでこれ以上続きも出来ないでしょと妹紅の返事も待たずに踵を返す。
お供のウサギ2匹は既にないから、輝夜は一人ふわんと浮き上がってそのまま妹紅を無視して飛んでいってしまった。
妹紅はそんな輝夜を真っ赤な顔で睨むように見上げて、やがてその姿が完全に見えなくなるとその場に座り込む。さっきまでは慧音の服を汚すことに抵抗があったがもはやそれどころではない。
「……あああ、もう」
長年生きてきてそれなりに色々経験してはいるはずなのに、これはそれまでの出来事がすべて吹き飛ぶ大事件にもなりかねない。
こんな状態をあいつに見られるなんて。
まだ真っ赤な顔を手のひらで隠しながら、妹紅は重い溜息をついた。
「……次会ったときは絶対に殺す」
なんて。
出来るわけもないのは重々承知だ。
火照りを覚ますために妹紅は勢いで水に飛び込んだ。一番深いところでも腰ぐらいの高さしかなかったがそれで十分だった。
冷たい水で全身がぐしょ濡れになってようやく顔の火照りはようやく収まったけれど、それと同時に背後で何やら不穏な気配。
「……」
満月の昇る夜でもないのにやたら殺気だった女の気配がしたから、妹紅は振り返らずにそのまま緩い流れの中を手で掻いた。
長年生きてきて色々経験した、のくだり要らなくね?
妹紅はもっと純潔な感じじゃないと嫌な妹紅スキーの俺は一気に萎えた・・・・
てかキャラの認識は個人の自由だからそういうのを伝えるだけのレスはやめようぜw
行き過ぎてるわけじゃないんだし完全に個人の好き嫌いの範疇で意見してるように見える>16
そして俺はもこーのワンピース姿を想像して…駄目だこれ以上は危険だ