Coolier - 新生・東方創想話

隣り合わせの虹と白黒

2009/06/20 21:23:33
最終更新
サイズ
12.46KB
ページ数
1
閲覧数
1170
評価数
6/36
POINT
1620
Rate
8.89

分類タグ

「ダンジョン行こうぜ!」
 また意味不明なことを言い出したのは白黒こと霧雨魔理沙だ。
 季節は初夏。平和な昼下がり。
 買出しにでも出かけようかと悩んでいた直後の出来事だった。
「さっさと出かけていれば良かった…」
「もう遅いぜ。そんなわけで準備の方、よろしくな」
 言うなり、家の奥へとずかずかと上がりこんで行く。
「ちょ、待ちなさいよ!」
「時は金なり。有効に使わないとな」
 私の制止の言葉を聞き流して寝室へと辿りつくと、そのままベッドに横になってしまった。
「じゃ、丑三つ時に起こしてくれよな」
 そう言って帽子をずらして顔を覆い隠すと、ものの数秒でくぐもった寝息が聞こえてきた。
「このまま表に放り出してやろうかしら…」
 ため息をつきながらも、布団を肩まで引き上げてやる。
 部屋を後にしながら、結局は準備してやるんだろうな、と諦めにも似た気持ちになる私であった。


「で、これはどういう状況なの?」
 時が経つ事しばし。
 魔理沙を起こして家を出て、ほとんど見覚えの無い森の奥地に踏み込んだ私たち。
 そこには地下へと続く階段と、見覚えのある一団が二人を待ち受けていた。

「ああ、紹介するぜ。こちら中国、弾幕はアレだが接近戦のエキスパート、らしい」
「そこはちゃんと肯定してくださいよ~」
「そしてこっちがレミリア。怖いものは日光と流水とピーマンという吸血鬼のお嬢様だ」
「お前、切り裂いて欲しいのか?」
「おっと怖い怖い。んでもってこのミニスカメイドが咲夜。掃除から暗殺までなんでもこざれの万能メイドだぜ」
「否定はしませんわ」
「で、パチュリー。体は弱いが魔力は天下一品、ってな」
「私は魔女パチュリー。コンゴトモヨロシク…」
「この四人に私とアリスを加えた六人がパーティーとなるわけだが……って、どうした?」
 思わず頭を抱えこんだ私を不思議そうに見る魔理沙。
 ちなみに横ではパチュリーが涙目で膝をついていたりしている。
 何か「寝ないでオチを考えたのに…」とか聞こえるけど、気のせいだろうか?
「いや、全く状況が理解できないんだけど」
「弾幕はブレインの割に察しが悪いんだな」
「むしろこの状況で理解できるほうがおかしいわよ!」
 私の突っ込みに、最後まで首をかしげる魔理沙であった。


「なるほど、大体事情はわかったわ」
 どうやら大図書館に置いてあった本にこのダンジョンの事が書かれていたらしい。
 中は危険かつ最大6人でしか入れない制限がかかっている代わりに、失われたマジックアイテムの宝庫だとか。
 どうせ魔理沙の事だ。手八丁口八丁で紅魔館メンバーを篭絡したに違いない。
 そう思っていたのだが、意外な事に最初に話を持ちかけたのはパチュリーの方だったようだ。

「持っているだけで体力が回復するアイテムがあるのよ」とはそのパチュリーの弁。
 なるほど。喘息持ちのパチュリーに取ってそのアイテムは、何より魅力的に写るに違いない。
 そこに偶然居合わせた魔理沙は判るとして、何故私を捜索の面子に加えたのか?

「まあ、なんとなくだな」
 ……これで帰らなかった私を褒めて欲しい。いや、実際には帰ろうとして止められたのだけど。


 そして紆余曲折の末に探索が開始され、入って早々私は、少し泣きそうになっていた。
 ダンジョンでは前衛3人、後衛3人に分かれる決まりになっている。まあそれはわかる。
 レミリアと美鈴は前衛、魔理沙とパチュリーは後衛。これもわかる。

 しかしなぜ私が前衛で咲夜が後衛なのか?
 魔理沙曰く、「シーフが戦闘不能になったら宝箱が開けられないから」との理由らしいが、それならなぜ最初からもっと近接戦に適した人選にしておかなったのか。
 弾幕はブレインを自称する『七色の人形遣い』たる私が肉弾戦担当の前衛だとか、悲しいやら恥ずかしいやらで正直、やってられない。
「…なあ、やっぱり順番代わろうか?」
「私が代わってもいいわよ」
 そんな私を気づかったのか、気まずそうな顔の魔理沙と無表情のパチュリーが提案してくれた。

 私はしばらく考え、首を横に振る。
 もし人間である魔理沙が魔物の攻撃を食らったら、それこそ致命傷になるだろう。体が弱いパチュリーも同様。
 それならば妖怪であり、物理攻撃にそれなりの耐性がある私の方がまだマシだという結論になる。

 となるとこのメンバーで最適なのは、やはりこの編成なのだろう。
 それでも若干、咲夜と私との順番が納得ができなかったものの、二人が気づかってくれたおかげで大分と気は楽になった。

 だから私は、後ろから聞こえた
(な、言ったとおりだろ?)
(結構単純なのね、彼女)
 との声も幻聴だと割り切る事にした。
 ……したの。でないとやってられないわよ!


 探索中、最初に音をあげたのは意外にも咲夜だった。
「私のストレスがマッハで加速しそうだわ…」
 ブツブツとつぶやく意味不明な言葉からも、彼女の心労が伺える。
 それもさもありなん。このダンジュンで彼女は、それこそただの小娘のごとく無力であったからだ。

 なんせこのダンジョン、特有の結界のせいか後列から攻撃できない仕組みになっている。
 咲夜がいくら後ろからナイフを投げようが、不可視の力で跳ね返されてしまうのだ。
 そしてもう一点。最も重要なのが、このダンジョンでは固有の能力が全く使用できないことである。
 いや、正確にはダンジョンのルールに沿った力なら扱える。
 例えば私や魔理沙、パチュリーの魔法は、このダンジョン専用の魔法に置き換えて使用できる。
 しかし咲夜の「時間を操る程度の能力」は、全く使用できない。それこそ、一秒たりとも、だ。
 それだけなら咲夜もまだ耐えられたであろう。しかしその能力の完全封印が、思わぬ弊害を呼ぶ事になる。

「しかし咲夜が普通の『白』だなんて意外だよなー。私はてっきり『黒』か『きわどい紐』だと思ってたぜ」
「…アリス、離して。あいつを殺して私も死ぬわ」
「咲夜、落ち着いて! 魔理沙も咲夜を煽らないの!」
 そう、その弊害の結果がこの騒動だ。
 咲夜は自分の能力を用いて衣服の一部分の時間も止めていた。端的に言えば、スカートの裾を、である。
 しかしこの迷宮で咲夜は能力を使えなくなった。いつものメイド服、ミニスカートで、だ。
 結果はどうなるか。見えまくりである。歩くだけでもチラチラ見える。まさに白白乱舞状態。
 それを先ほどから魔理沙にからかわれ、その都度咲夜が突っかかる、という無限ループを繰り返しているのだ。
「咲夜、落ち着きなさい。後ろからも丸見えよ」
「っ! 申し訳ありませんっ」
 レミリアにたしなめられ、必死でスカートの裾を引きながら恐縮する咲夜。

 ……実は私も、魔理沙の気持ちがわからなくもなかったりする。
 普段は冷静沈着、感情をほとんど表に出さない咲夜が、その美麗な顔を真っ赤にして俯いているのだ。
 煽って反応が見たくなる衝動に駆られても無理はない。

 ただまあ、魔理沙がいなくともそれを口にする事はなかっただろうけど。
 なぜなら、
「咲夜さん、可愛…あべしっ」
 今ナイフが刺さった門番のようになるからだ。触らぬメイド長に祟りなし。


 説明が前後したが、このダンジョンには能力を制限する上に各種アライメントとクラスの選択を強制する結界も張られている。
 アライメントとは簡単に言えば性格で、クラスは戦士やら魔法使いやらの職業だ。

 それを踏まえた上で各人が選んだステータスは、以下の通りとなっている。

 レミリア 悪 君主
 美鈴 中立 戦士
 アリス 中立 魔法使い
 咲夜 悪 盗賊
 パチュリー 悪 司教
 魔理沙 中立 魔法使い

 ちなみにレミリアが就いている『君主』は、属性が悪だとなれないものである。
 それでも君主に拘るレミリアは、文献に沿って一人地下にもぐって属性を変え、そしてクラスチェンジ後に再度属性を変えて戻ってきたという経緯があったりする。
 その一度戻ってきた時のレミリアは、「アリスさん、お待たせしてすいません…」と、まるで別人のようであった事も付け加えておく。


「そろそろ戻って鑑定するべきじゃない?」
 地下10階の通路で、このパーティーの頭脳役たるパチュリーがそう切り出した。
 確かに周りを見渡せばメンバー全員、ほぼ限界までアイテムを抱え込んでいた。


 このダンジョンでは扉を守る魔物を倒せば宝箱が出現する仕組みになっている。
 そしてその宝箱からは一定の確率で正体不明のアイテムが発見されるようになっている。
 このアイテムの鑑定は司教であるパチュリーしか行えず、鑑定失敗時に呪われる可能性もあったので、アイテムの鑑定はいつも地上に戻ってから行っていたのだ。


 判断を求めてリーダー格であるレミリアに視線が集中する。
 レミリアは頬に指先を当てて考えると、通路の奥にある扉に目をやってこう答えた。
「ではもう一度戦ってから地上に戻りましょう」
 この決断が、あのような事態を引き起こすなど知る由もなしに。


「破っ!」
 扉を蹴り開け、中に踊りこんだ私たち。
 驚き戸惑う悪魔――グレーターデーモンに、まず美鈴の掌底が炸裂した。

 スペルカードルールでしか美鈴を知らない私は、正直彼女を侮っていたと言わざるを得ない。
 ここでの肉弾戦を見る限り、こと白兵戦にかけては鬼にも引けを取らないのではないかと思わされる、
 それほど彼女の動きは凄まじく、妖怪である私でさえ目で追うのがやっとのレベルであった。

 そしてその美鈴に負けないのは主である吸血鬼、レミリア。
「相手が悪かったわね。魔界で後悔しな!」
 斬、暫、惨。彼女が腕を振るうたびに辺りが血煙で彩られる。
 後に残されたるは、物言わぬ哀れな躯。ただそれのみ。
 そこに一片の慈悲も無く、あるのは狩人たるレミリアと、獲物たる悪魔の絶対的な格の差だけであった。

「二人ともどいてろ!」
「焼き尽くせ、火符アグニ…もとい、ティルトウェイト!」
 魔理沙の合図と共に美鈴とレミリアが飛び去り、そこに魔力が爆発する。
 そう、まさに爆発と言っていい光景である。
 この二人の魔力もまた、とんでもない。
 なんせ主を失った下級悪魔――レッサーデーモンの姿が、塵すらも残さず一瞬にして掻き消えたのだから。


「終わったみたいね」
 その咲夜の言葉に私は、構えていた腕を下ろして軽く息をついた。
 また役に立てなかった。私は一体何のために来たのかと嘆きたくなる。
「気にしないほうがいいわよ」
 咲夜はそんな私の肩を優しく叩くと、薄汚れた宝箱へと歩み寄って行った。

「しかしこの宝箱も不思議だよな。あの爆発で全く壊れてないんだから」
「いつも血にまみれているのも不思議ね。箱ごと持ち帰って調べたいぐらい」
 魔女二人の雑談を他所に、咲夜は慎重に宝箱に手を這わせて罠の有無を調べていた。
 もはや熟練の手つきである。潜った当初の宝箱に触れただけで罠にかかっていた姿はそこには無い。
 ダンジョン序盤で己の力不足を嘆いていた彼女は、もはやこの探索には欠かせない存在となっていたのだ。
 と、何かに気づいたのか、その顔をいつになく強張らせて主を仰ぎ見るのだった。

「咲夜、どうした?」
 従者の視線に気づいたレミリアが問いかける。
 咲夜は刹那の躊躇いの後、彼女にしては珍しく自信なさげにこう答えた。
「テレポーター、だと思われます」
 テレポーター。
 引っかかるとダンジョンのどこかにランダムに飛ばされる、ある意味このダンジョンでもっとも危険な罠。

 とは言え転移先が迷宮の通路であるならば全く問題は無い。
 いや、普通のパーティーだと問題はあるだろうが、この人妖混合の六人組みなら文字通り「敵無し」であるからだ。
 しかしこの罠、「ダンジョン内のどこか」と言うだけあって、壁であるはずの石の中に転移させられる可能性も十分に有り得るのだ。
 するとどうなるか。石の中では例え妖怪であろうと状態を保てるはずも無く、一瞬にしてこの世から存在を抹消されてしまうのだ。

 瞳に不安をよぎらせる咲夜。
 レミリアはそんな咲夜に笑いかけると、自信溢れる声でこう言った。
「これは毒針よ。私のカルフォに間違いは無いわ」

 カルフォとはこのダンジョン独自の呪文であり、僧侶と君主、司教が扱える罠感知呪文である。
 その成功確立は95%と非常に高く、ベテランの盗賊と同じか、それ以上とも言われている。

「あー、でもこれスルーして上に帰ったほうが良くないか?」
「大丈夫、私を信じなさい」
 カリスマが形を成したかと思わされるレミリアの笑み。その力強い後押しを受け、咲夜も決意を固めたようだ。
「わかりました。お嬢様を信じます」
「当然よ。私を誰だと思っている? 永遠に紅い幼き月、レミリアよ?」
「はい。世界中の誰よりも承知しておりますわ」
 リラックスした表情で主に一礼し、罠の解除にかかる咲夜。
 そしてカチリ、との音と共に、

(おおっと! テレポーター)

 そんな声が聞こえ、頭を抱えてしゃがみこむレミリアを最後に私は意識を失ったのだった。



「もう二度とご免よ」
 数日後、私の家のテラス。
 懲りずに再度ダンジョン探索を申し出る魔理沙に私は、拒絶の意を述べた。

 本当に間一髪だった。
 転移される瞬間。咄嗟にパチェがロクトフェイトを唱えてくれていなければ、この世から消えていたかもしれないのだ。
 あの一瞬の恐怖、絶望。そして……羞恥。今でも夢で見て跳ね起きるぐらいだ。
「とにかく私は行かないから。他の子を誘いなさい」
「紅魔組みと組んでくれる奴があまり居ないんだよなー。って、なんだこれ?」
 唐突に顔の上に降ってきた紙片を引き剥がし、目を丸くする魔理沙。
 私はそれを横目で見ていたが、ふと見慣れた一文が目に付いて横からそれを奪った。


「……魔理沙、急用ができたわ。今日はお開きにしてくれる?」
「奇遇だな。私も急用ができたぜ。それも至急も至急、超特急だぜ」


 腕を上げ、戦闘用の人形を展開させる私。
 新調したミニ八卦炉を軽く撫でる魔理沙。
 私と魔理沙は一つ頷きあうと、同時に空へと飛び立つのだった。




『紅魔館は桃魔館? 集団全裸の謎を終え!
 幻想郷の三大勢力の一角である紅魔館で、ショッキングな事件が発覚した。
 なんと知識の源である大図書館で、住人が全裸で発見されたのだ。
 これが一人二人ならまだ個人の嗜好、もしくは懲罰の類で済ませられるレベルであるのかもしれない。
 しかし記者が確認しただけでも館の主であるレミリア・スカーレット、客分であるパチュリー・ノーレッジ、メイド長である十六夜咲夜、門番である紅美鈴に加え、森の魔女である霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドまでもが同時に発見されたのだ。
 しかもこの六人、お互い重なり合う形で見つかったと言うから驚きだ。
 この符号が何を意味するか。中立を是とする当新聞ではあえて結論は記さない。
 しかし上記事項が偶然では起こりえない以上、何らかの儀式、もしくは遊戯に耽っていたと考えるのは、決して回答から遠いものではないだろう。
 文々。新聞では今後もこのニュースについて続報が入り次第、順次掲載して行く予定であるので、どうかご期待願いたい』


※ロクトフェイトは全ての装備品と引き換えに出発点へと戻る呪文です
言い訳Q&A
Q:なぜパチュリーはマロール(リスク無し転移)ではなくロクトフェイトを唱えたの?
A:瞬間的にパチュリーはマロール(レベル7)では詠唱が間に合わないと判断してレベルの落ちるロクトフェイト(レベル6)を唱えたのだと思います
Q:どうしてアリスは魔法使いなのに魔法を使わないの?
A:アリス詠唱開始→前衛なので敵の攻撃にさらされる→回避行動→
  その間にチート級の味方が攻撃→戦闘終了、との流れで
  (実際のゲームでは前衛でも普通に攻撃呪文を使います)


二回目の投稿になります。
前作頂きましたアドバイスを元に、少し長めに書いてみました。
NMN
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1200簡易評価
12.70名前が無い程度の能力削除
面白い!
13.60名前が無い程度の能力削除
懐かしい名前だし、面白い♪
自分も何回引っかかった事か…。涙

久し振りにFCでやろうかな。
21.80名前が無い程度の能力削除
私のパーティもアリス前衛です。
プリーストですがボコボコに殴ります。
個人的にはティルトウエイトはロイヤルフレアの方がしっくりくるかな。
アグニシャインだとマハリトとか?
22.60名前が無い程度の能力削除
題名見てクリック、余裕でしたw
ただ、あんまりそのまますぎて…
せめて、2Fで諏訪子がおどってるぐらいあれば…
24.70名前が無い程度の能力削除
くっ、元ネタがわからん…
だが面白い
28.80名前が無い程度の能力削除
OOPS!!