紅魔館のキャラに独自の解釈が含まれます。(主にフラン)
それでも大丈夫という方のみどうぞ。
「ふぁ~」
間の抜けた声が部屋に響いた。
ここは紅魔館の地下にある一角、フランドールが暮らしている部屋。
眠い頭をゆっくりと持ち上げ、ベットの上に座る。
「うぅ、今何時だろう」
周りを見ても壁だらけ、彼女に時間を知る術は無い。
咲夜が起こしにくるのが大体卯二つ時なので、それよりは早いのだろう。
ボーっとした頭でそんなことを考える。
「仕方ない、顔を洗いにいこう」
ゆっくりと、絡みつくベットの誘惑から抜け出した。
洗面所は館の一階にある。
「ここに戻ってきてもすることがないから、そのままお散歩でもしようかな」
いつのまにかクローゼットに入っていた普段の服に着替えたフランドールは上に向かった。
※ ※ ※
地下から階段を上ると館の通路に出る。
相変わらず地下とは違って一面ピカピカに磨き上げられ、上を見ても下を見ても赤一色。
ここまで赤一色だと逆に芸術性を感じるのは何故だろうか。
閉められていたカーテンを開けてチラッと窓の外を見ると空が白みがかっていた。
「もう日は出てるんだ」
とすると咲夜は今頃厨房で朝食を作っているはず。
散歩する時間も無さそうなので、顔を洗ったら厨房に向かってみるのもいいかもしれない。
「もしかしたらつまみ食いできるかも」
……羽がパタパタしている。
「おはようございます。妹様」
後ろから急に声をかけられた
ハッとして振り返ると美鈴が微笑みを向けていた。
「おはよう、めーりん」
「随分とご機嫌なようですが…、なにか嬉しいことがあったんですか?」
「べ、別に何でもないよ。それよりめーりんはなんでこっちに来てるの?」
「あぁ、それは今日は朝からお仕事なので私が妹様を起こしに行こうかと思ったんですが……必要なかったみたいですね」
「めーりんが起こしに来てくれるんなら起きなくてもよかったかも」
「はは、ありがとうございます」
「んー、それじゃあ顔を洗ってくるから…、あの…、昼になったら遊んでくれないかな」
「…わかりました。昼食を食べた後にお部屋に覗いますね」
「約束だよー」
やった。
朝からめーりんと遊ぶ約束ができた。
いつもは突然行ってめーりんを困らせてるからなぁ。
それでもめーりんは私が遊ぼうって言って断られたことはないんだけどね。
ウキウキ気分のまま洗面所に向かい、洗顔や歯磨きをさっさと終わらせる。
でも歯は丁寧に磨くことをちゃんと忘れない。
身支度を整え終わったら厨房に向かう。
厨房では咲夜が一人で忙しそうに料理を作っていた。
「咲夜ー、おはよう」
「妹様、おはようございます。申し訳ありませんが朝食はもう少しお待ちいただきたいのですが…」
「うん、ただ飲み物が欲しいなって」
「紅茶でよろしいでしょうか?」
「うん。食堂にいるから用意してくれるかな」
「かしこまりました。すぐにお届けします」
「お願いねー」
忙しそうだったので邪魔にならないようにすぐに厨房を出る。
つまみ食いできなかったなぁ。
少し残念に思いながら食堂に入ると、既にパチュリーが本を片手に紅茶を飲んでいた。
「おはよう、パチュリー」
顔を上げない…。
…
……
あっ、返事が返ってきた。
「…おはよう、今日は早いのね」
「うん、なんだか目が覚めちゃったんだ。パチュリーはいつもこの時間には起きてるの?」
「ええ。そもそも魔女には睡眠が必要ないからずっと起きてることもあるのだけどね」
「何時も思うんだけど寝なくて辛くないの?」
「ええ」
「うらやましいなぁ。私なんか夜にはすぐに眠くなっちゃうよ」
「子供はいっぱい遊んで夜は早く寝るのが一番よ」
「むぅ~、もう子供じゃないもん」
「はいはい」
相変わらず軽くあしらわれてしまった。
パチュリーと軽口を言い合って勝てたことは一度も無い。
話が一区切りしたところで咲夜が紅茶を持ってきた。
なんでこうも良いタイミングで持ってこれるのだろうか。
さすがは瀟洒なメイド長だ。
「どうぞ」
咲夜がフランドールの前に、一切の音も立てずに紅茶を置く。
手馴れた手つきに改めて感心する。
「ありがとう。…これは何?」
「早く起きた妹様に咲夜からのプレゼントです。昨日作ったクッキーなのですが、お食事の前なので少しだけ」
「すごい…。おいしそう」
「パチュリー様もどうぞ」
二人はクッキーを手に取る。
一口サイズの暖かいクッキーからは、甘そうな香りが立ち込めている。
まるで作りたてのようだ。
たぶん作った後にクッキーの時間を止めていたのだろう。
相変わらず便利な能力である。
「それじゃあ頂きます」
「どうぞ」
クッキーを口の中に入れる。
ゆっくりと噛むと口の中に甘みが広がるが、決して鬱陶しいものではない程よい甘さ。
ずっと咀嚼していても飽きずに食べていられそうだ。
「おいしい…。」
「ありがとうございます」
咲夜が微笑む。
置いてあった紅茶を一口飲む。
咲夜がブレンドしてくれた紅茶だ。
咲夜は好みやその日の気分に合った紅茶を作ってくれる。
今日は機嫌が良いのもお見通しなのか、口当たりの良いさっぱりとした香りとなっていた。
そんな朝のティータイムを楽しんでいたら、お姉さまが食堂の扉を開いて入ってきた。
「おや、今日はフランよりも遅かったようね」
「おはようございます、お姉さま」
「おはよう、フラン」
レミリアは微笑を浮かべながら答え、自分の定位置に座る。
「パチェもおはよう」
「…おはよう、レミィ」
「おはようございます、お嬢様。すぐに朝食の準備を致します」
「おはよう咲夜。早くしてね」
「畏まりました」
そう言うやいなや咲夜の姿は消え失せ、気付けばテーブルに料理が並んでいる。
もう見慣れた光景ではあるが、やっぱり凄いと思う。
「それじゃあ頂きましょうか」
「うん、頂きます」
「頂きます」
姉と友人と共に食べる朝食は久しぶりだった。
いつもは咲夜に起こされて、部屋まで料理を持ってきてもらう事が多いから。
久々の皆での食事は、決して会話が多いものじゃなかったけど、暖かくて心地良い食事だった。
「さて、ごちそうさまね」
「相変わらずレミィは小食ね」
「仕方ないじゃない、食べられないんだから。ところでフラン、今日の夜久しぶりに一緒にお茶でも飲まないかしら? 今まで誘うタイミングが無かったのだけれど」
「わかった。それじゃあ夜になったらお姉さまの部屋に行くね」
「そうしてちょうだい。それじゃあまた後でね」
「はーい」
レミリアが去った食堂では、食べ終わるまでパチュリーとフランドールが黙々と朝食を食べていた。
食後は咲夜が淹れてくれた紅茶を飲みながら食休み。
パチュリーは早々に図書館に引き上げてしまったが、出て行くときに
「暇だったら図書館に来なさい。いい本が手に入ったの。気に入るんじゃないかと思うわ」
と言っていた。
…昼からめーりんに遊んでもらう約束をしてるけど…まだ時間があるし、行ってみようかな。
「咲夜ー、ごちそーさまー」
何も無い空間に声を投げかけると、気付いた時にはティーセットは片付けられていた。
※ ※ ※
天井まで届きそうな扉をノックすると、中から小悪魔が顔を出した。
「妹様、お待ちしていました。どうぞ中に」
小悪魔に案内されて本の迷路の中を進む。
しばらく歩くと大きな机と椅子に不釣合いに座っているパチュリーが見えてきた。
「来てくれたのね、どうぞ座って」
そういってパチュリーが手招きすると、隅から椅子が飛んできた。
フランドールがそこに腰掛けると、小悪魔が飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとう」
フランドールがそういうと、小悪魔は一つ礼をして、本棚の間に引っ込んでいった。
自分の仕事に戻るのだろう。
「それで?おススメの本って?」
「これよ。外の世界で人気があるファンタジーのノベル」
「えっと…、ハ○ーポッターと賢者の石」
「他にもシリーズがあるわ」
「これを私に?」
「えぇ、貴方ファンタジーが好きでよく借りていくでしょう」
「うん。ストーリーの中に入っていけるみたいで好きだよ。でもどうして手に入れられたの?」
「山の上に外から神社が引っ越してきたのは知ってるわよね。そこから魔理沙が盗んできたらしいわ」
「ふーん」
一応言っておくが盗難は犯罪である。
死ぬまで借りるぜも無しだ。
今更あの白黒に突っ込む気も無いけど。
「ありがとう。読ませてもらうね」
「ええ、できれば今度感想も聞かせて頂戴」
「わかった」
その後も二人はいろいろな本について話を交えた。
もともと本好きだったフランドールは今まで引きこもりがちだったこともあり、案外本に関する知識は多い。
気付けば昼食の時間になっていた。
「そろそろお昼だけどパチュリーは食べないの?」
「私はもう少し本の執筆がしたいから後で食べるわ」
「そう。じゃあもう行くね」
「えぇ、また何時でも来なさい」
「ありがとう。小悪魔さんも飲み物ごちそうさまでしたー!」
本棚に向かって叫ぶと、遠くから返事が聞こえてきた。
「どういたいましてー!」
借りた本を片手にフランドールは食堂に向かった。
食堂では休憩時間の美鈴が昼食を食べていた。
※ ※ ※
二人で昼食を食べた後、すぐにフランドールの部屋に向かった。
美鈴の手には咲夜特製クッキーと紅茶が乗せられている。
部屋に着いた二人は紅茶を飲みながら談笑をしていた。
「めーりん、門番のお仕事はどう?」
「大変ですけど楽しいこともありますよ。今日も湖の妖精や妖怪たちが遊びに来ましたし」
「それって大丈夫なの?」
「ええ、彼女たちは問題ありません。そうだ!今度みんなに妹様を紹介しますよ」
「えぇ、いいよう。怖いもん」
「大丈夫です。妹様ならきっと友達になれますよ」
「そうかなぁ」
「大丈夫ですって。みんな良い子達ですし」
しばらくは嫌がっていたフランドールだが、美鈴の説得によって会うことを決めた。
フランドールと彼女達の出会いはもっと先のお話になる。
美鈴と過ごす時間は矢のように過ぎ去っていく。
昔から一緒に暮らしている美鈴は、その天性の大らかな性格からかフランドールはもっとも心を許している存在だった。
気付けば美鈴が門に戻らなくてはいけない時間である。
「そろそろ門番の仕事に戻らないと」
「そっか…。それじゃあ仕方ないね。今日はありがとう」
「いえ、こちらこそ楽しかったですよ」
「また一緒に遊んでくれるよね?」
「ええ、もちろんです」
それを聞いたフランドールは嬉しそうに笑うのだった。
※ ※ ※
美鈴が去った後、フランドールは食堂へ向かった。
夕食までまだ時間はあるのだが、借りてきた本を食堂で読もうと思ったからである。
自分の部屋は殺風景でどうも集中できないのだ。
食堂の扉を開けると咲夜が夕食の準備をしていた。
「妹様、いかがなさいましたか?」
「別にこの本を読もうと来ただけだけど…邪魔かな?」
「別にかまいませんよ。ただ準備の方だけは進めさせて頂きますね」
「わかった」
自分の席に座りページをめくるが、咲夜の様子が気になって集中できない。
相変わらず咲夜の仕事は速い。
てきぱきと仕事をこなす様はまさに完全で瀟洒なメイドだ。
「咲夜は凄いね」
「?」
「どうしてそんなに仕事が上手なの?」
「それは…、ここに来たばかりの頃、お役に立てるよう必死に覚えましたから」
「仕事は美鈴から教わったんだよね」
「えぇ、何もわからなかった私に優しく教えてくれました」
「今じゃ咲夜の方が上手いけどね」
「あの子は何時もどこか抜けているところがありますからねぇ。さて、お食事の用意が整いましたがご用意致しましょうか?」
「うん、お願い」
テーブルの上に一瞬にして料理が並べられる。
どれも美味しそうな香りをたてていて、食欲をわきたてる。
「それじゃあ頂きます」
料理はどれも美味しかった。
咲夜に「ご馳走様」を言い、自分の部屋に戻る。
部屋に着いたら満腹感が包む体を、ベッドの上で休ませる。
幸福感で意識がまどろむ中、フランドールは体を這い起こした。
これから姉との大事な約束がある。
乱れた服を直し、洗面所でだらけた顔を洗う。
準備万端。
フランドールは姉の部屋へ向かった。
※ ※ ※
「入りなさい」
扉をノックしようとしたら、中から声が聞こえてきた。
相変わらずの姉の能力にビックリしながらも、ドアを開ける。
「遅かったじゃないの。まあいいわ、座りなさいな」
テラスに出て、姉の隣の椅子に座る。
机にテーカップが二つ置いてあった。
「今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、ご招待ありがと」
「こうやって二人でお茶を飲むのも久しぶりね」
「そうだね」
僅かな沈黙が支配する。
体を撫ぜる夜風がひんやりとしていて気持ちいい。
先に沈黙を破ったのはレミリアだった。
「最近はよく館の外に興味を持っているそうね」
「うん。魔理沙や美鈴から話を聞いているうちにね。だって楽しそうなんだもん」
「フランは貴方を閉じ込めていた私を恨んでいるかしら?」
「ううん、恨んでなんかいないよ。どうして恨まなきゃいけないの?」
「地下での生活はつまらなかったでしょう」
「確かにつまらなかったけど…。私がお姉さまを嫌いになんかならないよ」
「ふふ、ありがとう」
レミリアはティーカップに口をつける。
それを見たフランドールも紅茶を飲む。
「おいしいわね」
「そうだね」
「……ねぇ、フラン。今度一緒にピクニックにでもいきましょうか」
急な誘いに思考が止まる。
慌ててフランドールは返事を返した。
「え?でも館から出ちゃいけないんじゃ…」
「ここは幻想郷よ。貴方を閉じ込めておく必要はもう無いでしょう。まだ一人で外に出させるわけにはいかないけどね」
「お姉さま…。うん、ピクニック行きたい。皆と一緒に」
「そうね。みんなで一緒に」
今までは考えもしなかった。
皆と一緒にピクニックに行く。
考えただけでも心が躍りだす。
ふと夜空に浮かぶ月に目を向けた。
真っ暗な夜空の真ん中に浮かぶ月は、今まで見たことがないほど輝いているように見えた。
その後も二人はティータイムを楽しむ。
久しぶりの姉妹二人きりのティータイムにフランドールは心地よさを覚える。
ふとフランドールが欠伸をした。
「おや、眠いのかしら?」
「うん…。今日は朝から色々なことがあったから」
「そうね…。それじゃあ寝ましょうか。ほら、フラン。ベッドにいきましょう」
「え?でも…」
「いいじゃない。たまには一緒に寝ましょうよ」
レミリアは普段着を脱ぐとベッドの上に座ってぽんぽんと隣を叩く。
後を追ってフランドールもベッドに飛び込んだ。
「二人で寝るのも久しぶりね」
「うん」
姉の手を握ると、頭を抱きしめられた。
顔が胸の中に納まる。
久しぶりの姉の香りと温もりに包まれながら、眠りへと沈んでいく意識の中フランドールは姉の囁きを聞いた。
「おやすみなさい、フラン」
それは長らく聞いていなかった言葉。
たった一人の家族であるからこそ、その言葉はフランドールの体に染みこんでいった。
幸福な気持ちに包まれたまま、フランドールの意識はそこで途切れた。
翌朝ベッドの近くでメイド長が血まみれで倒れていた所を発見されるのは、また別のお話である。
それでも大丈夫という方のみどうぞ。
「ふぁ~」
間の抜けた声が部屋に響いた。
ここは紅魔館の地下にある一角、フランドールが暮らしている部屋。
眠い頭をゆっくりと持ち上げ、ベットの上に座る。
「うぅ、今何時だろう」
周りを見ても壁だらけ、彼女に時間を知る術は無い。
咲夜が起こしにくるのが大体卯二つ時なので、それよりは早いのだろう。
ボーっとした頭でそんなことを考える。
「仕方ない、顔を洗いにいこう」
ゆっくりと、絡みつくベットの誘惑から抜け出した。
洗面所は館の一階にある。
「ここに戻ってきてもすることがないから、そのままお散歩でもしようかな」
いつのまにかクローゼットに入っていた普段の服に着替えたフランドールは上に向かった。
※ ※ ※
地下から階段を上ると館の通路に出る。
相変わらず地下とは違って一面ピカピカに磨き上げられ、上を見ても下を見ても赤一色。
ここまで赤一色だと逆に芸術性を感じるのは何故だろうか。
閉められていたカーテンを開けてチラッと窓の外を見ると空が白みがかっていた。
「もう日は出てるんだ」
とすると咲夜は今頃厨房で朝食を作っているはず。
散歩する時間も無さそうなので、顔を洗ったら厨房に向かってみるのもいいかもしれない。
「もしかしたらつまみ食いできるかも」
……羽がパタパタしている。
「おはようございます。妹様」
後ろから急に声をかけられた
ハッとして振り返ると美鈴が微笑みを向けていた。
「おはよう、めーりん」
「随分とご機嫌なようですが…、なにか嬉しいことがあったんですか?」
「べ、別に何でもないよ。それよりめーりんはなんでこっちに来てるの?」
「あぁ、それは今日は朝からお仕事なので私が妹様を起こしに行こうかと思ったんですが……必要なかったみたいですね」
「めーりんが起こしに来てくれるんなら起きなくてもよかったかも」
「はは、ありがとうございます」
「んー、それじゃあ顔を洗ってくるから…、あの…、昼になったら遊んでくれないかな」
「…わかりました。昼食を食べた後にお部屋に覗いますね」
「約束だよー」
やった。
朝からめーりんと遊ぶ約束ができた。
いつもは突然行ってめーりんを困らせてるからなぁ。
それでもめーりんは私が遊ぼうって言って断られたことはないんだけどね。
ウキウキ気分のまま洗面所に向かい、洗顔や歯磨きをさっさと終わらせる。
でも歯は丁寧に磨くことをちゃんと忘れない。
身支度を整え終わったら厨房に向かう。
厨房では咲夜が一人で忙しそうに料理を作っていた。
「咲夜ー、おはよう」
「妹様、おはようございます。申し訳ありませんが朝食はもう少しお待ちいただきたいのですが…」
「うん、ただ飲み物が欲しいなって」
「紅茶でよろしいでしょうか?」
「うん。食堂にいるから用意してくれるかな」
「かしこまりました。すぐにお届けします」
「お願いねー」
忙しそうだったので邪魔にならないようにすぐに厨房を出る。
つまみ食いできなかったなぁ。
少し残念に思いながら食堂に入ると、既にパチュリーが本を片手に紅茶を飲んでいた。
「おはよう、パチュリー」
顔を上げない…。
…
……
あっ、返事が返ってきた。
「…おはよう、今日は早いのね」
「うん、なんだか目が覚めちゃったんだ。パチュリーはいつもこの時間には起きてるの?」
「ええ。そもそも魔女には睡眠が必要ないからずっと起きてることもあるのだけどね」
「何時も思うんだけど寝なくて辛くないの?」
「ええ」
「うらやましいなぁ。私なんか夜にはすぐに眠くなっちゃうよ」
「子供はいっぱい遊んで夜は早く寝るのが一番よ」
「むぅ~、もう子供じゃないもん」
「はいはい」
相変わらず軽くあしらわれてしまった。
パチュリーと軽口を言い合って勝てたことは一度も無い。
話が一区切りしたところで咲夜が紅茶を持ってきた。
なんでこうも良いタイミングで持ってこれるのだろうか。
さすがは瀟洒なメイド長だ。
「どうぞ」
咲夜がフランドールの前に、一切の音も立てずに紅茶を置く。
手馴れた手つきに改めて感心する。
「ありがとう。…これは何?」
「早く起きた妹様に咲夜からのプレゼントです。昨日作ったクッキーなのですが、お食事の前なので少しだけ」
「すごい…。おいしそう」
「パチュリー様もどうぞ」
二人はクッキーを手に取る。
一口サイズの暖かいクッキーからは、甘そうな香りが立ち込めている。
まるで作りたてのようだ。
たぶん作った後にクッキーの時間を止めていたのだろう。
相変わらず便利な能力である。
「それじゃあ頂きます」
「どうぞ」
クッキーを口の中に入れる。
ゆっくりと噛むと口の中に甘みが広がるが、決して鬱陶しいものではない程よい甘さ。
ずっと咀嚼していても飽きずに食べていられそうだ。
「おいしい…。」
「ありがとうございます」
咲夜が微笑む。
置いてあった紅茶を一口飲む。
咲夜がブレンドしてくれた紅茶だ。
咲夜は好みやその日の気分に合った紅茶を作ってくれる。
今日は機嫌が良いのもお見通しなのか、口当たりの良いさっぱりとした香りとなっていた。
そんな朝のティータイムを楽しんでいたら、お姉さまが食堂の扉を開いて入ってきた。
「おや、今日はフランよりも遅かったようね」
「おはようございます、お姉さま」
「おはよう、フラン」
レミリアは微笑を浮かべながら答え、自分の定位置に座る。
「パチェもおはよう」
「…おはよう、レミィ」
「おはようございます、お嬢様。すぐに朝食の準備を致します」
「おはよう咲夜。早くしてね」
「畏まりました」
そう言うやいなや咲夜の姿は消え失せ、気付けばテーブルに料理が並んでいる。
もう見慣れた光景ではあるが、やっぱり凄いと思う。
「それじゃあ頂きましょうか」
「うん、頂きます」
「頂きます」
姉と友人と共に食べる朝食は久しぶりだった。
いつもは咲夜に起こされて、部屋まで料理を持ってきてもらう事が多いから。
久々の皆での食事は、決して会話が多いものじゃなかったけど、暖かくて心地良い食事だった。
「さて、ごちそうさまね」
「相変わらずレミィは小食ね」
「仕方ないじゃない、食べられないんだから。ところでフラン、今日の夜久しぶりに一緒にお茶でも飲まないかしら? 今まで誘うタイミングが無かったのだけれど」
「わかった。それじゃあ夜になったらお姉さまの部屋に行くね」
「そうしてちょうだい。それじゃあまた後でね」
「はーい」
レミリアが去った食堂では、食べ終わるまでパチュリーとフランドールが黙々と朝食を食べていた。
食後は咲夜が淹れてくれた紅茶を飲みながら食休み。
パチュリーは早々に図書館に引き上げてしまったが、出て行くときに
「暇だったら図書館に来なさい。いい本が手に入ったの。気に入るんじゃないかと思うわ」
と言っていた。
…昼からめーりんに遊んでもらう約束をしてるけど…まだ時間があるし、行ってみようかな。
「咲夜ー、ごちそーさまー」
何も無い空間に声を投げかけると、気付いた時にはティーセットは片付けられていた。
※ ※ ※
天井まで届きそうな扉をノックすると、中から小悪魔が顔を出した。
「妹様、お待ちしていました。どうぞ中に」
小悪魔に案内されて本の迷路の中を進む。
しばらく歩くと大きな机と椅子に不釣合いに座っているパチュリーが見えてきた。
「来てくれたのね、どうぞ座って」
そういってパチュリーが手招きすると、隅から椅子が飛んできた。
フランドールがそこに腰掛けると、小悪魔が飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとう」
フランドールがそういうと、小悪魔は一つ礼をして、本棚の間に引っ込んでいった。
自分の仕事に戻るのだろう。
「それで?おススメの本って?」
「これよ。外の世界で人気があるファンタジーのノベル」
「えっと…、ハ○ーポッターと賢者の石」
「他にもシリーズがあるわ」
「これを私に?」
「えぇ、貴方ファンタジーが好きでよく借りていくでしょう」
「うん。ストーリーの中に入っていけるみたいで好きだよ。でもどうして手に入れられたの?」
「山の上に外から神社が引っ越してきたのは知ってるわよね。そこから魔理沙が盗んできたらしいわ」
「ふーん」
一応言っておくが盗難は犯罪である。
死ぬまで借りるぜも無しだ。
今更あの白黒に突っ込む気も無いけど。
「ありがとう。読ませてもらうね」
「ええ、できれば今度感想も聞かせて頂戴」
「わかった」
その後も二人はいろいろな本について話を交えた。
もともと本好きだったフランドールは今まで引きこもりがちだったこともあり、案外本に関する知識は多い。
気付けば昼食の時間になっていた。
「そろそろお昼だけどパチュリーは食べないの?」
「私はもう少し本の執筆がしたいから後で食べるわ」
「そう。じゃあもう行くね」
「えぇ、また何時でも来なさい」
「ありがとう。小悪魔さんも飲み物ごちそうさまでしたー!」
本棚に向かって叫ぶと、遠くから返事が聞こえてきた。
「どういたいましてー!」
借りた本を片手にフランドールは食堂に向かった。
食堂では休憩時間の美鈴が昼食を食べていた。
※ ※ ※
二人で昼食を食べた後、すぐにフランドールの部屋に向かった。
美鈴の手には咲夜特製クッキーと紅茶が乗せられている。
部屋に着いた二人は紅茶を飲みながら談笑をしていた。
「めーりん、門番のお仕事はどう?」
「大変ですけど楽しいこともありますよ。今日も湖の妖精や妖怪たちが遊びに来ましたし」
「それって大丈夫なの?」
「ええ、彼女たちは問題ありません。そうだ!今度みんなに妹様を紹介しますよ」
「えぇ、いいよう。怖いもん」
「大丈夫です。妹様ならきっと友達になれますよ」
「そうかなぁ」
「大丈夫ですって。みんな良い子達ですし」
しばらくは嫌がっていたフランドールだが、美鈴の説得によって会うことを決めた。
フランドールと彼女達の出会いはもっと先のお話になる。
美鈴と過ごす時間は矢のように過ぎ去っていく。
昔から一緒に暮らしている美鈴は、その天性の大らかな性格からかフランドールはもっとも心を許している存在だった。
気付けば美鈴が門に戻らなくてはいけない時間である。
「そろそろ門番の仕事に戻らないと」
「そっか…。それじゃあ仕方ないね。今日はありがとう」
「いえ、こちらこそ楽しかったですよ」
「また一緒に遊んでくれるよね?」
「ええ、もちろんです」
それを聞いたフランドールは嬉しそうに笑うのだった。
※ ※ ※
美鈴が去った後、フランドールは食堂へ向かった。
夕食までまだ時間はあるのだが、借りてきた本を食堂で読もうと思ったからである。
自分の部屋は殺風景でどうも集中できないのだ。
食堂の扉を開けると咲夜が夕食の準備をしていた。
「妹様、いかがなさいましたか?」
「別にこの本を読もうと来ただけだけど…邪魔かな?」
「別にかまいませんよ。ただ準備の方だけは進めさせて頂きますね」
「わかった」
自分の席に座りページをめくるが、咲夜の様子が気になって集中できない。
相変わらず咲夜の仕事は速い。
てきぱきと仕事をこなす様はまさに完全で瀟洒なメイドだ。
「咲夜は凄いね」
「?」
「どうしてそんなに仕事が上手なの?」
「それは…、ここに来たばかりの頃、お役に立てるよう必死に覚えましたから」
「仕事は美鈴から教わったんだよね」
「えぇ、何もわからなかった私に優しく教えてくれました」
「今じゃ咲夜の方が上手いけどね」
「あの子は何時もどこか抜けているところがありますからねぇ。さて、お食事の用意が整いましたがご用意致しましょうか?」
「うん、お願い」
テーブルの上に一瞬にして料理が並べられる。
どれも美味しそうな香りをたてていて、食欲をわきたてる。
「それじゃあ頂きます」
料理はどれも美味しかった。
咲夜に「ご馳走様」を言い、自分の部屋に戻る。
部屋に着いたら満腹感が包む体を、ベッドの上で休ませる。
幸福感で意識がまどろむ中、フランドールは体を這い起こした。
これから姉との大事な約束がある。
乱れた服を直し、洗面所でだらけた顔を洗う。
準備万端。
フランドールは姉の部屋へ向かった。
※ ※ ※
「入りなさい」
扉をノックしようとしたら、中から声が聞こえてきた。
相変わらずの姉の能力にビックリしながらも、ドアを開ける。
「遅かったじゃないの。まあいいわ、座りなさいな」
テラスに出て、姉の隣の椅子に座る。
机にテーカップが二つ置いてあった。
「今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、ご招待ありがと」
「こうやって二人でお茶を飲むのも久しぶりね」
「そうだね」
僅かな沈黙が支配する。
体を撫ぜる夜風がひんやりとしていて気持ちいい。
先に沈黙を破ったのはレミリアだった。
「最近はよく館の外に興味を持っているそうね」
「うん。魔理沙や美鈴から話を聞いているうちにね。だって楽しそうなんだもん」
「フランは貴方を閉じ込めていた私を恨んでいるかしら?」
「ううん、恨んでなんかいないよ。どうして恨まなきゃいけないの?」
「地下での生活はつまらなかったでしょう」
「確かにつまらなかったけど…。私がお姉さまを嫌いになんかならないよ」
「ふふ、ありがとう」
レミリアはティーカップに口をつける。
それを見たフランドールも紅茶を飲む。
「おいしいわね」
「そうだね」
「……ねぇ、フラン。今度一緒にピクニックにでもいきましょうか」
急な誘いに思考が止まる。
慌ててフランドールは返事を返した。
「え?でも館から出ちゃいけないんじゃ…」
「ここは幻想郷よ。貴方を閉じ込めておく必要はもう無いでしょう。まだ一人で外に出させるわけにはいかないけどね」
「お姉さま…。うん、ピクニック行きたい。皆と一緒に」
「そうね。みんなで一緒に」
今までは考えもしなかった。
皆と一緒にピクニックに行く。
考えただけでも心が躍りだす。
ふと夜空に浮かぶ月に目を向けた。
真っ暗な夜空の真ん中に浮かぶ月は、今まで見たことがないほど輝いているように見えた。
その後も二人はティータイムを楽しむ。
久しぶりの姉妹二人きりのティータイムにフランドールは心地よさを覚える。
ふとフランドールが欠伸をした。
「おや、眠いのかしら?」
「うん…。今日は朝から色々なことがあったから」
「そうね…。それじゃあ寝ましょうか。ほら、フラン。ベッドにいきましょう」
「え?でも…」
「いいじゃない。たまには一緒に寝ましょうよ」
レミリアは普段着を脱ぐとベッドの上に座ってぽんぽんと隣を叩く。
後を追ってフランドールもベッドに飛び込んだ。
「二人で寝るのも久しぶりね」
「うん」
姉の手を握ると、頭を抱きしめられた。
顔が胸の中に納まる。
久しぶりの姉の香りと温もりに包まれながら、眠りへと沈んでいく意識の中フランドールは姉の囁きを聞いた。
「おやすみなさい、フラン」
それは長らく聞いていなかった言葉。
たった一人の家族であるからこそ、その言葉はフランドールの体に染みこんでいった。
幸福な気持ちに包まれたまま、フランドールの意識はそこで途切れた。
翌朝ベッドの近くでメイド長が血まみれで倒れていた所を発見されるのは、また別のお話である。
とても和むお話でした。
フランとそれを取り巻く皆がとても暖かいですし、レミリアのピクニックの誘いに
嬉しそうにしていたり、ベッドで一緒に寝たりと微笑ましいですね。
咲夜さんはきっと良い笑顔で倒れているのでしょうねぇ……。
紅魔館の家族のようなつながりを感じさせる
とてもいい作品だったと思います
文章の中で流れる時間がこちらにも伝わってきます。
そういえば吸血鬼は夜行性のような...幻想入りしてから習慣を端正したのかな?
って思ってたら最後の一行で吹いたwww
紅魔館の日常はいつもこうであって欲しいですね!!
もっと読みたいです!
最後の一行に、一瞬ビクッとしてしまったwww
いつもの忠誠心ですねww
ほのぼの紅魔館いいですね
ほのぼのしすぎてていつbadendってなるのかハラハラしながら読んでたのは俺だけでいい