Coolier - 新生・東方創想話

萬金油

2009/07/02 01:13:59
最終更新
サイズ
17.22KB
ページ数
1
閲覧数
1396
評価数
8/48
POINT
2710
Rate
11.16

分類タグ


「やぁ、盟友達に集まってもらったのは、ちょいと相談に乗って欲しいんさ」



 人間の里、稗田邸にて、河城にとりは膝に手をつき神妙な面持ちでそう告げた。



「そも、妖怪が平然と人の家にいる事を私は問い詰めたい」
「私の家なんですしいいじゃないですか。昨日はお楽しみでしたよ?」 
「何時もの光学迷彩スーツでやってきて、近所の犬に吠えられてたじゃないか」
「その辺でお止ください。にとりさん、床にのの字書いて沈んでいらっしゃるので」

 彼女の眼前に並ぶのは、博麗の巫女、稗田家当主、白黒魔法使い、守矢の風祝――有り体に言えば何時もの面子だ。

「いやさ、盟友! 失敗は成功の母! 私は一度や二度の失敗でめげないよ!」
「少なくとも、私と霊夢で一つ二つは破ってるぜ」
「お話の通りですと、三つは確定ですね」
「お二人ともご馳走様です」

 にとりは膝を抱え出した。

 溜息をつき、霊夢が軽く拳を握る。

 ぽかりぽかり、すかっ。

 ぽかりぽかりすかっ。
 ぽか、ぽか、すかっ。
 ぼかぼかすかっ。

「っの! 当たりなさいよ!」
「青と赤……交わらないのが定めです」
「やかましい! 神霊‘夢想封印‘っ!」
「貫きなさい、秘法‘九字刺し‘!」
「ちぃ、やるっ!?」

 霊夢により放たれた淡い輝きを放つ球弾は、早苗の展開した線弾により弾けて消えた。

「普通に交わってるぜ」
「私達、殴られ損ですよね」
「や、止めようよ二人とも!?」

 短い悲鳴をあげつつ、にとりが右往左往とする。
 けれど、人間二人は微動だにしない。
 もう慣れた。

 弾幕と弾幕が交わり弾け、乾いた破裂音が部屋に響く――パンパン、パンっ。

「んぅ、ともかく、にとりさん」
「相談って何よ? 聞くだけなら聞いてあげる」

 早苗はにこりと笑い。
 霊夢は面倒臭そうに。
 にとりの話の続きを促した。

「って、ずるくないかね、この二人!?」

 魔理沙と阿求は茶を飲み首を振る。もう慣れたってば。





「相談ってのは同族の事でね。知恵を貸してほしいな、と」

 切り出すにとりに、面々は口を開く。

「なんだ、新しい機械の実験か?」
「涼しくなるものなら是非とお願いしたい所ですが」
「夏は暑く冬は寒い。季節を感じられる方がいいのよ」
「にとりさんにお持ち頂いた西瓜、霊夢さんは要らないようですね」

 うぼぁー。
 喚く霊夢を両手で押さえる早苗。
 魔理沙と阿求はけらけら笑っている。

 こりゃ埒が明かんね――にとりは一呼吸の後、手を打った。

「はいはい、西瓜はまた貰ってくるからとりあえず話を聞いとくれ。
 同族に軟膏売りのお婆がいてね、そいで知恵を拝借したいんさ。
 私は作る専門で売る知識はないからね」

 顔を見合わせる四人。

「客商売についてなら、霖之助さんやミスティアの方が早くない?」
「そうか。前者は一応、客相手だったんだな。後者は業種が違うぜ」
「や、貴女もさり気に客商売じゃないですか。『霧雨魔法店』」
「……私、初めて聞きました」

 誰かが口を開けば追随するように他の面々が話し出す。

 姦しさが相談事の解決法を導くと踏んでいたにとりにとって、有難くはあった。

「ちょいちょい。続きがあるんでもうちぃと聞いとくれ。
 我々河童の軟膏ってのは、機械技術と並んで結構重宝されてたんさ。
 ただ、お婆も結構なお年でね。万病に聞くとは言い辛い。正味な所、痛み止め程度の効力だ」

 一塗りすれば切断された四肢でもくっつけられる――そんな類の霊薬ではない。
 だが、軽度の筋肉痛や肩こり、腰痛には効果がある。
 一昔前までは需要があったのだ。

 一昔前までは。

「なるほど。永遠亭を爆破しろって事だな」

 魔理沙の物騒な意見に、にとりは苦笑し、首を振る。

「いやまぁ、確かに遠因ではあると思うけど。
 んでも、そうじゃないんさ。亭の薬の効力は我々河童も認めている。
 ありゃ凄いよ。あの薬師、科学の方もたいしたもんだけど、化け学の方が専門なんだろうね」

 そも、河童の軟膏は血行を良くし、凝りを解す成分が大半だ。
 永遠亭の薬師――八意永琳が作る物には、痛み自体を止める成分がふんだんに盛り込まれている。副作用もごく僅か。
 効力云々で語るならば、どちらに旗があがるかは端から解っている。にとり自身、そんな所でいちゃもんをつける気もない。

「と言うか、爆破して困るのはあんたでしょ。少なくとも一カ月以内に」

 ちぇ、と舌を打った魔理沙に、霊夢が呆れて指摘する。

「うぐ。まぁな」
「えっと……どうしてです?」
「魔理沙、かなり生理痛が酷いのよ」
「……あぁ。そう言えば辛い方は辛いんですよね。おほほ」
「阿求、お前もか! こいつと言い、咲夜と言い!」
「魔理沙さはぁーん! 私も、私も!」
「早苗ー!」

 抱き合う二人。
 ぽかりぽかりと阿求が叩く。
 霊夢は手を向け、にとりに先を促した。

 ポケットから件の軟膏を取り出し、続ける。もう一息だ。

「お婆も、商売繁盛大儲け、なんて考えちゃいないんだ。
 偶に来るお客さんと雑談したい、そんなもんさ。
 さっきも言ったけど、年だからね。
 耳もちょいとばかし遠けりゃ足腰も弱くなってきてる。
 孫の様な私らとの接点が欲しい――だから、なんかいい案がないもんかって相談さね」

 にとりが話し終えた時。
 既に彼女の手は空になっていた。
 霊夢が瓶を掴み、魔理沙が蓋を開け、早苗が指ですくい取る。

「丁度、肩が凝っているので塗らせて頂きますね」
「胸か! その胸が凝りの原因かこんちくしょう!」
「ビタミンEが血行を……あぁ! 豆乳は駄目よっ!?」

 わーわーきゃーきゃーもみもみくちゃくちゃ。

 呆気に取られるにとりに、阿求はくすりと微笑んだ。





 お婆の軟膏。主な成分は、樟脳、ユーカリ油、丁子油、薄荷脳。





 まずは、と霊夢が提案する。

「果報は寝て待て。急いては事を仕損じる。慌てず騒がず」
「却下。次いきましょー」
「なんでよ!?」

 なんでも何も。

 身を乗り出してまで抗議の意志を示す霊夢に、各々が告げる。

「あー? その結果が神社の惨状じゃないか」
「と言うか、それじゃ何もしないのと一緒です」
「あはは……ごめんよ、盟友。でも、私も二人と同じ意見」

 次々と浴びせられる言葉に、楽園の素敵な巫女は沈んだ。

 霊夢の肩を小さく叩き、早苗が苦笑しながら案を補強する。

「座して待つ、だけではいけませんね。でも、口コミで広げていくのはどうでしょう?」

 聞きなれない単語に、早苗以外が首を捻った。

「多分、『口コミュニケーション』の略です」

 ぽん、と手を打つ一同。

「なる。要は噂話なんか。『どこそこのなにがしは良かったよ』とかかね」
「だったら、『お婆の軟膏を塗ってからつきまくるぜ』みたいなのを流せばいいのか」
「解り易いデマ流してどうするんですか。真実の中に一摘みの嘘を混ぜるのが美しいのです」

 早苗は首を振った。何故嘘を入れるのが前提になっている。

「突飛な事じゃなくていいんです。何か、他と違ったメリットがあればいいんですが……」
「難しいな。さっき使って感じたが、効力的にゃ永遠亭のが上っぽいし。……ん」
「価格的にも厳しいですね。永琳さんは商売する気ないようですし。どう――」

 顎に手を当て考え込む魔理沙に、問おうとする阿求。

 だったが、先ににとりが口を開いた。

「あ。お婆ん所に行きゃ美味しい西瓜が食べられるよ」

 メリットではある。
 ではあるが、それで釣られる者がいるだろうか。
 河童の住処まで足を伸ばす必要があるのを鑑みるに、少し弱い。

 美味しいんだ――にこにこ続けるにとりに、申し訳なく思いつつ、三人が首を振る。直前。
 霊夢がにとりの袖を引く。ごにょごにょと耳打ち。
 にとりは頷き、早苗に問う。

「こんな感じでいいんよね?」

 釣れたようだ。





「それはともかく、何故、霊夢さんは沈み続けているんです?」
「だって、私、役に立ってない……」
「証明されたと言う事で」





 続けて、魔理沙が案を出す。

「薬もパワーだぜ!」
「却下。早苗さん、何かあります?」
「ちょっと待て! 話を聞け、私はちゃんと考えてるぜ!」

 揚がりかけていた霊夢がまた沈む。
 彼女は彼女で考えていたからだ。
 故に問題ではあるのだが。

 霊夢を撫でつつ、早苗が訊ねる。

「魔理沙さん、ですが、難しい話ではないでしょうか。
 お薬と言うのは、作用副作用を考えて作られていると聞きます。
 ですので、無理に薬効を増そうとすると思わぬしっぺ返しがでる可能性も」

 理路整然とした問いに、魔理沙は頬に冷や汗を垂らす。ちょっと怖かった。

「まぁまぁ、盟友。話してくんさいな」

 助け船に持ち直し、口を開いた。

「うむ。早苗が言うのも解っちゃいるんだ。こう見えても丹を自作するほどだからな。
 だから、むやみやたらと薬効成分を増やせと言うつもりはない。
 ただ、ちょいとばかりの刺激を加えたらどうかと思ってな」

 目をぱちくりとさせる霊夢と阿求、にとり。
 軟膏に刺激を加えてどうするのだ。
 意味がないように思える。

 反して、早苗はぺこりと頭を下げた。

「ごめんなさい、魔理沙さん。私が早計でした」

 訳がわからないと首を捻る三名に、魔理沙は早苗に手を振りつつ、応える。

「ほら、さっき、永遠亭のがよく効くっぽいって言っただろ?
 使ってすぐに効果を感じられるほど、私は可笑しな体質はしちゃいない。
 で、考えてみた。ありゃ、使用感に依るところもあるんじゃないかってな」

 床に置かれていた瓶を取り、軟膏を指ですくう。ぺとり、ぺとり、ぺとり。

 腕に塗り込まれた三名は、やはり怪訝な顔をするだけだった。

「特になんも感じないんだが」
「匂いが少し……元が草だから仕方ありませんか」
「初めて塗られたけど、結構べたべたするのね。夏場はきついかも」

 あ、と声を上げる早苗。

 何か思いついたようだと魔理沙は思うが、とりあえずは自論を展開する。

「そうだ、にとり、阿求。
 この軟膏は、使用感がやたら薄い割に匂いがきついんだよ。
 だから、薄荷の割合を増やしたらより良くなるはずだ」

 ハッカ? ――二名は鸚鵡返しで魔理沙を見る。

「です。私は、メントールって言葉の方が慣れていますが」

 答えたのは、瓶を受け取っていた早苗だった。

 補足に礼を告げ、魔理沙は続ける。 

「だぜ。
 血管を広げる作用もあるが、役割としちゃ使用感を増す為ってのが多いんだ。
 薄荷って成分には、冷感を引き起こす受容体活性化――おい、なんだ、その顔は」

 にとりは苦笑し、阿求はそっぽを向き、霊夢が的確に場の意見をまとめた。

「長い」
「スースーするんだぜ」
「良かれ悪しかれだけど、まぁ解り易い実感ね」

 肯定はされたものの簡単に流されて、魔理沙は軽く凹んだ。早苗が微苦笑しながら肩を柔らかく押さえる。

「早苗の言ってた、作用副作用も考えての意見よね?
 だったら、にとり、今のもお婆さんに伝えてあげて。
 調剤は難しいかもしれないけど、言うだけならタダだしね」

 魔理沙が更に沈む。また、美味しい所を持っていかれた。





「そんなに難しくないから言ったんだぜー」
「もう、魔理沙さん、虚ろな目で言わないでくださいよ」
「だってだぜ、早苗? 元から成分にあるんだから、ちょいと増やすだけなんだよ」
「外では色んな物に配合されていますし、リスクの少ない成分なんですね」
「だぜ。だぜーだぜー」




 いじけて繰り返す魔理沙の頭を撫でつつ、では、と早苗が続く。

「霊夢さんの言葉で思い出したんですが」
「『果報は寝て待て』」
「違います」

 きっぱり。

 早苗の手は更に忙しくなった。

「先程、魔理沙さんに塗られた時に『べたべたする』と言っていたじゃないですか。
 軟膏なんだから仕方ないかなって思ったんですが、そう言えば、と。
 外には色んな形状があったなぁって」

 一同の目が点になる。盲点だった。

「形状、ですか。思慮の外でしたね。ですが、そう簡単に変えられるものなんですか?」
「粘度を調節すればある程度は可能だと思うさ。実際、湿布ならある」
「大図書館で調べりゃいい。最悪、永琳なら知っているんじゃないか」

 少女たちの知る由はないのだが。
 軟膏自体はともかく、凝りを解す為の軟膏はそも、湿布剤から生まれたものである。
 湿布剤――バップ剤とブラスター剤――の起源は古く、紀元前に使用された記述もあった。

 閑話休題。

「軟膏が悪いと言う訳ではないですが、選択肢はあった方がいいと思うんですよね。
 私が知る限りでは、湿布剤、軟膏剤、液剤なんてのがありました。
 あと、缶に入ったスプレー剤なんてのも」

 外に居た頃、何故同じ名前で様々な形状があるんだろうと疑問に思っていた早苗であったが、漸く解答に至った。

 選択肢があるのは、そう、使用感の差異なのだ。

「他にも、温かい湿布や、磁気を流して凝りを解す物もありました。エレキバン」

 もぐさや灸なんてのもある。

「え、何、その素敵ワード。きゅんきゅんくるさ」
「目を輝かせないでください。私は温湿布が気になりますね。夜は冷える」
「両方とも却下だ」
「痛み止めの効果と清涼感があればいいわよね。今回に関しては的を絞った方が良さそうだし」

 あらぬ方へと展開しそうになった話題を、魔理沙と霊夢が戻す。

 〆るのが上手いなぁ、などと早苗は思った。





「でも、こっちきて結構経つのに、よく覚えてたわね」
「偶に使っていましたので。十四五位からでしょうか」
「おっぱいかぁぁぁ!?」
「わ、そんな大声を出さないでください」
「そっとしといてやれ、早苗。霊夢、互いに頑張ろうぜ」





 再び一悶着起こりそうなのを察知して、先に阿求が手を叩く。

 甲斐があり、一同の視線は集められた。

「――ほどほどに出そろいましたね。如何でしょう、にとりさん?」

 促され、にとりが指を折り、案を再確認する。

「口コミ、薄荷の増量、形状の変化……うん、どれもやってみる価値はありそうだ。お婆も喜ぶさね」

 嬉しそうに笑うお婆を想像して、にとりも破顔する。
 天真爛漫な笑みに、阿求は微笑んだ。
 と、袖を引かれる。

 引いたのは、当のにとり。

「でもさ、阿求。阿求は何かないんかね?」

 催促ではない。
 視線には一切のマイナス感情が含まれていなかった。
 故に、阿求は頬を掻き、苦笑いを浮かべながら応える。

「残念ながら、皆さんの様に画期的な案は考えられませんでした」

 申し訳なさそうな言い方に、けれど、にとりは気付く。

「画期的じゃない案って、どんなんさね」
「あー……耳聡いですねぇ」
「いいから」

 言葉の割に期待しているような双眸に、小さく溜息を零し、答えた。

「私が考えたのは、名前なんですよ。商品名が一つ。皆さんの名前が一つ」
「商品名ってのはわかるけど、皆さんってなんさ?」
「其処のお三方」

 唐突に手を向けられ、霊夢達は顔に疑問符を浮かべる。

「盟友たち?」

 足を崩しつつ、続ける。

「いい加減覚えましょうね、にとりさん。
 所謂、名前の価値ってヤツですね。それを付加してはどうかと。
 霊夢さんや魔理沙さんは言うに及ばず、早苗さんも山の方では知られているでしょうから。
 例えば、霊夢さん愛用のとでも付ければ気を引くじゃないですか。
 そう言う小手先の方法を思いつきました。――さて」

 膝に両手を当て伸ばし、阿求は区切りをつけた。

「おぉ、なるほど。それなら私も覚えられそうだ」
「お三方の名前じゃありませんて」
「ひゅい?」

 小首を傾げるにとり。三名に半眼を向けられる程度に白々しい。

「可愛らしく首を捻っても駄目ですよ。――では、西瓜をお持ちいたしますね」

 踵を返す阿求。
 進もうとした足は動かない。
 先ほどと同じく、袖を引かれていたからだ。

 引いたのも、同じく、にとり。

 振り返った阿求が見たのは、笑顔。

「皆も、阿求も、ありがとうさね」

 幼い顔に浮かぶ、心からの満面の笑み。

 何か返そうと言葉を探すが、結局、阿求も静かに笑った。
 どのような返答をしたところで、無粋だと思ったのだ。
 だから、同じように、笑んだ。



 ――一拍後。



「流石に名前は勘弁してね。妖怪に知れ渡るなんて厄介だもの」

 霊夢が足を崩す。

「そうか? 面白いじゃないか。この腋を何方と心得る!ってな」

 続けて、魔理沙が勢いよく。

「腋はともかく、もう既に遅いかと。何度、博麗の巫女と呼ばれた事か」

 更に早苗が膝を軽く叩きつつ、立ち上がった。

「早苗と私を見間違えたの? 目が悪い奴もいたもんね」
「ですねぇ。霊夢さんより早苗さんの方が大きいのに」
「だな。霊夢より早苗の方が優しいのに」
「さ。赤い盟友より緑の盟友の方が」
「皆さん、その辺で。ご馳走様です」

 膝を抱える霊夢を撫でる早苗の表情は、それでも、実に晴れ晴れとしていた。

 いやさ――にとりが声を出し、前後に首を振る。

「なんで立ち上がってるのさ、盟友たち。阿求が西瓜を持ってきてくれるって言ってるのに」

 顔を見合わせくすりと笑む三人。次々と口を開く。

「仕方ありませんよね。西瓜はまたの機会まで取っておきます」
「置いといてくれよ。酒と一緒に食うと美味いんだ」
「是が非でもお酒と絡めるんですね」

 訳がわからない。

 にとりは手をバタバタと動かし、座るよう声を出す。

 その前に、少女三人の声が、歌声が、重なり音となった。

 ――どんなに上手に隠しても
 ――可愛いあんよが
 ――見えてるよ

 視線の先には、にとりの足。先程から、ぱたぱたと動いている。

 顔を赤くするにとりに、早苗は、魔理沙は、言う。

「まずは図書館の方に行ってきますね。解らなければ、永遠亭に向かいます」
「薄荷を集めてくるぜ。なに、強い草だからな。何処にでもあるだろ」

 そして、阿求は微笑みながら、促す。

「お婆さんに早く伝えたいんでしょう。行ってきてくださいな」

 帽子をぐいと両手で降ろし、表情を隠す。
 数秒後、帽子を、顔をあげる。
 にとりは、笑っていた。

 阿求と、盟友達と同じように、笑んで応えた。



「ありがとう、阿求、魔理沙、早苗、霊夢! 行ってくるさ!」



 弾ける笑顔を残し、少女達は駆けていった――。





 残された阿求が、小さく小さく、呟く。

「忙しない事で」
「ねぇ。食べてからでもいいじゃない」
「再会の約束をしましたから。出しませんよ」

 うぼぁー。

「何でまだいるんですか」

 苦笑しながら問う阿求。

「うっさい。出そこなったのよ」

 霊夢はぶすくれた表情で返した。

「それはまぁ……意外な事で。てっきり、ほんとに西瓜狙いだと」
「あのね、あんたはどう私を……うん。なくはないけど」
「本音っぽいですねぇ……?」

 驚きの表情に、霊夢は煩わしげに手を振る。

 数間の後、多少不安げな顔で思案に入り、阿求はまた、ぽつりと呟く。

「上手くいきますかねぇ……」

 様々な案を出したが、所詮、素人考えだ。
 そもそも、実行可能かどうかも解らない。
 阿求の想いは、無理からぬ話。

 だが、霊夢は事もなげに応える。

「さぁ」
「さぁって」
「私がそんな事、気にすると思う?」

 竦められる肩に悪気は感じられず、阿求は唯、首を振った。

 でも――続けられる言葉に、顔を向ける。

 霊夢の表情は変わらない。
 何時ものように、何を考えているか掴めない。
 或いは何も考えていないのか――そんな事を思いつつ。

 けれど、阿求には、表情が柔らかくなっていると、感じられた。



「上手くいくわよ。勘だけどね。なんとなく、そう思うわ」










 ――数週間後。



 結局。
 阿求の想いは杞憂に終わり、霊夢の勘は当たっていた。
 つまりは、にとりの、お婆の願いは叶えられ、幾つかの変化を見せたソレは、弾幕少女たちにほどほどの好評を得た。



 今日もまた、お婆の店に少女が現れる。



「こんにちは、お婆さん。緑の軟膏、じゃなくて、クリーム、お願いします」

 一人は肩の凝りの為。

「お、今日はにとりもいんのか。黒いスースーするブラスター、頼むぜ」

 一人は薬のパワーを感じる為。

「初めまして、お婆さん。一週間ぶりです、にとりさん」

 一人は河童の少女の笑顔の為。

「ちょいと待ってくれよ、阿求、盟友達。お婆は――」



 そして、一人は美味しい西瓜を食べる為に。



 少女四人は、やってきた。



「耳が遠いって言ってたでしょ。
 だから、もう少し大きな声で言わないと。
 こんな風にね。――お婆さん、赤くて気持ちのいいローション、頂戴なっ」



 三人は盛大に吹きだした。







                      <了>
『全てはこの時の為に……!』――ってタイトルに自分で喧嘩売ってどうする。三十七度目まして。

作中では好印象に書いた薄荷(メントール)ですが、勿論、苦手な方もおられます。特に匂い。
なので、人と接しやすい朝方は液剤やクリーム剤、寝るだけの夜は湿布剤と使い分けて頂きます。
つまり、すれ違ったおねーさんやおじょーさんから薄荷の匂いがしたら、朝からろろろろーしょんを。

あと。こんな事ばっかり考えてお仕事してるわけじゃないです。

以上。

09/07/05 誤字修正。ご指摘、ありがとうございます。
道標
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1930簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
どうしようもなくカップ麺だ

あとにとりかわいい
8.100名前が無い程度の能力削除
姦しくも心根の優しい娘っこらですのう…。
兎角仕事の多い咲夜さんあたりがお婆のお店の常連になりそうな予感。
10.100名前が無い程度の能力削除
なんという女子高臭。
娘さんたちが楽しそうで良いねえ。
14.90名前が無い程度の能力削除
これはいいキャッキャウフフ。
女子トーク満開って感じですね。

誤字報告
磁器→磁気でしょうか
21.100名前が無い程度の能力削除
やはり早苗さんはおっぱい担当なのか……
22.90名前が無い程度の能力削除
なんと言いますか井戸端会議。
河童のおいしい西瓜欲しいです。
32.100名前が無い程度の能力削除
早苗さんに年齢詐称疑惑
なんでそんなにお姉さん
34.100名前が無い程度の能力削除
おねえさなえさん大好物です。
幻想郷にて二人も妹ができた早苗さん、さり気なく可愛がる姿に隙はなく。
妹二人も満更ではなさそう程度と見せて実は結構甘えてる、みたいな感じで砂糖がざらざらと…

話の流れもテンポよく、キャラクターも小ネタも活き活きとして楽しめました。
次回作が楽しみです