「なにか楽しいことはないかしらねー?」
要石に乗って浮かんだまま、天子は考える。
悩みを反映してか、要石はくるくる回る。
「迂闊に何か起こすと懲らしめられるのよね」
まったく、と言って唸ってしまう。
「私が手加減してるからいいものの……」
ぶつぶつと文句は澄んだ空気に消えていく。
「まぁあれだわ、要は別段なにかしなくても、みんなが構ってくれればいいのよね」
なにか思い立ったかのように、立ち上がる。
「じゃあ、とりあえず、下界に降りることにしましょうか」
そう言って、また要石に座り、移動を始める。
天子の一日が始まる――
「なんでもあるのね、ここ」
天子が話しかけたのは、あまりにも整理されてない家の持ち主で読書中の霧雨魔理沙だった。
「お前、いきなり現われるなよな」
「なんか失礼な生物と一緒にされた気がするわ」
目を瞑り、拳を震わせ、なんとか怒りを流そうとする。
「まぁ、なんだ、そこは気にするなよ」
「気にするわよっ! ……って何読んでるの? あなたらしくない」
先ほどのお礼と言わんばかりの皮肉が魔理沙に飛ぶ。
本人は率直な感想だったのだが。
「さすが、それは凹むぜ……私だって魔法使いなんだからな……自称だけど」
そうまだ彼女は捨虫の魔法を使っていない……いわば、普通の人間にカテゴライズされる人種なのだ。
普段の行動と容姿を含め、そうは見えないけれど。
「それより、なにを読んでるのか聞いたのよ」
落ち込んだセリフをさっさと流し、自分の質問の答えを強請る天子。
「ああ、これな……パチュリーのトコから借りてきたやつなんだが」
窓枠から身を乗り出して、天子は本をのぞこうとする。
「パチュリー? そういえば、そんな図書館の精もいたわね」
「精じゃねぇよ、魔法使いだ」
「そうともいうわね」
「そうとも言わないぜ……お前それより入ってこいよ」
魔理沙が先ほどから口にしたかったことをようやく口にする。
「そうね……遠慮するわ、だって入れなそうだもの、これ」
天子が指したのは自身が乗っかっている要石。
「お前な……外に置いとけばいいだろうに」
「いやよ、盗まれでもしたら困るもの」
それを受けて、はいはい、と魔理沙は呆れる。
「じゃあ、見づらいだろうが、そこで見とけよ」
「ええ、軽い説明もしてもらえるかしら?」
「ったく、贅沢なやつだな」
魔理沙はしおりを挟んで、ページを始めに戻していく。
「これはだな、外の世界の人生談みたいなものなんだよ」
「人生談? それがなんになるというの?」
「どんなものでも知識には変わりないんだよ」
本を優しくなでる魔理沙。
「それがおろかな人の人生だっていい……そこからなにから掴めるかもしれな……」
ふと振り向いた先に、天人の姿はすでになかった。
「あのやろ」
「魔理沙はなんか、つまんなかったわねー」
要石は幻想郷の空を飛んで行く。天子を乗せて。
「さて、次はどこにいこうかしら?」
「あら、ここにも巫女がいるのね」
天子が降り立ったのは妖怪の山。そこにある守矢神社である。
神社では少女が一人、もくもくと掃除に専念している。
天子は要石から降りて、巫女に近づいて行く。
「ねぇねぇ、あなた名前はなんというのかしら?」
「はい? あ、参拝の方ですか?」
「いいえ、そうではないのだけど……」
「そうですか……」
少女はなんだか残念そうにしている。
「久しぶりにちゃんとした人間の方が来てくれたのかと思ったのに」
「人間? あながち外れでもないような」
いかにいも、ちゃんとした人間からは外れてますと言わんばかりの返答。
それに少女は首を傾げるも、なにか思いついたように、言葉を発する。
「あ、自己紹介が遅れましたね。私、ここの守矢神社で巫女を務めている、東風谷早苗、と申します」
「早苗か、いい名前ね」
天子は早苗と名乗った少女をまじまじとみる。
「ありがとうございます。……な、なんでしょうか?」
少しばかりの沈黙。それを破ったのは天子の一言。
「霊夢の緑バージョンね」
衝撃を受けたかのように、箒を手放す早苗。
「名前も知らぬ方、失礼ですが、天に召す準備はできましたでしょうか?」
早苗からのいきなりすぎる宣戦布告。
でも、天子はそれを受け流す。
「残念ね、私、死神に嫌われてるもの。それには応えられないわね。さっきの発言が気に障ったのなら、謝るわ。ただ、率直な感想だったの」
佇まいを正し、早苗に向き合う天子。
「……あ、そうなんですか」
「そうよ。自己紹介が遅れてごめんなさいね。私は比那名居天子、天人よ」
「天神さまですか?」
なにかニュアンスのずれる2人。
「そう、結構偉いわよ」
「そうですか。私の方こそ、失礼しました」
「別にいいわよ、慣れてるもの」
「ここにも神様がいらっしゃいますよ。お会いになられますか? 今呼んできますね」
「え、あの……ちょっと」
天子の声では止まらず、早苗はそのまま本殿のほうへと行ってしまう。
「なんかおかしな子ね」
そう、天子は首を傾げるのだった。
「神奈子さまに、諏訪子さま、こっちですよー、ってあれ、いませんね?」
「どうしたの早苗?」
小さな影――洩谷諏訪子が早苗に問う。
「さっきまではいたんですが……いないですね、比那名居さま」
「ホントに神様だったのかい?」
早苗に神奈子と呼ばれた少女?が疑問を投げる。
「たしか、天神と言っておられましたが……」
それを聞いて、溜息をつく2柱の神。
「な、なんなのですか? 神奈子さまも諏訪子さまも!」
「あれは常識に囚われすぎね」
相変わらず要石に乗った天子は幻想郷を行く。
「まだ行ってないトコにいってみようかしら?」
「暗いわね……要石をぶつけそうだわ」
話に聞いていた通り、と言わんばかりに、うんうんとうなづく天子。
「さてと、もうすぐのはずね……見えた、あれが地霊殿ね」
入口について、要石を降り、扉を開ける天子。
中に入っていくと、そこは広間だった。要石は天子の後ろをついている。
「ようこそ、地霊殿へ」
声のするほうは真正面だった。
「あなたが……」
「さとりです。古明地さとり。ザッツライト」
「私、」
「まだ何もいってないわよ、ガール」
「あの、」
「マイ能力を聞きたいですって? ええ、答えてあげるわ。心を読む能力よ、比那名居天子さんとその要石――ケルベロスMk-Ⅱ」
「え?」
驚いて、要石の方へ振り向く天子。
「あ、ガール、そこにいるのが、マイシスターこいしちゃんなんだぜ」
ケルベロスMk-Ⅱもとい要石に乗っかってるこいし。
「なんで」
「ホワイ?」
フラストレーションがたまり始める天子。
「さて、冗談もこの辺にしましょうか」
「そうね、私がもうもたないわ」
「あ、ちなみに、こいしの能力は無意識を操る程度の能力ですので」
「ことごとく疑問を答えてくれるのね」
はぁ、とため息をもらす。
「えぇ、そういう能力ですから」
「……!」
「いいことがひらめきました」
ぽんと手を叩くさとり。
「いや、そこまで真似されると嫌なんだけど」
「では考えだけ読むようにしましょう」
以下、さとりの読心。
「あ、ダメです、そんなこと」
「そう言っても逃げてないでしょう、あなた」
「そ、そんな……動けないだけですっ!」
「嘘ばっかり……あなたのことなんてお見通しなんだから」
「……くっ!」
「さぁ体を預けるのよ……いい気分にしてあげるわ」
「あ、ダメ……」
「ほら、こことか気持いいでしょう?」
「んっ」
「素直にならないと続けないわよ」
「そんなぁ」
「どうしてほしいのよ、いってみなさい」
「私、もっと……気持ち良くなりたいです」
「ふふっ、ならそこをひらき」
「……意外と下品なんですね、天人とは」
「勝手に読まれてて、そこまで言われるのは不愉快だわ」
地面を叩く靴の音が不快に比例して高くなっていた。
「ああ、もう」
「あら、お疲れのようですね」
「ええ、あなたのせいで」
都合の悪いことは言わないのね、と呟く。
「こいし、どいてあげなさい。天子さんは帰るようですよ」
「えー、つまんなーい。まだ遊ぶー」
「ケルベロスMk-Ⅱも疲れてますから」
「まだそのネタ引っ張ってたんだ……」
がくりと肩を落とす天子。
「なんか疲れたわね、精神的に」
心なしか、要石もふらついているよう。
「もう、帰ろっか」
何気なく、要石を撫で、高度を上げていく。
「衣玖ー? 帰ったよー」
紫の衣を纏った人――永江衣玖を振り向かせる。
「総領娘様、今までどこにいらしたんですか?」
「ちょっと下界のほうに、ね」
「行くなら行くで一言言っておいてください。私がどれだけ、総領様に文句を言われたことか」
あ、文句が長そう。そう思った天子は
「あそこで話そうよ、衣玖っ!」
文句の続く衣玖の手を引っ張り駈け出して行く。
「ちょっと、総領娘様!?」
天子たちがやってきたのは、天界の一角。
それも下界を見渡すのに、一番いい場所である。
「またここですか」
「そうよ、ダメ?」
「いえ、もう来てしまったのですから……」
「衣玖は優しいね」
吹いた風に帽子を押さえながら、天子は遠くを見る。
「いきなりなんですか、もう」
衣玖も同じように遠くを見つめる。
「私さ、今日いろんな人に会ってきたよ」
「そうなのですね。どうかされました?」
天子から笑いが零れる。
「んー、おかしい人たちだったよ!」
でも、それもすぐ消えてしまう。
「でもね、なんか足りないんだ」
天子は衣玖の横顔を盗み見る。
「楽しさやおもしろさはあっても、足りない気がして」
こんな時、地下で出会ったさとりがいたら、代弁してくれたんだろうな、とか思いながら。
「衣玖はそんなことない?」
「私は……総領娘様だけで手一杯ですから」
「ちょっと、それってどういうことよ」
怒ったかのように片手で、衣玖を振り向かせる天子。
でも衣玖は笑顔を保ったまま話す。
「ええ、ですから、私は総領娘様だけで十分なのですよ」
胸に手を当てて、しみじみと告げる。
「はぁ、もうちょっと空気読みなさいよ、衣玖」
「あれ、私、変なこと言いましたか?」
「なんでもないわ」
また遠くを見つめ直す天子。
「あなたって、私の友達よね?」
「いきなりなんですか?」
「答えてちょうだい!」
力強く叫ぶ天子。
「私なんかが総領娘様の友達ですか……」
一息ついて天子の目の前に立つ衣玖。
「それはとても嬉しいです。私は単なる従者なのかとばかり」
「だって、それは父様たちが、そういうものだって言うから……でも!」
言葉を一度切って、もう一度。
「今日、魔理沙の家で見た本には、長く一緒にいてくれる人が友達だって書いてあったわ! だから、私、てっきりそうなのかと……」
天子の言葉は段々と勢いを失くしてしまう。
それを聞いてか、優しく天子を抱きしめる衣玖。
「総領娘様がそう思ってくれるなら、私はそれでいいですよ。私もそうがいいですから」
頭を埋めたまま、顔を見せないようになにか細々と言う天子。
「……なら、言いな……さい、よ」
「ん、何をですか?」
天子の表情を見ようとする衣玖。
それに合わせて、顔を上げて言う天子。
「だから、私の名前を呼びなさーいっ!!!!!!!!」
「くく……」
「なにがおかしいのよ!」
むくれ顔で衣玖に問う。
「なんでもないですよ、天子様」
「……っ!!!」
また天子は衣玖の体に顔を埋めてしまう。
「どうかされました? あ、そうそう。総領様たちの前では総領娘様とお呼びしますからね?」
そこは大事です、と呟く衣玖。
「まったくもう、相変わらずなんだから」
要石に乗って浮かんだまま、天子は考える。
悩みを反映してか、要石はくるくる回る。
「迂闊に何か起こすと懲らしめられるのよね」
まったく、と言って唸ってしまう。
「私が手加減してるからいいものの……」
ぶつぶつと文句は澄んだ空気に消えていく。
「まぁあれだわ、要は別段なにかしなくても、みんなが構ってくれればいいのよね」
なにか思い立ったかのように、立ち上がる。
「じゃあ、とりあえず、下界に降りることにしましょうか」
そう言って、また要石に座り、移動を始める。
天子の一日が始まる――
「なんでもあるのね、ここ」
天子が話しかけたのは、あまりにも整理されてない家の持ち主で読書中の霧雨魔理沙だった。
「お前、いきなり現われるなよな」
「なんか失礼な生物と一緒にされた気がするわ」
目を瞑り、拳を震わせ、なんとか怒りを流そうとする。
「まぁ、なんだ、そこは気にするなよ」
「気にするわよっ! ……って何読んでるの? あなたらしくない」
先ほどのお礼と言わんばかりの皮肉が魔理沙に飛ぶ。
本人は率直な感想だったのだが。
「さすが、それは凹むぜ……私だって魔法使いなんだからな……自称だけど」
そうまだ彼女は捨虫の魔法を使っていない……いわば、普通の人間にカテゴライズされる人種なのだ。
普段の行動と容姿を含め、そうは見えないけれど。
「それより、なにを読んでるのか聞いたのよ」
落ち込んだセリフをさっさと流し、自分の質問の答えを強請る天子。
「ああ、これな……パチュリーのトコから借りてきたやつなんだが」
窓枠から身を乗り出して、天子は本をのぞこうとする。
「パチュリー? そういえば、そんな図書館の精もいたわね」
「精じゃねぇよ、魔法使いだ」
「そうともいうわね」
「そうとも言わないぜ……お前それより入ってこいよ」
魔理沙が先ほどから口にしたかったことをようやく口にする。
「そうね……遠慮するわ、だって入れなそうだもの、これ」
天子が指したのは自身が乗っかっている要石。
「お前な……外に置いとけばいいだろうに」
「いやよ、盗まれでもしたら困るもの」
それを受けて、はいはい、と魔理沙は呆れる。
「じゃあ、見づらいだろうが、そこで見とけよ」
「ええ、軽い説明もしてもらえるかしら?」
「ったく、贅沢なやつだな」
魔理沙はしおりを挟んで、ページを始めに戻していく。
「これはだな、外の世界の人生談みたいなものなんだよ」
「人生談? それがなんになるというの?」
「どんなものでも知識には変わりないんだよ」
本を優しくなでる魔理沙。
「それがおろかな人の人生だっていい……そこからなにから掴めるかもしれな……」
ふと振り向いた先に、天人の姿はすでになかった。
「あのやろ」
「魔理沙はなんか、つまんなかったわねー」
要石は幻想郷の空を飛んで行く。天子を乗せて。
「さて、次はどこにいこうかしら?」
「あら、ここにも巫女がいるのね」
天子が降り立ったのは妖怪の山。そこにある守矢神社である。
神社では少女が一人、もくもくと掃除に専念している。
天子は要石から降りて、巫女に近づいて行く。
「ねぇねぇ、あなた名前はなんというのかしら?」
「はい? あ、参拝の方ですか?」
「いいえ、そうではないのだけど……」
「そうですか……」
少女はなんだか残念そうにしている。
「久しぶりにちゃんとした人間の方が来てくれたのかと思ったのに」
「人間? あながち外れでもないような」
いかにいも、ちゃんとした人間からは外れてますと言わんばかりの返答。
それに少女は首を傾げるも、なにか思いついたように、言葉を発する。
「あ、自己紹介が遅れましたね。私、ここの守矢神社で巫女を務めている、東風谷早苗、と申します」
「早苗か、いい名前ね」
天子は早苗と名乗った少女をまじまじとみる。
「ありがとうございます。……な、なんでしょうか?」
少しばかりの沈黙。それを破ったのは天子の一言。
「霊夢の緑バージョンね」
衝撃を受けたかのように、箒を手放す早苗。
「名前も知らぬ方、失礼ですが、天に召す準備はできましたでしょうか?」
早苗からのいきなりすぎる宣戦布告。
でも、天子はそれを受け流す。
「残念ね、私、死神に嫌われてるもの。それには応えられないわね。さっきの発言が気に障ったのなら、謝るわ。ただ、率直な感想だったの」
佇まいを正し、早苗に向き合う天子。
「……あ、そうなんですか」
「そうよ。自己紹介が遅れてごめんなさいね。私は比那名居天子、天人よ」
「天神さまですか?」
なにかニュアンスのずれる2人。
「そう、結構偉いわよ」
「そうですか。私の方こそ、失礼しました」
「別にいいわよ、慣れてるもの」
「ここにも神様がいらっしゃいますよ。お会いになられますか? 今呼んできますね」
「え、あの……ちょっと」
天子の声では止まらず、早苗はそのまま本殿のほうへと行ってしまう。
「なんかおかしな子ね」
そう、天子は首を傾げるのだった。
「神奈子さまに、諏訪子さま、こっちですよー、ってあれ、いませんね?」
「どうしたの早苗?」
小さな影――洩谷諏訪子が早苗に問う。
「さっきまではいたんですが……いないですね、比那名居さま」
「ホントに神様だったのかい?」
早苗に神奈子と呼ばれた少女?が疑問を投げる。
「たしか、天神と言っておられましたが……」
それを聞いて、溜息をつく2柱の神。
「な、なんなのですか? 神奈子さまも諏訪子さまも!」
「あれは常識に囚われすぎね」
相変わらず要石に乗った天子は幻想郷を行く。
「まだ行ってないトコにいってみようかしら?」
「暗いわね……要石をぶつけそうだわ」
話に聞いていた通り、と言わんばかりに、うんうんとうなづく天子。
「さてと、もうすぐのはずね……見えた、あれが地霊殿ね」
入口について、要石を降り、扉を開ける天子。
中に入っていくと、そこは広間だった。要石は天子の後ろをついている。
「ようこそ、地霊殿へ」
声のするほうは真正面だった。
「あなたが……」
「さとりです。古明地さとり。ザッツライト」
「私、」
「まだ何もいってないわよ、ガール」
「あの、」
「マイ能力を聞きたいですって? ええ、答えてあげるわ。心を読む能力よ、比那名居天子さんとその要石――ケルベロスMk-Ⅱ」
「え?」
驚いて、要石の方へ振り向く天子。
「あ、ガール、そこにいるのが、マイシスターこいしちゃんなんだぜ」
ケルベロスMk-Ⅱもとい要石に乗っかってるこいし。
「なんで」
「ホワイ?」
フラストレーションがたまり始める天子。
「さて、冗談もこの辺にしましょうか」
「そうね、私がもうもたないわ」
「あ、ちなみに、こいしの能力は無意識を操る程度の能力ですので」
「ことごとく疑問を答えてくれるのね」
はぁ、とため息をもらす。
「えぇ、そういう能力ですから」
「……!」
「いいことがひらめきました」
ぽんと手を叩くさとり。
「いや、そこまで真似されると嫌なんだけど」
「では考えだけ読むようにしましょう」
以下、さとりの読心。
「あ、ダメです、そんなこと」
「そう言っても逃げてないでしょう、あなた」
「そ、そんな……動けないだけですっ!」
「嘘ばっかり……あなたのことなんてお見通しなんだから」
「……くっ!」
「さぁ体を預けるのよ……いい気分にしてあげるわ」
「あ、ダメ……」
「ほら、こことか気持いいでしょう?」
「んっ」
「素直にならないと続けないわよ」
「そんなぁ」
「どうしてほしいのよ、いってみなさい」
「私、もっと……気持ち良くなりたいです」
「ふふっ、ならそこをひらき」
「……意外と下品なんですね、天人とは」
「勝手に読まれてて、そこまで言われるのは不愉快だわ」
地面を叩く靴の音が不快に比例して高くなっていた。
「ああ、もう」
「あら、お疲れのようですね」
「ええ、あなたのせいで」
都合の悪いことは言わないのね、と呟く。
「こいし、どいてあげなさい。天子さんは帰るようですよ」
「えー、つまんなーい。まだ遊ぶー」
「ケルベロスMk-Ⅱも疲れてますから」
「まだそのネタ引っ張ってたんだ……」
がくりと肩を落とす天子。
「なんか疲れたわね、精神的に」
心なしか、要石もふらついているよう。
「もう、帰ろっか」
何気なく、要石を撫で、高度を上げていく。
「衣玖ー? 帰ったよー」
紫の衣を纏った人――永江衣玖を振り向かせる。
「総領娘様、今までどこにいらしたんですか?」
「ちょっと下界のほうに、ね」
「行くなら行くで一言言っておいてください。私がどれだけ、総領様に文句を言われたことか」
あ、文句が長そう。そう思った天子は
「あそこで話そうよ、衣玖っ!」
文句の続く衣玖の手を引っ張り駈け出して行く。
「ちょっと、総領娘様!?」
天子たちがやってきたのは、天界の一角。
それも下界を見渡すのに、一番いい場所である。
「またここですか」
「そうよ、ダメ?」
「いえ、もう来てしまったのですから……」
「衣玖は優しいね」
吹いた風に帽子を押さえながら、天子は遠くを見る。
「いきなりなんですか、もう」
衣玖も同じように遠くを見つめる。
「私さ、今日いろんな人に会ってきたよ」
「そうなのですね。どうかされました?」
天子から笑いが零れる。
「んー、おかしい人たちだったよ!」
でも、それもすぐ消えてしまう。
「でもね、なんか足りないんだ」
天子は衣玖の横顔を盗み見る。
「楽しさやおもしろさはあっても、足りない気がして」
こんな時、地下で出会ったさとりがいたら、代弁してくれたんだろうな、とか思いながら。
「衣玖はそんなことない?」
「私は……総領娘様だけで手一杯ですから」
「ちょっと、それってどういうことよ」
怒ったかのように片手で、衣玖を振り向かせる天子。
でも衣玖は笑顔を保ったまま話す。
「ええ、ですから、私は総領娘様だけで十分なのですよ」
胸に手を当てて、しみじみと告げる。
「はぁ、もうちょっと空気読みなさいよ、衣玖」
「あれ、私、変なこと言いましたか?」
「なんでもないわ」
また遠くを見つめ直す天子。
「あなたって、私の友達よね?」
「いきなりなんですか?」
「答えてちょうだい!」
力強く叫ぶ天子。
「私なんかが総領娘様の友達ですか……」
一息ついて天子の目の前に立つ衣玖。
「それはとても嬉しいです。私は単なる従者なのかとばかり」
「だって、それは父様たちが、そういうものだって言うから……でも!」
言葉を一度切って、もう一度。
「今日、魔理沙の家で見た本には、長く一緒にいてくれる人が友達だって書いてあったわ! だから、私、てっきりそうなのかと……」
天子の言葉は段々と勢いを失くしてしまう。
それを聞いてか、優しく天子を抱きしめる衣玖。
「総領娘様がそう思ってくれるなら、私はそれでいいですよ。私もそうがいいですから」
頭を埋めたまま、顔を見せないようになにか細々と言う天子。
「……なら、言いな……さい、よ」
「ん、何をですか?」
天子の表情を見ようとする衣玖。
それに合わせて、顔を上げて言う天子。
「だから、私の名前を呼びなさーいっ!!!!!!!!」
「くく……」
「なにがおかしいのよ!」
むくれ顔で衣玖に問う。
「なんでもないですよ、天子様」
「……っ!!!」
また天子は衣玖の体に顔を埋めてしまう。
「どうかされました? あ、そうそう。総領様たちの前では総領娘様とお呼びしますからね?」
そこは大事です、と呟く衣玖。
「まったくもう、相変わらずなんだから」
好きなタイプの話だ
きっと発音もネイティブだと想像します。
ほのぼの面白かったです。