Coolier - 新生・東方創想話

塵よりよみがえらない

2009/08/05 18:44:34
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人生が死ぬまでの退屈しのぎなら、退屈した時人は死ぬ…わかるかい?
わからないだろうね…
              ピウス五世





******


あー死にたい。
うあー死にたい。
今すぐこの世から消え去りたい。
なんで死ねないんだ畜生死ね。
ファxク・フxック・ファアアアアアxク。
そんな欝な方向にポジティブな呟きを漏らしているのは、藤原妹紅である。
永く生きすぎた彼女は、時折このようになんだか非常にアレな状態に陥ってしまうのだ。
ごろごろと転がりながらアクティブに欝っている妹紅を、木陰から見つめる目があった。
上白沢慧音である。
慧音はとてもアクティブ且つポジティブに欝るアレな状態の彼女を見て、こう思った。
-駄目だコイツ……早くなんとかしないと……。


******


「頼みがある」
開口一番、慧音は霊夢にそう言った。
場所は博麗神社の境内である。いつものように休憩の合間に掃除をしたりしていた霊夢は、
「イヤよ」
と、頼みを聞きもしないで断った。とても面倒な事が起こりそうだからである。
「実はだな……」
そんな言葉は耳に入らなかったかのように慧音は続けた。
「聞きなさいよ。イヤって言ったでしょ」
「妹紅が……私の妹紅が……!」
『私の』って何だ。霊夢はそう思ったが深くは追求しない事にした。
「……言葉では説明しにくい。実物を見てくれ」
「イヤだって言ってるのに……」
霊夢は渋々と慧音に引きずられながら妹紅の元へと飛んだ。


******


「……と言う訳だ」
再び博麗神社の境内である。視察から戻った二人は、縁側に腰を落ち着け、霊夢は冷めた茶を一息に飲み干し、新たなお茶を自分の分だけ淹れていた。
「どういう訳よ」
訳が分からない。霊夢が目撃したのは、アレな方向に欝る妹紅の姿だけだった。別に放っておいても問題はなさそうだった。
「妹紅がとても苦しんでいる」
「そうね、とても面白く苦しんでいたわ」
「そして私は妹紅の友達だ」
「面白くって所は否定しないのね」
「……後は分かるな?」
「……ええと、アイツをもっと面白くするにはどうすればいいかを相談しにきたの?」
「そう、私は妹紅を助けてやりたいんだ」
「こらそこ、人の話を聞きなさい」
「と言う訳だ。頼む!人質になってくれ!」
「……はい?」
あんまりな帰結に、霊夢は流石に自分の耳を疑った。もしかしたら聞き間違いではないだろうか。
こいつは今、『人質になってくれ!』とか言った気がする。どうしてそうなるのだろう。矢張り聞き間違いだろう。きっとそうに違いない。
「そうか、イエスか」
「待て待て待て待てー!」
確かに『はい』とは言ってしまっていた。けれどそれは『いえす』の意味ではなく『ぱーどん』な意味だった。
それにしても、今まで何を言おうとガン無視だったのに、都合の良い所だけ聞き取って都合の良いように解釈するとは、一体こいつの脳内はどうなっているのだろうか、と霊夢は思った。
「さあ、それじゃあ行こうか」
「待てって言ってるでしょうにー!」
先ほどと同じように引きずられながら、霊夢は飛んだ。


******


慧音はいつかの事を思い出していた。
妹紅は、あの困難に立ち向かう時、確かに生きていた。真っ直ぐに、しっかりと前を向いて、人として生きていた。
ならばもう一度あの困難が現出すれば、妹紅はもう一度生気を取り戻すのではないだろうか。
そう慧音は考えたのである。
「……なるほど、それで人質ね。最初からそう言いなさいよ」
「言わなかったか?」
「あと、説明を受けても引き受ける気はないんだけど」
「しかしこんな役を引き受けてくれるとは思わなかった。感謝するぞ」
「人の話を聞けと何度言わせるつもりなのかしらコイツは……」
既に二人は妹紅の上空に差し掛かっていた。こうなれば仕方ない、と霊夢は諦めた。所詮芝居なのだから別に大事になる訳でもなし。
「ふははははー再び会ったな不死人よー」
それにしても、コイツは演技が下手だな、と霊夢は思った。とても棒読みだった。
「……んー?」
声に気づいた妹紅が虚ろな目を上空へと向ける。
「わははははーさあコイツを殺されたくなければ戦うのだー」
うわぁ……なんてアホアホな芝居なんだ。そう霊夢は思ったが我慢した。我慢していればすぐに終わるだろうと思っていたのだ。
「(……ほら、悲鳴をあげろ、助けを求めろ)」
……小声で参加を強要されるまでは。
「(なんで私がそんな事を……)」
「(そうじゃないと怪しまれるだろう。ほら早く)」
そう思うのならまずは自分の演技を改善しろ、と霊夢は心の中で毒づく。
「た、たすけてーこわいわー」
完璧な演技だ。霊夢はそう思った。慧音は『なんだその棒読み且つアホアホな台詞は』と思った。
「えー……面倒だな……」
妹紅は、とりあえずそんなアホアホな二人の芝居を疑う事なく受け入れたが、口から出たのはやる気のない言葉だった。
「め、面倒……?」
霊夢は少し落ち込んだ。
「そうかーこいつの命が惜しくないのかー」
「あー……いいよやっちゃえよ面倒だし。慧音もこの前『あいつ早く死なないかなー』とか言ってたし」
「(ちょ……!?あんたなんて事を……!)」
「(ま、待て!言ってない!そんな事言ってないから!)」
小声で二人が揉めていると、妹紅はさらに、
「なんだよ早くやれよ。そしてどっか行ってくれ。あー死にたい」
と催促した。
「(どうすんのよ全然効果ないじゃないのよ)」
「(くっ……こうなったら……)」
「(こうなったら?)」
「(頼む……妹紅の為に死んでくれ!)」
「(なんでそうなる!?)」
更に二人が揉める。その様子を妹紅は虚ろな目で見つめて、
「しかし何だな、なんかお前雰囲気が変わったな。あと死にたい。今すぐ」
気だるげに尚且つアクティブに死にたがっていた。
「そ、そうか?気の所為じゃないか?」
慧音は芝居がバレたかと焦った。バレたとすればきっと霊夢の芝居が下手だった所為に違いないと思っていた。
「いや、何と言うか……アホの子の匂いがする。それと死にたい。出来るだけ早く」
「あ、アホの……子……?」
-アホの子。
『慧音くんは今回も満点だ。皆も手本にするように』
『末は医者か学者か……将来が楽しみですな』
『いいよな、お前はなんでも出来て……』
-アホの子。
『君はもう私を超えた。だが勉学の道は深い。慢心せず、進みなさい』
『慧音や……ワシはもう駄目じゃ。じゃがお前ならきっと先祖代々の悲願である【進化の秘法】に手が届くと、ワシは信じておる』
『し、死ぬな!パパ上ー!』
-アホの子。
慧音は今までの自分の歴史を思い返していた。生まれて、神童扱いされて、家族との離別があって、進化の秘法で白沢になって……
「いや何よパパ上って。その時点で充分にアホの子じゃないの。なんで誰も突っ込まないのよそこに」
「わ、私は……」
「ところで……もうアイツは私たちに興味なくしたみたいなんだけど。離しなさいよ」
「私は……アホの子だったのかああああああああああああああああああ」
慧音は泣きながら何処かへと走り去った。
「……えーと……何、これ?」
一人残された霊夢は、すごくアホらしい気分になっていた。


******


ぽちゃん、と。
川に小石が投げ入れられた。
時刻はもう夕暮れだった。慧音は一人で、何するでもなく、ただ川の流れを眺めたり、時折今のように石を投げ入れたりしていた。
「……凄く分かりやすく落ち込んでるわね」
「……霊夢か」
振り返らずに、慧音は小さな声で返事をした。
すぐに霊夢がその隣へと座り込む。
「……駄目だな、私は」
そう言って慧音は夕焼けへと目を向ける。
「何よ突然。あとそれも凄い分かりやすい動きね。ほんの僅かでも芝居に生かせればいいのに」
「友達があんなに苦しんでるのに……私は無力だ。歴史の知識が頭一杯に詰まっているって言うのに、友達一人助けられない。なら矢張り私は……」
アホの子、なのだろうな。
俯いて、慧音はそう呟く。
「はぁ……まったく。コイツが落ち込んでてもあんまり面白くないわね」
ねえ、アンタもそう思わない?
霊夢が後ろへと視線を向け、そう言い放った。
「え……?」
「……慧音」
そこに居たのは、妹紅だった。その姿を目にした慧音は慌てて立ち上がり、
「妹紅……わ、私は……その……ど、どうしたんだこんな所で?……いや待て、落ち着け……」
とても分かりやすく混乱していた。
「……全部、聞いたよ」
「な、何?」
何を聞かれたのだろうか。慧音はまだ混乱している頭をなんとか落ち着けようとするが……
「ふ……ふわぁ!?いや待て!?いろいろ柔らかいし良い匂いがするぞ妹紅!?」
妹紅が、慧音に抱きついた。それによって更に慧音の頭はとても混乱した。
「……ありがとう」
「……な、何が!?むしろこっちがありがとうだぞ!?」
今や慧音は完全に危ない人だった。そんな慧音を、妹紅は更に抱きしめる。
「私の為に、あんな馬鹿みたいな真似までして、元気付けようとしてくれて……ありがとう」
「……妹紅」
「お前は無力なんかじゃない。慧音が居るから、私は私で居られるんだ。いつもいつも、慧音に助けられているんだ。今だってそうだ。だから……あんな事言うな」
「……そうか……私は……妹紅の役に立ってるのか」
違うんだ、そうじゃない。と妹紅は首を振る。
「役に立つとか、立たないとかじゃない。一緒に居てくれるだけで良いんだ。そりゃあたまにはあんな風に落ち込む事もあるけど……慧音が居る、ただそれだけで私は救われてるんだ。……あまり恥ずかしい事を言わせるな、馬鹿」
「も……妹紅……」
「……本当、恥ずかしいわね、アンタら」
何やら熱い抱擁を交わす二人に、霊夢が水を差した。
「な……なんだ、居たのか」
慌てて慧音が妹紅を振りほどく。直後、惜しい事をしたと、慧音の頭に後悔の念が稲妻のように迸った。
「最初っから居たでしょ。もう言葉どころか存在すら無視?いい加減怒るわよ?」
「い、いやその、すまない」
「分かればよろしい。今度からはちゃんと言葉も聞くように。大体私は最初から……」
「それから……」
ありがとう。慧音は何か言いかけた霊夢に、感謝の言葉を述べながら抱きついた。
「なっ……!?いきなり抱きつくなこの馬鹿!この……離、れ、なさいっ!」
「何だ、私なりの礼のつもりだったんだが」
「こんな事より賽銭箱に感謝の気持ちを入れなさい!それからッ!」
微かに頬を赤らめた霊夢が飛び立つ。
「一件落着したように思ってるかも知れないけど、アンタがアホの子って事には変わりないんだからね!このアホー!」
「あ……アホの……子……」
心の傷をしっかりとえぐりながら、霊夢は帰っていった。
「い、いや……慧音はアホの子なんかじゃないって、うん。ほら、歴史とか詳しいし……」
「いいんだ……どうせ私は歴史しか取り得がないアホの子なんだ……」
後には、最初と立場が逆転した二人が残った。


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「頼みがある」
開口一番、妹紅は霊夢にそう言った。
場所は博麗神社の境内である。いつものように休憩の合間に掃除をしたりしていた霊夢は、
「イヤよ」
と、頼みを聞きもしないで断った。とても面倒な事が起こりそうだからである。
「実はだな……」
そんな言葉は耳に入らなかったかのように妹紅は続けた。
「……アンタら本当に人の話を聞かないわね?」
「慧音が……アホの子呼ばわりされた事であれからずっと落ち込んでいてだな……」
「だーかーらー!」
イヤだって言ってんでしょうがー!
引きずられながら空を飛ぶ霊夢の叫びが、白い雲に吸い込まれていった。


******
退かぬ!媚びぬ!省みぬ!(世紀末の方の方言でこんにちはの意味)

最後までお付き合い下さりありがとうございました。
初めましての方は初めまして。そうでない方は三日間オヤツ抜きな自分のSSを再び手に取ってくださりありがとうございます。

前回に引き続いて幻想郷総アホの子計画、今回は慧音がアホの子になりました。アホの子は可愛いので正義(キリッ
アホの子どころかワンチャン変態まである気がしますが気にしない。


今更ですが、このSSは自分の創想話初投稿SSの塵よりよみがえり~りにゅーある~のパロディです。
塵よりよみがえり~りにゅーある~
http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1200940004&log=48
内容はツキノヨルハクタクノチニクルフケーネと妹紅が戦うお話。

それでは、機会があればまた次も読んでいただけると嬉しいです。
目玉紳士
[email protected]
http://medamasinsi.blog58.fc2.com/
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コメント



0.780簡易評価
22.50名前が無い程度の能力削除
それなりに面白かったです。
しかしキャラ崩壊タグに期待して見たらキャラの壊れ方が中途半端だった感。
どうせならもっとはっちゃけててもよかったかな
25.80名前が無い程度の能力削除
なんやねんこれw