妖怪の暇つぶしについて話していこうと思う。いきなり何を唐突に、と思うかもしれないが、
これぐらいしかお前に話せる話題が無いんだ。期待しないでくれ。
なに?「口八丁で顔の皮の厚い天狗が何を言っている?」。
やかましい!お前だって知っているだろ、俺は口ベタなんだよ!。
他の奴等みてえにペラペラとくっちゃべんのは苦手なんだ!
「そうだね」ってお前…「さっさと話してくれ」ってお前…。まあいい、そんじゃあ話すぞ。
あ~、ん~とまあ、妖怪達にとって、暇つぶしとは、生きる意味そのものでもあるといえる。
中には復讐だの義理だの言って、首をもいだり、皮を剥いだり、自分の羽で織物を織ったりと、
俺にはよく分からないものに縛られて生きた奴もいるが、俺等やその他の妖怪達にそんなものはない。
大抵の奴は、小豆を磨いだり、首を伸ばしたり、他人の飯をドカ食いしたり、夜這いしてきた男を逆に掘る、
なんて事をして何百何千何万年の余命を無碍に扱い、一生を楽しむわけだ。
で、まあそんなこんなで話は飛ぶが、つまり俺たちは暇つぶしを作るのには何時だって情熱をかけているってわけさ。
仲間内での情報交換の為に宴会は毎日かかさない。山を越え、河を跳び越して、新しい情報を他の奴らから聞き出すこ
とも朝飯前。もちろん、その日の内に見つけた新鮮な話題を幻想郷のあちらこちらに広めるのも忘れない。
その結果、幻想郷は話題が絶えず、暇つぶしには困らない。
そう、俺らが空を駆けるから、幻想郷には絶え間なく新しい風が吹いてくるのさ。
「ほぉ…」ってなんだよ、言いかけたなら最後まで言えよ!分かってるよ!自分でも結構恥ずかしい事言っているって!
で、まあ、なんでそんなことを言ったかというとだ…、最近流行っている「アレ」は知っているか?、知らないだろ?。
こんな湿っぽい所で頭にキノコでも生やしていそうなお前が知ってる訳が…「新聞で見た」?……あっそ………まぁ、
知ってんなら話は早い。俺に付き合え。答えは聞いてない。「営業妨害」?営業してたのか、ココ?
ほーら諦めて俺と一緒に来るんだな。「はなせ」と言われてはなすバカはいねぇよ、諦めろ。
…………君と……………とい……どうし…話を……。両腕の中のコイツは、何かをボヤいているようだが、
耳の辺りで唸る風の音がうるさくて、まったく聞こえない。聞こえないったら聞こえない。晴れ渡る空、
コイツを抱えて向かう先はネタの宝庫と有名な「あの」神社ではなく、その先にある悪魔が住む館だったりする。
なんの用が、なんてのはいずれ分かる。兎に角俺とコイツは悪魔の館に向かっている。
森の出口を過ぎた所でコイツも諦めたがついたんだろう。今は私の腕の中でいいようにされている。
身長が六尺もあるコイツが、それより頭一つ分身長の低い俺に抱えられ、吹き抜ける風の中、
死んだ魚のような目をして、長い両腕と両足をブラブラと揺らしながら飛ぶ光景は…
当事者ではないものが見れば、凄い勢いで鼻から鼻水を噴くこと間違いなしだ。
まあ、諦めがいいのはいいことだ。最近はとても話が分かる奴になった気が…いや、そういえば昔からこんな奴だったよう
な気がする。諦めがはやいような…やたら根性があるような…でもやっぱり諦めるのが早いような、
正直今までコイツとつきあってきた俺にもよく解らんのだ。酒の飲み比べをした時、フラフラになっても負けじと
酒を流し込むアイツをみた時はなかなかどうして…意地の強いやつだと思ったもんだが。今のコイツを見ると俺の
見たアレは幻想なんじゃあないかと思ってしまう。とにかく、どうにも目が死んでる。
まるでどこぞの釘ゴッスンの嬢ちゃんみたいだ。
昔の方がもっと活きた目をしていたぞ。いや、昔からこんな奴だったような気もするなあ、
いかん、どうも物忘れが激しい。最後に飲み比べをしたのも何時だったか……っておいいいいいいいいい!何だよ!
いきなり顔こっちに向けんなよ!お前のそのぽぺーっとした顔は心臓に悪いんだよ!………ちょっ!顔を近づけるな!
口を動かすな!息を吹きかけるな!首に当たってくすぐってぇんだよ気色悪い!!なんだよ!なにが「通り過ぎてる」って……やっべ!
気がついたら目的である館の上に居た。あぁっとあっぶねぇあぶねえ、急いで門の所まで引き返して、この館、「紅魔館」
の門前でゆっくりと大地を踏みしめるように着陸した。赤い屋根に赤い壁、赤い鉄の門と本当に赤づくしのこの館は、
吸血鬼であり、紅魔館の当主である「レミリア・スカーレット(主な派閥はレミ咲、レミフラ)」が支配している。
幻想郷独自の決闘法であるスペルカードルールを最初に受け入れたのも彼女であるという。
派閥?レミ咲?今聞くのは野暮ってもんだ。
さて、そろそろ作戦に移らなきゃいけねえな。「……初めて聞いたよそんなこと…」…ったりめえだ。
わざわざてめえと2人で門の前に並びに来たわけじゃねえんだよ。とりあえず始めにすることは、門の前、
すぐ横で突っ立って寝ている中華服に赤髪のねーちゃん、「紅 美鈴(主な派閥、咲鈴、フラ鈴等)」を起こす
ところから始まる。…そこで必要なのがお前だ。
どういう意味って言葉通りの意味だ、あのねーちゃんを起こしに逝け。なんてことはない、お前なら大丈夫だ。
起こせば後はどうとでもなる。それに天狗の俺がついているぞ、非力のお前よりかよっぽど役にたつぜ!
自信満々に言い放つのが、コイツに何かを実行させるコツだ。俺の事を心の底から信じるコイツなら、俺の寛大なる勇気
の一部を貰った筈だ。…なのにあいつは遠目に見てもわかるほど嫌っっっそ~~にねーちゃんとこへ向かっているように
みえる。何故だろう?まったくもってけんとうがつかない。ホントーニフシギナヤツダナーアイツハー。
「~~~~?」
「むにゃむにゃ……はっ!寝てませんよ!!ちゃんと仕事してますよ!ってあれ?―――さんじゃないですか」
「~~~、~~~~?」
「はい、前より花が元気になった気がします。また今度のも頼んでいいですか?」
「~~。」
「はい、そのときは宜しくお願いしますね。それで今日はなんで紅魔館に来「紅魔館へようこそ。貴方の方から来るなんて 珍しいこともあるのね。」
「~~、~~~。~~~~?」
「ええ、いいわよ。此処に来て貴方のする事なんて決まったことでしょう。後ろの彼も、貴方の知人なら得に問題はないで しょうね。」
「~~~。」
「そうね。じゃあ一緒について来て、そっちの貴方もね。貴方は此処へ入るのは初めてね、ようこそ紅魔館へ。」
― MISSION COMPLETE ― !!
うつ伏せに倒れ、頭に刺さったナイフから血をドクドク流す門番を後に、俺とコイツは紅魔館に進入することに成功した。
ここだけの話だが、紅魔館は実のところ俺一人では確実に入る事ができない場所なのだ。
なにせ此処の当主レミリア・スカーレット嬢は運命を見る能力があるという、侵入しようにも場所と時間を特定されては
返り討ちにあうだけだ。も一つやっかいなのがあの門番、「紅 美鈴」である。只のサボり魔に見えなくもないが、
武術の達人であり、その名もズバリの「気を操る程度の能力」。その気になれば俺の10人や20人など、指先一つで
ダウンさ。この方を敵に回せば、ひでぶ!とかあべし!とか叫んで顔が弾け飛んじゃうんだろう。
そして、この中で一番危ないであろうお方は、今、俺の2つ前を歩くメイド長、「十六夜 咲夜(咲レミ、咲鈴等)」だ。
「時を止める程度の能力」、もうコレだけでお分かり頂けただろう。此処への不法侵入、それは、自ら墓穴を掘って、
その穴へ入って埋まり、墓標とお供え物を置くに等しい行為なのだ。
話は変わるが、そのときのお供え物はやっぱり日本酒がいい、それもとびきり甘口なやつを一升瓶丸ごとだ。奈落の淵や
地獄の底に行こうがコレさえあればどこででもやっていける。しかし、そんなささやかな願いすらも叶わなくしてしまう
存在が此処にはいる。悪魔の妹、「あらゆるものを破壊する程度の能力」、どこが「程度」だよ。
墓標は崩され、お供え物の花は塵と化し、一升瓶は熔けて中身が蒸発し、俺は灰すらも残らなくなるだろう…絶対。
話し合い?できるか!
さぼる門番を起こせば高い確率で此処のメイド長が釘(実際はナイフ)を刺しにくる。これは俺がモミモミ(友人の部下)
に頼んで遠くから視察させた結果得られた情報だ。もちろんコレだけではさして意味のある情報には見えない。だが、
ここで重要な鍵となるのが俺の親友であるコイツだ。モミモミ(心の友)に頼みこみ、更にねばって視察を続けてもらった
ところ、あの門番に挨拶して、そこへやって来たメイド長と一緒に紅魔館の中へ入っていくアイツを見たという衝撃の情報
を得たのだ。すぐさま奴の住居先へと飛翔、庭でのほほんと茶を啜っていたアイツを捕獲・尋問に成功した結果。
用があるのは紅魔館の大図書館で、月に何度か本を借りに行っていることが判明した。
「~~~。」
「ええ、最近は天狗が―」
そういえばコイツはかなりの本好きだった。俺の知らないような事もよく知ってるし、茶碗一つ褒めただけで、それに関係
した話が二桁以上出てくるような奴だ、そんなにおかしい事ではないのかもしれない。まあ、それはともかく、コイツが自
由に紅魔館を出入りできるというなら、答えは一つだ。出入りはコイツがいれば無問題、館中でいきなり襲われる可能性も
コイツと行動を共にすれば無し。正直ここまでうまくいくとは思わなかったが…俺ってば結構天才なのかもな。
顔がばれると色々と拙いので、顔と羽はコイツから(永久に)借りた黒のマントと帽子をがっぽり被って隠している。
これでどこからどうみても魔法使いだ。そう…魔法使い……その単語こそ、俺が此処に侵入した目的とある種の繋がりがある。
「~~~。」
「ええ、それではごゆっくりお寛ぎくださいませ………」
どうやら大図書館とやらに着いたようだ。目の前のメイド長は俺達に軽く一礼し、その場で消えた。あれが噂の時を止める
能力…正直敵に回さなくてよかったと今さらながら実感したぜ。さて、軽く視線を上に向ければ、そこにあるのは本、本、
本とものの見事に本ばかり。わかってる、わかってるから「図書館ならあたりまえだろう」みたいな目で見ないでくれ。こ
んな広い図書館なんて生まれて初めて見るんだよ。え?違う?「まるで子供のよう?」うるせーばか。
本棚というよりは迷路の壁に近いそれを、俺とコイツはしばらく無言で突き進んだ。古い紙とカビ臭い匂いの中、
赤いカーペットを踏みしめるたび、埃がくるぶしのところまで舞う。ただ、俺の下駄とコイツのブーツの足音だけが響く。
静かな場所だ、一体何分コイツと一緒に歩いていたのかも分からなくなってきた、ただ、だんだんと時間の感覚が狂って
いくような、そんな感じだけがする。ちなみに、目の前をまったく同じペースで歩くコイツもその一つの要因だ。
カツ…カツ…カツと、擬音をつけるならこんな感じで歩いている。その背中に感情の揺らぎや覇気のようなものはまったく
感じられない……ように見えるが、実はコレ、かなり上機嫌で歩いている方なのだ。普段は椅子に座ってぼへ~っと本を
読んでいるし、何か用事があって動くときでも、本当にめんどくさそうにゆっっくりと動く、カメのように鈍くさい奴
なのだ。お前、ちゃんと飯食ってんのかよ…ちゃんと飯食ってないから鈍くさいんじゃねーのか?。
だってお前、肌は色白だし、顔の線は細いし、おまけに立ち上がる時「どっこいしょ」なんて言って爺くさいし…必要ない
からって食わずにいたら…そのうち亡霊と間違われるぞ。爺っぽい所も含めると、もう亡霊寸前のトコまで来てるだろ、
たぶん。
「…ナァ……イ…ロ」
「…メ……ルデショ…」
静寂は破られた。すこし先の方から話し声が聞こえてくる。近づくたびに、声は次第に大きく、はっきりと聞こえてくる。
両脇の本棚で狭まった視界がいきなり開けた。開けた視界の中心、円形のホールのような場所で会話をする2人の少女がいた。
「一冊ぐらいいいだろ、私は約束は必ず守る女だぜ。」
「借りるという名目で私の本を沢山奪うコソ泥が何を言っているの。」
白黒の少女が紫の少女が話をしている。白と黒を基調とした服に大きなとんがり帽子、普通の魔法使い、
「霧雨 魔理沙(魔理アリ、魔理パチュ等)」だ。魔理沙は座って本を読む少女にしきりに話しかけているようだ。
紫の服に紫の髪、七曜を司る髪飾り…話通りなら恐らくヤツが「パチュリー・ノーレッジ(魔理パチュ こあパチュ等)」
だろう。どうやら噂は本当だったようだ、なら…俺がこの手で噂の元を断てばいい。
もうミッションについて隠す必要もないから教えよう。そう、俺のミッションとは―
「お、―――。こんなしけったとこに何の用だ?」
「あら、いらっしゃい。珍しいわね。」
「~~、~~。」
「そう…貴方のお友達が……、今日は随分と優しいのね。いつもの貴方らしくもない。」
「~~~。」
「ええ、わかっているわよ。…それで、貴方の親友は何処に?」
―ついさっきまで、爽やかに談笑していたパチュリーと魔理沙、この二人を―
「ん?おいパチュリー、なんかこっちから風が吹いてきてるんだが、どっかに隙間でもあいているのか?」
「まさか。咲夜に定期的に掃除させているから、何かあったら気づく筈よ。」
―この二人を………引き離すことだぁ!
向こうの三人から少し離れた本棚の影、狙うのはパチュリーの嬢さん、そのネグリジェの真下の床!
そこへ本は吹き飛ぶが人が吹き飛ばない程度の風を送り込む!天狗をなめてもらっちゃあいけねえ!
マッチの赤い部分だけを切り取る風から、民家の屋根を吹き飛ばす風まで自由自在よ!
腰に当てた右手を左肩に移して一閃、そうして出来た風を此処に送りこむとぉ!
「うお!何だ!」
「きゃ!」
ばさぁっ、と綺麗に自然にぃ!スカート捲りが決るのだぁ!案の定、綺麗に腰の所まで捲くり上がるパチュリーの
ネグリジェのスカートの部分!当然パンツなんて丸見えだ。
それをその場で偶然みてしまう役の男!つまりコイツをこの場に召喚することによりぃ!
によりぃ………により…………より……………なんだっけ?
え~とつまりはアレだ。なんか男にスカートを見られるととても恥ずかしくなって…
そんで、責任を取らないといけないから………その……えっと………
兎に角パチュリーはコイツに惚れちまうんだ!俺の事がバレル可能性もちゃんと配慮して練った計画だからまず大丈夫だろう。
パチュリーは見られてしまった羞恥心で突然やって来た強風の原因の方には気がまわらなくなるし、魔理沙は突然の
出来事にうろたえて、やはりそっちの方には気がまわらない。っでもってアイツの方はこの前拾った恋愛指南書の内容が
正しければ、この後怒り狂ったパチュリーに半殺しにされる筈だから、口封じも完璧だ。
その後は知らんふりして紅魔館の正門から堂々と出て行けば、脱出完了。晴れて任務完了というわけだ。
当然コイツの亡骸は此処にそのまま放置してしまう事になるわけだが。まあ微々たることだ。
そろそろ気になってきた方もいらっしゃるだろうから、懇切丁寧に教えよう。
まず、何故、こんな事をしているかというと、それは俺が「魔理アリ派」だからだ。
事の始まりはこうだ。とある所に一人で住んでいた名も無き独身烏天狗。昔はかなりのプレイボーイで沢山の天狗を
囲っていた奴だったが。数百年もすると色々と落ち着いてくるようで、その内に一人だけ、
自分だけに尽くしてくれるような器量の良い嫁さんが欲しくなったそうだ。だが、探せど探せど、自分の要望通りの
嫁さんは見つからなくて、気がついたら幻想郷の殆どの場所をまわっていた。それでも嫁さんが見つからないので、
とある森の中で途方に暮れていると、一人の青年がすぐ傍の獣道を下っている所に出会った。
風の気まぐれか、その天狗は突然青年の目の前に姿を現してこう問うた。
「あらゆる処を巡れど、ワシの嫁が見つからん。ワシの嫁はどこにおる?」
青年は答えた。
「―――――。」
この言葉を聞いた天狗は、何かに気づいたようで。その後一人の決して若いとは言い切れない女性天狗を嫁にとった。
今では3人の子供達と共に幸せに暮らしているという。
青年の言った答えとは何なのか。
天狗も、天狗の妻も、その話になるとしっかりと口を閉ざしてしまうので。結局謎のままに終わったという。
と、ここまでは普通にどこにでもありそうな昔話だが、問題はその後日談のほうだ。
その後、例の天狗は青年になにかお礼を返そうと思い、年に何度か青年の家へ訪問するようになった。
そんな事を何度か繰り返していたある日、天狗はあることに気づいた。そう、彼には嫁がいなかったのだ。
彼は独身の気楽さも知っているが、同時にその孤独も知っていた。
天狗はそんな彼を大変哀れに思った。その時、彼の脳裏に一つの名案が浮かぶ。
彼のおかげで嫁がとれた、それなら彼に嫁をあげればいい、と。
天狗は大急ぎで自宅へと戻り、ある新聞を発行する準備にかかった。
天狗が嫁を取った頃から発行を始めた「交際相性新聞」である。
主に結婚相手や交際相手を募集する者達を取材して作ったこの新聞。「男の本音」「女の本音」などの人気コラムを
掲載し続け、今や数多くの支持者が集まっている新聞だ。
その中でメインの記事、「交際相性欄」の一番上に、かの青年の名前、種族、趣味、性格、年齢、好物、生活と青年に
ついて分かる事をすべて記載し、更に顔写真を撮って「婚約者求む」のテロップを張って発行したのだ。
これならすぐに彼と相性のいい人物が見つかる。そう天狗は考えていたそうだ。だが、天狗の知らぬ内に、事態はまったく
別の方向へと加速していったのだ。
その日配った新聞はとても好評だった。特に仲間の天狗達に好評だった。問題はその次の日、事だった。
「彼は私の嫁新聞」、内容は「交際相性新聞」の昨日の記事に出ていた青年と自分がどれほど相性がいいかを
検討したものと青年の私生活に密着取材した際の内容をまとめたものだった。よほど暇だったのだろうか、
コレに触発された天狗が何名かいたようで、次の日に「青年は俺の嫁新聞」や「青年はあの巫女の嫁新聞」
が発行される。
その次の日は「青年は爺の嫁新聞」「青年は人形遣いの婿新聞」「青年は冬の嫁新聞」といった具合にどんどん
とその数を増していき、一週間もすると「魔理沙は霊夢の嫁新聞」ともはや青年が関係ない新聞まで発行されるようになる始末。
そして2週間後、彼等を遠くから眺めているうち、そのカップリングの魅力に魅入られた若い天狗達が、
遂にカップリングを実現させる為に実力行使にでるようになってしまった。
つまりは、自分が魅入られたカップリングの魅力を相手に伝えたり、それを遠くから眺めてニヤニヤするのが、
今の若い天狗達の間で流行っている「暇つぶし」だ。中には情に流されて本気でサポートする天狗達もいるが。
俺はどちらかといえば「暇つぶし」として楽しんでいるほうだ。でなけりゃ今頃はこの身が裂かれようが墓標がなくなろう
があいつらを赤い糸で結ぶ為に命を投げ出している筈だ。
で、俺の場合、組み合わせ的な意味で一番面白いと感じたのが「魔理沙とアリス・マーガトロイド」な訳だ。
理由?一目惚れに理由があるなら是非聞かせて欲しい。とにかくアレはいいものなんだ。
「魔理パチュ」が成立してしまうと「魔理アリ」が見られなくなってしまうからな。
だからこうして邪魔をしにやって来たというわけだ。
ついでに「パチュリー」と「アイツ」が一度くっついてしまえば。もう「魔理パチュ」が成立する危機も去って
まさに棚からぼた餅、一石二尾だ。
さて、説明タイムも終わった所で、そろそろあいつらの方を見てみよう。そろそろアイツが半殺しにされていてもいい
時間だ。本棚の端から少しだけ顔を出してあいつらの居るホールの中心を見てみた。
「ばぶじゅ゙っ゙!!ゔぅ゙~ぼごり゙がめ゙に゙ばい゙っ゙だぁ゙~」
「ゴホゴホ!ちょっ!だれかっ!ゴホゴホ!ゴホ!」
「―――!~~~!?クチュン!」
「ケフンケフン!パチュリーサマー!!ケフンケフン!」
なんかいろいろと凄いことになってました。魔理沙が涙目になりながらくしゃみを連発。
パチュリーは咳き込み過ぎて何か瀕死の一歩手前状態。
アイツは何か慌てながら魔理沙を介抱してるっぽい、こらこら、魔理沙はアリスの婿だぞ。
そりゃあこんな埃っぽい所で風なんておこしたら当然だよね、俺のバカ。
さて、俺はこの後どうするべきか。逃げたらアイツに告げ口される、助けておいても後で○されそう。
前門に龍、後門に犬ときた日には…もう駄目かも分からんね。
俺は…正直途方に暮れることしかできなかった…。
が、そんな俺の混乱を更に増長させるかのような事態が起きた。
「~~~~~!!」
「あ゙ぁ゙っ゙!だい゙じょ゙ぶがぁ゙―――!―――がぶぎどばざれ゙だぁ゙~!」
お前の方が大変だよ、主に絵柄的な意味で。それはともかく俺のいる方とは全く逆の方向からかなり強い突風が吹いてきたのだ。
それが魔理沙を介抱している最中のアイツにあたり、あいつは魔理沙から強制的に引き離された。
そう、強制的に…だ。勿論俺は何もしていない、これは惑うことなき……天狗の仕業だ。
考えにくい事だが恐らく俺意外の天狗がここに侵入している。それも、メイド長や紅魔館当主レミリアの目すらも欺く程の
強者が。
俺は突風が飛んできた方に全神経をむける。正直、見つけられる気は全然しないが、やらないよりはマシだと…
「はて?この恋愛指南書によれば「風が吹けばアリパチュができる」と書いてあるのだがのう?
わし、どこか間違えたかのう……。」
埃が何か浮いている、いや、透明な何かに埃が積もってる。それに声がはっきり聞こえます。
ってもうなんかしっかりバレちゃってるよー! 声出すなよ!天狗ならもっとしっかりしろよ!
なんだよ「風が吹けばアリパチュができる」って!そんなもん参考にしてる時点で間違ってるよ!
「しょうがないのう…もう一発行ってみるか」
「行くな!(ボソ」
すぐさま本棚の上からすべるように旋回して接近、勢いを殺さずにそのまま右手で手刀を叩き込むことに成功した。
「げふぅ!な、何奴!」
「馬鹿!もっと小さい声で喋れ!(ボソ」
「主は……赤ら顔か!赤ら顔ではないか!(ボソ」
「おまっ…赤ら顔ゆうな!(ボソ」
赤ら顔というのは仲間の天狗が俺を呼ぶときに使う言葉だ。俺が年がら年中顔を真っ赤にしているっていうのが理由らしい、
永遠亭の薬師がいうには、たしか……俺の顔の皮膚は他の奴等よりもずっと弱く出来ているから、だそうだ。
とにかく昔からちょっとでも日の光を浴びてるとすぐに顔が真っ赤になっちまう。
そんでもってそれをしらねえ馬鹿な野郎どもが俺の顔を見るなり「勝手な解釈」をしやがることがこれまでに何回あったことか…!。
「アリパチュはええぞ~。病弱少女が引きこもる、暗く光の届かない場所に、
人見知りの人形遣いが外から光を届けに来て、最終的に…………。ああ…たまらん。
しかし主も好きよのう…主も乙女と乙女が百合百合するところを見に来たのであろうて。」
「ばっ…違えよ!俺の「魔理アリ」は×じゃなくて+なんだよ!百合百合なんて別にそんなの見たかねえ!
それよか今はお前の事だ!お ま え の !いいかげん姿を現しやがれ!」
「ああ、これ、そんな乱暴に……いやぁ~ん」
「イヤンじゃねぇ!」
幸い、今の奴は頭から埃を被っているおかげで、俺でもしっかりと姿を捉えることができる。
奴の肩をつかみ、そのまま力任せに引っ張る。すると俺の手には透明な布のようなものが残った。
そして目の前の奴の顔もようやく拝める事ができた。
「なんと……なんと卑らしい行為を……///」
「頬を染めんなバカ!」
装飾品、背中の羽、ともに他の天狗達と特に変わりもない天狗だ。
額に「A×P」と書かれた天狗の面を被ってなければ。
「わしは今主の相手をしている暇などないのじゃ、その手の物を返して欲しいのじゃ」
「手の物ってこれか。表面は透明だが裏面は黒い布になっているな。コレはなんだ?」
「天狗の隠れ蓑。」
「嘘つけ。アレはとっくの昔に農民に燃やされてなくなったって話じゃねえか。」
「主こそ知らんのか。あれは灰になってもその効果は変わらず残るのじゃぞ。」
「灰をかっぱらって、その布に塗りたくったと。で、なんでその灰をお前がもってる!?」
「ほっほっほっほっほ」
「笑うな。いや、笑って誤魔化すな。」
「それで、わしの蓑を奪ってこの後どうするつもりじゃ?
見ればお前も取り返しのつかないようなことをしでかしていたではないか。
どうじゃ?ここは一旦、わしと協力しようではないか。
わしはアリパチュで百合百合がみたいから魔理パチュの妨害をする。
主は魔理アリで百合…怒るでない怒るでない、魔理アリが見たいから魔理パチュの妨害をする。
目的は一緒じゃろうて。」
確かに理屈は通っている。それに今は俺も奴もいろいろと拙い状況になっている。
目を右に逸らして向こうにいるあいつ等を見る、そろそろ俺と奴が起こした埃地獄から復帰しようとしているみたいだ。
このまま二人揃ってチキンソテーになるなんてのはゴメンだ。それなら…
「仕方ない…か。」
「おお!わかってくれたゴメスッ!
「さっきはありがとうね、「名も無き魔法使い」さん。貴方が咲夜を呼んで来なかったら、今頃どうなっていたことか。」
「!!…えー、そのー、いやまあ、いえあの………はい…」
「それにしても、こんな場所にイタズラをしに来るなんて、変わった天狗も居たもんだぜ。」
「~~~。」
「ハハハハ!それもそうだな!」
天狗を昏倒させた後、俺はすぐにメイド長を呼びに図書館をでた。メイド長を廊下を歩いているところを発見し、
事について報せたら。一瞬で俺の前から消えたメイドを追うようにして図書館に戻る。
図書館についたら、本棚で伸びている天狗を担いで被害者一同の前に生贄として差し出して完了。
俺の死亡フラグは消滅した。
そして今は、紅魔館のテラスで、俺とコイツと本物の魔女様二人と一緒に優雅にティータイムを満喫しているところだ。
とりあえず言いたいことが二つか三つあるので聞いてもらいたい。魔女様すげえっょぃです。
魔理沙のマスタースパークは話だけならモミモミ(魂の妹)に聞いたが、俺が想像していたのは「うほっ!いい太さ…」
ぐらいのモノだったんだが上空高く放り投げられた奴に向けて放ったアレは…「すごく…極太です」だった。
やっぱり魔理沙は流石だぜ!と言わざるを得ない。
窓側の席で優雅に本を読んでいらっしゃるパチュリーお嬢様の「賢者の石」もやばかった。
時間が経過する度に増えていく弾幕なんて本当にやば過ぎる。
最後のほうなんて、もう弾幕の隙間が殆ど埋め尽くされて、まるで光の波を撃ち込んでいるように見えたんだぜ?
正直敵に回さなくてホントに良かったと思っているよまったく。
ほぅ…と感嘆の息を吐いて面を上げた。…俺の正面に座っているアイツが本を片手にコッチをじ~っと見つめてきてる。
いや、アレは俺に何かを語りかけようとしてる時の目だ。なになに?
「あの時図書館でいきなり吹いてきた風、アレは君がやったんじゃないのか?
風を起こすのは君の専売特許でもあるだろう。彼は君の協力者かなにかかい?いや、
君は最後に彼を売って助かったようだから恐らくそれ以外の関係者、例えばライバルのような存在じゃないか?」
失礼な、たいした証拠も無いくせに人(妖怪)を疑うなんて非道の者がすることだぞ。同じく目で言葉を返すと、今度は呆れたような顔で俺の目を見る。
「君はそもそも、魔理沙とパチュリーに悪戯をする為に来たのだろう。それに風は二回吹いてきた、それも全く違う方向から別々の時間に、だ。彼女達を困らせるだけなら一回だけ、埃を舞い起こせばすむ話だ。わざわざ二回起こして逃げる確立を低くしてまでする必要はないし、協力者なら一斉に風を起こせばさぞかし大変なことになっただろうに。」
…バラすつもりか?バラしたらお前も共犯者だって言ってやるぞ?
「その時は共犯者にしたてあげられたと彼女達に弁明しておこう。君の言葉と僕の言葉…どっちが信用されるかな?。
…まあ君が此処で捕まってしまったら、僕は此処から徒歩で帰らなくてはならなくなるからね、そんな事はしない。
店が臨時休業になったのは少々心残りだが、今日は随分と楽をして此処に着けたからね。君には少しだけ感謝しているよ。それに………、天狗が悪戯好きなのは十分承知のうえだ。この程度の事は目を瞑っておこう。」
……素直じゃない奴だ、コレは昔っから全く変わっていない。
外の世界ではこの概念を「ツンデレ」と呼ぶらしいがこいつもその素質が十分にある奴だと思う。
此処は素直に「ちょっとだけ悪戯好きなのも含めて好きな君を裏切る真似はできない」ぐらいは言え。
そうしたら。頭をよしよしするぐらいならしてやるぞ、…いや、やめとこう。それは俺とコイツには凄く合わない。
やっぱりコイツはこのくらいのツンツンでいいのだ。未来永劫、コイツにはツンデレでいてほしいものだ。
「………………ムゥ」
「……………………」
「アレレー?パチュリーサマー?マリササーン?ドウシタンデスカー?モシカシテオフタリトモシットシテイ
何か黒いモノが俺の視界の端を横切り、そのままテラスから落っこちていった。
はて?どうして背筋がこんなに冷たいのだろうか?もしやお前の仕業かこのツンデレめ。
コイツの話ではツンデレのツンとは……なんか冷たい部分でデレが熱い部分だと聞いたことがある。
つまりコイツは今、存分にツンの力を揮発しているということなのか?
つまりいけないのは黒淵眼鏡の奥のその切れ長の瞳なのか?
ツンデレというのも考えもんだなぁ…。
太陽がこの館の真上を過ぎた頃、そんな暇つぶしにもなりそうもない事を延々と頭の片隅で考えながら、
ティーカップ片手に、紅魔館と対照的に鮮やかな青空を仰いだ。
さてとりあえず―――。頼むからいいかげんこっち見んの止めろ。背筋のゾクゾクが何時まで経っても止まらん。
赤い屋根に赤い庭、それに負けないぐらいの赤い空の下で今日のお茶会もどきはお開きとなった。魔理沙は一足先に自分の
家へと帰ってしまい、メイドの方もこっちに一礼したら一瞬で消えやがった。紅魔館の方からカレーの匂いが漂ってくる。
今日はチキンカレーか…、精々冥福だけは祈っておこう。お前の犠牲、無駄にはしないぜ。
さて、ここまでくると忘れてる奴もいると思うが、今日、紅魔館に来たのは
「魔理アリ派の俺がパチュリーと魔理沙がラブラブになるのを防ぐため」だ。
途中かなりのアクシデントがあったが、第三者の介入によって桃色空間の発生の阻止には成功した。
これだけでも成果はかなり大きいものだ。明日はアリスを魔理沙の家に押しかけさせてみよう。
どんな方法でいくか?どこで鉢合わせるか?時刻はどれくらいがいいか?魔理沙とアリスに他の接点はあるか?
そして…他の天狗達の妨害は何処で起こるか……当分はコレで暇つぶしの材料には困らなさそうだ。
今日出会った「アリパチュ派」の天狗は当然一人だけではない。何人も仲間がいるから当然俺の事も邪魔しにくるだろう。
他にも「アリ霊」や「アリチル」「アリ霖」などさまざまな派閥が私の行く手を阻むだろう。
だが、俺はそれはそれでいいとも思っている。
食事にも、寝ることにも、困らない天狗は、只暇つぶしだけを求める。
結果、その暇つぶしは天狗に個性を与え、その個性と個性の出会いが新しい発想を生み出すのだ。
そう考えれば、発想の分かち合いだって可能になる。相手が「魔理アリ」の良さを理解することもあれば。
俺が「アリパチュ」の良さを理解できるようになる日も来るのだろう。
何?最後まで一つの道を貫き通せ?それは感情移入をしてしまう熱血天狗のすることだ。
俺は悪魔で暇つぶし。そこんとこよろしく。
ん?「いいかげん家へ送ってくれないか?」へいへいっと。ちゃんと家まで送り返してさしあげましょう。
いやまて、折角だから寄り道して行かないか?うまい八目鰻を食べにさ。
もちろん金はお前持ちな、…そんな嫌そうな顔すんなよ。皺が増えるぞ。
此処まで運んでやったんだからそのくらい大目に見ろって。
彼と彼女は気づいていなかった。彼女の友人の部下が、彼女に言われた通りずっと紅魔館前の監視を続けていたことに。
翌日、幻想郷のところどころに配られた「文々丸新聞」のトップを飾った記事の題名はこうだった。
「まさかの俺霖!?突然浮上してきた新たなカップリング、俺×霖之助の謎に迫る!!」
owata
ともあれ楽しく読めましたw
赤ら顔、そこ替われ! そこは私の場所だ!!