香霖堂の主人、森近霖之助。
彼は苦悩していた。魔理沙も店の日陰で避暑しに来ている。できているかは疑問だが…。
「このままでは、香霖堂が潰れてしまう…。」
「そうだろうなあ…。」
そう。霖之助の店、香霖堂の商品がここ最近全く売れないのである。
最終的にはこの店自体を売りに出さなければならない。
しかしこの店の売上が霖之助の大方の収入源なのだ。
店を売りに出すということは一時しのぎにしかならないだろう。
わかりきった質問を霖之助は魔理沙に投げかける。
「どうして売れないと思う?」
「そりゃ客が入ってこないからじゃないかー?それより飲み物をー…。」
魔理沙の言うとおりだ。ちなみに基本的に売るためのアイスや飲み物は置いていないから無視。茶葉ならいくらか置いてあるが、そんなものを求めているわけではないのだろう。
今は夏。
この暑い中、誰も好き好んでこんな所へ来たりはしない。
常連である客(霊夢や魔理沙は含まない。)も同様だ。
それでも魔法の森から出てくる者達はいるのだが、ここへ足を踏み入れる様子は全く無い…。
魔法の森へ行く人も同じくここへ入る様子はない。
「なんで入ってこないのか分かってるか?香霖。」
「暑い…からだろうな。」
「そうだよ。風通しが悪くて気持ちが悪いぜ。」
外から流れて来たものを運び込んでは無造作に店の中や倉庫の中に置く。
ということは自然と風通しは悪くなる。
「そこの道具も窓の光を反射して暑いし…。」
窓からの直射日光を受け、照り返スもの、中には熱を持つものもある。
「ここは日陰だから少しは外よりマシだが日の当たってるところは外より暑いかもな…。」
確かにそうだ。
幻想郷にも夏場に外より暑い場所へ買い物しに来る変わり者はいないということだ。
避暑できるようなところではないところへ避暑しに来た者はいるが…。
「それにさ、ここ散らかってて足場が狭いんだよ。絶対整理したら広くなるぜ?」
無造作に置くということによって、デッドスペースが多くなり、足場という客の入る場所を無くす。
客の入れる人数も減るし、外からみても混雑しているようにも見えて入り辛くなるかもしれない。
「こりゃあ来ないわけだ…。」
「じゃあ今まで夏はどうしてたんだ?」
「開店当初の資産と冬の売上を使ってやり繰りしてた…。」
「閉店間近だな。香霖堂も。」
「いや、今考えた問題を解決すれば客が来るはずだ。」
そうだろう?と付け加えてやる。
「まあ店内の整理くらいならできるだろうな。」
手伝う気は全くと言っていいほどないようだ。
「金輪際、八卦炉を修理しなくていいのなら手伝わなくてもいいが…。」
「いや、そりゃないぜ?それは困る。本当に困る。」
それを聞いた途端に慌てふためく魔理沙。暑い中でも面白い反応を見せてくれものだ。
「じゃあ少しは手伝ってくれる―――」
カランカラン。
鐘の音がした。
「いらっしゃいませ!」
普段なら絶対見せないような笑顔で霖之助は来訪者を迎える。
「霖之助さん、何かあったの…?」
来店したのは霊夢だった。
この世のものではないものを見たような驚いた表情で魔理沙に問う。
「閉店間近になったから気がふれてるんだ。」
「なるほど…。それは可哀想に…。」
とそんな小声の会話を耳にして一気に不機嫌になる霖之助。
「なんだ霊夢か…。」
「なんだとは失礼ね。売上に貢献しに来たかもしれないのよ?」
「それは貢献すると受け取っていいのか…?」
・・・・・
霊夢は黙り込んだ!
霖之助も黙り込んだ!
5分後…。
結構嫌な空気が流れる中、沈黙を破ったのは魔理沙だった。
「買い物しに来たんじゃないなら霊夢に整理を手伝ってもらえばいいんじゃないか?」
「霊夢にも、ならわかるけど霊夢に、とはどういうことよ?」
「言葉のあやだぜ。」
そんな水かけ論を始める二人。
霊夢はなにをしにここに来たんだろう?
「私は用事があってここに来たのよ?」
「心でも読んでるのか君は…。それで、用というのは?」
「避暑。のつもりだったんだけど、ここも暑いわね…。」
「じゃあ霊夢にも整理を手伝ってもらうことにしよう。」
「え?どうしてよ?」
「魔理沙もその理由でここに来たからね。」
・・・・・
霊夢は飛び去った!
「しまっ…。」
霖之助は呆気にとられたが、箒に乗った魔理沙が追いかけて行った。
「逃がさないぜ。」
「ゲッ、魔理沙…。」
「こっちは八卦炉の修理がかかってるんだ。少しでも早く終わらせたいしな。」
魔理沙のおかげで霊夢を確保。
それでも嫌がるのでなけなしの金で買っておいた玉露で買収した。
「整理するといってもどうやってすればいいの?」
「難しいことはない。売れそうなものと以外をとりあえず倉庫の中へ運べばいいだけさ。」
以外と作業はスムーズに進行した。
暑い中ダラダラやるのは精神的に良くないと三人は判断し、休むことなく作業を進めていく。
そして倉庫の中は案外涼しかった。
窓などが一切なく、完璧に密閉された空間というのは気温がそれほど高くないものだ。
「これで最後だぜ、っと。」
「お疲れ様。すぐ終わったじゃないか。」
「少しは風通しも良くなったみたいだな。」
「私たちのおかげね。倉庫の中で少し涼みたいわ…。」
「どうぞ。おっと、火を灯すと気温が上がるから灯さない方がいい。」
わかったわ、と相槌をうって倉庫へ向かう。
残念ながらさっき道具を運び込んだせいでスペースがあまりなく、一人しか入れなかった。
「霊夢だけずるい…。香霖飲み物ー。」
「だから冷たい飲み物は置いてない―――」
冷たい飲み物。
そうか。二度目にして気づいた。
これがないのは店としてどうなのだろう。
喫茶店にしたいわけではないが、確かに…。
「それくらい用意していいか…。」
「その方が客の入りも良くなるぜ。冷やかしも増えるかもしれないが。」
「そうするか…。いや、すぐに常温ほどになってしまうんじゃないか?」
この暑さの中だ。
風通しがいくら良くなったとはいえ、すぐに冷たくなくなるのは目に見えている。
「それならこの前拾って来た冷蔵庫とかいうのに入れてみればいいんじゃない?」
霊夢が倉庫から戻ってきたらしく、そんなことを言う。
「確かにあれは物を冷やすためのものらしいが、使い方がわからないからどうしようも…。」
「なら氷を入れればいいじゃない。普通の木箱なんかに入れておくより長持ちしそうだけど?」
「そこの倉庫なら閉め切っておけばある程度涼しいから氷も長持ちすると思うぜ。」
「なるほど…。」
それは名案だ。
たしかにそれなら長持ちもするし、冷蔵庫も結構な量の物が入る。
というかなんで僕はこんな簡単なことに気付かなかったんだ…?
何故かいくつかにあける部分が分割されているのが難点ではあるが…。
その後霊夢から「店の周りに打ち水をすれば?」とか、魔理沙からは「魔法の森からここまでに水を撒いておくいいんじゃないか?」なんてアイディアも出た。
飲み物を売るというのはまた後日の話となったが、それに向けての看板作りや先ほど言われた水撒きなどをしていた。これは二人とも涼しいからなのか楽しいからなのか率先して手伝ってくれた。
「二人とも今日はありがとう。本当に助かったよ。」
これまた普段は見せないような柔らかい笑みで霊夢と魔理沙の二人に礼を言う。
「感謝されて当然だぜ。今日は疲れたからここで寝ることにするぜ…。」
「玉露忘れないでね?私も今日はここに泊ることにしようかな。」
「構わないけど、寝るところはどうするんだ?」
「そんなの霖之助さんの寝ているところに決まってるじゃない。」
まあ、そうなるだろうなとは思っていたけど。
今日くらいは許してあげよう。
二人はすぐに眠っていた。
店の繁栄に貢献してくれた二人だ。
今日ぐらいは感謝しよう。
窓際に立って夜空を見上げる。
月がなくて、天の川が霖之助の目には美しく映った。
そこに流れ星が流れ、心から霖之助は願った。
「二人が幸せでありますように。」
一週間後。
香霖堂は今までに見たことがないほどの大盛況だった。
常連はもちろんのこと、涼みに入る人、妖怪も見られて、面白がって道具を買っていく者も増えた。
香霖堂が潰れるという危機もあっという間に去っていった。
これもあの二人のおかげだと霖之助は思う。
カランカラン…。
鐘の音がする。
「いらっしゃい。二人とも。」
霖之助は今までに見せたことのない柔らかな笑顔で二人を迎え入れた。
「よぉ、香霖。盛況じゃないか。」
「こんにちは、霖之助さん。お店の景気は良いようね。」
「これも二人のおかげさ。なにか飲んでいくかい?」
「気が利くじゃないか。じゃあ私は―――――
流れ星への願いをもう少し欲張っていいだろうか?
「私と二人が幸せでありますように…。」
香霖堂は今日も平和だ。
ただ、誤字が何箇所かありましたね、そこ注意です。いくらその話の世界にのめりこんでいても、誤字という外界の要素によって一気に現実に引き戻されます。
話の内容に関しては香霖ならこんぐらい普通に一人でも思いつきそうなもんだけどなぁ。って感じで、キャラに違和感がありすぎでしたのでこの点数。これからもがんばってくださいね。
正確には私ではなく僕です。
キャラクターの言動にも違和感があったので低めにさせてもらいます。
次回作があるなら是非読みたいです。