朝起きた。
なんか寂しかった。
「今日は誰か来てくれるのかな?」
そう、独りごちると、私はまだ離していない布団をぎゅっと抱きしめた。
昨日は誰も泊らなかったから、一人きり。
立ち上がり、障子を開けると、朝の光がしっかりと差し込んでくる。
「今日はいい日になりそうね」
私は、そう言うと、障子を閉め、身支度を整えることにした。
いつもの、巫女服。
袖を通してるだけでも、意識が違う気がする。
「よしっと」
次は朝食の準備だ。
いつもは誰かしら居るけれど、今日は誰もいない。
住んでる人が多いのではなくて、泊っていく人が多いというだけ。
「魔理沙も萃香もいないと朝ごはんの支度が面倒じゃなくていいわね」
そう言いながら、用意のし終わった、朝食へ手をつけていく。
ごはんに、豆腐の味噌汁、焼き魚、漬物。
質素だけど、私にとって、十分なそれを、少しずつ口に運んで行く。
「ふぅ、いつも通りね。ちょっとしょっぱさが足りなかったかしら?」
味噌汁を啜りながら、そんな感想を漏らした。
もう朝食の時間も終わりそうだ。
いろいろ考えながらだったから、いつもより伸びてしまった感じがする。
「さ、少し休んだら境内の掃除ね」
地面を箒で掃く独特の音がする。
規則正しいその音は、私の調子がちゃんとしていることを伝えてくれる。
季節は、春。
桜が舞い終わり、緑葉へと変化した落ち着いた時期。
「もう気配はないのね」
私は懐かしむかのように言った。
それは、毎夜のように行われていた宴会が楽しかったからだと思う。
まぁ片付けは大変だったけれど。
そんなことを考えながら、箒の柄に手を重ね、顎を載せる。
「まぁ、また来るわね」
遠くを見ながら言ったそれは、ぼやけていた。
人にしろ、時期にしろ、最近の幻想郷には何かしら訪れる。
飽きが来ないと言えば、嘘になる。
そう、楽しんでいる自分もいるのはわかってる。
「こんなこと考えてるようじゃダメね。しかも手が止まってるし」
そう言って、私は掃除を再開した。
一段落終わると、思いついたことがあった。
「今日は人もいないことだし、念入りにね」
そう言って、物置場から手水桶と杓を取って、水を入れに井戸へと行く。
そうして、水を入れ終わり、境内へと行く。
「水打ちしておこうかしらね」
そう言って、水を掬った杓を振るう。
「いつもしてなきゃいけないんだけど……ホント申し訳ないわ」
そう言って、自らの祀る神様に謝る。
今度からはもっとするようにします。
心の中でそう思うと、この時間は誰にも邪魔されないようにと、願った。
「まぁ、流されやすい私も悪いんだけどね」
ふふっ、と笑いが零れた。
「さて、こんなものかしらね?」
言って、私は片付けに入る。
「……静けさが少し嫌ね」
どうやら、騒動に慣れてしまった私がいるらしい。
それでも、落ち着いてるほうが私にはしっくりくるのだと思う。
「終わったわね」
お茶を飲みながら、縁側で、一息つく。
こういう労いの時間くらいは……
と、思ったら、遠くから近付いてくる影。
「よ、霊夢、来たぜ」
先の影の主はそう言って、地面に降りる。
「一体何しに来たのよ?」
何か言われる前にけん制しておく。
「そう、邪険に扱うなって。私はさ、お前が暇だろうなと思ってだな……」
目をつぶって、しみじみと言う魔理沙。
それに対し、私は嫌味を返す。
「ちょうど今、休み始めたトコだったのよ」
「お、そうなのか? ちょうどよかったんだな、私は」
魔理沙はあっけらかんと言ってのける。
「はぁ……ちょっと待ってなさい。あんたの分も淹れるから、お茶」
「ありがとなー」
そう言って、箒を立て掛け、縁側に座る魔理沙。
「はい、魔理沙」
そう言って、湯飲みを渡す私。
「んー、相変わらずだなー」
早速一口飲んで、そんな感想を言う魔理沙。
「相変わらずって何よ?」
気になったので、すぐに聞き返す。
「大した意味はないさ。いつも通りってことだぜ」
そう言って、お茶を飲んでいく魔理沙。
「釈然としないものを感じるんだけど……」
なにか裏のある気がしてならない。
そう思っている、と魔理沙から話しかけてくる。
「そういえばさ、お前なんかあったか?」
何のことだろ、と思いつつも、
「何かってなに? 別になにもないわよ」
そう、結論づける。
「そっか、何もないならいいんだ」
なんか魔理沙の態度が不審に思えるんだけど。
私はそれを口にすることにした。
「なんか……変な魔理沙」
そう言うと、魔理沙はびくついたのをごまかすかのように、立ち上がった。
「私、用事があるのをすっかり忘れてたんだぜ。もう行くな?」
そう言って、掛けてあった箒を手に取り、空へ上がって行こうとする。
「ちょっと、魔理沙!?」
急な行動に私は声をあげる。
「お茶、おいしかったんだぜー!!!」
私があげた声にも気に留めす、魔理沙はそのまま行ってしまった。
「一体なんなのよ、もう……」
ホントになんなんだろう?
そう、あれからいろんな人が来た。
陽が傾き始めた頃、そんな回想に私は耽る。
「よ、霊夢、元気にしてるかー?」
そう言って、現われたのは、萃香だった。
片手で、樽を持ちながら。
「萃香、なにそれは?」
そう私は聞き返した。答えはわかってるんだけど。
「酒だよ、酒ー」
「はぁやっぱり。なにまた宴会でもしようっていうの?」
「そうじゃなく、霊夢にプレゼントだ」
そう言って、樽を縁側に置く萃香。
「プレゼントねぇ?」
不審がる私。それもそのはず、今まで萃香から、プレゼントされたことなんてないのだから。
「まぁそういうことでさっ!」
そう言うと、あっという間に萃香は消えてしまった。
「……おかしなもの、入ってないでしょうね?」
「霊夢さん、元気にしてますかー?」
そう明るくきたのは、って……
「昼間からフラッシュはどうかと思うわ、ブン屋」
「ブン屋だなんて、酷いじゃないですかー。よく新聞お届けしてる間柄だというのに!」
そう、いかにも私はショックを受けました的に落ち込む、射命丸文。
「まったくもう、文でいいんでしょ、文で」
そう呆れながら、言う私。
「いや、そうどうでもいいですみたいに言われるのも傷つくんですが、霊夢さん?」
普通に話してるだけじゃ埒が空かないので
「一体、何しに来たのよ?」
と、本題を聞いてみる。
「いい質問ですね! えっとですね、最近山の上の巫女と下の巫女の生活事情が……」
「却下」
「言いきってもいないのに、なんでですかっ!?」
「比較されるのは、嫌だわ。向こうも同じでしょうに」
「なら、あちらさんがオーケーなら、霊夢さんもいいと?」
「まぁそれなら話は別かもね……」
「なら、私は聞きに行って参りますので! それでは!」
文はそう言うなり、行ってしまった。
「まったく慌ただしいわね……」
「霊夢、元気にしてた?」
そう言って現われたのは、
「咲夜ー!!」
咲夜だった。すぐに飛び付く私。
「まったくもう相変わらずなんだから」
そうは言いながらも、頭を撫でてくる。
「うん、だから咲夜、優しいよね」
そう言って、なされるがままにされる私。
頭撫でられるの気持いい……
そうして、少しして、私は何にも聞いてないことを思い出した。
「そういえば、今日はどうしたの? 来るなんて言ってなかったじゃない?」
そう問いかけながらも、抱きつくのをやめない私。
「ええ、たまたま近くに用事があったから寄ったのよ、霊夢」
その言葉を聞いて残念そうにする私。
「ということは、あんまり居られないんだよね?」
「そうね」
残念だけど、向こうも仕える身。それはしょうがない。
「じゃあ、ちょっとだけぎゅーって抱きしめててくれない?」
そう言って、最大の譲歩を切りだす私。
「もう仕方ないわね。霊夢は甘えんぼなんだから」
そう言って、抱き締めてくれる咲夜。
「咲夜が優しいからだよ」
そう言って、身を預けたままにする。
咲夜が帰る時。
私は咲夜に言い忘れてたことがあった。
「ね、咲夜?」
「ん、なに、霊夢?」
「私は元気だから、心配しないで、ね?」
「うん、わかってる」
そう言って、私の頬をふにふにしてくれる咲夜。
「またね、霊夢」
「うん、またね、咲夜」
そうして、分かれる私たち。
「霊夢元気だったかしら?」
そう言って、要石から降りてくる天人。
私は縁側で、横になりながら、応対する。
「あら、天子」
「今度は間違えなかったようね」
と、満足げな天子だけれど、急に表情を変える。
「って、なんで、せっかく私がきてあげたのに、そんな態勢なのよ!?」
「そんなって言われても……今休もうとしたトコだったし」
そう言って昼寝に就こうと目を瞑ろうとする私。
「わわっ、ちょっと待った!」
天子の声に止められて、目を開ける、私。
「ん、なによ?」
なんかもじもじしながら、天子が聞いてくる。
「え、と、その、霊夢は元気?」
「……? まぁ見ての通りよ」
と軽くあしらう。
「もう、見ただけじゃわかんないから聞いてるんじゃない!」
私の言葉にちょっと怒り気味になる天子。
私は仕方なしに、体を起こし、天子の傍まで行く。
「まったく仕方ないわね」
そう言って、天子の頬をぷにぷにする。
「ほら、これだけ動けるし大丈夫でしょう?」
「ダメよ! まだ足りないわ!」
「じゃあ、どうすればいいのよ?」
「私を抱きしめなさい!」
天子は胸を張ってそう言ってくる。
「もう仕方ないわね」
呟くと、天子をいきなり抱き締める私。
「え、ひぅ!?」
「もう、おとなしくしなさい。あなたの言うとおりにしたんだから」
「きゅ、急にはよくないわよ!!」
声を上げる天子。顔はどんな顔をしているやら?
「悪かったわね。ほら、心音も聞こえるでしょう?」
「ええ、そうね」
なんか天子が身を預けるようになってきてる気がする。
「もう気は済んだ?」
「え、まだよ、まだ! 全然よっ!」
言葉と同時に強く抱きしめてくる天子。
「そろそろいいと思うんだけど……というか、あなた目的見失ってないかしら?」
私はさりげなく天子を窘めてみる。
「……はっ! 私としたことが」
「見失っていたようね」
そう言って、私は天子から離れる。
なんか天子の手が、名残惜しそうになっていた。
「手はどうかした?」
と、いじわるして、聞いてみる。
「な、なんでもないわよっ!」
すぐに手を後ろに隠す天子。
「はい、私は見たとおり感じたとおりに元気よ?」
「ええ、そうみたいね。安心したわ」
安堵する天子。
「……あなたが心配なんて珍しいわね?」
訝しんだ私は聞いてみることにした。
「……別に何もないわよ?」
今、間があった。
「そう、ならいいけれど」
でも、あえて流しておく。そうしないと、なにかまた怒りそうだもの。
「霊夢が元気だってわかったことだし、私はもういくわ」
「そうね、それがいいわ」
そう言って見送る。
「またくるわね、霊夢」
「ええ、誰でも連れてきなさい、さよなら天子」
別れの挨拶を交わすと、要石は空へと上がっていく。
少しした後「あー!!!!」って照れた声が聞こえたけど、あれは天子のかしら?
それにしても、多かったわね。
あれ以外にも、妖夢に、アリス……チルノまでやってくるなんてね。
「みんなして、元気かどうか聞くんだから」
まったく、と呆れる。
でも、私は笑顔だったと思う。
そんな表情を浮かべたはずなのだから。
なんか虚しさがあった。
あんなに満たされていた、はずなのに。
どうして?
どうして?
ホントにどうして?
訳分からないのに、浮かぶのは一人の顔。
最近、そう言えば見てない……
不安になって、家中を呼んで回る。
「ねぇ、いるんでしょ!?」
「いるなら返事しなさいよ!」
「いつもみたく突然現れなさいよっ!」
言っているうちに、全部回ってしまう。
博麗神社の中も外も……
「なんで来ないのよ……」
そのまま、ふらりと鳥居から出ようとする。
「……紫のバカ」
でも、進めなかった。
ホント憎たらしい。
なんで抱きしめているのよっ!
言葉が声にならない。
何か言ってよ。
声聞かせてよ。
後ろにいるんでしょ?
早く。
早く早く。
ねぇ早くしてよ!!!
「ごめんなさい、霊夢」
「ホント、紫のバカ」
やっと声が出せた。
「一体、何してたのよ……」
「ちょっと忙しくてね、来ようにも来れなかったのよ」
「式使わすくらいできるんじゃないの?」
「あの子たちにも手伝ってもらってたから、無理だったのよ」
そう言いながら、強く抱きしめてくれる紫。
私は、紫の腕の中で身体をよじって、紫と体が向きあうようにした。
「なんで、あんたも、泣きそうなのよ、紫」
「なんで、かしらね……?」
肩口に顔を埋めてくる紫。
「あなたにこんなにも心配されたからかもしれないわ」
小声で、でも霊夢にはきちんと届いた。
「だって、あんなに、人が来たのに、紫の姿が、ないんだもの。気にも、……なるわよ」
「そうね」
「……もう、忙しくなくなったの?」
「ええ、ついさっき、終わったわ」
「なら……できればでいいけど……泊って行きなさいよ」
最後の方、声が萎んでしまった。
それでも、
「ええ、そうさせてちょうだい」
紫はそう言ってくれた。
台所から規則正しい包丁の音が響く。
「ねぇ、霊夢?」
紫から声がする。
「なに、紫?」
「私、手伝ってもいいのよ? できなくはないんだし」
いつもは言ってくれないようなことを言ってくれた。
私は言葉だけで嬉しくて
「いいよ、紫はそこにいて。すぐできるから」
と、気分よく返した。
「お待たせ様でした」
「そんなに待ってなんかないのに」
「一応、形だけはしっかりしないとでしょ?」
そう言って、紫に茶碗を渡す。
「それはそうだけど……なんか歯がゆいわ」
まぁいつもはしないしね、と心の中で思っておく。
「落ち着いてよ、紫。ゆっくり食べさせてあげるし?」
「そうね、食べさせてもらおうかしら……え?」
了解を得たので、私は佃煮をつまんで、紫へと向ける。
「はい、あーん」
口を開いて、の合図のように首を傾げてみる。
「霊夢、ちょっと待って」
「ダメ、待たない。はい、あーん」
紫の慌てぶりはかなり久しぶりかもしれない。
ちょっと意地の悪さが心を占めているみたい。
もういちど、やると観念したみたい。
「はぁ、わかったわよ」
ほら、と言わんばかりに口を開けてくれる。
「はい、あーん」
そう言って、紫の口の中に佃煮を運ぶ。
「紫、どう?」
「前より上手くなってるわね」
ちょっと憮然とするような言い方。
「前より、じゃどのくらいかわからないわ」
困った顔を紫に向ける。
「ええっとね、霊夢……」
「言わなくても大丈夫、わかってるから。意地悪してみたかったの」
と、本心をさらけ出してみる。
「まったく、もう」
紫が呆れつつも笑顔なのは、この時が楽しいからだと思う。
そう、思いたい。
「霊夢、一つ聞いていいかしら?」
「ん、なに?」
惚けたかのように返す私。
「なんで布団が一つなのかしら?」
予想通りの答えが返ってきた。
私だったら、そう思うもの。
それで用意しておいた答えを返す。
「だって、紫と一緒に寝たかったから」
また紫が「またこの子は……」みたいな顔をする。
「いいじゃない、たまには。昔はよく一緒に寝てくれたじゃない?」
「それはそうだけど……」
なんか躊躇ってる紫。
「もう、いいじゃない、ほら」
私は、紫の手を引きながら、布団に倒れこむことにした。
「霊夢ってば……さっきのお酒で酔ってるのかしら?」
言いながらも、傍から離れない紫。
「私、そんなに弱くないよ、お酒」
酔ってる人が言いそうな言葉を敢えて使ってみる。
「まったく、飲み過ぎはダメよ?」
紫は言いながら、頭を撫でてくれる。
「ん、気持ちいいー」
「なら、もっとしてるわね」
昔もよくやってくれたなぁとか思いつつ。
「えいっ」
紫の胸に頭を押し付ける。もちろん、紫を腕で強く抱きしめた状態で。
「ちょっと霊夢、何するのよ!?」
「こーしてるのー」
「こうじゃないわよ。まるで赤ん坊じゃない」
紫はそうは言うけど、嫌がってないようだった。
「だって、落ち着くんだもん、いいでしょ?」
「もう仕方ないわね」
しょうがなくではなく、ホント優しさでそう言ってくれるのが嬉しい。
「紫と寝るのも……甘えるのも、ホント、久し、ぶり……」
なんか落ち着いたのか、私の意識は落ちていっていた。
「まったく、この子はかわ……」
紫の言葉が最後まで聞けなかったのは残念だったと思う。
なんか寂しかった。
「今日は誰か来てくれるのかな?」
そう、独りごちると、私はまだ離していない布団をぎゅっと抱きしめた。
昨日は誰も泊らなかったから、一人きり。
立ち上がり、障子を開けると、朝の光がしっかりと差し込んでくる。
「今日はいい日になりそうね」
私は、そう言うと、障子を閉め、身支度を整えることにした。
いつもの、巫女服。
袖を通してるだけでも、意識が違う気がする。
「よしっと」
次は朝食の準備だ。
いつもは誰かしら居るけれど、今日は誰もいない。
住んでる人が多いのではなくて、泊っていく人が多いというだけ。
「魔理沙も萃香もいないと朝ごはんの支度が面倒じゃなくていいわね」
そう言いながら、用意のし終わった、朝食へ手をつけていく。
ごはんに、豆腐の味噌汁、焼き魚、漬物。
質素だけど、私にとって、十分なそれを、少しずつ口に運んで行く。
「ふぅ、いつも通りね。ちょっとしょっぱさが足りなかったかしら?」
味噌汁を啜りながら、そんな感想を漏らした。
もう朝食の時間も終わりそうだ。
いろいろ考えながらだったから、いつもより伸びてしまった感じがする。
「さ、少し休んだら境内の掃除ね」
地面を箒で掃く独特の音がする。
規則正しいその音は、私の調子がちゃんとしていることを伝えてくれる。
季節は、春。
桜が舞い終わり、緑葉へと変化した落ち着いた時期。
「もう気配はないのね」
私は懐かしむかのように言った。
それは、毎夜のように行われていた宴会が楽しかったからだと思う。
まぁ片付けは大変だったけれど。
そんなことを考えながら、箒の柄に手を重ね、顎を載せる。
「まぁ、また来るわね」
遠くを見ながら言ったそれは、ぼやけていた。
人にしろ、時期にしろ、最近の幻想郷には何かしら訪れる。
飽きが来ないと言えば、嘘になる。
そう、楽しんでいる自分もいるのはわかってる。
「こんなこと考えてるようじゃダメね。しかも手が止まってるし」
そう言って、私は掃除を再開した。
一段落終わると、思いついたことがあった。
「今日は人もいないことだし、念入りにね」
そう言って、物置場から手水桶と杓を取って、水を入れに井戸へと行く。
そうして、水を入れ終わり、境内へと行く。
「水打ちしておこうかしらね」
そう言って、水を掬った杓を振るう。
「いつもしてなきゃいけないんだけど……ホント申し訳ないわ」
そう言って、自らの祀る神様に謝る。
今度からはもっとするようにします。
心の中でそう思うと、この時間は誰にも邪魔されないようにと、願った。
「まぁ、流されやすい私も悪いんだけどね」
ふふっ、と笑いが零れた。
「さて、こんなものかしらね?」
言って、私は片付けに入る。
「……静けさが少し嫌ね」
どうやら、騒動に慣れてしまった私がいるらしい。
それでも、落ち着いてるほうが私にはしっくりくるのだと思う。
「終わったわね」
お茶を飲みながら、縁側で、一息つく。
こういう労いの時間くらいは……
と、思ったら、遠くから近付いてくる影。
「よ、霊夢、来たぜ」
先の影の主はそう言って、地面に降りる。
「一体何しに来たのよ?」
何か言われる前にけん制しておく。
「そう、邪険に扱うなって。私はさ、お前が暇だろうなと思ってだな……」
目をつぶって、しみじみと言う魔理沙。
それに対し、私は嫌味を返す。
「ちょうど今、休み始めたトコだったのよ」
「お、そうなのか? ちょうどよかったんだな、私は」
魔理沙はあっけらかんと言ってのける。
「はぁ……ちょっと待ってなさい。あんたの分も淹れるから、お茶」
「ありがとなー」
そう言って、箒を立て掛け、縁側に座る魔理沙。
「はい、魔理沙」
そう言って、湯飲みを渡す私。
「んー、相変わらずだなー」
早速一口飲んで、そんな感想を言う魔理沙。
「相変わらずって何よ?」
気になったので、すぐに聞き返す。
「大した意味はないさ。いつも通りってことだぜ」
そう言って、お茶を飲んでいく魔理沙。
「釈然としないものを感じるんだけど……」
なにか裏のある気がしてならない。
そう思っている、と魔理沙から話しかけてくる。
「そういえばさ、お前なんかあったか?」
何のことだろ、と思いつつも、
「何かってなに? 別になにもないわよ」
そう、結論づける。
「そっか、何もないならいいんだ」
なんか魔理沙の態度が不審に思えるんだけど。
私はそれを口にすることにした。
「なんか……変な魔理沙」
そう言うと、魔理沙はびくついたのをごまかすかのように、立ち上がった。
「私、用事があるのをすっかり忘れてたんだぜ。もう行くな?」
そう言って、掛けてあった箒を手に取り、空へ上がって行こうとする。
「ちょっと、魔理沙!?」
急な行動に私は声をあげる。
「お茶、おいしかったんだぜー!!!」
私があげた声にも気に留めす、魔理沙はそのまま行ってしまった。
「一体なんなのよ、もう……」
ホントになんなんだろう?
そう、あれからいろんな人が来た。
陽が傾き始めた頃、そんな回想に私は耽る。
「よ、霊夢、元気にしてるかー?」
そう言って、現われたのは、萃香だった。
片手で、樽を持ちながら。
「萃香、なにそれは?」
そう私は聞き返した。答えはわかってるんだけど。
「酒だよ、酒ー」
「はぁやっぱり。なにまた宴会でもしようっていうの?」
「そうじゃなく、霊夢にプレゼントだ」
そう言って、樽を縁側に置く萃香。
「プレゼントねぇ?」
不審がる私。それもそのはず、今まで萃香から、プレゼントされたことなんてないのだから。
「まぁそういうことでさっ!」
そう言うと、あっという間に萃香は消えてしまった。
「……おかしなもの、入ってないでしょうね?」
「霊夢さん、元気にしてますかー?」
そう明るくきたのは、って……
「昼間からフラッシュはどうかと思うわ、ブン屋」
「ブン屋だなんて、酷いじゃないですかー。よく新聞お届けしてる間柄だというのに!」
そう、いかにも私はショックを受けました的に落ち込む、射命丸文。
「まったくもう、文でいいんでしょ、文で」
そう呆れながら、言う私。
「いや、そうどうでもいいですみたいに言われるのも傷つくんですが、霊夢さん?」
普通に話してるだけじゃ埒が空かないので
「一体、何しに来たのよ?」
と、本題を聞いてみる。
「いい質問ですね! えっとですね、最近山の上の巫女と下の巫女の生活事情が……」
「却下」
「言いきってもいないのに、なんでですかっ!?」
「比較されるのは、嫌だわ。向こうも同じでしょうに」
「なら、あちらさんがオーケーなら、霊夢さんもいいと?」
「まぁそれなら話は別かもね……」
「なら、私は聞きに行って参りますので! それでは!」
文はそう言うなり、行ってしまった。
「まったく慌ただしいわね……」
「霊夢、元気にしてた?」
そう言って現われたのは、
「咲夜ー!!」
咲夜だった。すぐに飛び付く私。
「まったくもう相変わらずなんだから」
そうは言いながらも、頭を撫でてくる。
「うん、だから咲夜、優しいよね」
そう言って、なされるがままにされる私。
頭撫でられるの気持いい……
そうして、少しして、私は何にも聞いてないことを思い出した。
「そういえば、今日はどうしたの? 来るなんて言ってなかったじゃない?」
そう問いかけながらも、抱きつくのをやめない私。
「ええ、たまたま近くに用事があったから寄ったのよ、霊夢」
その言葉を聞いて残念そうにする私。
「ということは、あんまり居られないんだよね?」
「そうね」
残念だけど、向こうも仕える身。それはしょうがない。
「じゃあ、ちょっとだけぎゅーって抱きしめててくれない?」
そう言って、最大の譲歩を切りだす私。
「もう仕方ないわね。霊夢は甘えんぼなんだから」
そう言って、抱き締めてくれる咲夜。
「咲夜が優しいからだよ」
そう言って、身を預けたままにする。
咲夜が帰る時。
私は咲夜に言い忘れてたことがあった。
「ね、咲夜?」
「ん、なに、霊夢?」
「私は元気だから、心配しないで、ね?」
「うん、わかってる」
そう言って、私の頬をふにふにしてくれる咲夜。
「またね、霊夢」
「うん、またね、咲夜」
そうして、分かれる私たち。
「霊夢元気だったかしら?」
そう言って、要石から降りてくる天人。
私は縁側で、横になりながら、応対する。
「あら、天子」
「今度は間違えなかったようね」
と、満足げな天子だけれど、急に表情を変える。
「って、なんで、せっかく私がきてあげたのに、そんな態勢なのよ!?」
「そんなって言われても……今休もうとしたトコだったし」
そう言って昼寝に就こうと目を瞑ろうとする私。
「わわっ、ちょっと待った!」
天子の声に止められて、目を開ける、私。
「ん、なによ?」
なんかもじもじしながら、天子が聞いてくる。
「え、と、その、霊夢は元気?」
「……? まぁ見ての通りよ」
と軽くあしらう。
「もう、見ただけじゃわかんないから聞いてるんじゃない!」
私の言葉にちょっと怒り気味になる天子。
私は仕方なしに、体を起こし、天子の傍まで行く。
「まったく仕方ないわね」
そう言って、天子の頬をぷにぷにする。
「ほら、これだけ動けるし大丈夫でしょう?」
「ダメよ! まだ足りないわ!」
「じゃあ、どうすればいいのよ?」
「私を抱きしめなさい!」
天子は胸を張ってそう言ってくる。
「もう仕方ないわね」
呟くと、天子をいきなり抱き締める私。
「え、ひぅ!?」
「もう、おとなしくしなさい。あなたの言うとおりにしたんだから」
「きゅ、急にはよくないわよ!!」
声を上げる天子。顔はどんな顔をしているやら?
「悪かったわね。ほら、心音も聞こえるでしょう?」
「ええ、そうね」
なんか天子が身を預けるようになってきてる気がする。
「もう気は済んだ?」
「え、まだよ、まだ! 全然よっ!」
言葉と同時に強く抱きしめてくる天子。
「そろそろいいと思うんだけど……というか、あなた目的見失ってないかしら?」
私はさりげなく天子を窘めてみる。
「……はっ! 私としたことが」
「見失っていたようね」
そう言って、私は天子から離れる。
なんか天子の手が、名残惜しそうになっていた。
「手はどうかした?」
と、いじわるして、聞いてみる。
「な、なんでもないわよっ!」
すぐに手を後ろに隠す天子。
「はい、私は見たとおり感じたとおりに元気よ?」
「ええ、そうみたいね。安心したわ」
安堵する天子。
「……あなたが心配なんて珍しいわね?」
訝しんだ私は聞いてみることにした。
「……別に何もないわよ?」
今、間があった。
「そう、ならいいけれど」
でも、あえて流しておく。そうしないと、なにかまた怒りそうだもの。
「霊夢が元気だってわかったことだし、私はもういくわ」
「そうね、それがいいわ」
そう言って見送る。
「またくるわね、霊夢」
「ええ、誰でも連れてきなさい、さよなら天子」
別れの挨拶を交わすと、要石は空へと上がっていく。
少しした後「あー!!!!」って照れた声が聞こえたけど、あれは天子のかしら?
それにしても、多かったわね。
あれ以外にも、妖夢に、アリス……チルノまでやってくるなんてね。
「みんなして、元気かどうか聞くんだから」
まったく、と呆れる。
でも、私は笑顔だったと思う。
そんな表情を浮かべたはずなのだから。
なんか虚しさがあった。
あんなに満たされていた、はずなのに。
どうして?
どうして?
ホントにどうして?
訳分からないのに、浮かぶのは一人の顔。
最近、そう言えば見てない……
不安になって、家中を呼んで回る。
「ねぇ、いるんでしょ!?」
「いるなら返事しなさいよ!」
「いつもみたく突然現れなさいよっ!」
言っているうちに、全部回ってしまう。
博麗神社の中も外も……
「なんで来ないのよ……」
そのまま、ふらりと鳥居から出ようとする。
「……紫のバカ」
でも、進めなかった。
ホント憎たらしい。
なんで抱きしめているのよっ!
言葉が声にならない。
何か言ってよ。
声聞かせてよ。
後ろにいるんでしょ?
早く。
早く早く。
ねぇ早くしてよ!!!
「ごめんなさい、霊夢」
「ホント、紫のバカ」
やっと声が出せた。
「一体、何してたのよ……」
「ちょっと忙しくてね、来ようにも来れなかったのよ」
「式使わすくらいできるんじゃないの?」
「あの子たちにも手伝ってもらってたから、無理だったのよ」
そう言いながら、強く抱きしめてくれる紫。
私は、紫の腕の中で身体をよじって、紫と体が向きあうようにした。
「なんで、あんたも、泣きそうなのよ、紫」
「なんで、かしらね……?」
肩口に顔を埋めてくる紫。
「あなたにこんなにも心配されたからかもしれないわ」
小声で、でも霊夢にはきちんと届いた。
「だって、あんなに、人が来たのに、紫の姿が、ないんだもの。気にも、……なるわよ」
「そうね」
「……もう、忙しくなくなったの?」
「ええ、ついさっき、終わったわ」
「なら……できればでいいけど……泊って行きなさいよ」
最後の方、声が萎んでしまった。
それでも、
「ええ、そうさせてちょうだい」
紫はそう言ってくれた。
台所から規則正しい包丁の音が響く。
「ねぇ、霊夢?」
紫から声がする。
「なに、紫?」
「私、手伝ってもいいのよ? できなくはないんだし」
いつもは言ってくれないようなことを言ってくれた。
私は言葉だけで嬉しくて
「いいよ、紫はそこにいて。すぐできるから」
と、気分よく返した。
「お待たせ様でした」
「そんなに待ってなんかないのに」
「一応、形だけはしっかりしないとでしょ?」
そう言って、紫に茶碗を渡す。
「それはそうだけど……なんか歯がゆいわ」
まぁいつもはしないしね、と心の中で思っておく。
「落ち着いてよ、紫。ゆっくり食べさせてあげるし?」
「そうね、食べさせてもらおうかしら……え?」
了解を得たので、私は佃煮をつまんで、紫へと向ける。
「はい、あーん」
口を開いて、の合図のように首を傾げてみる。
「霊夢、ちょっと待って」
「ダメ、待たない。はい、あーん」
紫の慌てぶりはかなり久しぶりかもしれない。
ちょっと意地の悪さが心を占めているみたい。
もういちど、やると観念したみたい。
「はぁ、わかったわよ」
ほら、と言わんばかりに口を開けてくれる。
「はい、あーん」
そう言って、紫の口の中に佃煮を運ぶ。
「紫、どう?」
「前より上手くなってるわね」
ちょっと憮然とするような言い方。
「前より、じゃどのくらいかわからないわ」
困った顔を紫に向ける。
「ええっとね、霊夢……」
「言わなくても大丈夫、わかってるから。意地悪してみたかったの」
と、本心をさらけ出してみる。
「まったく、もう」
紫が呆れつつも笑顔なのは、この時が楽しいからだと思う。
そう、思いたい。
「霊夢、一つ聞いていいかしら?」
「ん、なに?」
惚けたかのように返す私。
「なんで布団が一つなのかしら?」
予想通りの答えが返ってきた。
私だったら、そう思うもの。
それで用意しておいた答えを返す。
「だって、紫と一緒に寝たかったから」
また紫が「またこの子は……」みたいな顔をする。
「いいじゃない、たまには。昔はよく一緒に寝てくれたじゃない?」
「それはそうだけど……」
なんか躊躇ってる紫。
「もう、いいじゃない、ほら」
私は、紫の手を引きながら、布団に倒れこむことにした。
「霊夢ってば……さっきのお酒で酔ってるのかしら?」
言いながらも、傍から離れない紫。
「私、そんなに弱くないよ、お酒」
酔ってる人が言いそうな言葉を敢えて使ってみる。
「まったく、飲み過ぎはダメよ?」
紫は言いながら、頭を撫でてくれる。
「ん、気持ちいいー」
「なら、もっとしてるわね」
昔もよくやってくれたなぁとか思いつつ。
「えいっ」
紫の胸に頭を押し付ける。もちろん、紫を腕で強く抱きしめた状態で。
「ちょっと霊夢、何するのよ!?」
「こーしてるのー」
「こうじゃないわよ。まるで赤ん坊じゃない」
紫はそうは言うけど、嫌がってないようだった。
「だって、落ち着くんだもん、いいでしょ?」
「もう仕方ないわね」
しょうがなくではなく、ホント優しさでそう言ってくれるのが嬉しい。
「紫と寝るのも……甘えるのも、ホント、久し、ぶり……」
なんか落ち着いたのか、私の意識は落ちていっていた。
「まったく、この子はかわ……」
紫の言葉が最後まで聞けなかったのは残念だったと思う。
こういう話、個人的にはすごく好きですね~
次回作も待ってますので^^
合間合間に説明を入れてるせいでさらに読みにくくなってます
それと状況が分かりにくいです……
書き出しのぽつんとした感じが寂しい状況というのが相まって、巧い効果になっていると思います。
ただ全体的に、文章的な問題でキャラクタが生き生きとしていないようにも思えます。
「○○」そう言って何々をした という形式が多く、台本を読まされているようです。
表現の幅は広げようと思えばいくらでも広げられるので、
創想話の他の作品をいくつか読んで参考にしてみるといいかもしれません。
まるで途中から読んでるような感じでした。