ぺらり、と。香霖堂の店内に本のページをめくる音がやけに響く。
昼食時からいくらか経った午後のひと時。店主の森近 霖之助は支払い台の奥に置いていた椅子に腰を下ろし、知り合いの魔法使いから借りた小説を読み進めていた。
「面白いから読んでみろ」と珍しく彼女の方から薦めてきたため、霖之助はすぐに裏があると感じ取ったため問い詰めたところ、何の事は無い。『ツケ』をもう少々待って欲しいとの事だった。
彼女からすぐに払われない事くらい霖之助は覚悟していたが、まだ時間がかかるらしい。彼はとてつもなく深いため息を彼女の前で、これみよがしにしてみせた。無論、彼女の方もこれが『折れた合図』である事はすぐに察したようで、ぱぁっと明るい面持ちになった。
だから霖之助は彼女に笑顔でこう告げたのだ。
「了解、じゃあこれはツケを払うまでの担保でいいね?」
彼女の方も多分取り上げられても問題の無い本を持ってきたのだろうが、それくらいは言っておかないと店主として面目が立たないものだ。
「恩にきる」と手を合わせると、彼女――霧雨 魔理沙は笑顔を浮かべつつ店の出入り口のドアを開けると、箒にまたがってどこかへ飛び去っていった。この様子だとツケが支払われるのは当分先になってしまいそうだ。霖之助はそう思ったが、やれやれとまたため息と苦笑で済ませたのだった。
その本を読み進める。どうでもいい本と思っていたが、いかんせん彼女の言う事は事実であった。その小説には内容はともかく、読者の心をぐいぐいと引き寄せる何かがあった。
世界が核爆弾で壊滅的被害を受け、荒廃する世界で荒くれ者達を相手に救世主が孤軍奮闘するという話だ。
悪者達をこれでもか! というほど残酷な描写で始末していくため、ある程度そのような描写へ対する耐性は必要ではある。ただ、そこさえ大丈夫であれば痛快活劇であり、友情もあり、家族愛もありで非常に読み応えがある。
活字を字で追い、左下まで到達するとまたぺらりとページをめくる。そしてまた右上から読み始める。速読は斜めに一気に読むとかいうが、流石にそのような芸当もできず、また本をじっくり読むという彼のスタンスに反しているため、試した事も無かった。そのため、あまり読み進めるのは早くは無いが、彼はそれで満足していた。
再び左下まで到達したため、ページに手をかけようとした際に、
きしっ……
床がきしむ音がページをめくる音以外なかった店内に響く。
霖之助は出入り口のドアを見やる。来客を告げるベルを取り付けているが、その音は無く、もちろんドアを開ける音も閉める音も無かった。
気のせいかと思い、彼は再び小説に目を落とす。
きしっ……きしっ……
流石にここまで聞こえては気のせいという訳ではないようだ。霖之助は改めて店内を見渡す。もちろん誰もいない。当然だ、僕はそこまでもうろくしていないと胸中で独りごちる。
だが、床の方に視線をを移すと、彼は自身が壮絶にもうろくしてしまっていた事を自覚した。そして「何でこれに気づかなんだ、僕は」と自虐する。
そこには『唐草模様の風呂敷に包まった少女』がいた。しかも、大きさが合っておらず、風呂敷の端から頭の左右で結わえられた髪がぴょこぴょこ揺れていた。更に背中には不釣合いなほど大きな、そして大量に工具らしきものがはみ出しながら詰め込まれているようだ。
要するに、『頭も隠してなけりゃ、尻も丸見え』という状態の少女である。いや、尻は見えていないがと胸中で霖之助は付け足す。
そんな少女は、彼にまだ気づかれていないと考えているためか、またきしきしと音を立てつつ、少しずつ前進を行っている。
あまりに間抜けで、それでいて愛らしい姿に彼はついつい吹き出してしまう。
刹那、少女はびくりとすくみ上がり、きょろきょろと周囲を見渡す。先刻の霖之助同様、平行方向は見渡しているのだが、垂直方向は全く見ようとしていない。そんな様に彼は再び吹き出してしまう。
「いらっしゃいお嬢さん。何かご用かな?」
急に声をかけられ、少女は再度びびくっと二重に器用に驚いて見せた。そしてようやく上方へ視線を移し、霖之助と目が合う。彼は可能な限り接客業で培った営業スマイルで迎えたのだが。
「あ、あれ? なんであたしが見えるの?」
「……確かに眼鏡はかけているが、そこまで近眼ではないつもりなんだけどね」
霖之助の言葉には目もくれず、ではなくこのような際は『耳もくれず』とでも言った方がいいのか。ともあれ、彼女は自身を覆っていた風呂敷を手に取り、まじまじと見つめていた。
先述の通り、頭の左右で髪を結わえて――魔理沙はこんな髪型を『ついんてぇる』と呼んでいたか――帽子をかぶっている。水色の上着とスカートに……何故か長靴を履いている。今日は雨ではなかったはずだがと、霖之助は窓を見やる。若干雲はあるものの、晴れとしか形容しかねる天気だった。
見た目としては魔理沙と同じくらいの年齢か、それより下といったところだろうか。
そんな彼女が霖之助の視線に気がつくと、ばばっと手をあたふたさせたかと思うと、風呂敷をかぶり直した。
「えーっと……それは君の郷(くに)での何かの意思表示なのかい?」
「いや、決してそういう訳では……」
霖之助の言葉に羞恥で顔を真っ赤にして、彼女は風呂敷を外すと綺麗にたたみ始めた。結構几帳面な性格のようだ。
「おっかしいなぁ……また光学迷彩が効いてないよ」
コウガクメイサイとは何ぞや? と霖之助は胸中で疑問を投げつけるが、当然彼女には聞こえないため場の空気が流れていく。
そして改めて彼と視線を交わらせると、彼女はずざざっと距離を取る。歩にして三歩分くらいか。露骨にやられると地味に傷つく距離であると霖之助は思った。
彼女は彼と視線を混じらせても一秒程度で、せわしなく視線を形容の如く泳がせていた。
「実は魔理沙にここに物に詳しい人がいるって聞いて……」
「ん? 君は魔理沙の知り合いなのか?」
「うん、そうだよ。あ、えと……あたしは河城 にとり。河童の一族ね」
「ご丁寧に。僕は森近 霖之助、見ての通りしがない店主だ」
どうにも彼女――にとりは人見知りの気が強いようだ。元々、河童は人前にはあまり姿を見せる事が少ないためそうとは彼も知っていたが。霖之助は再度、持てる限りの営業スマイル(やわらかVer)で語りかけた。他者の心を開かせるのも商売人の技術として大切なのである。
それが幸いしてか、彼女は少し心を開いたようで――視線が交わる時間が二秒程度に増えた。まぁ、こんなものかと霖之助は胸中で嘆息を漏らす。どのような相手でもこれを貫くのは案外しんどいものであった。
にとりは背のリュックを下ろすと、中身をがさごそと漁り始めた。工具の他にも色々と収められているようだ。霖之助も見た事が無いようなものもいくつか見て取れた。
その中から、彼女は――どう考えても取り出した工具や道具を元に戻すと絶対にリュックに入らないだろう物を取り出した。ここは幻想郷。深く考えたら負けである。
「これって何かわからない?」
にとりが霖之助へ差し出したのは、西瓜くらいの大きさの銀色の物体であった。
彼女から受け取るとしげしげと様々な角度から観察する。底の部分の四箇所に滑り止めの素材が付いていた。実際置いてみたところ、少し押した程度ではびくともしなかった。
そして、その押した部分がスイッチになっていたようで、物体の上の部分がガパッと開いた。いきなりだったため、霖之助はやや驚きを見せた。にとりはもっと驚いていた。
中を見やると空洞となっていた。中は色が鈍い黒で底の部分がやや曲線を描いていた。
開いた蓋の部分を見ると様々な文字が書いてある。「保温」や「炊飯」とある事から、霖之助は己が能力を使うまでもなく結論に辿り着いた。
「これはおそらく米を炊く機械だろう」
「あー、やっぱりそうか」
どうにも彼女も同じ結論に達していたようだ。まぁ、「炊飯」する別の機械があったら見てみたいものだが、と彼は心中でつぶやいた。
ただ、腑に落ちない点があった。
「『やっぱり』という事は君も同じ事を考えたのかい?」
「うん、『炊飯』なんてお米を炊くしかないでしょう」
「そうだね。では、何故僕のところに?」
彼の疑問はこれである。
にとり自体も何をする機械かは理解しているのであれば、この店に来る意図が無いだろう。
察してか、照れ笑い――ようやく初めて見られた笑顔はかわいらしいものだった――を浮かべると、にとりは続けた。
「どうにも動かす事ができなくってねぇ」
「機械であるなら電力でいいのではないかな」
「そう思ったんだけど、どこから電力供給するのかわからなくって……」
そう言うと、今度はややしょんぼりと肩を落とす。心なしか『ついんてぇる』もくたっとなったように霖之助には思えた。きっと彼女は持ち物通り、機械関連には強いのだろうが、これの用途がわからずに自信を無くしたというところかと解釈する。
改めて機械を見つめる。幻想郷では見ない形状から、少なくともこれは外の世界から迷い込んだものであろう。
うぅむと霖之助は唸る。正直なところで全くもって電力供給の方法がわからないのだ。
霖之助が今、自身の能力を使わないのには二つの理由がある。
ひとつは自身の観察眼が鈍るため。能力に頼ってばかりいては、モノを扱う店の主として力ばかりではなく、己の知識を増やす事もできないからだ。
もうひとつは、何の事は無い。彼の能力は『用途』はわかるが『使用方法』まではわからない。そこに尽きる。
にとりはおそらく魔理沙から「道具の事なら何でもわかる」というような体(てい)で霖之助を紹介されたのだろう。彼が知る通りの白黒魔法使いなら細かい説明も端折る事が目に見えている。
自身の修行観からは逸する事になるが念のため、霖之助は能力を発動させる。理由はどうあれ、期待を持たせてしまった以上このまま帰すのはしのびないと判断したからだ。能力を通すと途端にこの機械の持つ名前と用途が頭の中に流れ込んできた。
『炊飯器。電力を用いて楽に米を炊き、また保温能力を有する事でいつでも銀シャリを楽しめる』――という以上だった。
やはりどうやって楽に米を炊くかや、電力供給方法まではわからなかった。
そんな彼を見てか、にとりは徐々に不安げな面持ちを見せ始める。少なからず、落胆の色までは行っていないと思われるのが彼には救いだった。客の期待に応えられない事ほど、商売人の自身を喪失するものはない。
唸り続けて、炊飯器をくるくる回して見つめていると、霖之助は妙なものに気づく。機械の後ろの足元の一箇所に、奇妙な短い尻尾が付いていたのだ。
何気なく手に取ってみると、軽く持ったつもりだったが尻尾がにゅいんと伸びて引っ張れる事が判明した。
「わわっ!? 何それ!?」
にとりもこれには気づいていなかったらしく、支払い台に身を乗り出して炊飯器を覗き込む。その眼はきらきらと、例えるなら『純粋無垢』を絵に描いたようなものであった。
普段、魔理沙やその知り合いの博麗の巫女等の少女と交流のある彼だが、このような真っ直ぐな視線は久方ぶりであった。いかんせん魔理沙達は妙に斜に構えたところがあるので、話していて面白いが困る事も同量だったりする。
とりあえず、炊飯器を彼女に渡して距離を取る事にした。何故かはわからないが、彼の脳裏に笑顔で指をボキボキ鳴らす魔理沙の顔が思い浮かんだのだった。
にとりは「ほー、へー」などとのたまりつつ、伸びた尻尾やその先端の金具を触っていた。
「金具? ……そうかにとり、それではないか?」
「えっ?」
「その尻尾の先の金具に電気を通せば動くんじゃないかな。
全体も金属製だが、機械全体に電気を浴びせて使うなんて考えづらい。感電してしまうからね。
ならば局地的に電気を流すのが普通だろう。尻尾の先にだけ電気を流しておけば安全に炊飯可能と思うのだけど」
「なるほど、確かに言いえて妙だね」
言葉の使い方が若干違うのだが、霖之助も彼女の言わんとする事を理解したため、あえて訂正はしないでおいた。
彼女はリュックをがさもさと漁り始めた。本当にどれだけの量が入るのだろう。是非一度そちらも解析してみたいものだと、霖之助は心底思わされた。
しばらくすると、彼女は黒い直方体で習字で使用する硯のようなものを取り出した。
「それは?」
「あたしが作った電気を短時間だけど貯蔵できる機械、名付けて『電気タクワエール』」
「……それは凄いね」
性能は確かに凄いのだが、霖之助にとっては彼女の極めて安直なネーミングセンスの方が脱帽であった。
にとりは『電気タクワエール』にいくらかの仕事を施す。見ると、炊飯器の尻尾の金具がちょうど差し込めるような一対の縦線を加えたようだ。
「では、これを挿してっと」
炊飯器の尻尾を『電気タクワエール』にぷすりと挿入する。
すると、蓋の正面にあったくすんだ黄色い部分に現時刻が表示された。なるほど、電力が通う事により時計としての機能もあるようだ。だが、これって必要か? と霖之助は胸中で独りごちる。
電力が供給されたのはいいのだが、実際に米を炊くにはどうするのか。などと考えていると、にとりはおもむろに蓋をがばりと開けて、あまつさえ顔を突っ込んで中の観察を始めていた。
「むむっ? 何かあったかいような……」
ジュッ
「あちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?」
いきなり、鼻の頭を押さえてにとりが店内を転がり始めた。
霖之助は慌ててそちらへ行き、炊飯器を確かめる。黄色い画面に「炊飯」と記載が出ており、確かめると蓋の中は異様な高温になっていた。おそらくは炊飯機能が働いているのを知らずに、にとりは顔を突っ込んでしまい、鼻をやけどしたようだ。
安全のため、彼は『電気タクワエール』から尻尾を外すと、にとりへ視線を向ける。
彼女は先ほどまでのかわいらしさを満塁ホームランのようにかっとばし、足をばたばたさせながらのた打ち回っていた。
彼女の安否もそうだが、このままでは陳列している店の商品に被害を与えかねないため、霖之助はタイミングを見計らって彼女の肩を両手で掴んで止める。
「えぅ、痛いー」
「痛いのはわかったから、少しは落ち着いてそこに座って待っていてくれ」
「そこ」と先ほどまで自身が腰を下ろしていた椅子を指差す。
にとりは涙目になりながらも、素直に頷くとちょこんと椅子に腰を下ろす。
それを確認すると霖之助は店の奥の保冷庫へと足早に向かう。保冷庫の中には先日氷屋から購入したばかりの切り揃える際に出る氷くずを収めた袋を取り出す。氷柱は空気を含まないため、長時間使用可能だがその分高い。庶民は氷くずで十分なのである。
話を戻そう。氷の入った袋を手にすると、彼は続けて箪笥の上に置いていた救急箱を空いている手で掴む。こちらは永遠亭の医者から購入した簡易治療品を梱包したものである。
店内に戻ると、にとりはおとなしく椅子に座ったままだった。足が若干もじもじしており、まだ転げ回りたい気分だったのかもしれないが。
彼女に近寄ると、また少しびくりとされる。魔理沙との経緯を考えると、初対面の者は本当に苦手なのかもしれない。だが、びくつかれるのが正直いい気分ではないため、彼は少し肩を落とす。
そうは思いつつも、彼は氷の一片を袋から取り出す。そして俯き気味だったにとりへなるべく優しく話しかける。
「ほら、顔を上げて」
やや上目遣いに顔を上げたのを見計らうと、その鼻の頭に氷を押し付ける。もちろん、力を加減して。
「わっ!? ひゃっこい!」
「氷なんだから当たり前だ。やけどはまず冷やさないと痕になってしまうぞ。
女の子なんだから自分は大事にしなさい。あんな……未知のものに顔を突っ込むとかは今後自粛する事だね」
「う、うん……わかった。約束するよ」
おせっかいが過ぎたか、と言葉を発した後になって霖之助は後悔した。人見知りの子にはいきなりきつい言葉だったと判断したのだ。
しかし、鼻の頭を氷で押さえられつつ、にとりは器用に俯く。表情が見て取れないが、とりあえず気分を害してはいないらしい。
ある程度冷やされた事を確認すると、手ぬぐいで水気を拭いてやり、あとは救急箱からやけど用の軟膏を薄く塗り、その上から絆創膏を貼ってやった。
何だか見た目がガキ大将のようになってしまったが、贅沢を言える状態でもないため霖之助は触れない事にした。
「これでいいだろう。あぁ、しばらくすると軟膏が少し蒸れてかゆいかもしれないけど、いじっちゃいけないよ」
またおせっかいか。霖之助は胸中で苦笑いを浮かべた。
だが、にとりは彼の言葉を受けて、本日の中で最高の笑顔を見せた。
「わかったよ。ありがと、り……りんのす、け」
言葉の途中からまた視線を泳がせたかと思うと、最後には顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。もしかしたら、人見知りもそうだが、同族以外の異性に話すのは慣れていないのだろうか。霖之助は彼女を見つめながら、そんな事を感じた。
やはり、久方ぶりの愛い(うい)反応にどうにも笑みが漏れてしまう事を、彼は自制する事ができなかった。こういうものを父性というのだろうか、と思えるほどだった。
彼の笑みに気づくと、にとりは取り繕ったように――でも、本心からの笑顔で返すのだった。
「ごめん、迷惑かけたね。あたしはそろそろ帰るよ」
「そうかい。あぁ、茶の一杯も出さないですまなかった」
「ははっ、いいって。急に来たのはこっちなんだし――」
炊飯器をリュックにしまっていたにとりは、そこでふと手を止める。
「えっと……じゃあ、次に来た時にはお茶と茶請けもあると嬉しいんだけど」
この店に来る少女はこんなのばかりなのか、とも思ったが、にとりがまた頬を染めてあさっての方向を見ながら言うところからするに、おそらく何かしら別の理由があるのだろうと踏む。
もし、また未知の物を見せてくれるのであれば自身の知識の増強にも繋がるため、断る理由など霖之助には無かった。茶請け程度なら易いものである。
「前もっていつ来ると教えてくれていればそれなりの茶請けは用意できるよ。
でも、今日みたいに急に来られてはお茶と、備え付けの……そうだな、煎餅くらいが関の山になってしまうかな」
「うんうん、それでもいいって」
やはりにとりは霖之助と視線を合わせようとしない。彼女が何を考えているのか、彼は少し考えたが他者の心を他者がこうと勝手に決め付けるほど下卑た事は無い。心の中で謝罪しつつ、彼女に向き直る。
リュックを背負い、ぺこりと一礼すると彼女は――彼女なりの精一杯の礼儀としてなのだろう。三秒ほど霖之助を見据えた。
「今日は色々と本当にありがとう。また来るね」
「あぁ、こちらこそ貴重な物を見せてもらってありがとう」
そう言い、にとりへ笑顔を向ける。一応ではあったが営業スマイルのような作ったものではないつもりの、本心からの笑顔のつもりであった。
彼女は何故かびくりとし、再び顔を耳まで真っ赤に染めると、俯き気味になったかと思うと霖之助に瀬を向ける。
「そ、それじゃ!」
ガインシャランッ!
「あいたーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?」
何故かドアに向かって勢いよく突っ込み、もちろん開けていないため激突し、来客用の鈴が最後に優雅に鳴った様の音である。
うずくまる彼女に苦笑いを漏らしつつ、再度救急箱を手に取る。今度は少し大きめの絆創膏が必要だろうか、などと思いながら。
それから、にとりは度々香霖堂へ現れるようになった。その時は必ず外の世界のものと思われる物体を携えていた。
彼女ら河童の一族が住まう妖怪の山にはそういえば湖ごと神様達が引っ越してきたらしい、外の世界から。その際に一緒に巻き込まれたもの――もしかすると外の世界からするとゴミなのかもしれないが、幻想郷にとっては過ぎた産物である。『過ぎた』の意味はあってはいけない物ではなく、あっても使えない物の方だが。
そのため、彼女は人見知りが激しいようだが一人での作業であれば難は無いようで、しょっちゅう探しているようだ。
機械が好きであれば、未知の手法で造られたものには興味があるのだろう。霖之助自体も前述通り知らぬモノへの好奇心は強いので、彼女の事を笑う事などできないし、どちらかといえば好意的に捕らえていた。
ちなみに、やはり来る頃合が悪い事が多く、茶請けはほぼ煎餅のみであったが、彼女は気にする事なくぽりぽりと頬張っていた。
にとりは香霖堂にモノを持ってくる度に、笑顔の回数が増える事に彼は気づいていた。
あの魔理沙と交流がある事を考えると、彼女は親しい者には明るい性格を晒せるようになるのかもしれない。そう考えれば、彼女の変化は霖之助にとっても嬉しいものだった。最初にあのように怯えた小動物のような態度を見せられれば当然といえば当然だが。
それでも、まだふいに真っ赤になる事が多いため、どうしても異性という面で慣れていない事が足枷のようだ。
ただ、ひとつだけ気になったのは、香霖堂を訪れる間隔が徐々に伸びている事であった。
未知なるモノを見つけてくる事自体が中々難しいだろうし、彼女くらいの知識があれば自身でわかる事もあるだろう。そう思えば必然の事なのだが。
少しではあったが、霖之助は彼女が訪れる事を心待ちしている気持ちがある事に気づく。
彼の中に未知なるモノが見たいという気持ちがあるのは間違いなかったが、それ以外は彼女へ抱く父性というものでは少々説明が難しいものに変わりつつあった。彼自身はそこまで自覚をしていなかったが。
この日、にとりは前回から数えて五日ぶりの来店であった。今回もよくわからない物体を持って来ているのは言うまでもない。
だが、彼女はそのモノの解析を先に頼むでなく、出された緑茶と煎餅――今日もアポ無しである――を楽しみ、用意されていた椅子に座り足をぶらつかせている。
霖之助の方も要求が無い限りはモノの解析をしようとはしなかった。にとりが解析を頼んでから始めるという、ここしばらくの間で彼らにできた暗黙の了解のようなものであった。
それまでは、元々あまり来客の無い店のためか、二人で他愛の無い話を繰り広げていた。基本はにとりの方が一方的に話す事が段々と多くなっていた。
「ねぇ、霖之助」
既ににとりも彼の名を呼ぶ事には慣れたようで、普通に呼びかけてきた。
「なんだい、そろそろこれを調べようか?」
そう言い、指で支払い台の上に置かれた物体をこつんと弾いてみせる。
すると彼女は首を横に振ってみせた。どうにも別の事をご要望のようだ。
「えと……魔理沙の事なんだけど」
「……もしや、魔理沙が君に何か無理難題を突きつけているのか?」
霖之助はこめかみの辺りに、たらりと冷や汗を一筋垂らす。
魔理沙は破天荒を地で行く人物のため、時折人を大迷惑の渦中へ強引に叩き込む事がある。
聞いた話では湖のほとりにある紅き館の図書館の蔵書を無断で拝借し続けているとか、その館の門を問答無用でスペルで破壊して通行するとか、博麗神社に意味も無く入り浸って茶を要求するとか。
人柄もあってか特に相手へ嫌悪感までは抱かせないようだが、全てがそうとも言い切れない。にとりがそれかもしれないと彼は踏んだ。
だが、彼女は先ほどより更に首をふるふると振って否定する。
「いやいや、そうじゃないよ。霖之助と魔理沙って付き合いが古いって聞いたんだけど」
「まぁ、そうだね。彼女の実家――道具屋なんだけど、親父さんが僕の師匠だから、子供の頃の魔理沙から知っているよ」
「そっか……そんなに前からなんだ」
ふいに、にとりは俯く。面持ちが見て取れないため、彼女が何を思ったのか霖之助にはわからなかった。
何と声をかけるべきかと思案していると、出入り口のドアがバンと開き、来客用の鈴が乱暴な音を奏でる。
「おーっす、香霖! いるかー?」
ドアの開き方からわかってはいたが、そこに現れたのは話題に上っていた霧雨 魔理沙その人だった。
箒を片手にずかずかと店内に入ってくると、展示していた商品を意味も無く手に取り、しばらく眺めたかと思うと元の場所に戻した。本当に意味は無かったらしい。
「店主が店の鍵を開けたまま不在な訳はないだろう?」
「ははっ、そりゃそうだ」
魔理沙の見慣れた笑顔に、ついつい苦笑が漏れる事を霖之助は自制する事ができなかった。どうにも彼女のノリに巻き込まれてしまうのは自身もらしい。
彼女はそのまま歩を進めると、椅子に腰掛けていたにとりに気づく。
「おっ、にとり来てたのか」
「あー、うん……久しぶりだね」
「そうだな。お前が前に何か変な銀色のやつを私に聞いてきた時以来か?」
「そ、そうだっけ? ははっ、ごめんごめん」
おそらく炊飯器の時の事だろう。霖之助はなんとなしに彼女らのやり取りと見つめていた。
魔理沙はおそらくいつも通りの接し方なのだろう。霖之助に向けられる感じとあまり変わりは見られなかった。
ただ、明らかに違うと思えたのはにとりの方だった。最近は明るく話す方が多くなってきていたのだが、今のそれは初対面の時のような硬さがどこかに見て取れた。
にとりは立ち上がると、にこりと――明らかに無理をして作った笑顔を見せた。
「えっと! ……ちょっと用事を思い出したから、今日は帰るね」
「そうかい、それは残念だ。これはどうする?」
再び手元のモノを指し示す。
にとりは、彼女には何とも似合わない苦笑いを浮かべると、手を振ってみせた。
「そ、そうだな。……うん、次に来た時にまとめて聞かせてもらえないかな」
「まぁ、僕は構わないけど、でも――」
「じゃ、そういう事で!」
そのままドアを乱暴に開き、にとりは外へ飛び出していった。あまりに彼女らしくない行動に、霖之助は首をひねる。
だが、魔理沙は何か感じるところがあったらしい。やはり、自身より彼女との付き合いが長いからかと思い、霖之助は己が胸に形容しがたい感情が芽生えた事に気づく。
「なぁ、香霖」
ふいに魔理沙が口を開く。
「なんだ?」
「にとりのやつさ、最近よく来るのか?」
「そうだね。間隔はあるけど、魔理沙が紹介した時以来はよく来るようになっているかな」
「そっか……」
ドアを見やっていたかと思うと、彼女は霖之助へ向き直った。若干への字口になっている。魔理沙がやや不機嫌な時の合図であった。
にとりが座っていた椅子にどかりと腰を下ろすと、彼女は続けた。
「香霖、私のもお茶をくれ。ついでにお茶請けも」
「おいおい、急にどうし――」
「もう、いいから。一応、私も客なんだぜ?」
いたずらっぽく笑顔を作って見せているが、明らかにこれは怒っている時の表情であると霖之助は察する。先ほどまでは上機嫌のようだったのだが。彼は何度目ともしれないが、首をひねる。
これ以上彼女の機嫌を損ねるのも怖いところなので、霖之助は急須へ湯を足すために奥へ戻る事とした。これは長引きそうだ、と胸中でため息を落とす。
それにしても、と。彼は走り去っていったにとりの事が気になっていた。
あの態度は何だったのだろう。そう思考を巡らせても、答えはにとり本人しか持っていないため、彼には無駄な問答であった。
窓から空を見る。いつの間にか黒い雲が空を塗り潰していた。
「これは一雨きそうだな……」
「香霖ー、早くお茶ー」
「はいはい、わかったからお茶が待ち切れずに暴れて店内を破壊しないで待っていてくれよ」
「私ゃ、破壊神か何かかっ!?」
急須と新しい煎餅を手に取ると、これ以上待たせると色々な意味で厳しいため、霖之助は魔理沙の元へと戻っていった。
黒い雲は、しばらくすると霖之助の予想通り雨粒を吐き出し始めた。激しいとまでは形容できない降り方だったが、勢いはそれなりにあった。
そんな中、妖怪の山のふもとの辺りで、にとりは草々を分け入ったり、川の中を上から飛んで見渡したり、土が新しく積もった辺りを掘り起こしたりしていた。
行動の通り、未知なるモノを探索中であった。
だが、このような状況で続ける事はいくら妖怪――河童の彼女とはいえ、好ましい環境である訳は決してない。天候が崩れていれば、自然災害があるのが山の常である。
『子供の頃の魔理沙から知っているよ』
霖之助の言葉が胸に反響する。きゅっと胸を掴むが、言葉が持つ痛みを消し去る事はできなかった。
そして、魔理沙と楽しそうに話し合う彼の笑顔が思い浮かぶ。屈託無く笑う魔理沙と、それを困ったように、でも柔らかく微笑んで迎え入れる彼が。
頬を伝うのは雨粒だけではない事くらい、にとりは承知していた。
何でこんなに苦しい想いをしてまで、あたしはこんな事を続けているのだろう。
自問するが、答えを持つのは己が自身のみのため、達する答えに締め付けられるような感覚が増えるだけであった。
大き目の石を持ち上げる際、雨によって濡れていたため手を滑らせてしまい、その拍子に右手の人差し指をいくらか切ってしまう。
顔をしかめ、指を見やる。赤い血液がじわりと滲み出ていた。鼓動に合わせて少しずつ血液はその粒を大きくしていったが、やがて雨粒に飲み込まれて手の平へと流れを作る。
『女の子なんだから自分は大事にしなさい』
「ははっ……ごめん、霖之助。約束、全然守れてないや……」
にとりは顔を袖で拭い、傷を川の水で流すと痛む指を無視して作業を続ける。
既に全身が雨でずぶ濡れであったが、水生妖怪の河童である彼女にはさしたる問題ではない。
そう、本来はそのはずなのだが、今日は水の持つ冷たさしか感じられなかった。雨粒の感触も、濡れてまとわり付く衣服にも、そして何より自身の感情に嫌悪感しか覚えない。
頬を伝うモノが勢いを増した、彼女はそんな気がした。
雨のせいもあってか、作業はやはり思うように進まなかった。
手の傷はどんどんと増えていき、元々白かった彼女の両手は赤く、ところどころはうっ血して黒くなっている部分もあるほどであった。
それでも、にとりは作業をやめなかった。『自身ができる事』を行うためにはこれしかないと思いつつ。
その日、彼女は夜の遅くまで雨でも消えない明かりを灯しつつ、誰に促されるでもない作業を進めていったのだった。
あれからどれくらい経っただろうか。
暦表を見やると前のにとりの来店からまだ三日である事を知らされる。彼は時間の経過が遅いと痛感させられた。
あの後、何故か不機嫌な魔理沙をなだめるのに時間を費やし、にとりがどうなったか知る事ができなかった。
もちろん、その後に追おうとも考えたが、よくよく考えてみれば霖之助は彼女の事を何も知らない事に気づかされた。その際たるはどこに住んでいるか、まるで見当が付かなかったのだ。
妖怪の山とはいえ広く、半妖の霖之助では太刀打ちできないような弾幕ごっこが好きな妖怪もいると聞いていたため、赴く事ができずにいた。
だから、と弱気な自分に心底嫌気を覚えたが、彼は香霖堂で待ち続けていた。
手元に先回彼女が置いていったモノと、茶請けに用意している大福を指先で交互につついて、時間を持て余していた。
今までの間隔からすれば次は一週間ほど間があっても不思議ではないのだが。霖之助はそれをわかっていつつ、現状を繰り返していた。
やがて、来客用の鈴がからりと音を立てる。これは身知った音であった。
「いらっしゃい、魔理沙」
「……よう」
訪れたのは間違いなく魔理沙であった。
ひとつ予想と反するところがあったとすると、彼女が限りなく不機嫌で今にもスペルを放ちそうな面持ちである事くらいか。
彼が怪訝に思っていると、彼女は口を開いた。
「香霖、なんでお前はこんなところにいるんだ?」
「店主が店にいてはいけないとでも言うのか?」
「だーっ! そうじゃない! 何で『こんな状況』でお前はここにいるんだって聞いてんだよっ!」
彼女の言う、『こんな状況』を霖之助は理解する事ができなかった。そんな様子が、彼女の苛立ちを更に加速させてしまう。
魔理沙はズカズカと霖之助に近寄ると、その襟首を掴んで強引に店の外へと連れ出した。もちろん、施錠などさせてはいない。どこかへ連れ出されるのは明白のようだ。
「ちょっと待て、魔理沙! せめて鍵をしめさせ――」
「気にすんな! きっとこんな馬鹿店主の店にはきっと誰も来ないぜ!」
箒にまたがると、ふわりと一瞬の浮遊感があったかと思った瞬間にはトップギアまで加速し、空を飛翔していた。
掴まれたままの霖之助は、何とか箒の後ろまで登ると腰を下ろす。
改めて魔理沙を見やる。飛翔に集中しているためか、前を向いているためその表情を伺う事ができないが、少なからず自身が彼女の逆鱗に触れてしまっている事は事実のようだ。無論、何がそうさせてしまったか彼には見当もつかなかったが。
「にとりがさ……」
「ん?」
ふいに魔理沙が、前方を見据えたまま彼の語り始める。
「にとりのやつがぶっ倒れたんだ」
「なっ……」
三日前はあんなに元気そうだったのに、と胸中でにとりの笑顔を思い出す。
「未知のモノを見つけるために、相当無理をしてたらしいんだ」
「……そうか」
「そうか……って。お前、言う事はそれだけなのか?」
「えっ?」
彼が当惑していると、ふいに彼女は振り返る。振り返った魔理沙は――何と言えばいいのだろう。怒りと、呆れと、それ以上の悲しみを浮かべているように思えた。
そして唐突に八卦炉を構えると、霖之助へ向ける。彼女の十八番であるスペル、マスタースパークの発射を意味する行動であった。彼女の眼は、真剣そのものであり、冗談ではない事を物語っていた。
「森近 霖之助、あんたに問う。返答次第では私は香霖を殺すかもしれない」
少なからず、霖之助の知る魔理沙ではない事は明らかであり、かつ彼の知る彼女であれば今の言葉に偽りは無いだろう。彼はそう判断した。
「……わかった、心して答えよう」
「よし。じゃあ、回りくどいのは私は嫌いだから単刀直入に聞く」
「あぁ」
「お前、にとりの事をどう思ってるんだ?」
何故このような状況でにとりの事が出てくるのか。さっきのにとりが倒れた事と関係があるのか。そもそも、何で魔理沙がそれを聞くのか。
霖之助の頭の中は既に困難の色一色に占領されてしまっていた。
だが、目の前の魔法使いの少女は八卦炉を下ろす事なく、鋭い眼光を突きつけたまま動こうとしない。
霖之助は自分を落ち着かせると、心に問いかける。そして、今まで背を向けてきていたのかもしれないひとつの想いに辿り着く。
だから、彼は魔理沙へ率直にその気持ちを打ち明ける。
「僕は――――」
見上げると、見知らぬ天井が広がっていた。変な薬品の匂いも充満している、正直なところ居心地のいいとは呼べない部屋ににとりは寝ていた。
カリカリという音に気づき、そちらを見やると永遠亭の女医が机に向かって何かにペンを走らせていた。
(そっか、あたし倒れたんだったっけ……)
作業に没頭するあまり、ろくな休憩や睡眠を取らずにいたため、遂にはその途中で意識を失ってしまったのだ。
ちょうど魔理沙が遊びに来て……そう、色々話していた時の事だった。きっとここまで運んだのは彼女だろう、と心の中で魔理沙に礼を告げる。もちろん、本人に会ったら再度礼を告げるつもりだが。
両の手を見ると、包帯が隙間無く巻かれていた。どうにも怪我が思っていたより多かったようだ。これでは作業に戻るのは当分無理だろう。
ため息を漏らすと、それに気づいた女医が振り返り「どう?」と様子を伺う。
「気分的には最悪かな」
軽口を叩けるようなら大丈夫だろう、そう告げると検温とある程度のにとりの状態を確認し、女医は「過労で倒れたのだから、まだ安静にしているように」と言い残して部屋を後にした。
静かな部屋に残され、にとりはあの時の魔理沙に問われた事を思い出す。
『お前、香霖の事をどう思っている?』
最初に感じたのは多分怒り。にとりは自身をそう分析していた。
何でこの人間はそのような意地の悪い事を問うのか。それ以外に自分の心が出した感情といえば、彼女へ対する劣等感であった。
どんなに願ってもにとりには手に入れられないものを、魔理沙は持っているから。
妖怪の本分として、ここで彼女を殺してしまって、その肉を喰らってしまおうか。友人であるはずの彼女へ、そんな恐ろしい事を考えたにとりは瞬時に己の愚かさを恥じた。一時の感情で友人を殺すなどとは何事か、と。
思案している時、魔理沙の面持ちを見て、にとりは少なからず驚きを覚えた。
彼女はきっと悲しみを押し殺して、自分へ問うている事がわかる。そんな顔をしていたのだ。
少なくとも、にとりは彼女へ対し、全てを打ち明けるべきであると何故だか思えた。
だから、彼女は魔理沙へ率直にその気持ちを打ち明けた。
魔理沙はへっと作った笑顔を見せると「やっぱりな」とのたまう。ばれていたのかとにとりの顔は真っ赤になった。
そして、その途端に世界がぐらりとゆがみ、最後に見えたのは慌てる魔理沙が駆け寄ってくるところだった、と思い出す。
「これからどうしよう……」
ぽつりと呟き、目を閉じる。
漆黒の世界が彼女を支配したのだが、その暗幕の中に浮かぶのは楽しげに談笑する霖之助と魔理沙であった。
想像の中でさえ、そんなイメージが浮かぶ自身に苦笑しか出ては来なかった。
「いいかな、にとり」
ふいに、想像していた片方の声が実際に響く。
目を開けてそちらを見やると、霖之助が彼女の返事を待ち、部屋に入る直前で待機していた。
魔理沙にあのような告白をした後だからか、にとりは彼の顔を直視する事ができなかったため、意思に反して彼に背を向けてしまう。
「どっ、どぞー!」
だが、返答はしっかり行おうとしたのだが、明らかに発音がおかしくなってしまい、彼女は顔の温度が上がるのを感じた。現に耳まで真っ赤であった。
足音が自身に近づき、そしてぎしりという軋む音がして止まる。ベッドの脇に備え付けの椅子に彼は座ったようだ。
幾ばくか、沈黙が部屋を支配する。時計の秒針が時を刻む音だけが妙に際立っていた。
「……その、魔理沙から聞いたよ」
(魔理沙あああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?)
つまりは魔理沙へ告げた彼への気持ちを、彼は既に知っているという事だとにとりは解釈した。
彼が次の言葉を言うより早く、彼女は背を向けたまま口を開く。
「だ、だって……霖之助に会いに行く口実なんてこれしかなかったんだ」
「……え?」
感情が暴走しているにとりは、霖之助が魔理沙から『聞いた内容』を聞かずに顛末を矢継ぎ早に吐露し始める。
「最初は違ったんだよ?
本当に未知なモノだったから、魔理沙に何か聞いたけどわからないって言うから霖之助を紹介してもらっただけで。
で、でも……霖之助にモノとは関係無くまた会いたいなって思うようになって。
でも、あたしが霖之助に会いに行く理由なんて、
友達でもないからモノを持って行って調べてもらうっていう理由を作るしかないじゃない!
だから頑張ったんだ。手も痛かったけど、心が痛いのはもっと嫌だったから頑張ったんだよ?
だけど、だけど! 結局、魔理沙には勝てない!
あたしは霖之助と過ごした時間が短くって、
魔理沙は霖之助と何気ない話をしていても分かり合っているのだけはわかって……。
だから無理して、頑張って、それで倒れちゃって。もう……あたし何してんのかな……」
途中から何だが溢れて止まらなくなっていたが、自身の心を暴く事がここまで切ないものなのかと、にとりはまた胸を締め付けられるような感覚に犯される。
そんな彼女の頭に、大きな手が乗せられ、優しく、ゆっくりと撫でられる。もちろん霖之助の手である事を瞬時に理解する。
「ごめん、にとり」
あぁ、これでいいんだ。彼の『断り』の言葉に、切なくはあるがある意味での区切りを付けられたので、にとりは涙の中で少し笑みを漏らす。
次の言葉を聞くまでは。
「その……魔理沙から聞いたのは、君が倒れたという事だけなんだ」
「…………………………………………はい?」
流石のにとりもその言葉に数秒間硬直し、霖之助の方へぐるりと向き直る。
彼も耳まで真っ赤になっている。視線は彼女と合わせようともしない。
「僕も、にとりが来てくれる事をいつからか心待ちするようになった。
最初は、悪いけど上客になってくれればと思っていたよ。
でも……君が来ない数日や、あとは魔理沙のお叱りでようやく気づいたよ」
「え? え? え?」
にとりは渦中の人物にも関わらず、全く状況を理解できないでいた。
そんな彼女に顔を向けられないため、霖之助も独白がまた開始される。
「別に店に来るのに理由なんていらないだろう? 知り合いであるなら顔を出してくれれば嬉しく思うし……。
あっ、もちろんモノを持ってきてくれる事も嬉しかったんだけど、こんなになるまでやらなくっていいんだ。
まったく……約束は守ってくれていなかったみたいだね」
何とか自身を持ち直したのか。霖之助はにとりの方を向き、彼女の包帯まみれの手を優しく包み込む。
包帯越しに感じられる彼の暖かさに、にとりはまたぽろりと涙を零す。それは次々と溢れて、止められそうもなく、彼の前で顔をくしゃくしゃにして泣き始めてしまうのだった。
「にとり、後出しになってしまっているけど、これだけは伝えたいんだ。聞いてくれるかな?」
「うん……うん……」
それまでの彼の言動から、希望が現実のものだろうと予測もできたが、やはり女として『恋した男』の口から聞きたいという衝動は抑えられるものではなかった。
霖之助はにとりを見据え、そして魔理沙に告げた時よりの勇気を振り絞り、己が本心を告げるのだった。
ズズズズズ。
緑茶をすする音が店内に響く。霧雨 魔理沙は出された大福を片手に緑茶を飲んでいた。
「ねぇ、霖之助。これってこっちの回路とはんだ付けするといいんじゃないかな」
「そ、そうだねにとり」
もぐもぐ。
塩気の効いた求肥が餡子と実に素晴らしい調和をしていた。魔理沙はそれを二口で頬張って、飲み込む。
「ありゃ、ネジが緩んでる。霖之助、そっちのドライバーを取って」
「これかい?」
「もうっ、そっちじゃなくてマイナスドライバーだよ」
ズズズズズズズズッ。
再び緑茶を、文字通りすする。これみよがしに音を出しつつ。ついでに霖之助を睨みつつ。
その視線に彼はあえて気づかないふりを貫いていた。とりあえず、嫌な汗が尋常ではなく溢れ出していた。
「んー? どうしたの霖之助、暑い?」
「そ、そうだな。できればなんだけど、にとり」
「なーに、霖之助?」
ズズズズズズズズズズズズズッ!
にとりの甘ったるい問いかけ声の途端に、凄まじい緑茶の吸引音がこだまする。魔理沙の面持ちもマジでマスパの五秒前である。
そして我慢の限界なのか、魔理沙は乱暴に湯呑みを置くと、立ち上がり叫ぶ。
「にとり! いいからそこどけ!」
ちなみに『そこ』とは、椅子に座った霖之助の股の間である。小さい子供ならまだしもの位置だが、にとりほどの見た目だと乳繰り合っているようにしか見えない。実際そうなので魔理沙が怒っているわけだが。
彼女の激昂に、にとりはむぅとふくれっ面になると続けた。
「何さ。魔理沙だって子供の頃にこうしてもらった事あるんでしょう? なら、あたしもおんなじ事をしてもらわないとね」
「んなっ!? 香霖、お前ばらしやがったな!」
「あー! ばらした、って事は本当にやってもらってたんだ!」
「ちっ、違うぞ! あれは子供だった私に香霖がやってやるって言うからしょうがなく――」
「すまん魔理沙。自身の尊厳のために訂正するけど、僕から進言した事は無い」
「香霖、お前もかーーーっ!?」
霖之助とにとりが互いの心を確認しあってから、香霖堂はいつもこのような感じであった。
二人は一番損な役目を押し付けてしまった魔理沙に最初は遠慮がちだったが、魔理沙自体が「自分で決めた事」とからりと笑い飛ばされてしまった。旧知の仲と親友という立場の二人には、それが無理に繕った笑顔とすぐにわかったが、もちろん一切触れずに彼女の優しさに感謝した。
感謝はしたのだが、それからというもの、にとりの霖之助に対するアプローチは尋常ではなくなった。
食事時に現れたかと思うと、「あーん」と食事を霖之助に食べさせようとした。同席していた魔理沙は箸を全力で折っていた。
店に出ている時はこのように、股座にやって来て一緒に作業を始める。ちなみにいまだに未知なモノは持ってくる。にとり曰く「もう無理のない程度だから頻度は期待しないで」らしい。
掃除をしていると、怪しげな発明品を携えて現れ、ものの見事に店内を綺麗にした。商品ごと。
風呂に入っていると、タオルだけ巻いた状態のにとりが乱入し、背中を流すと言って聞かなかったが、丁重にお断りした。
一番困ったのは一日の終わりに布団へ入ろうとした際に、にとりが一緒に寝ると言って聞かなかった時だった。
流石に霖之助は男女関係の何たるかをを小一時間説教する事によって、何とか『隣の布団』で寝てもらうというところまでで妥協させる事に成功した。
最初の人見知りもそうだったが、慣れた人にはとことん甘えるタイプの人物はいるが、にとりはその際たるのようだ。
特に前述のものはほぼ、過去に魔理沙が経験した事であり、魔理沙自身も深く注意できないのはそこが理由だった。
だが、度が過ぎれば見過ごす事もできずに、度々今回のような状態になっていた。
「もういい! 勝手にしてやがれっ!」
魔理沙は箒を掴むと、ドカドカと大股で店の外へ出て行った。
これもいつもの事で、次に来る時の彼女はまた豪快に笑ってくるのも既に日常となりつつあった。
「……言い過ぎちゃったかな」
にとりが股の間でしゅんとしているのに気づく。やはり親友である魔理沙を差し置いてこのような関係になれた事に、少なからず罪悪感を覚えているらしい。
彼女の頭に手を置き、撫でてやると霖之助は笑みを浮かべつつ口を開く。
「そう思ったのなら、次に魔理沙が来た時に謝ればいい。
それに僕らがこうしていられる事を否定するような気持ちは、魔理沙にも失礼だろう?」
「……そうだね、うん、ごめん霖之助」
見上げる少女にはもう憂いは無く、初めて見せた時のような眩しい笑顔であった。
「ねぇ、霖之助」
「うん?」
「大好きだよ」
昼食時からいくらか経った午後のひと時。店主の森近 霖之助は支払い台の奥に置いていた椅子に腰を下ろし、知り合いの魔法使いから借りた小説を読み進めていた。
「面白いから読んでみろ」と珍しく彼女の方から薦めてきたため、霖之助はすぐに裏があると感じ取ったため問い詰めたところ、何の事は無い。『ツケ』をもう少々待って欲しいとの事だった。
彼女からすぐに払われない事くらい霖之助は覚悟していたが、まだ時間がかかるらしい。彼はとてつもなく深いため息を彼女の前で、これみよがしにしてみせた。無論、彼女の方もこれが『折れた合図』である事はすぐに察したようで、ぱぁっと明るい面持ちになった。
だから霖之助は彼女に笑顔でこう告げたのだ。
「了解、じゃあこれはツケを払うまでの担保でいいね?」
彼女の方も多分取り上げられても問題の無い本を持ってきたのだろうが、それくらいは言っておかないと店主として面目が立たないものだ。
「恩にきる」と手を合わせると、彼女――霧雨 魔理沙は笑顔を浮かべつつ店の出入り口のドアを開けると、箒にまたがってどこかへ飛び去っていった。この様子だとツケが支払われるのは当分先になってしまいそうだ。霖之助はそう思ったが、やれやれとまたため息と苦笑で済ませたのだった。
その本を読み進める。どうでもいい本と思っていたが、いかんせん彼女の言う事は事実であった。その小説には内容はともかく、読者の心をぐいぐいと引き寄せる何かがあった。
世界が核爆弾で壊滅的被害を受け、荒廃する世界で荒くれ者達を相手に救世主が孤軍奮闘するという話だ。
悪者達をこれでもか! というほど残酷な描写で始末していくため、ある程度そのような描写へ対する耐性は必要ではある。ただ、そこさえ大丈夫であれば痛快活劇であり、友情もあり、家族愛もありで非常に読み応えがある。
活字を字で追い、左下まで到達するとまたぺらりとページをめくる。そしてまた右上から読み始める。速読は斜めに一気に読むとかいうが、流石にそのような芸当もできず、また本をじっくり読むという彼のスタンスに反しているため、試した事も無かった。そのため、あまり読み進めるのは早くは無いが、彼はそれで満足していた。
再び左下まで到達したため、ページに手をかけようとした際に、
きしっ……
床がきしむ音がページをめくる音以外なかった店内に響く。
霖之助は出入り口のドアを見やる。来客を告げるベルを取り付けているが、その音は無く、もちろんドアを開ける音も閉める音も無かった。
気のせいかと思い、彼は再び小説に目を落とす。
きしっ……きしっ……
流石にここまで聞こえては気のせいという訳ではないようだ。霖之助は改めて店内を見渡す。もちろん誰もいない。当然だ、僕はそこまでもうろくしていないと胸中で独りごちる。
だが、床の方に視線をを移すと、彼は自身が壮絶にもうろくしてしまっていた事を自覚した。そして「何でこれに気づかなんだ、僕は」と自虐する。
そこには『唐草模様の風呂敷に包まった少女』がいた。しかも、大きさが合っておらず、風呂敷の端から頭の左右で結わえられた髪がぴょこぴょこ揺れていた。更に背中には不釣合いなほど大きな、そして大量に工具らしきものがはみ出しながら詰め込まれているようだ。
要するに、『頭も隠してなけりゃ、尻も丸見え』という状態の少女である。いや、尻は見えていないがと胸中で霖之助は付け足す。
そんな少女は、彼にまだ気づかれていないと考えているためか、またきしきしと音を立てつつ、少しずつ前進を行っている。
あまりに間抜けで、それでいて愛らしい姿に彼はついつい吹き出してしまう。
刹那、少女はびくりとすくみ上がり、きょろきょろと周囲を見渡す。先刻の霖之助同様、平行方向は見渡しているのだが、垂直方向は全く見ようとしていない。そんな様に彼は再び吹き出してしまう。
「いらっしゃいお嬢さん。何かご用かな?」
急に声をかけられ、少女は再度びびくっと二重に器用に驚いて見せた。そしてようやく上方へ視線を移し、霖之助と目が合う。彼は可能な限り接客業で培った営業スマイルで迎えたのだが。
「あ、あれ? なんであたしが見えるの?」
「……確かに眼鏡はかけているが、そこまで近眼ではないつもりなんだけどね」
霖之助の言葉には目もくれず、ではなくこのような際は『耳もくれず』とでも言った方がいいのか。ともあれ、彼女は自身を覆っていた風呂敷を手に取り、まじまじと見つめていた。
先述の通り、頭の左右で髪を結わえて――魔理沙はこんな髪型を『ついんてぇる』と呼んでいたか――帽子をかぶっている。水色の上着とスカートに……何故か長靴を履いている。今日は雨ではなかったはずだがと、霖之助は窓を見やる。若干雲はあるものの、晴れとしか形容しかねる天気だった。
見た目としては魔理沙と同じくらいの年齢か、それより下といったところだろうか。
そんな彼女が霖之助の視線に気がつくと、ばばっと手をあたふたさせたかと思うと、風呂敷をかぶり直した。
「えーっと……それは君の郷(くに)での何かの意思表示なのかい?」
「いや、決してそういう訳では……」
霖之助の言葉に羞恥で顔を真っ赤にして、彼女は風呂敷を外すと綺麗にたたみ始めた。結構几帳面な性格のようだ。
「おっかしいなぁ……また光学迷彩が効いてないよ」
コウガクメイサイとは何ぞや? と霖之助は胸中で疑問を投げつけるが、当然彼女には聞こえないため場の空気が流れていく。
そして改めて彼と視線を交わらせると、彼女はずざざっと距離を取る。歩にして三歩分くらいか。露骨にやられると地味に傷つく距離であると霖之助は思った。
彼女は彼と視線を混じらせても一秒程度で、せわしなく視線を形容の如く泳がせていた。
「実は魔理沙にここに物に詳しい人がいるって聞いて……」
「ん? 君は魔理沙の知り合いなのか?」
「うん、そうだよ。あ、えと……あたしは河城 にとり。河童の一族ね」
「ご丁寧に。僕は森近 霖之助、見ての通りしがない店主だ」
どうにも彼女――にとりは人見知りの気が強いようだ。元々、河童は人前にはあまり姿を見せる事が少ないためそうとは彼も知っていたが。霖之助は再度、持てる限りの営業スマイル(やわらかVer)で語りかけた。他者の心を開かせるのも商売人の技術として大切なのである。
それが幸いしてか、彼女は少し心を開いたようで――視線が交わる時間が二秒程度に増えた。まぁ、こんなものかと霖之助は胸中で嘆息を漏らす。どのような相手でもこれを貫くのは案外しんどいものであった。
にとりは背のリュックを下ろすと、中身をがさごそと漁り始めた。工具の他にも色々と収められているようだ。霖之助も見た事が無いようなものもいくつか見て取れた。
その中から、彼女は――どう考えても取り出した工具や道具を元に戻すと絶対にリュックに入らないだろう物を取り出した。ここは幻想郷。深く考えたら負けである。
「これって何かわからない?」
にとりが霖之助へ差し出したのは、西瓜くらいの大きさの銀色の物体であった。
彼女から受け取るとしげしげと様々な角度から観察する。底の部分の四箇所に滑り止めの素材が付いていた。実際置いてみたところ、少し押した程度ではびくともしなかった。
そして、その押した部分がスイッチになっていたようで、物体の上の部分がガパッと開いた。いきなりだったため、霖之助はやや驚きを見せた。にとりはもっと驚いていた。
中を見やると空洞となっていた。中は色が鈍い黒で底の部分がやや曲線を描いていた。
開いた蓋の部分を見ると様々な文字が書いてある。「保温」や「炊飯」とある事から、霖之助は己が能力を使うまでもなく結論に辿り着いた。
「これはおそらく米を炊く機械だろう」
「あー、やっぱりそうか」
どうにも彼女も同じ結論に達していたようだ。まぁ、「炊飯」する別の機械があったら見てみたいものだが、と彼は心中でつぶやいた。
ただ、腑に落ちない点があった。
「『やっぱり』という事は君も同じ事を考えたのかい?」
「うん、『炊飯』なんてお米を炊くしかないでしょう」
「そうだね。では、何故僕のところに?」
彼の疑問はこれである。
にとり自体も何をする機械かは理解しているのであれば、この店に来る意図が無いだろう。
察してか、照れ笑い――ようやく初めて見られた笑顔はかわいらしいものだった――を浮かべると、にとりは続けた。
「どうにも動かす事ができなくってねぇ」
「機械であるなら電力でいいのではないかな」
「そう思ったんだけど、どこから電力供給するのかわからなくって……」
そう言うと、今度はややしょんぼりと肩を落とす。心なしか『ついんてぇる』もくたっとなったように霖之助には思えた。きっと彼女は持ち物通り、機械関連には強いのだろうが、これの用途がわからずに自信を無くしたというところかと解釈する。
改めて機械を見つめる。幻想郷では見ない形状から、少なくともこれは外の世界から迷い込んだものであろう。
うぅむと霖之助は唸る。正直なところで全くもって電力供給の方法がわからないのだ。
霖之助が今、自身の能力を使わないのには二つの理由がある。
ひとつは自身の観察眼が鈍るため。能力に頼ってばかりいては、モノを扱う店の主として力ばかりではなく、己の知識を増やす事もできないからだ。
もうひとつは、何の事は無い。彼の能力は『用途』はわかるが『使用方法』まではわからない。そこに尽きる。
にとりはおそらく魔理沙から「道具の事なら何でもわかる」というような体(てい)で霖之助を紹介されたのだろう。彼が知る通りの白黒魔法使いなら細かい説明も端折る事が目に見えている。
自身の修行観からは逸する事になるが念のため、霖之助は能力を発動させる。理由はどうあれ、期待を持たせてしまった以上このまま帰すのはしのびないと判断したからだ。能力を通すと途端にこの機械の持つ名前と用途が頭の中に流れ込んできた。
『炊飯器。電力を用いて楽に米を炊き、また保温能力を有する事でいつでも銀シャリを楽しめる』――という以上だった。
やはりどうやって楽に米を炊くかや、電力供給方法まではわからなかった。
そんな彼を見てか、にとりは徐々に不安げな面持ちを見せ始める。少なからず、落胆の色までは行っていないと思われるのが彼には救いだった。客の期待に応えられない事ほど、商売人の自身を喪失するものはない。
唸り続けて、炊飯器をくるくる回して見つめていると、霖之助は妙なものに気づく。機械の後ろの足元の一箇所に、奇妙な短い尻尾が付いていたのだ。
何気なく手に取ってみると、軽く持ったつもりだったが尻尾がにゅいんと伸びて引っ張れる事が判明した。
「わわっ!? 何それ!?」
にとりもこれには気づいていなかったらしく、支払い台に身を乗り出して炊飯器を覗き込む。その眼はきらきらと、例えるなら『純粋無垢』を絵に描いたようなものであった。
普段、魔理沙やその知り合いの博麗の巫女等の少女と交流のある彼だが、このような真っ直ぐな視線は久方ぶりであった。いかんせん魔理沙達は妙に斜に構えたところがあるので、話していて面白いが困る事も同量だったりする。
とりあえず、炊飯器を彼女に渡して距離を取る事にした。何故かはわからないが、彼の脳裏に笑顔で指をボキボキ鳴らす魔理沙の顔が思い浮かんだのだった。
にとりは「ほー、へー」などとのたまりつつ、伸びた尻尾やその先端の金具を触っていた。
「金具? ……そうかにとり、それではないか?」
「えっ?」
「その尻尾の先の金具に電気を通せば動くんじゃないかな。
全体も金属製だが、機械全体に電気を浴びせて使うなんて考えづらい。感電してしまうからね。
ならば局地的に電気を流すのが普通だろう。尻尾の先にだけ電気を流しておけば安全に炊飯可能と思うのだけど」
「なるほど、確かに言いえて妙だね」
言葉の使い方が若干違うのだが、霖之助も彼女の言わんとする事を理解したため、あえて訂正はしないでおいた。
彼女はリュックをがさもさと漁り始めた。本当にどれだけの量が入るのだろう。是非一度そちらも解析してみたいものだと、霖之助は心底思わされた。
しばらくすると、彼女は黒い直方体で習字で使用する硯のようなものを取り出した。
「それは?」
「あたしが作った電気を短時間だけど貯蔵できる機械、名付けて『電気タクワエール』」
「……それは凄いね」
性能は確かに凄いのだが、霖之助にとっては彼女の極めて安直なネーミングセンスの方が脱帽であった。
にとりは『電気タクワエール』にいくらかの仕事を施す。見ると、炊飯器の尻尾の金具がちょうど差し込めるような一対の縦線を加えたようだ。
「では、これを挿してっと」
炊飯器の尻尾を『電気タクワエール』にぷすりと挿入する。
すると、蓋の正面にあったくすんだ黄色い部分に現時刻が表示された。なるほど、電力が通う事により時計としての機能もあるようだ。だが、これって必要か? と霖之助は胸中で独りごちる。
電力が供給されたのはいいのだが、実際に米を炊くにはどうするのか。などと考えていると、にとりはおもむろに蓋をがばりと開けて、あまつさえ顔を突っ込んで中の観察を始めていた。
「むむっ? 何かあったかいような……」
ジュッ
「あちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?」
いきなり、鼻の頭を押さえてにとりが店内を転がり始めた。
霖之助は慌ててそちらへ行き、炊飯器を確かめる。黄色い画面に「炊飯」と記載が出ており、確かめると蓋の中は異様な高温になっていた。おそらくは炊飯機能が働いているのを知らずに、にとりは顔を突っ込んでしまい、鼻をやけどしたようだ。
安全のため、彼は『電気タクワエール』から尻尾を外すと、にとりへ視線を向ける。
彼女は先ほどまでのかわいらしさを満塁ホームランのようにかっとばし、足をばたばたさせながらのた打ち回っていた。
彼女の安否もそうだが、このままでは陳列している店の商品に被害を与えかねないため、霖之助はタイミングを見計らって彼女の肩を両手で掴んで止める。
「えぅ、痛いー」
「痛いのはわかったから、少しは落ち着いてそこに座って待っていてくれ」
「そこ」と先ほどまで自身が腰を下ろしていた椅子を指差す。
にとりは涙目になりながらも、素直に頷くとちょこんと椅子に腰を下ろす。
それを確認すると霖之助は店の奥の保冷庫へと足早に向かう。保冷庫の中には先日氷屋から購入したばかりの切り揃える際に出る氷くずを収めた袋を取り出す。氷柱は空気を含まないため、長時間使用可能だがその分高い。庶民は氷くずで十分なのである。
話を戻そう。氷の入った袋を手にすると、彼は続けて箪笥の上に置いていた救急箱を空いている手で掴む。こちらは永遠亭の医者から購入した簡易治療品を梱包したものである。
店内に戻ると、にとりはおとなしく椅子に座ったままだった。足が若干もじもじしており、まだ転げ回りたい気分だったのかもしれないが。
彼女に近寄ると、また少しびくりとされる。魔理沙との経緯を考えると、初対面の者は本当に苦手なのかもしれない。だが、びくつかれるのが正直いい気分ではないため、彼は少し肩を落とす。
そうは思いつつも、彼は氷の一片を袋から取り出す。そして俯き気味だったにとりへなるべく優しく話しかける。
「ほら、顔を上げて」
やや上目遣いに顔を上げたのを見計らうと、その鼻の頭に氷を押し付ける。もちろん、力を加減して。
「わっ!? ひゃっこい!」
「氷なんだから当たり前だ。やけどはまず冷やさないと痕になってしまうぞ。
女の子なんだから自分は大事にしなさい。あんな……未知のものに顔を突っ込むとかは今後自粛する事だね」
「う、うん……わかった。約束するよ」
おせっかいが過ぎたか、と言葉を発した後になって霖之助は後悔した。人見知りの子にはいきなりきつい言葉だったと判断したのだ。
しかし、鼻の頭を氷で押さえられつつ、にとりは器用に俯く。表情が見て取れないが、とりあえず気分を害してはいないらしい。
ある程度冷やされた事を確認すると、手ぬぐいで水気を拭いてやり、あとは救急箱からやけど用の軟膏を薄く塗り、その上から絆創膏を貼ってやった。
何だか見た目がガキ大将のようになってしまったが、贅沢を言える状態でもないため霖之助は触れない事にした。
「これでいいだろう。あぁ、しばらくすると軟膏が少し蒸れてかゆいかもしれないけど、いじっちゃいけないよ」
またおせっかいか。霖之助は胸中で苦笑いを浮かべた。
だが、にとりは彼の言葉を受けて、本日の中で最高の笑顔を見せた。
「わかったよ。ありがと、り……りんのす、け」
言葉の途中からまた視線を泳がせたかと思うと、最後には顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。もしかしたら、人見知りもそうだが、同族以外の異性に話すのは慣れていないのだろうか。霖之助は彼女を見つめながら、そんな事を感じた。
やはり、久方ぶりの愛い(うい)反応にどうにも笑みが漏れてしまう事を、彼は自制する事ができなかった。こういうものを父性というのだろうか、と思えるほどだった。
彼の笑みに気づくと、にとりは取り繕ったように――でも、本心からの笑顔で返すのだった。
「ごめん、迷惑かけたね。あたしはそろそろ帰るよ」
「そうかい。あぁ、茶の一杯も出さないですまなかった」
「ははっ、いいって。急に来たのはこっちなんだし――」
炊飯器をリュックにしまっていたにとりは、そこでふと手を止める。
「えっと……じゃあ、次に来た時にはお茶と茶請けもあると嬉しいんだけど」
この店に来る少女はこんなのばかりなのか、とも思ったが、にとりがまた頬を染めてあさっての方向を見ながら言うところからするに、おそらく何かしら別の理由があるのだろうと踏む。
もし、また未知の物を見せてくれるのであれば自身の知識の増強にも繋がるため、断る理由など霖之助には無かった。茶請け程度なら易いものである。
「前もっていつ来ると教えてくれていればそれなりの茶請けは用意できるよ。
でも、今日みたいに急に来られてはお茶と、備え付けの……そうだな、煎餅くらいが関の山になってしまうかな」
「うんうん、それでもいいって」
やはりにとりは霖之助と視線を合わせようとしない。彼女が何を考えているのか、彼は少し考えたが他者の心を他者がこうと勝手に決め付けるほど下卑た事は無い。心の中で謝罪しつつ、彼女に向き直る。
リュックを背負い、ぺこりと一礼すると彼女は――彼女なりの精一杯の礼儀としてなのだろう。三秒ほど霖之助を見据えた。
「今日は色々と本当にありがとう。また来るね」
「あぁ、こちらこそ貴重な物を見せてもらってありがとう」
そう言い、にとりへ笑顔を向ける。一応ではあったが営業スマイルのような作ったものではないつもりの、本心からの笑顔のつもりであった。
彼女は何故かびくりとし、再び顔を耳まで真っ赤に染めると、俯き気味になったかと思うと霖之助に瀬を向ける。
「そ、それじゃ!」
ガインシャランッ!
「あいたーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?」
何故かドアに向かって勢いよく突っ込み、もちろん開けていないため激突し、来客用の鈴が最後に優雅に鳴った様の音である。
うずくまる彼女に苦笑いを漏らしつつ、再度救急箱を手に取る。今度は少し大きめの絆創膏が必要だろうか、などと思いながら。
それから、にとりは度々香霖堂へ現れるようになった。その時は必ず外の世界のものと思われる物体を携えていた。
彼女ら河童の一族が住まう妖怪の山にはそういえば湖ごと神様達が引っ越してきたらしい、外の世界から。その際に一緒に巻き込まれたもの――もしかすると外の世界からするとゴミなのかもしれないが、幻想郷にとっては過ぎた産物である。『過ぎた』の意味はあってはいけない物ではなく、あっても使えない物の方だが。
そのため、彼女は人見知りが激しいようだが一人での作業であれば難は無いようで、しょっちゅう探しているようだ。
機械が好きであれば、未知の手法で造られたものには興味があるのだろう。霖之助自体も前述通り知らぬモノへの好奇心は強いので、彼女の事を笑う事などできないし、どちらかといえば好意的に捕らえていた。
ちなみに、やはり来る頃合が悪い事が多く、茶請けはほぼ煎餅のみであったが、彼女は気にする事なくぽりぽりと頬張っていた。
にとりは香霖堂にモノを持ってくる度に、笑顔の回数が増える事に彼は気づいていた。
あの魔理沙と交流がある事を考えると、彼女は親しい者には明るい性格を晒せるようになるのかもしれない。そう考えれば、彼女の変化は霖之助にとっても嬉しいものだった。最初にあのように怯えた小動物のような態度を見せられれば当然といえば当然だが。
それでも、まだふいに真っ赤になる事が多いため、どうしても異性という面で慣れていない事が足枷のようだ。
ただ、ひとつだけ気になったのは、香霖堂を訪れる間隔が徐々に伸びている事であった。
未知なるモノを見つけてくる事自体が中々難しいだろうし、彼女くらいの知識があれば自身でわかる事もあるだろう。そう思えば必然の事なのだが。
少しではあったが、霖之助は彼女が訪れる事を心待ちしている気持ちがある事に気づく。
彼の中に未知なるモノが見たいという気持ちがあるのは間違いなかったが、それ以外は彼女へ抱く父性というものでは少々説明が難しいものに変わりつつあった。彼自身はそこまで自覚をしていなかったが。
この日、にとりは前回から数えて五日ぶりの来店であった。今回もよくわからない物体を持って来ているのは言うまでもない。
だが、彼女はそのモノの解析を先に頼むでなく、出された緑茶と煎餅――今日もアポ無しである――を楽しみ、用意されていた椅子に座り足をぶらつかせている。
霖之助の方も要求が無い限りはモノの解析をしようとはしなかった。にとりが解析を頼んでから始めるという、ここしばらくの間で彼らにできた暗黙の了解のようなものであった。
それまでは、元々あまり来客の無い店のためか、二人で他愛の無い話を繰り広げていた。基本はにとりの方が一方的に話す事が段々と多くなっていた。
「ねぇ、霖之助」
既ににとりも彼の名を呼ぶ事には慣れたようで、普通に呼びかけてきた。
「なんだい、そろそろこれを調べようか?」
そう言い、指で支払い台の上に置かれた物体をこつんと弾いてみせる。
すると彼女は首を横に振ってみせた。どうにも別の事をご要望のようだ。
「えと……魔理沙の事なんだけど」
「……もしや、魔理沙が君に何か無理難題を突きつけているのか?」
霖之助はこめかみの辺りに、たらりと冷や汗を一筋垂らす。
魔理沙は破天荒を地で行く人物のため、時折人を大迷惑の渦中へ強引に叩き込む事がある。
聞いた話では湖のほとりにある紅き館の図書館の蔵書を無断で拝借し続けているとか、その館の門を問答無用でスペルで破壊して通行するとか、博麗神社に意味も無く入り浸って茶を要求するとか。
人柄もあってか特に相手へ嫌悪感までは抱かせないようだが、全てがそうとも言い切れない。にとりがそれかもしれないと彼は踏んだ。
だが、彼女は先ほどより更に首をふるふると振って否定する。
「いやいや、そうじゃないよ。霖之助と魔理沙って付き合いが古いって聞いたんだけど」
「まぁ、そうだね。彼女の実家――道具屋なんだけど、親父さんが僕の師匠だから、子供の頃の魔理沙から知っているよ」
「そっか……そんなに前からなんだ」
ふいに、にとりは俯く。面持ちが見て取れないため、彼女が何を思ったのか霖之助にはわからなかった。
何と声をかけるべきかと思案していると、出入り口のドアがバンと開き、来客用の鈴が乱暴な音を奏でる。
「おーっす、香霖! いるかー?」
ドアの開き方からわかってはいたが、そこに現れたのは話題に上っていた霧雨 魔理沙その人だった。
箒を片手にずかずかと店内に入ってくると、展示していた商品を意味も無く手に取り、しばらく眺めたかと思うと元の場所に戻した。本当に意味は無かったらしい。
「店主が店の鍵を開けたまま不在な訳はないだろう?」
「ははっ、そりゃそうだ」
魔理沙の見慣れた笑顔に、ついつい苦笑が漏れる事を霖之助は自制する事ができなかった。どうにも彼女のノリに巻き込まれてしまうのは自身もらしい。
彼女はそのまま歩を進めると、椅子に腰掛けていたにとりに気づく。
「おっ、にとり来てたのか」
「あー、うん……久しぶりだね」
「そうだな。お前が前に何か変な銀色のやつを私に聞いてきた時以来か?」
「そ、そうだっけ? ははっ、ごめんごめん」
おそらく炊飯器の時の事だろう。霖之助はなんとなしに彼女らのやり取りと見つめていた。
魔理沙はおそらくいつも通りの接し方なのだろう。霖之助に向けられる感じとあまり変わりは見られなかった。
ただ、明らかに違うと思えたのはにとりの方だった。最近は明るく話す方が多くなってきていたのだが、今のそれは初対面の時のような硬さがどこかに見て取れた。
にとりは立ち上がると、にこりと――明らかに無理をして作った笑顔を見せた。
「えっと! ……ちょっと用事を思い出したから、今日は帰るね」
「そうかい、それは残念だ。これはどうする?」
再び手元のモノを指し示す。
にとりは、彼女には何とも似合わない苦笑いを浮かべると、手を振ってみせた。
「そ、そうだな。……うん、次に来た時にまとめて聞かせてもらえないかな」
「まぁ、僕は構わないけど、でも――」
「じゃ、そういう事で!」
そのままドアを乱暴に開き、にとりは外へ飛び出していった。あまりに彼女らしくない行動に、霖之助は首をひねる。
だが、魔理沙は何か感じるところがあったらしい。やはり、自身より彼女との付き合いが長いからかと思い、霖之助は己が胸に形容しがたい感情が芽生えた事に気づく。
「なぁ、香霖」
ふいに魔理沙が口を開く。
「なんだ?」
「にとりのやつさ、最近よく来るのか?」
「そうだね。間隔はあるけど、魔理沙が紹介した時以来はよく来るようになっているかな」
「そっか……」
ドアを見やっていたかと思うと、彼女は霖之助へ向き直った。若干への字口になっている。魔理沙がやや不機嫌な時の合図であった。
にとりが座っていた椅子にどかりと腰を下ろすと、彼女は続けた。
「香霖、私のもお茶をくれ。ついでにお茶請けも」
「おいおい、急にどうし――」
「もう、いいから。一応、私も客なんだぜ?」
いたずらっぽく笑顔を作って見せているが、明らかにこれは怒っている時の表情であると霖之助は察する。先ほどまでは上機嫌のようだったのだが。彼は何度目ともしれないが、首をひねる。
これ以上彼女の機嫌を損ねるのも怖いところなので、霖之助は急須へ湯を足すために奥へ戻る事とした。これは長引きそうだ、と胸中でため息を落とす。
それにしても、と。彼は走り去っていったにとりの事が気になっていた。
あの態度は何だったのだろう。そう思考を巡らせても、答えはにとり本人しか持っていないため、彼には無駄な問答であった。
窓から空を見る。いつの間にか黒い雲が空を塗り潰していた。
「これは一雨きそうだな……」
「香霖ー、早くお茶ー」
「はいはい、わかったからお茶が待ち切れずに暴れて店内を破壊しないで待っていてくれよ」
「私ゃ、破壊神か何かかっ!?」
急須と新しい煎餅を手に取ると、これ以上待たせると色々な意味で厳しいため、霖之助は魔理沙の元へと戻っていった。
黒い雲は、しばらくすると霖之助の予想通り雨粒を吐き出し始めた。激しいとまでは形容できない降り方だったが、勢いはそれなりにあった。
そんな中、妖怪の山のふもとの辺りで、にとりは草々を分け入ったり、川の中を上から飛んで見渡したり、土が新しく積もった辺りを掘り起こしたりしていた。
行動の通り、未知なるモノを探索中であった。
だが、このような状況で続ける事はいくら妖怪――河童の彼女とはいえ、好ましい環境である訳は決してない。天候が崩れていれば、自然災害があるのが山の常である。
『子供の頃の魔理沙から知っているよ』
霖之助の言葉が胸に反響する。きゅっと胸を掴むが、言葉が持つ痛みを消し去る事はできなかった。
そして、魔理沙と楽しそうに話し合う彼の笑顔が思い浮かぶ。屈託無く笑う魔理沙と、それを困ったように、でも柔らかく微笑んで迎え入れる彼が。
頬を伝うのは雨粒だけではない事くらい、にとりは承知していた。
何でこんなに苦しい想いをしてまで、あたしはこんな事を続けているのだろう。
自問するが、答えを持つのは己が自身のみのため、達する答えに締め付けられるような感覚が増えるだけであった。
大き目の石を持ち上げる際、雨によって濡れていたため手を滑らせてしまい、その拍子に右手の人差し指をいくらか切ってしまう。
顔をしかめ、指を見やる。赤い血液がじわりと滲み出ていた。鼓動に合わせて少しずつ血液はその粒を大きくしていったが、やがて雨粒に飲み込まれて手の平へと流れを作る。
『女の子なんだから自分は大事にしなさい』
「ははっ……ごめん、霖之助。約束、全然守れてないや……」
にとりは顔を袖で拭い、傷を川の水で流すと痛む指を無視して作業を続ける。
既に全身が雨でずぶ濡れであったが、水生妖怪の河童である彼女にはさしたる問題ではない。
そう、本来はそのはずなのだが、今日は水の持つ冷たさしか感じられなかった。雨粒の感触も、濡れてまとわり付く衣服にも、そして何より自身の感情に嫌悪感しか覚えない。
頬を伝うモノが勢いを増した、彼女はそんな気がした。
雨のせいもあってか、作業はやはり思うように進まなかった。
手の傷はどんどんと増えていき、元々白かった彼女の両手は赤く、ところどころはうっ血して黒くなっている部分もあるほどであった。
それでも、にとりは作業をやめなかった。『自身ができる事』を行うためにはこれしかないと思いつつ。
その日、彼女は夜の遅くまで雨でも消えない明かりを灯しつつ、誰に促されるでもない作業を進めていったのだった。
あれからどれくらい経っただろうか。
暦表を見やると前のにとりの来店からまだ三日である事を知らされる。彼は時間の経過が遅いと痛感させられた。
あの後、何故か不機嫌な魔理沙をなだめるのに時間を費やし、にとりがどうなったか知る事ができなかった。
もちろん、その後に追おうとも考えたが、よくよく考えてみれば霖之助は彼女の事を何も知らない事に気づかされた。その際たるはどこに住んでいるか、まるで見当が付かなかったのだ。
妖怪の山とはいえ広く、半妖の霖之助では太刀打ちできないような弾幕ごっこが好きな妖怪もいると聞いていたため、赴く事ができずにいた。
だから、と弱気な自分に心底嫌気を覚えたが、彼は香霖堂で待ち続けていた。
手元に先回彼女が置いていったモノと、茶請けに用意している大福を指先で交互につついて、時間を持て余していた。
今までの間隔からすれば次は一週間ほど間があっても不思議ではないのだが。霖之助はそれをわかっていつつ、現状を繰り返していた。
やがて、来客用の鈴がからりと音を立てる。これは身知った音であった。
「いらっしゃい、魔理沙」
「……よう」
訪れたのは間違いなく魔理沙であった。
ひとつ予想と反するところがあったとすると、彼女が限りなく不機嫌で今にもスペルを放ちそうな面持ちである事くらいか。
彼が怪訝に思っていると、彼女は口を開いた。
「香霖、なんでお前はこんなところにいるんだ?」
「店主が店にいてはいけないとでも言うのか?」
「だーっ! そうじゃない! 何で『こんな状況』でお前はここにいるんだって聞いてんだよっ!」
彼女の言う、『こんな状況』を霖之助は理解する事ができなかった。そんな様子が、彼女の苛立ちを更に加速させてしまう。
魔理沙はズカズカと霖之助に近寄ると、その襟首を掴んで強引に店の外へと連れ出した。もちろん、施錠などさせてはいない。どこかへ連れ出されるのは明白のようだ。
「ちょっと待て、魔理沙! せめて鍵をしめさせ――」
「気にすんな! きっとこんな馬鹿店主の店にはきっと誰も来ないぜ!」
箒にまたがると、ふわりと一瞬の浮遊感があったかと思った瞬間にはトップギアまで加速し、空を飛翔していた。
掴まれたままの霖之助は、何とか箒の後ろまで登ると腰を下ろす。
改めて魔理沙を見やる。飛翔に集中しているためか、前を向いているためその表情を伺う事ができないが、少なからず自身が彼女の逆鱗に触れてしまっている事は事実のようだ。無論、何がそうさせてしまったか彼には見当もつかなかったが。
「にとりがさ……」
「ん?」
ふいに魔理沙が、前方を見据えたまま彼の語り始める。
「にとりのやつがぶっ倒れたんだ」
「なっ……」
三日前はあんなに元気そうだったのに、と胸中でにとりの笑顔を思い出す。
「未知のモノを見つけるために、相当無理をしてたらしいんだ」
「……そうか」
「そうか……って。お前、言う事はそれだけなのか?」
「えっ?」
彼が当惑していると、ふいに彼女は振り返る。振り返った魔理沙は――何と言えばいいのだろう。怒りと、呆れと、それ以上の悲しみを浮かべているように思えた。
そして唐突に八卦炉を構えると、霖之助へ向ける。彼女の十八番であるスペル、マスタースパークの発射を意味する行動であった。彼女の眼は、真剣そのものであり、冗談ではない事を物語っていた。
「森近 霖之助、あんたに問う。返答次第では私は香霖を殺すかもしれない」
少なからず、霖之助の知る魔理沙ではない事は明らかであり、かつ彼の知る彼女であれば今の言葉に偽りは無いだろう。彼はそう判断した。
「……わかった、心して答えよう」
「よし。じゃあ、回りくどいのは私は嫌いだから単刀直入に聞く」
「あぁ」
「お前、にとりの事をどう思ってるんだ?」
何故このような状況でにとりの事が出てくるのか。さっきのにとりが倒れた事と関係があるのか。そもそも、何で魔理沙がそれを聞くのか。
霖之助の頭の中は既に困難の色一色に占領されてしまっていた。
だが、目の前の魔法使いの少女は八卦炉を下ろす事なく、鋭い眼光を突きつけたまま動こうとしない。
霖之助は自分を落ち着かせると、心に問いかける。そして、今まで背を向けてきていたのかもしれないひとつの想いに辿り着く。
だから、彼は魔理沙へ率直にその気持ちを打ち明ける。
「僕は――――」
見上げると、見知らぬ天井が広がっていた。変な薬品の匂いも充満している、正直なところ居心地のいいとは呼べない部屋ににとりは寝ていた。
カリカリという音に気づき、そちらを見やると永遠亭の女医が机に向かって何かにペンを走らせていた。
(そっか、あたし倒れたんだったっけ……)
作業に没頭するあまり、ろくな休憩や睡眠を取らずにいたため、遂にはその途中で意識を失ってしまったのだ。
ちょうど魔理沙が遊びに来て……そう、色々話していた時の事だった。きっとここまで運んだのは彼女だろう、と心の中で魔理沙に礼を告げる。もちろん、本人に会ったら再度礼を告げるつもりだが。
両の手を見ると、包帯が隙間無く巻かれていた。どうにも怪我が思っていたより多かったようだ。これでは作業に戻るのは当分無理だろう。
ため息を漏らすと、それに気づいた女医が振り返り「どう?」と様子を伺う。
「気分的には最悪かな」
軽口を叩けるようなら大丈夫だろう、そう告げると検温とある程度のにとりの状態を確認し、女医は「過労で倒れたのだから、まだ安静にしているように」と言い残して部屋を後にした。
静かな部屋に残され、にとりはあの時の魔理沙に問われた事を思い出す。
『お前、香霖の事をどう思っている?』
最初に感じたのは多分怒り。にとりは自身をそう分析していた。
何でこの人間はそのような意地の悪い事を問うのか。それ以外に自分の心が出した感情といえば、彼女へ対する劣等感であった。
どんなに願ってもにとりには手に入れられないものを、魔理沙は持っているから。
妖怪の本分として、ここで彼女を殺してしまって、その肉を喰らってしまおうか。友人であるはずの彼女へ、そんな恐ろしい事を考えたにとりは瞬時に己の愚かさを恥じた。一時の感情で友人を殺すなどとは何事か、と。
思案している時、魔理沙の面持ちを見て、にとりは少なからず驚きを覚えた。
彼女はきっと悲しみを押し殺して、自分へ問うている事がわかる。そんな顔をしていたのだ。
少なくとも、にとりは彼女へ対し、全てを打ち明けるべきであると何故だか思えた。
だから、彼女は魔理沙へ率直にその気持ちを打ち明けた。
魔理沙はへっと作った笑顔を見せると「やっぱりな」とのたまう。ばれていたのかとにとりの顔は真っ赤になった。
そして、その途端に世界がぐらりとゆがみ、最後に見えたのは慌てる魔理沙が駆け寄ってくるところだった、と思い出す。
「これからどうしよう……」
ぽつりと呟き、目を閉じる。
漆黒の世界が彼女を支配したのだが、その暗幕の中に浮かぶのは楽しげに談笑する霖之助と魔理沙であった。
想像の中でさえ、そんなイメージが浮かぶ自身に苦笑しか出ては来なかった。
「いいかな、にとり」
ふいに、想像していた片方の声が実際に響く。
目を開けてそちらを見やると、霖之助が彼女の返事を待ち、部屋に入る直前で待機していた。
魔理沙にあのような告白をした後だからか、にとりは彼の顔を直視する事ができなかったため、意思に反して彼に背を向けてしまう。
「どっ、どぞー!」
だが、返答はしっかり行おうとしたのだが、明らかに発音がおかしくなってしまい、彼女は顔の温度が上がるのを感じた。現に耳まで真っ赤であった。
足音が自身に近づき、そしてぎしりという軋む音がして止まる。ベッドの脇に備え付けの椅子に彼は座ったようだ。
幾ばくか、沈黙が部屋を支配する。時計の秒針が時を刻む音だけが妙に際立っていた。
「……その、魔理沙から聞いたよ」
(魔理沙あああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?)
つまりは魔理沙へ告げた彼への気持ちを、彼は既に知っているという事だとにとりは解釈した。
彼が次の言葉を言うより早く、彼女は背を向けたまま口を開く。
「だ、だって……霖之助に会いに行く口実なんてこれしかなかったんだ」
「……え?」
感情が暴走しているにとりは、霖之助が魔理沙から『聞いた内容』を聞かずに顛末を矢継ぎ早に吐露し始める。
「最初は違ったんだよ?
本当に未知なモノだったから、魔理沙に何か聞いたけどわからないって言うから霖之助を紹介してもらっただけで。
で、でも……霖之助にモノとは関係無くまた会いたいなって思うようになって。
でも、あたしが霖之助に会いに行く理由なんて、
友達でもないからモノを持って行って調べてもらうっていう理由を作るしかないじゃない!
だから頑張ったんだ。手も痛かったけど、心が痛いのはもっと嫌だったから頑張ったんだよ?
だけど、だけど! 結局、魔理沙には勝てない!
あたしは霖之助と過ごした時間が短くって、
魔理沙は霖之助と何気ない話をしていても分かり合っているのだけはわかって……。
だから無理して、頑張って、それで倒れちゃって。もう……あたし何してんのかな……」
途中から何だが溢れて止まらなくなっていたが、自身の心を暴く事がここまで切ないものなのかと、にとりはまた胸を締め付けられるような感覚に犯される。
そんな彼女の頭に、大きな手が乗せられ、優しく、ゆっくりと撫でられる。もちろん霖之助の手である事を瞬時に理解する。
「ごめん、にとり」
あぁ、これでいいんだ。彼の『断り』の言葉に、切なくはあるがある意味での区切りを付けられたので、にとりは涙の中で少し笑みを漏らす。
次の言葉を聞くまでは。
「その……魔理沙から聞いたのは、君が倒れたという事だけなんだ」
「…………………………………………はい?」
流石のにとりもその言葉に数秒間硬直し、霖之助の方へぐるりと向き直る。
彼も耳まで真っ赤になっている。視線は彼女と合わせようともしない。
「僕も、にとりが来てくれる事をいつからか心待ちするようになった。
最初は、悪いけど上客になってくれればと思っていたよ。
でも……君が来ない数日や、あとは魔理沙のお叱りでようやく気づいたよ」
「え? え? え?」
にとりは渦中の人物にも関わらず、全く状況を理解できないでいた。
そんな彼女に顔を向けられないため、霖之助も独白がまた開始される。
「別に店に来るのに理由なんていらないだろう? 知り合いであるなら顔を出してくれれば嬉しく思うし……。
あっ、もちろんモノを持ってきてくれる事も嬉しかったんだけど、こんなになるまでやらなくっていいんだ。
まったく……約束は守ってくれていなかったみたいだね」
何とか自身を持ち直したのか。霖之助はにとりの方を向き、彼女の包帯まみれの手を優しく包み込む。
包帯越しに感じられる彼の暖かさに、にとりはまたぽろりと涙を零す。それは次々と溢れて、止められそうもなく、彼の前で顔をくしゃくしゃにして泣き始めてしまうのだった。
「にとり、後出しになってしまっているけど、これだけは伝えたいんだ。聞いてくれるかな?」
「うん……うん……」
それまでの彼の言動から、希望が現実のものだろうと予測もできたが、やはり女として『恋した男』の口から聞きたいという衝動は抑えられるものではなかった。
霖之助はにとりを見据え、そして魔理沙に告げた時よりの勇気を振り絞り、己が本心を告げるのだった。
ズズズズズ。
緑茶をすする音が店内に響く。霧雨 魔理沙は出された大福を片手に緑茶を飲んでいた。
「ねぇ、霖之助。これってこっちの回路とはんだ付けするといいんじゃないかな」
「そ、そうだねにとり」
もぐもぐ。
塩気の効いた求肥が餡子と実に素晴らしい調和をしていた。魔理沙はそれを二口で頬張って、飲み込む。
「ありゃ、ネジが緩んでる。霖之助、そっちのドライバーを取って」
「これかい?」
「もうっ、そっちじゃなくてマイナスドライバーだよ」
ズズズズズズズズッ。
再び緑茶を、文字通りすする。これみよがしに音を出しつつ。ついでに霖之助を睨みつつ。
その視線に彼はあえて気づかないふりを貫いていた。とりあえず、嫌な汗が尋常ではなく溢れ出していた。
「んー? どうしたの霖之助、暑い?」
「そ、そうだな。できればなんだけど、にとり」
「なーに、霖之助?」
ズズズズズズズズズズズズズッ!
にとりの甘ったるい問いかけ声の途端に、凄まじい緑茶の吸引音がこだまする。魔理沙の面持ちもマジでマスパの五秒前である。
そして我慢の限界なのか、魔理沙は乱暴に湯呑みを置くと、立ち上がり叫ぶ。
「にとり! いいからそこどけ!」
ちなみに『そこ』とは、椅子に座った霖之助の股の間である。小さい子供ならまだしもの位置だが、にとりほどの見た目だと乳繰り合っているようにしか見えない。実際そうなので魔理沙が怒っているわけだが。
彼女の激昂に、にとりはむぅとふくれっ面になると続けた。
「何さ。魔理沙だって子供の頃にこうしてもらった事あるんでしょう? なら、あたしもおんなじ事をしてもらわないとね」
「んなっ!? 香霖、お前ばらしやがったな!」
「あー! ばらした、って事は本当にやってもらってたんだ!」
「ちっ、違うぞ! あれは子供だった私に香霖がやってやるって言うからしょうがなく――」
「すまん魔理沙。自身の尊厳のために訂正するけど、僕から進言した事は無い」
「香霖、お前もかーーーっ!?」
霖之助とにとりが互いの心を確認しあってから、香霖堂はいつもこのような感じであった。
二人は一番損な役目を押し付けてしまった魔理沙に最初は遠慮がちだったが、魔理沙自体が「自分で決めた事」とからりと笑い飛ばされてしまった。旧知の仲と親友という立場の二人には、それが無理に繕った笑顔とすぐにわかったが、もちろん一切触れずに彼女の優しさに感謝した。
感謝はしたのだが、それからというもの、にとりの霖之助に対するアプローチは尋常ではなくなった。
食事時に現れたかと思うと、「あーん」と食事を霖之助に食べさせようとした。同席していた魔理沙は箸を全力で折っていた。
店に出ている時はこのように、股座にやって来て一緒に作業を始める。ちなみにいまだに未知なモノは持ってくる。にとり曰く「もう無理のない程度だから頻度は期待しないで」らしい。
掃除をしていると、怪しげな発明品を携えて現れ、ものの見事に店内を綺麗にした。商品ごと。
風呂に入っていると、タオルだけ巻いた状態のにとりが乱入し、背中を流すと言って聞かなかったが、丁重にお断りした。
一番困ったのは一日の終わりに布団へ入ろうとした際に、にとりが一緒に寝ると言って聞かなかった時だった。
流石に霖之助は男女関係の何たるかをを小一時間説教する事によって、何とか『隣の布団』で寝てもらうというところまでで妥協させる事に成功した。
最初の人見知りもそうだったが、慣れた人にはとことん甘えるタイプの人物はいるが、にとりはその際たるのようだ。
特に前述のものはほぼ、過去に魔理沙が経験した事であり、魔理沙自身も深く注意できないのはそこが理由だった。
だが、度が過ぎれば見過ごす事もできずに、度々今回のような状態になっていた。
「もういい! 勝手にしてやがれっ!」
魔理沙は箒を掴むと、ドカドカと大股で店の外へ出て行った。
これもいつもの事で、次に来る時の彼女はまた豪快に笑ってくるのも既に日常となりつつあった。
「……言い過ぎちゃったかな」
にとりが股の間でしゅんとしているのに気づく。やはり親友である魔理沙を差し置いてこのような関係になれた事に、少なからず罪悪感を覚えているらしい。
彼女の頭に手を置き、撫でてやると霖之助は笑みを浮かべつつ口を開く。
「そう思ったのなら、次に魔理沙が来た時に謝ればいい。
それに僕らがこうしていられる事を否定するような気持ちは、魔理沙にも失礼だろう?」
「……そうだね、うん、ごめん霖之助」
見上げる少女にはもう憂いは無く、初めて見せた時のような眩しい笑顔であった。
「ねぇ、霖之助」
「うん?」
「大好きだよ」
雰囲気は落ち着いていて良かったです。
後はまあ……次元の壁を越えて幻想郷へ行く所から頑張るんだ。
ということで面白かったです。
また、にとりが炊飯器のコンセントに気づかないと言うのも正直考えにくいです
にとりかわいいよにとり
知り合いから友人へ
友人から親友へ
親友から……この部分をもう少し事細かに描写して行けば
某さと霖のように一大勢力が築けるのではないでしょうか。
色んな意味ではっずかすぃという状態です。
慣れないものを書くものではないですね。付け焼刃がモロバレです。
>何かこう、え?そこで惚れんの!?みたいな感じ
>少々性急かな?
>惚れるまでの経過にいまいち説得力を感じませんでした
>全体的にもう一押し足らない気もする
>もう少し事細かに描写して行けば
率直なご意見、誠にありがとうございます。
読み返してみて、己の妄想による部分が多いため前半を端折り過ぎていたようです。
長くなってもいいから、もう一場面追加してそこで惚れさせるべきでした。
加筆修正もしようかと思いましたが、この状態で批評して頂いた方々に失礼なので行いません。
なので、次に甘いものを書く時の参考とさせて頂きます。
>次元の壁を越えて幻想郷へ行く所から頑張るんだ。
将軍様、ではにとりをモニタから追い出してくだs(ry
が、やはり他の人達の言うように、少々展開を急ぎ過ぎた感じがしました。
スラスラ読めて内容もあっさりしていてかなり好きな作品です。
良い作品だと思います。
にとりが可愛い!
にとりと霖之助のカップリングもかなりいい感じ。
にとりが霖之助に恋心を抱く場面(逆も然り)は、
もう少し(長くなってもいいから)詳しくてもいいかなと思いました。
でも膝の上のにとりにはやられたw