Coolier - 新生・東方創想話

紅い悪魔の祝日

2009/06/04 23:36:04
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「アルバイトをしようと思うの」
「はいは……はい?」
 こちらの話を聞き流そうとしていたらしいその女性が驚く顔を見やりつつ、レミリア・スカーレットは頬杖を付いた。薄ピンクのドレス状の服を着た少女で、背中からは蝙蝠に似た翼が生えている。
 いつもと同じ屋敷の、いつもと同じテラス――レミリアは直射日光に対して極端に弱いので、テラスが日陰になるこの時間帯しかここを利用できない――で、日課である昼前の間食を終えた時間である。
「レミリアお嬢様……今、何とおっしゃいました?」
 ぎぎぎ、という音を立てつつ首をこちらに向け、十六夜咲夜が聞いてきた。ごく一般的なメイド服を着た銀髪の女で、動きやすいようスカートの丈を短くしている。レミリアの紅茶を運んできたお盆を抱えるように持ちながら、咲夜はこちらの返答を待っているようだった。心なしか、彼女の笑顔がいつもよりぎこちないものに見えるが。
 レミリアはそんなことは特に気にせず、咲夜に答えてやった。
「だから、お屋敷の外でアルバイトをしようと思って」
 そう言ってから、紅茶を一口啜る。普段は基本的に夜行性のレミリアだが、太陽の光を直接浴びたりなどしなければ日中であっても活動することは出来る。その気になれば日傘を差すことで外出することも可能だった。滅多なことでは外になど出たりしないが。
「お金なら、このお屋敷は別に困っていませんよ」
「そうよね。それは知ってるわ」
 何せレミリアが当主なのだから。そのぐらいは把握している。
 咲夜は笑顔を崩さず、言葉を続けてきた。
「それに冬も過ぎて、これからまた少しずつ日差しが強くなってくる時期ですから……」
「平気よ。何もそんなに長期間働こうというわけでもないんだし。むしろ日雇いとかで充分」
「ですけどお嬢様、やはり体調の事などを考えますと……」
「冬場に博麗神社の温泉に入ったのは、結構リフレッシュになったと思うの。天人の地震騒ぎもあって色々疲れが溜まってたのよね、私も」
「はぁ……」
「だからアルバイトをするなら夏になる前、なるべく春の内が良いかなと思って。うん、今が一番丁度良い時期ね」
 腕組みして、うんうんと頷いてみる。だが咲夜は一向に納得する気配を見せず、むしろ疲れたように嘆息するだけだった。額に手など当てつつ、
「お嬢様……何か欲しい物とかあるんですか? その気になれば大抵の物はすぐに買えるんじゃないかと思うのですけど」
 賽銭収入不足に悩む博麗の巫女が聞いたなら、スペルカードの一つもぶっ放してきそうな事をさらりと言う。もっとも、幻想郷屈指の敷地面積と所有財産を誇る、このスカーレット家当主を相手にしているからこその発言ではあるのだが。
 懇願するような咲夜の態度だが、レミリアは意見を曲げるつもりは無かった。飲み終えたティーカップを皿の上に置き、首を横に振る。
「アルバイトと物欲をイコールで結ぶのは短慮というものよ、咲夜」
「普通はそういうものじゃないかと思うのですが……」
「ショーウィンドウの中のトランペットが欲しいのに、アルバイトもせずただ眺めていた少年の話だってあるじゃない」
「いや、それはちょっと状況が特殊というか……ってお嬢様、今さりげなく話題逸らそうとしてませんでしたかっ!?」
「ちっ、気付いたか……。やるわね咲夜」
 犬歯のような牙を出して舌打ちする。何にせよこのままではいつまでたっても平行線の会話を続けるしかない。レミリアも流石に面倒臭くなり、咲夜に尋ねた。
「そもそも、あなたはどうして私にアルバイトをさせたくないの」
「お嬢様はお金を稼ぐ必要なんてありませんし、働く必要があるのであれば私が代わりに働きます!」
 彼女もまた、頑として譲ろうとはしない。思わずムキになって、レミリアは反論した。
「社会勉強とやらの一環で、お金持ちの娘もアルバイトをしたりすることがあるって聞いたことがあるわよ!」
「直射日光浴びたら気化しちゃうような体質で労働が出来るんですかっ!?」
「出来るわよ! どうしても難しいなら夜のお勤めにすれば良いだけの話じゃない!」
「そんな卑猥な言葉どこで覚えてきたんですかぁっ!!」
 二人揃って、叫び声に近いボリュームでのやり取りをしていると、唐突にテラスの扉が開いた。
「……もー煩いわねー。何で喧嘩なんてしてるの?」
 屋敷の中から、寝間着姿のパチュリー・ノーレッジが顔を出した。寝起きそのものといった顔で、両目は生まれたての仔猫のように半分も開いていない。彼女自慢の艶やかなストレートヘアーはまだブラシも当てていないのか、所々で毛先が撥ねていた。この屋敷の居候――という言い方が一番適切だろうか――である彼女は一日の殆どを屋敷内の図書館で過ごしており、本邸で寝起きするのは極めて珍しいことだ。間欠泉騒動の時に色々と暗躍して以来、生活バランスが崩れてしまったらしいが。
 レミリアは彼女が現れたことを好機と踏んだ。すかさず呼びかける。
「パチェ! ちょっとあなたからも言ってやってよ!」
「何よレミィ……そもそも話が全然見えてこないんだけど」
 パチュリーはまだ眠たいのか、袖口で目をこすりながら曖昧に返事をするだけだ。片手を口元に当てて欠伸などもしている。
 咲夜は盆をテーブルの上に置くと、両手を腰に当てて言ってきた。
「お嬢様、こっそり仲間を増やそうとしても駄目ですよ!」
「そうかしら。……パチェごめん! しばらく咲夜と遊んでてっ!」
「へ? え? 何、何なの? ――っひきゃッ」
「ちょっと、お嬢様ぁぁぁぁっ!?」
 パチュリーを咲夜の方へと突き飛ばしたレミリアは、そのまま素早い動作で屋敷の方へと駆け込んだ。横目で、倒れてきたパチュリーを受け止めた咲夜が、勢いを殺しきれず彼女ごと転倒するのを確認する。咄嗟のことで、咲夜が能力を発動させなかったのは幸運だった。単純な駆け比べならば咲夜は一生掛かってもレミリアに追いつくことは出来ないだろうが、時間を停められてしまえばそうもいかない。レミリアはそのまま速度を上げて、屋敷から脱走した。
 咲夜を伴わず一人で屋敷の外に出るのなど何年振りのことだったか、もう思い出せなくなっていた。

「……んで、何で私がアルバイト探しの付き添いなんてしなくちゃいけないんだ?」
 痒いわけでもないだろうに、ぽりぽりと後頭部など掻きつつ、霧雨魔理沙は心底面倒臭そうに言ってきた。ウェーブがかった金髪を背中程まで伸ばした、人間の女である。黒い三角帽子に黒い衣装と、一見して魔法使いであると分かる服装をしている。
 あの後、咲夜の追跡を振り切るためにレミリアは様々な場所を迂回しつつ、魔法の森に住むこの魔女の元を訪ねたのだ。
「いいじゃない。アルバイトをするには保証人がいないと雇って貰えないことがあるって言うし、かといって美鈴とか連れててもすぐ足取り捕まれちゃうでしょうからね。私が頼りにしなさそうな人物っていう条件付きだと、あなたが一番適切だと思ったのよ」
「何だかなぁ。捕まったのは実は私なんじゃないか」
 二人が会話をしながら歩いているのは、魔法の森から里へと続く細い道だった。そろそろ日差しも空の頂点に差し掛かろうという時間であるので、レミリアは勿論愛用品である厚手の日傘を差している。魔理沙は竹製の箒を、跨るわけでもく肩に担いでいた。手荷物がそれしか無いというのも、魔女らしいと言えばらしい。レミリアにはよく分からなかったが。
 ぼやきつつもこうして付いてきてくれているというのは、何だかんだ言えどこの魔女の人柄なのだろう。宥めるためにも、レミリアは口を開いた。
「それにあなた、私には色々借りがあるはずよ」
「あったかなぁ? 覚えてないぜ」
「紅霧異変のとき、霊夢が私に喧嘩吹っ掛けてきた隙を狙って屋敷に忍び込んだじゃない」
「あれはお互い様だぜ。お前が薄気味悪い霧をばら撒いてたのがそもそもの原因だったんだからな」
「それ以来私の屋敷にちょくちょく入り込んで、勝手に色々と持ち出したりしてるでしょう」
「私が入ってるのはパチュリーの図書館だと思うんだが」
「あそこも私の敷地内だし、私の所有物なのよ! 完全な不法侵入と窃盗じゃない」
 言うと、魔理沙は両腕を組んで困ったように唸り声を上げた。
「う~ん、おかしいなぁ。入り込める場所なら何をしてもいいと思ったんだが」
「いいわけないでしょ。どういう教育受けてきたのよあなた」
「そりゃ勿論他人には言えないぜ。魔女だけの秘密だからな」
 誇らしげに言う。レミリアは嘆息して、日傘を持ち直した。この調子で話し続けていても埒があかない。
「一応、あなたを選んだことにはそれなりに意味があるのよ。私が普段あまり接する機会の無い人で、里のことにそれなりに詳しいっていうのが条件だったから」
「里? そりゃお前よりは頻繁に行ってるだろうけどさ……。でも里で暴れたりすると、いつぞやの獣人が怒ると思うぜ」
「ワーハクタクなんて昼には変身できないんだから恐くないわよ。夜なら尚更負けないし。……って、誰が里で暴れるなんて言ったかしら?」
 このマイペースな魔女はいったい何を聞いていたのか。だが魔理沙はとぼけるわけでもなく、本当に困ったように空を仰いだ。
「あれ? でも金稼ぎがしたいんだろ? だったら里でやる事っていったら恐喝か強盗じゃないのか?」
「……私がしたいのはアルバイトだって、ちゃんと言ったはずなんだけど」
 頭痛を覚えて額を抑える。と、魔理沙は納得したようにポンと手を叩いた。
「おー、聞き覚えのない単語だから覚えられなかったんだ。そういやそんな手段もあるんだな、金稼ぎってのは」
「……人選ミスだったかしら。なんだかもの凄く不安になってきたわ」
 後悔してももう遅い。
 幻想郷の里は、もう目と鼻の先だった。

 里と一口に言ったところで、その広さは並大抵のものではない。多くの人間が暮らし、また妖怪の類も割と気楽に訪れるこの町は、かなり広大な作りとなっている。
 魔理沙の案内でレミリアが訪れたのは、商店街らしき一角だった。確かに、仕事を探すならこの辺りは最適であると言える。常識外れなことばかり口走るこの魔女としては、実に良い判断だ。だが。
「……ここはまずいわね」
 日傘を少し深めに差しつつ、レミリアは呻くように呟いた。魔理沙は不思議そうに質問してくる。
「どうしてだ? お前がその……あ……ある、アルバイト? とやらをしたいって言うから、この辺は丁度良いと思って連れてきてやったんだが」
「アルバイトって言葉ぐらいいい加減覚えなさい、普通のことなんだから。……そうじゃなくて、この一帯は最適すぎて、咲夜に見つかる可能性が高いってこと」
 あれだけアルバイトに反対していた咲夜のことだ。紅美鈴あたりを連れ出して――屋敷の門番がいなくなってしまうが、そもそもあの娘がまともに働いていることなど、どうせ極めて稀である――、里中を捜索している可能性は高かった。そうだとすれば、これだけアルバイトに適した環境はむしろ網を張りやすく、レミリアにしてみれば発見される可能性が高い。
「見つかって屋敷に連れ戻されるのは避けたいのよ。何処かもう少し寂れた、それでいて普通の仕事がありそうな場所無いかしら?」
 顔馴染みということで、香霖堂でアルバイトをするという考えも浮かんだのだが、これも先と同じ理由で却下である。あの若店主のことだ。咲夜に対して、笑顔でレミリアを引き渡すぐらいのことはやりかねない。ついでに言えば、あの店でレミリアに手伝えるような仕事があるとも思えなかった。
「仕事かぁ。条件が複雑で難しいんだよなあ」
 魔理沙は相変わらずの腕組みポーズで悩んでいる。レミリアは口を尖らせて抗議した。
「そんなに難しい条件を出したかしら?」
「ああ、かなり難しいぜ。だってお前、外じゃまともに働けないだろ?」
「……まあそうね。日傘は手放せないから、日中はちょっと難しいわ」
「となると屋内仕事ってことになるだろうけど、接客業なんてとてもじゃないけど無理そうだしなぁ」
「それぐらい――」
 言いかけて、止まる。飲食店などで接客をするというのは、要は咲夜が普段やっているような仕事と似たようなものだろう。想像するだけで、かなり大変そうなことではあった。
 だが、そう簡単に諦めるわけにはいかない。現に咲夜は、その大変な仕事を毎日こなしてくれているのだ。レミリアは傘を持っていない方の手で、ぐっと拳を握った。
「で、でも、多少大変でもやってみせるわ」
「本当か? 凄まじく疑わしいぜ。……そもそもお前、なんで急に金稼ぎなんてしようと思ったんだ。金ぐらいしこたまあるだろ、お前の家なら」
 この魔女が言うと盗み出されるのではと思えてしまうが、レミリアは敢えて何も言わなかった。黙っておきたいことまで一緒に漏らしてしまうかもしれない。
 沈黙したレミリアに対して、魔理沙は質問を変えてきた。
「よく分からないけど、お前が自分で稼がなきゃいけないってことなのか? 家にある金じゃなくて」
「……そうよ。だからこうして家を抜け出してきたんだもの」
「なるほど、確かにそうだったな。ついでにそれは、お前の家の連中にバレちゃまずいってことなんだな?」
「ええ。咲夜でも美鈴でもパチェでも。発見されれば連れ戻されてしまうでしょうからね。まず間違いなく家から出てくることはないだろうけど、妹も勿論駄目。今の二つは絶対条件よ」
「やっぱり難儀な条件だよなあ。ルナティックとまでは言わないけど、ハードぐらいには難しいぜ」
 よく分からないことを言って魔理沙は唸った。彼女が困っているのだということぐらいはレミリアにも伝わったが。
 しばらく黙考した後で、魔理沙は口を開いた。
「ひとまず場所を移すか。あのメイド、勘が良さそうだからな。ここにいたら見つかっちまうかもだ」
「……そうね、それは賛成。でも、隠れるのに適した場所なんてアテはあるの?」
 聞くと、魔理沙は不敵に笑ってみせた。唇の端を吊り上げて、
「当たり前だ。隠密行動は魔女の鉄則だぜ」
 よく分からない魔女の言うことは、やはりよく分からなかった。

 入り組んだ路地裏を、魔理沙の後をついて行くことで進んでいくと、一件の店に着いた。一般的な木造建築であり、一見して飲食店であることは分かるのだが、暖簾には何の文字も書いていない。看板らしき物も見当たらなかった。
 眺めてみても何の店なのかさっぱり分からないその建物を見つつ、レミリアは隣に立つ魔理沙に聞いた。
「ここが、咲夜には見つけられないような店?」
「ああ。まさかお前みたいなのがこんな薄暗い所に来るとは思わないだろ」
「まあ、確かにここなら簡単には見つからないかもしれないけど……」
 ぼやきつつ、魔理沙と共に暖簾をくぐる。中は、建物の見た目以上に狭い構造となっていた。小さなテーブルが二つと、店主らしい男性が収まる手狭なカウンター。先客は三人らしい。奥のカウンター席で寝ているのが一人――わざわざ毛布まで被っている徹底っぷりである――と、テーブル席に二人。昼間でも薄暗い店内は、正直レミリアにとっては悪くない条件と言えた。安物のアルコールの臭いはだけは、どうにかならないものかと思ったが。
「よお、久し振りに来たぜ」
 魔理沙が気楽な口調で、奥の店主に声を掛ける。初老のその男は腕組みしたまま、視線だけで返事をしてきた。どうやら魔理沙とは顔見知りであるらしいが。
 空いているもう一つのテーブルに行こうとしたとき、別の席の二人組がこちらを見た。肌の色や目を見れば、人間に近いもののそれとは異なった存在であることはすぐ知れた。粘り気のある視線に嫌気を覚え、レミリアもそちらを睨む。日傘を畳みつつ、告げた。
「餓鬼にも劣る下級の妖怪が、この私に何か用かしら」
「……悪魔だな、おまえ」
 二人組のうち、片方の男が苦々しく呟く。薄い笑みを貼り付かせて、レミリアは言葉を返した。
「それがどうかしたか? お酒が不味くなったというのなら、残念だったわねぐらいの言葉は掛けてあげるわよ」
「調子に乗るなよ……ッ」
 安い挑発だが、会話に参加していなかったもう一人の方が真っ先に立ち上がった。笑みを崩さないままで、更に尖った言葉を投げかけてやる。
「あなたたちが人間じゃなくて妖怪だったのは可哀相な事ね」
「何だと?」
「人間なら私の食料になれたけど、妖怪では引き裂かれて跡形もなく蹂躙されるだけだもの」
 これはそのまま事実である。そう言えば以前命知らずな夜雀をいたぶろうとした際、咲夜から同じことを言われ窘められた記憶がある――結局その夜雀は、適度に痛めつけるだけで許してやったが。
「ま、月も出てない今の内は、本気では殺さないでおいてあげるわよ」
 普段なら、ここまで低俗なものを相手にしたりはしない。大抵はレミリアが話をする前に咲夜が全てを解決してしまうからだが、それ以上に、無駄な喧嘩を売ることはしなかった。とは言え、相手から売ってきたとなれば話は別である。いつぞやの、月から来たという宇宙人たちが良い例だ。刃向かうなら、血で染め上げてしまえばいい。
 だが、妖怪の男二人は舌打ちしてこちらから離れていった。店主に対して乱暴に代金を払うと、そのまま店を出て行ってしまう。店主は相変わらず無言だったが、魔理沙は素直な感想を漏らした。
「喧嘩したいのか小心者なのか、はっきりしない連中だったな」
「……それよりあなたは、飲食店で箒の毛を上に向けるのをやめなさい」
 相変わらず箒を担いだままの魔理沙に言ってやる。嘆息しつつ、レミリアは口を開いた。
「ああいうものなのよ。私たち悪魔って人間からも妖怪からも嫌われるから」
「ああ、分かる気がするぜ。金持ちってなんだか無意味に嫌みそうなイメージがあったりするからな」
 問題なのはそっちの方ではないのだが。
 魔理沙の勘違いした発言を、レミリアは敢えて訂正はしなかった。パチュリーなどもそうだが、こうして対等な立場で接することが出来る相手というのは、話していて悪い気がしない。あの亡霊の姫などのように、全く掴み所がないのは御免だったが。
 ひとまず椅子に座り、一息つく。魔理沙は一人分とは思えない量の食事をそれでも一人で注文していたが、レミリアは何も頼まなかった。
「何も食わなくて平気なのか? 後で腹減ったから血をよこせとかいきなり言われても、嫌だぜ私は」
「あなたのなんかいらないわよ。どちらにせよ私は少食だしね。……それよりそんなに沢山頼んで、あなたこそ平気なの? 咲夜がここを嗅ぎ付ける前に移動しなくちゃいけないのよ」
「ああ、それなら大丈夫だろ。こんな辺鄙な店、存在も知らないで見つけるなんてできっこないさ。飯は美味いし、人間と妖怪分け隔て無く来るけど、その割にマイナーだからな」
「……それならいいけどね」
 頬杖を突きつつ、溜め息を漏らす。午後になり、しばらく時間が経ってしまっている。そろそろ働き口を見つけなければならないのだが。
 そこへ、料理を運んできた店主がこちらへ話し掛けてきた。
「あんた、悪魔なのに仕事を探してるのか」
「ああ、豪華な屋敷に住んでるくせに変わり者なんだ。変わり者と言えば屋敷の色のセンスもかなり変わってるけどな。全部赤って」
「何であんたが代わりに答えてるのよ。あと食べ物が口の中に入ってるときは、手で覆うなりして隠す努力をしなさい」
「そうだよ魔理沙。美味い飯は出来るだけ静かに、美味い酒は出来るだけ騒がしく。そうやって頂くのが礼儀ってもんさ」
「そうよ。第一人の家の色に文句を付けるのってどうなの」
「ああそうか。そいつは失れ……あ?」
 割り込んできた声の主の方へと、三人揃って同時に振り向く。奥のカウンターで毛布を被って眠っていた客が、起き出してこちらを見ていた。栗色の髪を伸ばした少女で、身長はレミリアよりも更に低い。アクセサリーのように鎖を体に巻いているのは特異なファッションセンスだと思ったが、何よりも特徴的なのは頭部に生えた二つの角だった。肩幅以上に伸びた禍々しい角は、単純に生活の邪魔なのではないかと思えたが。
 少女は腰に付けた瓢箪を手に取り、直接口を付けた。数歩分離れているこの距離でも、強烈なアルコールの臭いが鼻に届く。相当きつい酒であるのは間違いなかったが、少女の飲むペースは水やお茶のそれと大差ない。
 顔見知り程度には交流のあるその鬼の少女の名前を、レミリアは口にした。
「伊吹萃香……だったかしら」
「久し振りだね、吸血鬼」
 伊吹萃香が気軽そうに振ってきた手は取り敢えず無視して、レミリアは視線を戻した。
「それより、仕事探しの話だけど……」
「なんか知らないけど、私今さらりと無視されなかったかい?」
 短い足でとてとてと、萃香がこちらのテーブルまでやってくる。萃香は図々しくこちらのすぐ隣の椅子に腰掛けると、再び瓢箪の中身を飲み出した。
「あなた、あの地震騒ぎの後は天界で暮らすことにしたんじゃないの?」
 体が強張るのを悟られないようにしつつ、尋ねる。この小さな少女――体型だけで言えばレミリアも似たようなものではあるが――が幻想郷でも数少ない、純粋な腕力でレミリアを上回る存在であることは決して忘れてはいけない。
 微かに緊張するこちらの体とは全く裏腹に、萃香は気楽に酒を呷っていた。返答も気楽なものである。
「あそこはたまに行くにはいい所だが、毎日暮らすとなると退屈だからねえ。実際、比那名居の娘もそれで異変を起こしたわけだし」
 つまるところ、天界で飲むのに飽きてきて暇だから、幻想郷で飲んだくれているということらしい。
 萃香への興味は失って、レミリアは改めて魔理沙の方を見やった。話を続けようと口を開いたところで、
「そっちの悪魔の嬢ちゃんは金持ちなのか」
 唐突に口を挟んできた店主の声に遮られた。訝しみつつそちらを見やると、これまでろくに感情らしい感情を見せなかったその男が、何故か少しだけ安堵したような顔をしている。
「……お金があると、何?」
 まさか悪魔から身代金を取り立てようなどと企むとは思えないが。そもそも店主が浮かべる表情は、そういった類のものとは異なるように見えた。
「いや実はな」
「実は?」
「そこのちびっこいのの代金を代わりに支払ってはくれんか。」
「……は?」
 思わず頬杖を崩し、レミリアは短く呻いた。すぐ隣で伊吹萃香が明るく手を叩き、酔っぱらいらしい笑い声を上げている。
「おお、そいつは名案だね! この子ならすぱっと払ってくれるだろうよ!」
「実はこんだけ飲み食いした挙げ句、文無しだなんて言い出してね。おまけに眠りこけちまうし」
「お金は天界に忘れてきちゃったんだよ~」
「事情はよく分からんけど、折角だから私もご馳走になろうかな。おっちゃん、あと五皿ぐらい追加しといてくれるか」
 それこそ魔法のような勢いで食べ物の群れを口へ放り込みつつ、魔理沙が凄まじく身勝手なことを言っている。
「……魔理沙は私の手伝いをさせてるからまだいいとして、何であなたの分まで払わなくちゃならないのよ」
「いいじゃあないかい。同じ鬼の字が付く者同士の縁ってやつだよ」
 馴れ馴れしく肩に手を回してくる萃香を振り払おうとしつつ――但し決して振り払うことは出来ず――、レミリアは言った。だが店主はこちらの声はもう聞かず、魔理沙が頼んだ追加注文の分を作りに厨房の方へと消えていく。完全に金蔓として認定されてしまったらしい。
「はあ……。もういいわ、何でも」
 諦念の溜め息と共に、レミリアは何としても話題を元に戻そうと心に誓った。冷製に思い返してみれば、実のところ屋敷を抜け出したところから何も進展していないように思えたのだ。
「とにかく私は仕事をしてお金を稼ぎたいのよ」
「結局、お前でもいきなり出来る仕事ってのがネックなんだよなあ。……そうだおっちゃん、この店でこいつ雇わないか?」
 魔理沙が不作法にこちらを指さしつつ、店主の男に尋ねている。が、厨房から顔だけ出した店主は平坦な声音で告げてきた。
「こんな小さい店に、人を雇うような余裕も仕事も無いぞ」
 あっさり言われてしまう。実際その通りだとも思うので何も返せなかった。元々期待していたわけではないのだが。
「そもそもあの屋敷がお金に困ってるようには思えないんだけどねぇ」
 隣で酒を飲みつつ萃香が言う。
「単に私がアルバイトをしたいだけよ。……ていうかよく考えてみれば、あなたその瓢箪があるならお酒なんてお店で飲まなくてもよかったんじゃないの」
 彼女の持つ瓢箪は、無限に酒が湧いてくるという不可思議なものである。わざわざ店で金を払う必要もないはずなのだが。
 萃香は大笑いしながら、体をこちらへとすり寄らせてきた。いつものことではあるが、良い気分で酔っているらしい。
「だって、つまみが無いんじゃ酒の味も半減だろう? 天界は桃以外の食べ物が無いし、ついでに酒だっていろんな種類のものが飲みたいからねぇ」
 そう言って、甘えるように体を揺らす。それをはね除けようとしつつ――但しびくともしない――、レミリアは悲鳴に近い声を上げた。
「ちょっと、角が刺さるからやめなさいって」
 ほろ酔い状態の萃香は聞こうとはしてくれない。
「いいじゃないの。酔いが覚めるようなことは言わないようにしてさ。鬼同士仲良くしようよ」
「うーん、まだちょっと足りないなあ。おっちゃん、材料残ってる?」
(……厄日かしら、今日)
 役に立たない魔法使い。泥酔状態の鬼。一人、何も出来ない自分。
 げんなりした気分で、レミリアは己の不幸を嘆くしかなかった。

「……何で私が払うのかしら」
 一般の飲食店とは思えない莫大な金額を支払わされたレミリアは、今日一番と思われる深い溜め息をついた。満腹になったのか、上機嫌そうな魔理沙が明るく声を掛けてくる。
「まあまあ。私への報酬だと思えばいいじゃないか」
「まだ何の役にも立ってないじゃないの」
 早くしないと日が暮れてしまう。少しだけ焦りが生まれた心の中を鎮めつつ、レミリアは日傘を開いて店の扉を開けた。中天は過ぎたものの、まだ太陽の光は地上に降り注いでいる。日陰の多い路地裏に感謝しつつ店を出て――レミリアはすぐに足を止めた。
「…………」
「…………」
 二つの沈黙が、そこにあった。先程の二人組の妖怪が店の脇に屈み込んでいる。手には、抜き身の刀と棍棒をそれぞれ持っていた。
 念のため、質問を投げかけてやる。
「あなたたち、何をしているのかしら」
「…………」
「…………」
 二人は何も答えなかった。目を見開き、顔を強張らせた状態で両者共に沈黙している。と、レミリアを押しのけるようにして店から出てきた魔理沙が、暢気な声を出した。
「おー、闇討ちの物真似か? そんなんじゃ火力が足りない気もするけどな」
 その一言で妖怪二人が脱兎の如く駆け出した。が、レミリアから見れば遅すぎる。彼らが走り出したのを見てから、レミリアは日傘を持ったままで動き出した。二人の内、僅かにスピードに劣る方の首根っこを捕まえ、力任せに引きずり倒す。俯せに倒れた男のふくらはぎを踏み抜くと、レミリアはすぐに視線を前方へと向けた。仲間を見捨てて走るもう一人の男とは、今ので距離が開いてしまっている。だが、レミリアはその場で静かに右手を掲げた。
「ナイトダンス」
 声に応えて、発現した二条の赤い針が撃ち出される。正確な狙いを維持して高速で飛ぶその赤針は、逃走していた男の右足を貫いた。かなりの距離があったが、男の悲鳴はこちらまで届いてくる。
「魔理沙、あいつをここまで連れてきなさい」
「おう、引き受けたぜ。満腹だから丁度良い運動だな」
 魔理沙が連行してきてからも、男は痛みに呻いたままだった。最初に踏み付けられた男の方の足も、レミリアの靴底が完全に貫通したため似たような状態である。
 痛みで立ち上がることすら出来なくなっている二人を尋問するため、レミリアは傘を持ったまま屈み込んだ。以前、アームチェア・ディテクティブに挑戦しようとして、失敗したことを思い出す。あの時は、賢者を気取る妖怪に説教されてしまったので、今回こそは上手くやらねばと思いながら。
 レミリアは質問した。
「今、何をしようとしていたのか言える?」
 わざわざ聞かずとも、答えはおよそ想像が付いていたが。二人がうめき声を上げる。
「昼間ならどうにか出来ると思って……」
「……でも準備が出来ていない段階で出てくるなんて」
 浅はかさを哀れむしかない。レミリアは二人に言ってやった。
「私に喧嘩を売ろうというのなら、太陽を直接持ってくるぐらいはしないと駄目よ」
「そんなもの勝手に持ち出されたらみんなが困るよ。また新しい温泉が湧いちゃうかもしれないし」
 いつの間に店から出てきたのか、萃香が横から茶々を入れてくる。
「どうするんだ、こいつら」
「そうね。このまま磨り潰してやってもいいんだけど、それじゃ罪が軽すぎるかしら。ゴミも出るし」
 この発言で、男二人はかなり怯えている。
 妹の部屋にでも放り込んでしまえばいいかと思っていると、後ろから声を掛けられた。
「まあ今回はそれぐらいにしといてやってはくれんか。一応うちの常連でもあるんでな」
 振り向くと、先程の店の店主だった。
「二人とも悪い奴じゃないんだ。多少チンピラじみたところはあるが……次からは、もし嬢ちゃんを見かけても、通り過ぎるまで土下座し続けるぐらいには反省しているさ」
 二人が、ぶんぶんと首を縦に振る。レミリアは興味を失って、片手を腰に当てた。
「まったく、アルバイト探しで忙しいのに」
「それなんだがね、嬢ちゃん」
 店主はこちらに、小さな包みを手渡してきた。受け取って中身を覗くと、子供の小遣い程度の額ではあるが、現金が入っている。
「……なに、これ」
「迷惑料代わりの、バイト代ってことでどうだい」
「別に、働いた覚えはないんだけど」
「用心棒ってやつさ。店で暴れようとした莫迦な不埒者を懲らしめてくれただろう? その仕事で受け取った賃金だと思えばいい。嬢ちゃんは金が欲しかったわけじゃないんだろうが、取り敢えずこれも自分で稼いだ立派な金だと思うがね」
「それなら歴としたバイト代だねぇ」
 横で、萃香が満足そうに頷いている。魔理沙は、
「どちらかというと保釈金な感じもするけどな」
 などと言っているが。
「まあ、想定していたのとはちょっと違うけど、自分で稼いだお金ということならこれもいいかしら……」
 まだ少し不承不承ではあるものの、現金の入った包みを仕舞うことにする。
「お金を稼ぐのってとても大変なのね」
 思い知らされた現実に疲れ、レミリアは呟いた。
 箒を担ぎ直しつつ、魔理沙が言ってくる。
「なんだかよく分からないうちに仕事を一つ完遂したみたいだし、私はもう帰っても良いのか?」
「……そうね、ありが――」
 言いかけて、レミリアは言葉を止めた。代わりに全く別のことを口にする。
「あなた、里には詳しいのよね?」

「お嬢様ぁぁぁぁぁぁっ!!」
 屋敷の廊下を全力ダッシュして飛び込んできた咲夜を、右へ跳んで躱す――が、次の瞬間には、その咲夜に正面から抱きかかえられていた。メイド服の生地に触れられた翼がくすぐったく、レミリアは抗議の声を出した。
「ちょっと咲夜、羽がくすぐったいから離して! あと今時間停めたわね、反則よ!」
 顔をすりすりと触れさせてくる咲夜を、どうにか力尽くで引き剥がす。萃香のような怪物と比べれば貧弱と言っても差し支えない相手だが、かといって全力が出せるわけでもない。流石に咲夜の体を潰してしまうわけにはいかなかった。
 ようやく人心地ついて、レミリアは大きく息を吐き出した。今の攻防でどうにかなっていないか、手荷物を確認する。どうやら無事らしい。
 咲夜もようやく気が落ち着いてきたらしい。両膝を付いて、こちらと視線の高さを合わせる。
「捜したのに全然見つからなかったから心配しましたよー」
「そりゃ隠れたんだから見つからないでしょう」
「いや、別に私はそんな哲学的な話をしてるわけじゃないんですが……」
「それに私は一人じゃ何も出来ない無能ではないつもりだけど」
「お嬢様一人じゃ、どんな虐殺とかしちゃうか分からないから心配したんです」
「…………」
 それについては少しだけ思い当たる節もあったので、黙っておく。もっともあの場合は向こうの方が悪かったわけで、こちらに非は無いのだが。
 咲夜は心の底から疲れたように、溜め息混じりの言葉を絞り出した。
「今日は何なんですかね。レミリアお嬢様だけでなく、妹様まで様子がおかしくて」
「私、どこかおかしかった?」
「アルバイトがしたいなんて言って家を飛び出すなんて、普段のお嬢様からでは考えられませんよ」
 言って、咲夜は立ち上がった。こちらの荷物を預かろうとした彼女に、レミリアは質問する。
「フランはどうかしたの? あの子がちょっと変なのはいつもだと思うんだけど」
 正確には変と言うよりは、情緒不安定なだけだが。
 これまでは幽閉同然の生活をしてきたフランドールだが、最近は屋敷の中を彷徨くようになっている。流石に外に出すのはまだ危険だろうが、屋敷内で生活するのに不自由しない程度には、妹の精神も安定していた。精神的な発作も、この頃は殆ど落ち着いているはずである。
 だが咲夜は何か恐ろしいことを思い出したかのように身震いすると、こちらの想像とは全く別の答えを返してきた。
「いいえ、何というか、変さのジャンルが違いまして……」
「ジャンル?」
「あの後、お嬢様を捜しに私も里へ下りたのですが、見つけられなくて。万が一戻ってきていたらと思い屋敷に帰ってきたのがつい先程で、そのときに……」
「どうしたのよ」
「妹様が笑顔で突然、私の肩揉みをする、などと言い出したので……」
「うわ」
 余程恐ろしかったのか、咲夜は両腕を抱え込むようにして震えている。確かにフランドールの握力――と、ついでに不安定な精神状態――で肩揉みなどされれば、下手をすれば肉体そのものをズタズタに引き裂かれてしまいかねない。下手をせずとも両腕が肩から千切られるだろう。吸血鬼のような再生能力を持たないただの人間である咲夜にしてみれば、それはかなり恐ろしかったに違いない。レミリアも納得して、思わず同情の首肯を繰り返す。
(でも……)
 同情すると同時に、別のところにも納得した。そのことは言葉にはせず、胸の中で呟くだけにしておく。
(あの子はそういう方法にしたか)
 どのタイミングで話を聞いたのか、ある程度は想像が付く。何せフランドールはこの屋敷から出たことがないのだから。
 そんなこちらの思考など全く知らないであろう咲夜が、聞かせるわけでもなく呟いている。
「……いったい今日は何なんですか」
「あら、やっぱり知らなかったのね、咲夜は」
「はい……?」
 レミリアは手にしていた買い物袋を、咲夜へと差し出した。理解が出来ないのかぱちぱちと瞬きを繰り返す彼女に説明してやる。
「外から来た緑色の巫女が、こないだこの館に挨拶に来たとき聞いたのよ。この幻想郷には無い外の世界の習慣とか、行事とかの話」
「はぁ……」
 言いながら、咲夜はおずおずした様子で袋を受け取った。わけが分からないらしい。
 レミリアは続けた。
「フランもそのとき、あの巫女から同じ話を聞いてたみたいね。――咲夜、開けてみなさい」
 言われて、咲夜はその言葉に従った。手提げ袋の中から、綺麗にラッピングされた紙袋を取り出し、リボンの結び目を片手だけで器用に解く。
 袋の中を覗き込んで、彼女は少しばかり驚いたようだった。顔をこちらに向けて、
「お嬢様、これ……」
「その銘柄の紅茶が好きだと、あなた以前言ってたでしょ? 稼いだお金ギリギリの量を買ったんだけど……ちょっと少ないかもしれないわね」
 魔理沙に案内させた茶葉の店で量り売りをしてもらったのだ。咲夜は呆然と口を開いた。
「ありがとうございます……。でも、どうして私に……? 別に私、今日が誕生日とかではないですけど」
 呆気にとられた咲夜の顔が面白く、レミリアはくすくすと笑った。彼女の横を通り過ぎ、廊下を歩き出す。何も説明しようとしないこちらを止めるように、咲夜が言ってきた。
「ちょっと、お嬢様っ。どうしてなのか教えてくださいよっ!」
 レミリアは敢えて振り向かずに、背中越しで告げた。
「外の世界では春から梅雨に入るまでの時期に、お祝い事の日があるらしいのよ。普段身の回りの世話をしてくれている相手に、お礼の意味を込めてプレゼントを贈るの」
「はぁ……」
「その条件で行くと、私にとっては咲夜がその相手でしょう? だから受け取っておきなさい」
「ええと……ありがとう、ございます」
「本当は私の方がお礼を言う立場になる日なんでしょうけどね」
 微笑しつつも、レミリアは振り向かなかった。今振り向けば、気恥ずかしさで赤らんだ頬を見られてしまうだろう。
「咲夜」
「は、はいっ」
「……これからもよろしくね」

 それは『母の日』というものらしい。

 完
普段二次創作なんてしないので、台詞回しなどでかなり苦労した作品。
読みづらかったらごめんなさい
緑黄色野菜王
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コメント



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×麗夢
○霊夢
8.無評価名前が無い程度の能力削除
普通につまらない
10.70名前を名乗る必要が無い程度の能力削除
これはこれでステキだと思います
11.100名前が無い程度の能力削除
うむうむ
13.80煉獄削除
少し読みづらい場所もありましたけど、「母の日」ということで咲夜さんへお礼をしたいと
フランが肩揉みをすると言ったり、レミリアは咲夜さんが好きだという銘柄の紅茶を買うために
バイトをしたいと、それぞれ行動したのが良かったです。
そして頬を赤らめるレミリア可愛いですね……。
14.90名前が無い程度の能力削除
面白かった
次も期待~
17.70名前が無い程度の能力削除
母の日を題材にしたところはおもしろかったですが、若干テンポが・・・。
でもそれを抜いてもよかったです。
19.70名前が無い程度の能力削除
読んでいて、秋田偵信氏の作風を連想しました
個人的な意見では、決して読みづらくはなかったです
ただ、良くも悪くもSSらしからぬ作風ではあるな、と感じました
おぜうさまはかわいらしく、かつカリスマもちょっと垣間見れて好印象でした
23.80名前が無い程度の能力削除
面白かったんだぜ
28.70名前が無い程度の能力削除
もっと評価されるべき