「……むー?」
鬱陶しい陽の沈む頃、ごそごそという不審な物音に目を覚ました。
「……なんなのよもう。煩いわね」
「まったくですわ」
ベッドの枕元に肘を突いたまま、咲夜はにこにこと相槌を打った。寝入る前とまったく同じポーズ、同じ笑顔のままである。時計を見ればPM6:00。延べ7時間ほどこの格好だったのだろうか。阿呆である。が、主人の前で堂々と『おじょうさまかんさつにっき』とやらを書き綴る女に何を言っても無駄であり、そんな犯行記録に文学賞を与えるような幻想郷において、彼女の奇行は万人が認める公務であった。
∇
『お勤めご苦労様です!』
『お身体に気をつけて頑張ってください! これ、差し入れです!』
主の浴室にカメラを仕込む咲夜に注がれる敬意は既にある種の崇拝を湛え、壁にピンバイスで瀟洒に小穴をブチ開ける犯罪者には、その作業の辛苦を労う旬の果実などが届けられた。
『あら、ありがとう。いつも助かるわ』
『いえ、メイド長の献身こそがメイド一同の誇りであります!』
防塵マスクを小粋に傾け女神の如く微笑む咲夜に敬礼を返す古参のメイド。手にしたバスケットにはベリー系を中心に彩り豊かな果物が上品に並んでいた。
『それじゃあお嬢様、差し入れもあったことですし、少し休憩してお茶にいたしましょうか』
美しく汗を散らし、そばにちょこんと座る私にバスケットを差し出す咲夜。
『……ええ』
世界はどこかおかしかった。
∇
世界の迷走は進行形だが、先の物音は彼女の奇行によるものではない。咲夜は完全で瀟洒だ。それが目的でないのであれば、物音で主を起こすなんて無様を晒すはずがない。
「何かしら。今の、いかがわしい本を買うためにこっそり窓から抜け出す魔女が出すような音は」
枕に頭をつけたまま尋ねた。
「正にその音ですよ」
「パチェ……」
「ま、行為は兎も角、目的は違うようですが」
そうだろう。そういった代物をこっそり求めるような精神構造をパチェが備えているのならば、人里における紅魔館の風評も、もう少しマシなものであるはずだ。
「ホームセンターの木材加工コーナーで三角木馬に黙々とカンナをかけるパチェを見つけた時は、流石に他人のフリをしたわね」
「あの後、木馬を紅魔館に配送するよう、デッカイ声で店員を呼びつけていましたよ」
「あのアマ……」
外に出れば誰よりも的確に紅魔館の株を下げてくる女である。滅多に外に出ないことが唯一の救いか。
「……まあいいわ。それでパチェは何処へ?」
「小悪魔をつれて魔理沙の家のようですわね。……どうも新たな異変が起きているようです」
「ほう。詳細を」
むくりと身を起こす。
「はい。博麗神社に間欠泉が湧いたとか」
「結構じゃないの。温泉収入でも入れば霊夢も少しは落ち着くでしょう」
昨今の巫女はハンターと同義である。棒状の凶器を携え妖魔の群れに突貫する霊夢の姿は最早万人の知るところであり、むしろ痺れ罠や飛び道具を駆使して日銭を稼ぐ彼女の本業が神職であるという衝撃の事実は、イメージを大切にする周囲の宗教団体により隠蔽されようとしているほどである。そんな彼女にも春が来たか。
「ええ。すっかり険のとれた福顔で、里の大工に神社のリフォームを依頼したそうですわ」
気の早い巫女だ。建て直してから1ヶ月も経ってないじゃないか。神社。
「温泉宿としての風格が欲しいそうで」
「……そう。まあ宿の女将でもやっていてくれた方が幻想郷は幾分穏やかになるわ」
僅かな煎餅とポリフェノールを燃料に、裕福な妖怪をシバき倒すため幻想郷中の空をカッ飛んでいく少女の見事な益荒男ぶりは一夏ごとに輪をかけて、今夏ついに宇宙にまで飛び出さん勢いである。
「ところが昨日になってまた巫女によるハントが始まったそうです」
「どうしてよ。間欠泉が止まってしまったの?」
「いえ、どうも間欠泉から地霊が湧き出しているようで、今のままでは温泉としては使い物にならないようですわ」
あらまあ。それは色々とガッカリだろう。
「そんなわけで霊夢の生活は元通り。ただ、地霊が湧きっぱなしでは困るし、何より自棄になった霊夢が無茶をして、また『博麗の緋袴は返り血で染め上げる』なんて噂がたってもアレなので、異変解決に向けて紫がなにやらごそごそやっているようですわ」
「そう。で、パチェの外出がそこにどう絡むのかしら」
魔理沙の寝込みを襲えば異変が治まるわけでもなかろう。それとも魔理沙が異変の黒幕なのだろうか。
「此度の真相は大深度地下。向かうには、妖怪数人のバックアップを受けた人間が最適、らしいですわ」
そういや幻想郷の妖怪は地下世界に赴くことを極端に嫌う傾向があるらしい。何でも地下は忌み嫌われる妖怪をまとめてブチ込んだ、まさに地獄の釜だとか。都合の悪いものに蓋をして、何かあったら人任せとは恐れ入る。
「ふーん。それでわざわざ魔理沙の手助けをしてやろうというわけ。甲斐甲斐しいことね」
「ええ。魔理沙を使ってアングラを掌握した後、テーマパークをおったてて一儲けしてやろう、という腹の内を指して甲斐甲斐しいと評するならば、そのとおりでしょう」
図書館に落ちていました。と、ぺらりと刷りたてのパンフレットを手渡された。
「斬新なテーマパークだこと」
四つ折の観音開きを捲るとそこはこの世の桃源郷。『貴方の欲望、満たします』というポップな丸文字が口火を切る自称遊園地のパンフレットは、侍らせる幼女付のお化け屋敷や、係員に現職の死神を起用した本格バイキングの構想を、カラーイラストを交えて鮮やかに網膜に叩きつけてくる。バイキングの順番待ちをする客が軒並み菊を持つ老婆なのは何の嫌がらせか。
「何が『ゆりかごから墓場まで』よ」
ゆりかごから墓場までの距離が短すぎる。どう見ても三途の渡し図である。
「マスコットのネズミが花吹雪と共に歓迎してくれるそうですよ」
「大丈夫なの? 今やネズミは世界一扱いの難しい生き物よ」
「平気でしょう。語尾に『チュウ』をつけるだけの、何処にでもいるオッサンですから」
パンフレット中央部では、被り物を小脇に抱えた小太りの中年男性が潔く素顔を晒したまま頬に指を当てコケティッシュなポーズを決めていた。
「眩暈がするわね。『おしゃれラットの西川口篤夫です。よろしくおねがいします』って、中身の紹介じゃないの……」
「好物は生ビール。好きな言葉は終身雇用らしいですわ」
「完全に篤夫のプロフィールじゃないの。もっとマスコットを前面に押し出しなさいよ」
とはいえ篤夫に抱えられた被り物の荒んだ出来栄えを見る限り、おしゃれラットとやらをウリにされても、それはそれで鬱陶しいものがある。
「子供の夢とか株主の堪忍袋とか、本当に大丈夫なのかしらね……」
何がパチュリーランドだ。風俗街だってもう少し健全な娯楽を提供するだろう。
「平気でしょう。そもそもこんなモノを作る土地や喜ぶ客が存在するかどうかが、まず怪しいものですから」
「ううん……」
それで諦めないところがパチェの恐ろしいところなのだが。
「ま、いいわ。それならそれで好きなだけ魔理沙を使うといい。……けど咲夜、貴方妙に詳しいわね」
「先日楽しげにパチュリー様が話してくれましたわ」
「……じゃあ別にコッソリ窓から抜け出す必要はないじゃないの」
「一流のダメ人間は演出にも拘るものです」
そんなものだろうか。
「まあ好きにするといいわ。……けれどもアレね。パチェばっかり夢一杯で面白くないわね」
友の至福は祈って然るべきだが、幸ある未来の共有こそが友情の最もアツい部分であることもまた事実。
「咲夜」
「は」
「出るわよ」
「支度は済んでおります」
つん、と指先で持ち上げられたスカートから銀の光と金属音が零れる。フレッシュな小児性愛と見敵必殺を瀟洒に両立させるところがこのメイドの美徳である。
「グッド。けど違うのよ咲夜。此度の異変は団体戦なのでしょう」
1人が地下へ。残る数人が地上でバックアップを。そういう話だ。
「貴方は館に残るの。そして月を眺めて嗜む紅茶を用意して頂戴」
「……そうですか」
幾分気落ちしたように、はらりと指を離れたスカートから盗撮写真が舞い落ちた。……フレッシュな小児性愛と見敵必殺を瀟洒に両立させるところがこのメイドの難点である。
「紅茶の準備ということは、お嬢様も地上に残るのですか」
写真を瀟洒に回収すると、咲夜は小首を傾げて窓を見る。
「確かに今回はサポート3人で支援を固める布陣をとるようですが……」
「4人組、ね」
霊夢と魔理沙にも3人の妖怪がつくらしい。
「地下へは人間が最適、とのことですが、私は給仕でよろしいので?」
地の底には忌み嫌われた者たちが棲む。幻想郷の妖怪はそこへ立ち入らない禁則がある。が、それが何だというのか。彼らを隔絶した古き妖怪たちならば兎も角、この私がそんな些事を気にかける必要は何処にもない。指向性の異質を嫌い追放した挙句人間に尻拭いをさせるなど物笑いの種でしかないだろう。古風なパチェは紫に倣ったようだが、この私までもが薄っぺらな因習に付き合う義理はないのである。
「パチェのおかげで半端に目が覚めたからね。お出かけはだるいし、今日は咲夜の紅茶で唇を湿らせながら自機ごっこで優雅に過ごすの」
ま、本格的に乗り込もうってわけじゃない。気だるい寝起きに適度な刺激が欲しいのだ。霊夢たちが解決してしまう前に、ひとつ黒幕の物色と洒落込もうではないか。
「それでは濃い目に腕を振るいましょう」
「期待してるわ」
「極上のカドミウムレッドが手に入ったんですよ」
「それはいらない」
カドミウムはIARCがその毒性を警告する、バリバリの発ガン性物質である。
「さて、紅茶はそれでいいとして」
いらないというに。
「結局地下には誰が向かうのですか。手近な人材は限られますが……」
「可能であれば手近で済ますのが機能美を知る貴族の嗜みよ。勿論今回もそうするわ」
「そうですか……。では早急に手配いたしましょう」
すい、と窓から目を離すと、一礼して咲夜はドアを出て行った。
ふと見たナイトテーブルでは紅茶が湯気を燻らせている。いつの間にか済まされていた着替えのドレスに頷くと、ベッドを抜け出し紅茶を片手に矩形の夜空を眺めてみた。
「こんなに月が紅……くもないけど」
どちらかというと青い月。その下で、ねこじゃらしで武装した美鈴が野良猫に遊ばれていた。
∇∇∇
『さて、そういうワケよ。存分に汗をかいて頂戴』
どういうワケだか知らないが、私は今地下へ地下へと縦穴を降りている。
「あの、今進行方向を指して『冥道』って看板とすれ違ったんですが……冥道って地獄ですよね?」
『老人ホームよ』
そんな馬鹿な。
「奥の方から死臭と金切り声が叩きつけられてくるんですが」
『死臭と金切り声に負けないくらい、穏やかであったかい憩いの家よ』
心臓に負担のかかる理想郷である。死臭と金切り声が肯定された時点で如何なるフォローも手遅れだろう。
――余生を囲む穏やかな朝、ささやかながらも皆の結晶である家庭菜園の真ん中で、ぷちん、と軽やかにもぎ取った大粒のトマト。陽の差さぬ地下において、ホームの皆が『太陽』と名付け微笑みあう新鮮な果実に金切り声をあげてかぶり付く老狂の朝ごはん――
見ろ、この金切り声の存在感。一体どのへんが憩いの家なのか、ホームの施設長に直接問い質さねば気が済まない。
『お嬢様、無理に繕わずとも美鈴なら大丈夫ですよ』
『ん、……そうね。それじゃ美鈴、その道が何処に向かっているか、それは私も知らないわ。地獄かもしれない。パン屋かもしれない。分かっているのは、数日後に霊夢や魔理沙がその道を進むということだけ。けど行先がどこであろうとやることは一緒よ。異変のもとを辿り真相の縁を物色する。……解決しちゃ駄目よ。あくまでウィンドウショッピング。道程に待ち受ける絶体絶命のピンチや起死回生のユニークで私を楽しませて頂戴』
話すにつれ喜色を帯びる幼い声が単なる暇つぶしを宣言する。異変が起きた、とは地上で聞いた話だが、向かう先の詳細はお嬢様も知らないらしい。尤もお嬢様のことだ。知らないのではなく、知ろうとしないということだろうが、実行役からすれば地獄とパン屋の差は大きい。
『同じようなものでしょう? ウバ茶とアバ茶の差くらいよ』
『ッ!?』
自白されたメイドのアバウトなティーセンスに、三食を委ねる有閑貴族が声を呑んで硬直した。
「まあ、期待に沿うよう努力はしますが」
要は異変解決の先行体験ショーだ。
先ほどから届く、溌剌とした傲慢は地上からの声である。声の主であるお嬢様によると現在神社では地下に端を発する異変が起きているようで、どうやら地霊が溢れかえっているとか。巫女と魔女はいつもの如く解決に向かう姿勢だが、此度に限り、むしろ乗り気はそれを支援する妖怪たちの方らしい。霊夢たちに音と色、力を伝えるオプションを持たせ、間接的に地下を目指す妖怪たち。パチュリー様もその一人で、どうやら魔理沙とつるむ気らしい。……それを知ったお嬢様が大人しくしているはずがない。パチュリー様の部屋に転がっていたスペアのオプションを私に持たせ、『支援してやるからひとっ走り行って、その七転八倒をライブで楽しませてくれ』と膝の猫を撫でんばかりに言い放ったのが2時間前の冬の夜だ。
『ほーらぁ、もっと早く飛んでよめーりん!』
自室で絵本を読んでいた妹様を巻き込んで、チームは2秒で出来上がった。私が地下へ。お嬢様、咲夜さん、妹様は地上で支援。役割に不満はなかった。そういう仕事で雇われていて、望んで得た職業である。ちなみに徒手空拳を旨とする私には陰陽球等オプションの依代とするモノがなかったため、4年前の冬に咲夜さんから貰ったスキー用の防寒耳カバーにオプションを搭載する運びとなった。Pアイテムをとっても耳カバーの数は増えないが、きちんと比例したメリットがあるらしい。地下に降りてからは、当然このウサギのプリントが眩しいピンク色の耳カバーを装着しているので、地上で大きな声を出されると少々耳が痛かったりする。
「分かってますよ妹様。きっとそろそろ雑魚の連隊が出てきますから、もうちょっと我慢してくださいね」
……弾も出るんだろうか、この耳カバー。出るんだろうな。支援者(スポンサー)によってナイフとか蝙蝠とかが。
「そういや支援してくれる人によってショットの性能も変わるらしいですけど、どんな感じになるんですか?」
尋ねる声がちょっぴり弾んでいたことは否定できない。クラウンじみた役どころとはいえ、なんと言っても自機である。自機とは主役。STGの舞台に縁があるなら誰もが夢見る華であり、お嬢様の暇つぶしのためとはいえ、今この瞬間間違いなく私は夢を叶えたヒロインなのだ。
『そうね……遠隔霊撃は使ってからのお楽しみとして、基本性能については予め伝えておきましょうか』
『ええ、その方が美鈴もやりやすいでしょう』
『それじゃ美鈴。コレを渡しておくわ。オフィシャルサイトの様式に従って各支援の性能を纏めてあるから、1分で暗記したら焼却なさい。フラン、渡してあげて頂戴』
『うん!』
にゅ、と耳カバーから妹様の手が伸びてきて10センチ四方の金属板を3枚渡された。ばいばい、と引っ込んでいく妹様の小さな手のひらにひらひらと手を振りかえす。便利だなあ耳カバー。傍から見ると怪しさ満開なんだろうけど。
「燃えるんですか、これ?」
硬く冷たい金属板は一見してかなりの不燃物だ。
『燃やしなさい』
燃えないらしい。ま、いい。本題は中身だ。
「えーと、なになに? わ、本格的ですね」
1枚目からわくわくと見る。刻まれた異能が自らの側面であるというこの昂揚。いいなあ、これが自機かあ。
レミリア・スカーレット ――空間掌握型
オプション:「任意配置オプション」
ショット:「デモンズディナーフォーク」
遠隔霊撃:「□□□□□□□□」
支援特技:出現する敵の情報を事前に教えてもらえる
操作:忠誠心を顔に滲ませる
十六夜 咲夜 ――餌付反射型
オプション:「射角指定オプション」
ショット:「スクウェアリコシェ」
遠隔霊撃:「□□の□□」
支援特技:ステージクリア時ご褒美の紅茶が差し入れられる
操作:道中格好良いところを見せる
フランドール・スカーレット ――近接火力型
オプション:「顔面固定オプション」
ショット:「レーヴァテイン」
遠隔霊撃:「□□□□□□□□□□□?」
支援特技:50コンボ毎に画面全体をキュッとしてくれる
操作:一定時間内にレーヴァテインで50体敵を倒す
「おお……凄いじゃないですか! これが私のために用意された装備ですか!」
『紅魔仕様は道中の支援者切り替えが可能よ。使いこなしなさい』
部分的な不安はあるものの、どれもこれも戦力、戦略的に申し分のないスペックであることが容易に想像できる武装だ。私のために館の皆がこれだけのものを用意してくれた。自機抜擢の至福に加え祝福にも似た皆の助力が胸をくすぐり、かつてない興奮が電気信号となってこの身を駆け巡っていた。
「うわー。最初は誰にしようか、迷うなー」
幼女にメイドに選り取り見取り。が、自戒も忘れない。見るだに凶悪なサポートだが、活かすも殺すも私次第。支援さえ強ければいいというものではないのだ。ニートにヘイストをかけても、もの凄い勢いで時間を無駄にするだけだろう。
『今のうちに決めておきなさい。そろそろ接敵するわよ』
「え? ああ、はい」
なるほど。説明書きにあるように、お嬢様は接敵前に相手の情報が分かるらしい。コレは便利。運命ってスゲェなあ。
「それじゃまずはお嬢様でお願いします」
『えー! 私はー!?』
『次はきっとフランドール様ですよ。さ、それまでこちらのジェラートはいかがです?』
『ぶー』
あっちはあっちで楽しそうだ。今日は風のない透明な月夜だ。きっと屋上のテラスで紅茶を囲んでいるのだろう。咲夜さんには少々肌寒い季節だが、なに彼女は本物だ。お嬢様と妹様、両手に花が咲くならばコキュートスすら楽園だろう。
『それじゃあ少しだけ解説してあげるわ』
耳カバーから楽しげなお嬢様の声が届く。
『まず美鈴、撃てば分かると思うけど貴方の自機ショットはクナイ弾一本よ』
豪華な支援の理由はコレだ。そこは仕方ないだろう。恨むべきは弾幕よりも格闘を重んじてきた自分自身の過去である。
『敵を倒して出現したPアイテムによりオプションを取得。それにより支援者のバックアップを受けられるのだけど、貴方のオプションはその可愛らしい耳カバーだから最初から1段階目の支援が可能よ』
物理法則に100%支配される耳カバーはどう足掻いても1は1。0から突然現れたり2つ3つと自然増加することはあり得ない。下手に超常的なオプションのおかげで霊夢や魔理沙は丸腰からスタートするのだろう。比べれば恵まれた出発である。
「お得ですね」
『咲夜に感謝なさい。そのかわり何らかのアクシデントで耳カバーが壊れたら支援はそこでお仕舞よ。死守することね』
「了解です」
『さて、本題の私の支援。ショットはデモンズディナーフォークよ。貫通性のある紅い槍撃を2本発射するわ。パワーアップ毎に槍の本数もアップ。扇状に展開する紅い悪夢は貧相なクナイ弾を補って余りある制圧力を持つわ』
広範囲カバーの貫通弾か。威力によっては反則モノだろう。
『そしてオプションは任意配置のサーヴァントフライヤー。低速移動開始時、その場にサーヴァントたる紅蝙蝠を設置し、以降蝙蝠は現在位置をキープしたままフォークを撃ち続けるわ』
ショットパワーMAX時真ん中に設置して自分は遊撃。そんなお手軽な夢を見れる性能だ。勿論最前線に配置しボスに密着集中火力を叩き込むことも可能だろう。ビギナー垂涎の装備といえる。
『……夢を壊すようで悪いけど、その分連射性能は落としているわよ』
そんなに甘くはないらしい。ま、いい。万能が満たすのは嗜虐心だ。適材適所の発掘こそがゲームの醍醐味だろう。
「使いこなせば空間掌握、そういうことでしょう」
『その実現をリードするのがこの私の支援特技よ』
「……そうですね。事前にどんな敵が何処から来るのか分かっていれば、サーヴァントをそこに設置するだけですからね」
道中の事故死は皆無に近い。
『ええ。だから私の支援には一つルールを加えるわ』
「ルール、ですか?」
『私が支援する限り、誰が何処から現れるか、接敵前に詳細を伝えてあげるわ。けれどもその敵への対処はフランが決める。どう、フラン、やる?』
『やるー!』
わーい、と飛び上がる妹様の声が聞こえてくる。
「な、なんですと……!?」
あかん。バックアップに恵まれた至福の旅路に暗雲が。
『あとは咲夜に修飾と、私とフランの橋渡しをしてもらおうかしら』
『かしこまりました』
かしこまっちゃだめぇ!
「そ、それは妹様に私の生殺与奪があるのでは……」
『あーっ! 美鈴私のことぜんぜん信じてないーっ!』
「い、いやそんなことは……」
キュッとして、とか無茶を言われたらどうしよう。
『大丈夫。フランももう分別のあるオトナよ。貴方に出来ないことは言わないわ。そうでしょう?』
『そうよ。オトナなんだからっ』
『それに美鈴。貴方はフランの指示する内容を満たせばいいだけ。万一それが最適の殲滅ではなく相手を撃ち洩らすことがあったとしても、指示を遂行したならばその後貴方の判断で敵を倒せばいい。事前に相手の情報は得ているのよ。それくらい、朝飯前もいいところでしょう』
「むう……」
言われてみればそのとおりだ。お嬢様の支援あるとき、こちらはオフェンス側にもかかわらず相手を知り尽くした上で迎撃する形となる。初見では絶対にあり得ないアドバンテージを得ている以上、この程度の制約はハンデにもなるまい。初撃を外したとして、フォローする次弾が間に合えば良いのである。
「分かりました。そうなってからが腕の見せ所ということですね」
そもそも地下侵攻の理由の8割がお嬢様の暇潰しだ。作業めいたイージーモードが許されるのは、お嬢様が飽きて眠くなった後だけである。
『だからそうならないのっ!』
がじがじとスプーンを噛む音が聞こえてくる。まだジェラート中らしい。覚悟と余裕を得た今となっては、よしよしと頭を撫でる咲夜さんとセットで微笑ましい姿だ。
『さあステージ1の始まりよ。美鈴、その身に備わる全てを以って異変の核を目指しなさい』
『了解ィ!』
くしゃりと帽子をかぶり直し、覚悟と気合を装填する。地上の3人が見ている限り、今宵の私に限界はない。
「バックアップ、お願いしますよ。お嬢様!」
まずは道中。早速お嬢様の支援特技を活用しよう。操作方法の『忠誠心を顔に滲ませる』ってのが良く分からんが、額に皺の1つも浮かべていればそれっぽいだろう。
『来るわよ。はじめに後方から10体縦列の小粒妖精2連隊。左右を囲むように追い縋ってくるわ』
手頃な敵だ。腕が鳴るわい。
そして流石にお嬢様。十分な情報だ。コレを咲夜さんが接続する、と。
『それじゃ美鈴。左から来る妖精の最初の一人に――』
ふむ、左からか。
無駄のない動きで移動する。さあ妹様。開戦の狼煙です。ひとつ派手にブチかましましょう……!
『――気さくな笑顔で名刺を渡して』
「いやぁどうも! 私紅魔館の紅美鈴と申します! いいところですねえ、ここは! 空気が旨い!」
振り向きざま歴戦のスマイルで妖精に寄り添い、戸惑う右手に名刺をねじ込んだ。進むにつれ濃くなる死臭を胸いっぱいに吸い込んで、在りもしないマイナスイオンを十重二十重に褒めちぎる。
『健康器具のひとつも売りつけられたら最高ね』
「どうです奥さんコレ! アタマに貼り付けて腹筋100回! 5年で貴方もシックスパック!」
帽子のプレートを毟り取り妖精の額に叩きつける。残る19体がガンガンブッ放す高速5wayを腰の捻りで小粋にかわし、自慢の笑顔をキープしたまま目の前の腹を撫でまわす。
「お買ぃ上げェェェ!」
埃を被ったマッサージチェアを売りつけ高らかに鐘を鳴らす電気屋の親父の如き勝ち鬨を乗せて、渾身の回し蹴りが炸裂する。墜落していく妖精には目もくれず、仇討ちとばかり掃射を続ける残党どもをディナーフォークで片付ける。
「なんじゃそらー!」
連隊をすっかり倒した頃、耳カバーをわし掴んで絶叫した。
『その調子だ』
この調子が続くの!?
「いや無理ですよ! 無傷で済んだのが不思議なくらいの難題ですよ!」
『そんなことはないわ。立派なハイキックだったじゃない』
「クライシスエリアの際ですよ咲夜さん!?」
流石にここは引けない。人命がかかっているのだ。無論私の命である。
『ああ、泣かないでフラン。ビジネスの初手は笑顔と名刺。貴方は間違ってないわ。美鈴だって怒ってないわよ。ねえ、美鈴』
「ぐ……」
耳カバーの向こうの妹様は沈黙を守っている。本当に泣いているのかどうか、こちらからではまったく分からない。しかし……
『……だめだったの?』
ああもう……。涙目だろう。上目遣いだろう! 妹様のこんな声を聞いてYESと言うならこの世に存在する価値などない。
「全然オッケーです!」
スペアの☆を帽子に貼り付け親指を立てる。ダメだ。勝てぬ。もとより紅魔館は姉妹を愛する淑女の砦。総員、幼女が喜ぶならば火もまた涼しの益荒男ぶりを誇りに生きている。……そう、ここは舞台だ。健やかなる自己を姉妹にアピールできる乾坤一擲の独壇場だ。
「さあ次いきましょう!」
初心にかえれば恐れるものは何もなかった。
「……でも次からはもう少しシューティングっぽい指示にしてくださいね」
それでも僅かに残っていた保身が顔を見せた。それくらいは許されるはずだった。
『大丈夫よ美鈴。私も上手く繋ぐわ』
「咲夜さん……」
紅魔が誇る瀟洒なメイドだ。彼女の選択に間違いはなかろう。
『さ、進みなさい美鈴。すぐに次が来るわよ』
お嬢様の言葉に頷き先を急ぐ。まだ一面道中だ。こんなところでモタついているわけにはいかない。
『岩よ。6秒後に巨岩が正面から突っ込んでくるわ。ショットで破砕できるわね』
ふむ、早速きたか。……お願いしますよ咲夜さん。
『では美鈴。迎え撃つようにサーヴァントフライヤーを前面配置して――』
言葉通りに設置する。よし、この場合それが最善だろう。岩などにいつまでも居座られても邪魔なだけだ。集中砲火で一気に破壊すべきである。さあ、妹様。フルバーストのご指示を……!
『――接敵2秒前に解除する』
「なぬ!?」
身の丈を超える馬鹿でかい岩が飛来する寸前、「じゃ、お先」と天下り組の重役が5時頃見せる、人生が楽しくて仕方ないといった風情で去っていくサーヴァント。
「おあああ!」
残された私に迫る岩。クナイ弾では到底削りきれる大きさでなし、紙一重で避けた鼻先を、巨岩は音を立てて通り過ぎていった。
『ナイスダッジ』
「はは……どーも」
心臓に負担のかかるミッションである。
『でもダメよフラン。今のはちょっと危なかったわ。攻撃手段がなくなったら美鈴が可愛そうでしょ?』
『難しいね』
『頑張りなさい』
そう、頑張らなくてはいけない。これは地下室に篭りきりだった妹様がプレイヤー視点を学ぶ絶好の機会でもある。そこに主役として抜擢されたのだ。名誉でないはずがない。
『準備はいい、美鈴? すぐに来るわよ。右前方から大きな妖精。自機狙いのへにょり弾を撃つようね。続けて左からも来るわ』
『それじゃ右に移動ね。正面から迎え撃つわよ。そして出会いがしらに冷酷な死神の如く――』
『――一切の仮借なく蹴散らしなさい!』
「さあ漕いだ漕いだあ!」
最近ローンで購入したというガレー船の漕ぎ手に魂たちを当てることによって、労せず大量輸送を可能とした小町のように、耳カバーから手渡された鞭で威嚇して妖精たちを追い払う。
「彼岸は遠いよ! 力いっぱい漕ぎな!」
六文銭を渡した挙句肉体労働を強いられる霊魂たち。最近の小町は死神というより最早奴隷商人の風である。
「ヨーソロォォォ!」
活き活きと仕事に励む小町の晴れ姿は、天狗の新聞を通して既に幻想郷中の知るところである。そう遠くない未来、彼女の上司の耳にも届くだろう。
『趣旨が分かってきたじゃないの』
「まー流石に」
うむうむとお嬢様は満足げだ。最早反射神経のみが問われる異空間であるが、それはそれでSTGっぽいので良しとする。
「それじゃサクッといきましょうか」
『いくいくー!』
なんとなくコツは掴んだ。妹様も上機嫌だし、しばらくはお嬢様の支援を受けて、いけるとこまでいってみるとしよう。
∇∇∇
『そろそろ中ボスのお出ましのようね』
その後も敵の耳元で老後の人生計画を囁いたりして無駄に生まれたピンチを華麗に切り抜けつつ、次第に慣れてきた妹様の的確な指示で迫る敵を撃破し、一面道中も半ばに差し掛かっていた。
「流石に中ボスの情報も丸分かりじゃ面白くないですね。ここらで支援を切り替えたいと思うんですが……」
『ん、そうね。それもいいわね』
予め全てを識っていると非常に楽チンなのだが、その分面白みが薄れることも事実である。……お嬢様の日常とは万事がこんな感じなのだろうか。
「……」
結果を妹様に委ねたお嬢様の気持ちが少しだけ分かった気がした。
『さ、それじゃ次は誰にするのかしら』
「ん、そうですね……それじゃ妹様、お願いできますか」
『うん!』
あんなに楽しみにしている妹様を待たせるのも忍びない、というのも理由のひとつだが、近接火力型という触れ込みがなんとなく対ボス向きの性能であるように聞こえたのだ。
『じゃあ私の装備を教えてあげるわ』
「ええ、お願いします」
『私の特徴はなんといっても高火力。通常ショットのレーヴァテインは1発でマリス砲の4倍の威力を誇り、雑魚から6ボスまで触れる全てを焼却するわ』
「おお……」
なんという超火力。流石は神代の魔杖だ。これならばこの先にあるという老人ホームの施設長がどんなタフガイだとしても、ひとたまりもあるまい。
『その代わり射程も超が付くほど短いから気をつけてね』
「まー、そこは予想してました」
あくまで近接火力型だ。おそらく刃状の武装となるであろう妹様のレーヴァテイン。オールウェイズ零距離射撃というSTGにおける最高難度の蛮勇を初見で敢行する代価としての爆炎無双である。まあ組み手や反射神経にはそれなりに覚えがある。私に限ればインファイトはむしろ望むところ。もしかしたら私にとっては、妹様こそが最も相性のいい相棒かもしれない。
「レーヴァテインってやっぱり手で持つ形になるんですか? ちょっと見てみたいなあ……」
『ん、いいよ?』
妹様の軽い声と共に、白く柔らかな幼女の腕が1本、にょっきり耳カバーから突き出てきた。
「うあ!」
おそらく妹様のものだと思われるぷにっとした小さな腕は、なんらの予備動作もなく私の身の丈ほどの黒杖を吐き出し、秒と経たずに着火した。
「ヒィ!」
妹様とある意味同化しているお蔭か熱くはないが、馬鹿でかい剣が間近でメラメラ燃えているのは中々に怖いものがある。
『にとーりゅー』
「ぎゃー!」
増えた!
「こ、怖いですよコレっ」
月満ちた夜のハクタクの如く、2本の魔杖を生やしたアタマをブンブン振って訴える。ビジュアル的にも怖いはずだ。
『よくお似合いよ』
「そら結構ですけどもっ」
『落ち着きなさい美鈴。見てのとおり魔杖を振るうのは耳から生えたフランの腕よ。貴方は体捌きで剣戟をリードする。簡単でしょ? 操縦者と砲撃者を別個に備えた戦闘機みたいなものよ』
まあやることが減る分簡単っちゃ簡単だし、妹様のセンスなら問題なく敵は倒せるだろうけど……。
「……耳から?」
『顔面固定オプションって書いてあったでしょ』
「……二人羽織?」
『楽しそうね』
流石に剣先に口付けたりして魔杖を授受する、騎士の授与式みたいな阿呆な夢想が実現するとも思っちゃいなかったが、まさか耳カバーから直接剣をブンまわすとは予想外だった。
『あーっ。めーりん私のこと邪魔って思ったでしょー!』
「い、いやまさか……」
いかん。ご機嫌を損ねそうだ。
『私の杖が一番強いんだからね!』
「わ、分かってますよ妹様。コンビプレイでがんばりましょう」
まあいい。これだと文字通り2人1組でいかにも協力プレイっぽい。妹様も喜ぶだろうし、ここはひとつ騎馬戦の騎馬に徹しようではないか。接近、回避、効果的な斬撃を生み出す適切な体重移動と、仕事は極め甲斐がある。ちっちゃい腕が揺れるたびに乳臭い匂いのご褒美もあるし、なかなか悪くない旅路かもしれない。
「コンビプレイで思い出しましたが、妹様の支援特技ってコンボがどうとかありましたよね」
『ん……私との交信強度はグレイズしたりフロントラインに出張ったりしても上昇しないわ。その代わりレーヴァテインで敵を倒すと少し上がるの。しばらくすると0に戻っちゃうけど減少する前に次の敵を倒せば更に交信強度は上がり、コンボ成立とみなされるわ』
「なるほど。面白そうですね」
蹴散らすほどにシンクロ度アップ。物騒だが分かりやすい。
『ふふん。50人斬り達成したらご褒美に画面全体をキュッとしてあげるわ』
「おー、気前いいですねー」
要は50コンボ毎に自動でコスト0の霊撃が発動するようなものだろう。凶悪な支援性能に聞こえるが、客観的に見れば私と妹様とのペアは竹槍でB29に躍りかかる蛮勇に等しい。多対一、加えて銃に剣で挑むという、火力と引き換えに生還を放棄したスーサイドアタックだからこそ与えられた破格の褒賞なのだ。
『ボスっ子にはダメだからね』
「しませんってば」
コンボ成立の制限時間とやらは、そう長くはないのだろう。ボス戦突入前には必ず途切れる程度に調整されているようだ。
「しなくっても秒殺の威力でしょうし」
『まーねー』
目の前で魔杖がぶんぶん振られる。網膜を貫きギラつく炎は正に世界の黄昏で、その火炎放射器ともチェーンソーともつかない飴色の凶器は終末を確かに予感させる。そして幼女の手を介してそんなモノを耳からブラ下げた私の外見も相当終わっているのだろう。
『あ、それからパワーアップするとレーヴァテインが伸びるから期待してね』
伸びるらしい。射程の拡大は歓迎したいが我が見た目の妖怪っぷりも輪をかけていく計算だ。複雑である。
『フラン、おしゃべりはそのくらいにして、そろそろ行きなさい。中ボスも待ちくたびれるわ』
そういやすぐに中ボスって話だったか。いかんな。まったく先に進んでない。少し急ぐ必要があるだろう。
「それじゃ行きましょうか。接敵したら懐に飛び込みますから速攻で斬り抜けましょう」
『うん! ほら美鈴もっと前に出てよ。3秒で倒して次に行くんだから!』
「ええ? 流石にこれ以上前に出たら危ないんじゃないですか?」
音に聞くリグルキックの悪夢を再現するわけにはいかないというのに。
『美鈴なら避けられるでしょ。ほーらぁもっとまーえー』
「はいはい」
ちっちゃな手にぺちぺち叩かれスピードを上げる。まあいいか。リグルキックは強欲が招いた無警戒への必罰だ。注意さえしていれば相手が左右どちらから来ても回避に問題はあるまい。リグルは確か左からだったか……?
『あ、あれじゃない? 中ボス』
「ん……ああ、それっぽいですね」
緑髪の少女が比較的ゆっくりとこちらにやってくる。なんだ警戒の必要はなかったか。1面中ボスなら口上もなかろう。一気に行くか。
「それじゃ前に出ますよ妹様」
『おっけー!』
紅髪と魔杖を靡かせて前に出る。が、
『わ、美鈴! 前、前!』
トロいとさえ思える相手の動きに油断があったといえばそうだろう。最速の踏込みから如何にして妹様の一閃に繋ぐか、そこばかりに気をとられた私は相手の突進に不意を突かれる羽目となった。
「へ?」
気づけば全方位に弾をバラ巻く相手が既に眼前に迫っていた。レーヴァテインの射程内だが……とても攻撃に移れる体勢ではない。
「うあ……! 霊撃! 遠隔霊撃でお願いします妹様!」
已むを得まい。幸いここまでの稼ぎで1段階パワーアップしている。攻撃範囲の縮小は痛いがここは手堅く切り抜けよう。
『しょーがないなあ』
……白状すれば、あえて霊撃を使ってみたい気持ちもゼロではなかった。だって霊撃といえばボムですよ? 蝶のように舞い思春期のようにメッタ刺す華麗なる自機が、絶体絶命を撥ね退ける最終兵器。それがボムだ。敵方であればラスボスでさえ持ち得ぬ禁断の秘奥、多くの者にとってそれは焦がれて已まぬ対岸の花である。……仮初の主役たる今この瞬間、私の手にはそれがあるのだ。まー、システム上実際撃つのは妹様なんだけど。
『えいっ、と』
周囲が音を立てて侵食される。攻防一体の異界が敵弾もろとも世界を食い荒らしていく。
――遠隔霊撃:【そして誰もいなくなるか?】
「わーお」
たいへん気持ち良い。自分ひとりが生存を許された空間で仁王立ち。王者の気分である。
「これがボムかあ」
うっとりだった。
「おーおー。敵弾が消滅していきよるわ」
消える消える。四方より殺到するこちらの弾に煽られてまるで紙のようだ。消える消える。消える消える。消える消える消える消える消える……え、ちょっとコレいつまで続くの。
「妹様妹様」
『にゃにー?』
「なんかすっごい長いんですけど、この霊撃いつまで続くんですか?」
『んー……原作準拠』
ぐあ……。
「85秒っすか……」
長いなんてもんじゃない。都心のメトロなら2駅先につく頃だ。相手から見れば永遠に等しかろう。しかもなんか凄い威力。こっちは無敵モードで突っ立ってるだけなのに相手の体力の減ること減ること。そら誰もいなくなるわ。あ、スペカ発動した。……終わってしまった。
「いや流石にマズいですよ妹様。ホラあの子、桶に篭っちゃったじゃないですか」
体力を完全に失った中ボスはがたがた震えて桶から出てこない。無理もない。今もなお霊撃は継続中なのだ。
『強いでしょ』
「強すぎですよ」
主人公補正も相俟って、6ボスのラストスペルすら削りきる威力だ。
「デイジーカッターじゃないんですから、草一本残さないホロコーストはちょっと……」
ゲームにならぬ。
『フラン』
『にゃにー?』
『禁止』
『ぶー』
多少はやりすぎの自覚があったのだろう。擬音で口を尖らせるも、それ以上の文句が飛び出すことはなかった。
『美鈴。以降、フランが支援するときは霊撃無しよ』
「仕方ないですね……」
コンボを繋げば擬似的な霊撃はある。何とかそちらで切り抜けていくとしよう。
「それじゃ先に進みましょうか」
名も知らぬ中ボスに心で詫びて飛び上がる。拗ね気味だった妹様も、咲夜さんにパルフェグラッセを貰ってご機嫌を直しつつあった。勿論両手は私の耳元で凶器を握っているので、スプーンで食べさせてもらうサービス付きだ。察するに妹様の現在位置は咲夜さんの膝の上か。……いいなあ。
『ほらフラン、さっさと食べちゃいなさい』
『むー』
丸い声が耳元でむぐむぐ言い出した。グラッセを口いっぱいに頬張っているのだろう。ハムスターのように頬袋を膨らませた妹様をこの目で確認できないのが残念でならない。
『ぅぐ……。んむ、だいじょぶ……いける。ん』
「食べ終わりましたか?」
『うん。さ、ブッタ斬ろっか』
斬殺ハムスターの光臨である。
「やっぱり前線に?」
『もちろん』
コケティッシュな殺意を耳からブラ下げ、画面上方をキープする。先ほどは油断したが二度はない。出会いがしらの一刀で声を上げる間もなく切り伏せてくれよう。
『悪即斬ね』
中ボスの哀れな顛末を鑑みるに、悪の敵対者を名乗るには少々カルマを積み過ぎた感もあるが黙っておく。沈黙は金である。
「反射神経の勝負です。相手が現れたら速攻でいきましょう」
僅かに目を細めて心を張り詰める。最前線で背水を張るなら相応の集中が要るだろう。緊張をキープして地下を目指す。そして数秒の後。
「――ッ」
『左右同時っ』
妹様の声に先駆け、視界のゆらぎに反応して間合いを詰める。相手は先程も現れたへにょり大妖精だ。
「……!」
霧雨の燕の如く身を屈めて懐に入ると、左肩から突き上げるように上体を反らして半歩引く。
『unu!』
膝から腰、背筋から首へと伝動する力を幼女に託し、一分の漏れなく継いだ斬り上げが真紅の弧を描いて敵を薙ぎ払う。
『doi!』
斬り上げた凶器の勢いを殺さず、遠心力そのままに180度のスラッシュターン。ブチ撒かれたへにょり弾をグレイズしながら対の敵を斬り抜けた。
「さあ、どんどんいきますよ……!」
間を置かず大小混成の妖精達が蛇行を交えて次々と襲い来るが、妹様と私の敵ではない。こと攻撃に関しては流石に吸血鬼。妹様のレーヴァテインは私の重心を100%把握した一閃であり、他人の身体から伝わるパワーとスピードに遠心力を加えるその剣戟は、即席の二人羽織とはとても思えぬ鮮やかなジェノサイドを見せ付けてくれる。壮絶な送り火に、諸手を上げて知らず叫ぶ。
「ンー……フレグランス!」
一閃ごとに鼻をくすぐる乳臭さが、この私の闘争本能を堪らなく掻きたてていた。
『余計なこと叫んでるからコンボ途切れたよ?』
「ぐう……」
突き上げた拳を下ろしてションボリする。が、そんな暇はない。ここは死地の真っ只中。泣く子が永遠に沈黙する最前線だ。仕方ない、また1から殺りなおそう。
「突っ込みますよ妹様!」
『わーいっ――unu! doi! trei! patru!』
決して弾に当たらない理不尽なハリウッドスターのように弾幕の嵐に突貫していく。奴らと違って気を抜くと逝ってしまうのが辛いところだが、その辺はテクニックと愛嬌でカバーするしかないだろう。
『sase! sapte! opt! noua……zece!』
踊る火の粉を神楽と見れば、幼いキルカウントは祝詞である。思ったほど首に負担のかからない妹様のレーヴァテインは神々しく闇を抉り、一振一殺の信条は揺るぐ気配も窺えない。そんなクラシカルブッチャーな妹様の手腕だが、その本体は咲夜さんの膝の上でパタパタ動くA級幼女である。それを知ってか知らずか、妖精たちも割りと楽しげに追い散らされていく。
『patruzeci si noua……次で50だよ美鈴!』
「おお……!」
いつの間にかコンボ達成の瞬間が迫っていた。見渡せば数え切れぬ妖精の群れ。インスタント霊撃のお披露目には似合いの舞台だろう。
「それじゃお願いしますよっ!」
手頃な妖精に的を絞って最小の動作でレンジを詰める。勢いを引き継いだ幼女と耳カバーのコラボレーションは、会心の呼吸で魔杖を振り下ろす――!
『――cincizeci!』
「カモォォォン!」
夢見る勝ち鬨と共に炸裂するレーヴァテイン。瞬間、閃光と共に発動したご褒美によって地下大空洞が激震する。
「フォォ……」
世界を対象に施行された破壊は目の前の景色を完全に塗り替えた。暗澹たる洞穴は花咲き誇る楽園へと姿を変えて、老人ホームから吹き付ける死臭はフローラルな花の香りに、金切り声は川のせせらぎとなって私を祝福してくれていた。
「流石、妹様は派手ですねー……あれ、妹様?」
ついさっきまで耳元で大暴れしていた腕がない。代わりにふと見た川の向こうで、ジョン・F・ケネディが穏やかに手を振っていた。
「……おや?」
暗転する花畑。胡乱な眼下に広がる景色はPアイテムをブチ撒けた、さっきと変わらぬ地下空洞である。
「これって……」
『1ミスね』
ぎゃー! 残機減ってる!
「何で!? え!? ご褒美は!?」
『あげたでしょ。キュッて』
「被弾してますよ!?」
『言ったでしょ。対象は画面全体だって』
「えええ!?」
胸元に突っ込んだ金属板を引っ張り出す。……いやまあ確かに画面全体って書いてあるけども。
「自機まで破壊対象ですか……」
『ノリノリでコンボを繋げるから被虐趣味に目覚めたのかと思ったわ』
「咲夜さん……」
どうやら近接火力を謳う妹様の支援は50人斬りの度にボムが発動するのではなく、50HIT目に自動でメガンテをブッ放すカミカゼ仕様ということらしい。確かにノーマルショットが妙に強いとは思っていたのだが、こんなハンデが採用されていたとは。
『一応遠隔霊撃による喰らいボムで回避は可能よ』
その遠隔霊撃は先の惨劇により封印されたままである。……妹様は完全にボス向けの支援ということだろうか。
『50人斬り達成から3フレームの間に支援を切り替えて遠隔霊撃。出来るでしょ?』
「まー出来るっちゃ出来ますけども」
その都度ショットがパワーダウンするのもいかがなものか。
「資産にも限りがありますからね」
そして道中の支援切り替えが可能な紅魔仕様ではあるが、その画期的なシステムの操作は流石にボタン一発という訳にはいかず、支援者のご機嫌を損ねない為の繊細なネゴが必要とされる。50人斬りのエクスタシーに震える妹様を3フレームで説き伏せた上、駆り出されたばかりで気怠げなお嬢様や咲夜さんに即時の遠隔霊撃を依頼するには、相当の代価が求められるだろう。秘蔵のおやつや秘匿した盗撮写真など、失うものは大きいはずだ。
『なによう! せっかくキュッとしてあげたのにめーりんちっとも喜んでない!』
「むぎぎ」
そして感謝のファンファーレが鳴らないことに甚くご立腹の妹様に、思案顔の頬を摘まれ引き伸ばされる。
「フニー!」
一見無邪気な仕草も吸血鬼の力であれば握撃に等しい。本気で抓られている訳ではないが、払い除けるべくとっさに手が跳ねた。
『あら、フランに何をする気?』
浮いた右手が妹様の腕に触れる寸前、耳カバーから飛び出してきたお嬢様の手がガッチリ妹様をガードした。
『手癖が悪いわね』
「ぬぅっ……」
お嬢様の手を掻い潜らんと、日夜鍛えた太極拳の極意をもって妹様にワシ掴まれた頬を目指すが、当然敵わず逆にお嬢様に鼻や乳首を抓まれまくる。
『……主を誘惑するなんて、少しはしたないんじゃなくて?』
己が人生を丸ごと棚に上げた咲夜さんが、在りもしないムードをブチ壊すべく、私の頭上でタンバリンを叩きながら『ハローソフマップワールド』を歌いはじめた。
「フォォ……!」
頬を広げ、乳首を抓み、太極拳を披露しながらタンバリンを打ち鳴らす8本の腕。その国歌『ハローソフマップワールド』の調べに乗せて軽快に駆け抜ける八面六臂は千手観音の様相を呈し、紅蓮華で巧みに刺激されたこの私の脳下垂体が嬉々としてアドレナリンを分泌し始めた。
「WE LOVE SOFMAP WORLD!」
いける。
根拠のない確信を抱くや、狂乱の上半身をそのままに光の世界目指して走り出す。気分は開催国の聖火ランナー。見られる快感を貪りながら公道をひた走る火の車だ。
「look me!」
燃え上がる露出癖が新たなプレイの可能性に到達しかけた頃、見知らぬ顔が目についた。
「あー……確かに今下はお祭り騒ぎだけどさ。またスゴいのが来たね」
「う?」
「黒谷ヤマメ。1ボスってことになるのかね」
ボスのご登場らしい。ランナーズハイに煽られてどうやら結構な距離を走っていたようだ。道中敵が襲ってこなかったのは我が千手に恐れをなしたか。
「いやあ、触りたくないからでしょ。フットワークの軽い変態ほど厄介な人種はないからね」
言われてみれば確かに客観的に今の自分を見たい気は起きない。
「病気を操る程度の能力なんだけどね。心の病は管轄外かな」
「うぉい!」
「ホラ。これ飲んでお帰り」
放られた錠剤を見る。
『塩酸ドネベジル』
アルツハイマーの進行を抑えるクスリじゃねえか。
「あったかくして寝るんだよ」
だがいい人だった。
「うに……」
いつの間にか解れた腕を肩ごと落とす。6つの腕は耳カバーの向こうに帰っていた。
「ま、下へ行くなら止めやしないさ。でも気をつけなよ。地下は忌避された流刑地だ。病気の者に優しい場所じゃあない」
「いや病気じゃないんだけどね……」
「病人はみんなそういうのさ。けどまあ、確かに今は真っ当な目の色だ。感情易変か。人格障害かな」
もはやどう足掻いても健常者にはなれないらしい。
「何でもいいけどね……。で、止めないって、いいの? あんた1ボスなんでしょ」
「んー……いいさ。病人だって陽にあたりたい時もある。お祭り騒ぎを楽しむ権利はあるよ。いいから行ってきなって。楽しめるかどうかはあんた次第だけどね」
「……そ。どうも」
どうやら本当に素通りさせる気らしい。まあ1ボスってのは気ままな野良妖怪が多いもんだが、このヤマメという少女はなんだかそれだけではないような気がした。病気を操るというが、病んだ者への理解も深いのだろう。結構なことだが、それは同時に先の火走式典が相当に未来の無い病みっぷりだったという証左でもある。
『タンバリンが致命的だったわね』
『お嬢様がいけないんですよ。レディは思いつきで他人の乳首を抓んだりはしないものです』
『むにむにー』
外野に反省の色はない。が、妹様の声から何か柔らかな物体を揉みしだく幼女を想起し、明日への希望を燃やし始めた私に何を言う資格もないだろう。
「むにむにー」
『むにむにー』
妹様の声に合わせ、わしわしと十指を開閉させる。その卑猥な指先をちらりと見ると、ヤマメは軽く首を振って後ろを向いた。
「お大事に」
ひら、と片手を一度あげ、ヤマメは去っていく。幼い外見に似合わぬクールな仕草は、中々どうして様になっていた。
「ロリクールだ」
先生と呼ばせていただこう。オプティカルマウスの製作に定評がある外資企業のような愛称を背に、ヤマメ先生は堂々と凱旋していった。
「あれ、そういえばこれで1面クリアですか」
『そのようね』
「話の分かるボスでしたねー」
『ふん。骨のない女ね。あれなら対抗してあちらも腕を8本剥き出してくる方がまだ可愛げがあるわ』
「また無茶を」
『無茶なものか』
お嬢様はヤマメ先生の人格者っぷりがお気に召さないらしい。まあそうだろう。折角暇潰しのマッチングをしたのに相手が淑女では話にならない。
「それでも話は進むんですけどね」
ともあれ1面クリアである。選別のドネベジルを懐に入れて、次なるステージへの闘志を燃やす。が、
「……あ」
ふと、忘れ物に気づく。
「咲夜さん咲夜さんっ」
あわてて支援チェンジ。
『何よ急に。どうしたの?』
「ほらこれ、これっ」
高々と掲げた両腕をグッと折り曲げ、背筋と大臀筋にあらん限りの力を籠める。
「ナイスバルク!」
自画自賛と共に炸裂するダブルバイセップス・バック。チャイナドレス越しにマッシブな紅美鈴をこれでもかとアピールする。
『はあ?』
「ナイースバルク!」
もう一度叫ぶ。滑らかに移行したサイドトライセップスが薄暗い地下を眩く照らす。自慢じゃないが上腕三頭筋にはそれなりに自信がある。これはいただきだろう。
『だから何よ』
「む……」
おかしい。反応が鈍い。まさか咲夜さんは筋肉に興味がないのか? いや、そんなはずはない。ボディビルは世界の共通言語だ。鍛え抜かれた心と体に胸ときめかせない乙女がいるならお目にかかりたいものだ。
「キレてるキレてる!」
ならばと繰り出す渾身のモストマスキュラー。サイドチェストを基調に大臀筋のアピールをふんだんに盛り込んだこの私のオリジナルポーズだ。これを目の当たりにしてクラリとこない少女はいない。ああ、日々の勤務の合間に木陰でトレーニングを積んでいて本当に良かった。ありがとう豆腐屋さん。豆腐の味よりポージングに造詣の深い貴方の協力がなければこのポーズは完成しなかった。
「ショウタイム!」
ポーズをキメたままゆっくりと回転をはじめる。BGMはいつの間にか『ハローソフマップワールド』から『ジェラシー』に変更され、筋肉に煽られたジョン・ロビンソンがリバーブのかかった奇声を上げはじめた。
「ビュリホゥ!」
今夜のジョンの盛り上がりはどうだ。選曲、声の張り共に抜群の仕上げ。今宵の『ジェラシー』はこの私の筋肉を彩る資格がある――!
「咲夜さん咲夜さん、どうですかっ!?」
『さっきのクスリを飲みなさい』
「ど、どうしてっ」
『どうしてはこちらの台詞でしょう。全体的に何なのよ』
この私の回転式肉体美がまったく通用していない!? 馬鹿な……。
「ポ、ポージング!」
『だからどうして唐突にポージングをキメるのよ』
「ご、ご褒美がっ。咲夜さんの紅茶が欲しいですっ」
『はあ?』
「お、遅かったですか?」
『手遅れという言い回しなら今の貴方に相応しいわね』
「あぁっ……」
ダメか。やはりステージクリア後に足掻いても間に合わないのか。
『一体何がしたかったのか。きちんと説明なさい』
「だ、だってっ、かっこいいところを見せたらご褒美が貰えるって、これにっ」
ショット解説の金属板を握り締めて涙目で訴える。
『んん? ああ、確かに私の支援中にいいところを見せてくれれば、それなりの労いをしてあげるわ』
「格好良くないですか!?」
もはや無駄と知りつつも再びモストマスキュラーを見せ付ける。形振り構わず紅茶まっしぐら。咲夜さんの淹れた労いの一杯にはそれだけの価値があることを、館の者なら皆知っている。
『その悪足掻きが?』
「くぅっ……」
瀟洒に切り捨てられガックリと膝をつく。ああ、咲夜さんの紅茶が。隙あらば支援チェンジして各ステージ確実にいただいていこうという幸せ計画がファーストステージで頓挫するとは。チャイナドレスに落ちる雫が紅茶でないこの辛苦。自分の中で咲夜さんの紅茶がどれほどのウェイトを占めていたのか、胸が痛むほどに実感する。
『……あのね美鈴』
「……咲夜さん」
白く細い手にそっと頬を撫でられた。
『それだけ楽しみにしてくれるのは嬉しいけどね。たかが紅茶で泣くことないでしょう?』
「違うんです。咲夜さんの紅茶は違うんです」
静止した時の中でどれだけの手間をかけて淹れているのか。彼女の紅茶は他の誰のそれよりも飲む相手を思って淹れられている。その価値が分からぬほど無粋ではないつもりだ。
『それじゃあ次は私の支援を使って? 使いこなしてくれたらご褒美をあげるわ』
ルールはルール。道中咲夜さんの支援を使わなかったステージ1でご褒美をねだることは許されない。が、今示されたのは黄金の未来だ。お嬢様の傍らにありながら旅路の伴侶を名乗り出てくれた彼女がパートナーならば、2面どころか修羅の棲む老人ホームでさえ突破は容易だろう。
「さ、咲夜さん……」
柔らかく頬を撫でる彼女の手に無骨な両手をそっと添える。
「分かりました。ステージ2は是非咲夜さんの支援をお願いします」
私が間違っていた。魅惑のゴールデンドロップは勝利の味だ。咲夜さんとの絆を後に回し、奴隷商人や祖父世界に現を抜かしていた私に得る資格があろうはずがない。褒美欲しさに全てが終わってから美尻を見せ付ける浅ましさを恥じよ。そんなものには神社の出涸らし程の価値もないのだ。
「そして必ずや勝利を貴方に」
彼女のことだ。瀟洒な支援だろう。それを完全に使いこなす。咲夜さんのパートナーである以上そう努めるのは当然のことだ。
『次の支援は決まったようね』
「はい。お待たせしましたお嬢様。早速ステージ2に向かいます」
『いいわ。1ボスで楽をした分、十二分に楽しませて頂戴』
『むにむにー』
お嬢様方に異存はないようだ。妹様が一体何を揉みしだいているのか、たいへんに乙女心がくすぐられるが、ここは真っ直ぐ前を見ていくべきだ。こんな私にチャンスをくれた咲夜さんに報いることだけに集中しなければ、それこそ彼女に顔向けが出来ない。
『それじゃ行きましょうか』
「はいっ。お願いします、咲夜さん」
心機一転暗闇に飛び込む。これよりは忌み嫌われた地の底の果て。万丈の気炎なくしては歩みすら儘ならぬ地獄のとば口だ。
『使いこなせとは言ったけど、まずは理解しなくちゃね。私の支援の特性を教えてあげるわ』
「あ、はいっ」
願ってもない申し出だ。
『支援特技についてはもういいわね。私のことをきちんと理解して使ってくれたら最後に紅茶で労ってあげるわ』
要は馬を釣る人参だ。だがこの人参は道化を自覚した馬どころか、その滑稽を嗤う大衆の憧憬までも一身に集める至高の紅い根菜である。フィッシング上等。それで湧く覇気があるならあるだけ釜にくべねば、生の潰える時まで後悔するだろう。
『オプションは射角指定オプション。ショットはスクウェアリコシェ。上手く組み合わせればどんな窮地にも対応できるテクニカルな支援よ。まずはオプションだけど……そうね、貴方には口で説明するよりも身体で覚えてもらったほうがいいかしらね』
「え、カラダでっ?」
声が跳ねる。意味を理解してなお反応するこの脳はなんとかならんものか。
『ええ、身体で。……どうしたの? 顔が赤いわよ』
「い、いえ……是非お願いします」
悪いのはこの罪作りな耳カバーだ。お嬢様や妹様の時もそうだったが、咲夜さんの甘い声が吐息と共に耳元で直接囁かれるなんて、それだけで明日死んでもいい程のご褒美である。鼓膜を侵食しコルチ器で増幅されたキャンディボイスにより、大脳聴覚皮質を中心にシナプスの隅々まで濃密なバニラエッセンスで満たされた駄脳が、この私の思考を著しくかき乱すのだ。
『そう? それじゃあY軸下方、X軸中央で少し待機してね』
「はあ……このあたりですか?」
画面後方の真ん中にちょこんと居座る。妹様の時とは正反対のポジショニングである。
『ええ。それじゃまずはオプションだけれど、これは妹様のように耳カバーに固定されているの。左右のカバーからそれぞれナイフが高速連射されるわ』
「ふむふむ」
妹様の支援の後となっては違和感も薄いが、本来ならば耳からナイフをブッ放す異容はふむふむで済む奇行ではない。天狗の目に付けば翌朝には未来永劫道も歩けぬ写真が出回り、更に阿求に知られたとなれば、訳の分からん水墨画など添えて紅美鈴という妖怪の歪んだ情報を末代まで垂れ流すだろう。持ち前の疾風迅雷と文明の利器をフル活用して他人の性癖を公開するジャーナリストや、偏った情報をもとに脳内で練り上げた奇癖をナチュラルに添付した個人情報を『稗田共有フォルダ』にブチ込む作家がいる限り、幻想郷内における公共の場での振舞いは細心の注意をもって行わねばならないのである。特に後者は文字通り死んでもフォルダの中身を手放さず、それどころか代々精力的にフォルダ内の情報を紙媒体に起こしては即売会でバラ撒くという厄介な人物だ。彼女らの存在を考えればここ数時間の私はあまりに軽率な行動をとっているのだが……まあ、炸裂するユニークも皆の厚意の賜物である。妹様も喜んでくれるし、正直慣れもある。忌み嫌われた地下ならカメラも届かぬだろうし、構わないだろうという判断だ。
『そうこうしているうちに敵が現れたわね』
はっ、と前を見ると前方左右から交互に妖精達が飛び出してくる。ステージ2はもう始まっているのだ。
『ちょうどいいわ。美鈴、少し前に出ながらショットを連射してくれる?』
「ん、分かりました」
本来の自機ショットであるクナイ弾と共に、両耳からリコシェを撃ちつつ軽く前進する。と、正面垂直方向に連射していたリコシェが耳元で角度を変え、左右それぞれ前方60度くらいを照準した。それは紛れもなく妖精達が現れるポイントであり、出会いがしらを狙われた彼女らは弾幕を張ることも出来ずに追い散らされていく。
「なるほど……射角指定オプション、ですか」
『ええ。見てのとおり、デフォルトでは正面を狙って撃つ私のショットはテンキー8の単体使用……つまり高速移動中前方に向かうことで左右リコシェの角度が開いていき、最終的には真後ろを狙うようになるわ。右耳のショットは右側に、左耳のショットは左側に傾いていくわけね。前方垂直方向への2連射だったスクウェアリコシェが、少し前に出ることで左右45度への広角射撃に、更に前に出ることで真横への水平射撃へと変わり、前に進み続ければ後部垂直方向へのバーストに収まるというわけ。ちなみに目当ての角度で低速移動に切り替えれば、そこで角度は固定されるわ』
「はー……使いこなせれば全方位カバー可能なんですねー……って、うあ……あぶな!」
現れては消えていく妖精たちの影から闇を縫って飛来した銀弾の群れを辛うじて躱す。なんだ、新手か?
『言い忘れていたけれど、スクウェアリコシェは到達した画面端で最大2回反射する高速貫通弾よ。今のは戻ってきたナイフね』
見れば、いつの間にか現れた6つの腕がそれぞれナイフを数本ずつ指で止めていた。そのうち4つの小さな腕が真上にナイフを放り投げると、それは清澄な音を立てて残る10指に収まっていく。
『ありがとうございます、お嬢様、フランドール様』
『咲夜の弾幕は後が面倒だからね。……美鈴も可能なら回収なさい』
そういえば咲夜さんは弾幕で使用済みのナイフを時間を止めて全て回収していると聞いたことがある。5桁は下るまいナイフを全て回収などまさかと話半分に聞いていたのだが、本当なのだろうか。
「……銀のナイフでしょう? お嬢様たちは触って平気なんですか?」
『……』
失言だったか。後で目に涙をためてその腰にしがみついていく癖に、限りなく従者に優しいのが現代のノーライフキングだ。きっと今は姉妹かわりばんこで咲夜さんに指を舐めてもらっているのだろう。
「……はっ?」
もしかしたら姉妹の空いた片手はそれぞれ相手が咥えているのかもしれない。お嬢様の指を妹様が、妹様の指をお嬢様が舐め癒し、あぶれた片手の指はかわるがわる咲夜さんに舐めさせる。
「いっ、いいなっいいなっ!」
広がる桃色に興奮を抑えきれず、拳を握り締めて両肘をスイングさせる。
『何がいいのよ』
「さ、咲夜さんっ? いいんですか、お口を離してっ」
『口を? 何のことかしら?』
「い、いえなんでも……」
現実は非常である。コバルト文庫のようにはいかないものだ。
『ふーん……』
「はわわ……」
しかもバレたっぽい。今のところ、この手の我が妄想は8割がた咲夜さんに看破される戦績を誇っている。そしてその際注がれる冷たい瞳――! ああ、想像するだけでゾクゾクする。
『ま、いいわ。ショットの特性は理解したかしら? 高速貫通反射弾の左右2連射。そうね……しばらくオプションを前方45度に固定すると分かり易いかもしれないわね』
言われて少し前に移動し、前方60度に固定されていたリコシェを45度に調整する。
『そうそう。そのくらいよ。前後の動きで角度を調節。これが射角指定オプションの基本ね』
お言いつけどおり前方45度に照準を合わせリコシェを撃っていると、左右側面から現れる妖精達が次々と落されていく。コレは便利だ。しかもリコシェは最大2回反射する貫通弾。妖精を打ち抜いた後、側面の壁で1度目の反射が行われる。前方45度でバーストされるリコシェは側壁から見ても45度の角度で入射してくるので反射角度は反対方向にやはり45度。画面前方に向かいまたもや45度で入射したリコシェは上端で2度目の反射をする。勿論射角は45度である。左のカバーから発射された時計回りのリコシェは右側壁へ、右のカバーから発射された逆時計回りのリコシェは左側壁へとそれぞれ向かい、そこでお役御免、闇の彼方へ消えていく。つまりこの角度で固定されたリコシェは左右から続々現れる妖精たちを照準しながら、正面への警戒も怠っていないのである。低速移動を行いながら画面端の反射位置を変えるもよし、高速移動によりそもそもの発射角度を調整するもよし。なるほど、確かに使いこなせば全方位へのフォローを容易に可能にしてくれる、痒いところに手が届く武装である。自分と壁、そして敵との位置関係の把握や角度と距離の微調整はシビアであり、高次の使用には熟練を要すこと必至ではあるが……なに、この私の得意分野だ。
『あら、初めてにしては上手いじゃない』
「ふふふ」
腕さえあればオールラウンド対応可能な貫通反射弾。キモは距離と射角の調整、そしてそれに囚われず正確に回避行動を行う精神錬度だ。
「大体のコツは掴みました。いけそうです」
館の皆に明かしたことはないが、射角の調整は得意中の得意だ。ああ、日々の勤務の最中にパズルボブルの腕を磨いておいて本当に良かった。ありがとう豆腐屋さん。豆腐の味よりパズルゲームに造詣の深い貴方の協力がなければ全国優勝の偉業は為し得なかった。
『頼もしいことね……そろそろ敵の出現パターンが変わるわよ』
「はいっ、任せてください!」
発射角度と反射角度を微調整しつつ前方より飛び出してきた陰陽玉の迎撃に入る。リコシェは一発の威力は低い。貫通と反射の利点を駆使し、一発を出来るだけ多くヒットさせることが殲滅の近道となる。乱射されるゾウリムシ弾を掻い潜りつつ、散眼の境地でヒットを稼ぐ。
『本当に上手いじゃない』
『そうですね。まるで勤務中にタイトーのパズルゲームで腕を磨いていたかのようですわ』
ぎゃー。バレてる。
『でも一撃が軽すぎるんじゃない? 私のレーヴァテインのほうが強いよ? もっと硬い敵が出てきたら困るでしょ? ね、私にかわろ?』
そして何かに揉み飽きた妹様が再びこちらに興味を示し始めた。その言葉を証明するかのように、折り良く一際硬い陰陽玉が画面側面より飛び出し中央に居座る。
「お言葉ですが妹様。咲夜さんのスクウェアリコシェは貫通反射型。たとえ硬い相手でも動きが止まっているなら……」
Y軸を敵に揃えてショットを垂直に調整する。
「反射前の往路で1度、貫通後画面上端で垂直反射した復路で1度。そして更に画面下端で再反射して1度と、ナイフ1本につき計3ヒットが狙えます。連射密度も濃いし、中々の火力になりますよ」
陰陽玉は画面中央で動きを止めてから中弾をばら撒く。バーチカルショットによる集中砲火を浴びせるには絶好の相手だ。
『ええ……ちなみに難度は上がるけれど水平方向へのショットを当て続けられるなら、更なるダメージアップが可能よ』
「……なるほど。フィールドは縦長のアスペクト比ですからね」
ショットの往復時間が短ければその分、秒間ダメージはあがるというわけだ。尤も、敵弾も間近でブッ放されるので回避には熟練を要することになる。まあ、妹様のレーヴァテインを経験した今となってはそれ程の荒業でもないだろう。積極的に狙っていきたいものだ。
『でもっ私のほうが強いもんっ』
しかしその妹様は本格的に退屈してしまったらしい。確かに咲夜さんの支援は自機に求められる錬度が高い割りに見た目の派手さはない。名作『ハリーポッターと路地裏の生活』で主人公ハリーが見せつけた会心の靴磨きを『地味』の一言で蹴り飛ばした妹様には少々刺激が足りないのかもしれない。あの黒革の色とツヤ、見事な職人技であったと業界の評価は高いのだが。
『フラン。代わったばっかりじゃないの。そんなに急かしたら咲夜が可哀想でしょう?』
『うー……うん……』
『いい子ね。ほら、もう少し揉んでいていいから』
『うんっ』
さすがお嬢様。良く心得ている。
『あ、すみませ……んお嬢様……ぁ』
と、急に耳元の吐息が熱くなる。……え? 妹様が揉みたおしてるのって……?
『美鈴、何を呆としているのよ。折角フランが譲ってくれたのだからしっかり動きなさい』
「あ、は、はいっ」
いかんいかん。桃色の妄想があらかたバレるって自覚したばかりじゃないか。ステージ2は汚名返上の場。先の失態を雪ぐテクニカルな活躍に傾注しなければ、咲夜さんに申し訳が立たない。ここは水平射撃を狙い乱舞する弾幕の中央を目指すとしよう。
『へえ。流石にフランの支援でここまで来ただけはあるわね』
「密着してからの回避はそれなりに覚えがありますからね」
敵にX軸を合わせた上で水平方向にナイフを飛ばす。先程よりも敵弾到達が早いため苦しい回避となるが、ここは格闘で鍛えた反射神経の見せ所だ。濃厚な弾幕を完璧なダッジで瀟洒に切り抜ける。それだけが咲夜さんに届く誠意であり、出番を譲ってくれた妹様への礼となるだろう。
『その距離の方が調子が出るみたいね』
「ええ、そのようです」
本来は妹様の支援が向いているのだろう。だがそれは妹様以外の支援を否定するものではない。全ての支援には適所があり、支援してくれる仲間の心がある。私を思って届けてくれるのだ。応えられぬなど無様があるか。
「いい感じです。けど得意分野は近接戦闘だけではありませんよ」
再び敵と距離をとる。水平射撃によるダメージ効率も魅力だが、咲夜さんの支援の真価は計算されつくした反射の妙技だ。それを完璧に極めてこそ、彼女の支援を使いこなしたことになるだろう。
『言うじゃないの。それじゃ見せてもらおうかしら。仕事中にゲームで鍛えた反射のセンスを』
「ええ、見ていてください」
そして憶えていてください。紅美鈴という貴方の友が、紅茶欲しさに筋肉を見せ付けるだけの、ただのアグレッシブな甘党ではないということを。
地獄のとば口もそろそろ半ば。この人とならばそれも刺激の1つだった。
∇∇∇
『出てきな』
リコシェの扱いにもすっかり慣れ、反射したナイフを林檎を乗せた頭で受け止めるといったスーサイドマジックをも極めつつあった頃、涼やかな凄みを乗せて咲夜さんが闇を縫い止めた。
「どうぞ」
これは気が利きませんで、と口から取り出した鳩を耳カバーに突っ込む。
『違うわよ。貴方に言ったんじゃないの』
「あれ、じゃあ……」
勿論咲夜さんがお嬢様たちに『出てきな』なんて言う筈が無い。道中散々蹴散らしてきた妖精たちに言うには今更であるし、とすれば残る相手は次のボスだろうか。
「……キュートなモサモサの向こうにいるくせに良く見てること」
「っ!?」
吃驚した。咲夜さんの声に応えた闇は思ったよりもずっと間近、ほんの数メートル先の風の澱みからであった。ふと耳を澄ませば水の音。見渡せば橋の上だった。
『そんな粘度で見つめられていたら嫌でも気付くわよ。余計なテクニックを披露したりしていなければね』
「やはは……頼れる紅美鈴を演出しようと、つい」
『紅魔館にダーツバーを置く時は貴方を頼るわ』
「ぐう……」
そんなやり取りに険はない。おそらくは拍子抜けするほど鮮やかなナイフ捌きで道中を突破してきた私に対する、咲夜さんの声は柔らかい。ここまでの戦いにおいて、彼女の愛器を軽やかに使いこなす私の姿は例えるならノッティンガム城内のロビンフッド。正確無比を極めたその射撃は相手に弾幕を張る隙すら与えず、出会いがしらに打ち落とされていく屍の山に、刺激を所望するお嬢様から目隠しプレイの提案がされるほどであった。
『ノッティンガムの弓術試合? 投獄の秒読みが始まってるじゃないの』
「ハッピーエンドの通過儀礼ですよ」
こちらの声にも自然、余裕がある。見せ付けた勇姿が咲夜さんの心と紅茶をグッと引き寄せた手ごたえを、ここしばらくの会話から私は確かに感じていた。
「仲がいいのね。妬ましい」
短い声にふと見れば、先程の澱みに一人の少女が佇んでいる。妬ましい妬ましいと爪を噛む仕草は幻想郷では珍しいタイプの感情表現だ。が、その割りに目に昏さはない。あからさまな嫉妬の呟きはむしろ快活な挑発にすら聞こえ、こちらのみならず自らをも肯定しているかのように感じる。
「ここは地下。暗い澱。その中にあって見せ付けるように輝く貴方たち。ああ妬ましい。妬ましくて気が違いそうだわ」
本心だろう。だがそのくせ穏やかな瞳は歪みを負に傾けない生来の気質の表れか。
「貴方たちは一条の光。暗い羨望を一身に浴びて、それでもなお色褪せない。けれども知っているかしら。出る杭は打たれるものなのよ」
「あまり馴染みのない概念ですね」
「幸せを平然と享受してきたのね。……けどこの世は貴方のような者だけで出来ている訳じゃない。それは立ち止まって周りを見ればあまりにも容易く目に付く現実。……地上の歌にもあるでしょう?」
――アブラハム一家は7人の子
「ああ、確か一人はノッポで……」
「更にホモ」
6人ガン無視。ノッポ集中砲火。
「聞いたことないわ、そんな家庭」
それは出た杭に問題があろう。
「……兎も角、貴方達は打たれるの」
言って、緑眼に魔力を篭める少女。適度な敵意。ヤマメ先生も尊敬に値するが、やはりボスはこうでなくては。
『スペルカードは「丑の刻参り」……見事なパイルバンカーね』
少女の手にあるカードは既に7日目。ご苦労なことである。
「釘はね、痛いわよ。平穏の侵食が目的だもの」
「うへぇ……霊撃でさくっとやり過ごしませんか、咲夜さん」
人を呪わば穴二つ。その因果を既に7日に渡って喰らってきたスペルなのだろう。丑の刻参りとは、ヒトガタを御神木に打ちつけることで対象を呪う術式だ。被術者との距離を問わない遠隔呪詛だが、五寸釘を打ちつけるその姿を他者に見られたが最後、呪の効果は全て術者に返るリスクがある。
……できることならそんな陰惨な矛先を向けられたくはない。金属板に刻まれた咲夜さんの霊撃『□□の□□』とは、まず『咲夜の世界』と見て間違いなかろう。彼女の世界は完璧だ。この少女が拒む一切を停止する絶後のスペルを前にして、全ての脅威はその意義を失い、ただ虚しく空を切るのみである。
『いいけど、あんまり意味がないんじゃないかしら』
「え? ど、どうしてですか」
馬鹿な。彼女の世界をもってしても防ぎきれない呪だというのか。動揺にお嬢様が答える。
『「咲夜の世界」とは文字通り咲夜の望む世界の形の実現よ。かつての咲夜が何を願ったかなんて知らないけれど、結果生まれたのが「誰もいない世界」。美鈴、その世界で貴方に何が出来るのかしら』
「お、お嬢様、まさか……」
またもや私も対象ですか。さっきは破壊の。今度は停止の。
『大丈夫よ美鈴。仮にも貴方のための霊撃、貴方が全く動けないなんてことはないわ』
「おお……」
耳カバーの向こうに後光が差した。流石咲夜さんだ。
『そうね、今の美鈴なら0.8秒くらいは動けるわ』
「みじかっ」
『ふふ、咲夜とのシンクロ率がモノを言うのよ。ちなみに私くらいになると9秒はカタいわね』
「ぬぬっ……お、お嬢様はいつも咲夜さんと一緒にいるからでしょう! い、妹様はどうですっ?」
『んー? 私? 私もお姉さまと同じくらいかなあ』
な、なに? どうして。
『もともとはフランと咲夜の遊びだったのよ。「世界への入門ごっこ」は』
『最初は磁石とか使ってねー』
『美鈴はマグネットレベルね。もう少しすれば道路標識レベルくらいはいけそうだけど』
『上院議員レベルはまだまだ遠いわね』
レベルの単位の意味が分からん……が、だからこそ0.8秒なのだろうか。
「くぅ……嫉ましい……」
折角ナイフ捌きで近づいた筈の咲夜さんとの距離が。
「死神はっ!? この橋に死神はいらっしゃいませんかっ」
スッチー然と吼える。距離を、距離を操るのだ。
『死神なら先週奴隷商人にクラスチェンジしたわよ』
「小町ィ!」
泣き叫ぶ。流石は是非曲直庁が誇る彼岸奇行だ。ご期待通りに現れない。
「……そろそろいいかしら」
はっ、と声に振り返ると、ほったらかしだった2ボスが痺れを切らしていた。
「ああ……これはお恥ずかしいところを」
「まさか私が弄る前に嫉妬が炸裂するとは思わなかったわ」
そういう能力らしい。なるほど地下っぽいなあ、とうんうん頷く。と、そこに新たな声がした。
「お、いたいた。よおパル。お前さんはいっつも此処だ。探すのが楽でいいねえ」
「ああもう、面倒なのが……。貴方がさっさとしないから……!」
パルと呼ばれた少女の頭越しに声の主を見ると、橋の向こうから女が一人、のしのしと大股に歩いてくる。その額には大きな一角。あれってまさか……。
「鬼!?」
「ん? おお、いかにも私は鬼だ。性は星熊名は勇儀。あんたはパルスィの友達かい?」
やっぱり鬼だ。鬼だが……。
「でかい……」
上から下まで勇儀を眺めまわす。そのぱっつんぱっつんの体操着から醸し出されるオーラは、いつかの宴で拳を交えた酒乱の幼女とは明らかに異なる自己を、これでもかと主張してくる。
『何処を見て言っているのよ』
「い、痛い、痛いです咲夜さん! だって色々ビッグですよ!?」
ぎりぎりと頬を抓られる。が、これを理不尽と口を尖らすのは素人である。一流は少女のこんな反応こそを愛でるものだ。
『大は小を兼ねるとでも?』
「ま、まさか」
そう。殊更に小を尊ぶ彼女に言われるのもなんだが、大があらゆる小を兼ねることは決してない。アメリカ横断ウルトラクイズと比べ、距離にして数分の一に過ぎないソマリア横断ウルトラクイズの難易度が、前者を遥かに凌駕する驚駭は既に世界規模で周知の事実である。
「はっは。変わった奴だね。一人で漫才が出来る程度の能力かい?」
「いやこれは一人でやってる訳じゃないんですがね」
「んー?」
剛毅に笑った勇儀は興味深げにこちらを見る。目をこちらに向けたまま片手の杯を一口傾け、空いた手をパルスィの肩に回して手の甲を抓られると、またからからと笑う。パルスィに比べると幻想郷向きの挙動である。肩でなく尻を撫でていれば明日にも紅魔館への移住は可能だったろう。
「ま、二人羽織みたいなもんですよ。ちなみにそちらのお嬢さんの友達でもありません。……ちょっとこの橋の向こうに行きたいんですけどね。彼女に阻まれてるところです」
「パルは橋姫だからね。しかし旧都に客人かい。久々だね。ゆっくりしていきなよ」
言葉とは裏腹にべきべきと指を鳴らしはじめる勇儀。浮かべた笑みは友の来訪を喜ぶそれで、なるほど隠しようのない鬼の気性は確かに萃香に通じるところがある。
「ちょっと勇儀。どうしてあなたが前に出るのよ。あなたのステージは旧都でしょう。さっさと帰りなさいよ」
「固いこと言うなって。今日は宴だ。見ればあちらは地上からの客人。迎えの祝砲はファーストコンタクトで撃つもんだ。なあ?」
こちらに振られても。というかアリなのかそれは。いくら先行体験ショーといえど2ボスと3ボスの共同戦線は厳しかろう。しかも一人は鬼ときた。
「いや、私としては真っ直ぐ異変の原因を目指してもいいんですけどね?」
『ダメに決まってるでしょ』
「ですよねえ」
如何せんサポーターが好戦的である。
「異変? 地上でかい?」
「ええ、間欠泉から霊が湧き出してるとか」
「その辺の管理は地霊殿の奴らだね」
「お嬢様、老人ホームの名称が判明しました」
『特別養護老人ホーム「地霊殿」』。高齢者相手の商売にしては思い切ったネーミングだ。金切り声を放置する施設長の肝の太さが見事に反映された、大変に潔い終の棲家である。
「老人ホームなんかじゃないわよ」
「えぇ!?」
パルスィの一言に旅の前提が崩壊する。
「私邸だよ。古明地家のね」
「コメイジケ」
「管理者みたいなもんだ」
「むぅ……家主は老い先短い老人達を束ねていたりは……」
「そんなもん束ねてどうすんだい」
ごもっともである。
「どっちかというとペットショップね」
売ってないけどなー、とパルスィに頷く勇儀。
「金切り声のする非営利アニマルランド……?」
脳裏で愛想の良い福顔の紳士が金切り声をあげながらチケットを無料で配り始めた。……訳の分からん親父だ。そんなもんに異変を起こされるとは博麗もナメられたものである。
『ねーさくや。ペンギンが欲しい』
『あら、ペンギンって何を食べるのかしら』
『んー……お姉さま知ってる?』
『フランスパンよ』
『生き物を飼う度、口にフランスパンをねじ込むのはお嬢様の悪いクセですわ』
そして緊張感のない黒幕の生業に、外野の興味を飛べない鳥が攫っていく。
「いやまあ店長でも施設長でも、異変の張本人なら何でもいいんですけどね」
「だから地域の管理者だって。商いの類はしてないよ」
「いいんですよ、気を使っていただかなくて」
地下の妖怪は存外に優しい。この発見は今日の収穫である。
「ま、あんたがいいならいいさ。それより目的は地霊殿だろう? 残念、まずはここでひと暴れしていきなよ」
「そういう流れなんでしょうね」
指一本でナイフを廻して眼前の二人を見定める。橋姫に鬼。タイマンならば遅れをとる気は微塵もないが、2対1となると少々きついか。
「こらこら何処見てるんだい。余所見はなしだ。あんまり睨まないでやってくれ。泣き出すとパルは長いんだ」
「泣くわけないでしょ」
勇儀のわき腹に肘をねじ込むパルスィ。
「勝負の相手を見るなってのは難しい注文ですねえ」
「それが違うって。勝負の相手は私。パルはチアガールだ」
「ちょっと!」
パルスィに首を絞められるが全く意に介さない勇儀。笑いながらパルスィを抱えあげると橋の欄干にちょこんと座らせ、ぽんぽんと優しく頭に手を乗せる。無論首は絞められたままである。
「ここは私のステージだって言ってるでしょ!」
「はっは。いいじゃないか。今日は祭りだ。そういや誘いに来たんだよ」
「関係ないでしょ!」
「りんご飴をやろう」
「食べかけじゃない!」
「はっはっは」
「もう……強引なんだから……」
「悪いなあ」
「いいわよもう……」
いいらしい。が、あっちはいいとしても。
『待ちなさい』
ウチの問屋が卸さない。
『りんご飴だのドネベジルだの、さっきから職務放棄が過ぎるんじゃない?』
「ん、ヤマメに会ったのか。あいつはいいだろう。特に腹がスベスベでオススメだ」
『初対面で腹なんて撫でるもんですか』
すいません、ステージ1の初っ端で撫でまわしました!
『兎も角、折角耳カバーの此方側から自機ごっこを満喫しようと美鈴を送ったのに、ボス戦が素通りじゃ面白くないわ』
白羊宮ばっかで満足出来るか、と視聴者の不満をブチまけるお嬢様。
「安心しなって。私が12倍楽しませてやるさ」
『ほう』
「見たところそっちのお嬢さんは弾幕よりも格闘がお好みのようだ。だったら私と遊んでいきなよ」
満足させてやるよ、と勇儀はまた杯を傾ける。
『聞いたわね、美鈴』
「まあ」
『楽しませてくれるのよね』
「あちら次第ですが……ま、問題ないと思いますよ」
鋼をしなやかに鎧った女性特有の筋肉質からは、外見以上の強靭さが伝わってくる。流れる気にも乱れはなく、一流と目して構わない相手であることは間違いない。仮に6ボスを名乗られても違和感はなかろう。こんな浅いステージをうろついている方が不思議なくらいだ。
「よし、試合成立かな?」
「そういうことです」
顔をほころばせ、パルスィから離れる勇儀。腹の底から力比べが好きなのだろう。鬼らしい鬼である。ならば加減は無用。始まるは現代の鬼退治である。
「いいねえ。求められれば殴り返す。乱暴者は大好きだ」
「まあ、もともと乗り込んできたのはこちらですし」
そりゃそうだ、とからから笑う。その裏のない破天荒は勤務中時折やってくる力試しの無頼のようで、私から見ても好ましい部類に属するものである。
「それじゃ支援は……妹様にお願いできますか」
ここまで支えてくれた咲夜さんには悪い気もするが、挑まれたのは格闘寄りのインファイトだ。ここはより近接特化の妹様の支援で望むが、相手に礼を尽くすことになるだろう。
『フランドール様。いけますか?』
『いくいくーっ』
『ああ、ほら。慌てるとフルーツソースが跳ねますわ』
わーい、と耳カバーからレーヴァテインが飛び出してくる。ムースか何かを食べていたのか、口元を優しく拭かれて何やらむぐむぐ言っているが、やる気は魔杖の火力から十二分に伝わってくる。
「変わった芸風だね。面白い」
飲み干した杯に並々と酒を注ぐ勇儀。構えらしい構えもない自然体での闘争は、ライフサイクルに戦闘が組み込まれた種族であることの証左だろう。ウチのお嬢様方もその類だ。動けば早いし当たれば強い。技術のいらない心と体は意思のある凶器である。凡人から見ればうらやましい限りであるが……それを凌駕する技術を体得する歓喜に比べれば些事である。
「芸風というより仕様なんですがね。そちら同様、私にもチアガールがいるんですよ」
こちらのチアガールは凶器使用自由の最終兵器だ。咲夜さんとの旅路で溜まったパワーにより、私の背丈を遥かに超えるサイズとなったレーヴァテインに敵はない。
「結構なことさね。はじめようか」
「ええ。いざ尋常に。……妹様、よろしくお願いしますね」
勇儀とは対照的に三体式で油断なく構える。耳元のレーヴァテインも適当に構えたようだ。
「満足させてもらいますよ」
一足飛びの3ボス戦。紅茶の壁に不足無し。挑む喜びは正に自機の特権で、新鮮な感覚は癖になりそうなほど心を躍らせていた。
∇∇∇
「さて、見物ね」
月下のテラス。風のない青い夜。耳カバーの向こうではステージ2.5のボス戦が始まっている。
「序盤に不釣合いな相手が出てきましたが……大丈夫でしょうか」
「心配?」
「心配というほどでは……」
相手が目の前にいないと咲夜は割りと感情を見せる。それでも世間一般に照らせば薄い反応らしく、彼女の美貌は冷艶の類で表されることが常であるが、私にすればこれほど目まぐるしく情緒を巡らせる知己はなく、やはり傍付きのメイドは人間に限るなどと場違いな感慨に耽っていたりした。
「平気よ。確かに身体能力は相手が上でしょう。けれどもそれだけで勝敗が決まるほどお粗末な門番を雇っているつもりはないわよ」
どれほど威力のある拳でも、当たらなければ意味がない。どれだけ拳が速くとも、それで当たるかといえばそうでもない。後の先、先の先。動作に先んじる意識の軌跡を嗅ぎ取る術こそが武術の極みである。その手の気配に対して美鈴は限りなく敏感だ。自宅警備とシエスタの両立を実現する日頃の勤務態度は、そうした自信に裏打ちされたものである。
「あの鬼が一発入れる間に美鈴は十を叩き込む。あの鬼が二発入れる頃には美鈴は百は打ち込んでいるでしょう」
攻撃、防御、回避を完全に同期させる芸術は生来の強靭には備わらない、武を修めた者にしか為せない技だ。美鈴は加えて昼寝と空腹の訴えを同時に行う達人である。
「攻撃は当たるでしょう。ですが……」
「あの鬼に膝をつかせるほどの威力はない。そうでしょうね」
武術とは相手を打ち倒す為の技術であるが、想定される相手は誤差はあれど自分と同スペックの存在だ。人間が人間を倒す手段、それが武術である。どれほどの達人であっても八極拳でターミネーターは倒せないし油圧式クローラドリルは破壊できないのだ。いやまあ、美鈴ならクローラドリルくらいは壊せるだろうが、それは紅美鈴という妖怪が素手で重機を破壊できるということであって、非力な少女が拳法によって桁外れの攻撃力を手に入れたというわけではない。防御面は兎も角、攻撃としての武術とは、あくまで己と比べ同等或いは少し上の相手を効率よく打倒する術なのである。
「けど今の美鈴にはフランがいる。打ち込んだ十のうち一つでもフランによるものがあれば、それは如何に鬼とはいえ無視できないダメージとなるでしょう」
無論腕だけ振り回している状態のレーヴァテインに本来の威力はない。美鈴の体捌きによるサポートはあれど数割の火力減はやむをえない。とはいえ吸血鬼の一撃だ。無傷で済む奴がいたらお目にかかりたいものである。
「……じゃあ美鈴は」
「ええ。勝てないでしょうね」
美鈴の武術にフランの火力、この二つがあってもあの鬼を倒すことは出来ないだろう。美鈴はもともと防衛向きの負けない戦いが本領であるし、フランは能力的には大火力による遠距離戦を得意とする。見る限り勇儀は鬼の中でも上物だろう。不得手な領域で手を繋ぎあって勝てる相手ではない筈だ。
「さ、それじゃそろそろ行こうかしら」
「……ご覧にならないのですか?」
「中々面白い奴がいるみたいだからね。一つ直々に乗り込んでみるのも悪くないわ」
目覚めの気だるさはとうに失せている。こんな気分が喚起されるとは、美鈴を送って本当に良かった。
「けれども今は……」
「美鈴なら大丈夫と言ったでしょう。勝てなくとも負けはしないわ。いざとなれば相手の顔に杯の酒をブチ撒けて距離をとるわよ」
「それはまあ、やりそうですけど」
「少しは信用しなさい。美鈴と美鈴を選んだ私の目を」
「……ええ、そうですわね」
咲夜の欠点は何でも自分で解決したがるところだ。手の届かないところで何かを失うことを極度に恐れる傾向がある。勿論普段なら表に出てくることのない顔だが、フランが地下に集中し、ある意味私と二人きりになると途端に素顔を覗かせる。そのソワソワした伏し目は親のない姉妹の長女のようで、見ていて非常に抱きしめたくなるのだが、そこをグッと堪えて信頼の何たるかを説く有徳こそがあるべきオトナの姿である。
「分かったら支援の準備をなさい」
「妹様はこのままで?」
フランは勇儀との勝負に熱中しているようで、先程から意識はすっかり地下に釘付けだ。全力は出せなくとも、滅多にない壊れにくい相手との遊戯に心奪われているのだろう。
「気が済むまで遊べばいいわ。これなら怪我もしないでしょうし」
何より美鈴がついている。日々コッペパンとの等価交換が盛んに行われている彼女の命だが、フランに万一の危険があれば、それは躊躇いもなく差し出される絶対無比の盾となる。笑ってそういう真似が出来るから、彼女のいる紅魔正門がフランの行動範囲の最果てにあるのだ。
「フラン、ちょっと出かけてくるわ。美鈴と一緒に遊んで待っていられるかしら」
「ん、うんっ」
「そう、えらいわ。ちゃんと美鈴を守ってあげるのよ」
「任せてっ」
ちら、とこちらを見たきり再び地下に没頭していくフラン。非対称に結った金の髪がパタパタ揺れて愛らしい。一生懸命な妹の姿は姉にしか味わえない砂糖菓子である。
「さあ咲夜、早く準備を……してるわね」
「勿論ですわ」
流石に咲夜だ。理解と了解から実行実現までが実に早い。この辺の小気味よさが他の人間にはない彼女の味である。
「じゃ、サポートは頼んだわ。……美鈴たちを追い抜くわよ」
「ええ、体験版は3ボスまで。以降は真打の出番ですわ」
月夜に翼を広げる。目指すは地下。地霊殿。道中ですらあれ程の妖怪が跋扈するのだ。深奥、異変の核にはどれほどの強者がいるのか、直に味わわねば勿体無い。
「悪いわねパチェ。急がないと全て終わってるわよ」
桃色の友に軽く詫び、咲夜のお手製らしいスペアの耳カバーを装着すると、金と銀の髪を撫で、あとはただ地下目指して切る風だけを館に残して飛び立った。
なんちゅうものを見せてくれるんや!
しかし一番吹いたのはあっきゅん。物は言い様だ。
あと何気に勇儀さんとパルスィが仲良すぎて悶えます。
本編期待してます
やっぱりフランちゃん装備に限る
唐突に出てきたJFKが、脳裏でばっちりビジュアル再現されたもんだから困る。
本編がまだ出来上がっていないことが残念でたまりません。
あと、パルスィが可愛すぎてどうしよう。もっとパルスィを!
そしてキスメの扱いに全俺が泣いた
ところで本編はまだでしょうか?
ハローソフマップワールドに吹き出し、ヘイストかけたニートの喩えに感心してしまったw
あいかわらずですねw
さり気無く差し込まれるとぼけた描写がなんとも良い潤滑油です。スルスル読めました。
天然に見えるのにしっかり大事な所に線引きがある。そんな芯が通った連中に惹かれないわけが無い!
本編に期待して待ってます。
『新鮮な果実に金切り声をあげてかぶり付く老狂の朝ごはん』などにクツクツと笑いました。
それと埃の被ったマッサージチェアというのはハロウィンで奪ってきたあれでしょうかね?
美鈴の三人のオプションを使った戦闘も面白かったですが、レミリアと咲夜の美鈴と勇儀の
戦いに関しての会話も良かったです。
笑いすぎて近所中から窓を閉める音がする。
思いがけない勇パルに口がにやけるのを抑えきれなかった……
あぁ、面白いですなぁ。本当に面白い。
相変わらずの紅魔…いや桃魔勢が織り成すアクセル全開の展開に茶が飲めなくて大変でした。
本編をモニタ前で全裸待機させていただきます(キリッ
霊撃が気になって気になって。
本編+EXも期待してます。
パルパルパルパル!
あなたの作品を読んでいる時間はほんと特別です
冬扇さん復活!!!!
冬扇さん復活!!!!!
まってましたああああああ
続きをハリー!ハリー!ハリー!
早く製品版が読みたいです
製品版も楽しみにしています!
初めから最後まで笑いっぱなしでした。
てか何であの流れでいい話っぽく終わってるんだw
相変わらずの愛すべき変態どもの饗宴、楽しませて貰いました
またあなたの作品を読めて嬉しい、そして笑った。
ありがとう。
けどそんな話の最後を綺麗に締めるなんて反則だ!GJ!!
洗濯機の中、ぐるぐると回るネコの気分になりました。
>「まあ好きするといいわ。~~」
レミリアの言葉ですが『まあ好きにするといいわ。』ではないでしょうか。
以上、報告でした。(礼)
製品版も読みたいです
とりあえず突っ込み所はたくさんあるのですが。あるのですが。あるのですが!
妹さまが揉んでらっしゃったナニカは製品版で明らかにされるのでしょうか?当然画像つきですよね?
相変わらずの面白さで、あっという間に読んでしまった
製品版の話も書いてくれると期待してますよ~
いや、これはむしろ本編だ! つまりレミ咲の製品版は限定版か、予約開始はいつですか!? 草の葉を分けてでも探し出・・・え? そんなところには無い? むしろそんなところにあると考える方が無礼? あ、あはははは・・・・うぎゃああああああ!w
乱文さーせん。見事です。
最高だ
相変わらず最高の紅魔館です。もちろん製品版もあるんですよね?!
ソフマップで本当に笑った。
ありがとうございます。
今回流れ的には大人しめですが地の文は相変わらずのネタ満載でニヤニヤが止まりません。
パッチェさんの存在感パネェ。
本編も十六夜恋愛係長のアングラ漫遊記も期待してます
お久しぶりの冬扇さんの作品!
毎度ながら最高に面白かったです
非常に面白かったです
さあ早く続きを書く作業に戻るんだ!!
俺もフランちゃんならクリアできそうWW
しかもそこそこの分量であるはずなのにこの読みやすさとか反則でしょう。
誤字報告?
>オールデイズ零距離射撃
オールウェイズかな?
ご指摘ありがとうございました。八重洲の地下街あたりでちょっとレヴァられてきます。
何これすごい
そして紅魔館の方々はこんなときでも通常営業で何よりです。
何処も彼処もぶっ飛びすぎてて具体的な感想が思い浮かびません。
ありがとうございました。
問答無用の100点