神社。
神聖で厳粛そうな神社。
でも何故か妖怪の集う気安い神社。
ちなみそこ巫女は上着をはだけて、さらしを見せつけるような状態でかき氷を食べていた。宇治金時、あんこ多め。少し贅沢な感じ。
「……そういえば、朝食がまだだったわね。トーストでも作ろうかしら」
かき氷と食べ合わせが良くなさそうである。
そんなことを考えながらぼうっとしていると、神社へ続く階段を上る足音が聞こえた。
「んー?」
目をやれば、揺れながら視界に入る日傘。
「あぁ、レミリアと咲夜か」
怠そうな目でそっちを見る。暑くて怠くて暇なので、無意識に動きのある方向をジッと見てしまう。
ゆらりゆらりと揺れながら、傘は日の出のように上り、それを持つ従者、その従者を連れた主とが続けて霊夢の視界に収まった。
「霊夢。遊びに来たわよ」
低めの声と、嫌らしく口の端だけで笑う吸血鬼。
「お疲れ、咲夜」
「えぇ。今日は暑いわ」
レミリアを無視して会話。
しかし、そんな二人を気にすることなく、レミリアは咲夜から傘を受け取ると、とてとてと駆けてきた。表情に威厳を保ち、
「霊夢ー」
続けられずふにゃりと和らいだ。表情が人なつっこい笑顔に変わる。
が、レミリアが霊夢にインパクトする直前で、レミリアは急停止した。和らいだ顔は、その瞬間に硬直する。
「久しぶりね、霊夢」
レミリアの想定では数秒経たず自分が収まるハズであった位置に、たった今見知らぬ誰かが現れ、あろう事か想定通りの位置に納まったのである。
薄いピンクの服に大きめの赤いリボン。そして、レミリアと対を成す様に生えた白い翼。
「……暑い」
見知らぬ相手に霊夢の見せる、レミリアの想定通りの態度。
霊夢を取られた。
そんな思いに、レミリアの血の気が一瞬引いて、次の瞬間沸騰した。
「……誰、貴様」
沸騰すると逆に落ち着く辺りさすが吸血鬼と言うのだろうか。
霊夢に抱きつく誰かは、レミリアを無視して霊夢に頬ずりをする。レミリアは怒りからか、ニヤリと笑って溜め息を吐く。
「霊夢、それ、誰」
「あぁ、これ?」
怠そうな霊夢がレミリアの言葉に反応した。
「これって酷いわね」
不満そうに頬を膨らませると、霊夢にギュッと抱きつく。
レミリアの手が力の入れすぎでビクリと跳ねた。
「姉さん。勝手にどんどん行かないでくれないかな」
咲夜の後ろから、新たに境内へ現れるメイド服。
「見知らぬ顔ですね。どなたです?」
「私もあなたを知らないけど。まぁいいか。私は夢月、あっちは姉の幻月。以後お見知りおきを」
「これは丁寧に。私は咲夜。あちらは私の主です」
「あ、本物の従者とお嬢さんなんだ」
「あなたは従者の格好をしているだけなの?」
「そうなのよ。姉の趣味でね」
「大変そうね」
「お互い様じゃない?」
従者みたいな妹と本物の従者とが、なんか通じ合っていた。
一方、幻月は霊夢にギュッと抱きつきながらレミリアを睨む。レミリアは心底憎々しそうに幻月を睨む。
渦中の霊夢は嫌そうに、また怠そうにもがいていた。暑苦しいのである。それでも残り少ないかき氷を食べる手は止めない。
「殺すわよ、どきなさい悪魔」
「夢月が一緒にいれば私は一人前。絶対にあんたなんかに負けないよ」
「へぇ」
そこで二人の周囲に殺気が漂い始める。
が、次の瞬間、二人の殺気が止まる。
驚きに目が見開かれ、二人はお互いの唇を見つめた。
その沈黙の中で、最初に口を開いたのは幻月だった。
「そう。あなたもなのね」
「ふふ、どうやらあなたも。奇遇ね」
二人は楽しげに笑う。表情こそ変わらないが、殺気はずっと薄まっている。
「で、好き?」
「えぇ、大好きよ」
「そう」
幻月は霊夢を放し、縁側を飛び出すとレミリアの眼前に降りた。
霊夢はようやく一息吐けた。
目の前に幻月が降りると、レミリアは威圧するように言う。
「私は一瞬よ。差し込んでほんの少しでお終い」
「あら、残念。そこは気が合わないわ。私は突き入れたら百回は掻き混ぜるわ。とろっとろになるまでね」
似て非なる。
それが楽しくて、二人笑う。
ことこの趣味に関しては、ピッタリ一致することが希少な為、比べたくなるのだ。
「勝負する?」
「いいわよ」
二人の自慢をぶつけあう。
好みの、納豆の食べ方を。
ビシリと幻月を指差して、レミリアは挑戦状代わりの言葉を叩きつける。
「私、レミリア=スカーレットが味勝負を申し込む」
「いいわ。この幻月が受けて立つ。勝った方が霊夢をいただくのね」
「……そんな勝負で左右される私の身柄……」
元々高くない霊夢のテンションが下がる一方だった。
「咲夜。今すぐ此処に納豆を用意なさい」
「それ私にとっては極刑なんですけど」
「ちぃ、使えない」
「泣いて良いですか?」
「夢月、納豆と調味料の用意はできてる!」
「できてないけど、買ってくる?」
「いいわ、霊夢に借りるから」
霊夢が近年で一番嫌そうな顔をした。
そんな表情を気にすることなく、幻月が霊夢に近寄って訊ねる。
「ねぇ霊夢。調味料はこっちで用意するけど、納豆ある?」
「あるけどさ、ここでやるの?」
「うん」
色々諦めた。
「判った、持ってくる」
「丼でね」
「そう、丼で」
納豆好き共が贅沢を云う。
納豆嫌いの咲夜が酷く引き攣った顔を浮かべた。が、放置される。
不承不承二人分の納豆を用意すると、霊夢はついでだと、遅めの朝食の準備に台所へと引っ込んでしまった。
霊夢が納豆を持っくるまでの間に、夢月と咲夜はお互いの納豆を彩る材料を用意し終えている。
もうこの時点で、勝負内容は混ぜるだけだ。
というわけで、あまりすることないということもあって、レミリアはなんとなく語りを入れて雰囲気を演出してみる。
「納豆。それは刀を抜いた侍がそのおいしさに納刀してしまうという故事から納刀がなまって納豆となったというわ」
「※嘘です」
従者が瀟洒だった。
「なるほど。当然な話だわ」
「姉さん、信じないで」
納豆好き過ぎる二人が手に負えない。
そう思ったので、従者コンビがお互い寄り添うことにした。
開口一番、夢月が疑問を投げかけた。
「ところでこの二人、なんであんなにあの巫女を狙ってるの?」
「あぁ、それはきっと、みんなから好かれてる霊夢を独り占め出来たら威張れるから、とかじゃないかしら」
「子供かっ」
「手に負えないという点では子供ですよ」
二人が盛大に溜め息を吐いた。
その溜め息の間に、姉と主は納豆を作成し終える。
改めて言うが、混ぜただけ。
「見なさい。これが私の好物の一つよ」
納豆に、ネギ、オクラ、キムチ、ゴマ、とろろ、更に鰹ダシで割った醤油を加えて完成。納豆が主役なのが判るように、どれも少な目である。
「えらく贅沢に入れたのね。でも、品目が多ければ美味しいわけじゃないでしょ」
「食べてから論じなさい」
「それもそうね」
自信たっぷりのレミリア。しかし、その自信に挑む様に、幻月もまた自信に満ちた目で見返す。
「でも、あなたの入れたものはありきたりすぎるわ。甘過ぎるのよ。私の納豆はこれだわ」
「な、何!?」
レミリアが驚きに声を上げる。
苺ジャムin納豆。
「……あんたの方が甘そうじゃない」
「姉さん、それ人前でやると引かれるっていつも言ってるのに……」
咲夜が盛大に引いていた。
さて、判定に移る。ジャッジするのはお互い。相手の用意した納豆を食べ、どちらが美味いのかを判定するのだ。
二人の用意した丼が縁側に置かれる。先程まで霊夢の居た位置だ。
ご飯はない。ただ、納豆だけを食べる。
まずは幻月がレミリアの用意した納豆を口にする。
「ん!」
幻月は唸った。
「美味しい。贅沢に色々入ってるくせに、量のバランスが良いのか、潰し合ってない。やるじゃない、伊達じゃないのね。でもそうね、私ならこれに粉チーズを加えるわ」
「なるほど、参考にさせて貰うわ」
不敵に笑うレミリア。
しかし、この時点でも幻月は勝負を捨てていない。目はまだ輝いている。
幻月が納豆を完食すると、続いてレミリアが幻月の納豆を食べる。
「こ、これは……」
レミリアは目を剥き、思わず真顔に戻る。
「悪くない。匂いだと違和感が強いけど、味は確かに悪くない! まだまだ荒いけど、この挑戦には確かに敬意を表するわ」
「ありがとう」
満足そうに幻月は笑う。
お互いに譲れない。けれど、確かに相手のも興味深かった。
「このゲーム、どうする?」
「ドローゲームじゃつまらないわよね」
真剣に悩む。ただ、勝敗をお互いにつけたくなかった。
そこに、霊夢が戻ってくる。
今日の朝食を持って。
「え、霊夢!?」
「それっ!?」
手にしていたのは、トースト。そして、その上に乗ってる納豆。
咲夜がまた引いた。
幻月は恐る恐る訊ねた。
「霊夢、あなた、納豆をトーストに?」
「ご飯炊くのが面倒な時はね」
と、幻月が涙をこぼす。
「理解者にようやく会えたわ」
感涙であった。
今まで、トーストに納豆の趣味が通じた相手が居なかったらしい。
「幻月」
「え?」
レミリアが幻月の肩に手を置く。
「納豆、トーストに合うわよね」
「レミリア……あなた」
ひしっと抱き合う。
ここに、一つの友情が芽生えたのである。
これから数日後、里に「歌って踊れるクレープ屋”幻の紅い月”」がオープンし、納豆クレープがブームを巻き起こすことになるのだが、それはまた別のお話。
とっかかりにできる要素がほとんど無い
……実話?
いやいやほのぼのっとしたお話でした。珍しい夢幻姉妹で嬉しかったです。
当初はそれが最大の目的だったのになぁ
霊夢さんは旧作とwin版のキャラを繋ぐ橋渡しにぴったり。これぞ博麗の縁
余計ない諍いも生み出しそうだけどw
自分もよくやります
個人的に好きなのは挽き割り納豆にタマネギを刻んだのと卵
…邪道ですかそうですか
レミィも幻月姉さんもかわいいなぁ。
卵は入れない
他は麺つゆと混ぜて素麺や冷し蕎麦のタレにすべし。
さて明日は納豆クレープに挑戦ですね。
そしてワサビは邪道ですね、わかります
納豆混ぜるのだるい→混ぜなくてよくね?
→納豆じゃなくてもよくね?→米だけでいいや
食えなくはないけどうまくはない。
ていうか、これが朝ごはんて
「納豆inトムヤンクンラーメン」はタイと日本の神的融合!
「納豆inチヂミ」はまさに日韓融合の味だ!
でもジャムは…………、…試す勇気がない……。
あー納豆くいてぇ
ある?