(注)彼女でなけりゃ〈前編〉から続いていたり、俺設定が含まれています
「――さて!今日は張り切っていくわよ!」
今日の魔理沙と紫はまるで対照的だった。紫はなにか良い事でもあったのかとんでもなく張り切っていて、一方の魔理沙は目の下を黒くし、負のオーラをギンギンと放っていた。
例えるとすれば甘い紅茶と、茶葉と間違えて草で淹れた緑茶ほどの違いが見れた。
「だるぃ。まさか環境が少し変わっただけでこんなに眠れなくなるもんだとは思わなかったぜ…。」
「おやおやぁ!?魔理沙ぁ!?元気が無いわねぇ!?」
「お前…誰だよ…。なんかキモいぞ…。」
「もぅ…なによ。折角魔理沙がブラックなオーラを出してたから元気づけようと思ってたのに…。」
「ババァの気遣いなんていらねぇよ。」
「口が悪いわねぇ。橙の前でそんな事言わないでよ?もし橙が『~ぜ!』とかいう語尾になったら藍が色んな意味で飛んでいくわよ?」
ちなみにこの今日は、式神らと魔理沙が同じ部屋で寝た次の日のことだ。
二人は今、とりあえず紫が「吸血鬼に頼み事があるわ~」と言ったので紅魔館へと向かっている。隙間は使わず、ふわふわと飛びながら移動しているようだ。
だらだらと飛んでいると紅い家が見えてきた。
「で、いい加減その頼み事?を教えてくれよ。」
「あとで教えるわよ。あなたは適当に図書館にでも行って聞き込み調査でもしてなさい。」
「わかったよ…。」
――……――
「――それで?結局話しは通じたか?」
「ええ。とりあえず行動を起こしてもらえるらしいわ。私達はとりあえず神社に行ってみるわよ。…そういえば何か情報は掴めたかしら?」
「いいや、それが…なんだかーっ、えーと、作業中だったから聞けなかったぜ。もきゅなんとかって…。」
「作業中…?まあいいわ。移動するわよ。」
例によって博麗神社へと着いた二人だったが霊夢の様子はそのままらしい。ただ先日とは違うのは、人間の参拝客を迎えていた事であった。どうやら御祓いをしている。という所だろう。魔理沙は聞いていては到底分からない言葉の羅列を耳に入れて(ありえねぇ、仕事してるし)とふと考えていた。
「見た感じお前の予想通りだな。」
「…そうねぇ。いつ予想したかは分からないけど無事に信仰が集まってきているみたいねぇ…。まぁこれ以上近づくと気付かれるから近づけないから面白くないところね。」
「ああ?なんだよ?今日は霊夢の監視で一日を終えるのか?」
「…直に分かるわよ。」
少し風が吹いてきたらしい。森が揺れていた。
「…参拝客も一段落したみたいだな、お茶淹れ始めたぞ。」
「そうみたいねぇ…。そろそろ始まる頃かしら。魔理沙、少し森の方見てみなさい。」
「森?なんでだ?…っ!!」
「これで少しはなにか変わった様子が出ればいいんだけれど…。」
博麗神社のはるか向こう。少しづつ空間が蝕まれていくように暗くなっていた。いや、紅くなっていた。
「紅い…。暗い…。寒そう…。…レミリア?もしかしてお前…。」
「ご名答。といったところかしら。」
「あんなでかい屁をこきながらここまで来てたのか…?」
「違うわよ!!少女の私はそんな下品なことしませんわ!…あの紅い霧について言ってるのよ。」
「あぁ、レミリアだなあれは。ひょっとしてお前あれか?さっき寄って来たのって。」
「あの吸血鬼に「もっかい異変を起こして頂戴。霊夢が少しいかれてるから」って言ったのよ。さすがに一発で話が通じたから手間が省けてよかったわ。」
「もう一度異変を起こしてどう動くか…か、おもしろそうだぜ。」
「まぁ少しでも前の事を思い出してほしいっていうのが趣旨なんだけどね。」
前回の紅魔異変は例によって、霊夢の勘の良さを生かし、並み居る敵をなぎ倒し、ほぼ実力行使で解決したが、現在の霊夢はあの性格故に弾幕を放たないだろうという予測を紫が立てた。つまり現在の霊夢は攻撃手段がないため、ただ空を飛ぶ女の子というわけである。だから霊夢が異変解決に乗り出すかどうかも怪しいところなのである。
紫は先ほど紅魔館に寄った際、『前回の異変と同じような形で行ってくれ』といった注文をレミリアにしていたので、屋敷まで行くのも苦労するだろうという見解を立てていた。
――一方同じ頃博麗サイドでは、縁側に座り巫女がお茶をすすっていた。
「今日も良いお天気ですねぇ。これだけ陽気ですとお昼寝でもすると気持ち良さそうですねぇ…。」
お茶をすすりながら独り言を言っていた。
「――ん?森の方が…。」
遠くの空の色が明らかに異色だったのが見えた。
(あちらはたしか…紅魔のお屋敷がありましたよね…。という事はレミリアさんですか…。少し話しをする必要があるようですね…。)
博麗霊夢は啜っていたお茶を片付け、ふわふわと空へ飛び立がった。当然、行き先は紅魔館である。
「――紅魔館に行ったみたいだな…。一応異変解決には乗り出すみたいでだぜ?」
「そうね。まぁ前回と同じようにしてくれって言ってあるから、ルーミアとかチルノに襲われるはずなんだけど…。ただ今の霊夢は『防御』の面に関してなら多分幻想郷一のはずだから、どうやって彼女らを説き伏せるかって所でしょうねぇ…。」
「追うだろ?」
「追うわよ。」
魔理沙らも紅魔館の方角へと飛んでいった。
――――博麗霊夢は紫の予想通り、歩く鋼の鉄壁だった。
ルーミアから襲撃を受けても一切動じずに例の結界によって避ける事をせず真っ直ぐに飛んで行き、呆けていたルーミアに「あっちにジャムが落ちてましたよ?」「そーなのかー!?」といったようにかわし。チルノが勝負を仕掛けてきたら「あっちに幻想郷最強を名乗っている妖怪がいましたよ?」「何!?あたいを差置いて最強を名乗るなんてゆるせない!」といったような会話をし、美鈴に至っては「あの、レミリアさんに用事があって来たのですが…」「あ、霊夢さん。どうぞどうぞ。ゆっくりしていってくださいね」と襲ってこず(咲夜に言われていた事を忘れていた)。あっさりと紅魔館の中へ入っていった。
魔理沙と紫はその様子を遠くで眺めていた。肉眼では見えないので視覚を霊夢の眼に移す魔法を使っている。
「あれじゃ鋼の鉄壁もクソもないんじゃないか?あっさり突破したぞ?」
「…正直平和ボケしてるみたいねぇ…。いい傾向ではあると思うけど…。」
「次はパチュリーか…。」
霊夢はいつぞやの異変同様、パチュリーと対峙して、霊夢の結界を見たパチュリーがとりあえず攻撃してみたが魔理沙同様跳ね返され、様々な弾幕を繰り出したがやがて力尽き、霊夢の「ジャンケンで勝負を決めましょう?」という提案に乗っかり、あっさり霊夢の強運に敗れた。そして咲夜は外出していた。
「なんだよあいつら…まったく戦えてないじゃないか…。パチュリーに至っては霊夢に攻撃してるのにまったく気付いてもらえてないじゃないか…。咲夜なんて屋敷に居すらしないじゃないかよ…。」
「まああの吸血鬼さえ居ればもんだいないわよ。」
「そんなもんかねぇ…。」
霊夢はあっさりとレミリアの前に立っていた。
「あら、霊夢?紅茶でも飲むかしら?」
「いえ。今回はあの霧をどうにかしていただきたいのです。」
「幻想郷が暗くなれば私としては昼夜ともに行動できるようになるから嬉しいのだけど…。まぁいいわ、なら私を力づくでも説得してみれば?」
「では失礼します。」
その瞬間、霊夢に大量の弾幕が放たれた。霊夢の異変を存分に感じながら。
(あれが霊夢ねぇ…。聞いてはいたけど普段の霊夢から考えるとかなりキモイわねぇ…。)といった事を考えながら。
「紅符「スカーレットシュート」!」
ところが博麗霊夢には効果がないようだ…。
「神術「吸血鬼幻想」!」
ところが、不思議な力ではねかえされた!
「紅符「不夜城レッド」!」
レミリアの攻撃は霊夢の目前ではねかえされた!!!!
「これは確かに…紫が困るはずね…。…あれどこ行ったの?」
霊夢はいつの間にかレミリアの目前まで歩いてきていた。一切の弾幕も放たずに、手が届くほど近くに。
「そ、そんな。私が気付けないなんて…。そもそも『避ける』一辺倒だけでここまで出来るなんて…。」
「レミリアさん。攻撃を辞めて頂けますか?」
「ふっ、ふん!しないわそんな事。なめられたままじゃ終わらせない!」
「そうですか、でわ。」
その瞬間、霊夢の手より轟音が響いた。とても耳に残る、ありがちなはり手の音だ。バシィッ!という効果音がよく似合う。
紫と魔理沙に使ったツッコミ同様、レミリアは吹き飛ばされた。一瞬「うー☆」と聞こえた。しかし今度は本気で放ったのか、飛ばされた先の壁さえも破壊していた。
「…もう一度聞かせて頂きます。今回の異変を止めてください。」
「うー、分かったわよぉ。」
レミリアは泣きながら謝った。レミリアは先ほどの霊夢の攻撃により、血を流しながら。
「ちゃんと元に戻すわよぉ。」
霊夢はその言葉を聞いて、にこっと笑い。「ご無礼申し訳ありませんでした」と言いながら懐から手ぬぐいを出し、レミリアの血を拭いた。霊夢はそのまま近くに居た妖精メイドに、「お茶を淹れていただけます?」と言って、レミリアを近くの椅子へと座らせた。
その後は涙を啜りながらレミリアは紅茶を飲んでいた。にこにこと笑う霊夢の目先で。
「レミリアさん?あなたは幻想郷が好きですか?」
「う、うん。私の今の居場所だから…。」
「そうですか…。…私も今の場所を愛しています。周りで笑っている皆さんの笑顔が大好きです。黒い帽子を被った魔女さんも、空間を割る大妖怪さんも、そして偉大な吸血鬼さんも。…正直私は今悩んでいるのです。今までの記憶がなぜかとても無機質な思い出で。実際に起こったことと、まやかしの記憶…。私は昔から悩んでいたのでしょうか…。自分に自信が持てないのです。」
「…霊夢?」
霊夢の前に座っていた紅い吸血鬼の目にはもう涙が溜まっておらず、真っ直ぐに霊夢の瞳を見つめていた。
「あなたは知らないかもしれないけれど、少しだけ前、幻想郷には『英雄』と呼ばれる人間が居たわ。それはそれは無茶苦茶な人間で、…いつもだるそうで、眠そうで、それでいて破天荒で。」
「そんな方がいらっしゃったんですか?」
「すごかったのよ?彼女本人としては妖怪が邪魔と思ってるらしいんだけれどいつも周りでは妖怪が蔓延っていて。みんな彼女に関わると笑顔になって。」
「素晴らしい方…なんですね。でも私は何もできません。誰かを笑顔にすることも。」
「いいえ、もう少ししたらあなたもそうなるわ。そう。素敵な巫女に。幻想郷を支える偉大な人物に。だから自信をもって。私もあなたも今の場所が好き。それだけで私とあなたは同じ土俵に立っているのよ――。」」
「―――無駄足だったよな~。」
紫と魔理沙は、行くあてもなく、フラフラと飛んでいた。
「あの腕力は目をはる程の威力よねぇ。前の非力な霊夢から考えると信じられないわ。実はあの巫女服の下はボディビルダー並みの筋肉がムキムキなのかもねぇ。しかもあれじゃむしろ人外ね…。」
「…ボディビルダーって何だ?」
「そんなことは知らなくてもいいわ。」
「はぁん…。しかし霊夢の異変解決速度が前回よりも異常に速いんだよなぁー…。で、これからどうするよ?正直言って全く考え付かないんだが…。」
「そうねぇ、…私達だけで考えるからいけないのよね、幻想郷各地から力のある者を呼んで色々と知恵を借りてみるかしら。」
「どこぞのSとか薬屋とか山の神だとかか?阿求だとか頭のきれる奴。」
「ええ、私の家に作戦本部を置いてる事だし。それじゃあ宜しく魔理沙。」
「はい?」
魔理沙はきょとんとしていた。きょとんきょとんきょとんと。
「集めてきて。」
「だるい。めんどい。疲れるの三拍子がそろってるから嫌だ。」
「まぁまぁ、私にも色々と準備するものがあるのよ。空間系の魔法を後で少し教えたげるから。外の世界の珍しい菓子もよければあげるわ。」
「…むぅ。分かったよ。行きゃいいんだろ?行きゃ!」
「流石は魔理沙!3秒で話が分かる。素敵!」
「はいはい。で?誰を呼ぶんだ?」
「そうねぇ…意外性のある意見を出してくれる子がいいけど……それじゃあ―――。」
魔理沙は飛んだ。一人の友人を元に戻すため飛ぶのだ。
紫が提示した者達を呼びに。幻想郷の脳を作り出すために。あらゆる異変を解決した英雄を再度叩き起こすために。あらゆる知識人をかき集めた。話す事は苦手な魔理沙だったが、あらゆる手を使って説き伏せたのだった。ええ加減にせぇよとツッコまれた事もあったが、魔理沙は我慢し続けた。
――後日、八雲亭
「さて、今日ここに集まってもらったのは他でもありません。れいむドキドキリバース☆計画についてです。」
「ネーミングセンス最悪だな。」
すぐさま紫に魔理沙がツッコミをいれた。そしてその様子を見た藍が続きを言った。
「ええと、博麗霊夢記憶保管計画についてです。先ほどから説明している通り、現在博麗の巫女である博麗霊夢に重度の記憶障害と性格面への障害、筋力の異常なまでの発達、謎の結界常時発動、そしてありえないほどの空気の読めなさ、ツッコミの鋭さが認められたため、今回は幻想郷の頭脳とも呼ばれる程の知識人の皆様に来て頂きました。」
「後半の二つは正直どうでもいいんじゃないか?」
「だから私はお姫様のお世話が…。」
「というより知識人て私に対しての一般呼称じゃないの?」
「まぁ霊夢には世話になった事だし、少なくとも私は尽力するつもりよ。」
とこのように幻想郷の知識人、基経験を豊富に持っている者らを魔理沙は集めた。
ちなみに上から、慧音、永琳、パチュリー、神奈子の4人である。知識人かどうか分からないものもいるが、紫曰く、発想の面白さも重要なのよ、と言うことらしい。
「ゴホンッ。じゃあそれぞれ思いつく限りの意見をいってもらえるかしら?」
紫が持ち直した。
「じゃあさっきツッコミを入れた順番で話していって。」
「私か?そうだな。実際に魔理沙の記憶を辿ってその霊夢の様子をある程度私は見させてもらった。たしかにあの様子ではむしろ歩く異変だな。表向きではとても良い巫女のようだが、事実、人間としての霊夢はやはり無理をしているようだ。あれほどの結界を常時発動させて維持するには膨大な力が必要になってくるはずだからな。結局は霊夢も人間だ。自分の力にも当然制約があるだろう、あの結界は少しまずい、少しばかりかだいぶ幻想郷にダメージが入るだろう。結界が崩壊したら幻想郷に傾きが現れるだろうからな。」
「同意。」「同意。」「同意。」
「………。」
沈黙。紫はそれを聞いて戸惑った。
「ちょ、それじゃ話し合いにならないじゃないの。」
「でもねぇ…。私としても慧音のその意見と同じでそれしか知らないし…。」
「私は薬師だから知ってる事も限られているのよ。」
「私はそもそも神だし。」
「…。」
その時、玄関があけられる音がした。
「ただいま帰りましたー!」
「しつれいよー。」
「…橙?紫様、少し私外します。」
「ん。」
藍が走っていった。すると玄関には橙だけでなく氷の妖精も居たようだ。
「あっ、藍さま。ただいまです。」
「よー、らーん。遊びに来たよー。」
「チルノか、上がっていってくれ。後で何か菓子でも持っていくよ。」
「うん、ありがと。」
チルノを招きいれ。並んで橙の部屋へと移動している時、対策室の前を通った時。
「何やってんのあれ?」
「気にしなくてもいいんだが…。ってあれ!?どこ行ったチルノ!?」
「藍さま…。チルノちゃん入っちゃいましたよ…。」
「またあいつは余計な手間を…。」
チルノは橙の言ったとおり対策室と銘打たれている部屋へ入っていた。
「何やってんの紫?何かの集まり?あたいも混ぜてよ。」
「チルノ?…そうねぇ。隠す必要も無いから一応教えたげるわ。実はねぇ――…。――という事があってねぇ。」
チルノは珍しく聞き入っていた様子で。その口を開いた。
「うん!わけわかんない!」
「でしょうねぇ…。正直私達もお手上げよ…。」
「あたいが今の霊夢を凍らせようか?ショックでなにか思い出すかも。」
「無理でしょう。」
「バキッと戦えば??叩けばなんかおもいだすでしょ。」
「それはさっき…。」
「それだぁぁぁぁあああ!!!!」
いきなり沈黙を守っていた神奈子が奇声をあげた。
「ちょっ…なによいきなり…。」
「分かったのよ。霊夢を元に戻す方法。」
「はぁ?」「何で今ので…」「え?なになに?今何が起こってたんだ?」「ごめん。聞いてなかった。」
それぞれが反応を示した。
「…霊夢が元のように戦ったり出来るようになればいいんでしょう?」
「それはそうだけれど。でも待って。それさっきやったって言ったじゃないの。」
すぐに紫が異議を唱えた。
「ええ。だからさっきの話から考えて真正面から戦いをしたら確実に意味が無いのよ。『戦う事』だけ思い出させるなら至極あっさりとした方法があるわ。いわゆる破壊と闇と戦いは密接な関係にあるのよ。あの巫女には早苗が親しくさせてもらってるからねぇ…。少しは協力しないといけないわ。」
「……」「……」「……」
それを聞いていた3人は3点リーダを返事として並べた。しかし紫が気付いたように言った。横ではチルノが何故か腹筋を行っている。
「破壊。暗黒。戦い。……黒、黒、黒。神。はいはいなるほど。確かにそれなら霊夢も戦いを思い出すかもしれないわねぇ……。」
「焦らすな。」「時間無いのよ。」「てかあんた誰だっけ?」
と反応を示した。それを見て紫は話を続ける。
「最後の質問が気になったけど・・・・・・。戦いの神。大黒天。マハーカーラとも呼ばれるらしいけど。あらゆる悪鬼と闘う護法の軍神。まぁ外の世界では一部、「大黒様」として幸福の象徴とされているのだけれど。元は『大いなる闇』とかそんな感じの意味を持っているわ。……彼の力を借りて闘いの本能を呼び覚まさせる。それが霊夢を元に戻す鍵になるんじゃないかというわけなのよ。なのよ。」
「……」
相変わらず同じ反応。
「ありがとう皆。もう帰っていいわよ。あ、神奈子は残ってね。それじゃ……解散!」
その言葉を聞かされた瞬間、ツッコミの嵐が紫にふりかかった。(汚い言葉も含まれている為自粛します)
「――おいチルノ…。」
「なに?まりさ?」
「お前、あいつらよりも実は頭きれるのかもな…。」
「あたいの頭は割と頑丈よ?切れるわけないじゃない。」」
「何の話をしてるんだお前は…。」
結局そこにはどこぞの神様と黒い魔法使いと古参妖怪のみが残って、その後のプランを話し合い、発案者である神奈子に計画を委ねた。
「プランは簡単。大黒天の意思を魔理沙に憑依させて、高出力のエネルギーを霊夢にぶつけるだけ。あなたの場合マスタースパーク…だったかしら?」
「ふむふむ。で、何で私がそんなことをしないといけないんだ?」」
「まぁ一応この中では一番火力があるからね。」
「了解。紫もそれで納得な?」
「ええ。ちゃんとやりなさいよ。」
「私を誰だと思ってるんだ。霧雨の魔理沙だぜ?幻想郷で私を凌ぐ火力弾幕を持つのはむしろ盛者だな。そんなの……いないんだよ。だからだ、この任務は責務として私に任せろ。」
「その言葉を聞いて8割安心できたわ。あとの2割はまぁ適当に。」
堂々と胸を張り、博麗神社へと足を向ける、そしてチルノは「さっきのお礼よー」と紫から貰った飴玉を口で回しながらその背中を追った。
――博麗神社。今は文字通り神の使いの巫女が住まう土地。4人、基、神と妖と人と氷がその土地の土を踏んだ。駄弁りながら。
「そういえばその大黒なんたらはどうやって呼ぶんだよー?」
「ん…まぁ強いて言えば……ツテかな。さっき連絡入れといたから。『あっ、申し訳ありません、私幻想郷に住む山の神の八坂ですが……』って感じに。」
「台無しだな。」
「もっと儀式かなにかするかと思うわよねぇ。」
「もしも辛くなったら……あたいをよぶんだぞ!」
「だからお前は何の話をしてるんだっての…。」
刹那、このメンバーの内唯一の人間である魔理沙の背中に悪寒が走った。手元を見ると、何やら肌の色が黒ずんでいる。身に纏っていた衣服も元から黒かったのだが、更に黒くなっている。闇を権化したようなその風貌。言葉通りの『黒魔道士』となっていた。
「あの……何これ?」
戸惑いながら神奈子へ質問をした。
「準備完了。大黒様が到着したのよ。憑依もしたみたいだし。今のあなたは私と同等、神の力を持っているわ。武と闇の大黒天をバックに据えてね。正直言って、今のあなたに幻想郷で敵う者は居ないわ。」
「ふぅん。たしかに物凄い力だな。」
「見事に私は蚊帳の外なのね……。」
「しんぱいするなゆかり。ゆかりのバックにはあたいが据えられている……。」
もう突っ込む気も萎えていた。
「で、私はどうすればいいんだっけ?」
「だから、さっきも言った通り霊夢と闘ってくれればいいのよ。」
「あれ?なんかさっきと言ってる事違うぞ?さっきは弾幕打つだけって……。」
「ささっ、着いたわ。早速やるわよー。」
一行は鳥居の上に降りて、再度霊夢を表に呼ぶ事にした。
「……じゃ、お前らはそこに居ろよ。私一人で解決してやるぜ。」
「頑張りなさいねぇ。」
「血を見たくないならしっかりしなさいよー。」
「なんか背中かゆいなぁ……。」
「……じゃあ行って来るぜ。」
もう時刻は夕刻である。遠くの空が茜色に染まってきた。季節は豊穣肥ゆる秋。その為、魔理沙の背中はいっそう黒く見える。
「おーい霊夢よー。」
魔理沙はその友人の名を呼んだ。
「はぁーい。お待ちくださーい。」
遠くから言葉が返ってくる。
「ああ。魔理沙さんでしたか?今日はどういった御用でしょうか?」
「んー?友人と待ち合わせしてるんだよ。」
「待ち合わせ、と申しますと?」
「昔からの友人でな?しばらく会ってねーんだ。」
「そうでしたか。それではごゆるりと……。」
霊夢は背中を向け、その時だった。ゲームスタートだ。
「恋符『マスタースパーク』っっっッッッ!!!!!!!!!!!!!」
魔理沙は本気もいい所といっていいほどの砲撃を霊夢へと放った。全力全快。だがしかし、あまりの力ゆえ、それが博麗霊夢の最期になったのは言うまでもない……。」
~THE BAD END~
「……………終わんなよ!!!!やめろよ紫!」
このような場面でも笑いと笑顔を欠かさない。やがて八雲紫その人なのである。
「魔理沙……?」
「おお霊夢。元に戻ったんだな。」
「私は一体何を・・・?」
「なんかそういう事言うやつを初めて見た気がするぜ……。」
霊夢は立ち上がる。
「…それじゃあ始めましょうか?」
「随分と好戦的じゃあないか……。どうしたんだ?」
「いつもの事でしょ。」
「いつもの事だな。」
「いつもの事よ。」
距離をとって対峙する。その姿は珍しく燐としている。
「いいのか。私のこんでしぃょんは今最高潮に達しているんだぜ?」
「痛い目見るのはいつだって副主人公なのよ。そっちこそいいの?」
「今の私は神より強いぜ?さながら福主人公だ。」
「ふふん。言ってなさい。」
「じゃあいくぜ?」
「じゃあいこうかしら。」
二人の人は宙に舞う。歴戦の英雄と、神を背中に背負う、ただの女の子だ。それはいつも以上に見えない弾幕ごっこに見える。3つの意味で。
「―――え?なんで戦ってんのあの娘ら?『意味の分かる人挙手~』て言いたい気分だわ。霊夢は元に戻ったっぽいけど。」
「さっきも言ったけれど、今の霊夢は元に戻ってはいるけど非常に興奮状態にあるわ。だからとても強いし、とても好戦的なのよ。」
「私の知らない所で話が動いてるわねぇ…正直理解し難いわ…。」
「――なんかふたりがはなしてると敬老会みたいだな。」
「!?」「!?」
空気は凍る。冷秋だ。
「……何を言ってるのかしらチルノ…神奈子はババァかもしれないけど私は少女よ!女の子よ!」
「いやいや、紫に言われたくないしー。」
「へぇ……幽香とは殺りあったことあるけどあんたとは初めてね…。」
「そうかしら…。」
距離をとって対峙する。その姿は珍しく燐としている。
「いいのかしら。私は幻想郷最強の妖怪よ?」
「痛い目見るのはいつだって古参なのよ。そっちこそいいのかしら?」
「今の私は霊夢が元に戻って目が完全に冴えているわ。さながら本気が出せる…。」
「さながらの使い方…間違ってるわよ…。」
「じゃあいくわよ。」
「えぇ…。」
二つの魂は宙を舞う。幻想郷の妖怪と、幻想郷の神、ただの女の子だ。8つの意味で。
「8つの意味って何かしら?」
「さぁ……?」
「――霊夢よ。今回の勝負の基準は何だ?」
「もちろん、撃墜したらじゃないの?」
「結構曖昧だな。」
「ふぅむ……ならこうしましょう。いつも通りに、弾幕を一発打ち合って、避けきった方が勝ち。」
「なかなか古風な決着がつきそうだ。乗った。」
二人の人間は構えなおす。
「それじゃあ私からでいいかしら?」
「まるで鷹みたいな眼してるぜ?」
「私はどちらかというと人外は嫌ね。人でよかったわ。」
「まったくだ――。」
「ほら。さっさと構えなさい。」
「さっさ。」
霊夢は精神を統一するためか、声にならない声を発している。基呪文を唱えているのだろうか。
「霊符!―――。」
―――結局霊夢は魔理沙に一発も当てられなかったのだった。
「おいおい。これでお前の勝ちは無くなったじゃないか。」
「うざいわよ。ほらさっさと何でも撃ちなさいよ。」
「分かったっての。」
「恋符!―――。」
―――結局魔理沙は霊夢に一発も当てられなかったのだった。
「ええ!?同じ結果だったのか!?」
「何言ってんの魔理沙…。」
「いや……この場合決着はどうなるんだ…?」
「そうねぇ…お茶でも飲んでゆっくりしながら考えようかしら。」
「そうかい。」
「そうよ。」
「まったくだ。」
「は?」
縁側に座る人二人。お茶を霊夢が運んでくる。そしていつの間にか魔理沙の横には氷の妖精が座っている。誰も驚かない。
「あんたは適当に水でいいわね?」
「バカにしないでよ!こーひーぐらい飲めるわ!」
「水ね。了解。」
霊夢はどこに持っていたのかガラス製のコップをチルノの手に握らせた。
「で…結果は出した方がいいのかしら?」
「……そうだ、霊夢よ。少し昔話をするぜ。」
「へぇ?何の話かしら?」
「長いぞ?」
「そうね。」
魔理沙は淡々と語りだしす。
「昔、一人の村娘がいた。そいつはとってもピュアなハートで、『凄く』をつけてもいい位可愛い奴で、周りから普通の村娘として育てられていた。いつしか少女は自分の足で様々な所へ出かけるようになった。川、里、丘、どんな所にでも自分の足を使って歩いて行ったとか。でも、身近に居る大人たちにただ一つ言われていたことがあったんだ。『山へは絶対に行ってはいけないよ。あそこには人間を食べる怖い妖怪がいるからね。』とまぁそんな感じ。当然少女も初めは行かなかったが、ある日、大人たちとけんかをして、反抗したかったんだろう。山へ行った。」
「白熱の展開ね…。」
「何が白熱してるのか分からんが…。とりあえず少女は山に登り、そこで少女の世界は広がった。身の回りのもの全てが新しく、目に星を浮かべて。しかし、大人たちが案じたとおり、妖怪に出くわしてしまった。その妖怪は自分の意思を持たないほどの下等妖怪だったが、普通の村娘には十分すぎるほど恐怖の対象で、妖怪は大きな口をあんぐり開けて少女に迫ってきた。」
「白熱の展開ね…。」
「おまえそれしか言わないな…。その時だ。少女の前に同じ年頃の少女が現れ。思いっきりその妖怪を手に持ってる棒で蹴散らした。文字通り『蹴散らした』。そして少女Bは少女Aに向かって言った。『どうかしら?どこかのお嬢様。私とお友達にならないかしら?私においしいご飯をくれるならね』てよ。――少女はどんなに強くなってもこの目の前に居る少女には一生勝てないと思った。結局その時は顔を真っ赤にして過ぎ去っていったが…。それ以来山には近寄らず、どこぞ森の中で鍛錬を積んだんだとか。そんでもって私は魔女になったわけだ。はい終わり。」
「白熱の展開ね…。」
「もうお前聞く気ないだろ…?」
魔理沙は一応困惑した様子を見せた。
「いやいや聞いてたわよ?あんたのまんじゅうがいつの間にか霊ノ助さんの手に渡っていたんでしょう?」
「どこであいつが出てくるんだよ…。」
「はいはい聞いてたわよ。そもそもあんた、これ完璧に魔理沙の話じゃない――。最期には『私は』って言ってるし…。」
「そうかもな。」
「で?あんたはその話をして私に何を考えさせたいわけ?」
魔理沙は手に持っていたお茶を飲み干して口を開いた。
「私の負けだ。」
「そうねぇ…。そもそも何で遊んでたのかしら…?」
「えー。知るかよそんな事。」
「ねぇ。」
「あ?」
「……今度適当に仕事さぼって遊びに行かないかしら?お嬢さん?」
「…きもいぞ。」
「きもいよ…れいむ…。」
チルノが相槌を打つ。相槌?
「うるさいわよ。行くの行かないの?どっちよ?」
「ももりもっち。行かないとお前のストレスが溜まってまた前みたいな事になりそうだ。」
「あたいもいくー。」
「あんたは駄目ええええええええええええええ!!!!!!!!」
霊夢がいきなり大声をあげた。それに伴ってチルノの目が光に反射して光ってくる。
「なんてね。反対する理由は無いわ。行きましょ一緒に。あんたのバカな所も割と好きだから。」
「あたいばかじゃないもん。」
「最強だろ?うふふふふふふ…。」
「決まりね。適当に人を連れてきてもいいわよ、チルノ。魔理沙も。丁度紅葉も綺麗だし。紅葉狩りでもしましょうかしら?」
いつのまにか宴会の話になっていた。
(…結局なんで霊夢があんな風になってたんだろうな…?ううむ、分かんないぜ…。)
魔理沙の疑問は尽きる事がないだろう。
この一連の事件は後にジャンボ事件(なぜジャンボ事件かというと、特に意味は無いらしい―――魔理沙談)とチルノによって名づけられたらしい。
「―――それで?あんたは何であの巫女の頭の中をいじったのかしら?それとあの巫女に最強の腕力と空気の読めなささと巫女の周りの空間を弄ったあらゆるものから無干渉の結界も。」
「へぇ、分かってたの?」
「そりゃそうよ。第一それを見越していたからこそ私を呼んでいたんでしょう?」
先ほどまで戦闘を行っていた神様と妖怪はこの世のどこかで酒を啜っていた。
「…別になんてこと無いわ。ただ霊夢の過去を私は知らないから…といったところね。」
「ふうん。まぁいいわ。こんな夜も。なかなか楽しかったわよ?妖怪少女さん。」
「私はいつだって楽しく生きたいのよ。皮肉だけど『様』をつけてやるわ。普通の神様。」
「皮肉ねぇ…。」
「ええ。皮肉よ…。」
「この酒の肴もわるくないわね―――って、もう居ないし…。みなさん、奴はどこかへと逃亡しました。…と言ってみるテスト。」
そこには孤独な月明かりのみが目立っていた。
「――さて!今日は張り切っていくわよ!」
今日の魔理沙と紫はまるで対照的だった。紫はなにか良い事でもあったのかとんでもなく張り切っていて、一方の魔理沙は目の下を黒くし、負のオーラをギンギンと放っていた。
例えるとすれば甘い紅茶と、茶葉と間違えて草で淹れた緑茶ほどの違いが見れた。
「だるぃ。まさか環境が少し変わっただけでこんなに眠れなくなるもんだとは思わなかったぜ…。」
「おやおやぁ!?魔理沙ぁ!?元気が無いわねぇ!?」
「お前…誰だよ…。なんかキモいぞ…。」
「もぅ…なによ。折角魔理沙がブラックなオーラを出してたから元気づけようと思ってたのに…。」
「ババァの気遣いなんていらねぇよ。」
「口が悪いわねぇ。橙の前でそんな事言わないでよ?もし橙が『~ぜ!』とかいう語尾になったら藍が色んな意味で飛んでいくわよ?」
ちなみにこの今日は、式神らと魔理沙が同じ部屋で寝た次の日のことだ。
二人は今、とりあえず紫が「吸血鬼に頼み事があるわ~」と言ったので紅魔館へと向かっている。隙間は使わず、ふわふわと飛びながら移動しているようだ。
だらだらと飛んでいると紅い家が見えてきた。
「で、いい加減その頼み事?を教えてくれよ。」
「あとで教えるわよ。あなたは適当に図書館にでも行って聞き込み調査でもしてなさい。」
「わかったよ…。」
――……――
「――それで?結局話しは通じたか?」
「ええ。とりあえず行動を起こしてもらえるらしいわ。私達はとりあえず神社に行ってみるわよ。…そういえば何か情報は掴めたかしら?」
「いいや、それが…なんだかーっ、えーと、作業中だったから聞けなかったぜ。もきゅなんとかって…。」
「作業中…?まあいいわ。移動するわよ。」
例によって博麗神社へと着いた二人だったが霊夢の様子はそのままらしい。ただ先日とは違うのは、人間の参拝客を迎えていた事であった。どうやら御祓いをしている。という所だろう。魔理沙は聞いていては到底分からない言葉の羅列を耳に入れて(ありえねぇ、仕事してるし)とふと考えていた。
「見た感じお前の予想通りだな。」
「…そうねぇ。いつ予想したかは分からないけど無事に信仰が集まってきているみたいねぇ…。まぁこれ以上近づくと気付かれるから近づけないから面白くないところね。」
「ああ?なんだよ?今日は霊夢の監視で一日を終えるのか?」
「…直に分かるわよ。」
少し風が吹いてきたらしい。森が揺れていた。
「…参拝客も一段落したみたいだな、お茶淹れ始めたぞ。」
「そうみたいねぇ…。そろそろ始まる頃かしら。魔理沙、少し森の方見てみなさい。」
「森?なんでだ?…っ!!」
「これで少しはなにか変わった様子が出ればいいんだけれど…。」
博麗神社のはるか向こう。少しづつ空間が蝕まれていくように暗くなっていた。いや、紅くなっていた。
「紅い…。暗い…。寒そう…。…レミリア?もしかしてお前…。」
「ご名答。といったところかしら。」
「あんなでかい屁をこきながらここまで来てたのか…?」
「違うわよ!!少女の私はそんな下品なことしませんわ!…あの紅い霧について言ってるのよ。」
「あぁ、レミリアだなあれは。ひょっとしてお前あれか?さっき寄って来たのって。」
「あの吸血鬼に「もっかい異変を起こして頂戴。霊夢が少しいかれてるから」って言ったのよ。さすがに一発で話が通じたから手間が省けてよかったわ。」
「もう一度異変を起こしてどう動くか…か、おもしろそうだぜ。」
「まぁ少しでも前の事を思い出してほしいっていうのが趣旨なんだけどね。」
前回の紅魔異変は例によって、霊夢の勘の良さを生かし、並み居る敵をなぎ倒し、ほぼ実力行使で解決したが、現在の霊夢はあの性格故に弾幕を放たないだろうという予測を紫が立てた。つまり現在の霊夢は攻撃手段がないため、ただ空を飛ぶ女の子というわけである。だから霊夢が異変解決に乗り出すかどうかも怪しいところなのである。
紫は先ほど紅魔館に寄った際、『前回の異変と同じような形で行ってくれ』といった注文をレミリアにしていたので、屋敷まで行くのも苦労するだろうという見解を立てていた。
――一方同じ頃博麗サイドでは、縁側に座り巫女がお茶をすすっていた。
「今日も良いお天気ですねぇ。これだけ陽気ですとお昼寝でもすると気持ち良さそうですねぇ…。」
お茶をすすりながら独り言を言っていた。
「――ん?森の方が…。」
遠くの空の色が明らかに異色だったのが見えた。
(あちらはたしか…紅魔のお屋敷がありましたよね…。という事はレミリアさんですか…。少し話しをする必要があるようですね…。)
博麗霊夢は啜っていたお茶を片付け、ふわふわと空へ飛び立がった。当然、行き先は紅魔館である。
「――紅魔館に行ったみたいだな…。一応異変解決には乗り出すみたいでだぜ?」
「そうね。まぁ前回と同じようにしてくれって言ってあるから、ルーミアとかチルノに襲われるはずなんだけど…。ただ今の霊夢は『防御』の面に関してなら多分幻想郷一のはずだから、どうやって彼女らを説き伏せるかって所でしょうねぇ…。」
「追うだろ?」
「追うわよ。」
魔理沙らも紅魔館の方角へと飛んでいった。
――――博麗霊夢は紫の予想通り、歩く鋼の鉄壁だった。
ルーミアから襲撃を受けても一切動じずに例の結界によって避ける事をせず真っ直ぐに飛んで行き、呆けていたルーミアに「あっちにジャムが落ちてましたよ?」「そーなのかー!?」といったようにかわし。チルノが勝負を仕掛けてきたら「あっちに幻想郷最強を名乗っている妖怪がいましたよ?」「何!?あたいを差置いて最強を名乗るなんてゆるせない!」といったような会話をし、美鈴に至っては「あの、レミリアさんに用事があって来たのですが…」「あ、霊夢さん。どうぞどうぞ。ゆっくりしていってくださいね」と襲ってこず(咲夜に言われていた事を忘れていた)。あっさりと紅魔館の中へ入っていった。
魔理沙と紫はその様子を遠くで眺めていた。肉眼では見えないので視覚を霊夢の眼に移す魔法を使っている。
「あれじゃ鋼の鉄壁もクソもないんじゃないか?あっさり突破したぞ?」
「…正直平和ボケしてるみたいねぇ…。いい傾向ではあると思うけど…。」
「次はパチュリーか…。」
霊夢はいつぞやの異変同様、パチュリーと対峙して、霊夢の結界を見たパチュリーがとりあえず攻撃してみたが魔理沙同様跳ね返され、様々な弾幕を繰り出したがやがて力尽き、霊夢の「ジャンケンで勝負を決めましょう?」という提案に乗っかり、あっさり霊夢の強運に敗れた。そして咲夜は外出していた。
「なんだよあいつら…まったく戦えてないじゃないか…。パチュリーに至っては霊夢に攻撃してるのにまったく気付いてもらえてないじゃないか…。咲夜なんて屋敷に居すらしないじゃないかよ…。」
「まああの吸血鬼さえ居ればもんだいないわよ。」
「そんなもんかねぇ…。」
霊夢はあっさりとレミリアの前に立っていた。
「あら、霊夢?紅茶でも飲むかしら?」
「いえ。今回はあの霧をどうにかしていただきたいのです。」
「幻想郷が暗くなれば私としては昼夜ともに行動できるようになるから嬉しいのだけど…。まぁいいわ、なら私を力づくでも説得してみれば?」
「では失礼します。」
その瞬間、霊夢に大量の弾幕が放たれた。霊夢の異変を存分に感じながら。
(あれが霊夢ねぇ…。聞いてはいたけど普段の霊夢から考えるとかなりキモイわねぇ…。)といった事を考えながら。
「紅符「スカーレットシュート」!」
ところが博麗霊夢には効果がないようだ…。
「神術「吸血鬼幻想」!」
ところが、不思議な力ではねかえされた!
「紅符「不夜城レッド」!」
レミリアの攻撃は霊夢の目前ではねかえされた!!!!
「これは確かに…紫が困るはずね…。…あれどこ行ったの?」
霊夢はいつの間にかレミリアの目前まで歩いてきていた。一切の弾幕も放たずに、手が届くほど近くに。
「そ、そんな。私が気付けないなんて…。そもそも『避ける』一辺倒だけでここまで出来るなんて…。」
「レミリアさん。攻撃を辞めて頂けますか?」
「ふっ、ふん!しないわそんな事。なめられたままじゃ終わらせない!」
「そうですか、でわ。」
その瞬間、霊夢の手より轟音が響いた。とても耳に残る、ありがちなはり手の音だ。バシィッ!という効果音がよく似合う。
紫と魔理沙に使ったツッコミ同様、レミリアは吹き飛ばされた。一瞬「うー☆」と聞こえた。しかし今度は本気で放ったのか、飛ばされた先の壁さえも破壊していた。
「…もう一度聞かせて頂きます。今回の異変を止めてください。」
「うー、分かったわよぉ。」
レミリアは泣きながら謝った。レミリアは先ほどの霊夢の攻撃により、血を流しながら。
「ちゃんと元に戻すわよぉ。」
霊夢はその言葉を聞いて、にこっと笑い。「ご無礼申し訳ありませんでした」と言いながら懐から手ぬぐいを出し、レミリアの血を拭いた。霊夢はそのまま近くに居た妖精メイドに、「お茶を淹れていただけます?」と言って、レミリアを近くの椅子へと座らせた。
その後は涙を啜りながらレミリアは紅茶を飲んでいた。にこにこと笑う霊夢の目先で。
「レミリアさん?あなたは幻想郷が好きですか?」
「う、うん。私の今の居場所だから…。」
「そうですか…。…私も今の場所を愛しています。周りで笑っている皆さんの笑顔が大好きです。黒い帽子を被った魔女さんも、空間を割る大妖怪さんも、そして偉大な吸血鬼さんも。…正直私は今悩んでいるのです。今までの記憶がなぜかとても無機質な思い出で。実際に起こったことと、まやかしの記憶…。私は昔から悩んでいたのでしょうか…。自分に自信が持てないのです。」
「…霊夢?」
霊夢の前に座っていた紅い吸血鬼の目にはもう涙が溜まっておらず、真っ直ぐに霊夢の瞳を見つめていた。
「あなたは知らないかもしれないけれど、少しだけ前、幻想郷には『英雄』と呼ばれる人間が居たわ。それはそれは無茶苦茶な人間で、…いつもだるそうで、眠そうで、それでいて破天荒で。」
「そんな方がいらっしゃったんですか?」
「すごかったのよ?彼女本人としては妖怪が邪魔と思ってるらしいんだけれどいつも周りでは妖怪が蔓延っていて。みんな彼女に関わると笑顔になって。」
「素晴らしい方…なんですね。でも私は何もできません。誰かを笑顔にすることも。」
「いいえ、もう少ししたらあなたもそうなるわ。そう。素敵な巫女に。幻想郷を支える偉大な人物に。だから自信をもって。私もあなたも今の場所が好き。それだけで私とあなたは同じ土俵に立っているのよ――。」」
「―――無駄足だったよな~。」
紫と魔理沙は、行くあてもなく、フラフラと飛んでいた。
「あの腕力は目をはる程の威力よねぇ。前の非力な霊夢から考えると信じられないわ。実はあの巫女服の下はボディビルダー並みの筋肉がムキムキなのかもねぇ。しかもあれじゃむしろ人外ね…。」
「…ボディビルダーって何だ?」
「そんなことは知らなくてもいいわ。」
「はぁん…。しかし霊夢の異変解決速度が前回よりも異常に速いんだよなぁー…。で、これからどうするよ?正直言って全く考え付かないんだが…。」
「そうねぇ、…私達だけで考えるからいけないのよね、幻想郷各地から力のある者を呼んで色々と知恵を借りてみるかしら。」
「どこぞのSとか薬屋とか山の神だとかか?阿求だとか頭のきれる奴。」
「ええ、私の家に作戦本部を置いてる事だし。それじゃあ宜しく魔理沙。」
「はい?」
魔理沙はきょとんとしていた。きょとんきょとんきょとんと。
「集めてきて。」
「だるい。めんどい。疲れるの三拍子がそろってるから嫌だ。」
「まぁまぁ、私にも色々と準備するものがあるのよ。空間系の魔法を後で少し教えたげるから。外の世界の珍しい菓子もよければあげるわ。」
「…むぅ。分かったよ。行きゃいいんだろ?行きゃ!」
「流石は魔理沙!3秒で話が分かる。素敵!」
「はいはい。で?誰を呼ぶんだ?」
「そうねぇ…意外性のある意見を出してくれる子がいいけど……それじゃあ―――。」
魔理沙は飛んだ。一人の友人を元に戻すため飛ぶのだ。
紫が提示した者達を呼びに。幻想郷の脳を作り出すために。あらゆる異変を解決した英雄を再度叩き起こすために。あらゆる知識人をかき集めた。話す事は苦手な魔理沙だったが、あらゆる手を使って説き伏せたのだった。ええ加減にせぇよとツッコまれた事もあったが、魔理沙は我慢し続けた。
――後日、八雲亭
「さて、今日ここに集まってもらったのは他でもありません。れいむドキドキリバース☆計画についてです。」
「ネーミングセンス最悪だな。」
すぐさま紫に魔理沙がツッコミをいれた。そしてその様子を見た藍が続きを言った。
「ええと、博麗霊夢記憶保管計画についてです。先ほどから説明している通り、現在博麗の巫女である博麗霊夢に重度の記憶障害と性格面への障害、筋力の異常なまでの発達、謎の結界常時発動、そしてありえないほどの空気の読めなさ、ツッコミの鋭さが認められたため、今回は幻想郷の頭脳とも呼ばれる程の知識人の皆様に来て頂きました。」
「後半の二つは正直どうでもいいんじゃないか?」
「だから私はお姫様のお世話が…。」
「というより知識人て私に対しての一般呼称じゃないの?」
「まぁ霊夢には世話になった事だし、少なくとも私は尽力するつもりよ。」
とこのように幻想郷の知識人、基経験を豊富に持っている者らを魔理沙は集めた。
ちなみに上から、慧音、永琳、パチュリー、神奈子の4人である。知識人かどうか分からないものもいるが、紫曰く、発想の面白さも重要なのよ、と言うことらしい。
「ゴホンッ。じゃあそれぞれ思いつく限りの意見をいってもらえるかしら?」
紫が持ち直した。
「じゃあさっきツッコミを入れた順番で話していって。」
「私か?そうだな。実際に魔理沙の記憶を辿ってその霊夢の様子をある程度私は見させてもらった。たしかにあの様子ではむしろ歩く異変だな。表向きではとても良い巫女のようだが、事実、人間としての霊夢はやはり無理をしているようだ。あれほどの結界を常時発動させて維持するには膨大な力が必要になってくるはずだからな。結局は霊夢も人間だ。自分の力にも当然制約があるだろう、あの結界は少しまずい、少しばかりかだいぶ幻想郷にダメージが入るだろう。結界が崩壊したら幻想郷に傾きが現れるだろうからな。」
「同意。」「同意。」「同意。」
「………。」
沈黙。紫はそれを聞いて戸惑った。
「ちょ、それじゃ話し合いにならないじゃないの。」
「でもねぇ…。私としても慧音のその意見と同じでそれしか知らないし…。」
「私は薬師だから知ってる事も限られているのよ。」
「私はそもそも神だし。」
「…。」
その時、玄関があけられる音がした。
「ただいま帰りましたー!」
「しつれいよー。」
「…橙?紫様、少し私外します。」
「ん。」
藍が走っていった。すると玄関には橙だけでなく氷の妖精も居たようだ。
「あっ、藍さま。ただいまです。」
「よー、らーん。遊びに来たよー。」
「チルノか、上がっていってくれ。後で何か菓子でも持っていくよ。」
「うん、ありがと。」
チルノを招きいれ。並んで橙の部屋へと移動している時、対策室の前を通った時。
「何やってんのあれ?」
「気にしなくてもいいんだが…。ってあれ!?どこ行ったチルノ!?」
「藍さま…。チルノちゃん入っちゃいましたよ…。」
「またあいつは余計な手間を…。」
チルノは橙の言ったとおり対策室と銘打たれている部屋へ入っていた。
「何やってんの紫?何かの集まり?あたいも混ぜてよ。」
「チルノ?…そうねぇ。隠す必要も無いから一応教えたげるわ。実はねぇ――…。――という事があってねぇ。」
チルノは珍しく聞き入っていた様子で。その口を開いた。
「うん!わけわかんない!」
「でしょうねぇ…。正直私達もお手上げよ…。」
「あたいが今の霊夢を凍らせようか?ショックでなにか思い出すかも。」
「無理でしょう。」
「バキッと戦えば??叩けばなんかおもいだすでしょ。」
「それはさっき…。」
「それだぁぁぁぁあああ!!!!」
いきなり沈黙を守っていた神奈子が奇声をあげた。
「ちょっ…なによいきなり…。」
「分かったのよ。霊夢を元に戻す方法。」
「はぁ?」「何で今ので…」「え?なになに?今何が起こってたんだ?」「ごめん。聞いてなかった。」
それぞれが反応を示した。
「…霊夢が元のように戦ったり出来るようになればいいんでしょう?」
「それはそうだけれど。でも待って。それさっきやったって言ったじゃないの。」
すぐに紫が異議を唱えた。
「ええ。だからさっきの話から考えて真正面から戦いをしたら確実に意味が無いのよ。『戦う事』だけ思い出させるなら至極あっさりとした方法があるわ。いわゆる破壊と闇と戦いは密接な関係にあるのよ。あの巫女には早苗が親しくさせてもらってるからねぇ…。少しは協力しないといけないわ。」
「……」「……」「……」
それを聞いていた3人は3点リーダを返事として並べた。しかし紫が気付いたように言った。横ではチルノが何故か腹筋を行っている。
「破壊。暗黒。戦い。……黒、黒、黒。神。はいはいなるほど。確かにそれなら霊夢も戦いを思い出すかもしれないわねぇ……。」
「焦らすな。」「時間無いのよ。」「てかあんた誰だっけ?」
と反応を示した。それを見て紫は話を続ける。
「最後の質問が気になったけど・・・・・・。戦いの神。大黒天。マハーカーラとも呼ばれるらしいけど。あらゆる悪鬼と闘う護法の軍神。まぁ外の世界では一部、「大黒様」として幸福の象徴とされているのだけれど。元は『大いなる闇』とかそんな感じの意味を持っているわ。……彼の力を借りて闘いの本能を呼び覚まさせる。それが霊夢を元に戻す鍵になるんじゃないかというわけなのよ。なのよ。」
「……」
相変わらず同じ反応。
「ありがとう皆。もう帰っていいわよ。あ、神奈子は残ってね。それじゃ……解散!」
その言葉を聞かされた瞬間、ツッコミの嵐が紫にふりかかった。(汚い言葉も含まれている為自粛します)
「――おいチルノ…。」
「なに?まりさ?」
「お前、あいつらよりも実は頭きれるのかもな…。」
「あたいの頭は割と頑丈よ?切れるわけないじゃない。」」
「何の話をしてるんだお前は…。」
結局そこにはどこぞの神様と黒い魔法使いと古参妖怪のみが残って、その後のプランを話し合い、発案者である神奈子に計画を委ねた。
「プランは簡単。大黒天の意思を魔理沙に憑依させて、高出力のエネルギーを霊夢にぶつけるだけ。あなたの場合マスタースパーク…だったかしら?」
「ふむふむ。で、何で私がそんなことをしないといけないんだ?」」
「まぁ一応この中では一番火力があるからね。」
「了解。紫もそれで納得な?」
「ええ。ちゃんとやりなさいよ。」
「私を誰だと思ってるんだ。霧雨の魔理沙だぜ?幻想郷で私を凌ぐ火力弾幕を持つのはむしろ盛者だな。そんなの……いないんだよ。だからだ、この任務は責務として私に任せろ。」
「その言葉を聞いて8割安心できたわ。あとの2割はまぁ適当に。」
堂々と胸を張り、博麗神社へと足を向ける、そしてチルノは「さっきのお礼よー」と紫から貰った飴玉を口で回しながらその背中を追った。
――博麗神社。今は文字通り神の使いの巫女が住まう土地。4人、基、神と妖と人と氷がその土地の土を踏んだ。駄弁りながら。
「そういえばその大黒なんたらはどうやって呼ぶんだよー?」
「ん…まぁ強いて言えば……ツテかな。さっき連絡入れといたから。『あっ、申し訳ありません、私幻想郷に住む山の神の八坂ですが……』って感じに。」
「台無しだな。」
「もっと儀式かなにかするかと思うわよねぇ。」
「もしも辛くなったら……あたいをよぶんだぞ!」
「だからお前は何の話をしてるんだっての…。」
刹那、このメンバーの内唯一の人間である魔理沙の背中に悪寒が走った。手元を見ると、何やら肌の色が黒ずんでいる。身に纏っていた衣服も元から黒かったのだが、更に黒くなっている。闇を権化したようなその風貌。言葉通りの『黒魔道士』となっていた。
「あの……何これ?」
戸惑いながら神奈子へ質問をした。
「準備完了。大黒様が到着したのよ。憑依もしたみたいだし。今のあなたは私と同等、神の力を持っているわ。武と闇の大黒天をバックに据えてね。正直言って、今のあなたに幻想郷で敵う者は居ないわ。」
「ふぅん。たしかに物凄い力だな。」
「見事に私は蚊帳の外なのね……。」
「しんぱいするなゆかり。ゆかりのバックにはあたいが据えられている……。」
もう突っ込む気も萎えていた。
「で、私はどうすればいいんだっけ?」
「だから、さっきも言った通り霊夢と闘ってくれればいいのよ。」
「あれ?なんかさっきと言ってる事違うぞ?さっきは弾幕打つだけって……。」
「ささっ、着いたわ。早速やるわよー。」
一行は鳥居の上に降りて、再度霊夢を表に呼ぶ事にした。
「……じゃ、お前らはそこに居ろよ。私一人で解決してやるぜ。」
「頑張りなさいねぇ。」
「血を見たくないならしっかりしなさいよー。」
「なんか背中かゆいなぁ……。」
「……じゃあ行って来るぜ。」
もう時刻は夕刻である。遠くの空が茜色に染まってきた。季節は豊穣肥ゆる秋。その為、魔理沙の背中はいっそう黒く見える。
「おーい霊夢よー。」
魔理沙はその友人の名を呼んだ。
「はぁーい。お待ちくださーい。」
遠くから言葉が返ってくる。
「ああ。魔理沙さんでしたか?今日はどういった御用でしょうか?」
「んー?友人と待ち合わせしてるんだよ。」
「待ち合わせ、と申しますと?」
「昔からの友人でな?しばらく会ってねーんだ。」
「そうでしたか。それではごゆるりと……。」
霊夢は背中を向け、その時だった。ゲームスタートだ。
「恋符『マスタースパーク』っっっッッッ!!!!!!!!!!!!!」
魔理沙は本気もいい所といっていいほどの砲撃を霊夢へと放った。全力全快。だがしかし、あまりの力ゆえ、それが博麗霊夢の最期になったのは言うまでもない……。」
~THE BAD END~
「……………終わんなよ!!!!やめろよ紫!」
このような場面でも笑いと笑顔を欠かさない。やがて八雲紫その人なのである。
「魔理沙……?」
「おお霊夢。元に戻ったんだな。」
「私は一体何を・・・?」
「なんかそういう事言うやつを初めて見た気がするぜ……。」
霊夢は立ち上がる。
「…それじゃあ始めましょうか?」
「随分と好戦的じゃあないか……。どうしたんだ?」
「いつもの事でしょ。」
「いつもの事だな。」
「いつもの事よ。」
距離をとって対峙する。その姿は珍しく燐としている。
「いいのか。私のこんでしぃょんは今最高潮に達しているんだぜ?」
「痛い目見るのはいつだって副主人公なのよ。そっちこそいいの?」
「今の私は神より強いぜ?さながら福主人公だ。」
「ふふん。言ってなさい。」
「じゃあいくぜ?」
「じゃあいこうかしら。」
二人の人は宙に舞う。歴戦の英雄と、神を背中に背負う、ただの女の子だ。それはいつも以上に見えない弾幕ごっこに見える。3つの意味で。
「―――え?なんで戦ってんのあの娘ら?『意味の分かる人挙手~』て言いたい気分だわ。霊夢は元に戻ったっぽいけど。」
「さっきも言ったけれど、今の霊夢は元に戻ってはいるけど非常に興奮状態にあるわ。だからとても強いし、とても好戦的なのよ。」
「私の知らない所で話が動いてるわねぇ…正直理解し難いわ…。」
「――なんかふたりがはなしてると敬老会みたいだな。」
「!?」「!?」
空気は凍る。冷秋だ。
「……何を言ってるのかしらチルノ…神奈子はババァかもしれないけど私は少女よ!女の子よ!」
「いやいや、紫に言われたくないしー。」
「へぇ……幽香とは殺りあったことあるけどあんたとは初めてね…。」
「そうかしら…。」
距離をとって対峙する。その姿は珍しく燐としている。
「いいのかしら。私は幻想郷最強の妖怪よ?」
「痛い目見るのはいつだって古参なのよ。そっちこそいいのかしら?」
「今の私は霊夢が元に戻って目が完全に冴えているわ。さながら本気が出せる…。」
「さながらの使い方…間違ってるわよ…。」
「じゃあいくわよ。」
「えぇ…。」
二つの魂は宙を舞う。幻想郷の妖怪と、幻想郷の神、ただの女の子だ。8つの意味で。
「8つの意味って何かしら?」
「さぁ……?」
「――霊夢よ。今回の勝負の基準は何だ?」
「もちろん、撃墜したらじゃないの?」
「結構曖昧だな。」
「ふぅむ……ならこうしましょう。いつも通りに、弾幕を一発打ち合って、避けきった方が勝ち。」
「なかなか古風な決着がつきそうだ。乗った。」
二人の人間は構えなおす。
「それじゃあ私からでいいかしら?」
「まるで鷹みたいな眼してるぜ?」
「私はどちらかというと人外は嫌ね。人でよかったわ。」
「まったくだ――。」
「ほら。さっさと構えなさい。」
「さっさ。」
霊夢は精神を統一するためか、声にならない声を発している。基呪文を唱えているのだろうか。
「霊符!―――。」
―――結局霊夢は魔理沙に一発も当てられなかったのだった。
「おいおい。これでお前の勝ちは無くなったじゃないか。」
「うざいわよ。ほらさっさと何でも撃ちなさいよ。」
「分かったっての。」
「恋符!―――。」
―――結局魔理沙は霊夢に一発も当てられなかったのだった。
「ええ!?同じ結果だったのか!?」
「何言ってんの魔理沙…。」
「いや……この場合決着はどうなるんだ…?」
「そうねぇ…お茶でも飲んでゆっくりしながら考えようかしら。」
「そうかい。」
「そうよ。」
「まったくだ。」
「は?」
縁側に座る人二人。お茶を霊夢が運んでくる。そしていつの間にか魔理沙の横には氷の妖精が座っている。誰も驚かない。
「あんたは適当に水でいいわね?」
「バカにしないでよ!こーひーぐらい飲めるわ!」
「水ね。了解。」
霊夢はどこに持っていたのかガラス製のコップをチルノの手に握らせた。
「で…結果は出した方がいいのかしら?」
「……そうだ、霊夢よ。少し昔話をするぜ。」
「へぇ?何の話かしら?」
「長いぞ?」
「そうね。」
魔理沙は淡々と語りだしす。
「昔、一人の村娘がいた。そいつはとってもピュアなハートで、『凄く』をつけてもいい位可愛い奴で、周りから普通の村娘として育てられていた。いつしか少女は自分の足で様々な所へ出かけるようになった。川、里、丘、どんな所にでも自分の足を使って歩いて行ったとか。でも、身近に居る大人たちにただ一つ言われていたことがあったんだ。『山へは絶対に行ってはいけないよ。あそこには人間を食べる怖い妖怪がいるからね。』とまぁそんな感じ。当然少女も初めは行かなかったが、ある日、大人たちとけんかをして、反抗したかったんだろう。山へ行った。」
「白熱の展開ね…。」
「何が白熱してるのか分からんが…。とりあえず少女は山に登り、そこで少女の世界は広がった。身の回りのもの全てが新しく、目に星を浮かべて。しかし、大人たちが案じたとおり、妖怪に出くわしてしまった。その妖怪は自分の意思を持たないほどの下等妖怪だったが、普通の村娘には十分すぎるほど恐怖の対象で、妖怪は大きな口をあんぐり開けて少女に迫ってきた。」
「白熱の展開ね…。」
「おまえそれしか言わないな…。その時だ。少女の前に同じ年頃の少女が現れ。思いっきりその妖怪を手に持ってる棒で蹴散らした。文字通り『蹴散らした』。そして少女Bは少女Aに向かって言った。『どうかしら?どこかのお嬢様。私とお友達にならないかしら?私においしいご飯をくれるならね』てよ。――少女はどんなに強くなってもこの目の前に居る少女には一生勝てないと思った。結局その時は顔を真っ赤にして過ぎ去っていったが…。それ以来山には近寄らず、どこぞ森の中で鍛錬を積んだんだとか。そんでもって私は魔女になったわけだ。はい終わり。」
「白熱の展開ね…。」
「もうお前聞く気ないだろ…?」
魔理沙は一応困惑した様子を見せた。
「いやいや聞いてたわよ?あんたのまんじゅうがいつの間にか霊ノ助さんの手に渡っていたんでしょう?」
「どこであいつが出てくるんだよ…。」
「はいはい聞いてたわよ。そもそもあんた、これ完璧に魔理沙の話じゃない――。最期には『私は』って言ってるし…。」
「そうかもな。」
「で?あんたはその話をして私に何を考えさせたいわけ?」
魔理沙は手に持っていたお茶を飲み干して口を開いた。
「私の負けだ。」
「そうねぇ…。そもそも何で遊んでたのかしら…?」
「えー。知るかよそんな事。」
「ねぇ。」
「あ?」
「……今度適当に仕事さぼって遊びに行かないかしら?お嬢さん?」
「…きもいぞ。」
「きもいよ…れいむ…。」
チルノが相槌を打つ。相槌?
「うるさいわよ。行くの行かないの?どっちよ?」
「ももりもっち。行かないとお前のストレスが溜まってまた前みたいな事になりそうだ。」
「あたいもいくー。」
「あんたは駄目ええええええええええええええ!!!!!!!!」
霊夢がいきなり大声をあげた。それに伴ってチルノの目が光に反射して光ってくる。
「なんてね。反対する理由は無いわ。行きましょ一緒に。あんたのバカな所も割と好きだから。」
「あたいばかじゃないもん。」
「最強だろ?うふふふふふふ…。」
「決まりね。適当に人を連れてきてもいいわよ、チルノ。魔理沙も。丁度紅葉も綺麗だし。紅葉狩りでもしましょうかしら?」
いつのまにか宴会の話になっていた。
(…結局なんで霊夢があんな風になってたんだろうな…?ううむ、分かんないぜ…。)
魔理沙の疑問は尽きる事がないだろう。
この一連の事件は後にジャンボ事件(なぜジャンボ事件かというと、特に意味は無いらしい―――魔理沙談)とチルノによって名づけられたらしい。
「―――それで?あんたは何であの巫女の頭の中をいじったのかしら?それとあの巫女に最強の腕力と空気の読めなささと巫女の周りの空間を弄ったあらゆるものから無干渉の結界も。」
「へぇ、分かってたの?」
「そりゃそうよ。第一それを見越していたからこそ私を呼んでいたんでしょう?」
先ほどまで戦闘を行っていた神様と妖怪はこの世のどこかで酒を啜っていた。
「…別になんてこと無いわ。ただ霊夢の過去を私は知らないから…といったところね。」
「ふうん。まぁいいわ。こんな夜も。なかなか楽しかったわよ?妖怪少女さん。」
「私はいつだって楽しく生きたいのよ。皮肉だけど『様』をつけてやるわ。普通の神様。」
「皮肉ねぇ…。」
「ええ。皮肉よ…。」
「この酒の肴もわるくないわね―――って、もう居ないし…。みなさん、奴はどこかへと逃亡しました。…と言ってみるテスト。」
そこには孤独な月明かりのみが目立っていた。
だけど創作意欲はものすごく伝わった。
まぁがんばれ。
ギャグのセンス等もまぁ悪くないと思います。
あとはもうちょっと文章全体を練りこみましょう・・・。
全体的にだらだらしているというか、精錬されてないような気がします。