「あ、明日から本気出すわよ」
霊夢は微妙に目を逸らしながらモゴモゴ呟いた。
そんな霊夢を、守矢神社の風祝である東風谷早苗はギロッと睨みつける。
「いつも霊夢さんははぐらかしてばかりでしゅ! 今日という今日は白黒つけさせてもらいましゅYO!」
「おいおい、黒白は私の専売特許だぜ?」
冷汗を浮かばせながら霧雨魔理沙はなだめるような口調で早苗に話しかける。
が……。
「魔理しゃさんも魔理しゃさんです! 貴女がいつもふらふらふらふらしているから、霊夢さんも一緒になってふらふらふらふらふりゃふりゃ……。って、聞いているんですか!」
再び目の据わった早苗は二人を睨みつける。
しばらくの沈黙の後、空になっている自分の盃に気づいた早苗は、吟醸酒を手酌してグイっと一気飲みする。
「おい、霊夢、これは一体何の罰ゲームだ?」
「知らないわよ! まさかこんなに絡み酒だったなんて……」
霊夢の耳に口を近づけて囁きかける魔理沙に対し、霊夢はやけになって答えた。
話は数時間前に遡る。
里で偶然出会った早苗を霊夢が博麗神社に招待したのだ。同じ巫女同士―早苗に言わせると巫女ではなく風祝だが―、親睦を深めようと思い立った……わけではなく、単に暇だったから話し相手が欲しかっただけだ。
はじめは1時間ほど話し相手になってもらうつもりだったのだが、思いのほか話がはずんだので、久しぶりに楽しい気分になった霊夢は秘蔵の酒を持ってきたのだ。酒が苦手という早苗は最初こそ酒を飲むことは断っていたのだが、霊夢の押しに負けて一口だけ飲んだのを皮切りとし、つい霊夢の勧めるまま飲み進め……。
「霊夢さんは、もっと博麗の巫女としての自覚を持った方がいいと思います!」
それが始まりであった。
目を白黒とさせる霊夢に、幻想郷唯一であった神社に信仰心が集まらないのは何事ですか、幻想郷の大結界を守る巫女という自覚に欠けています、里の人々から博麗神社が何と呼ばれているか知っていますか、一生懸命信仰を集めている私が馬鹿みたいじゃないですか、同じ巫女として恥ずかしいです、あ、私は風祝ですが、云々。
嵐の如くまくしたてられ、しかもそれが耳に痛い言葉でもあり、ただただ霊夢は劣勢に立たされるのであった。冒頭の台詞は苦し紛れのものであるが、当然早苗には通用しない。
「ついにはごらんの有様よ!」
「霊夢さん! 人の話は黙って聞きなしゃい!」
「は、はい……」
「ったく、今日は厄日だぜ……」
魔理沙はため息をついた。
霊夢が早苗に口撃されているところに、酒を持ってふらりと立ち寄ったのが運の尽き。異様な雰囲気を察知し、回れ右をして飛び去ろうとしたのだが、そこに霊夢から注連縄が飛んできて捕縛されたのだ。
「どう? 新スペルカード、縛符『博麗縄結界』。ダメージを与えることなく相手を捕縛できる……とか?」
「弾幕じゃないから却下だ、却下! ……ったく、嫁入り前の乙女に縛りプレイなんてひどいぜ」
「とにかく、私一人であの早苗を相手にするなんて無理よ、無理。不可能。ミッションインポッシブル」
「かといって、私を巻き込むのはだな……」
「いいじゃん~、私たち友達よね~?」
「こら! 猫撫で声やめろ!」
ぴったりとくっつく霊夢を紅い顔で押し返しながら、魔理沙は酒を飲んで取り繕う。
「ったく、こんなときだけ友達面なんだからな……」
二人がひそひそと話し合っていると、早苗は急に立ち上がってあるものを二人に見せつけた。
「お二人とも、これを見てくだしゃい!」
いつの間にか用意された白い横断幕に、でかでかとその文字は書かれていた。
『第1回 博麗神社がこの先生き残るためには』
「な、なんて失礼なタイトル……」
「まあ、普通の人間がまったく訪れず、賽銭箱には葉っぱがたまるばかりのこの神社なら、この扱いでも仕方ないんじゃないか?」
「くう、反論できない……」
「しゃあ! とことん話し合いましょう!」
その後、紫に協力してもらって一般人を博麗神社にスキマワープ、射命丸に博麗神社特集してもらう、にとりの河童科学で何とかしてもらう、霊夢が「誰でもできる妖怪退治講座」を開く、紅魔館の妖精メイドたちを適当に言いくるめて賽銭ゲット、兎鍋料理屋を開く、温泉宿を開く、方法はない―現実は非情である、⑨、などいくつも話し合われたが、酔った頭で適当に出した案はどれも実効性に乏しいものばかりで、ただ議論は空回り、早苗のヒートアップぶりは高まるばかり。
いつしか三人は酔い潰れ、折り重なるように眠るのであった。
チュンチュンチュン……
「う~、頭痛い……二日酔いなんて久しぶりだわ……」
雀たちの鳴き声に目が覚めた霊夢はゆっくりと身を起こした。風呂に入らなかったことを思い出し、スン…と自分の臭いをかいでみたりする。
「もう朝か……」
不自然な格好で寝たために痛む身体をいたわりながら、魔理沙は大きくノビをした。
そして、そのまま固まる。
「魔理沙?」
そんな魔理沙を訝しげな表情で見る霊夢は、魔理沙の視線の先に気づく。昨日早苗が書いたふざけた横断幕の前に何かが貼られている。
『華奢でか弱い少女を演出。守ってあげたいと、神社に訪れる男たちの数はウナギ登り! ついでに信仰心もウナギ登り!』
そんな信じられない内容が書かれた紙には、ご丁寧に「大決定!」と赤字で○がされている。
「…………は?」
二人はしばらく自失していたが、先に立ち直ったのは魔理沙であった。そして、その唇に悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
「あー、霊夢にゃ絶対無理だな。『か弱い』から程遠い」
「……んな!?」
自分でか弱いなどとは微塵も思っていないが、こう真っ向から言われると反論したくなる。
「何よ! 私だってか弱い女の子なんだからね!」
「神様相手にしてもスペルカードで真正面から叩き潰す漢の中の漢じゃないか」
「魔理沙は私の本気を知らないのよ! 博麗の巫女としても、女の子としても立派にやれるんだから!」
「へえ~」
ニヤニヤ笑いながら魔理沙は肩をすくめる。その仕草が霊夢に対して与える影響は当然計算済みだ。
「見てなさい! 幻想郷中の男どもの信仰心を集めてみせるんだから!」
魔理沙に対して人差し指をビシィッと突きつけた霊夢は、早苗がいつの間にか目覚めていることに気づいた。なぜか早苗ははらはらと涙を流している。
「感動しました。霊夢さんもついに博麗神社の巫女として目覚めたんですね。この横断幕も霊夢さんの決意を感じます!」
「ちょっと待ちなさい、その横断幕は貴女が……」
「?」
早苗は昨日の夜の狂乱をすっかり忘れているようだ。霊夢は頭を抱えたが、今は自分の女の子らしさの証明に心を燃やすのであった。
「ふふ……完璧」
朝風呂を浴びた後、勝負巫女服を装着した霊夢はすでに勝ったつもりで一杯だった。
里では自分を知らない者はいない。自分の女としての魅力はともかく、男は単純だから少しか弱い所を見せれば自分の思う通りに事は運ぶだろうと考えていた。
ちなみに、魔理沙と早苗は離れた場所でこっそりと霊夢を見守っている。
「早速カモ発見!」
若い男が一人、自分の方に向かって歩いてくるのを確認した霊夢は一人ほくそえんだ。
「見てなさいよ魔理沙……!」
フッフッフッ……と怪しげな笑いをしながら霊夢はゆらりと男へ近づいていく。
若者はそんな霊夢に気づいた。紅白の巫女装束と言えば、幻想郷では霊夢しかいない。幻想郷最強候補の一人が、怪しげに笑いながらゆっくりと近づいてくる。それが若者にどんな思いを抱かせるか、霊夢はまったく気づいていなかった。
「ひ、ひいいいいい!?」
山の中で妖怪に襲われたときの数倍大きな悲鳴をあげて、その若者は一目散に逃げて行った。
後には霊夢が茫然と立ち尽くすだけである。
「え? え?」
不思議そうにしている霊夢を見て、魔理沙は早苗の服に顔をうずめて笑いを必死でこらえる。
「い、今のはウォーミングアップなんだから!」
次に霊夢は、人の良さそうなおじさんが近づいてくるのを確認して、その場にうずくまる。
「お嬢さん、どうかしなさいましたか?」
心配そうに駆け寄ってくるおじさんに、霊夢は凄絶な表情を作って話しかける。
「じ、持病の癪が……」
と言いかけたのだが、大妖怪とも渡り合う霊夢が作った凄絶な表情は、善良な一般村民には少しばかり刺激が強すぎるものであった。
「お、お助けぇぇぇぇぇ!」
「…………」
すごい勢いで逃げるおじさんを再び茫然と立ち尽くして見守る霊夢。
その後も似たようなことを続け、最初こそ痙攣するがごとく笑っていた魔理沙も、だんだん気の毒そうな表情を浮かべるようになる。とどめは、疲れて木陰で休んでいた三人の耳に聞こえてきた会話だ。
「そういえば博麗の巫女がここら辺で変なことをしているってさ」
「またか。俺たちを守ってくれるはずの神社は妖怪の巣窟だし、一体どうなっているんだか」
「なあ、お前は巫女のことどう思う?」
「あの腋はいいものだ」
「おお、気が合うな」
「しかし、肝心の中身は、人間妖怪妖精問わず、圧倒的な力でねじ伏せる凶悪巫女だって話だ」
「まあ、あれだけ妖怪が集まるんだからな。さぞや妖怪にも恐れられているんだろう」
「君子危うきに近寄らずってやつだな。巫女に助けを求めたら、逆に襲われそうだ。それに、俺たちの里は、いざってときは慧音さんがいるしな」
「慧音さん……綺麗だよな」
「ああ、あの胸は反則だ」
「最近妖怪の山にできた神社にいる巫女さんも、いい胸をしているよな」
「ああ、あの胸も反則だ」
「一方、博麗の巫女は……」
「ああ、あの胸は残念だな……」
そして聞こえてくる笑い声。
「あー、霊夢? あまり気にしない方が……」
魔理沙はそこまで言うと口を閉じた。魔理沙でさえ恐怖を覚えるような表情になった霊夢がそこにいたからだ。
「ねえ魔理沙、『夢想封印 瞬』と『八方龍殺陣』、どちらがあの二人はお好みかしら」
「れ、霊夢さん、落ち着いてください!」
今まさに生死の境にいる二人に気づかれないよう、早苗は小声で必死で霊夢を抑える。
そんなこんなで、霊夢はプライドをずたずたにされた状態で博麗神社に帰還した。
ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、普段の言動を見直してみようと心に決める霊夢であった。
こうですねわかります。
楽しく読めました。
肝心の内容がないよう
内容としては決して詰まらないものでは無いし、原作の霊夢を知るならあの扱いも当然…
というか出会いがしらにいきなり弾幕張るとかただのテロリストだろ…
やはり最大の問題は物足りなさでしょうな
もう少し話を膨らませたらいいのではないかと思いました
発想と物語は悪くはなかったのですが、やはりボリューム不足です。
他の方もおっしゃるとおり、最後の辺りがちょっと足りないので…
まあ…、初心者さんにそれを言うのは酷ってものかな。むしろまだ上手いほう。
デビュー作は風雲児でもない限り、誰でも下手なものです。
大事なのはそこからどう成長していくかって所。
最初は他の人の作品をよく読むこと、それが上達への近道です。
また、メモ帳などでじわじわ暖めていくってのもアリです。ほかほか。
追記>>スペカ・キャラ名などで誤字がある場合は東方IMEの導入をオススメします。
読み仮名さえ知ってれば簡単に出てきます、DLも無料です。
ご指摘の通り、後半は楽してて、う少し続ける予定をはしょってしまいました。反省です。
>19さん
アドバイスありがとうございました。非常に参考になります。
そして、東方IMEの存在を初めて知りました。IMEってこんなに便利だったのですね。とても助かりました。