*キャラ崩壊、百合要素アリ。
「あはははは、この勇儀ともあろう者が不覚を取ったよ。……おえっぷ」
「犯罪的なまでに酒臭いから側で喋らないで。今吐いたら殺すわよ」
星熊勇儀は親爺臭い。
それが私、水橋パルスィの率直かつ正直な印象だ。
第一印象も親爺臭ければ、それ以降もその印象が変わる事は無かった。
豪快な性格で大酒呑みの酔っ払い。
これだけでもう確定的なまでに親爺臭い。
外見にも殆ど気を使わない。
真冬でもTシャツ一枚で盃片手に旧都を赤ら顔で練り歩く様はもう、アレだ。
類稀な美貌と恵まれまくって妬む気にすらなれない豊満な肢体とを、相殺し粉砕し三歩必殺しなお余りある。
「ほら、家着いたわよ」
「いつもすまないねぇ」
「黙れ」
だからアレだ。
新たに地上で幻想入りしたらしい粉末ポカリとやらのカクテルに挑戦し、ひたすら悪酔いした彼女を他人よりほんの少しだけ親しくしてるらしき私が肩を貸しながら(クソ重いったら!)彼女の家まで送り届け、布団に寝かしつけるために押入れ開け、そこから熊のぬいぐるみやらフリルいっぱいのドレスやらおもちゃの魔法のステッキ☆やらが雪崩の如く大量に溢れ出て来た時は、思わず魂が地上を越え彼岸を越え新しい方の地獄で閻魔様に耳には痛いけど身に沁みる説教を体感で小一時間程頂戴した挙句、ラストジャッジメントで現世に送り返されてしまった。
色んな意味で精神に深刻なダメージを負った私であったが、目の前の人物(というか鬼)の精神ダメージはどうやら私以上らしい。
畳に転がしておいた筈の鬼は、いつの間にやら私の目の前に回り込み、顔色を赤に変えたり青に変えたりしながら、両手を広げてあうあうと意味不明な言葉を発している。とりあえずお前は赤鬼なのか青鬼なのかはっきりしろ。
私は足元のピンク色の幻想郷(卑猥な意味に非ズ)をちらりと見、再び鬼に視線を戻す。
さすがに一瞬の混乱が過ぎれば状況は把握できる。
要は親爺臭いと思っていた彼女も女の子だったということなのだろう。別にどうという事は無い。
鬼……星熊勇儀は、私より頭二つ分は高い背を猫みたいに縮め、涙目の上目遣いで、おどおどびくびくとこちらの様子を伺っている。角がへにょってるのは目の錯覚だと思いたい。
そんなへたれた姿に、いつもの豪快な彼女の面影は微塵も無い。
「…………」
ふと、私の中にとある衝動が生まれる。
ああ、そうだ、これは――
――――――――――――――――――――――――――――――
1:なにこの可愛い生き物。
2:強さだけじゃなく可愛さまでアピールなんて、妬ましい。
→3:きもい。 ピッ
――――――――――――――――――――――――――――――
「うん、ぶっちゃけきもい」
0.2秒。
ほぼ反射的に、私は率直かつ正直な感想を口にしていた。だって相手鬼だし。
つか美女の皮を被った親爺と思っていた相手の趣味が、ファンシーグッズ収集だったりしたら普通にきもいだろう。
「ひぐっ」
でもそうしたら、何か鬼がマジ泣きしだした。うぜぇ。
これがいわゆる鬼の霍乱というものか。
初恋に敗れた少女の如く放心した表情で涙をぽろぽろこぼし、ひくひくとしゃくりあげる。
そして。
「うえええええん」
そのまま号泣しだす鬼。
……正直さは時に残酷に他者を傷付ける。
軽い嘘でもほぼ例外を認めず蛇蝎の如く嫌っていた彼女も、これで少しは認識を改めるかもしれない。
いや、それはどうでもいいのだが。
本当に珍しい事に、悪い方向に酒が入りまくっているようだ。
すげえよポカリ。これからは常にポカリの粉末を携帯することにしよう。
さて、珍しいものが見れたのはいいが、これから一体どうしよう。
とりあえず泣く鬼は放っておいて、足元に散らばる、鬼のなけなしの乙女心を片付けることにする。
押入れの奥にはまだ、先ほど出て来そこねた可愛らしいアイテムが山ほど眠っている。ちなみに布団はここには無かった。
どれだけ溜め込んだんだ、この鬼。
というか、どうやってこれだけ大量に入手したんだ。
しかもこの杜撰な隠蔽。
これでは見つけてくれと言ってるようなものである。
あの鬼はちょくちょく私を家に引っ張り込む。たまに泊まっていくことすらある。
今日でなくても、いつか遠くない日に、同じような事が起こっていただろう。
むしろ今日まで隠し通せたのは奇跡に近い。
「むしろ見せたかったのかしら、ひょっとして」
「ひぐっ」
だとしたら相当アレだ。
精神的ドMというやつだろう。
まぁ冗談はさておいて。
真面目な話、勇儀の精神的苦痛も理解出来ない訳じゃない。
というか私にも十分覚えがある。
私の数少ない友人の一人に、土蜘蛛の娘がいる。
一人暮らしをしている私はあまり凝った料理は作らない。
せっかく作っても食べる相手が自分しかいないため、空しくなるからだ。
そんな私を心配してか、彼女はちょくちょくやたら手の込んだ手料理やら焼き菓子やらを持ってくるのだ。
そんなある日のことである。ある事件がきっかけで手に入れた、とある庭師(♂攻)と道具屋(♂受)の恋物語を描いた春画本。
わずかに魔が差して持ち帰ったアレを、例によって世話を焼きに来た土蜘蛛の娘に発見されたときは、かなり真剣に入水することを検討した。
まったく、頼んでもいないのにいらん気を使ってくれよってからに……。
恐らく、私のような孤独な奴ひとりひとりに世話を焼いて回っているのだろう。
そんな甲斐性も人気者たる所以かしらね、ああ妬ましい。
……まぁそれはともかく、この手の恥は、一度かいてしまえば以降は開き直る事が出来るのだ。
幸い私はそれ以上の領域に踏み込むことはなかったが、土蜘蛛の娘はその件がきっかけでその道にどっぷりと嵌ってしまった。
今では自らその手の創作物を手がけることもあるらしい。
それがなかなかの評判で、地上の妖怪の賢者経由で、地上や外の世界にまで売り出されることもあるとか。妬ま……しくはないや、別に。
それを人伝に聞いた時は、――ああ、私は力を使わずとも他者の心を狂わせるのか――と、己が宿業を嘆いたものだった。
でもまぁ恨むなら、被弾させた際に、うっかりアイテムドロップした人間の魔法使いを恨んで頂戴。
腐れた土蜘蛛はさておいて、勇儀である。
繰り返すが、この手の事は辛いのは最初だけ。
ならば、今彼女が感じている精神的苦痛は通過儀礼なのである。
いずれは完全に開き直って、ファンシーでロリータ全開な、地霊殿の主のようなファッションに身を包んだ勇儀の姿を、日常的に拝めるようになるだろう。
「ぼふっ」
やべぇ、想像したらかなりクリティカルなツボに入った。
あわてて呼吸を整えてふと我に返る。
アホな事を考えているうちに、可愛いアイテムはあらかたきれいに押入れの中に納まったようだった。
最後に残った人形を手に取って――私は硬直した。
「…………え」
金髪セミ。
笹穂型の耳。
茶が基調の地味な服。
……どう見ても私の人形です。本当にありがとうございました。
…………。
ヤバイ。かなり本気でヤバイ。
奴にその気があることには薄々気付いていたが、まさか私がその対象だったとわ。
……いや、よくよく考えれば、思い当たる節はある気がする。
――事あるごとに自分の家に連れ込んで泊まらせようとしたり。
――酔った勢いで、宴の場とはいえ公衆の面前でも頻繁に押し倒そうとしてきたり。
――最近はほぼ毎日、旧都を連れ回されたり。
「…………」
気付けよ私。気付けよ私。気付けよ私!!
ええい、恋愛どころか対人経験値自体がゼロに近かったから、華麗にスルーしていたわ!
つかこれ、既に外堀埋まってなくね?
鬼の癖に何て周到な奴だ。力ずくで攫われるよりはまだマシだが。
……マズイ。かなり本気でマズイ。
今この状況で彼女に開き直られたりしたら……。
単純明快な鬼のこと、その場で確実に私の人生は鬼と共に墓場へ向かって一直線だ。
しかもこのままでは私がタキシードを着る側に回りかねない。
「……まいったわね」
何とか勇儀の少女化を阻止する方法はないものか。
考えろ私。この窮地を乗り切る画期的なアイデアを……!
……と、思ったけれど。
「まぁ、どうでもいいか」
本気になった鬼を私がどうこう出来る訳ないし、なるようにしかならないわね。
世の中諦めが肝心。
と。
「話は全て聞かせてもらったわ!!」
なんかいきなり全体的に紫色なケバいおばさんが、空間をすぱーんと切り開いて出現した。
「なけなしの少女臭を冷酷に踏みにじるその所業! 断じて見過ごす訳には行かないわ!!」
「誰よおばさん」
「がふっ!?」
なんか血を吐いた。うだつの上がらないやつだ。
でもよく見れば、この紫おばさん、見た目だけならむしろ私よりも若いくらいだった。
だが、こいつを見て少女と判断するヤツは、たとえカンの悪い人間にだっていないだろう。
なんか胡散臭いし、それに胡散臭いし、何より胡散臭い。
この胡散臭さだけでも、間違いなく勇儀にすら匹敵する大妖怪だ。
だが、勇儀が全身から沸き立つ親爺臭さで少女臭を完全にかき消しているなら、こいつは溢れんばかりの胡散臭さで少女臭をとことん台無しにしている。あ、私今うまい事言った。
……でも妬ましいわね。
勇儀にしろこの紫女にしろ、とことん強く、美しい。
少女らしさだけは致命的なまでに足りてないけど。ああ本当に妬ましいわ」
紫女が死んだ。心なしか恍惚とした表情を浮かべている気がする。きもい。
そして勇儀も部屋の隅でなんか体育座りしてぶつぶつ呟いていた。こわい。
ぐはっ、つい心に思ったことをそのまま口に出してしまったらしい。(棒読み)
どうやら例の事件以後に知り合った地霊殿の主と話すときの癖が出たようだ。わざとだけど。
彼女と話すときは、心の中が筒抜けのため、思ったことはむしろ即座にそのまま口にしてしまった方がいい。
彼女自身も裏表のない会話は好ましいらしく、一緒にいると心が安らぐとまで言っていたから、恐らく間違いあるまい。
ただ地霊殿を出ようとすると、何故か泣きそうになったり、ペットの猫や鴉が妨害してくるのが少し気になったが。
ともあれ、やはり彼女以外には通用しないコミニュケーション方法らしかった。わかってた事だけど。
さあ橋へ帰ろう。
ここにはもう悲劇しか残されていない。
否、私のいる所には悲劇しか存在し得ないのだ――
一月後。
パルスィです。結婚しました。
……相手? 勇儀に決まってるでしょう。
予想通り、あれから一月かけて過去の親爺臭い自分から解脱した勇儀は、完全無欠な少女へと生まれ変わった。
キャラも設定もかなぐり捨てて萌え路線を全力疾走した勇儀はまさしく無敵だった。
ピンクな服装にゆとり全開な仕草、舌ったらずな言葉遣い。いったいどこの誰にプロデュースされたんだ。
ふりふりエプロンで、ハニーとか訳のわからない呼びかたしながら、これだけは変わらない馬鹿力で押し倒してくる勇儀に、私が出来る事など何もなかった。
……まぁ、だからこそ、仕返しは一月前に済ませておいたのだが。
タキシード着て鬼をお姫様抱っこしながらヴァージンロードを歩く。(だから重いんだってば)
幸せ一杯の笑みを向ける鬼を見て、まぁ、これも悪くはないかと思う。
こんなトチ狂ったイメクラごっこが長続きするわけもないが、まぁ長い妖怪の一生だ。
黒歴史の一つや二つ創っておくのもそう悪くはあるまい。
厄介事にまみれた素晴らしき緑色の未来に思いを馳せ、私は久しぶりに、心からの笑みを浮かべた。
「あはははは、この勇儀ともあろう者が不覚を取ったよ。……おえっぷ」
「犯罪的なまでに酒臭いから側で喋らないで。今吐いたら殺すわよ」
星熊勇儀は親爺臭い。
それが私、水橋パルスィの率直かつ正直な印象だ。
第一印象も親爺臭ければ、それ以降もその印象が変わる事は無かった。
豪快な性格で大酒呑みの酔っ払い。
これだけでもう確定的なまでに親爺臭い。
外見にも殆ど気を使わない。
真冬でもTシャツ一枚で盃片手に旧都を赤ら顔で練り歩く様はもう、アレだ。
類稀な美貌と恵まれまくって妬む気にすらなれない豊満な肢体とを、相殺し粉砕し三歩必殺しなお余りある。
「ほら、家着いたわよ」
「いつもすまないねぇ」
「黙れ」
だからアレだ。
新たに地上で幻想入りしたらしい粉末ポカリとやらのカクテルに挑戦し、ひたすら悪酔いした彼女を他人よりほんの少しだけ親しくしてるらしき私が肩を貸しながら(クソ重いったら!)彼女の家まで送り届け、布団に寝かしつけるために押入れ開け、そこから熊のぬいぐるみやらフリルいっぱいのドレスやらおもちゃの魔法のステッキ☆やらが雪崩の如く大量に溢れ出て来た時は、思わず魂が地上を越え彼岸を越え新しい方の地獄で閻魔様に耳には痛いけど身に沁みる説教を体感で小一時間程頂戴した挙句、ラストジャッジメントで現世に送り返されてしまった。
色んな意味で精神に深刻なダメージを負った私であったが、目の前の人物(というか鬼)の精神ダメージはどうやら私以上らしい。
畳に転がしておいた筈の鬼は、いつの間にやら私の目の前に回り込み、顔色を赤に変えたり青に変えたりしながら、両手を広げてあうあうと意味不明な言葉を発している。とりあえずお前は赤鬼なのか青鬼なのかはっきりしろ。
私は足元のピンク色の幻想郷(卑猥な意味に非ズ)をちらりと見、再び鬼に視線を戻す。
さすがに一瞬の混乱が過ぎれば状況は把握できる。
要は親爺臭いと思っていた彼女も女の子だったということなのだろう。別にどうという事は無い。
鬼……星熊勇儀は、私より頭二つ分は高い背を猫みたいに縮め、涙目の上目遣いで、おどおどびくびくとこちらの様子を伺っている。角がへにょってるのは目の錯覚だと思いたい。
そんなへたれた姿に、いつもの豪快な彼女の面影は微塵も無い。
「…………」
ふと、私の中にとある衝動が生まれる。
ああ、そうだ、これは――
――――――――――――――――――――――――――――――
1:なにこの可愛い生き物。
2:強さだけじゃなく可愛さまでアピールなんて、妬ましい。
→3:きもい。 ピッ
――――――――――――――――――――――――――――――
「うん、ぶっちゃけきもい」
0.2秒。
ほぼ反射的に、私は率直かつ正直な感想を口にしていた。だって相手鬼だし。
つか美女の皮を被った親爺と思っていた相手の趣味が、ファンシーグッズ収集だったりしたら普通にきもいだろう。
「ひぐっ」
でもそうしたら、何か鬼がマジ泣きしだした。うぜぇ。
これがいわゆる鬼の霍乱というものか。
初恋に敗れた少女の如く放心した表情で涙をぽろぽろこぼし、ひくひくとしゃくりあげる。
そして。
「うえええええん」
そのまま号泣しだす鬼。
……正直さは時に残酷に他者を傷付ける。
軽い嘘でもほぼ例外を認めず蛇蝎の如く嫌っていた彼女も、これで少しは認識を改めるかもしれない。
いや、それはどうでもいいのだが。
本当に珍しい事に、悪い方向に酒が入りまくっているようだ。
すげえよポカリ。これからは常にポカリの粉末を携帯することにしよう。
さて、珍しいものが見れたのはいいが、これから一体どうしよう。
とりあえず泣く鬼は放っておいて、足元に散らばる、鬼のなけなしの乙女心を片付けることにする。
押入れの奥にはまだ、先ほど出て来そこねた可愛らしいアイテムが山ほど眠っている。ちなみに布団はここには無かった。
どれだけ溜め込んだんだ、この鬼。
というか、どうやってこれだけ大量に入手したんだ。
しかもこの杜撰な隠蔽。
これでは見つけてくれと言ってるようなものである。
あの鬼はちょくちょく私を家に引っ張り込む。たまに泊まっていくことすらある。
今日でなくても、いつか遠くない日に、同じような事が起こっていただろう。
むしろ今日まで隠し通せたのは奇跡に近い。
「むしろ見せたかったのかしら、ひょっとして」
「ひぐっ」
だとしたら相当アレだ。
精神的ドMというやつだろう。
まぁ冗談はさておいて。
真面目な話、勇儀の精神的苦痛も理解出来ない訳じゃない。
というか私にも十分覚えがある。
私の数少ない友人の一人に、土蜘蛛の娘がいる。
一人暮らしをしている私はあまり凝った料理は作らない。
せっかく作っても食べる相手が自分しかいないため、空しくなるからだ。
そんな私を心配してか、彼女はちょくちょくやたら手の込んだ手料理やら焼き菓子やらを持ってくるのだ。
そんなある日のことである。ある事件がきっかけで手に入れた、とある庭師(♂攻)と道具屋(♂受)の恋物語を描いた春画本。
わずかに魔が差して持ち帰ったアレを、例によって世話を焼きに来た土蜘蛛の娘に発見されたときは、かなり真剣に入水することを検討した。
まったく、頼んでもいないのにいらん気を使ってくれよってからに……。
恐らく、私のような孤独な奴ひとりひとりに世話を焼いて回っているのだろう。
そんな甲斐性も人気者たる所以かしらね、ああ妬ましい。
……まぁそれはともかく、この手の恥は、一度かいてしまえば以降は開き直る事が出来るのだ。
幸い私はそれ以上の領域に踏み込むことはなかったが、土蜘蛛の娘はその件がきっかけでその道にどっぷりと嵌ってしまった。
今では自らその手の創作物を手がけることもあるらしい。
それがなかなかの評判で、地上の妖怪の賢者経由で、地上や外の世界にまで売り出されることもあるとか。妬ま……しくはないや、別に。
それを人伝に聞いた時は、――ああ、私は力を使わずとも他者の心を狂わせるのか――と、己が宿業を嘆いたものだった。
でもまぁ恨むなら、被弾させた際に、うっかりアイテムドロップした人間の魔法使いを恨んで頂戴。
腐れた土蜘蛛はさておいて、勇儀である。
繰り返すが、この手の事は辛いのは最初だけ。
ならば、今彼女が感じている精神的苦痛は通過儀礼なのである。
いずれは完全に開き直って、ファンシーでロリータ全開な、地霊殿の主のようなファッションに身を包んだ勇儀の姿を、日常的に拝めるようになるだろう。
「ぼふっ」
やべぇ、想像したらかなりクリティカルなツボに入った。
あわてて呼吸を整えてふと我に返る。
アホな事を考えているうちに、可愛いアイテムはあらかたきれいに押入れの中に納まったようだった。
最後に残った人形を手に取って――私は硬直した。
「…………え」
金髪セミ。
笹穂型の耳。
茶が基調の地味な服。
……どう見ても私の人形です。本当にありがとうございました。
…………。
ヤバイ。かなり本気でヤバイ。
奴にその気があることには薄々気付いていたが、まさか私がその対象だったとわ。
……いや、よくよく考えれば、思い当たる節はある気がする。
――事あるごとに自分の家に連れ込んで泊まらせようとしたり。
――酔った勢いで、宴の場とはいえ公衆の面前でも頻繁に押し倒そうとしてきたり。
――最近はほぼ毎日、旧都を連れ回されたり。
「…………」
気付けよ私。気付けよ私。気付けよ私!!
ええい、恋愛どころか対人経験値自体がゼロに近かったから、華麗にスルーしていたわ!
つかこれ、既に外堀埋まってなくね?
鬼の癖に何て周到な奴だ。力ずくで攫われるよりはまだマシだが。
……マズイ。かなり本気でマズイ。
今この状況で彼女に開き直られたりしたら……。
単純明快な鬼のこと、その場で確実に私の人生は鬼と共に墓場へ向かって一直線だ。
しかもこのままでは私がタキシードを着る側に回りかねない。
「……まいったわね」
何とか勇儀の少女化を阻止する方法はないものか。
考えろ私。この窮地を乗り切る画期的なアイデアを……!
……と、思ったけれど。
「まぁ、どうでもいいか」
本気になった鬼を私がどうこう出来る訳ないし、なるようにしかならないわね。
世の中諦めが肝心。
と。
「話は全て聞かせてもらったわ!!」
なんかいきなり全体的に紫色なケバいおばさんが、空間をすぱーんと切り開いて出現した。
「なけなしの少女臭を冷酷に踏みにじるその所業! 断じて見過ごす訳には行かないわ!!」
「誰よおばさん」
「がふっ!?」
なんか血を吐いた。うだつの上がらないやつだ。
でもよく見れば、この紫おばさん、見た目だけならむしろ私よりも若いくらいだった。
だが、こいつを見て少女と判断するヤツは、たとえカンの悪い人間にだっていないだろう。
なんか胡散臭いし、それに胡散臭いし、何より胡散臭い。
この胡散臭さだけでも、間違いなく勇儀にすら匹敵する大妖怪だ。
だが、勇儀が全身から沸き立つ親爺臭さで少女臭を完全にかき消しているなら、こいつは溢れんばかりの胡散臭さで少女臭をとことん台無しにしている。あ、私今うまい事言った。
……でも妬ましいわね。
勇儀にしろこの紫女にしろ、とことん強く、美しい。
少女らしさだけは致命的なまでに足りてないけど。ああ本当に妬ましいわ」
紫女が死んだ。心なしか恍惚とした表情を浮かべている気がする。きもい。
そして勇儀も部屋の隅でなんか体育座りしてぶつぶつ呟いていた。こわい。
ぐはっ、つい心に思ったことをそのまま口に出してしまったらしい。(棒読み)
どうやら例の事件以後に知り合った地霊殿の主と話すときの癖が出たようだ。わざとだけど。
彼女と話すときは、心の中が筒抜けのため、思ったことはむしろ即座にそのまま口にしてしまった方がいい。
彼女自身も裏表のない会話は好ましいらしく、一緒にいると心が安らぐとまで言っていたから、恐らく間違いあるまい。
ただ地霊殿を出ようとすると、何故か泣きそうになったり、ペットの猫や鴉が妨害してくるのが少し気になったが。
ともあれ、やはり彼女以外には通用しないコミニュケーション方法らしかった。わかってた事だけど。
さあ橋へ帰ろう。
ここにはもう悲劇しか残されていない。
否、私のいる所には悲劇しか存在し得ないのだ――
一月後。
パルスィです。結婚しました。
……相手? 勇儀に決まってるでしょう。
予想通り、あれから一月かけて過去の親爺臭い自分から解脱した勇儀は、完全無欠な少女へと生まれ変わった。
キャラも設定もかなぐり捨てて萌え路線を全力疾走した勇儀はまさしく無敵だった。
ピンクな服装にゆとり全開な仕草、舌ったらずな言葉遣い。いったいどこの誰にプロデュースされたんだ。
ふりふりエプロンで、ハニーとか訳のわからない呼びかたしながら、これだけは変わらない馬鹿力で押し倒してくる勇儀に、私が出来る事など何もなかった。
……まぁ、だからこそ、仕返しは一月前に済ませておいたのだが。
タキシード着て鬼をお姫様抱っこしながらヴァージンロードを歩く。(だから重いんだってば)
幸せ一杯の笑みを向ける鬼を見て、まぁ、これも悪くはないかと思う。
こんなトチ狂ったイメクラごっこが長続きするわけもないが、まぁ長い妖怪の一生だ。
黒歴史の一つや二つ創っておくのもそう悪くはあるまい。
厄介事にまみれた素晴らしき緑色の未来に思いを馳せ、私は久しぶりに、心からの笑みを浮かべた。
魔理沙何読んでんのwそれとも書いたのか…。
あとパルスィに惚れてると思しきさとりんの未来はどっちだ。
この一文でコーヒー噴いたwww
結構アリでした、ごちそうさまです。
パルが心から笑えてよかったぜ!
パルさとも気になってしょうがないぜ!
あと該当本買っとけばよかったと今になって悔やまれる
こっそりさとりんとのフラグ立ってたのが気になる。
良いと思ってしまった俺は間違ってるいるのか?
展開的に、てっきり勇儀姐さんがぱるちーをふりひらにドレスアップしてくれるのを期待したんだが・・・
まさか、本人がおにぎりアイドル化するのは完全に想定外。その発想はなかった
ここで一番吹きましたw
とても楽しく読ませていただきました。こんな勇儀姉さんもアリだと思いますw
こういうのもいいかも
フリフリドレスの姐さんだと?ギャップ萌にも程がある!
さとりんのその後も気になるw
ナリだな
乙女な勇儀さんもジャスティス。
さにげなくさとパルがつぼった。
あとパルスィさん。どんだけフラグをへし折ってきたんだ。
もちろんアリですよ!!
然り気無く出てくる、男二人の本とか
パルスィのセリフとかに吹いたww