若干といいますか、かなりの俺設定が含まれているため、苦手な方は今すぐ逃げてください。
魔理沙は困惑していた。
いつもの友が友でなかったからだ。
――たった数秒前の出来事を説明しよう。
今日はいつものように風を気持ちいいと思えるような日だった。白黒の帽子を被ったその少女はいつものように神社の石段を登ってきたのである。今日もあいつはドライな表情で社でも掃除してんだろうなー、とか今日はなんて挨拶をかけようかなー、とか考えてながら一歩一歩上っていた。
白黒の少女魔理沙は鳥居の下まで歩いてくると、いつものように紅白の少女の背中が見えたのを確認し、皮肉交じりに
「おーい霊夢ー。今日も貧しい背中で何よりだぜー。」
とまぁ挨拶をかけたのだった。いつもだったら、
『私の後ろに立つんじゃない!殺すわよ!』とか、『あら魔理沙?今日も体中からキノコが生えてるわよ。プププ。』と皮肉の一つや二つを返してくるのが普通である。だが今日は、今日に限っては、
「あら?魔理沙さんですか?ここまで来てくださったのでしたら縁側で休んでいかれたらどうですか?今すぐお茶を準備いたしますので。」
とか言いやがるのだ誰だこいつキモッ、と思ったのがここまでの話。
普通ではないその態度に魔理沙は、また何かの冗談だな?ははん、私がその位の事でツッコミを入れると思ってんのかよと、そう軽く解釈したので。
「そうだな、休ませてもらおうか。それじゃお茶くれ、ついでに茶菓子も付けてくれよな。」
当たり前のように霊夢の横を通り過ぎ、縁側にどかっと座りながらそう言った。
「少しお待ちくださいね。只今淹れてきますので。」
「……?」
魔理沙は異変を感じ取った。霊夢の顔を見て、
(なんだ今の表情?はじめて見たんだが…。…やっぱりツッコミをいれるか。)
と思った位だ。
「おまたせしました~。どうぞ、あまりお気に召さないかもしれませんが・・・。」
「ん、ありがと。……なんだこれ?無茶苦茶美味いんだが…。ちょっと待ってくれ?考えを整理させてくれ。……なんかいつもと違う茶葉でも使ったとか?」
「いつもと同じ茶葉ですよ。」
「じゃああれだ。山の巫女辺りに淹れ方を教えてもらったんだ。」
「いつもと同じ淹れ方ですよ?変な魔理沙さん。」
「…なんでやねん!」
「お。漫才に目覚められたんですか?私も好きですよ。」
「…君とはやってられんわ。」
「なんでやねん!」
「ごふっ!」
ツッコミをいれられた魔理沙は、その勢いにより血を噴出しながら大きく吹き飛ばされた。
「ああっ!すいません!」
「ふっふっふ…。私を本気にさせたようだな…。」
「へ?」
「この前よー、道端で偶然チルノに会ってよー。その時にあいつ自分の胸元に値札付けてたんだよ。『何やってんだチルノ?』、そう聞いてやったよ。そしたらあいつ『これがあたいの値(あたい)だ!』って言いやがってさ。私はそれを見」
「なんでやねんっ!」
「ええっ!?まだボケきってな…っごふっ!」
魔理沙はまた吹き飛ばされた。
「ま、まさかそんなに速くツッコむとは思わなかったぜ…。」
「すみません…。」
「おのれぇ霊夢。私を倒したくらいでいい気になるなよ…。また第二第三の魔理沙がお前の前に現れるだろう…。」
「んもうっ。今日はどうなされたんですか?変な魔理沙さんっ!」
(お前の方がよっぽど変だっての…。)
心のなかで魔理沙はツッコミをいれる。霊夢はずっとにこにことしている。
(作り笑い…には見えないんだよなー。まるで菩薩ともいわんような笑顔だ。よし、こいつの事はこれから個々だけの話、菩薩野郎だ。)
魔理沙は色々とものを考え、一つの結論に思い至った。
(弾幕勝負をしかけてみれば元に戻るんじゃないか?)
思い至ったらすぐ行動を起こすのが霧雨魔理沙その人なので早速行動に移してみることにした。使うスペルは脅し程度になればいいのでスターダストレヴァリエだ。
「どうなされました?」
「いや、ちょっとな。体がだるいから少し歩いてくるぜ。」
「ご一緒しましょうか?」
「いや、考え事もあるしな。一人の方がいい。」
「そうですか。では私は母屋で掃除をしておりますので、何か御用がありましたらおよび下さい。」
「おう。分かったぜ。」
霊夢はまたにっこりと笑い、奥へと消えていった。
魔理沙はそれを見てもう一度息をつき、屋根の上に飛び上がった。そこから庭に出てきた霊夢を狙うのだ。たまには霊夢と弾幕ごっこしたいしな、と魔理沙は適当に霊夢に問い詰められた時の言い訳を考えながら、屋根の上での足場を整えた。さぁ、仕掛けてみよう。
「おーぅい!れーーむーー!?ちょっと出てきてくれー!」
「はーい。少しお待ちくださーい!…ってあれ?確かに魔理沙さんの声がした筈なんですけど…。」
魔理沙は庭へ出てきた霊夢に照準を合わせ、そっと呟いた。
「魔符『スターダストレヴァリエ』……!」
その瞬間、霊夢へ向かって大量の星が飛んでいった。しかし霊夢はというと、
「おかしいですねぇ…。妖精の悪戯か何かでしょうね…。さぁて掃除掃除っと…。」
「う、嘘だろ…?」
霊夢へ放ったはずの弾幕は霊夢へ近づいた瞬間、掻き消されてしまったのだった。
(あれは…結界かなんかか?でも霊夢はこっちに気付いた様子はなかったし…。結界を張る暇なんて無かったはずだ…。これは…どうするかな…。)
ふとその急展開のなか、魔理沙は何かを思い立ち、屋根の更に上に上り、そっと棒読みで呟いた。
「紫ー。起きろー。霊夢が今風呂入ってんぞー。」
「どこ!?裸の霊夢どこ!?…って魔理沙じゃない。霊夢はどこ?」
「当然はったりだ。」
「さようなら魔理沙。もう二度と会わないでしょうね。」
いきなり出てきた紫はいきなり隙間で帰ろうとした。
「まぁ待てよ。霊夢の裸は見れないが変なことになってんだよ」
「は?何のこと?」
「ああ、それがな――――――……。」
「ふんふん。」
「――という事なんだ。どうすればいいよ?」
「霊夢がねぇ…。ちょっと魔理沙?そしたら今度はマスタースパークを撃ってきてちょうだい。」
「ああ?まぁいいけど…。」
―――――………。
「恋符『マスタースパーク』!」
―――――………。
―――――………。
「見事に弾かれたわね…。」
「ああ、なんか私としてはかなり悔しいんだが…。」
「そこ自信無くすとこじゃないわ。多分今の霊夢には何を撃っても効かないはずだから。」
「はぁ?どういう事だよ?…教えて!ババア先生!」
「五月蝿いわね…。めんどいから教えない。とりあえず私も霊夢と話してみるわ。その無駄に空気の読めないツッコミを見てもみたいし。」
屋根から入るのはおかしいだろうなと思ったので、紫は隙間へ飛び込んだ。
「霊夢?私の霊夢はどこかしら?」
「あっ紫様。いらしてたんですか?」
紫は母屋で掃除をしていた霊夢の前に現れたのだった。
「まぁ野暮用でね…。って紫『様』??」
「まぁ、今日はお客様がたくさんいらっしゃる日ですね。今お茶を淹れますので、そこの客間でお待ちくださいますか?」
紫は客間へいそいそと歩いていきながら考えていた。
(紫『様』か…。慕われるのはいいんだけど明らかにいつもの霊夢とは違う目をしていたわね。あれは魔理沙の比喩通り、本当に菩薩のような目だったわ…。それにあのとてつもない力を持っていた霊夢を包む結界…。神がかった力…。性格に至っては優しいとかそんな領域では無いし…。)
うんうんと唸りながら客間に敷いてあった座布団へと紫は座った。
「今日もいい天気ですね。紫様はどう思われますか?」
「ええ、ほんと。風も少し位吹いてほしいけどねぇ。ところで霊夢?」
「はい?」
「霊夢大好き。抱きしめてもいいかしら?」
「ええっと、私も紫様は大好きなのですが、掃除したばかりなので、紫様が私を抱きしめてしまうと、紫様が汚れてしまいます…。」
「うぅむ。そうかしら…。」
この反応もまったく違うわねー、でも私のこと大好きだってウフフ、と紫は考えながら、(でも普通じゃないわよね…。いつも通りだとしたら『黙れババァ!』とか『私は思った…こいつ以上にキモイやつなんて居ないんだろうな…と』とか言うだろうし。)と霊夢からもらったお茶を啜りながら考えた。
「……?妙においしいわねこのお茶。山の巫女にでも習ったのかしら?」
「んもう!紫様まで魔理沙さんと同じ事仰るんですね!」
「あれ?そうなの?…人格はお茶を淹れる技術まで変えるのかしら。…君とはやっとれ…!」
「なんでやねん!」
博麗霊夢は『ツッコミ』を繰り出した。
「イッ!」
八雲紫に5800のダメージ!
「き、きつい…。まさか物理的な力も変わってるなんて…。」
八雲紫は目の前が真っ暗になった…。
「はっ!危なかった!今のはやばかったわ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「ああいや、こっちの話よ…、…そういえば霊夢、私達がどこで会ったのか覚えているかしら?」
「あはは、いきなりですね。忘れられたんですか?…たしかですね、八雲藍さんがこの神社においでになりまして、『あなたが博麗の巫女様ですね?わが主があなたに会いたがっています。少しお時間よろしいでしょうか?』と言って『はい、いいですよー』と返事を返しましたら、いきなり藍さんの横の空間に亀裂がはいりまして、そこから紫様がいきなり現れたので色々とお話をー、って紫様?どうなされました?」
「…いや、なんでもないわ。…少し所用を思い出したかお暇させてもらうわね。ありがとう、お茶おいしかったわ。」
紫は隙間に足を入れた。
「またね、霊夢。また会いましょう。」
「はい。それでは」
霊夢はまたこれとない程の笑顔で手を振っていた。
「あれはおかしいわ。記憶の改ざんまでされているし。というかあの殺人的なツッコミもどうにかしてほしいわね…。」
「ああ、あのツッコミはやばい。霊夢が変になったのは誰かが人為的に霊夢をおかしくさせているとかか?」
「いや、それは無いと思うわね。霊夢の周りに漂っている気からすると、誰かが干渉しているわけでは無いみたい。だから恐らく霊夢個人になにかあったと考える方が自然よ。それと…それよりも深刻な問題があるわ。」
「なんだよ。ツッコミか?」
「違うわよ。このままだとあの子戦わなくなるから異変を解決する人がいなくなるってこと。」
「…私がいるじゃん。」
「別にそれでもいいけど、あなた一人ですべての異変を解決しなきゃいけないのよ?」
「それは…やたらめんどいな…。」
「それにあの結界、あんなに強い結界を常に周りに張っていたら妖が近づけないわ。」
「お前近づいてんじゃん。」
「私はある程度の力を持っているからね。…とりあえず魔理沙。永遠亭に行くわよ。」
「は?なんで?っってうはゃああああああああ!」
魔理沙は唐突に面白い声を上げならがら隙間へ引きずりこまれた。
「――それで私に聞きに来たのね?」
「あなたなら分からずとも何か知っているだろうと思ってね。」
「ちなみに私はおまけでついてきたようなもんだ。」
八雲紫と霧雨魔理沙は八意永琳の所へ来ていた。紫が、彼女ならなにか分かるでしょう、むふふと踏んだからである。むふふ?しかし目の前にいる薬師は困った顔をしているようだ。
「うーん…分からないわねぇ…。というかまだ信じられないくらいだわ。あの巫女がそんなことになっているだなんて…。記憶障害の類にあたるんでしょうけど本人が元気にしているみたいだし…。」
「さすがにあなたでも分からないかしら?」
「残念だけどさっぱりだわ。この問題の場合、知識よりも意外性で解決できるかもしれないわ。色んな者達に意見を聞いてみることね。」
「むう、諦めるのが早いんじゃないか薬屋?」
「黙りなさい黒白。私も姫様のことで意外と手がいっぱいなの。最近『えーりんえーりん助けてえーりん』とか言い出すようになったのよ。」
「はあ…。もう別にいいわ。ほら魔理沙、少し作戦練るから一旦戻るわよ。」
二人はまた隙間へと消えていった。
「で、何でまた神社に戻ってきてんだよ。つーかあの薬屋と話してる時間無茶苦茶短かったぞ。30秒くらい?」
「いやまぁ、ここだったら霊夢の行動もいちいち観察できるからね。」
二人はまた神社の屋根へ戻ってきていた。この神社の屋根は当然瓦が敷き詰められていて、紫いわくここで殴り合いのケンかをしたとしても下には響かないのだそうだ。つまり、上でどんな話をしようとも下には一切聞こえないので霊夢の監視をする場所としては意外と目立たないので最適な場所でもあるんだとか。
「そんなもんかねぇ。!…おい紫。」
魔理沙は門の前を見ながら言った。
「あれって早苗だよな?」
「あら?そうね。あの霊夢に対してどんな反応するのかねぇ。」
「それもそうだな。今更冗談かどうか確かめるチャンスだぜ。」
「今更それは無いと思うけど…。」
東風谷早苗は石段を登っていた。今日もいつもの巫女装束のようだ。それ以外は見た事は無いが。
早苗は紅白巫女が乗り込んできて以来、幻想郷のなんとやらを同じ人間である霊夢に教わっていた。それもあってか、最近は巫女同士としての交流も少しはするようになったのである。掻い摘んで言うと遊びに来ているのだ。
「あら?早苗さんですか?お久しぶりですね。」
遠くから話しているはずだが霊夢の声は早苗に簡単に伝わったようで、(早苗『さん』?)と魔理沙と紫同様の反応をした。
早苗は霊夢のそばへよった。
「今日はまた何をしているんですか?新しい神事ですか?」
「見ての通りですよ。石畳の上を掃除しています。今日はどのようなご用事でしょうか?」
「あっ、いや。そういうわけじゃなくって…。まぁ…たまたま麓を通る用事がありまして…。というか今日はどうなされたんですか?」
「はい?」
「いや、話し方ですよ。」
「ええ?早苗さんまでそんな事言われるんですか?紫様も魔理沙さんも早苗さんもひどいですー。」
霊夢はプンプンと怒っているフリをした。似合わないのは言う必要も無い。正直いつもは暴言を吐かない早苗でも(な、なんかキモくないですか?)とツッコミをいれていた。
「はい?紫様?魔理沙さん?」
「では、少し中へ入りますか?お茶をお出ししますので。」
「ああ、じゃあお願いします―――…。」
「――それでは、私そろそろ帰ります。神奈子様達も帰るころだと思いますので。」
「はい、皆様方にも宜しく言っておいてくださいね。それではお気をつけて。」
霊夢はにこにこしながら手を振った。つられて手を振り返した早苗。
そのまま早苗は神社を後にし石段を降りていった。
「おぅーい!さなえー!」
「はい?」
見ると黒白の魔法使いが上から飛んできたようだ。
「早苗さんやー。」
「あなたは…キノコの方の…。少し聞きたいことがあるんですけど…。」
「キノコの方って…。霊夢の事だろ?」
「あれどうなってるんですか?いつもだったら『2Pカラー』とか『るいーじー』とか必ず意味不明な事言うのに…。ていうか敬語使ってますし、完璧にいつもの霊夢さんじゃないですよ。しかも…あれじゃ若干私とキャラ被ってますよ…。そりゃあまぁ?あの性格でしたら、私としては話しやすいですし、色々と今までよりもいいお付き合いが出来るんでしょうけど…。」
「まあそういうなって私としてもよく分からないんだよ。この件については紫もお手上げらしくてなー…。」
「あの紫様までもがですか?それってかなり大変なんじゃ?」
早苗は深刻な顔つきで言った。
「まぁ霊夢の力の変化も考えると、結構まずいことではあるな。あっ、でも、この件は出来るだけ口外するなよ?」
「なんとなく分かってますよ。あの結界が常に張ってあるから妖怪の類の者が近づけないのでしょう?出来るだけ大きな騒ぎを起こさず穏便に済ませたいということもあるんでしょうが…。」
「まぁそういうことだ。理解が早くて助かるぜ。すまないんだが宜しくな。じゃ、長話はできないみたいだからな。」
「ええ、そのつもりです。では。」
「では、道中お気をつけて。」
魔理沙はにこりと微笑んだ。
「…あなたまでそうなったらなんとなく幻想郷の平均年齢が高くなりますよ?それでは。」
「手厳しいわねぇ…うふふ。」」
魔理沙はひとり微笑むフリをする。
――紫は未だ行動を起こせないでいた。結局あの後いい案が思い浮かばず、埒があかなくなってきたのでとりあえず博麗神社を後にしたのだったのだ。その折に早苗と話し終わって戻ってきた魔理沙を捕まえて、我が家へと戻ってきた。
家へ帰ると藍が「客人を迎えるときは言ってくださいよ。」とか言ったのだが、「客人じゃないわ旧友よ」と紫は返した。後ろで魔理沙が何か言っているが気にしない。
「――さて、なんで私はこんな所に居るんだ?」
「作戦本部よ。」
「いやいや。なんでその『作戦本部』とやらに私が居るんだっての。今すぐ帰らせろ。眼鏡かち割るぜ?」
魔理沙は不満を表情一杯に出して言った。
「まぁいいじゃないのよ。てか眼鏡かけてないし…。帰るのもめんどくさかったでしょう?」
「それもそうだけど…。」
「と、言うわけであなたと行動を共にするのは私にとっては今回必然なのよ。」
「ここに泊まれというか?」
紫は首を縦に振り、魔理沙はそれを見て、はぁ?といった顔をし、何か意味あるのかよ、と聞いた。
「今回の件は妖の類が近づけない事があるから人間が居ないといけないのよ。というわけで宜しく。」
「…じゃあ美味いものだ。腹がふくれればそれでいいぜ。」
「それに関しては藍がいるから問題ないわ。客人をもてなすのは人としての礼儀でしてよ。」
「お前人かよ。」
「お前…すげーな…。」
魔理沙は素直に驚いていた。目の前に次々と並べられていく食べ物が普彼女が口にしないような代物ばかりだったからである。先ほど橙が「藍様のお料理は幻想郷でも指折りなんですよー。楽しみにしといて下さいね、エヘンッ」と言っていたのだがなるほどこの腕ならばうなずける。その一つ一つは見かけではない。心もはらわれているようだ。色とりどりの料理が次々と並べられる。
「こんなに食って良いのか…?」
「あなたがちゃんと今回の件について働いてくれるのならいくらでも食べるがいいわ。というか、作ってるのは藍だし。」
「よっ。流石だな。こんだけ長いこと生きてるとやっぱり物の見方もだいぶ違うんだな。ババァは違うぜ…。」
「…あなたもこの食卓に並びたいのかしら?」
「ははっ。冗談。」
紫は鉄板をも貫くような鋭い眼光で魔理沙を睨み付けた。
「――見た目だけじゃないのな。これはいけるぜ。」
「まぁ人間の口にあったみたいでよかったよ。」
魔理沙ががつがつと食事を食べるのを見て狐目の女が言った。
「そもそも人間がこの家に来るのは初めてだよ。」
「へぇ?そもそもこの家は一体どこにあるんだ?私はまだ外を見てないんだが。」
「そんな事は気にするな。結界の境界にあるのかもしれないし、もしかすると幻想郷の中でもないのかもしれない。」
「お前も知らないのか?」
「さぁてね。」
「さて、じゃあ魔理沙はどこで寝かすかしら?」
いきなり紫が話題を断ち切ってきた。
「おいおい唐突だな、別に私は寝なくてもいいんだぜ?魔法使いという職業柄寝ないことも多いしな。」
「寝不足で思考を鈍らせてもらっては困るわ。そうね――。」
「――で、なんで私がお前らと寝てるのか。それを聞きたいんだが…。」
霧雨魔理沙はなぜかしら妖怪の式2匹と共に寝ていた。襖から見て橙、藍、魔理沙の順番で床についている。
こんな所を紅い屋敷の根暗とか、同じ森に住む人形大好きのファンシーちゃんに見つかったら殺されかねんなやれやれと魔理沙は横になりながら考えていた。
「まぁたまにはいいじゃない。話をしたかったの。」
「はぁ?紫の居る所じゃ出来ない話とかか?」
「そうね。紫様の話といえばそう。。」
「ババァの話なんかしたくないんだが。」
「まぁ黙ってなさい。普段話す機会なんてほとんど皆無なんだから。」
「そうかい。」
藍は天井を見ながら静々と語り始めた。ちなみに橙が会話に入ってこないのは、布団にもぐってものの10数秒で眠ってしまったからである。その際に「はやっ!」と言われたのは言うまでもないことだ。
「さて、今回の霊夢の豹変振りに関してなんだけど――、ああ、私も紫様の眼を通して無理やり見せられたから大体の現状は把握してるわ。あのありえないほど素直で妙に気が利いて恐ろしいほどツッコミの破壊力が凄くて、弾幕を撃たないであろう紅白巫女ね。あの霊夢を見て紫様はどうしようか迷っているみたいなのよ。」
「あ?何をだよ?」
「勘が悪いわね・・・。『博麗霊夢を元に戻す行動を起こすか』よ。霊夢はもう幻想郷に欠かせない人間となっているわけなんだけど巫女としての成績は散々となっているわ。でも今の霊夢なら多分いい巫女になれる。しかもほぼ普通の人間として生きていけるのよ。まぁつまり紫様としては「普通の女の子として生きてほしい」ってゆう風にお考えなのよ。正直、霊夢の事が好きな紫様は彼女に幸せになってもらいたいと――・・・ってどうした?」
魔理沙はとても渋い顔をしながら隣に横たわる藍を見ていた。
「そんなの理由にもならねーだろ。そんなことだったらまだチルノのほうが真っ当な回答を出すと思うぜ。下らない、本当に下らないと思うね。そもそも意味が分からない。何が言いたいのかもさっぱり分からない。第一幻想郷はゆっくりと変わっていくべきだし、第一今の霊夢はかなり私としては絡み辛い。前の霊夢の方が私にはあってる。私は今の幻想郷が好きで、そのフレームに収まる人々も好きだ。…だからだ、私は誰がなんと言おうと霊夢を元に戻す。私は軽い気持ちで皮肉を言い合える『博麗の巫女』の親友なんだよ。敬語を使われて、ましてや気が利きすぎて、まともに世間話も出来ない霊夢なんて霊夢じゃないね。私はいちいち気だるそうな博麗霊夢の隣で笑っていたいんだよ。いい加減な見解で他人の幸せなんて決めるなてめぇの生き方はてめぇで決めろ。生き続けるものに枠を作るな。皮肉を言い合って、たまに弾幕ごっこしたり。……それが私の出した『回答』だ。どうよ。」
藍は安心したような顔をした。
「そうか…お前がそう言うなら問題なさそうだな…。というか若干キモイ感じもしたけど…。ただこれだけは言っておかしてくれ。紫様ほどこの幻想郷を愛しているお方は居ない。お前の言う『当たり前の風景』のある幻想郷がとんでもない位好きなんだ。…それに収まる霊夢も例外じゃないんだよ。……ああもう!なかなか言葉にするのが難しいな。つまりだ、『崖っぷちの平和を保つ幻想郷』が元の博麗霊夢。『完全な平和を持つ幻想郷』が今の博麗霊夢なんだが…、紫様としては元の霊夢の方が好ましいみたいなんだよ。だからこそだ、今の不安定な紫様の背中を押せるのはお前しか居ない。そうじゃないか?」
「ババァの背中を押すと腰を悪くしそうだな…。」
「…一応肯定として受け取っておく。紫様の事を頼んだぞ。」
「勝手に任されても困るんだけどなぁ…。」
「バックジャーマンンフゥ…ドリクバァ…。マッカーサァ…。」
いきなり藍と魔理沙の会話に明らかな第三者の声が入ってきた。勿論、言葉として受け取れない声だ。勿論?
「橙?…ああいけないな。そろそろ寝るか。」
「そうだな。流石の私もだるくなった…。つーか今の寝言なんだよ…。」
「おやすみ」とは言わなかったらしい。すぐに寝息が聞こえ始めた。
魔理沙は困惑していた。
いつもの友が友でなかったからだ。
――たった数秒前の出来事を説明しよう。
今日はいつものように風を気持ちいいと思えるような日だった。白黒の帽子を被ったその少女はいつものように神社の石段を登ってきたのである。今日もあいつはドライな表情で社でも掃除してんだろうなー、とか今日はなんて挨拶をかけようかなー、とか考えてながら一歩一歩上っていた。
白黒の少女魔理沙は鳥居の下まで歩いてくると、いつものように紅白の少女の背中が見えたのを確認し、皮肉交じりに
「おーい霊夢ー。今日も貧しい背中で何よりだぜー。」
とまぁ挨拶をかけたのだった。いつもだったら、
『私の後ろに立つんじゃない!殺すわよ!』とか、『あら魔理沙?今日も体中からキノコが生えてるわよ。プププ。』と皮肉の一つや二つを返してくるのが普通である。だが今日は、今日に限っては、
「あら?魔理沙さんですか?ここまで来てくださったのでしたら縁側で休んでいかれたらどうですか?今すぐお茶を準備いたしますので。」
とか言いやがるのだ誰だこいつキモッ、と思ったのがここまでの話。
普通ではないその態度に魔理沙は、また何かの冗談だな?ははん、私がその位の事でツッコミを入れると思ってんのかよと、そう軽く解釈したので。
「そうだな、休ませてもらおうか。それじゃお茶くれ、ついでに茶菓子も付けてくれよな。」
当たり前のように霊夢の横を通り過ぎ、縁側にどかっと座りながらそう言った。
「少しお待ちくださいね。只今淹れてきますので。」
「……?」
魔理沙は異変を感じ取った。霊夢の顔を見て、
(なんだ今の表情?はじめて見たんだが…。…やっぱりツッコミをいれるか。)
と思った位だ。
「おまたせしました~。どうぞ、あまりお気に召さないかもしれませんが・・・。」
「ん、ありがと。……なんだこれ?無茶苦茶美味いんだが…。ちょっと待ってくれ?考えを整理させてくれ。……なんかいつもと違う茶葉でも使ったとか?」
「いつもと同じ茶葉ですよ。」
「じゃああれだ。山の巫女辺りに淹れ方を教えてもらったんだ。」
「いつもと同じ淹れ方ですよ?変な魔理沙さん。」
「…なんでやねん!」
「お。漫才に目覚められたんですか?私も好きですよ。」
「…君とはやってられんわ。」
「なんでやねん!」
「ごふっ!」
ツッコミをいれられた魔理沙は、その勢いにより血を噴出しながら大きく吹き飛ばされた。
「ああっ!すいません!」
「ふっふっふ…。私を本気にさせたようだな…。」
「へ?」
「この前よー、道端で偶然チルノに会ってよー。その時にあいつ自分の胸元に値札付けてたんだよ。『何やってんだチルノ?』、そう聞いてやったよ。そしたらあいつ『これがあたいの値(あたい)だ!』って言いやがってさ。私はそれを見」
「なんでやねんっ!」
「ええっ!?まだボケきってな…っごふっ!」
魔理沙はまた吹き飛ばされた。
「ま、まさかそんなに速くツッコむとは思わなかったぜ…。」
「すみません…。」
「おのれぇ霊夢。私を倒したくらいでいい気になるなよ…。また第二第三の魔理沙がお前の前に現れるだろう…。」
「んもうっ。今日はどうなされたんですか?変な魔理沙さんっ!」
(お前の方がよっぽど変だっての…。)
心のなかで魔理沙はツッコミをいれる。霊夢はずっとにこにことしている。
(作り笑い…には見えないんだよなー。まるで菩薩ともいわんような笑顔だ。よし、こいつの事はこれから個々だけの話、菩薩野郎だ。)
魔理沙は色々とものを考え、一つの結論に思い至った。
(弾幕勝負をしかけてみれば元に戻るんじゃないか?)
思い至ったらすぐ行動を起こすのが霧雨魔理沙その人なので早速行動に移してみることにした。使うスペルは脅し程度になればいいのでスターダストレヴァリエだ。
「どうなされました?」
「いや、ちょっとな。体がだるいから少し歩いてくるぜ。」
「ご一緒しましょうか?」
「いや、考え事もあるしな。一人の方がいい。」
「そうですか。では私は母屋で掃除をしておりますので、何か御用がありましたらおよび下さい。」
「おう。分かったぜ。」
霊夢はまたにっこりと笑い、奥へと消えていった。
魔理沙はそれを見てもう一度息をつき、屋根の上に飛び上がった。そこから庭に出てきた霊夢を狙うのだ。たまには霊夢と弾幕ごっこしたいしな、と魔理沙は適当に霊夢に問い詰められた時の言い訳を考えながら、屋根の上での足場を整えた。さぁ、仕掛けてみよう。
「おーぅい!れーーむーー!?ちょっと出てきてくれー!」
「はーい。少しお待ちくださーい!…ってあれ?確かに魔理沙さんの声がした筈なんですけど…。」
魔理沙は庭へ出てきた霊夢に照準を合わせ、そっと呟いた。
「魔符『スターダストレヴァリエ』……!」
その瞬間、霊夢へ向かって大量の星が飛んでいった。しかし霊夢はというと、
「おかしいですねぇ…。妖精の悪戯か何かでしょうね…。さぁて掃除掃除っと…。」
「う、嘘だろ…?」
霊夢へ放ったはずの弾幕は霊夢へ近づいた瞬間、掻き消されてしまったのだった。
(あれは…結界かなんかか?でも霊夢はこっちに気付いた様子はなかったし…。結界を張る暇なんて無かったはずだ…。これは…どうするかな…。)
ふとその急展開のなか、魔理沙は何かを思い立ち、屋根の更に上に上り、そっと棒読みで呟いた。
「紫ー。起きろー。霊夢が今風呂入ってんぞー。」
「どこ!?裸の霊夢どこ!?…って魔理沙じゃない。霊夢はどこ?」
「当然はったりだ。」
「さようなら魔理沙。もう二度と会わないでしょうね。」
いきなり出てきた紫はいきなり隙間で帰ろうとした。
「まぁ待てよ。霊夢の裸は見れないが変なことになってんだよ」
「は?何のこと?」
「ああ、それがな――――――……。」
「ふんふん。」
「――という事なんだ。どうすればいいよ?」
「霊夢がねぇ…。ちょっと魔理沙?そしたら今度はマスタースパークを撃ってきてちょうだい。」
「ああ?まぁいいけど…。」
―――――………。
「恋符『マスタースパーク』!」
―――――………。
―――――………。
「見事に弾かれたわね…。」
「ああ、なんか私としてはかなり悔しいんだが…。」
「そこ自信無くすとこじゃないわ。多分今の霊夢には何を撃っても効かないはずだから。」
「はぁ?どういう事だよ?…教えて!ババア先生!」
「五月蝿いわね…。めんどいから教えない。とりあえず私も霊夢と話してみるわ。その無駄に空気の読めないツッコミを見てもみたいし。」
屋根から入るのはおかしいだろうなと思ったので、紫は隙間へ飛び込んだ。
「霊夢?私の霊夢はどこかしら?」
「あっ紫様。いらしてたんですか?」
紫は母屋で掃除をしていた霊夢の前に現れたのだった。
「まぁ野暮用でね…。って紫『様』??」
「まぁ、今日はお客様がたくさんいらっしゃる日ですね。今お茶を淹れますので、そこの客間でお待ちくださいますか?」
紫は客間へいそいそと歩いていきながら考えていた。
(紫『様』か…。慕われるのはいいんだけど明らかにいつもの霊夢とは違う目をしていたわね。あれは魔理沙の比喩通り、本当に菩薩のような目だったわ…。それにあのとてつもない力を持っていた霊夢を包む結界…。神がかった力…。性格に至っては優しいとかそんな領域では無いし…。)
うんうんと唸りながら客間に敷いてあった座布団へと紫は座った。
「今日もいい天気ですね。紫様はどう思われますか?」
「ええ、ほんと。風も少し位吹いてほしいけどねぇ。ところで霊夢?」
「はい?」
「霊夢大好き。抱きしめてもいいかしら?」
「ええっと、私も紫様は大好きなのですが、掃除したばかりなので、紫様が私を抱きしめてしまうと、紫様が汚れてしまいます…。」
「うぅむ。そうかしら…。」
この反応もまったく違うわねー、でも私のこと大好きだってウフフ、と紫は考えながら、(でも普通じゃないわよね…。いつも通りだとしたら『黙れババァ!』とか『私は思った…こいつ以上にキモイやつなんて居ないんだろうな…と』とか言うだろうし。)と霊夢からもらったお茶を啜りながら考えた。
「……?妙においしいわねこのお茶。山の巫女にでも習ったのかしら?」
「んもう!紫様まで魔理沙さんと同じ事仰るんですね!」
「あれ?そうなの?…人格はお茶を淹れる技術まで変えるのかしら。…君とはやっとれ…!」
「なんでやねん!」
博麗霊夢は『ツッコミ』を繰り出した。
「イッ!」
八雲紫に5800のダメージ!
「き、きつい…。まさか物理的な力も変わってるなんて…。」
八雲紫は目の前が真っ暗になった…。
「はっ!危なかった!今のはやばかったわ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「ああいや、こっちの話よ…、…そういえば霊夢、私達がどこで会ったのか覚えているかしら?」
「あはは、いきなりですね。忘れられたんですか?…たしかですね、八雲藍さんがこの神社においでになりまして、『あなたが博麗の巫女様ですね?わが主があなたに会いたがっています。少しお時間よろしいでしょうか?』と言って『はい、いいですよー』と返事を返しましたら、いきなり藍さんの横の空間に亀裂がはいりまして、そこから紫様がいきなり現れたので色々とお話をー、って紫様?どうなされました?」
「…いや、なんでもないわ。…少し所用を思い出したかお暇させてもらうわね。ありがとう、お茶おいしかったわ。」
紫は隙間に足を入れた。
「またね、霊夢。また会いましょう。」
「はい。それでは」
霊夢はまたこれとない程の笑顔で手を振っていた。
「あれはおかしいわ。記憶の改ざんまでされているし。というかあの殺人的なツッコミもどうにかしてほしいわね…。」
「ああ、あのツッコミはやばい。霊夢が変になったのは誰かが人為的に霊夢をおかしくさせているとかか?」
「いや、それは無いと思うわね。霊夢の周りに漂っている気からすると、誰かが干渉しているわけでは無いみたい。だから恐らく霊夢個人になにかあったと考える方が自然よ。それと…それよりも深刻な問題があるわ。」
「なんだよ。ツッコミか?」
「違うわよ。このままだとあの子戦わなくなるから異変を解決する人がいなくなるってこと。」
「…私がいるじゃん。」
「別にそれでもいいけど、あなた一人ですべての異変を解決しなきゃいけないのよ?」
「それは…やたらめんどいな…。」
「それにあの結界、あんなに強い結界を常に周りに張っていたら妖が近づけないわ。」
「お前近づいてんじゃん。」
「私はある程度の力を持っているからね。…とりあえず魔理沙。永遠亭に行くわよ。」
「は?なんで?っってうはゃああああああああ!」
魔理沙は唐突に面白い声を上げならがら隙間へ引きずりこまれた。
「――それで私に聞きに来たのね?」
「あなたなら分からずとも何か知っているだろうと思ってね。」
「ちなみに私はおまけでついてきたようなもんだ。」
八雲紫と霧雨魔理沙は八意永琳の所へ来ていた。紫が、彼女ならなにか分かるでしょう、むふふと踏んだからである。むふふ?しかし目の前にいる薬師は困った顔をしているようだ。
「うーん…分からないわねぇ…。というかまだ信じられないくらいだわ。あの巫女がそんなことになっているだなんて…。記憶障害の類にあたるんでしょうけど本人が元気にしているみたいだし…。」
「さすがにあなたでも分からないかしら?」
「残念だけどさっぱりだわ。この問題の場合、知識よりも意外性で解決できるかもしれないわ。色んな者達に意見を聞いてみることね。」
「むう、諦めるのが早いんじゃないか薬屋?」
「黙りなさい黒白。私も姫様のことで意外と手がいっぱいなの。最近『えーりんえーりん助けてえーりん』とか言い出すようになったのよ。」
「はあ…。もう別にいいわ。ほら魔理沙、少し作戦練るから一旦戻るわよ。」
二人はまた隙間へと消えていった。
「で、何でまた神社に戻ってきてんだよ。つーかあの薬屋と話してる時間無茶苦茶短かったぞ。30秒くらい?」
「いやまぁ、ここだったら霊夢の行動もいちいち観察できるからね。」
二人はまた神社の屋根へ戻ってきていた。この神社の屋根は当然瓦が敷き詰められていて、紫いわくここで殴り合いのケンかをしたとしても下には響かないのだそうだ。つまり、上でどんな話をしようとも下には一切聞こえないので霊夢の監視をする場所としては意外と目立たないので最適な場所でもあるんだとか。
「そんなもんかねぇ。!…おい紫。」
魔理沙は門の前を見ながら言った。
「あれって早苗だよな?」
「あら?そうね。あの霊夢に対してどんな反応するのかねぇ。」
「それもそうだな。今更冗談かどうか確かめるチャンスだぜ。」
「今更それは無いと思うけど…。」
東風谷早苗は石段を登っていた。今日もいつもの巫女装束のようだ。それ以外は見た事は無いが。
早苗は紅白巫女が乗り込んできて以来、幻想郷のなんとやらを同じ人間である霊夢に教わっていた。それもあってか、最近は巫女同士としての交流も少しはするようになったのである。掻い摘んで言うと遊びに来ているのだ。
「あら?早苗さんですか?お久しぶりですね。」
遠くから話しているはずだが霊夢の声は早苗に簡単に伝わったようで、(早苗『さん』?)と魔理沙と紫同様の反応をした。
早苗は霊夢のそばへよった。
「今日はまた何をしているんですか?新しい神事ですか?」
「見ての通りですよ。石畳の上を掃除しています。今日はどのようなご用事でしょうか?」
「あっ、いや。そういうわけじゃなくって…。まぁ…たまたま麓を通る用事がありまして…。というか今日はどうなされたんですか?」
「はい?」
「いや、話し方ですよ。」
「ええ?早苗さんまでそんな事言われるんですか?紫様も魔理沙さんも早苗さんもひどいですー。」
霊夢はプンプンと怒っているフリをした。似合わないのは言う必要も無い。正直いつもは暴言を吐かない早苗でも(な、なんかキモくないですか?)とツッコミをいれていた。
「はい?紫様?魔理沙さん?」
「では、少し中へ入りますか?お茶をお出ししますので。」
「ああ、じゃあお願いします―――…。」
「――それでは、私そろそろ帰ります。神奈子様達も帰るころだと思いますので。」
「はい、皆様方にも宜しく言っておいてくださいね。それではお気をつけて。」
霊夢はにこにこしながら手を振った。つられて手を振り返した早苗。
そのまま早苗は神社を後にし石段を降りていった。
「おぅーい!さなえー!」
「はい?」
見ると黒白の魔法使いが上から飛んできたようだ。
「早苗さんやー。」
「あなたは…キノコの方の…。少し聞きたいことがあるんですけど…。」
「キノコの方って…。霊夢の事だろ?」
「あれどうなってるんですか?いつもだったら『2Pカラー』とか『るいーじー』とか必ず意味不明な事言うのに…。ていうか敬語使ってますし、完璧にいつもの霊夢さんじゃないですよ。しかも…あれじゃ若干私とキャラ被ってますよ…。そりゃあまぁ?あの性格でしたら、私としては話しやすいですし、色々と今までよりもいいお付き合いが出来るんでしょうけど…。」
「まあそういうなって私としてもよく分からないんだよ。この件については紫もお手上げらしくてなー…。」
「あの紫様までもがですか?それってかなり大変なんじゃ?」
早苗は深刻な顔つきで言った。
「まぁ霊夢の力の変化も考えると、結構まずいことではあるな。あっ、でも、この件は出来るだけ口外するなよ?」
「なんとなく分かってますよ。あの結界が常に張ってあるから妖怪の類の者が近づけないのでしょう?出来るだけ大きな騒ぎを起こさず穏便に済ませたいということもあるんでしょうが…。」
「まぁそういうことだ。理解が早くて助かるぜ。すまないんだが宜しくな。じゃ、長話はできないみたいだからな。」
「ええ、そのつもりです。では。」
「では、道中お気をつけて。」
魔理沙はにこりと微笑んだ。
「…あなたまでそうなったらなんとなく幻想郷の平均年齢が高くなりますよ?それでは。」
「手厳しいわねぇ…うふふ。」」
魔理沙はひとり微笑むフリをする。
――紫は未だ行動を起こせないでいた。結局あの後いい案が思い浮かばず、埒があかなくなってきたのでとりあえず博麗神社を後にしたのだったのだ。その折に早苗と話し終わって戻ってきた魔理沙を捕まえて、我が家へと戻ってきた。
家へ帰ると藍が「客人を迎えるときは言ってくださいよ。」とか言ったのだが、「客人じゃないわ旧友よ」と紫は返した。後ろで魔理沙が何か言っているが気にしない。
「――さて、なんで私はこんな所に居るんだ?」
「作戦本部よ。」
「いやいや。なんでその『作戦本部』とやらに私が居るんだっての。今すぐ帰らせろ。眼鏡かち割るぜ?」
魔理沙は不満を表情一杯に出して言った。
「まぁいいじゃないのよ。てか眼鏡かけてないし…。帰るのもめんどくさかったでしょう?」
「それもそうだけど…。」
「と、言うわけであなたと行動を共にするのは私にとっては今回必然なのよ。」
「ここに泊まれというか?」
紫は首を縦に振り、魔理沙はそれを見て、はぁ?といった顔をし、何か意味あるのかよ、と聞いた。
「今回の件は妖の類が近づけない事があるから人間が居ないといけないのよ。というわけで宜しく。」
「…じゃあ美味いものだ。腹がふくれればそれでいいぜ。」
「それに関しては藍がいるから問題ないわ。客人をもてなすのは人としての礼儀でしてよ。」
「お前人かよ。」
「お前…すげーな…。」
魔理沙は素直に驚いていた。目の前に次々と並べられていく食べ物が普彼女が口にしないような代物ばかりだったからである。先ほど橙が「藍様のお料理は幻想郷でも指折りなんですよー。楽しみにしといて下さいね、エヘンッ」と言っていたのだがなるほどこの腕ならばうなずける。その一つ一つは見かけではない。心もはらわれているようだ。色とりどりの料理が次々と並べられる。
「こんなに食って良いのか…?」
「あなたがちゃんと今回の件について働いてくれるのならいくらでも食べるがいいわ。というか、作ってるのは藍だし。」
「よっ。流石だな。こんだけ長いこと生きてるとやっぱり物の見方もだいぶ違うんだな。ババァは違うぜ…。」
「…あなたもこの食卓に並びたいのかしら?」
「ははっ。冗談。」
紫は鉄板をも貫くような鋭い眼光で魔理沙を睨み付けた。
「――見た目だけじゃないのな。これはいけるぜ。」
「まぁ人間の口にあったみたいでよかったよ。」
魔理沙ががつがつと食事を食べるのを見て狐目の女が言った。
「そもそも人間がこの家に来るのは初めてだよ。」
「へぇ?そもそもこの家は一体どこにあるんだ?私はまだ外を見てないんだが。」
「そんな事は気にするな。結界の境界にあるのかもしれないし、もしかすると幻想郷の中でもないのかもしれない。」
「お前も知らないのか?」
「さぁてね。」
「さて、じゃあ魔理沙はどこで寝かすかしら?」
いきなり紫が話題を断ち切ってきた。
「おいおい唐突だな、別に私は寝なくてもいいんだぜ?魔法使いという職業柄寝ないことも多いしな。」
「寝不足で思考を鈍らせてもらっては困るわ。そうね――。」
「――で、なんで私がお前らと寝てるのか。それを聞きたいんだが…。」
霧雨魔理沙はなぜかしら妖怪の式2匹と共に寝ていた。襖から見て橙、藍、魔理沙の順番で床についている。
こんな所を紅い屋敷の根暗とか、同じ森に住む人形大好きのファンシーちゃんに見つかったら殺されかねんなやれやれと魔理沙は横になりながら考えていた。
「まぁたまにはいいじゃない。話をしたかったの。」
「はぁ?紫の居る所じゃ出来ない話とかか?」
「そうね。紫様の話といえばそう。。」
「ババァの話なんかしたくないんだが。」
「まぁ黙ってなさい。普段話す機会なんてほとんど皆無なんだから。」
「そうかい。」
藍は天井を見ながら静々と語り始めた。ちなみに橙が会話に入ってこないのは、布団にもぐってものの10数秒で眠ってしまったからである。その際に「はやっ!」と言われたのは言うまでもないことだ。
「さて、今回の霊夢の豹変振りに関してなんだけど――、ああ、私も紫様の眼を通して無理やり見せられたから大体の現状は把握してるわ。あのありえないほど素直で妙に気が利いて恐ろしいほどツッコミの破壊力が凄くて、弾幕を撃たないであろう紅白巫女ね。あの霊夢を見て紫様はどうしようか迷っているみたいなのよ。」
「あ?何をだよ?」
「勘が悪いわね・・・。『博麗霊夢を元に戻す行動を起こすか』よ。霊夢はもう幻想郷に欠かせない人間となっているわけなんだけど巫女としての成績は散々となっているわ。でも今の霊夢なら多分いい巫女になれる。しかもほぼ普通の人間として生きていけるのよ。まぁつまり紫様としては「普通の女の子として生きてほしい」ってゆう風にお考えなのよ。正直、霊夢の事が好きな紫様は彼女に幸せになってもらいたいと――・・・ってどうした?」
魔理沙はとても渋い顔をしながら隣に横たわる藍を見ていた。
「そんなの理由にもならねーだろ。そんなことだったらまだチルノのほうが真っ当な回答を出すと思うぜ。下らない、本当に下らないと思うね。そもそも意味が分からない。何が言いたいのかもさっぱり分からない。第一幻想郷はゆっくりと変わっていくべきだし、第一今の霊夢はかなり私としては絡み辛い。前の霊夢の方が私にはあってる。私は今の幻想郷が好きで、そのフレームに収まる人々も好きだ。…だからだ、私は誰がなんと言おうと霊夢を元に戻す。私は軽い気持ちで皮肉を言い合える『博麗の巫女』の親友なんだよ。敬語を使われて、ましてや気が利きすぎて、まともに世間話も出来ない霊夢なんて霊夢じゃないね。私はいちいち気だるそうな博麗霊夢の隣で笑っていたいんだよ。いい加減な見解で他人の幸せなんて決めるなてめぇの生き方はてめぇで決めろ。生き続けるものに枠を作るな。皮肉を言い合って、たまに弾幕ごっこしたり。……それが私の出した『回答』だ。どうよ。」
藍は安心したような顔をした。
「そうか…お前がそう言うなら問題なさそうだな…。というか若干キモイ感じもしたけど…。ただこれだけは言っておかしてくれ。紫様ほどこの幻想郷を愛しているお方は居ない。お前の言う『当たり前の風景』のある幻想郷がとんでもない位好きなんだ。…それに収まる霊夢も例外じゃないんだよ。……ああもう!なかなか言葉にするのが難しいな。つまりだ、『崖っぷちの平和を保つ幻想郷』が元の博麗霊夢。『完全な平和を持つ幻想郷』が今の博麗霊夢なんだが…、紫様としては元の霊夢の方が好ましいみたいなんだよ。だからこそだ、今の不安定な紫様の背中を押せるのはお前しか居ない。そうじゃないか?」
「ババァの背中を押すと腰を悪くしそうだな…。」
「…一応肯定として受け取っておく。紫様の事を頼んだぞ。」
「勝手に任されても困るんだけどなぁ…。」
「バックジャーマンンフゥ…ドリクバァ…。マッカーサァ…。」
いきなり藍と魔理沙の会話に明らかな第三者の声が入ってきた。勿論、言葉として受け取れない声だ。勿論?
「橙?…ああいけないな。そろそろ寝るか。」
「そうだな。流石の私もだるくなった…。つーか今の寝言なんだよ…。」
「おやすみ」とは言わなかったらしい。すぐに寝息が聞こえ始めた。
前半部のノリはわりと面白かったです。