どこかで読んだ絵本のパロディです。
ある日の紅魔館での事。いや、正確にはそのはずれにある大図書館か。
「あ~あ。何で私がもやし図書館の掃除なんか…」
そう言いながら辺りに散らばった本を拾い集める、博麗の巫女。
先程まで図書館であったココは、今となっては傍から見ればただの本と木屑の山だ。大量の塵と破れた本の切れ端が舞い、さながら戦場跡のよう。いや、実際そうなんだけど。
「仕方ないだろ。もう少しってところで捕まっちまったんだから」
隣で同じくぶつくさ言いながら本を片付けるのは友人である白黒の魔法使い。さっきから適当に本を掴んでは、ろくに確認もせず手近な棚に投げ戻している。それどころか何冊かはこっそり懐に入れている。コイツは本当に片付ける気があるのだろうか…?
いや、そんな事よりも。
何で私はこんな所でこんな事してるんだろ…
数時間前…
レミリアの部屋から帰ろうとして偶然魔理沙と出くわした霊夢は、興味本位で彼女の後に付いて行った。暇だったし。
そしていつものように図書館に侵入した魔理沙は、いつものように堂々と盗みを働いている。
「今日はこの本とあの本とその本と、まぁ色々貰ってくぜ!」
途中から数えるのが面倒になったのか、適当に本を選んでは持ち前の大袋に放り込んで行く。
「そんなに持って帰ってどうすんのよ…」
「持って帰ってから考えるさ」
どうせこうなるんだろうと思いつつ付いてきた私は、半ば飽きれたように魔理沙の悪事を傍観している、と。
「待ちなさい! 今日という今日は絶対に持って行かせはしないわよ!」
小悪魔の報告を聞きつけて自室から飛んできたのだろう、息を切らせた図書館の主パチュリーが現れた。至極当たり前、毎度の事だ。
「ほら…パチュリーもそう言ってるんだし程々に…」
「だったら力づくだぜ!」
霊夢の制止も空しくいきなりマスタースパークが炸裂する。始まりの合図だ。
そうやって戦闘になるのも毎度の事。いつもの事。全く疲れる…何で私は付いてきたのかしら。
~~~~~~~~
「あの時に咲夜が邪魔しなけりゃ勝ってたのになぁ。全く不本意だぜ」
「不本意なのは私よ。何でアンタのやった事の後始末も手伝わなきゃいけないのよ…」
「細かい事を気にしちゃ駄目だぜ。そんな霊夢におじさんが絵本を読んでやるよ」
誤摩化しのつもりなのか、魔理沙は懐から一冊の本を取り出した。どうやらあの時に懐に忍ばせた本のようだ。
「絵本?」
「さっきあの辺りを片付けてて見つけたんだ。魔導書ばっかりだと思ってたけどこんなのもあるんだなって話さ」
成る程、見た感じどうも外の世界の絵本のようだ。タイトルは掠れていて遠目には見えない。パチュリーが研究に持ち込んだようだけど、特に役に立ちそうも無い、ただの絵本のようね。
…ってそうじゃなくて。
「アンタ、この上サボってたら本当に知らないわよ? 食料にされても私は助けないわ」
「大丈夫だって、本の分類が分からなかったから調べてたって言えば良いんだぜ。それに霊夢ならきっと助けてくれるぜ!」
そう言うと魔理沙は先程立て直した棚に腰掛け、本を開いた。本当に楽観的ね…そう思いつつ私も隣に腰を下ろし、一緒に本を覗き込む。
ま、こんな時間も悪くないわね。
『魔理沙の三つの約束』
「ちょっと何よこのタイトル!」
「まあいいじゃん。さ、続き続き」
『魔理沙は、ハンブルクの港町で暮らす泥棒好きな黒猫です』
「アンタにピッタリね」
「どういう意味だよ」
『魔理沙は飼い主にも恵まれ、幸せな日々を送っていました。そんなある日、バルコニーでのんびりと日向ぼっこをしていると、突然目の前に黒いものが飛び込んで来ました。それは油まみれの1羽のカモメでした。』
「助けて」
カモメは声をあげました。
「私は油まみれ…もう、助からないわ」
「…私にしてやれることはあるか?」
カモメを気の毒に思った魔理沙は、最期の願いを聞くことにしました。
「もうすぐ私は卵を産むの。その前に三つのことを約束して。どうか卵を食べないで」
「ああ、わかった。食べないぜ」
「卵の世話をして」
「わかった。そうしよう」
「それと私の赤ん坊に飛ぶことを教えて頂戴」
「え?私が!?」
「お願いよ」
「う…わかった。やってみるぜ」
「…ありがとう…」
そう言ってカモメは死んでしまいました。体の下に卵を残して。
「コイツには親がいない訳だし、私が親代わりになってやらないとな…」
猫である魔理沙が鳥の卵の世話をするのは大変でした。魔理沙は昼も夜も卵を抱き、一生懸命暖めました。
そんな毎日が続いたある朝、目覚めると小さな頭が魔理沙を見ていました。
「誰よアンタ」
「いきなり口悪いなお前!」
魔理沙は中々気の強いその子に霊夢と言う名を与え、世話をしました。性悪ウサギ達やカラス軍団が霊夢を襲いましたが、魔理沙は霊夢を守り通しました。
やがて、霊夢は美しいカモメに成長しました。
「いい月ね~ねぇ魔理沙?」
「ん?あぁ…そうだな」
二人で月を眺めるのも日課となりつつあったある日。
「霊夢。そろそろお前は飛ぶ時期だぜ」
魔理沙は霊夢に打ち明けました。
「はい?何で飛ばなきゃいけないのよ。猫は空なんて飛ばないわよ」
「あー…そうじゃないんだ…お前は猫じゃない。カモメなんだ」
「私が…カモメ?!」
「そうだ。お前はカモメ。私は猫。猫には猫の、カモメにはカモメのやるべきことがあるんだ。みんな違ってみんな良いってヤツだぜ。私とお前は違うんだ」
「だから私は飛ばなきゃいけない…」
「そう。カモメは飛ぶんだ。」
霊夢はしばらく俯いて考えた後、
「でも、魔理沙の助けがないと飛べない。教えてくれる?」
いつもの笑顔で魔理沙に笑いかけ、
「もちろんだぜ! 約束する。それにあのカモメにも約束したからな。」
魔理沙も霊夢に笑って返しました。
そうしていよいよ霊夢の飛ぶ訓練が始まりました。魔理沙はカモメについて自分の知る限りを全て教え、霊夢は何度も飛ぼうとしましたが、やはり上手く行かずに失敗続きでした。
そしてある雨の夜、魔理沙と霊夢は街で一番高い塔へ上りました。
「霊夢。空はみんなお前のものだ。翼を広げて飛ぶんだ!」
「無理よ! 出来ないわ!」
「出来るとも。お前になら出来る! やろうと思えば出来るんだぜ!」
その言葉に決心した霊夢は、空中へ踏み出しました。しかし羽ばたくことが出来ずに落下して行きます。
(やろうと思えばできる…私は飛べる!)
一瞬の後、地面まで後少しと言う所で翼が開き、風をとらえ、遂に霊夢は大空を飛びました。
「魔理沙、私本当に飛べたわ! 大好きよ! ありがとう!」
霊夢はそう言って、真っ暗な空の向こうへと飛び去っていきました。
「…あぁ、私もお前が大好きだぜ。霊夢」
『魔理沙は何もない空に向かって、一人呟きました。おわり』
「いい話だぜ…感動だぜ…ひっく」
「アンタが泣いてどうするのよ…」
大袈裟に、まぁ芝居だろうけど感動したように身体を震わせながら袖で涙を拭く魔理沙の隣で欠伸を一つ。外はもう夕方だろうか、随分長い時間読みふけっていたものだ。暇つぶし程度にはなったから良しとしよう。
「…何やってるの貴女。壊した図書館の掃除はどうしたの」
「うわっ!!」
いきなりかけられた声に驚いて本を放り投げる魔理沙。霊夢も顔を上げると、そこには修羅と化したパチュリーの顔が…次いで魔理沙の顔が一瞬固まる、涙も止まる。
「ふーん…片付けサボって絵本読むなんていい度胸ね」
「あ、いや…これは本が…内容が…見ないと……」
手をバタバタさせてあうあう言っているが、もう命乞いにすらならない。
「私の部屋に来なさい。たっぷりお仕置きしてあげる。ふふふ…」
悪魔のようにニッコリ笑う。…心なしかパチュリーが楽しそうに見えるのは気のせいか。
「霊夢! 助けてくれー!!」
どこにそんな力があるのかというパチュリーに襟元を掴まれ、ずるずると引きずられながら叫ぶも空しく、やがて二人の姿は闇の中へと消えていった。
「自業自得よ、馬鹿」
先程とは打って変わって急に静かになった空間で、誰に言うともなく。
「さてと、今日は疲れたわ。帰って夕飯の支度でもしましょうか」
…仕方ないから泥棒猫の分もね。
そう呟いて、一人笑った。
そして連れて行かれた魔理沙はぱっちぇさんにあんなことやこんなことをされるんですねわかります。