「魔理沙!!あなた、また私のところから本盗んでいったでしょう!」
「人聞きの悪いこと言うなよ、死ぬまで借りるだけなんだからな」
「それを盗むって言うのよ!」
いつものやり取りが聞こえてくる中…
私は箒で境内を掃除しながら大きくため息をつく。
「あんた達ね~痴話喧嘩したいだけなら他所でやりなさいよ」
「ちわ?なんだそりゃ?」
「ヴァ……なんでそうなるのよ!!」
私の言葉に顔を真っ赤にして動揺するアリスと、ぽかーんとしている魔理沙。
そんな2人に、私は今日も幻想郷は1日平和だなと感じながら、青い空を眺めた。
日差しの強い空。
もうすぐ夏だ。
霊夢、魔理沙を語る
住宅兼神社の、縁側にて、今日もお茶を飲む霊夢。
夏の日差しも、木々に囲まれたここでは、周りよりも弱冠だが、暑さを和らげることが出来ている。冷たいお茶を飲みながら、霊夢は、午後の過ごし方を考えていた。
いつもなら、魔理沙が遊びに来るところだが…ここ最近はアリスと一緒にいるようで、ここにはあまり顔を見せてこない、まぁーあいつがいると、訳のわからない事件に巻き込まれ、自分もそれの被害を受けるのだから、かまわないのだけれど……。
「あら?憂鬱な顔ね?」
「……」
突然聞こえてきた声に、霊夢はさらに憂鬱な表情で、声が聞こえてきた上を見る。
そこには扇子を口元に当てて微笑む八雲紫がいた。
まぁーこんな芸当ができるのは、幻想郷では彼女ぐらいだが。
「なによ?暇だからってかまわないで頂戴」
「釣れないわね~、あなたが最近、元気がないからって励ましにきてあげたのに」
「誰が元気ないのよ?」
霊夢は、紫から視線を外して無愛想に答える。
紫は、相変わらず頭のくる笑顔で霊夢を見下している。
「灯台下暗し」
「は?」
紫はスキマによりかかるようにしながら、つぶやく。
「1番近くにあるものだからこそ、見えないこと。今の貴方には、その言葉がピッタリね」
「だから、どういう意味よ」
「自分の胸に聞いてみることね。それじゃー私は今から幽々子とデートだから、またね?」
霊夢の問いかけに、紫は、答えることなく隙間を閉じる。
「なによ、ただイチャイチャを見せ付けたいだけだったの?」
なくなった隙間を見上げながら、霊夢は独り言のようにつぶやく。
別に自分は、誰かが誰かと、幸せになったところで、それに嫉妬が湧くことはない。
だいたい……あいつの言いたいことは、魔理沙のことなのだろうが…。
「魔理沙ね……」
思えば長い付き合いだ。
小さいころから一緒だった…まぁ、あのときからの腐れ縁でもあるわけなんだが。
あの頃から、あいつは何も変わっていない。
子供のように遊んでいるように見せながら、その裏では必死に努力をしている。対する、自分は、努力しているように見えながら、特に何もしてはいない…。それだけではない、私達は何かと性格なんかも正反対だ。だからこそ、ここまで仲良くやってこれたのかもしれない。
あの頃は、自分たちしかいなかった。
私達だけの小さな世界。
他に見るものがなかったから、あいつしか見るものがなかった。
それが、大きく世界が広がっていくと…そこにはいろいろなものが自分の世界に入ってくる。さっきの八雲紫しかり、萃香しかり…レミリアしかり……。魔理沙もそう、アリスや、パチュリー……そんな様々な人・妖怪がはいってくることで、私達の繋がりは、私達の世界は薄くなっていったのかもしれない。
「別に、それでもいいけど……」
そう、特にこだわる事はない。
魔理沙が自分ではなく、他の人と遊ぼうと、自分のことを放っておこうとどうでもいいことだ。だいたい、魔理沙がいるとろくなことにならない……。
こうしてゆっくりとできる時間は自分にとっては貴重なことなのだから。
だから、これでいい。
魔理沙がいなくても、私は何も変わらない。
「霊夢、どうしたんだ?浮かない顔して?」
霊夢の前、そこにはトレードマークの帽子をあげた、魔理沙がいた。
考え事をしていたせいか、すっかり彼女がいたことに気がつかなかった。
「なによ、あんた?アリスと一緒じゃなかったの?」
「泥棒、泥棒、五月蝿いから、逃げてきた!」
「事実でしょうが…」
溜息をつく霊夢の隣に座る魔理沙。
魔理沙は、霊夢の飲んでいたお茶をとるとごくごうと飲み干す。
「あー!あんたねぇ!!」
折角自分が飲もうとしていたお茶を…!
霊夢は、魔理沙を見て声を上げる。
「まぁまぁ、いいじゃん。私と霊夢の仲だろう?」
「私なんかよりも、アリスやパチュリーとかのほうが仲良いでしょ?」
霊夢の言葉……どうせ、すぐに反撃の言葉が聞こえてくると思った霊夢だったが、返しの言葉がない。隣を見てみると、魔理沙が珍しく真面目な表情をしてこっちを見ている。目が合ってしまい、視線を背けることができなくなった霊夢。
「霊夢は私のことが嫌いか?」
唐突な言葉に、霊夢は『は?』と思わず言葉が出てしまう。
魔理沙は、霊夢を見つめたままだ。
その目は、いままで誰にも見せたことのない寂しさ・悲しみを感じさせた。演技とも最初は疑ったが、どうやらそうでもないらしい。
「そ、そんなことないわよ!!」
霊夢は恥かしそうにしながら、魔理沙から視線を外す。
そんな霊夢に、魔理沙は笑顔を取り戻す。
「そっか。よかった!じゃー久し振りに、どこか遊びに行こうぜ!」
魔理沙はそういうと、立ち上がり、片手に箒と片手は、霊夢の手を握って走り出す。
魔理沙の後姿を見ながら、私はまた何か事件に巻き込まれるのだろうと気が重くなった。
でも、なぜだろう……。
今の私の心は、この青空のように晴れ晴れとして……とても心地よい。
どっちにしろ生涯の友人であろうことは間違いない
>晴れ晴れとして……とても心地よい。
という気分になれました。
シンプルだけどナイス友情です。