――ピチャ――
川に浸した指先が冷たい。
神でも、それも人形に関わる神であるのに、人形とは違い冷たさを感じるのは少しおかしく感じる。
そんな事を思いつつも、私は上流から流れてくる厄をその手で掬い取る。
(今日もまた随分とあるわね)
手を伝うように体にまとわりついてくる厄を見て思う。
ここ最近、どうも大きな厄が多い気がする。
厄の数そのものは減ってきているのだが、その代わり大きな厄が増えてきた感じだ。
(何か起きているのかしら?)
気にはなるが、調べようとは思わない。
いや、調べられないといったほうが正しいだろう。
私は厄神。その身に厄を纏い近づくものを不幸にする。
だから秘神として人目につかないようひっそりと暮らしているのだ。
厄から人々を守る神が、人々に厄を与えるなんて本末転倒である。
それでは、厄神ではなくて疫病神である。
(まぁいいわ。さっさと帰りましょう)
私は川から手を引き抜いて立ち去ろうとした。
「ね~お姉さん~、なにやってるの~?」
「ん?」
声のした方を向くと、そこには黄色い服を着た十歳前後の子供がふわふわと浮いていた。
雰囲気から多分男の子だと思われるが、茶色いふわふわの髪の毛に、大きな目、血色の良さそうな頬・・・なんというか
(思わずぎゅっと抱きしめたくなるような可愛い子ね)
思わずそんな事を思った私は、何を考えているのと首を振った。
「ねぇ~、何してるの?」
その男の子がふわふわと近づいてくる。
「駄目よ!」
「えっ!?」
私は鋭い声でその子が近づくのをとどめた。
男の子は驚いて、そのまま中空にとどまる。
「私に近づくと不幸になるわよ」
「え、なんで?」
私がそう言うと、その子は首をかしげた。
(・・・その、ちょっと痛いものを見るような眼は少しきついんだけど)
確かにさっきの言葉は、どこぞの物語に出てくる薄幸の美少女チックなヒロインが言いそうな比喩的台詞だが、私にとっては比喩でもなんでもない。
私のまわりに漂っている可視化しているほど濃い厄が、近づくものを確実に不幸にする。
それは人間であろうと無かろうと関係ない。
「もしかして、その厄のこと?」
男の子が私の周りを漂う厄を指して聞いてきた。
「えぇ、だから・・・」
「じゃあ大丈夫だよ!」
「ち、ちょっと!?」
そう言ってその子は私の周りを漂う厄に手を伸ばした。
「ほら」
「え・・・!?」
その子が厄に、いや厄がその子に触れようとすると、厄が磁石の同極同士のように近づいてくるその子の手から離れていった。
(厄が離れていく・・・いえ、厄じゃないものに押されているんだわ)
よく見ると厄とその子の手の間に何かが漂っていた。
それを見て、私はその子の正体がわかった。
「あなた・・・福神ね」
「うん、そうだよ」
その子の周りに漂っているもの、それは私の厄――禍と対極に位置する福である。
それを回りに漂わせているのが福神である。
厄払いを司る私達厄神と同じように人間を幸せにするのが存在意義だけど、彼らは幸福を与えることで人々を幸せにする。
「僕、吉祥 縁(きちじょう えにし)っていうんだ。お姉さんは?」
「私?鍵山雛よ」
(吉祥?随分すごい名前ね。もしかしたら吉祥天と繋がっているのかしら?)
「うん、わかったひーちゃんだね」
私がその子の名前に少し驚いていると、その子がいきなり変な事を言い出した。
「ひ、ひーちゃん・・・?」
「そう、雛だからひーちゃん!」
「えっと・・・」
「あ、でもお姉さんだからひー姉ちゃんだね!」
「・・・・・・」
私は聞きなれない呼び名に軽い戸惑いを受けた。
これからその名で呼ばれるのだろうか?・・・まぁこの子の笑顔が可愛いからいいけど
(って、何考えてるのよ!)
あぶないあぶない、流石福神。
福神の笑顔は周りを幸福にさせるという幸福の象徴である子供の笑顔の中でも、最上級の破壊力だ。
というか、神は見た目と年齢が一致しないんだから私のほうが年上というわけでもないんじゃないかしら?
「ねぇねぇ、ひー姉ちゃん」
「な、何かしら?」
「ところで結局何していたの?」
縁がさっきまで私が手を浸していた川を指して尋ねてきた。
「あぁ、厄を回収していたのよ」
「川で?」
「そうよ」
随分当たり前の事を聞いてくる。
もしかすると本当に見た目どおり若い神なのかもしれない。
「私の仕事は厄落としで落とされた厄を、再び人間に戻らないように回収することなの。厄落としには燃やす、物を落とす、お払いとかがあるけど、私は流し雛の神だから水に流された厄が一番とりやすいのよ。もともと厄払いと水は相性がいいしね」
「ふ~ん」
「それより、私そろそろ行こうと思っているんだけど・・・」
「どこに?」
「え、他の厄を探しによ」
「じゃあ僕もついていっていい?」
「はい?」
縁が急にそんな事を言ってきた。
私がどうしようか悩むと、縁は眼をきらきらさせて顔を覗き込んできた。
「僕、まだ若いからひー姉さんのを見て勉強したいんだ。ね、いいでしょう?」
いや、そんな眼をしても・・・
「・・・」
「・・・」
あ~もう、可愛いわね!こんちくしょう!!
「・・・邪魔はしないでよね」
「うん!!」
(負けた・・・)
私こんなキャラじゃなかったはずなんだけど・・・?
結局縁は私にこの後も付きまとうことになった。
どうも、気に入られたらしい。
四六時中というわけではないが、暇さえあれば私を探して、見つけたらずっと私と一緒にいる。
いままで近くに誰かをいさせたことがあまり無い(厄を身に纏わせているので当たり前だが)ので、なんか変な感じがする。
それに比べて縁は始終楽しそうだった。
(まぁ、神としての性質もあるんでしょうけど・・・)
そのまま逆に自分はどうなんだと考えてちょっとだけ凹んだ。
「ねぇひー姉ちゃん」
「・・・何?」
縁が服の裾を引っ張ってきたので、私は水に浸していた手を引っ込めて縁の方に向く。
「なんでこんな辺鄙なところで厄を集めているの?」
「辺鄙って・・・」
確かに私が普段厄を集めているのは誰もこなさそうな川の下流だが、そんな風に言われるのはちょっとと思う。
「あのね、川の下流じゃないと厄が流れてこないでしょう?」
「でも、もっと人里に近いところのほうが何かの拍子に厄が岸に着いたりしなくていいんじゃないの?」
む、確かにそうなのだがそうとも言っていられない理由がある。
「いい、私は厄神よ?あまり人に近づいたら集めていた厄が人に戻っちゃうでしょう?」
「む~」
(あ、むくれた顔も可愛い・・・じゃなくて!)
「なにむくれてんのよ?」
「だって、そうすればひー姉ちゃんと一緒にお仕事できるんだもん」
そう言って唇を尖らせながら上目遣いでこちらを見る。
「・・・」
―――バシャンッ!!―
「え、どうしたのひー姉ちゃん!?急に頭から川に突っ込んで・・・」
「・・・なんでもないわ」
髪から雫を滴らせながら視線を合わせないように答える。
(言えない・・・あまりにも可愛かったから一瞬理性が飛びそうになったなんて)
最近いろいろとまずい気がする。
主に自分の立場とかアイデンティティーなんかが・・・。
(私・・・大丈夫かしら?)
厄と一緒についたため息もついでに流してくれないかしら?
あ、でも結局自分に戻ってくるのよね・・・不毛だわ。
「ひー姉ちゃんどうしたの?なんか考え事?」
「まぁそうね。でも大したことじゃないわ」
大量の福を回りに纏わせている縁を見て、何となく羨ましくなったのは自分の神としての矜持が足りないせいだろうか?
(・・・ってそういえばこの手があったわ)
「ねぇ縁、私と一緒に里に行きたいの?」
「うん!」
「そう。なら一緒に行きましょうか?」
「え、本当!?」
縁の顔に笑顔が一瞬できたが、すぐに曇りだし悩むように顔を下げる。
「でも、そうするとひー姉ちゃんの厄が・・・」
「それなら、縁が一緒なら大丈夫よ。見てなさい」
私は厄を少し前にゆっくりと放った。
放たれた厄はしばらく前進した後、こっちに戻ってきた。
いや正確に言えば縁のほうによってきたのだ。
「ほら、厄は福神に吸い寄せられるから貴方と一緒なら他の人間に厄が行くことは無いわ」
「じゃあ、一緒に里に行けるんだね!?」
「そうね」
「やった~!!!」
縁が満面の笑顔で抱きついてきた。
私が里に行く本当の理由は、流れてくる厄が最近変化した原因を調べるためなんだけど・・・うん、まぁこれも役得ということで。
厄を溜め込んでいないときにしかこれないため、人間の里にくるのは非常に久しぶりとなる。
昔から変らない喧騒に変化がるとすれば・・・
「随分と人外が馴染んでいるわね」
通りを見渡せばちらほらと人以外の姿が見受けられる。
そして誰もそれに対して奇異な眼を向けたりしない。
そういう自分達も見た目はともかく(耳とか尻尾とか無いし)雰囲気は明らかに人外なのに、特に誰も注意を向けてこない。
(悪いことではないんだけど、何か違和感があるわね)
この感情も取り残された者達特有の感傷なのかしら?と、益体もない事をつらつらと考えつつ、街中を縁と歩く。
「~~♪」
縁は繋いだ手を振りながら機嫌良さそうに歩いている。
・・・いや、私から繋いだわけじゃないわよ?
縁の方から求めてきたんだから。
私も最初は渋ったんだけど、縁が悲しそうな眼をするもんだから・・・。
あの眼をみて拒絶できる人なんていないわ!!(いや、まぁ私は神だけど)
というか、私は誰に言い訳しているのかしら?
「はぁ」
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないわ」
ため息をついた私を心配そうに覗き込んできた縁に、私は苦笑を返す。
「そういえば縁は里によく来るのよね?」
「うん」
「この里の事を良く知っている人ってわかるかな?」
私の本来の目的は厄の調査であって、縁との散歩ではない。
その為、里の中で起きた事件などを知りたいのだが、生憎里と距離を置いていた私には情報を得る手段が乏しい。
そういった意味でも縁と一緒なのは都合が良かった。
縁は私の質問にちょっと考えた後(考えている顔も可愛い・・・って違う!!)、誰か思い当たったようで一つの方向を指差した。
「こっちにこの里で起きたことなら殆ど知っている人がいるよ!」
「本当?じゃあ連れてってくれる?」
「うん!!」
そういって、縁は私の手を引っ張りながら先導していった。
着いた先は里の寺子屋だった。
丁度お昼休みらしく、寺子屋の周囲では子供達がはしゃぎまわっている。
縁がそれを見てちょっとそわそわしていた。
「・・・別にあの子達と遊んできていいのよ?」
「ううん、今日はひー姉ちゃんのえすこーと役だからひー姉ちゃんと一緒にいる」
「そう?ありがとう」
私は縁の言葉に微笑みながらその頭を撫でる。
縁は頭を撫でられて嬉しそうだったが、私の精神はそれどころでは無かった。
(あぁもうっ!本っっ当にっ可愛いわねぇっっ!!どうしてくれようかしら!!!)
いろいろとヤバイことになっている精神を押さえつけるのに、拷問を耐える並みの気力を消費する。
というかそろそろ手遅れになってないかしら、私・・・?
そんな葛藤には気付かず、縁は手を引いて寺子屋の中に私を案内した。
寺子屋の中では、青い服を着た女性が何か書き物をしていた。
(あら?)
その女性の発している独特な気から、人間と何かの血が混じっていると見えた。
「おや、客人か?」
女性が私達の気配に気付いてこちらを向く。
「しかも神々の方がこのような寺子屋にどのような御用で?」
さらに、私達の発している神気から私達が八百万に名を連ねる者だと感づいたようだった。
「始めまして、私は鍵山雛。厄神をやっているわ」
「僕は吉祥縁。福神だよ!」
「私は上白沢慧音と申します。ここで教師のようなことをしています」
お互い名乗り合うと、女性=慧音は私達に座るよう誘った。
私達が腰を下ろすと、慧音は居住まいを正してこちらを向いた。
「さて、八百万の神々が二柱もこの寺子屋にいらした訳はどのようなもので?」
「最近、この里で大きな災いが無かったかしら?」
「大きな災い?」
「ええ、事故とか事件とか、病気なんかでもいいわ、とにかく良くないことが起きてない?」
「そうですねぇ・・・事故とか病気なんかの話はありますが、一体どうして?」
「私は厄神として川に流されてきた厄を回収しているのだけど、最近大きな厄がよく流されてくるようになっているの。それで原因を調べたくてね」
「なるほど、わかりました。ちょっと待っててください」
そう言って慧音は少し席を離れると、紙と筆を持ってきて何かを書き出した。
「これが最近起きた事件、事故、病気です。横に書いてあるのが日付と場所、そして被害者や患者の住所です」
「なるほど。これ、かりても良いかしら?」
「いえそのまま差し上げます。どうぞお持ちになってください。その為に書いたわけですし」
「そう、ありがとう。わざわざすまないわね」
「いえいえ、里の者が平和に暮らすために手を貸すのは吝かではありませんし」
「じゃあこれからここに向かうの?」
今まで黙っていた縁が紙を覗き込んで聞いてくる。
「ええ。それじゃあ邪魔したわね。」
「これからも頑張ってください」
「ばいば~い!」
私達は慧音に別れを告げ、寺子屋を後にした。
慧音に教えられた場所や住所にいってみると、確かに大きな厄が溜まっていた。
私は溜まった厄をある程度集めながら回っていった。
しかし、呪詛やら病鬼といった厄を増加させるようなものは見当たらなかった。
(まぁ当然といえば当然かしら?)
呪詛にしては発生原因や場所がバラバラすぎるし、里全体を覆うような呪詛なら誰かが(それこそあの博麗の巫女なんかが)発見するだろう。
病鬼に関しては、そのほぼ全てが地下に追いやられているわけだし。
(たまたま厄年の人間が多かっただけ?でも年齢的にもそれはありえないし)
「んぅ~~~」
「どうしたの、ひー姉ちゃん?」
難しく考え込んでいる私の傍らで、お菓子の袋を抱えた縁が聞いてくる。
因みに今舐めている飴はもらい物である。
縁と一緒に歩いていると、どうもいろんな人から物を貰うのだ。
最初は駄菓子屋をものめずらしそうに見ていた(残念ながら特定の社などを持たない私達は人里で使われる金の収入源がない)縁に、駄菓子屋の主人がただでお菓子をくれたことから始まり、いろんな人から飴とか麩菓子などを渡されていく。
一つ一つは少ないのだけど、行く先々で貰うものだから結構な量になった。
どうも、お菓子を幸せそうに食べている縁を見て、もっとあげたくなるらしい。
それはともかく、私は難しい顔を解いて縁の方に向き直る。
「いえ、結局わからずじまいだなぁと思って」
「ひー姉ちゃんのお仕事のこと?」
「そう」
縁には里に来る前にちゃんと私が里に行く理由を話してある。
でないと縁は私との散歩に夢中になりそうだし、私もそれを止められる自信はない。
「そういえば、どうして厄を全部とっていかないの?」
縁が私の仕事ということで思ったのか、そんな事を聞いてきた。
「う~ん、前にも話したと思うけど私は流し雛の神だから水に流された厄じゃないと上手く吸い取れないのよね。あと、厄っていうのは大きければ大きいほど全部とってはいけないのよ」
「そうなんだ?」
「ええ。あんまり一気に厄を吸い取るとそれに反発するように再び厄がきたりするのよ。だから一気にとらないで少しだけ残して厄をとるの」
「ふ~ん」
「ふ~んって、貴方もそこらへんの仕組みは知っているでしょう?」
縁の言葉を聞いて、私は嫌な予感がした
「ううん」
「ううんって・・・貴方普段はどんな風に仕事をしているの?」
「えっと、こうだよ」
――招福『福神の現世利益 ―増益―』――
そう言って、縁は目の前を通りかかった男性にいきなり大量の福を与えた。
すると、その男性に向かって別の女性が寄って来て何かを言った。
どうも男性の妻らしく、家の床下からかなりの量のお金が出てきたらしい。
それを聞いて男性はその場で大声を上げるほど驚いていた。
「まずいっ!」
それを見た私はすぐさま周りの厄を集めた。
――疵痕『壊されたお守り』――
私は厄の一部を男性に向かって投げた。
すると男性の立っていた軒下の瓦が急に崩れだし、男性を襲った。
幸い頭に直撃はしなかったが体中に瓦の攻撃を受け、酷くは無いとはいえ男性は傷だらけとなってしまった。
それを見て周りの人間がざわざわと集まってくる。
「あ、ひー姉ちゃん、なんでそんなこと・・・」
「縁!!」
文句を言おうとする縁に私は鋭い声で叱った。
そして縁を連れてそこを離れた。
里から離れると、私は縁に対して今まで向けたことの無い厳しい口調で問い詰めた。
「縁、貴方何をしたか判ってる!?」
「えっ、あの人を幸福にしようと・・・」
始めてみる私の厳しい剣幕に、縁はしどろもどろになりながらそう答えた。
「だったらなんであんな量の福を一気に渡したの!?」
「だって沢山福があるほうが幸せになれると思って・・・」
「貴方、禍福は糾える縄の如しって知っているでしょう?」
「え、何、それ?」
「・・・」
私はその言葉を聞いてこの子が本当に何も知らないという事を知った。
そしてここ最近の厄の異常の原因もわかった。
「あなた、本当に何も知らないのね」
「?」
急に険しい表情を戻した私を見て、縁が怪訝な顔をする。
「縁、よく聞きなさい。これから言うことは私達禍福を司る神々にとってとても大事で基本となることよ」
「う、うん」
私は膝を折り、縁と向き合うと真剣な表情で喋り始めた。
「まず私達が扱っているのは厄と福とか呼ばれるものだけど、これらは基本的に同じものなの。ただ、その方向性が違うだけ」
「うん」
「私達の扱っている禍福は、ある種の運命みたいなもので一時の幸運や悪運と違ってその後にも影響を与えるの。運気とも言われる事もあるけど、まるで水に起きた波のように上昇と下降を繰り返そうとするの。私達の仕事は、その波を出来るだけ起こさないようにして水面を上昇させることなのよ。ここまではいい?」
「うん」
「縁のしたようにいきなり福を与えたりするのは、水面に大きな波を作るようなものなの。確かに一時はいいことがあるけど、その後それを埋めるように大きな厄が降りかかりやすいのよ。もちろん、全ての場合がそうじゃないけど、大きな福と大きな厄は互いに引き寄せられるようになっているわ。ほら、私のまわりに渦巻く厄と貴方の福は互いに引き寄せられているでしょう?」
「・・・うん」
縁は私達のまわりにある厄と福を見て、頷いた。
「だから大きすぎる厄払いと招福はむしろ逆の結果を及ぼしかねないの」
「じゃあ、ひー姉ちゃんがさっきの人に厄を移したのは・・・」
「そう、厄を先にある程度纏わせることで、その後に来る厄が大きくならないようにしたのよ」
「・・・もしかして最近ひー姉ちゃんが言っていた大きな厄って」
「おそらく貴方の招福が原因でしょうね」
それを聞いて縁は俯き、肩を震わせた。
「縁・・・?」
「ヒクッ・・・ごめんなさい。ヒッ、僕のせいで、いろんな人に迷惑を・・・ヒクッ」
縁は俯いて涙をポロポロ零しながら謝った。
「これじゃあヒクッ、僕、ヒクッ福神失格だよね・・・」
「・・・」
縁がしゃくりあげながらそう言うのを見て、私はその頭を柔らかく抱き締めた。
「確かに今の縁は福神としては駄目だけど、ちゃんと知識を得たんだからこれから頑張ればいいのよ」
「・・・ひー姉ちゃん」
「ほら、私も一緒に頑張ってあげるから」
私がそう言いながら背中をぽんぽんと叩いてやると、しばらくしてしゃくりあげる音が聞こえなくなりこくりと縁が腕の中で頷いた。
「うん、じゃあ取りあえずはさっきの寺子屋に行って、全部説明しましょう。どうも人間から信頼ある者みたいだから、いろいろ対処の方法を頼めるでしょう。福神としての修行はそれからね」
「・・・うん」
私は縁の手を取って、里の方へと向かった。
そして里へ行く途中、縁に向かって少し真剣な表情でこう伝えた。
「言っておくけど、修行は容赦しないからね。場合によっては人間にとってとても危険なことになるから」
「うん、大丈夫。僕頑張るから」
「そう」
縁の言葉に私は微笑みを浮かべた。
・・・まぁたまにはこんな日々もいいでしょう。
続き待ってます
気に入っていただけた方もおられるようで非常に嬉しいです。
これがシリーズ化するかは判りませんが、どうぞよろしくお願いします。
オリキャラがいい味出してる
ショタに目覚めないか不安になった
福、の間違いかな?
オリキャラが上手くなじんでいて良いと思います。