※この作品は、同作者の『「交代日記」 アリス・マーガトロイド』の設定を引き継いでおります。
この一話でも完結していますが、よろしければそちらを先にお読みください。あ、草とか出ませんので。
『 6月の終わり手前の日 天気:晴れ 』
「あっちゃー…」
思わず頭を抱えながら、アリス・マーガトロイドは悩んでいた。一冊の日記帳を目の前にして。
この日記帳には不思議な特徴がある。
二冊でセットになっており、書いた内容がもう一冊の日記帳にも浮かび上がるのだ。
一冊は私が持ち、日記を書くことになっている。
そしてもう一冊の日記帳は、私の故郷である魔界の神が持っていて日記に対して感想をくれる。
「初日からこんな内容じゃ、神綺様も心配するわよね」
昨日書いた内容と言えば……、
朝から魔理沙がご飯をたかりに来て、
昼は一緒に山菜狩りに行って、
夜は博麗神社で酒飲んで騒いで、
酔っ払った状態で日記を書いて寝た。
……普段の私とは180度違う生活。
神綺様からの返事のコメントも、泣きそうな感じだった。
今日こそは真面目に書いて、神綺様を安心させてあげなきゃ。
ちょうど今日は私にとって大事なイベントがある。
月に一度、人間の里で人形劇を披露する日。
私の傍らには、大きな荷物を持った人形が待機している。
人形劇の道具を人形に持たせるなんて、我ながら不思議な話。
玄関から出て、強い日差しにあてられて思わず伸びをする。
「うーん、久しぶりにいい天気ねぇ」
私と人形は、体を浮かび上がらせて里の方向へゆっくりと飛んで行く。
梅雨間の晴れた日の気持ちのいい風を感じながら。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
なんで魔法使いが人形劇なんてやっているのか。一番初めは、慧音に誘われたから。
慧音は半獣の癖に人間の里で寺子屋の先生をやっている変わった人物。
たまに里に買い物に行ったりする私は、慧音とは顔見知り程度の仲。
後から聞いた話だが、慧音は里へ入る怪物や魔法使いをマークしていて話しかけるようにしていたみたい。
ある日どこからか私の人形の話を聞いた慧音が里の祭で人形劇をやってみないか、と提案してきたのだ。
その時は、特に深く考えず誘いを受けてしまった。
ちょっとした気まぐれ、所詮は人間の娯楽と簡単に考えていた。
私の自信作の人形達なら劇くらい簡単にできるだろう、なんて過信していた。
……でも自宅に戻って、改めて考えていたら不安になってきた。
劇の内容はどうしよう? 人が大勢いる前で話をする? 考えれば考えるほど、憂鬱になっていく。
私の大事な人形を見世物の道具に使う、と考えると嫌な感じがする。
でも今更、断るわけにもいかなかった。こんなことで逃げ出すなんて、私のプライドが許さない。
そんな私の胸のうちを嘲笑うかのように、お祭の日は刻一刻と近づいていた…。
そしてお祭の当日、私は重い足取りで会場へ向かう。
会場では慧音が心配そうな顔をして待っていた。来なかったらどうしようか、とでも思っていたのだろうか。
慧音が調子はどうだ?と声をかけてきた。
別にいつも通りよ。と私はそっけない返事を返す。
慧音はそうか。と呟きながら、少し寂しいような怒ったような複雑な顔をしていた。
今だから判るが、あの人形劇の誘いは慧音なりの気遣いだったのだろう。
家に引きこもって研究してばかりで、里の人間との触れ合いも最低限しか持たなかった私への。
私の不安をよそに、劇の開始の時間が来てしまった。
珍しい魔法使いの人形劇ということで人の集まりは子供から大人まで結構な人数。
慧音から軽い紹介を受けて前へ出る。私はそっけない軽い自己紹介をする。
変哲もない挨拶に、前の方にいる大人たちから軽い失望と嘲りの色が見えた気がした。
さっさと始めて、さっさと終わらしてしまおう。
そんな失礼なことを考えながら私は軽くお辞儀をして人形劇を開始した。
演じた内容は、どこにでもありそうな物語。騎士が悪い龍を倒し、お姫様を救うお話。
騎士も龍も少し可愛らしくデフォルメされているので、迫力たっぷりとは言えないだろう。
人形には流暢な発声機能は備わっていないため、台詞は全て私が言うことになる。
騎士は凛々しく、お姫様は可愛らしく、悪い龍はほんの少し凄みを利かせて。
気を抜くと不安に飲み込まれそうになる。
私は観客を意識しないですむように、人形を操ることに集中し始めた。
初めは少したどたどしかった私の台詞も、だんだんと乗ってきて滑らかになってくる。
戦闘シーンでは、軽い魔法を応用して光と音の演出も加えていく。
気が付いたら観客の視線が気にならない。騎士に、怪物に、龍になりきって役を演じている。
子供達からの応援に騎士は力を増して、非難の声に龍は増長を見せる。
周りの空気に応じて台本には無いちょっとのアドリブも利かせる。
不思議な高揚感があった。今までに感じたことの無いような気分。
強いて言えば魔理沙たちとの弾幕ごっこに似たものがあった。
けれどいつも全力を出さない私には、弾幕ごっこの時も常に冷静さが付きまとっていた。
魔理沙たちはこんな気分をいつも味わっていたのだろうか。
わずかに残った私の中の冷静な部分が、そんな場違いなことを考えていた……。
めでたしめでたし、とお馴染みの台詞と共に劇は終わりを告げる。
「……あっ」
観客のことを忘れていた私は、慌てたようにお辞儀をする。
横では人形達も同じようにぺこりとお辞儀をしている。
観客の声は何も聞こえない。私の人形劇が受け入れられなかったのだろうか。
恐る恐る顔を上げると大勢の観客と目が合う。みんなが呆然と口をあけてこちらを見ている。
誰も声を上げずに会場は静まりかえっていて、遠くからの祭の喧騒が聞こえるだけ。
普通の物語の普通の人形劇。唯一つの売りは魔法使いがやっていると言うだけ。
もしかしたら私は分不相応なことをやってしまったのだろうか。
高揚感が消えて体が一気に冷え、冷や汗が頬を伝って落ちてくる。
いっそのこと逃げ出してしまいた――
ぱち ぱち ぱち ぱち
そんな中、とある方向から音がする。音のしている所を見ると慧音の隣の少女が一人、手を叩いていた。
あれは確か、藤原妹紅。喜怒哀楽の読めない仏頂面で手を叩いている。
意味が判らない。なぜあの女は手を叩いているのだろう?
少し遅れて隣の慧音も慌てたように手を叩き始める。周りの人間も手を叩き始めている。
それが自分に向けられた拍手だということに気づくのには、そう時間はかからなかった。
せきを切ったように流れ出す拍手と歓声。
信じられなかった。けど、皆の顔には笑顔が浮かんでいて、劇が失敗したのではないことを教えてくれた。
皆が口々に何かを叫んでいるが、一人一人の言葉は私の耳には入っていなかった。
この拍手が私と私の人形たちに浴びせられていることが、ただただ嬉しかった。
後々、慧音と妹紅から里の人間の感想を聞いてみたら、里の人間にはまるで人形が生きているように見えたそうだという。
確かに繋いだ糸は限りなく見えないようにしている。普通の人間にはまずみえないだろう。
魔法を使った演出も相まって子供から大人まで皆楽しめたとのこと。
初めてとは思えないほど良かったよ、と笑顔で慧音が言ってくれた。
まぁまぁだったな、と仏頂面で妹紅が続ける。
まぁまぁ?一番ノリノリだった癖に、と慧音が妹紅をからかう。
うっさいぞ!と妹紅が膨れっ面を見せる。
ありがとう、貴方のくれた最初の拍手が一番嬉しかった。と私は自分でも不思議なほど素直にお礼を述べる。
照れ笑いを浮かべながら応じる妹紅をまた慧音がからかう。
そんな二人につられて私もついつい笑ってしまう。なんだか、久しぶりに心から笑っていた気がした。
その時から私は人間の里で人形劇を行うようになった。
始め慧音はぜひ週に一度と言っていたが、さすがに無理なので月に一度にしてもらった。
◇ ◆ ◇
そんな風に昔のことを思い出していたら里の入り口が見えて来ていた。私はゆっくりと地面へ向かって降下していく。
人間達に合わせて里の中ではなるべく飛ばないようにしている。
入り口に向かうとそこには、柱に寄りかかって手持ち無沙汰にしている妹紅がいた。
こちらに気づくと、軽く片手を挙げて挨拶をしてくる。
「よっ」
「こんにちは。毎回言ってるけど、わざわざ迎えに来なくてもいいのに」
「いいじゃないか。楽しい劇を見せてくれるんだから、荷物持ちくらいはしないと」
「劇のお礼だったら貴方もおひねりの一つでも投げて欲しいわ」
「現金は持たない主義なんでね」
人形から荷物を受け取って、よっと肩にかつぐ。
あーもう、壊れ物もあるんだからあんまり乱暴に扱わないでよね。
里の広場に向かって歩き出す妹紅の横顔を見ていたら、先ほど思い出していた出来事が被って、自然と笑みが浮かんでいた。
「どうした? 急に笑い出すなんて気味が悪い」
「失礼ね。ただ……この劇も何度目になるのかな、っておもって」
「うーん、祭の時も入れれば8回目かなぁ」
祭の時以来、妹紅はいつも私の劇を見に来てくれている。
仕事で来られない時が有る慧音と違い、妹紅は自由な時間が多いみたい。
本人が気づいているか判らないが、実は全ての劇を見ている唯一の客だったりする。
劇の内容は毎回違う。その時々の客層に合わせて話の内容を決める。
子供が多ければ童話を題材にした劇を。大人が多ければ日常を題材にしたシリアスな劇を。
一度魔理沙が冷やかしに来たので、即興で白黒の泥棒ねずみの劇を演じてやった。
泥棒ねずみが捕まる最後のシーンで子供たちの歓声が上がると、魔理沙はバツの悪そうな顔で逃げてしまった。
「あの時の魔理沙の顔ったら」
「はははっ、目まで白黒させてたもんなぁ」
そんな軽い雑談をしながら歩いていたらすぐに広場へ着いてしまった。
広場には様々な屋台から、敷物を敷いただけのお店まで並んでいる。
今日は人間の里で開かれる、月に一度のお祭の日。私の人形劇もそれと同じ日に行っている。
元々はただの蚤の市で、古着やがらくたなどが売られているだけだったみたい。
次第に、食べ物の出店、果てにはどこぞの薬師の弟子が薬まで売り出し始めて、お祭騒ぎと化してしまったらしい。
そんな日だからこそ里の守護者である慧音と、自警団の妹紅は結構忙しかったりする。
でも二人とも劇の時間にはしっかり見に来てくれるのだから嬉しいものだ。
……あれ?
なんだか人だかりができている。何か騒ぎでもあったのだろうか?
「ねぇ妹紅。あれは何かしら?」
「うーん、あれはテキ屋が並んでいる辺りかなぁ。またどっかのおっさんがインチキでもやったのかな」
「様子を見に行ったほうがいいんじゃない? 仮にも自警団なんだし」
「でも荷物がなぁ……、っと誰か出てきたぞ」
人だかりから二人の人物が出てくる。赤い髪の長身の女と、手を引かれている女の子。
赤い髪の方は見覚えがある、死神の小野塚小町だ。
紅魔館に行った時に、たまに門番と仕事をサボってお喋りをしているのを見た。
髪の色といい、性格といい。なんだかそっくりな二人だから気が合うのだろう。
死神と言っても世間一般のイメージとは違い、人の魂を連れ去っていく殺し屋ではない。
確か三途の川で、死者の魂を閻魔の所まで運ぶ船頭であると聞いたことが有る。
「何で邪魔をするのですか、小町。私はお客を騙している人に善行を説いてあげようと」
「判りました、判りましたから。せっかくの休日なんですから説教は我慢して下さい」
「しかし罪を犯す者を目の前にして……」
「あー、もう。あれはあれでいいんですよ、いんちきテキ屋も祭の醍醐味ってことで」
「そんな理屈がまかり通る訳ないでしょう! まったくあなたはいつも……、」
良く判らないけど、説教ループに入り始めている。なんで死神が女の子に叱られているのだろう?
とりあえず可哀想だから助け舟でも出してあげようかな。
「こんにちは、小野塚さん」
「……え? えっとあんたは確か魔法の森の……」
「アリスよ。アリス・マーガトロイド」
正に助け舟とばかりにこっちに話を振ってくる死神。
「そうそう、人形遣いのアリス・マンガドロンボだ」
「マーガトロイドよ! ったく、貴方わざと言ってるでしょ。アリスで良いわよ、小野塚さん」
「あたいも小町でいいよ。さん付けはなんだかくすぐったい」
にゃはは、とでも聞こえそうな屈託の無い笑顔で笑う小町。
後ろではさっきの女の子が話は途中ですよ、とでも言いたげな顔をしている。
「そっちの人は誰だい? アリスの知り合いだろう」
と、妹紅の方を指差して聞いてくる。私はそっちの女の子のほうが気になるけど…。
「こちらは藤原妹紅。この町の自警団をしているのよ」
呼ばれた妹紅の方は訝しげな表情をしている。どうも妹紅は初対面の相手が苦手みたい。
「よろしくな、藤原さん。あたいは死神の小野塚小町、小町でいいよ」
「妹紅でいいよ。死神が何の用か知らないが、里で騒ぎを起こさないでくれよ」
訝しげな表情はそのせいか、どうやら『死神』という言葉に良いイメージが無いのだろう。
「心配しないでいいわよ、妹紅。死神って言うのはあなたの考えているような悪者じゃないわ。
特に小町は騒ぎを起こすようなことはないと思うわ」
「でもなぁ。ついさっき騒ぎを起こしていたような気が……」
「あー、あれは私じゃなくて四季様が……」
四季様? 後ろの女の子のことだろうか。
「後ろの女の子のこと? そちらは紹介してくれないのかしら」
しまった!忘れてた! といった表情の小町。
あははは、と乾いた笑いを浮かべながら後ろを振り返る。
「どうしかましたか、小町? そんなに汗をかいて」
「いえいえ、なんでもないですよー。今日は暑いなーなんて」
「ふふふ、まぁいいでしょう。後でたっぷりと聞かせて貰いますから」
「そんなぁー……」
がっくし、と肩を落とす小町。なんだかこの子に頭が上がらないみたい。
高い下駄を履いている小町が、頭一つ分も低い子に起こられているのは変な感じがする。
「はじめまして。アリス・マーガトロイドさんに藤原妹紅さん」
見た目に反した大人びた態度でまっすぐにこっちの眼を見つめ話しかけてくる。
「はじめまして。私達のことを知っているのかしら?」
「ええ、『七色の人形遣い』に『蓬莱の人の形』とでも呼びましょうか」
『蓬莱の人の形』と呼ばれた妹紅は驚いた顔をしている。
「お前は何者だ? なぜそのことまで知っている」
「申し遅れました。私の名は四季映姫。四季映姫・ヤマザナドゥです」
「ヤマザナドゥ!?」
私はつい驚いた声を上げてしまう。妹紅はなんだか判らないといった表情。
「なんなんだそれは?」
「……判り易く言えば、閻魔様よ」
「閻魔? あの舌を引っこ抜くとかいうアレか?」
「それは人間達が考えたデマですよ」
脅し文句に利用することもありますけどね。と茶目っ気のある笑みを浮かべている。
どっからどう見ても閻魔様だなんて恐ろしいものには見えない。
「まぁ四季様ですからねぇ」
「何か言いましたか?」
「いいぇっ! あ、それであんたたちは何やってるんだい? そんなでかい荷物を持って」
必死に話題を逸らすように妹紅の担いでいる荷物を指差して聞いてくる。
「いえ、これは別に――
「アリスの人形劇の道具だよ。この祭の名物だぜ」
妹紅め、余計なことを。
ずいぶん慣れてきたとは言え、堂々と言うのはまだちょっと恥ずかしい。
「ふふふ、隠し事はいけませんよアリスさん。貴方にはもう少し素直になることが必要みたいですね」
しまった、見た目で油断していた。この女の子は閻魔様なのだ、うかつに嘘はつけない。
「もう、四季様ったらすぐ説教を始めるんだから。今日くらいは我慢してくださいよー」
「小町ったら、さっきからそればっかり。まるで私が説教しかしていないみたいじゃないですか。
まったくあなたはいつも……、」
「ストップ!ストップ!」
また説教ループに入りそうになるのを必死に止める小町。
本人は大変なのだろうが、見ているとなんだか微笑ましい。
「それで、あんた達は何をやっているんだ? 閻魔と死神だなんて、祭には縁の無さそうな組み合わせだが」
「あぁ、今日は仕事休みなんだ。閻魔とか死神だとかは気にしないでくれ」
「小町が急にお祭に行こうって言い出して、無理やり連れてこられたんですよ」
死神に連れまわされる閻魔だなんて。見た目だけでなく中身も、まるで仲の良い姉妹みたい。
そんな私の視線に気がついたのか、小町がそっと近づいてきて小声で話しかけてくる。
「四季様はいつもあんな感じで説教を始めちゃうもんだからね……。
放って置くとせっかくの休日でも仕事と大して変わらないんだ」
だからあたしが説教の暇も与えないほどに引っ張りまわしてやるんだ。と小町はいたずらっぽい笑顔で囁いた。
閻魔様の仕事がどういうものか詳しくは知らない。けれど噂どおりなら、人の罪を裁く重大な仕事。
外見は私と歳が変わらなさそうな女の子、きっと想像もできない苦労があるのだろう。
「そうだ、四季様。せっかくだし、人形劇を見に行きませんか?」
突然何を言い出すんだ小町。仮にも閻魔様を相手に人形劇ができるほど私の肝はすわっていない。
「しかしそれではアリスさんのご迷惑では……。私みたいのが居たら気が散ってしまうでしょう」
「そんなことないですよ! な、いいよな?」
そう言って小町は私の眼をまっすぐに見つめてきた。頼む、とでも言っているようだ。
なるほど、劇を見ている分には説教しないだろうって魂胆ね。
でも、そんな眼で頼まれてもねぇ……。
ふと閻魔様の方を見ていると、期待をしているような眼で私を見ていた。
口ではご迷惑を、と言っているが本当は見てみたいのだろう。
外見は私より少し幼い女の子。身長も私より拳一つ分くらい低い。
自然と私を見る、期待の眼差しは上目遣いになる。
あ、やばい。抱きしめたい。思わず私は顔ごと眼をそらしてしまう。
「え、閻魔様の頼みじゃぁ逆らえないわよね。す、好きにしたらいいわ」
「本当か! 恩に着るぜ!」
と言いつつもにやりと笑う小町。こいつ、確信犯だわ。
「有難うございます、アリスさん。楽しみにしていますよ。
あと閻魔様はやめてください。映姫、で構いませんよ」
そう言ってふわっとした微笑みをする映姫さん。この人も確信犯じゃないわよね……。
「劇は正午から始まるから、後一時間後くらいだ。あっちの角でやるから間違えるなよ」
「私達は準備があるから先に行くわ。遅れないで来てね」
んじゃまた後でなー、と手を振りながら小町と映姫さんは行ってしまった。
今日のメインゲストは閻魔様と死神かしら。劇の内容はどうしよう?
説教臭いのとか暗いお話はだめよねぇ。せっかく小町が映姫さんを休ませてあげようと必死なのに。
二人の仕事に関わるような話では休日を満喫することはできない。
もちろん二人が興味を持ってくれないとダメ。劇を見ていても別のことを考えてたら意味が無い。
ハードル高すぎるわよ……。
◇ ◆ ◇
二人と別れてから一時間くらい経って、もうすぐ劇の始まる頃。
板を並べただけの簡易的な舞台と、椅子を並べただけの観客席。
そこには子供を中心に結構な数の人が集まっていた。
もちろん慧音と妹紅も居る。二人は子供を気遣ってか一番後ろの列に並んでいる。
あ、ゲストが来たみたい。慌てているのか二人して走ってきた。
眼が合うと映姫さんは軽く手を振って、席へ着いた。
映姫さんは手にアンズ飴を、小町はビールを持っている。小町、あんたはおっさんか。
小町は笑顔だが、映姫さんはどこかまだ固い表情が見える。
私の人形劇で、少しでもその表情が和らいでくれればいいけど。
……そろそろ時間だ。
メインゲストの閻魔様と死神さん、存分に楽しんでいってね。
私が舞台に上がりお辞儀をすると、軽い拍手が起こる。
まだ人形たちは登場させていない。
拍手が静まる頃合を見計らって語りを始める。
『 遠い遠い昔の、遠い遠い場所のものがたり…。
ある所に緑あふれる豊かな王国がありました。
永きにわたって平和を保っていたこの国の王様はかつてない悩みを抱えていました。
「あぁ、なんてことだ。私の大事な一人娘が、隣町の魔王に攫われてしまった」 』
そこで一人目の人形が登場。
青白い髪をして頭には王冠に見えないことも無い帽子を被っている。
けーねせんせーだー
と子供たちが騒ぎだす。
まさか自分が登場するとは思わなかったのだろう。
慧音は驚いた顔をしている。
『 国王ケーネの一人娘、つまりこの国のお姫様が魔王にさらわれてしまったのです。
「誰か魔王を打ち破ってくれる勇敢な者はいないのか」
悩みぬいた国王ケーネは、国中におふれを出しました。
魔王を倒し娘を救ったものには次の国王の座を譲る、と。
すぐに街中から勇敢な者達が集まり隣町へと魔王を倒しに行きました。
けれど無事に帰ってくる者はおらず、魔王の悪さは酷くなる一方です。
そんな中、国王ケーネのもとへ一人の女の子が現れたのです…… 』
ここで主役の人形が登場。
緑色の髪をした、一人の女の子。
『 「始めまして国王ケーネ様。私は悪者退治をして世界を回る冒険者、エーキと言います。
悪行を重ねる魔王が居ると聞いて来ました」
これまで多くの勇者を見てきた国王ケーネもこれにはびっくりです。
「お主も魔王退治へ行こうと言うのか? 命に関わる危険な戦いだぞ」
「人を見かけで判断してはいけませんよ。これでも私は腕に自信がありますから」
エーキの物怖じしない態度に、国王ケーネも圧倒されてしまいました。
「確かにお主は只者では無さそうだな。判った、お前に魔王退治の任を命ずる」
「お任せください」
こうして勇者エーキの長い旅は始まりを告げました 』
後ろの方に座っている映姫さんは呆然としている。
隣の小町は笑いを隠せないと言った感じだ。
ふふふ、笑ってられるのも今のうちよ。
『 一人の少女が魔王退治に行くと言う噂は瞬く間に街中に広まりました。
一目すがたを見ようと言う者。旅の餞別にと食料などをくれる者。
多くの人が、エーキを見送りに来ました。
そんな中、街の入り口の柱に寄りかかっていた一人の女がエーキに話しかけてきたのです。
「あんたが、勇者のエーキ様ってやつかい?」 』
はい、お約束。
大きな鎌を持った人形の登場。
さっきまで笑っていた小町もびっくり。
『 突然現れた女の態度に、エーキも戸惑いを隠せません。
「貴方はいったい……?」
「あたしはしがない傭兵のコマってもんだよ。
どうだい? 魔王退治の旅にあたしを連れて行ってみないかい?」
「判りました。よろしくお願いします」
「そりゃいきなり現れて信用しろってのが無理なのはわかっている。けど……って、えぇっ!?」
「よろしくお願いします」
「いいのかい? 私がただの詐欺師とか思わないのかい?」
「私には貴方が悪い人には見えません。それで充分です」
「あんたが良いなら構わないけど……」
「それでは行きましょう、コマ」
傭兵コマを仲間にしたエーキは、意気揚々と街の出口へと向かいます。
「お待ちください、勇者様」
そこへ見覚えのある一人の村人が話かけてきました。
「貴方は国王ケーネ様ではありませんか」
「いいえ、私はただの村人Kです」
「なるほど、貴方はただの村人Kね」
「ケーネでは有りません。Kです」 』
ここでケーネ人形が帽子を脱いで再登場。
しかも村人に降格。
『 「傭兵の方はともかく、あなたは武器の一つも持っていない様子。それで魔王と戦おうと言うのですか」
そう、エーキは武器と呼べるものを何一つ持っていませんでした。
「実はこの街の北に有る洞窟には古くから伝わる伝説の剣があるのです。
それを手に入れれば魔王との戦いの役に立ちましょう」
「伝説の剣だって!? エーキ様。ぜひそいつを取りに行きましょうよ」
「しかし街の宝を勝手に盗むわけには…」
「街の平和のためなんだから問題ないですよー」
「それもそうですが……」
「ただ……、」
そんな二人を見て、村人Kはためらいがちに言いました。
「洞窟の入り口には鍵のかかった扉があって、そこの鍵は教会の神父様が管理しているのです」
「じゃぁまずはその神父様とやらに鍵を借りに行きましょうよ」
「けれど神父様は気難しい方で、すんなり貸してくれるとは……。
でもつい先日、教会の神像が盗まれる事件がありました、それを取り戻せば神父様も協力してくれるでしょう」
「じゃぁその神像とやらを……」
「話では神像を担いだ怪しい男が船に乗って海の向こうへ行ったらしいですが、
船で追いかけようにも、なぜか海では海竜が暴れているせいで船が出せず、
海竜の怒りを静めるためには森の魔女が持っている海鳴りの玉が必要で、
それを貰うためには魔女の集めている黒真珠とマンドラゴラと――」
「あー! エーキ様、武器要らないですよねぇ!! 泥棒はいけませんもんねぇ!」
「そうですね、コマ。人の者を勝手に盗ってはいけませんね」
そうして二人は剣を手に入れるのを諦め、隣町へ向かいました 』
ちらりと後ろの席の方を見てみる。
小町は遠慮なく笑っているが、
映姫さんは笑っていいのか判らないといった感じ。
『 あ! やせいのケイネがとびだしてきた!
「エーキ様! 危ない!」
さすがに戦いなれている傭兵のコマ。道中のケイネも自慢の鎌でなぎ倒していきます。
「コマ、今は敵同士でもいつか分かり合えるかもしれません。無駄な殺生はダメですよ」
心優しい勇者エーキは、たとえ敵のケイネ相手でも許してあげます 』
角を生やしたケイネ人形たちが倒され、改心させられていく。
けーねせんせーよわーい
と子供たち大爆笑。
けーねせんせーよえー
と妹紅も大爆笑。
『 そうしてついに二人は魔王が支配する隣町へとたどり着きました。
上空には暗雲がたちこめ、街中はひっそりとしています。
「エーキ様。まずは酒場で一杯……いや、情報集めと行きましょう」
「何を言っているのですか、コマ。一刻も早く町の人を救わなければ、すぐに魔王の元へ行きましょう」
大変です。ここまで来て意見が分かれてしまいました。
息抜きをしたいコマと、魔王退治を優先するエーキ。
いつまでも話は平行線のまま、ついに二人は分かれてしまうことになりました。
「そこまで言うなら一人で行けばいいでしょう! 後で助けてコマーとか言っても知りませんよ!」
「そっちこそ、魔王を倒した後に間抜けな登場シーンを晒しても知りませんよ」
ふーんだ、と走り去るコマを尻目にエーキは一人で魔王のいる村長の館へ向かいました 』
突然の喧嘩に会場は静まり返る。
小町も映姫さんも複雑な表情をしている。
『 禍々しい空気が漂う館の門を前に、エーキは佇んでいます。
「私一人で魔王に勝てるでしょうか……。しかしコマに言ってしまった以上、逃げるわけには!」
覚悟を決めて館に乗り込むエーキ。
不思議なことに館の中は静まりかえっていて、手下の一人も出てきません。
「おかしいですね、なぜ誰もいないのでしょう」
その時、闇の底から響くような声が聞こえてました。
「ふはははは! 勇者エーキよ、良くぞ一人でここまで来た。その敬意を表して私一人で相手してあげよう」
「卑怯ですよ! 姿を見せなさい!!」
「言われなくても出て行くさ。この魔王の姿を眼に焼きつけ、あの世で語るがいいわ!」
ついに恐怖の魔王が姿を現しました。
「この大魔王モコーの怖さをな!!」 』
もこーだー!
もこーこえー!
子供達が騒いでいる。
現れたのは赤いマントを纏った銀髪の人形。
魔法で作り出した炎が周りを囲っている。
妹紅愕然、慧音大爆笑。
『 大魔王モコーが次々と炎を放ちます。
エーキはそれを避けるので精一杯。
「…このままでは不味いですね」
エーキは反撃の隙をうかがいます。
しかし、勇者エーキには重大な弱点がありました。
「……なぜ私は手ぶらなのでしょうか」
そう、攻撃しようにも武器がないのです。
「どうしたどうした。勇者とは名ばかり、逃げ回るだけが能の小ネズミが!!」 』
エーキがんばれー
もこーこえー
子供たちが歓声をあげる。
気づけば映姫さんも加わっている。
魔王もこーいっけー!
こらこら、子供たちの敵に回るな妹紅。
『 「そろそろとどめにしてくれるわ!!」
そういって大魔王モコーは炎を集め不死鳥を作り出します。
「…くっ、…私はこんなところで……」
「喰らえ!! ― 鳳翼天翔 ― 」
モコーの手から飛び立った不死鳥が口を開けてエーキに――
「助けてっ、コマ――」
「――エーキ様!!」
不死鳥に飲まれるその刹那、キラリと一筋の光が走りました。
エーキが眼を開けると、そこには真っ二つに裂かれた不死鳥と吹っ飛ばされる大魔王モコー。
「ぐわぁぁぁぁ!!! おーぼえーてーろー…」
大魔王モコーは夜空に輝く赤い星になりました 』
コマかっこいー
もこーざまぁ
『 「エーキ様、ご無事ですか」
「……コマ」
思わずコマに駆け寄るエーキ。
「コマ、私っ――」
「いやー! 助けてコマーだって」
だから言ったのにー、と大笑いするコマ。
せっかくの感動シーンが台無しです。
助かったという安堵感も相まってエーキの眼には涙が溢れそうです。
「貴方なんかいなくても勝てました!! 早くお姫様を連れて帰りますよ!」
「あー、待ってくださいよー」
エーキは顔を背けてスタスタと行ってしまう。
慌てて追いかけるコマ。
「お姫様、助けに参りましたよ」
奥の部屋への襖を開けると、そこにはドレスを着た金髪の美少女がいました。
「有難う、勇者様。私は国王ケーネの娘、アリスと言います」 』
ここで真打、お姫様の登場。
やっぱりお姫様は金髪にドレス姿よね。
ずっけぇ!!!!
と、後ろの方からの声は気のせいだろう。
『 お姫様を連れて戻ったエーキとコマに、国王ケーネは大感激です。
国中を巻き込んでの宴が催されました。
「勇者エーキよ、お前に次の国王の座を譲ろうでは無いか」
「せっかくですが、国王様。私は悪者を探して世界中を回らなければいけません」
せっかくの国王の申し出をエーキは断ってしまいました。
「そうか、ならば仕方ない。せめて今宵は存分に楽しんでいってくれ」
宴は果てることなく続き、街にはいつまでも人々の笑い声が溢れていました。
この先ずっと続く、平和な街を象徴しているかのように、いつまでもいつまでも……。
そして次の日、陽も昇る前の朝早い時間。
人々も騒ぎ疲れて家に戻り、街中はひっそりと静まり返っていました。
そんな中、街路を歩く勇者エーキの姿がありました。
彼女は次に救うべき場所を求め、また一人で旅立とうとしていたのです。
街を出ようとすると、入り口に一人の人影が見えます。
出会った時と同じように入り口の柱に寄りかかっている傭兵のコマでした。
コマはエーキの姿を見ると、何も言わずににやりと微笑みます。
そんなコマを見て、エーキも微笑みを返します。
どちらともなく歩み寄り、二人は一緒になって旅立っていきました。
この先、世界中で様々な事件が二人を待っています。
冒険の旅は波乱に満ちたものになるでしょう、でもそれはまた別のお話……」 』
人形達を舞台の影に下がらせてから、私は観客に向かってお辞儀をする。
観客からは拍手と歓声が起こり、おひねりが投げられる。おひねりは人形達に回収させておく。
別にお金のためにやっている訳じゃないが、せっかくの気持ちを無下にすることもない。
観客の反応とおひねりの様子から、私は自分の人形劇に点数をつける。
今日は60点かな。ゲストを意識しすぎて、里の人には判りにくくなっちゃったかしらね。
◇ ◆ ◇
しばらくして観客はすっかり立ち去って、残るは四人だけどなった。
さーて、どう言いくるめてやろうかしら。
私が恐る恐る近づいていくと、案の定四人は一斉に騒ぎ始めた。
「勝手に人を劇に出すんじゃない!!!!」
「なんで私が大魔王なんだ!」
「国王はまだいい! だが野生のケイネってなんだ!」
「結局私はなんにもしてないじゃないですか! 勇者なのに!!」
「いやー、あんた人を見る眼があるねぇ。さっすがあたい、強い強い」
「ずるいぞ! 自分だけお姫様なんて!」
ぎゃーぎゃー わーわー
五月蝿いわねぇ、たかが人形劇に出ただけなのに。
「みんなが言いたいことは判るわ、無断で出演させたことは謝る。けど……」
けど、なんなんだ? と言いたげに睨んでくる四人。
そんな四人に私はおひねりを集めた袋をじゃらり、と持ち上げて見せる。
もちろんお金で釣ろうだなんて思っていない。そんな甘い人たちじゃないだろう。
「里でも評判のおいしい料亭を予約してあるの。どう? お腹空いたでしょう?」
お金では無く食べもので釣る。ちょうど今はお昼時、お腹が空く頃。
案の定四人はプライドを天秤にかけて悩んでいる……。
ここで私はとどめの一言を刺す。
「そこの甘味が絶品なのよ。あそこの冷たい氷ぜんざい、考えただけでもほっぺたが落ちそうだわ」
悔しそうに下を向いてしまう四人。はい、陥落ー。
甘いものは女の子の天敵ね。
料亭へ移った私たちは、絶品の料理を前に舌鼓を打っていた。
なんとか怒りは解けたといった感じかな。
「いやー、傭兵のコマ。格好よかったなー」
「なんですか小町。所詮は主役に隠れてしまう役じゃないですか」
「それがいいんじゃないですか。影で勇者を支える名脇役。私にぴったりじゃないですか」
いったん怒りが冷めてしまえば、後は盛り上がるだけ。
どうやら二人を劇に出した甲斐があったみたいね。
「なんで私が大魔王なんだよー、慧音の方がお似合いじゃないか」
「大魔王ケーネだなんて響きが良くないわ。大魔王モコー、ぴったりじゃない」
「うむ、ぴったりだ。それに野生のモコーにされるよりはマシじゃないか」
「ふーんだ。所詮私は悪役だよーっだ」
そう言って妹紅は慧音の前の皿からアジの干物をひょいと掠め取る。
「あっ、お前なにをするんだ! こうなったら……勇者エーキよ、仇を取ってくれ!」
「あらあら、人の物を盗ってはいけませんよ。コマ、やってしまいなさい」
「お任せくださいー」
小町は目にも留まらぬ箸捌きで妹紅の皿から唐揚げを奪い取る。
「あぁっ! せっかくとっといたのに!!」
「コマ、行儀が悪いですよ」
「四季様がやれって言ったんじゃないですかー」
「くっそー!」
お返しとばかりに妹紅は、映姫さんのお皿からハンバーグを奪う。
「あっ! 私のハンバーグ!!」
「おおっと、優しい勇者様は悪人でも許して下さるんだよなー」
「……地獄行きです」
「ハンバーグ一個で!?」
閻魔様って怖いなー。まぁ不死身の妹紅だから地獄行きも関係ないわよね。
……それにしても、もうちょっと静かに食べなさいよ。
ふと顔を上げると、慧音がじっと私のことを見つめていた。
「……何よ?」
「いや、楽しそうだなって思ってさ」
「楽しそう? 別にそんなことは無いわよ」
だって……
「――楽しいんだもの」
◇ ◆ ◇
「ふー、食った食ったー」
「本当に美味しかったですね。ご馳走様です、アリスさん」
「いえいえ、正当な出演料ってことよ」
料理を堪能してお店から出てきた私たちは、広場から離れた里の道をのんびりと歩いている。
慧音と妹紅はお祭の仕事があるので一足先に戻ってしまった。
「それにしても今日は楽しかったですねー」
「……そうですね。アリスさんに感謝をしなければなりませんね」
「いいわよ別に。私はいつも通り劇をやっただけだわ」
これだけ喜んで貰えれば、もう充分過ぎるほどだ。
「……それに、小町」
「はい?」
不意に真面目な表情に戻って、映姫さんは小町に向き直る。
「貴方にも感謝しなければなりませんね。こんな楽しい休日を有難う」
「え、あ……いいえ! 別にあたいが勝手にやったことだから……」
「それでも、有難う。貴方がいなければ、私は今日も説教ばかりで、こんな風に笑ってはいなかったでしょうね」
さすがに言うことがストレート。たぶんお礼なんて言われ慣れてないのでしょうね。
ぽりぽりと頬を掻いて、小町は顔を真っ赤にしている。
「さてと、私たちはそろそろ戻らなければなりません。アリスさん、またいつか人形劇を見せてくださいね」
「また四季様を連れて会いに来るよ」
「ええ、楽しみに待ってるわ」
そう言って映姫さんは空に向かってふわりと体を浮かび上がらせる。
小町がそっと近づいてきて小声で話しかけてくる。
「本当に有難うな、アリス。あんなにはしゃいでる四季様を見たのは、久しぶりだったよ」
じゃあな、と言って手を振りながら小町も映姫さんを追いかけて飛んでいってしまった。
私は仲良く並んで飛んでいく二人をずっと眺めていた……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
家に戻ってきた私は、再び机の前に座り日記を書いていた。
無茶苦茶だった一日目と違って、今日はまともなのが書けそう。
思い出しながら書いているだけで、なんだか楽しくなってくる。
まだ神綺様には一度も見せたことの無い、私の人形劇。
この日記で少しは様子が伝わってくれるだろうか?
本職だと胸を張って言うには、拙い私の人形劇。
それでも楽しみにしてくれる人がいる。
知り合いと呼べる人はまだ、両の手で数えるほどもいないけれども。
今日みたいに、また会いに来ると言ってくれる人がいる。
だからこの日記を読んだら安心してください。
――貴方の娘は、この幻想郷で楽しく過ごしています。
劇の途中で子供たちの声とか四人の反応、終わってからの会話や料亭でのやり取りとか
賑やかで良かったですし、神綺様の返事や話の内容など読んでいて楽しい気分になるお話でした。
次回も楽しみにしていますね。
キャラが皆光ってるぞ
そしてやはりメインのアリスが特に可愛い
料亭での雰囲気が特に良かったです。
あったかい物語ありがとう
アリス視点で幻想郷を描きだすということですね。
アリスも大好きなので、どう皆と関わっていくのか、神綺さまの心境で見守ろうと思います。ありがとうございました。
続きが激しく気になります!!!!
ありがとうございました!
読後感がいいなあ
その法則が証明された話でしたw
いやあ面白い!