「暑い・・・。」
うら寂しい神社の境内で巫女がつぶやいた。
「ここんとこずっと晴れてるからかしら。いくら水まいたっていい風なんか吹きゃしないわ。」
巫女の足元には水浴びにでも使えそうな位大きな盥と柄杓が転がっている。
三分の二程を残して巫女は水撒きをあきらめたようだ。
「あぁーーっ!もう!!元気なお天道様がムカツク!」
神にお仕えするものらしからぬホンネをぶちまける楽園の巫女の頭の上で、
今日も9月末らしからぬ太陽が燦燦と輝いている。
ちょうどその頃、人里離れたマヨヒガでとある妖怪のこめかみに電流が走った。
「ッキターーーー!!!」
「もう五杯目です。またお腹壊しますよ。あと橙の前でそんな大人気ない事、言わないでくださいよ。」
「ちょっと。」
「はい?何でしょう紫様。」
「貴女もそういって三杯目に入ろうとしてるじゃないの。それってどうなの?しかも大盛り。」
「この特製宇治金時は橙と一緒に食べるんです。二人で食べるんです。独り占めなんてしないんです。」
そう言って、九本の神々しい程のフワフワしっぽを持つ妖獣はそそくさと主人のいるちゃぶ台を離れて、
もう一匹の妖獣のいる縁側へ行くと、
「ほら橙、あーん。」
ちょっと多すぎるのではないかと思われる量のカキ氷をスプーンですくって、猫の姿をした妖獣に食べさせた。
案の定、多かったようで、彼女は時間をかけて飲み込んだ上で頭を抱えて畳の上をコロコロと転がった。
「まったく、ここ最近暑くて私が藍に仕事任せっぱなしにしてるからって、そんな露骨にイヤミ言うことないのに。」
そんな主人のぼやきには耳を貸さず、藍と呼ばれた妖獣は高速でんぐり返しをする妖獣、橙に言う。
「どう?おいしいか?あんこは私の手作りなんだぞ。」
転がるのをどうにかこうにか止めた橙は、なみだ目でコクコクと頷いた。
「そうか!それはよかった!!じゃあ、お皿ここに置いとくからな!」
「こ・・・こうやって藍はいっつも私の、私の弱みを握ってじわじわと私の心にダメージを与えていくの。ヨヨヨ・・・。」
えづきながら、取り出したハンカチで目元を隠す。
「ウソ泣きやめてください。橙がみてます。それに、別に意図的にやってるワケじゃ内ですよ。」
「!!もう無意識下で私を無視してるのね・・・シクシク。」
「違います。今さっき紫様にも超大盛りの、えっとなんでしたっけ?ブルーなんとか、作ったばかりじゃないですか。」
「ブルーハワイよ。外の世界ではカキ氷といえばコレってぐらいの定番の味。」
「そうなんですかー。って、もう食べ終わってる!!」
いつの間にかちゃぶ台の上の大皿は一滴のジュースも残さずたいらげられていた。
「まぁ、藍が付き合ってくれなくても神社の巫女の所行くからいいわ。どうせヒマしてるだろうし。」
傍の箪笥に引っ掛けておいた帽子をとって、軽く身づくろいをする。記録的に雨の少ない今年でも、そこは幻想郷の夏。
残暑といえど湿度が高く、ムッとするような暑さと湿気で毛先が膨らんでしまう。
長く細い金髪をやわらかく結い上げると、それに覆い被せる様に帽子を被る。
(なんかお土産になりそうな物は・・・っと。あ、アレにしましょう。)
「じゃ、お夕飯までには帰ってくるから、仕事幾つか終わらせておくように。いいわね?」
そう言い残して紫はスキマに消えた。
仕度をする紫の美しく、威厳のある姿を見守り、お見送りをした後、藍はしぶしぶと、しかし嬉しそうに、
「なんだかんだ言っても、私は頼りにされてるんだ、紫様に。さーて、橙とカキ氷食べたらぼちぼち里に下りるかなっと。」
そして縁側に目をやると、そこには自分のカキ氷を持ってかれて泣いている橙の姿が。
「えーーーーーーっと、今日の、晩ゴハンは、2人分で、いい、みたいだ、なッ・・・・・!!!」
お昼過ぎ。太陽が地面を照らして大気を暖め、日中でもっとも気温が上昇する時間帯。
神社の庭で縁側に座って、足を水撒きの為に用意した盥に突っ込んだまま、仰向けに倒れている巫女がいた。
かれこれ40分、この格好から動いていない。
「あらあら、流石の巫女もこの暑さで遂にダメになったのかしら?花屋の真似なんかして。」
「----うるっさいわね。アタシ等人間はあんまり暑すぎると本当に死んじゃうの。アンタ等妖怪みたいに図太い神経してないのよ。」
巫女はそう言ってのそっと起き上がると、突然の来訪者に愚痴をこぼした。
何時、何処から現れたのか音も無く、紫が巫女を見下ろすように立っている。
「ほんと、霊夢は文句が多いわね。あんまり五月蝿いと、オミヤゲ、あげないわよ?」
「何?また異変解決とか面倒臭いモンでしょ?」
紫はもったいぶって、チッチッと指を振る。
「それはね・・・コレよ!!」
ばばーん!と効果音を付けたら様になるような大げさな仕種で取り出したるは、例の宇治金時。
「ダレてるであろう巫女に、スキマ妖怪からカキ氷のプレゼント、というワケ。」
「それ、幻じゃないわよね・・・?ホンモノのカキ氷なのよね・・・?」
霊夢のうつろな瞳にだんだんと精気が戻ってきた。
「もちろん。あんこは私の手作りだし、氷は信頼のメイドイン・河童のカキ氷機を使ってるわ。」
それを聞くと、巫女はゆらり、と音もなく立ち上がった。そして目にも留まらぬ速さで紫の手からカキ氷を奪おうとした、。が、その手は空を切っただけだった。
「あらあら、花屋から盗賊にでも転職したの?」
「チッ!!こちらはもうライフほぼゼロなのに、なんて卑怯なフェイクすんのよ!!」
いつの間にか霊夢の背後に出現した紫は霊夢に説く。
「マナーがなっていない、って言ってるのよ。貰う側には貰う側のマナーってものがあるの。」
霊夢は、しばらくの思考の後、
「あ・・・りがとうございます・・・?それとも・・・」
ガバッとしゃがんで、
「土下座!?」
「貴女の、巫女という神職に対してのプライドというものはないのかしら・・・。あと、胸がはだけてるわ。狙ってるの?」
「じゃあ何なのよ!?てか、誰も狙ってなんか無いわよ!!」
ムキーッ!と憤慨しながらも(一応)服を整える巫女。
彼女の頭は今のところ目の前の宇治金時を食べることで一杯なので、プライドと横乳なんて(暫定的に)アウトオブ・眼中。
そんなイリーガルな彼女を諭す紫。
「さて問題です。私たちにとって、“マナー”とは何でしょうか?」
「弾幕ごっこ(スペルカードバトル)?この容赦ない残暑の照りかえしの中で??」
「よねー。私もそれはナイと思うの。疲れてるし。だから。」
「だから?」
「だから、今日は普通に挨拶だけでいいわ」
「な、何なのよ・・・。こんだけ焦らしておいて。まあいいわ。よく分かんないのは紫のいつものことだし。くれるもんはもらっときましょう。じゃあ」
ヒョイっと紫の手から宇治金時を奪うと、縁側において、
「今スプーン持ってくるから、そこら辺に座っといて。・・・・しっかしその皿デカイわね。」
とかなんとかブツブツいいながらお勝手に消えていった。
「・・・・・まぁ、食べてる間にイロイロとしゃべることもあるから、いいかな。」
紫はちょっと遠い目をいた。
思えば、霊夢には色々と面倒を掛けてきた。少し前になるが、永く夜が明けなかったあの異変でも霊夢は紫の出動依頼に素直についてきてくれた。
確かに異変解決という大義名分はある。しかし、彼女にはなんら見返りは無い。それは寂しすぎる気がするのだ。
「あの娘への見返り・・・。カキ氷なんかじゃ、安すぎるくらいね。」
陽光に照らされた博霊神社を見渡す。眩しい日の光に境内が色褪せて見えたのは気のせいでは無いだろう。
人里から遠く、ここに来るまでの道中の安全も保障されていないこの神社に参拝客は少ない。
霊夢がどれだけの数の異変を解決していようと、紫はこの数年での賽銭箱の集金成果が上向きになっているのを聞かされたことは無い。
「あの神社はもう妖怪に占領されてしまっているらしい。」
藍が言うには、人里ではこういう噂も囁かれているようだ。
ペタペタいう足音が聞こえる。どうやら霊夢が戻ってきたようだ。
「はい、コレ。」
差し出されたのは年季の入った木のスプーンだった。
「アンタも食べるでしょ。私一人で食べるわけにもいかないし。」
紫のものよりも漆の剥げが多い、みすぼらしいほうのスプーンで、霊夢は金時を切り崩しにかかる。
「ッキターーーー!!!やっぱり夏はコレよね!!何週間ぶりかしら。カキ氷なんて食べたの!」
さっきのぶーたれ巫女とはうって変わって、上機嫌そうにこめかみを押さえる霊夢。
その屈託の無い笑顔に紫は尋ねる。
「ねぇ。ちょっといい?」
「何?アンタも早く食べないと解けちゃうわよ?」
「ああ・・・うん。そうね。じゃあ私も。」
陽炎で揺らめく庭で、二人の少女がカキ氷を食べる音と、遠くから聞こえるクマゼミの残党の合唱とが、神社を満たしていた。
「ふぃー。ご馳走様。ちょっとはカラダも冷えたみたい。いい具合に日も落ちてきたし、いい塩梅だわぁー・・・。」
「そんなに満足してもらえてよかったわ。こちらこそ、ご馳走様。あのお皿はオマケよ。」
「ありがと。今度の宴会のときにでも、使わしてもらうわよ。」
夕暮れ時。烏も妖精も、住処へ帰る時間。
西日が差し込む鳥居を背に、二人は別れ際の挨拶をしていた。
「ねぇ、霊夢。」
「何?今さっきも聞こうとしてたけど。」
紫を見上げる霊夢。
「貴女、今のままでいいの?」
「今のままって?」
「自分の頑張り、努力が認められないこの現状のままでいいのかってことよ。」
自分でも考えてみたことが無かったのか、黙り込む霊夢。
「そりゃあ・・・」
「?」
「そりゃあ私の活躍が報われないことは不満よ。でも、それが嫌ってワケじゃないの。私は産まれたときから博霊の巫女、博霊霊夢だもの。
私がいる理由は、妖怪を退治して、異変を解決して、この幻想郷の安定を守ること。それに他人の評価が入る必要は無いもの。それに・・・」
「・・・?」
「今こうやって紫や魔理沙、いろんな妖怪や人間としゃべってるこの時間、私は、楽しいし、嬉しいの。それだけで、生きてく理由に事足りてるわ。」
「そう・・・」
ため息をつくように紫の口から言葉が漏れた。
「・・・霊夢・・・・。」
「!?なッ!」
紫は霊夢の腕を引き寄せ、彼女を抱きしめた。
ほんのしばらくの時間。妖怪の山に沈んでいく夕日と、うっすらと顔を出した月が二人を照らした。
そして、スキマ妖怪は音も立てず己のいるべきスキマへと帰っていった。
境内に生えたクスノキの古木で羽休めをしていた烏だけが、立ちすくむ楽園の巫女を見ている。
うら寂しい神社の境内で巫女がつぶやいた。
「ここんとこずっと晴れてるからかしら。いくら水まいたっていい風なんか吹きゃしないわ。」
巫女の足元には水浴びにでも使えそうな位大きな盥と柄杓が転がっている。
三分の二程を残して巫女は水撒きをあきらめたようだ。
「あぁーーっ!もう!!元気なお天道様がムカツク!」
神にお仕えするものらしからぬホンネをぶちまける楽園の巫女の頭の上で、
今日も9月末らしからぬ太陽が燦燦と輝いている。
ちょうどその頃、人里離れたマヨヒガでとある妖怪のこめかみに電流が走った。
「ッキターーーー!!!」
「もう五杯目です。またお腹壊しますよ。あと橙の前でそんな大人気ない事、言わないでくださいよ。」
「ちょっと。」
「はい?何でしょう紫様。」
「貴女もそういって三杯目に入ろうとしてるじゃないの。それってどうなの?しかも大盛り。」
「この特製宇治金時は橙と一緒に食べるんです。二人で食べるんです。独り占めなんてしないんです。」
そう言って、九本の神々しい程のフワフワしっぽを持つ妖獣はそそくさと主人のいるちゃぶ台を離れて、
もう一匹の妖獣のいる縁側へ行くと、
「ほら橙、あーん。」
ちょっと多すぎるのではないかと思われる量のカキ氷をスプーンですくって、猫の姿をした妖獣に食べさせた。
案の定、多かったようで、彼女は時間をかけて飲み込んだ上で頭を抱えて畳の上をコロコロと転がった。
「まったく、ここ最近暑くて私が藍に仕事任せっぱなしにしてるからって、そんな露骨にイヤミ言うことないのに。」
そんな主人のぼやきには耳を貸さず、藍と呼ばれた妖獣は高速でんぐり返しをする妖獣、橙に言う。
「どう?おいしいか?あんこは私の手作りなんだぞ。」
転がるのをどうにかこうにか止めた橙は、なみだ目でコクコクと頷いた。
「そうか!それはよかった!!じゃあ、お皿ここに置いとくからな!」
「こ・・・こうやって藍はいっつも私の、私の弱みを握ってじわじわと私の心にダメージを与えていくの。ヨヨヨ・・・。」
えづきながら、取り出したハンカチで目元を隠す。
「ウソ泣きやめてください。橙がみてます。それに、別に意図的にやってるワケじゃ内ですよ。」
「!!もう無意識下で私を無視してるのね・・・シクシク。」
「違います。今さっき紫様にも超大盛りの、えっとなんでしたっけ?ブルーなんとか、作ったばかりじゃないですか。」
「ブルーハワイよ。外の世界ではカキ氷といえばコレってぐらいの定番の味。」
「そうなんですかー。って、もう食べ終わってる!!」
いつの間にかちゃぶ台の上の大皿は一滴のジュースも残さずたいらげられていた。
「まぁ、藍が付き合ってくれなくても神社の巫女の所行くからいいわ。どうせヒマしてるだろうし。」
傍の箪笥に引っ掛けておいた帽子をとって、軽く身づくろいをする。記録的に雨の少ない今年でも、そこは幻想郷の夏。
残暑といえど湿度が高く、ムッとするような暑さと湿気で毛先が膨らんでしまう。
長く細い金髪をやわらかく結い上げると、それに覆い被せる様に帽子を被る。
(なんかお土産になりそうな物は・・・っと。あ、アレにしましょう。)
「じゃ、お夕飯までには帰ってくるから、仕事幾つか終わらせておくように。いいわね?」
そう言い残して紫はスキマに消えた。
仕度をする紫の美しく、威厳のある姿を見守り、お見送りをした後、藍はしぶしぶと、しかし嬉しそうに、
「なんだかんだ言っても、私は頼りにされてるんだ、紫様に。さーて、橙とカキ氷食べたらぼちぼち里に下りるかなっと。」
そして縁側に目をやると、そこには自分のカキ氷を持ってかれて泣いている橙の姿が。
「えーーーーーーっと、今日の、晩ゴハンは、2人分で、いい、みたいだ、なッ・・・・・!!!」
お昼過ぎ。太陽が地面を照らして大気を暖め、日中でもっとも気温が上昇する時間帯。
神社の庭で縁側に座って、足を水撒きの為に用意した盥に突っ込んだまま、仰向けに倒れている巫女がいた。
かれこれ40分、この格好から動いていない。
「あらあら、流石の巫女もこの暑さで遂にダメになったのかしら?花屋の真似なんかして。」
「----うるっさいわね。アタシ等人間はあんまり暑すぎると本当に死んじゃうの。アンタ等妖怪みたいに図太い神経してないのよ。」
巫女はそう言ってのそっと起き上がると、突然の来訪者に愚痴をこぼした。
何時、何処から現れたのか音も無く、紫が巫女を見下ろすように立っている。
「ほんと、霊夢は文句が多いわね。あんまり五月蝿いと、オミヤゲ、あげないわよ?」
「何?また異変解決とか面倒臭いモンでしょ?」
紫はもったいぶって、チッチッと指を振る。
「それはね・・・コレよ!!」
ばばーん!と効果音を付けたら様になるような大げさな仕種で取り出したるは、例の宇治金時。
「ダレてるであろう巫女に、スキマ妖怪からカキ氷のプレゼント、というワケ。」
「それ、幻じゃないわよね・・・?ホンモノのカキ氷なのよね・・・?」
霊夢のうつろな瞳にだんだんと精気が戻ってきた。
「もちろん。あんこは私の手作りだし、氷は信頼のメイドイン・河童のカキ氷機を使ってるわ。」
それを聞くと、巫女はゆらり、と音もなく立ち上がった。そして目にも留まらぬ速さで紫の手からカキ氷を奪おうとした、。が、その手は空を切っただけだった。
「あらあら、花屋から盗賊にでも転職したの?」
「チッ!!こちらはもうライフほぼゼロなのに、なんて卑怯なフェイクすんのよ!!」
いつの間にか霊夢の背後に出現した紫は霊夢に説く。
「マナーがなっていない、って言ってるのよ。貰う側には貰う側のマナーってものがあるの。」
霊夢は、しばらくの思考の後、
「あ・・・りがとうございます・・・?それとも・・・」
ガバッとしゃがんで、
「土下座!?」
「貴女の、巫女という神職に対してのプライドというものはないのかしら・・・。あと、胸がはだけてるわ。狙ってるの?」
「じゃあ何なのよ!?てか、誰も狙ってなんか無いわよ!!」
ムキーッ!と憤慨しながらも(一応)服を整える巫女。
彼女の頭は今のところ目の前の宇治金時を食べることで一杯なので、プライドと横乳なんて(暫定的に)アウトオブ・眼中。
そんなイリーガルな彼女を諭す紫。
「さて問題です。私たちにとって、“マナー”とは何でしょうか?」
「弾幕ごっこ(スペルカードバトル)?この容赦ない残暑の照りかえしの中で??」
「よねー。私もそれはナイと思うの。疲れてるし。だから。」
「だから?」
「だから、今日は普通に挨拶だけでいいわ」
「な、何なのよ・・・。こんだけ焦らしておいて。まあいいわ。よく分かんないのは紫のいつものことだし。くれるもんはもらっときましょう。じゃあ」
ヒョイっと紫の手から宇治金時を奪うと、縁側において、
「今スプーン持ってくるから、そこら辺に座っといて。・・・・しっかしその皿デカイわね。」
とかなんとかブツブツいいながらお勝手に消えていった。
「・・・・・まぁ、食べてる間にイロイロとしゃべることもあるから、いいかな。」
紫はちょっと遠い目をいた。
思えば、霊夢には色々と面倒を掛けてきた。少し前になるが、永く夜が明けなかったあの異変でも霊夢は紫の出動依頼に素直についてきてくれた。
確かに異変解決という大義名分はある。しかし、彼女にはなんら見返りは無い。それは寂しすぎる気がするのだ。
「あの娘への見返り・・・。カキ氷なんかじゃ、安すぎるくらいね。」
陽光に照らされた博霊神社を見渡す。眩しい日の光に境内が色褪せて見えたのは気のせいでは無いだろう。
人里から遠く、ここに来るまでの道中の安全も保障されていないこの神社に参拝客は少ない。
霊夢がどれだけの数の異変を解決していようと、紫はこの数年での賽銭箱の集金成果が上向きになっているのを聞かされたことは無い。
「あの神社はもう妖怪に占領されてしまっているらしい。」
藍が言うには、人里ではこういう噂も囁かれているようだ。
ペタペタいう足音が聞こえる。どうやら霊夢が戻ってきたようだ。
「はい、コレ。」
差し出されたのは年季の入った木のスプーンだった。
「アンタも食べるでしょ。私一人で食べるわけにもいかないし。」
紫のものよりも漆の剥げが多い、みすぼらしいほうのスプーンで、霊夢は金時を切り崩しにかかる。
「ッキターーーー!!!やっぱり夏はコレよね!!何週間ぶりかしら。カキ氷なんて食べたの!」
さっきのぶーたれ巫女とはうって変わって、上機嫌そうにこめかみを押さえる霊夢。
その屈託の無い笑顔に紫は尋ねる。
「ねぇ。ちょっといい?」
「何?アンタも早く食べないと解けちゃうわよ?」
「ああ・・・うん。そうね。じゃあ私も。」
陽炎で揺らめく庭で、二人の少女がカキ氷を食べる音と、遠くから聞こえるクマゼミの残党の合唱とが、神社を満たしていた。
「ふぃー。ご馳走様。ちょっとはカラダも冷えたみたい。いい具合に日も落ちてきたし、いい塩梅だわぁー・・・。」
「そんなに満足してもらえてよかったわ。こちらこそ、ご馳走様。あのお皿はオマケよ。」
「ありがと。今度の宴会のときにでも、使わしてもらうわよ。」
夕暮れ時。烏も妖精も、住処へ帰る時間。
西日が差し込む鳥居を背に、二人は別れ際の挨拶をしていた。
「ねぇ、霊夢。」
「何?今さっきも聞こうとしてたけど。」
紫を見上げる霊夢。
「貴女、今のままでいいの?」
「今のままって?」
「自分の頑張り、努力が認められないこの現状のままでいいのかってことよ。」
自分でも考えてみたことが無かったのか、黙り込む霊夢。
「そりゃあ・・・」
「?」
「そりゃあ私の活躍が報われないことは不満よ。でも、それが嫌ってワケじゃないの。私は産まれたときから博霊の巫女、博霊霊夢だもの。
私がいる理由は、妖怪を退治して、異変を解決して、この幻想郷の安定を守ること。それに他人の評価が入る必要は無いもの。それに・・・」
「・・・?」
「今こうやって紫や魔理沙、いろんな妖怪や人間としゃべってるこの時間、私は、楽しいし、嬉しいの。それだけで、生きてく理由に事足りてるわ。」
「そう・・・」
ため息をつくように紫の口から言葉が漏れた。
「・・・霊夢・・・・。」
「!?なッ!」
紫は霊夢の腕を引き寄せ、彼女を抱きしめた。
ほんのしばらくの時間。妖怪の山に沈んでいく夕日と、うっすらと顔を出した月が二人を照らした。
そして、スキマ妖怪は音も立てず己のいるべきスキマへと帰っていった。
境内に生えたクスノキの古木で羽休めをしていた烏だけが、立ちすくむ楽園の巫女を見ている。
体に気を付けてwww
誤字、やっぱりありましたか・・・。報告お疲れさまでした!
「物足りなかった感」については鋭意製作中の次回に活かしていきたいと思います。
ラストに出てくる烏←伏線疑惑
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