私の名前は東風谷フレンチクルーラー。歳は早苗。好きな食べ物は十七歳……って何か色々ごちゃ混ぜになってるじゃないですか。好きな食べ物が十七歳とか、犯罪です。
誰もいないので、とりあえず神社の鳥居につっこんでおきました。朱色の彼ったら冷たくて、何も答えてくれないんです。せめて何してるんですか、ぐらい言ってもいいのに。
「……何してるんですか?」
何ということですか。私の願いが叶ったようです。どんな不可能なお願いだって、信じれば現実となるんですね、ゼペット爺さん。
「誰が爺さんです、誰が。私は東風谷早苗。そしてあなたは犬走椛」
むぅ、早々にばらさないでくださいよ東風谷山。
「私は人です」
知ってます。でも丁度良かったです。
私、東風谷さんの密着取材にやってきたんですよ。
「密着取材?」
そうです。ちなみに最初のは東風谷さんの気持ちになりきってみようと努力する、私の涙ぐましさです。
「私、あんな感じじゃありませんから」
口を尖らせながら、睨まれました。カルシウムが足りないんですね、きっと。
そんな東風谷さんは朝も早くから境内の掃除に忙しいようで、手元には薄汚れた箒が握りしめられていました。妖怪以外は滅多に訪れない神社なのに、掃除をする必要はあるんでしょうか。
思ったけど言いません。言えば傷つきそうですから、東風谷さん。
「妖怪しか来ない神社で悪かったですね」
だだ漏れです。警報機があったらピーピー鳴ってます。
でも、何でばれたんでしょう。間違っても、私は口になど出していません。東風谷さんが古明地さとりと同じ技術を会得したというなら、話は早いですけど。
ふむ、守矢の巫女に新能力! さとりの時代はもう終わった!
見出しをつけるとしたら、こんな感じでしょうか。
「別に心を読めるわけじゃありません。単にあなたが思ってることの殆どをスケッチブックに書いて、それが目に入ってくるだけです」
ああ、これが原因でしたか。メモ帳だけでは情報を書ききれないので、どうせならとスケッチブックを用意したんですが。裏目に出てしまったようですね。やはり文様のように、素直にメモ帳ぐらいで留めておけば良かったです。
反省しながらとりあえず、私はスケッチブックに『ここでボケて』の指示を書き込んでおきます。いずれ、役に立つ日が来るかもしれない。
「話を戻しますけど、密着取材ってどういうことですか? それに、何であなたなんですか? 文さんはどうかしたんですか?」
そんなに質問されても答えられませんって。
とりあえず答えるなら、さしてスクープもないので天狗の間で割と人気のある東風谷さんの密着取材でお茶を濁そうとしたんです。
私が来たのは文様に頼まれたからで、その文様は風邪お休み。
83,58,1026です。
「最後のは何ですか」
スリーサイズです。
「……やたらとスケールが大きかったんですが」
私も文様みたいに偉大な天狗になりたいんです。その気持ちの表れと思っていただければ。
「はぁ」
気のない返事の東風谷さん。やはり人間の方には、些か理解が難しかったんでしょうね。
種族の差というのを、改めて思い知らされます。
「それで、別に密着取材は良いですけど私はどうすればいいんですか?」
ああ、特に何もしなくていいです。私の方で勝手に取材して、勝手に記事にして、勝手にばらまきますから。
「盗撮されてる気分なんですが」
失礼な。盗撮するならばらまきません。
「いや、そういう事を言いたいんじゃなくて……まぁ、いいです」
私の熱意に押し負けたらしく、東風谷さんは呆れた顔で掃き掃除を始めました。とりあえず写真を十枚ほど撮って、東風谷さんの行動をスケッチブックに書き留めます。
その間、僅か一分。我ながら惚れ惚れする手つきだったと思うんですが、文様曰くまだまだ遅いそうです。さすがは幻想郷最速と名乗るだけのことはあります。
いつかは私も文様のような、凄い天狗になりたいものです。拳を握りしめ、まだ明るみ始めたばかりの空に向かって私は誓いました。
……………………
……………
………
それにしても、退屈です。他人の掃除風景を見ているだけというのが、こうも退屈な作業だとは思いませんでした。巫女マニアの方であれば、東風谷さんの掃除というだけで何時間でも拝見していられるのでしょう。
しかし、私はこれでもブン屋。本業は哨戒ですけど、今だけはブン屋です。
こんな退屈極まりない光景が続いても、欠伸一つせずに密着取材を続けることができるのです。
ところでブン屋って何でしょう。文様がたまにそう言われるのを耳にしますけど。
まぁきっと、何か素敵な意味なんでしょう。そうです、そうに決まっています。
それにしても退屈です。いくら密着取材とはいえ、なんかこうもっとサスペンスやスリルに満ちた瞬間があっても良いと思います。ただ境内を掃き続けるだけなんて、これじゃあ記事にはできませんね。
『ここでボケて』の指示も出してみましたが、あっさりと無視されました。案外冷たいです、この巫女。もっと付きあってくれてもいいのに。
仕方ありません。ここは一つ私の手で、脚色することにしましょうか。
読んでいる人が息もつかせないような、ハードでボイルドな展開にしましょう。
私が境内で寝ていると、不意に妙な感覚で起こされた。嗅ぎ慣れたこの臭い。仕事柄、危険な場所にはよく行っている。そういった時に決まって、私はこの臭いで顔をしかめた。
火薬の臭いだ。
咄嗟に私は駆け出し、暢気にも掃き掃除を続ける巫女の頭を押さえて、地面に伏せる。その瞬間だった。激しい轟音を響かせ、守矢神社の本殿が木っ端微塵に吹き飛ぶ。飛び散った破片が私の身体を襲うも、そこは何か凄いバリアで弾いた。
「椛さん!」
庇うように壁になったせいか、腕の中から東風谷さんの声が聞こえる。とんでもない事に巻き込まれたけれど、これは役得だったかもしれない。彼女の柔らかい身体を抱きしめることが出来たのだから、爆破した犯人にも一応の感謝をしておこう。
だが、それと事件とは話が別だ。私は東風谷さんの温もりから離れ、爆破されたばかりの本殿に近づく。
「あ、危ないです! また爆破したらどうするんですか!」
不安がる彼女を制し、私は瓦礫の海へと足を踏み入れた。焦げ臭さの中に嗅ぎ慣れた臭いが混じり、妙な安心感を覚えてしまう。どれだけ羊の群れの中にいようと、結局自分は狼なのだ。私の居場所があるとすれば、ここに他ならない。
と、私の足が何かを蹴飛ばす。残骸かと思いもしたが、それは四角いカードのようなものだった。あれだけの爆破があったのに、焦げ跡一つない。私はそれを拾い、思わず顔をしかめた。
カードには一言、『守矢神社の本殿は頂きました 大泥棒にとり』の文字。
長年追い続けていた犯人の名前を、まさかこんな所で目にするとは。私はカードを握りつぶした。ああ、そういえば頑丈なカードでした。
……私の握力は常人の域を遙かに超えていたのです。
しかし、どうしてにとりは守矢神社を爆破したのか。頂くのなら、もっと他に手段があっただろうに。そもそも、これは頂いていない。
様々な疑問が頭をよぎる。その瞬間、私はきっと無防備だったのだろう。彼女の危機に気付いてやれなかったのだから。
「も、椛さーん!」
東風谷さんの悲鳴に反応してみれば、ゾンビが操る恐竜型の宇宙船に、爆弾が仕掛けられたバスに乗っていた東風谷さんが殺人鬼と一緒に空へと吸い上げられているところだった。
……詰め込みすぎましたね。オチどうしよう。
「何ですか、この収集のついてない話は?」
おや、東風谷さん。境内の掃除は終わったんですか?
「まだ途中ですけど、椛さんがいやに熱心に何か書いてるんで気になったんです。それで、これ何ですか?」
私はただ現実に起こりうるだろう可能性を書き留めただけです。あるいは、これも選択肢によっては訪れたかもしれない未来。
「いや、これは訪れないと思いますよ。さすがに」
そうでしょうか?
「現に話が収集つかなくなってるじゃないですか。どうするんです、オチ」
私たちの冒険はまだまだ始まったばかりだぜ、と。
「打ち切りのように見えますが」
本当の敵は売り上げでした。
「世知辛いんで止めてください」
読む人がいなければ、書く意味なんてないんですよ。だから、せめて飽きさせないようにと盛り上がりを入れてみたんです。
「新聞は盛り上がりより、むしろ詳細やあらましの方を大事にすべきだと思うんですが」
これからは新聞もフィクションを取り入れる時代です。大丈夫です、最後に実在の団体や人物、事件とは関係ありませんって入れておいたら。
「それは何の為の新聞ですか。どちらかというと小説になってます」
小説、ですか。それでも良いのかもしれませんね。ほら、たまにあるじゃないですか。新聞の中で連載されている小説が。
「まぁ、確かにありますけど」
ああいう感じのものを書いて、文様に提出するのも有りだと思うんです。どうやら私に取材は合わないようですし。
「だとしても、こんな話じゃ鼻紙にされるのがオチですよ」
そ、そんなオチがあるんですか!
「そういう意味じゃないです」
全ては紙の中の出来事であり、最後に神が鼻紙にして終わる。おおっ、何とかオチがつきましたよ。
「……ついたのかな、それ」
ありがとうございました。これで、何とか文様に提出することができます。
「それで良いなら、別に良いんですけど……」
まだ煮え切らない表情の東風谷さんでしたが、きっと自分の密着取材が中途半端に終わったからなんだと私は思うことにしました。それよりも今は、一刻も早くこの小説を文様に見せなければならない。
私は走りました。
「そっちは本殿です」
道を間違えました。こっちじゃありません。
そう、山です。妖怪の山を目指すのです。
ここも妖怪の山ですけど、そういった細かいことを気にしてはいけないのです。
そして私は文様の部屋に辿り着き、自信満々に見せたところ、もうこれで良いですと熱にうなされたような返事が返ってきたので、これ幸いとそれを記事にして新聞という形にしました。
風邪が治った文様は、何でゴーサインを出したんだろうと嘆いていましたけど、正しい判断だと私は思います。
ちなみにこれが、怒り狂った河童との長きに渡る戦いの引き金になろうとは、この時誰も予想していなかったのです。
次の話は、こういう感じにしましょう。
私はそう決めて、筆を置きました。
まるで時を止められたポルナレフのような気分だ
あたまの
よわいこだ
な
でもそんな所も椛かわいいよ椛。
わふっ!
新鮮で良かったです