――朝
おいしそうな匂いに、空っぽのお腹が刺激され思わず目を覚ました。
ああ、この素敵な匂いはなんだろう?
もしかすると一度だけ食べたことのあるカレーってやつか。それとも手軽でオーソドックスな肉じゃがか。はたまたヘルシーな野菜炒めか。
布団から起き上がって匂いにつられるままに、まるで夢遊病にでもかかったように台所へ吸い寄せられる。
「あら、起きたの?」
台所では寝巻き姿の霊夢が朝食を作っていた。
そしてテーブルの上に上がっている御椀の中で白く輝いているものを見て、この食欲をくすぐるような匂いの正体が分かった。
そう、この匂いの正体は、ごはんだ。炊き立てほやほやの真っ白な米から浮かび上がるほんわりとした湯気。
その湯気と共にあの独特の食欲を掻き立てる匂いが家中に漂っているのだ。
「ちょうど、今出来上がったところよ」
ああ、空腹で起きてすぐご飯が食えると言うのはなんと幸せなことか。しかもそれが作り立ての白米ごはんなのだ。
有無を言わさず、ごはんを頬張る。かみ締めるたびにごはんの甘みが口いっぱいに広がる。とても優しい味だ。そしてその甘みと優しさを十分に堪能した後に、ごくんと飲み込む度に胃が満たされていく。正直おかずなんかいらない。ごはんをおかずにごはんが食える。そんな言葉が頭に浮かぶ。それにしてもどうしてごはんを食べると、こんなにほっとするのだろうか。
それは自分が和食派だからという理由だけではないだろう。白米にはきっと一種の魔力があるのだ。食べる人を幸せにする魔力が。
あっという間に一膳平らげてしまう。しかしそれではまだ食欲は満たされない。すぐさまおかわりをして二杯目に突入する。
そんな私の様子を見た霊夢が言う。
「そんなに、がっつかなくてもごはんは逃げないわよ……」
違うんだ。そうじゃないんだ。この、ごはんを食べるという行為に私は酔いしれているんだ。
飢えたお腹が極上のごはんによって満たされていくという快感に!
結局、それから4杯もおかわりをしてしまった。だがしかし、これでいい!
その後、霊夢が用意してくれた緑茶を飲みながら、私は未だ冷めやらぬ快感の余韻に暫く浸っていた。
――昼
今日は家の庭でキノコバーベキューをすることにした。
材料のキノコは、あの後、森で調達した採り立てのキノコだ。
総て前に食べたことがあるキノコなので安心して食べることが出来る。思ったより量が採れたので、せっかくだからアリスと一緒に食べることにした。
綺麗な川の水で洗ったキノコを串刺しにして七輪で焼く。こんがりと狐色になりかけた頃に、醤油を数滴たらせば、辺りに香ばしい匂いが広がり食欲をそそる。
朝あれだけ食べたのに昼の時間になると、ちゃんとお腹が空くものだ。健康体に感謝しなくては。
早速、こんがりほっこりと焼きあがったキノコにレモンの汁を数滴たらして豪快に齧り付く。
それを見ていたアリスが思わずつぶやく。
「あんたねぇ……もうすこし上品に食べること出来ないの……?」
分かってないな。野生のキノコを味わうのに上品さなんていらないのだ。
そう思いながらキノコを噛みしめる。焼けた醤油の香ばしい風味が鼻腔を貫く。そして、レモンの酸味がいいアクセントになっている。しかし、なんと言っても主役はこんがりと焼きあがったキノコだ。サクサクっとした歯切れのいい口当たりがなんともかんともたまらない。絶妙な焼き加減じゃなければこの心地いい食感は味わえない。
これだからキノコは止められない止まらないのだ。例え毒キノコで中毒を起こしたとしても。
何だかんだ言ってたアリスも、結局はおいしそうにキノコを頬張っている。満足してもらえたようで何よりだ。
すると食べ終わったあとでアリスがお礼にと、なんと手作りのデザートを振舞ってくれた。特製の杏仁豆腐だ。
彼女が作ったデザートには、まずハズレがない。今回も期待を裏切らない味だった。普通、杏仁豆腐は割とあっさりしているもので、主にぷるぷるとした食感と喉越しを楽しむものだが、アリスの手にかかると、それも変わってしまう。まず杏仁豆腐とは思えない濃厚な味わい。そして口の中で溶けてなくなるような驚きの口当たり、そして後味もすっきりとしていてしつこくない。濃厚な焼きキノコを味わった後にはまさにうってつけの一品だった。流石はアリス。
そして私は満足感に浸りつつ、いつの間にか眠りに落ちていた。
――夜
ふと目を覚ますと、辺りはすっかり日が暮れていた。いつの間にか体には毛布がかぶさっている。どうやらアリスが帰る際にかけて行ってくれたらしい。
それはそうと、夕ご飯だ。ただ眠っていただけなのに、やはりお腹は空くものだ。さて今夜はどうしようか。キノコもまだ残ってはいるが……。
などと悩みながら外の風景をぼんやりと眺めていたらふと、いいアイデアが浮かんだ。
そうだ! 居酒屋へ行こう!
早速、キノコを持って居酒屋『ろ~れらい』へ向かう。居酒屋はすでにたくさんの客でにぎわっていた。
「いらっしゃーい!」
私はいつもの調子で出迎えてくれたミスティアに、いつものあれを注文する。あれとは言うまでもなく、ヤツメウナギの蒲焼のことだ。こいつが本気で美味いのだ。店の中には蒲焼に使う秘伝のタレの香ばしい香りで充満している。はっきり言ってこの香りを嗅ぐためだけでも店に来る価値がある。それくらいいい香りだ。
ふと、隣の席の客のテーブルの上に見たことのない料理が乗っかっているのに気づく。ミスティアに聞くとヤツメウナギの白焼きを始めたのだという。これは食べざるを得まい。すぐに私は追加で注文する。ああ、実に楽しみだ。
それにしても今日の私は食べることしかしていない。でもいいじゃないか。だって食べることは本能に基づく行為なのだから。なんてことを考えてるうちに、さあ、きたぞ。お目当てのヤツメウナギの蒲焼が。しかし、何といういい香りなんだろうか。
有無を言わず、まずは一口。ふっくらとしたウナギの肉からじゅわっと秘伝のタレを含んだエキスが広がる。もう最高の一言に尽きる。思わず顔がほころんでしまう。
それにしてもこのタレ、ここまでコクを保ちながらも、ウナギの味を殺さずに爽やかな味わいとしつこくない後味を併せ持っている。一体どうすればこんなタレが作れるというのか。流石に秘伝なだけはある。何とか自分でも再現してみたいものだ。あ、もしかしたらアリスなら出来るんじゃないだろうか。今度頼んでみるとしよう。
しばらくして、新商品である白焼きが運ばれてきた。正直なところ蒲焼だけでもう既に満足だったのであまり期待はしていなかったのだが、間違っていた。
このヤツメウナギそのものの味が、口いっぱいに広がるという幸せ。そう、本当においしいものには余計なものなど何もいらないのだ。今なら釜揚げうどんを何もつけずに食べる人の気持ちがよく分かる!
こうして私はまた一歩大人に近づいたんだ。などと考えつつ昼のキノコをつまみに吟造酒を飲んだ。
こんがりと焼いたキノコと酒はよく合うもんだ。なんでもミスティア曰く、今度はうなぎの刺身という珍味をメニューに加える予定だという。これも期待出来そうだ。そんなこんなで充実した時を過ごし私は帰路へついた。幸福の余韻に浸りながら。
――翌日
ふと目を覚ますと何故か神社の座敷にいた。あの後一体何があったのだろうか。記憶をたどるが思い出せない。だが、私は今、霊夢のところにいる。それは間違いない事実だ。思えば昨日の朝も似たような事があった気がしたが……。
とりあえず立ち上がろうとするが腹が異様に重くて動けない。どうやら昨日は流石に食べ過ぎたようだ。今思えばあそこまで食べまくったのは記憶にない。ここはひとつ今日は食事を控えよう。そう思っていると霊夢がやってきた。
「あ、起きたの? ご飯食べる?」
「いや、流石に控えておくよ。昨日ちょっと食べ過ぎてしまってな……胃がもたれ気味なんだ」
「ふーん。そ」
そっけなく言うと霊夢は台所へと消えていってしまった。
おいしいご飯が食べられないのは悔しいが仕方がない。今日はこの漂ってくる匂いだけで我慢しよう。泣く泣くそう思っていると霊夢が戻ってきた。
「はい、これ。いくら食べたくなくても、朝ごはんは食べないと体に悪いわよ」
そう言って彼女が差し出してくれたのは、何の変哲もない、梅干が乗っかったお粥だった。
しかし、そのお粥は、まるで疲れたお腹をいたわってくれるような素朴で優しく、思わず涙が目に浮かぶようなお粥だった。
霊夢が作ってくれたお粥を食べながら魔理沙は、料理は食材で決まるものじゃないんだなぁ。と、しみじみ思ったという。
おいしそうな匂いに、空っぽのお腹が刺激され思わず目を覚ました。
ああ、この素敵な匂いはなんだろう?
もしかすると一度だけ食べたことのあるカレーってやつか。それとも手軽でオーソドックスな肉じゃがか。はたまたヘルシーな野菜炒めか。
布団から起き上がって匂いにつられるままに、まるで夢遊病にでもかかったように台所へ吸い寄せられる。
「あら、起きたの?」
台所では寝巻き姿の霊夢が朝食を作っていた。
そしてテーブルの上に上がっている御椀の中で白く輝いているものを見て、この食欲をくすぐるような匂いの正体が分かった。
そう、この匂いの正体は、ごはんだ。炊き立てほやほやの真っ白な米から浮かび上がるほんわりとした湯気。
その湯気と共にあの独特の食欲を掻き立てる匂いが家中に漂っているのだ。
「ちょうど、今出来上がったところよ」
ああ、空腹で起きてすぐご飯が食えると言うのはなんと幸せなことか。しかもそれが作り立ての白米ごはんなのだ。
有無を言わさず、ごはんを頬張る。かみ締めるたびにごはんの甘みが口いっぱいに広がる。とても優しい味だ。そしてその甘みと優しさを十分に堪能した後に、ごくんと飲み込む度に胃が満たされていく。正直おかずなんかいらない。ごはんをおかずにごはんが食える。そんな言葉が頭に浮かぶ。それにしてもどうしてごはんを食べると、こんなにほっとするのだろうか。
それは自分が和食派だからという理由だけではないだろう。白米にはきっと一種の魔力があるのだ。食べる人を幸せにする魔力が。
あっという間に一膳平らげてしまう。しかしそれではまだ食欲は満たされない。すぐさまおかわりをして二杯目に突入する。
そんな私の様子を見た霊夢が言う。
「そんなに、がっつかなくてもごはんは逃げないわよ……」
違うんだ。そうじゃないんだ。この、ごはんを食べるという行為に私は酔いしれているんだ。
飢えたお腹が極上のごはんによって満たされていくという快感に!
結局、それから4杯もおかわりをしてしまった。だがしかし、これでいい!
その後、霊夢が用意してくれた緑茶を飲みながら、私は未だ冷めやらぬ快感の余韻に暫く浸っていた。
――昼
今日は家の庭でキノコバーベキューをすることにした。
材料のキノコは、あの後、森で調達した採り立てのキノコだ。
総て前に食べたことがあるキノコなので安心して食べることが出来る。思ったより量が採れたので、せっかくだからアリスと一緒に食べることにした。
綺麗な川の水で洗ったキノコを串刺しにして七輪で焼く。こんがりと狐色になりかけた頃に、醤油を数滴たらせば、辺りに香ばしい匂いが広がり食欲をそそる。
朝あれだけ食べたのに昼の時間になると、ちゃんとお腹が空くものだ。健康体に感謝しなくては。
早速、こんがりほっこりと焼きあがったキノコにレモンの汁を数滴たらして豪快に齧り付く。
それを見ていたアリスが思わずつぶやく。
「あんたねぇ……もうすこし上品に食べること出来ないの……?」
分かってないな。野生のキノコを味わうのに上品さなんていらないのだ。
そう思いながらキノコを噛みしめる。焼けた醤油の香ばしい風味が鼻腔を貫く。そして、レモンの酸味がいいアクセントになっている。しかし、なんと言っても主役はこんがりと焼きあがったキノコだ。サクサクっとした歯切れのいい口当たりがなんともかんともたまらない。絶妙な焼き加減じゃなければこの心地いい食感は味わえない。
これだからキノコは止められない止まらないのだ。例え毒キノコで中毒を起こしたとしても。
何だかんだ言ってたアリスも、結局はおいしそうにキノコを頬張っている。満足してもらえたようで何よりだ。
すると食べ終わったあとでアリスがお礼にと、なんと手作りのデザートを振舞ってくれた。特製の杏仁豆腐だ。
彼女が作ったデザートには、まずハズレがない。今回も期待を裏切らない味だった。普通、杏仁豆腐は割とあっさりしているもので、主にぷるぷるとした食感と喉越しを楽しむものだが、アリスの手にかかると、それも変わってしまう。まず杏仁豆腐とは思えない濃厚な味わい。そして口の中で溶けてなくなるような驚きの口当たり、そして後味もすっきりとしていてしつこくない。濃厚な焼きキノコを味わった後にはまさにうってつけの一品だった。流石はアリス。
そして私は満足感に浸りつつ、いつの間にか眠りに落ちていた。
――夜
ふと目を覚ますと、辺りはすっかり日が暮れていた。いつの間にか体には毛布がかぶさっている。どうやらアリスが帰る際にかけて行ってくれたらしい。
それはそうと、夕ご飯だ。ただ眠っていただけなのに、やはりお腹は空くものだ。さて今夜はどうしようか。キノコもまだ残ってはいるが……。
などと悩みながら外の風景をぼんやりと眺めていたらふと、いいアイデアが浮かんだ。
そうだ! 居酒屋へ行こう!
早速、キノコを持って居酒屋『ろ~れらい』へ向かう。居酒屋はすでにたくさんの客でにぎわっていた。
「いらっしゃーい!」
私はいつもの調子で出迎えてくれたミスティアに、いつものあれを注文する。あれとは言うまでもなく、ヤツメウナギの蒲焼のことだ。こいつが本気で美味いのだ。店の中には蒲焼に使う秘伝のタレの香ばしい香りで充満している。はっきり言ってこの香りを嗅ぐためだけでも店に来る価値がある。それくらいいい香りだ。
ふと、隣の席の客のテーブルの上に見たことのない料理が乗っかっているのに気づく。ミスティアに聞くとヤツメウナギの白焼きを始めたのだという。これは食べざるを得まい。すぐに私は追加で注文する。ああ、実に楽しみだ。
それにしても今日の私は食べることしかしていない。でもいいじゃないか。だって食べることは本能に基づく行為なのだから。なんてことを考えてるうちに、さあ、きたぞ。お目当てのヤツメウナギの蒲焼が。しかし、何といういい香りなんだろうか。
有無を言わず、まずは一口。ふっくらとしたウナギの肉からじゅわっと秘伝のタレを含んだエキスが広がる。もう最高の一言に尽きる。思わず顔がほころんでしまう。
それにしてもこのタレ、ここまでコクを保ちながらも、ウナギの味を殺さずに爽やかな味わいとしつこくない後味を併せ持っている。一体どうすればこんなタレが作れるというのか。流石に秘伝なだけはある。何とか自分でも再現してみたいものだ。あ、もしかしたらアリスなら出来るんじゃないだろうか。今度頼んでみるとしよう。
しばらくして、新商品である白焼きが運ばれてきた。正直なところ蒲焼だけでもう既に満足だったのであまり期待はしていなかったのだが、間違っていた。
このヤツメウナギそのものの味が、口いっぱいに広がるという幸せ。そう、本当においしいものには余計なものなど何もいらないのだ。今なら釜揚げうどんを何もつけずに食べる人の気持ちがよく分かる!
こうして私はまた一歩大人に近づいたんだ。などと考えつつ昼のキノコをつまみに吟造酒を飲んだ。
こんがりと焼いたキノコと酒はよく合うもんだ。なんでもミスティア曰く、今度はうなぎの刺身という珍味をメニューに加える予定だという。これも期待出来そうだ。そんなこんなで充実した時を過ごし私は帰路へついた。幸福の余韻に浸りながら。
――翌日
ふと目を覚ますと何故か神社の座敷にいた。あの後一体何があったのだろうか。記憶をたどるが思い出せない。だが、私は今、霊夢のところにいる。それは間違いない事実だ。思えば昨日の朝も似たような事があった気がしたが……。
とりあえず立ち上がろうとするが腹が異様に重くて動けない。どうやら昨日は流石に食べ過ぎたようだ。今思えばあそこまで食べまくったのは記憶にない。ここはひとつ今日は食事を控えよう。そう思っていると霊夢がやってきた。
「あ、起きたの? ご飯食べる?」
「いや、流石に控えておくよ。昨日ちょっと食べ過ぎてしまってな……胃がもたれ気味なんだ」
「ふーん。そ」
そっけなく言うと霊夢は台所へと消えていってしまった。
おいしいご飯が食べられないのは悔しいが仕方がない。今日はこの漂ってくる匂いだけで我慢しよう。泣く泣くそう思っていると霊夢が戻ってきた。
「はい、これ。いくら食べたくなくても、朝ごはんは食べないと体に悪いわよ」
そう言って彼女が差し出してくれたのは、何の変哲もない、梅干が乗っかったお粥だった。
しかし、そのお粥は、まるで疲れたお腹をいたわってくれるような素朴で優しく、思わず涙が目に浮かぶようなお粥だった。
霊夢が作ってくれたお粥を食べながら魔理沙は、料理は食材で決まるものじゃないんだなぁ。と、しみじみ思ったという。
お腹が減ってきた自分はおかしいのでしょうか・・・orz
たまごかけごはんにねぎいれてたべたい!
ミスチー屋台の蒲焼き食べたい…
「食あれば楽あり」を思い出しました。
うなぎは血液中に蛋白毒があるから生で食べちゃダメ。