それは、「なんでもない日バンザイ!」と叫びながら三跪九叩乱舞して隣の家に突っ込みたくなるような、なんでもない日のこと。
魔法の森近辺を、氷精のチルノと地底の橋姫、水橋パルスィが連れ立って歩いていた。
なんでこの二人がと思われるが、どうもチルノがみょんなことから地下に行った折に知り合ったようであり、それからちょくちょくと遊んでいるらしい。
とりあえず二ボス同士、仲の良い感じだった。
「ほら、ここが魔法の森だよ。パルパル君」
「そんなベンキでも舐めさせられそうな呼び方するな!」
……仲の良い感じだった。
「それにしてもここが魔法の森か。地上にあるくせにすごくじめじめしてそうなところね」
自分の住んでいる場所ではないその他の場所は、記号化して覚えてしまうものである。
分かりやすく言えば愛媛といえばポンジュースで、奈良と言えば鹿で、宮崎と言えば知事といった具合に。
そんな具合で地上に『太陽』のイメージを持っていたパルスィとしては、この森の存在はちょっとした驚きだった。
まぁ地底にもカラッとした場所がないわけでもない。と思う。
「中には主に魔理沙とか魔理沙とかが生息しているわ!」
「魔理沙っていっぱいいるもんなの!?」
魔法使い=魔理沙と言うのも一つのイメージ。
そこらへんはイメージを大事にする魔理沙の戦略勝ちと言ったところなのかもしれない。
「だめ、私、そんなスーパーマリサランドに足を踏み入れる勇気が無い……」
大事にしすぎて腐ってしまった感はあるが。
「そだね。あたいも魔法の森あんまり好きじゃないし」
「じゃあどこか他の場所に……あれ? アレは何かしら」
そう言ってパルスィが指差したその向こう。
魔法の森を背に、なんだかごちゃごちゃとものが置いてあって落ち着きの無い風が漂う、異国風の建物が建っていた。
不思議に思って近寄ってみる。すると、看板が掲げられているのが分かった。
――『香霖堂』。
そう書かれていた看板を見るや、チルノは勢い良く扉を開ける。
「たのもう! いざその看板をかけて勝負!」
「ここどう見ても道場じゃないよ!?」
カロロンと扉につけられた小さな鐘がむなしい音を立てる。
看板=道場はそんなに一般的なイメージでない気がするが。
ともあれ、パルスィが落ち着いて辺りを見回してみると、なにやらよく分からないものが棚に並んでいた。また、目を正面に向けるとそこにはカウンターらしきものがあって、その後ろで眼鏡の男性がこちらを見ている。
何かのお店らしいのは確かだった。
「ええ、と。こんにちはー」
チルノが作った最悪な第一印象を少しでもやわらげてみようと、パルスィは精一杯和やかに挨拶をする。
すると。
「ナンカ コウテ クレヤ」
「!?」
その男はもっとすごい第一印象を返礼してくれた。
「まぁ冗談はおいておいてだ。ようこそいらっしゃい、なんでも道具屋の香霖堂へ。僕が店主の森近霖之助だ。通称、森近霖之助。親愛を込めて森近霖之助と呼んでくれ」
「何もかわってない!」
何がこの男をフルネームへのこだわりに駆り立てるのか。考えるだけ労力の無駄である。
「ともあれ僕のナンカコウテクレヤという気持ちに変わりはない。この部屋にあるものは全て売り物だから、好きに見ていってくれ」
「好きにと申されましても」
パルスィは怪訝な顔であたりをもう一度見渡す。
雑多に棚に並べられた使い方すら類推できないものがほとんどで、説明札はついているものはたまにはあるが、値札はまったく見受けられない。
なんだこれは。宝探し会か。
「ねー、これなに?」
パルスィが途方にくれている中、チルノは一つのものに興味を引かれる。
それは棚に並んでいるものではなく、カウンターのざるの中に収められているもの。
何か紙のようなもので覆われており、両端を捻って留めてある、小さな丸いもの。
「何? それ」
パルスィもそれが何か分からず頭をひねっていると。
「あぁ、それはふしぎなアメだよ」
と、店主から答えが舞い降りてきた。
「飴? これが? それに不思議なって何よ」
「仕方ないじゃないか。そういう名前なんだから」
「……」
仕方ないものなのだろうか、とパルスィは唸った。
「ちなみにそれはレベルを上げるものらしい。何のレベルかは定かではないけれど、まぁ一種の成長剤のようなものじゃないんだろうか。その効き目のよさに『不思議だ!』と思えるほどだ、と生産者が自分の作品に自信を持って名づけたんじゃないかな」
霖之助の話に、チルノが相槌を打つ。
「ふんふん、へーへー、そーなのかー。しかしこのアメまずいっすねえ!」
「何勝手に食べてるのよ! しかもめちゃくちゃいっぱい!」
まずいくせになんでいっぱい食うのか。まずい、もう一杯! ということなのか。
パルスィのツッコミはもはや遅く、飴はすっかりと噛み砕いて食べる派の氷精の腹に収まってしまった。
そしてテテテテーン♪ と響きまくる軽快なレベルアップ音。
……おや? チルノのようすが……
「う……何……? からだが……あついよ……」
「チ、チルノ!? どうしたの!? 大丈夫!?」
くずおれるチルノを、パルスィが慌てて抱きとめる。
「むぅ、お代を払ってくれるのかと言う強大なる問題もあるが、それは置いておいてもこれはひょっとするとまずいことになったぞ」
「ど、どういうことなの!?」
顎に手を当てて唸る霖之助に、パルスィは不安げに尋ねる。普通に言い回しがややこしすぎて、言わんとすることがよくわからなかったのもあるが。
「さっきあのアメを成長剤のようなものだと類推しただろう。それはたぶん大当たりだと言うことだ。離れろ! 成長に巻き込まれるぞ!」
そうして瞬時にカウンターの下に身を隠す霖之助を見、しかしパルスィはチルノを離して良いものなのかと逡巡した。
だが、チルノから多大な冷気が吹きだしてくるにあたり、観念して棚の後ろに身を隠す。
――瞬間、冷たい暴風が通り抜けた。
本当に瞬間的に。
それ以上待っても特に何かが追加される様子は見受けられないため、パルスィは恐る恐るに棚の影から顔を出す。そして、そこで見たものは……!
あまり日光の当たらない屋内にあってなお透き通るように輝く白さを持った長い足。
幻想的な蒼さをたたえながらやわらかく靡く、長き髪。
同じ蒼さを宿しているのは両の瞳。清涼でありがならも堂々としたその輝きは、その顔立ちとあいまって、『大人』というイメージを強く想起させる。
その証拠とでも言わぬばかりに、大人の女性を象徴する大きな胸もとても目に付く。
だが、その全体像は明らかにものすげえ既視感を伴っているものであって、皆様たぶんご想像のとおりであろうと思われる。
それでは、水橋パルスィさんの叫びを持って、回答と代えさせていただこう。
さん、はい。
「チルノが大人になっとるーーー!!」
正解者には閻魔様人形をプレゼント。時折山田の匂いを放つよ!
……それはともあれ、パルスィの叫びを聞いてチルノはちらと自分の姿を見ると、瑞々しい唇を動かして、喋った。
「あたいったら王大人ね!」
「中身は変わってないし! しかも王大人全然関係ないし! 何よその死亡確認! もうナイスバディを妬む暇すりゃありゃしない!」
「……やぁ、まったくすごいことになったもんだね」
彼女らの騒ぎを聞いて、店主、森近霖之助もようやっとカウンターから身を現す。
「森近霖之助! これは一体!?」
律儀にフルネームを呼びつつ、水橋パルスィは問う。
「一体、って……『成長する』と言ったはずだけど」
「そりゃそうなんだけど……」
パルスィは苦虫を噛み潰したような表情になる。それはそうだが納得いかぬ。
対照的にチルノは大きなナリではしゃいでおり。
「わー、すごい! いくらでも力があふれてくるわ!」
と棚を片っ端から凍らせていた。
「わああ! バカ! 何やってんのよ!」
「やれやれ。ガラクタだけ棚に並べといて良かった……」
「なんか今聞き捨てならないこと言ったぞこの店主!」
大混乱の様相を呈してきた香霖堂だったが、そこで再びカロローンと、来客を告げる扉の鐘が鳴る。
さてはて、これは混乱を収めるびっくり水となるか、混乱を加速させる新たなる闇鍋材料となるか。
「よー、香霖。来たぜー。ってさぶっ! 何これ! さぶっ!」
どう見ても後者です。本当にありがとうございました。
「げえっ、スーパーマリサランド! ひいい! だめ! 無限1UPされる!!」
へんな先入観からパルスィが驚き。
「アパム! 毒キノコもってこい! アパーム!」
チルノが悪乗りし。
「え? アパムって僕?」
店主が急に振られて困る。
「どういうことなんだぜ」
魔理沙も困る。
しかし困ってばかりもいられない。なぜならあからさまな異変がそこにあるから。
「うお、寒いと思ったらあたり一面凍ってやがる。……見慣れない奴。お前の仕業か?」
魔理沙は眼光を鋭く尖らせて、その見慣れない奴――チルノへと目を向ける。
対するチルノは、それを余裕の表情で受け止めた。
「ふふん、何かと思えば魔理沙じゃない。二度も撃ち落としてくれたお礼をたっぷりとさせてやるわ!」
「チルノ、お礼はするものだからね」
冷静なパルスィのツッコミに反応したのは魔理沙。
「何、チルノ!?」
その名に驚いて霖之助に視線をやる。もちろん答えを期待してのことであり、霖之助もそれくらいは察していた。
「あぁ、今はとあるアイテムでめちゃくちゃレベルが上がって進化してしまったが、元はチルノと呼ばれていたちみっこい妖精だったことは確かに思われる」
「マジか。そのアイテム私にもくれ!」
「その子が全部食べちゃったよ」
魔理沙は瞬時にそのアイテムに興味を示したが、帰ってきたのは残酷な現実。
魔理沙は悔し涙を流す。
「ガッデム! 魔城ガッデム! 私のナイスバディ計画はまた頓挫か! こうなったらチルノ、そのアイテム全部吐き出させてやるぜ!」
「望むところよ!」
「望んでどーすんのよ!」
ツッコミながらもパルスィはうろたえる。方や重火力の申し子、霧雨魔理沙。方やレベルが上がりまくったチルノ。
ろくなことになるわけがねえ。
「この勝負、先に動いたほうが負ける」
霖之助は、自分の店内で戦闘が起こりそうだというのに、冷静に眼鏡を光らせる。
「……言ってみたかっただけでしょ」
「ああ」
パルスィのジト目の指摘に、森近霖之助は悪びれもせずに答えた。
「ええいとにかく外に出て!」
室内で暴れられたらたまったものではない。パルスィは叫んだが、それは皮肉にも戦闘開始の合図となる。
「ええい、なんだろうが私が動く! いくぞ魔符――」
――雹符『ヘイルストーム』
「はやっ――」
宣言を開始したのは確かに魔理沙の方が早かった。だが、その完了、チルノが圧倒的に早い。
「ぬわーーっ!」
一直線に貫く氷の竜巻を受け、魔理沙は入り口から店外へと吹き飛ばされる。
「外に出したよ。これでいいんでしょ? パルルン」
「なっ……パルルン!?」
ふしぎなあだ名はともかく、チルノは的確にパルスィの要望を聞き、そして遂行した。
これが成長というものなのか。
「今のあたいは絶好調よ。最強の中の最強、見せてあげるわ」
そう言ってチルノは不敵に微笑む。
なまじ外見も成長しているだけに、この台詞が無駄にかっこよく、そして妖艶でもあった。
パルスィの胸が、思わずドキリと鼓動を伝える。
(え……え?)
そうなる意味がわからず、パルスィは混乱した。
「じゃあ行ってくる!」
「あ、ちょっと!」
パルスィが引き止めるも、チルノは魔理沙を追って屋外へと飛び出していく。
残されたのは、顔を赤くして大汗をかいている橋姫と、それを見て興味深そうに眼鏡を光らせている店主。
「察するに、『こんな氷精なんかに……くやしいっ……! でも……』といったところか」
「違うわよバカ!」
「お前がいま感じている感情は精神的疾患の一種だ。しずめる方法は俺が知っている。俺に任せろ」
「何言ってんのよ!?」
「言ってみたかっただけだ」
「もう……! ったく、あんたのその飄々としたとこ、妬ましいわね」
パルスィは、自分の調子を何とか取り戻そうとする。嫉妬心を揺り起こして。
平常心=嫉妬心。あの氷精といるとそれを感じている暇も無いのだけれど。
「妬ましいものかな。職業柄、色んな人妖を相手にしてると、どうにもね。みんな個性強いからね」
「ここちゃんとお客さんとか来てるんだ……」
「失敬な!」
ものすごく素朴に返してしまったパルスィの言葉に、さしもの店主も語調を強める。
だが、パルスィにとっては聞かなければならないことは別にある。恐らくは。別に。
「そんなことより、チルノは元に戻るの?」
パルスィがチルノに抱いていた魅力は、嫉妬心を抜きに付き合えることだった。
誰にも嫉妬せず、天真爛漫で、ちっこくてかわいくて、そして馬鹿。
一緒にいると退屈しないどころかツッコミ疲れてしまうほどだけれど、それでも、嫉妬心を忘れられるそのひと時は、彼女にとってオアシスだった。
だけど、今のチルノは、何か違和感がある。
中身は確かにそのままだった。だが、このままでは何かおかしなことになるという予感がびんびんとしていた。
だからこそ、そう尋ねる。
「さぁね。あのアイテム自体僕にはよくわかっていない代物なんだし。……まぁ、弁償のほうをきちんとしていただけるのだったら、調べてもあげるけどね」
「……いくらくらいになるのよ」
やっぱり先立つものには勝てぬ。
「まぁ、あのアメの商品代プラスいくらか、ってとこかな。別に店内は凍らされただけで何か壊されたわけじゃなし。溶ければ大体は元通りだろう」
「まぁ、それくらいならなんとかするわ。お願いするわね」
「よし、承った。どの道このまま放置しておいたらまずいことになりそうだ」
パルスィがぺこりと頭を下げて、店主がぐいと胸を張る。
なんだか癪なようにも思えたけれど。
「じゃあ、私は外の様子を見てくる」
そうしてパルスィは扉へと向かい。
「お気をつけて」
店主は笑って見送った。
香霖堂の中には霖之助が一人。
香霖堂を叩くと霖之助は二人。
「……何か今地の文の法則が乱れたような気がしたが……。うむ、ともあれ、パルスィ、といったかな。あの子の本当に恐れているものは、一体何なのかねえ……」
そう、思わせぶりに一人ごちる。
きっとただ言ってみたいだけに違いない。
「しかしまた一騒動起こりそうだなぁ。今のうちに天狗あたりにネタでも売ろうか」
そして結局は、そんなことを考えていたりするのであった。
パルスィが外に飛び出して見たものは、ふんぞり返って胸を見せ付け……もとい、相手を威圧しているチルノと、片膝をついている魔理沙。
「ぐ……まさか先制攻撃を食らうとはな。残機がなければ即死だったぜ」
「やっぱ1UPしてたんだ!」
どうやら先ほどのヘイルストームでピチュったらしい。しかしそこは1UPに定評のある魔理沙。まだ終わらない。
素早く一気にバックステッポをとって距離を離し、スペルカード宣言の態勢に入る。
「させない! 氷符『アイシクルフォール』!」
距離をとったはずの魔理沙を、たちまち大小さまざまのつららが囲う。
(範囲が半端じゃないわ!)
チルノの力に、パルスィは戦慄する。
その様、まさにLv.99。
これはこれで、嫉妬心を差し挟む余地がないのかもしれない。こうなってまでもこの氷精は。
「それくらいなら読んでいたぜ! 彗星『ブレイジングスター』ッ!」
魔理沙が用意していたのは突進系のスペル。これで強引に囲みを破って攻撃するつもりなのか。
(……いや、違う!?)
魔理沙が突進した方向は、真上。
流星の輝きを纏いながら、魔理沙は上空へと登っていく。そして、ある一定の地点で一気に体勢を変えた。
移動姿勢から、攻撃姿勢へと。
「ここまでなら攻撃は届くまい! この一撃に、私は賭ける!」
ミニ八卦炉を取り出し、叫ぶ。
見事な判断。
魔理沙はチルノを侮っていない。最初の攻撃を食らった瞬間に全力で立ち向かうべき相手と判断し、今ある情報で先をも読んだ戦術を組み立てた。
「妬ましい、バトルセンスねっ……」
パルスィは呟く。
妬むということはその能力を認めているということ。それは彼女の持論でもある。
パルスィという第三者から見ても、魔理沙の動きは素晴らしいものだった。
「食らえ恋符ッ、『マスタースパーク』だァッ!」
もはや頼れるものは自慢の威力だけ。彼女の代名詞たる極太レーザーを地上のチルノへと向かって発射する。
一方、地上のチルノは魔理沙の動きに翻弄され、マスパの威圧に気圧されていた。
「マスター……スパーク……!」
「チルノ!」
彼女の様子を感じ取ったパルスィが、思わず彼女の名を呼ぶ。
その叫びがチルノに届いた瞬間、彼女の顔から焦りが消える。
「心配しないでパルスィ。言ったじゃない、最強の中の最強を見せるって! 今のあたいになら、出来る」
「チルノ!? 避けて!」
だがチルノはパルスィの言葉を聞かず、眼前に迫り来るマスパに一枚のカードをかざす。
「――凍結『パーフェクトフリーズLv.99』!」
キィン
――と。
そんな音と共に、時間が止まった。
……いや、正確には。
「馬鹿な……! マスパが、凍ったッ……!」
まるで時間が静止したかのように、マスタースパークが、あの極太レーザーが、凍結していた。
それだけでも目を疑う光景。だが、チルノは魔理沙に呆然とする時間すら与えなかった。
「っ、殺気!? 馬鹿な、チルノはあそこから一歩も――」
――凍符『コールドディヴィニティー』
そう、チルノは一歩も動いていない。
代わりにやってきたのは彼女の幻影。
「ボスアタック、か……!」
やっぱり頭身の高い幻影が、静かにつららを形作る。魔理沙は凍ったマスパが引っ付いているせいで満足に動けない。
「あ……ああ……」
怯える魔理沙に一切の容赦なく、つららは放たれた。
「まそっぷ!」
ピチューン。
「なんか雰囲気が台無しな掛け声でピチュった!」
更に残機を消費した魔理沙が箒を杖になんとかよろよろと立ち上がる。
「うう……多分私は三人目だから……」
「何言ってんのよ」
「うう……真面目にもう体力が無い……。仕方ない。この場は私の負けだ」
がくりと魔理沙はひざをつく。
その様を見て、チルノは再びふんぞり返った。せくしぃな大人の姿でそれをやるといささか滑稽ではあるのだが。
「ふふん、最強の中の最強、うまと目に焼き付けたかしら」
「しかと、ね」
パルスィがたしなめる。
「くそ、だがいい気になるのはまだ早いぜ。やがて第二第三の私がー」
「もう三人目なんじゃなかったっけ」
「おおなんてこった! 言葉のあやだぜ!」
パルスィの無情な指摘に、魔理沙はやられたとばかりにパーンと額に手を当てる。
「おいおい魔理沙、大丈夫かい……?」
騒ぎが収まったのを見計らって出てきたのであろう霖之助が、魔理沙に心配げに声をかける。飄々とした感じのあった霖之助が多少なりと感情を出しているのを、パルスィは少し意外に思った。
それもイメージ。
「おお、香霖……。私はもう帰るぜ。送っていってくれ。疲れたんだ」
ダメージ指標であるバツの字絆創膏がそこかしこに貼り付いていることからみても、相応のダメージを負っていることは確定的に明らか。
「わかった。花占いで今日はもう客が来ないと出たことだし」
「何やってたんだよお前!」
ツッコんだのはやっぱりパルスィ。しかしそれにもめげずに霖之助は続ける。
「まぁ、よしんば客が来ると出てもこんなに傷ついた君を放っておくことなんて出来はしないな」
「香霖……」
「なんでいきなりかっこよくなってんのよ!」
「そうだね、ギップリャアだね」
「チルノ!」
スッと、チルノが進み出て。
「もう帰るの? じゃあね魔理沙! またあそぼう!」
ぱっと明るく手を振った。
「ふっ……」
その様に魔理沙は小さく笑って。
「ああ、次は負けないぜ」
と返した。
そうして霖之助の肩を借りながら森の奥へと去っていった魔理沙の背中から、わずかな嫉妬心の気配がするのにパルスィは気がついたが、何も言わなかった。
「ふぃー! なんだかすっごくすっきりしたぁ!」
ぐいーっとチルノは伸びをする。久しぶりに、いや、初めてだろうかこんなに暴れたのは。
「どうだった? あたい、すごかった?」
ふと問いかけられた言葉に、パルスィは少し迷う。
今、チルノには複雑な感情を抱いている。
だが、だが、だからといって、この純粋な問いを無下にすることなど、できない。
「……うん、すっごく強かったよ」
そう答えると、なんだかパルスィもすっきりとした心持がした。
いいじゃないか。目の前にいるのはチルノに違いない。
自分の印象を押し付けては、きっといけないだろうから。
「やったぁ!」
そうして喜ぶチルノを見て頬が緩む気持ちに、きっと間違いは無い。
きっと。
――この物語は、最強の妖精と常識人な橋姫を取り囲む、ヒッポロ系ニャポーンな物語である。
彼女らの明日はどっちだ。
~続~
パルスィのツッコミっぷりに惚れ惚れしつつ、大人チルノを想像して、(頭の)中身は変わらないので無邪気に近づく大氷精さんと慌てふためくパルスィを妄想してしまったうふふ。
……不覚にも魔理沙のバックステッポに萌えて……まそっぷ!?
いずれ第二第三の八頭身が…
それはそれとして大人チルノとパルパルのキャッキャウフフは次回でよろしいんですか?
ネタの数々と香霖堂の看板に敬意を表して。
惜しむらくはネタを散りばめ過ぎて相殺しあってしまった所。
会話を勢いに乗せすぎてコースアウトしてクラッシュした所。
平たく言うなら少しネタもその場のノリも自重せんといかん。
途中からの暴走は程々にね。
最初からの暴走なら?
もちろんOK!
長所とも短所とも取れるのでこの点数で。
次回に期待です。
友人は
呪いでも解くの?
と言っていた。
水タイプが付加されてたりする気もしますし。
でもそんな事よりこのパルチルはもっとちゅっちゅすべきと思います。
続いてくれてありがとう
>ふしぎなアメ
タイプは氷+飛行でしょうか?
努力値は既にMaxな気がする