博麗結婚相談所
それは何気ない守矢神社の夕食でのことだった。
「神奈子様、諏訪子様」
さして唐突でもない会話の一つとして早苗はおもむろに切り出した。
居間の天井の中央からぶら下げられた雪洞が、ちゃぶ台を囲む三人を明々と照らし出している。
この神社では早苗、神奈子、諏訪子の三人で食事を取るのが習慣となっている。
外の世界にいた時も早苗の両親をまじえて食卓を囲んでいたし、両親を置いてここ幻想郷に来てからも神二柱との食事は続いていた。
自分の所の神と食事を取るなどと常識ではありえないことだが、そこは現人神の家系のなす所か、外の世界においてもこの神社は常識外れであった。
時刻は酉二つ時を過ぎた辺りか。
明かりの発達していない幻想郷では太陽の落ちる前のもっと早めの夕食が常識なのだけど、外の世界の習慣が抜けきっていない守矢神社ではこのくらいの時間に晩飯を取るのが普通である。
今日はご飯に味噌汁に肉じゃが、早苗の作る料理も徐々にレパートリーが増えてきたが、やはり昔から作り慣れたこの手の家庭料理の方が得意なようだ、神奈子も諏訪子も彼女の作る肉じゃがが好きだった。
「何? 早苗」
早苗の呼びかけに対し、三人の均等な間隔でちゃぶ台を囲んでいた一角である神奈子が問いかけた。
最近ではフランクな神様を売り物にしている神奈子は、団欒の中での何気ない会話も大切だと考えていた。
そもそも現人神とはいえ、人間が神と共に食事を取るなどという常識外れな行為は、何十年か前に神奈子が言い出したことである。
信仰が落ちてきたことに対し危機感を抱いた彼女は、これからは身近な神様でやっていこうと考え、まずは身内の東風谷家と家族並みの関係を築こうとしたのだ。
それによって信仰獲得に成果があったかと聞かれれば微妙な所だが、それより他に良い事はあった。
やはり風祝の東風谷家と親しくなったのは嬉しいことである。食卓を共に囲んでいるのも自分が楽しいからに違いない。
そんな暢気でいて信仰を獲得していられるのかと危惧する事はあるが、神奈子は現状に満足していた。
最近では山の妖怪達への信仰も広がっているわけだし、そう焦る必要も無い。
「考えたんですけど」
何かあったのかい? といった面持ちで見つめてくる神奈子と諏訪子を見やり、早苗はなんともない風に続けた。
「私、そろそろ結婚しようかと思うんです」
居間の空気が固まった。
神奈子は唖然と口を半開きにし、諏訪子もぎょっとした様子で早苗を見つめている。
外の世界から持ち込んだ掛け時計の、こちこちという音がやけに大きく居間に響いていた。
からんと音がした方を見れば、諏訪子が思わず箸を取り落としてしまった所である。
「え……と」
結婚と聞こえたが、この守矢の風祝は突然何を言い出すのだろうか。
しかし親に結婚を切り出す時はいつだってこんな空気になるのかもしれない。
「さ、早苗……?」
恐る恐るといった具合で神奈子が口を開く。
「今、なんて?」
「え? はい」
早苗は相変わらずちょっと散歩に行ってきます、と言うような普段と変わらない様子で頷いた。
「ですから、私ももう十七になったことですし、そろそろ結婚相手を探そうかと思いまして……」
「……結婚?」
諏訪子の呟きに、早苗ははっきりはいと首肯する。
「文化レベルと見合っていると言いますか、幻想郷では外の世界より婚期が早いみたいなんです。私も早いとこ相手を見つけないと結婚できなくなるかもしれません」
「……はあ」
確かにこの幻想郷では二十までに結婚するのが常識である。最近では婚期が遅れてもそこまでおかしいとは認識されなくなっているが、十代後半になると周囲の結婚に対する圧力は強まってくる。もちろん人間の里に住む者に限った話ではあるが。
「守矢の家系を私で途絶えさせるわけにもいきませんし。この神社を訪れる人間の方はほとんどいないわけですから、近い内に人間の里で頑張ってみようかと思います」
「……そ、そう」
遅くなればなるほど男は少なくなっていく。
外の世界ではそうでもないが、幻想郷では男は年下の女と結婚することが昔からの常識となっている。もちろん姉さん女房はいるのだが少数派だ。
故に十七の早苗は、そろそろ結婚相手を探し始めないといい人がいなくなってしまう、というのはまた事実である。
呆然としっぱなしの二柱を尻目に、話は終わりなのか、早苗はそれきり食事に戻った。
後には妙にしんとした沈黙がゆるりと流れる。
早苗が茶を啜る音がやけに大きく響いた。
「…………」
「…………」
二柱は互いに顔を見合わせ、「ちょっと今夜話し合いな」、とアイコンタクトを交わすのだった。
「結婚する!?」
翌日の博麗神社の縁側。
隣に座る早苗から、そろそろ結婚を考えていることを告げられた少女らは心底驚いた様子で声を上げた。
春の陽気が漂う昼下がりのことである。
境内に並んだ桜の木も狂い咲きへと移ろい、その身から整った花びらを惜しげもなく振り撒いている。
縁側に座る四人の側を穏やかな風が吹き抜け、一人として同じでない色とりどりの彼女らの髪の毛に揃ってピンクの装飾を施していく。花びらを払おうとしないのは彼女らも風流さを理解している所為か。
雲一つ無い空では太陽が麗らかに輝き、昨日までの服装ではいささか汗ばむ陽気のようだ、脇を出した巫女装束が丁度いい具合である。
「はい。私も十七ですし、そろそろ結婚する歳かなと」
「はあ……」
顔を引きつらせた霊夢は何気なく周りの少女たちを眺める。
「へえ、結婚ねえ。守矢の巫女は大変だな」
魔理沙はそう言いながらも、冷や汗を流しながらお茶を飲んでいた。
今日も今日とて「暇だから」と神社に入り浸る魔理沙は、やって来た早苗の話を興味本位で聞くことにしたのだが、結婚を考えていることを実際に聞いてみると、彼女もどうにも衝撃を隠せない様子で湯飲みに口をつけ、その熱さに声を上げて舌を出していた。
魔理沙はその性格ゆえ、今が楽しければいいやと思っていて、将来のことについて真剣に考えた事はほとんどなかった。里を飛び出した身の上なので、結婚などといった人並みの生活を諦めている節もある。
いつか本物の魔法使いになるんじゃないかなあ、と他人事のようにぼんやりと思案しているばかりであった。
しかし今、身近な人間である早苗が結婚を考えていると知らされ、何やら将来のことについて焦りを感じることは否定できない。
「ふーん……」
特に興味の無さそうにしているのは紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だった。
珍しくレミリアの姿は無い。買い物の帰りになんとなく寄って霊夢、魔理沙と世間話をしていたのだが、そこに早苗がやって来たので丁度人間四人、談笑に花を咲かせていた。
その途中、早苗がおもむろに切り出したのが先ほどの結婚の話だった。
主に仕えることを第一に考える咲夜からしたら、結婚などとうつつを抜かしていては仕事に支障が出てしまうので微塵も考慮の範囲ではない。元々興味も無い事項である。
そのはずなのだが、咲夜は内心動揺が湧くを感じていた。やはり同年代の少女が及ぼす影響は大きいのか。
中でも一番ショックを受けたのが霊夢だった。
同じ巫女仲間として接していたのだが(巫女と言うと風祝ですと訂正されるが、何が違うのかは良く分からない)、まさか早苗がそんな将来のことについて考えていたとは。
別に先の事について考えたことが無いわけではないが、実際には何もしていないし本気で考えたことも無い自分がひどく幼稚な存在に思えてしまう。早苗は現実的にしっかりと人生について思い巡らせているというのに。
守矢神社の風祝の家系は代々血縁によってその力を保ってきた。
早苗の母親もそうだったし、祖母も同じだ。
ならば早苗が誰かと結婚して子を作るというのも至極当然の運びではあった。
「外の世界ならもっとのんびり探してもいいんですけど、ここは人間の数も少ないですし、うちの神社との交流もほとんど無いです。今から頑張らないといけないと思いまして」
早苗も幻想郷にやってきて日は浅い。神社は山の上にあるし、最近は妖怪の参拝者ならそこそこ増えてきたのだが、人間の男が参拝に訪れる事などまずありえない。だから自分から出向こうというわけだ。
「皆さん、誰かいい方を知っていたりはしませんか?」
話を振られ、三人はどこかぎくりとした様子で一様に気まずく視線を泳がせた。
男の知り合いと言われても、道具屋の主なら知っているがとてもお勧めはできない。そもそも人間ではない。
その中、男性経験などからきし無い魔理沙は、芝居がかった様子で腕組みをして大きく頷く。
「わ、私はほら、人間の里から離れた身だし。霊夢はどうだ?」
「へ? 私?」
突然話を振られ、博麗の巫女はぎょっとした様子で身をすくめる。
魔理沙は幼少から霊夢と友人である。故に霊夢もまた色気のある話題などありはしないことを知っていた。
お前も私と同じだよな? という遠まわしの意地悪い確認である。
案の定霊夢も異性のアテがあるわけでもない。
「別に男の人の知り合いなんていないわよ。人間の中では……たまに会うのが里長さんくらいかしら」
そうして霊夢は隣のメイド長を横目で見やる。
「咲夜はどうなの? よく里に買い物に行ったりするんでしょ?」
「……幻想郷縁起が出てからは声をかけてくる男もいなくなったわね」
気まずい沈黙がにわかに立ち込める。
春風も間が悪いことになりを潜め、縁側の張り詰めた空気を感じ取ったのだろうか、あいにく鳥達のさえずりでお茶を濁してもくれない。
しんとした空気が肌をぶすぶす刺すように刺々しかった。
「……あ、あの」
おもむろに早苗は冷や汗を浮かべて言った。
「すみません……」
そんなことを言われたので三人は更に顔を引きつらせた。
「……なんで、謝るのかしら?」
眉をひくつかせた咲夜にほとんど睨まれながら言われ、早苗は言葉を詰まらせ激しく目を泳がせた。
「あ、あの、私、もう行かないといけませんね」
まずい事を聞いてしまったとは分かるのか、強引に話題を変え、早苗は縁側から一気に飛び立った。
「そ、それでは。話を聞いてくださってありがとうございますっ」
空中でぺこりと頭を下げ、慌てた様子で飛び去っていく早苗を、縁側に座る三人は微妙な表情で見送っていた。
「…………」
「…………」
「…………」
そして再び気まずい沈黙が訪れる。
「……結婚、かあ」
そんな空気をぐりぐり掻き混ぜるように、ぽつりと魔理沙が呟き二人を見やる。
「考えたこと、あるか?」
霊夢と咲夜は揃って大きく首を捻った。
「だよなあ……」
魔理沙が空を見上げたのにつられ、二人も暢気な春の空を見上げた。
確かに彼女らの周囲に男性は少ない。
しかし浮ついた話がないのはそれだけが原因ではなかった。
幻想郷に住む他の多くの人間達と違い、彼女らの周りには妖怪達のほうが圧倒的に多い。
だから少し錯覚していたのかもしれない。
いつまでも変わらない妖怪達と同じように、自分もずっとこのままでいいのだと。変わらないままでいるのだと。
しかしそれは違う。
彼女達は人間だ。百年もすれば寿命で死んでいく儚い存在。こうして一緒に縁側に座っていられるのもいつまで続くことやら。
そして早苗が結婚を考えていると知り、自分達も変わらずにはいられないことを再確認させられた。将来についていずれは考える、ではなく、早苗はとっくに思い巡らせているのだ。
ではそれに対して自分達はどうなのか。
(別に私の人生はとっくに決まってるわよ)
と咲夜は口を尖らせる。
主に仕えることこそ至上であり、そのために生きてそれに死ぬ、それが望む所である。迷いなどない。
「…………」
やがて魔理沙と咲夜は挨拶もそこそこに飛び立っていった。
それを見送り、霊夢は一人縁側に残って茶を啜っている。
「……結婚、かあ」
先ほど魔理沙が呟いた言葉を一人繰り返す。
別に今まで考えなかったことが無いわけでもない。もちろん特定の相手などいなかったが、子供ながらにただ漠然と誰かと結婚することについて思いを馳せた事はある。とうに昔のことであるが。
それに、博麗の巫女の後継者については別に誰だっていい。自分も先代の養子だし、あの人も結婚はしていなかった。
だから霊夢も誰か適当な女の子を見つけて継がせればいいのだが、それももっと先の事になると思っていた。
「……はあ」
しかし結婚について真剣に考えている同年代の巫女仲間を目の当たりにし、果たしてそんな悠長なことを言っていて良いのかという自問はやって来る。
空間にスキマが現れたのはそんな時であった。
「こんにちは、霊夢」
紫はさっさと博麗の巫女の隣に陣取ると、いつもと変わらない飄々とした笑顔を振り撒いてきた。
それに対して霊夢は呆れた顔をするのもいつものことで、なんだか最近は同じ反応をするのに疲れてきた様子だ。
「またあんたは前触れもなく……」
「あら、それじゃあ今度から出てくる前にスキマをノックでもしようかしら。『そっちに行きますよ』なんて言うのもいいわね」
「それはこっちに聞こえるもんなの? 第一、駄目って言っても構わず来るでしょうが」
「あらそうとは限らないわ。物は試しって言わない? 八雲紫は意外と聞き分けの良い妖怪かもしれないわ」
「聞き分けの良い妖怪なんていないわよ。何度言っても勝手にお菓子を持ってくどこかの妖怪もいるわけだし」
「あら大変ね。今度厳しく叱っておくわ」
「そうして頂戴」
なんやかんや言いながらも霊夢はお茶を用意してやった。
何だろう、紫はこちらが話をしたい時に大抵現れる気がする。まさかそうして心情を察知しているのだろうか? もしくは勘が鋭いだけか。とにかく何となく不満だった。
「今年も綺麗に咲いてるわねえ」
境内の桜を眺めながら紫は茶を啜る。
別に毎日のように見てるでしょうが、と思いつつ、霊夢は煎餅を歯で折った。
「冥界の方が数も多いでしょ?」
「多ければいいってものでもないわ」
「ふうん……」
ぼりぼりと霊夢の口の中から音が聞こえてくる。
しばらくそうして二人で桜を眺めていると、おもむろに霊夢は口を開いた。
「ねえ、紫」
「なに?」
「……私さ、そろそろ博麗の巫女の後継者を探そうかとも思うんだけど」
すると紫はきょとんとした様子で霊夢の顔をじっと見やってきた。
霊夢がこんなことを言い出すのは珍しいというものだ。
「どうしたの? あなたがそんな将来のことを言うなんて」
まるで意外や意外といった様子である。
そんな紫の反応について、霊夢は不満そうに若干目元をひくつかせた。そんなに意外か。
「私だって先の事について考えるわよ。いつ異変の折に死ぬかも分からないし」
霊夢は博麗の巫女という役柄のことをよく分かっていた。霊夢に弾幕勝負を挑んでくる妖怪達は後を絶たない。スペルカードルールの考案者として、霊夢はほとんど断ることなく受けて立っていた。
危険な弾幕勝負を誰よりも多く繰り広げ、生傷を作ってはまた別の誰かと勝負をする。永夜異変以降は優秀な医師にかかっているおかげで傷の治りも早いが、一般の人間よりも死が近いことは自覚していた。
「…………」
すると紫は無言になり、前方へと視線を移すと微妙に目を細め、やがてぽつりと呟いた。
「別に死ぬ予定は無いでしょう?」
「それはまあ……」
「なら死ぬかもなんて考えなくていいわよ」
あなたのことは私が守るし。
とは言わないでおいた。いや口に出して霊夢の反応を伺うのも面白そうだけど、機嫌を悪くして行ってしまいそうだ。
「まあ……そうね」
思いのほか真面目に答えられたことにどこか違和感を覚えていた霊夢だけど、まあ冗談でも死ぬかもなんて言わないほうがいいかもしれない、縁起も悪いし。
素直に頷くと、なぜか紫は実に嬉しそうに笑みを浮かべた。
「後継者についてはじっくり決めていきましょう」
「言われなくてもそうするわよ」
「ふふ」
なんだか暑くなってきた。
霊夢は何かを紛らわすように湯飲みのお茶を一気に飲み干した。
アリスの家に魔理沙がやって来たのはその日の夕方のことだった。
「あら魔理沙。何よ突然」
玄関口に立ち尽くし、魔理沙はどこかよそよそしい様子で言葉を濁した。
「いや……ちょっと話しがあって」
「? そう。まあ入って」
何やら様子のおかしい魔理沙に首をかしげながらも、そうして家の中に招いて、招いたはいいのだが相変わらず魔理沙はおかしかった。
アリスがお茶を用意している間も、椅子に座りそわそわした様子で上海をいじくっている。
「ヤメロォー」
髪をぐじゃぐじゃにされた上海が抗議の声をあげ、部屋の隅へと逃げていったのだが、魔理沙は気にとめた様子もなく今度は膝の上に置いた手を握ったり解いたりしていた。
「どうしたの?」
お茶を用意して魔理沙の向かいに座ると、いつもはすぐに紅茶や茶菓子に手を伸ばすのだが、今日の魔理沙は何やら深刻な表情で目を泳がせるばかりだ。
「あー、いや……」
ぽりぽりと頭の後ろを掻いている。まるで何か悪いことをした生徒のようだ。
「本を盗りすぎた所為で紅魔館の図書館に出入り禁止をくらった?」
「出入り禁止は前からだぜ。あと盗ったんじゃない。借りてるんだ」
「何か変な魔法を発動させて困ってる?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「じゃあ借金取りに追われて逃げてきたとか」
「……お前の中での私はどういったキャラ付けなんだ?」
魔理沙は気を取り直すようにごほんと大仰に咳をついてから切り出した。
「あのさ」
「ええ」
「その、本物の魔法使いになるための魔法、教えてくれないか?」
「……え?」
やぶから棒に言われ、アリスは心底驚いた様子でじっと目の前の友人を見やり、飲んでいた紅茶を受け皿に置いた。
「魔法使いになる気になったの? あんたこの前『どうするかまだ決めてない』とか言ってなかった?」
「いや、そうなんだけど……」
魔理沙はバツが悪そうに頭をしきりに引っ掻く。
「ほら、私だって将来について考えることもあるんだぜ。だからほら、選択肢としてな、捨食と捨虫の魔法も学びたいって思って……」
「はあ……」
食事を必要とせず、無限の寿命を持つ本物の魔法使いになるためには捨食の魔法と捨虫の魔法を修めないといけない。
凡人では習得するのに時間が掛かるので、魔法使いになる気があるのなら早めに勉強し出しなさいよ、とは言っていたのだが、魔理沙は人間ではなくなるのに抵抗感があるのか態度を決めかねていた。
しかし今日になってこれである。
何かあったのだろう。
しかし無理に聞くこともない。
まだはっきりと魔法使いになる決心を固めた様子ではないようだが、確かな覚悟がないと教える気にはならない、などとお堅い思考の持ち主でもアリスはないので、知りたいのならさっさと教えてやることにした。
何より、黙っていれば人形みたいに綺麗な魔理沙がずっとその容姿を維持してくれるのならアリスとしてはありがたいことである。ここ最近の何体かの人形はこっそり魔理沙をモデルにしているくらいである。
魔理沙を封印して永遠に瓶詰めとか出来ないかしら、などと考えたことも何度かある。もちろん冗談半分だが。
「いいわよ。教えてあげる」
魔理沙であればそう時間もかからずどちらの魔法も習得できる気がする。
折角だからさっさと会得してその勢いで魔法使いになってもらうのがいいので、パチュリーに協力してもらうのがいいかもしれない。こんな面白そうなことに彼女も興味があるだろう。
「ほんとか。ありがとう、アリス」
「ええ」
珍しく上機嫌でアリスは紅茶に口をつけるのだった。
「ただいま戻りましたお嬢様」
突然斜め後ろに現れた従者に驚いた風もなく、レミリアはおかえりと言ってから紅茶を要求した。
館の五階、東側に設けられたテラスに設置された白いテーブルと椅子、夕暮れ時には太陽が当たらないそこに腰掛け、レミリアは優雅に紅茶を口に運んだ。
朝は西側、昼はパラソルを差せばどこでも、夕は東側でお茶を嗜む。吸血鬼だというのに頻繁に外へ出ているが、屋内に引き篭もるのは彼女の性に合っていなかった。
西日に照らされた紅魔館は普段より余計に紅く色づき、その本来の姿を取り戻したかのようである。とはいえほとんど真横から陽が差し、日傘が用を成さない夕方はレミリアの最も苦手とする時間帯なので、この時の彼女は一日で一番大人しいのだが。
「今日は遅かったのね」
咲夜の買い物といったらそれこそ一刻も経たずに終わるのが普段である。
しかし今日はいつものようにレミリアの気まぐれで要求した料理の食材を買い求めに行ったきり、一時間ほどは帰ってこなかった。別にそれで仕事に支障が出るわけではないが。
「博麗神社に寄って世間話をしていました」
「そう。私も今夜飲みに行きましょうかしら」
「…………」
やがて咲夜は口を開く。
「お嬢様」
「なあに?」
こんな時に自分から発言するなんて珍しいわね、などと思いながらレミリアは応じる。
主が優雅にお茶を楽しむことを咲夜は知っているので、こういう時は必要以上に発言しないのが普通であった。
やがて咲夜は若干ためらいをみせ、硬い口調で言った。
「私はずっとこの館で働いていきたいと思います」
するとレミリアはきょとんとした様子で従者の顔を見やった。
「何? 改まったりして」
「いえ、大した理由は無いのですが」
「ふうん……」
何故咲夜がいきなりこんなことを言い出すのか分からない。なんだか気になるが、問いただすのも格好がつかないので軽く流すことにする。
それに、まあ悪い気はしない。
幼い吸血鬼は紅茶を一口含み、ゆっくりと飲み干した。
「まあ、これからもお願いね」
「はい」
その日一日、レミリアは何やら上機嫌であったという。
翌日の人間の里。
時刻は夕方。夕飯の食材を買い求める主婦らで大通りは賑わい、商売人の威勢の良い掛け声はひっきりなしに飛び交っている。
茜色に染められた家々が軒を連ね、西から東へと長い影を通りに落としていた。
人混みは一日の内で最も賑わいをみせ、人の長細い影が無数に行き交っては店の影へと吸い込まれていく。
そんな中、人間の里に暮らす青年、藤田東吾(仮)二十歳は買い物に出歩いていた。
一般的な幻想郷に暮らす人間と同じように、彼もまた農作業で生活している内の一人である。
容姿は悪くないが少々気を使いすぎる性格が災いし、最近恋人と別れたばかりで現在独身である。
彼には二人の兄がいる。とっくに結婚していて上の兄は子供を三人、下の兄は子供を二人こさえている。
上の兄は農家をする実家を継いでおり、嫁子供と共に両親、そして弟である東吾(仮)と一緒に暮らしている。下の兄は嫁のやっている茶屋へと婿入りし、今もそこらの店で働いている所だろう。
東吾(仮)だけが行き遅れており、両親も心配して婿入りでもなんでも見合い話を持ってきたりはするのだが、振られたショックから未だに立ち直れない彼は、他の女性と会う踏ん切りがつかないでいた。
このままでは婚期がずるずると遅れていってしまうが、ここらで偶然運命の出会いでもしたのなら何かが変わるのかもしれない。
彼が声をかけられたのはそんな時であった。
「すみません、ちょっとお話をいいですか?」
通りを歩く彼に話しかけてきたのは一人の巫女さんらしき少女だった。
緩くウェーブのかかった緑の髪に蛇とカエルのアクセサリーを付け、脇の出した巫女装束に身を包んでいる。
どこかはにかんだような初々しい笑みを浮かべ、傍目に見ても可愛らしい少女である。
突然声をかけてきた早苗を見て、東吾(仮)はおやと首をかしげた。
幻想郷には妖怪と人間が一緒になって暮らしている。博麗の巫女がスペルカードシステムを考案してからは両者の距離も一層近くなり、人間の里を出歩く妖怪も数を増してきた。
とはいえ幼い頃から妖怪と接してきた幻想郷の住民である彼からしたら、目の前の存在が“どっち”なのかは一目見れば分かる。妖怪というのは独特な立ち振る舞いをしているもので、どんなに人間に似ていてもどこか違うとは分かるものだ。
そうして目の前の緑髪の少女を見て、東吾(仮)は彼女が人間だと思った。
人間だと判断したのだが、緑の髪というのはどうにも珍しいということで首を捻ったのだ。普通人間は黒髪である。
しかも何やら巫女装束らしきものを着ている。
博麗の巫女はたまにそこらを歩いているのを見かけるが、その親戚か何かだろうか?
守矢神社で使用する食材はほとんどが山の妖怪達からの寄贈なので、早苗が人里に下りてくることはほとんどなかった。見たことがなくとも不思議ではない。
呆然としている空気を悟ったのか、早苗は邪気の無いにこやかな笑顔を絶やさず語り始めた。
「私は東風谷早苗。守矢神社の風祝をしています。あ、神社は妖怪の山の上の方にありますよ」
「はあ……」
守矢神社というのはちらっと聞いたことがある。なんでも半年程前に山の上にやって来た神社なのだとか。それ以外は特に情報が伝わってきてはいない。
一体自分に何の用事だろうか? と首をかしげる彼に対し、早苗は言った。
「あなたは何か特定の神様を信仰していたりしますか?」
「……へ?」
いきなり妙なことを聞かれ、唖然としている彼に構わず早苗は続けた。
「我が守矢神社では八百万の神の中でもその頂点に近い偉大なる二柱を祭っています。その霊験あらたかさは千里を走り、諸国万度津々浦々知れ渡るほど。信仰の対象とすれば必ずやありがたい効能が現れることでしょう」
神社の紹介をし始めた早苗に対し、彼は「はあ……」と漠然とした相槌を返した。
「きたる五月の三十日、神社の方で例祭が開かれることになっています。よければ神社までお越しください」
「へ? 神社って……あそこの?」
そう言って見上げたのは妖怪の山だった。
天狗や河童といった強力で排他的な妖怪達が闊歩し、人間は決して踏み入らないように厳重に注意されている危険な場所である。
そこにお越しくださいと言われても困る。
それに、あいにく幻想郷には神社に参拝するという常識はない。
神社というのはそこに住む巫女が妖怪達を叩きのめしてから取り込み、夜な夜な化け物共が酒池肉林の宴会を繰り広げる魔窟のような場所である、というのが里での常識である。
「はい!」
しかし早苗は万遍の笑顔で頷いた。
「大丈夫。守矢神社に参拝に行くので、と言ったら道をあけてもらえるよう山の妖怪達には話を通してあります。ですので安心してお越しください。あ、まずはこのお守りを身に付けるだけでも神奈子様のお力を実感できるとは思いますが……」
と言ってごそごそと袖の中を早苗は探り始める。
「あ……えと……」
この少女が一体何を意図しているのか分からない。
東吾(仮)はたじろぎ、冷や汗を浮かべながらじりじりと後ずさる。
無数の強力な妖怪達が闊歩する幻想郷に生きる人間達の常識。
やばそうなのからは逃げろ。
「お、俺、秋穣子様を信仰してるのでー!」
そう言って東吾(仮。名前を出すまでもない)は脱兎のごとく逃げ出していった。
「ああ! ちょ、ちょっと待ってください、まだこれから語ることが! それに複数の神を信仰してもいいんですよ!」
必死の呼びかけにも関わらず、後には早苗がぽつんと取り残された。
農家の人間にとって一番身近な神といったら豊穣の神、秋穣子である。
毎年開かれる収穫祭には特別ゲストとして招かれているし、その際は焼き芋を振舞ってくれるので特に農家の子供達に大人気である。農業で生きる人達にとっても生まれた時から見知った神であるし、その他の人間達にとっても、新参者の神奈子や諏訪子よりはよっぽど信仰の対象となっている。
「……はあ」
周囲の怪訝な視線も意に介さず、早苗はがくりと肩を落とす。
「まただ……一体何がいけないんだろう……」
これで何人目だろうか。
陰鬱とした表情でおもむろに振り向いた。
そこには霊夢が固まった表情で立ち尽くしていた。
買い物を終えた所なのだろう、抱えた紙袋から色艶の良い大根が突き出ている。
たまたま路上で男と話す早苗を見つけ、おやと思い様子を窺っていたのだが、話の内容はまるきり宗教の勧誘であったので呆然としていたのだ。
「あ……」
「はは……」
唖然と口を半開きにした早苗に対し、霊夢は気まずい苦笑いを返していた。
「恥ずかしいところを見られちゃいましたね」
茶屋の軒先に設けられた長椅子に並んで腰掛け、早苗は力無く笑みを零した。
もう太陽が山間に身を沈めてしまっているが、最近めっきり夜が遠くなった所為か、西の空はまだ茜色の光源を絶やさず人間の里を照らしている。それに合わせる様に、通りを歩く人々のせわしない営みもあと少し続きそうである。
商店の店先に掲げられた雪洞に明かりが灯り、近くを通った人の影が幾重にも分かれてはまた一つに戻っていく。
店主が「もうじき店じまいだよ」と声を張り上げ取れたての山菜を売り込もうとするが、大体の人は買い物を済ませてしまっているのか、足を止める人は少ない様子である。
こうして間もなく一日の活動を終えようとする人間の里を、二人はぼんやりと見やっていた。
長椅子の隣に突き立てていた大きな朱色の和傘を、壮年の茶屋の女将さんが折りたたんでからしまい込んだ。
店の中に灯りが付き、茶屋はあと小一時間ほどは開いている。
二人の間には湯飲みが二つと団子が四本並び、しかし団子にはどれも口をつけられてはいなかった。
「いや……ていうかあんた、何やってたの? 結婚相手を探すんじゃなかったの?」
なんだか団子を食べる気分にもなれず、煎茶を飲みながら霊夢は問いかけた。
すると早苗は力無く微笑む。
「はい、いきなりそんなお付き合いするというのもどうかと思いまして、まずは神社の方に参拝に訪れていただこうかと」
「ああ……成程ね」
確かに見ず知らずの者と突然付き合うというのも互いに無理がある。まずは神社の常連になってもらい、良い人であればそこからお近づきになろうということらしい。
最終的には婿入りしてもらうわけだから、参拝くらいできる者でないとそもそも見込みは無いだろう。ついでに信者も増やすことが出来る。
「ですけど……駄目ですね。参拝に訪れてくれる人もいません。やっぱり立地が悪いんでしょうか……」
「それはまあ……」
苦笑いを浮かべながら霊夢は遠くの山を仰ぎ見た。
妖怪の山。
天狗や河童など強力な妖怪達が組織を作る幻想郷最大の異形達の集まり。
人間に対しては排他的であり、迂闊に近づこうものなら速やかに追い返されてしまう。
山に住む河童は人間のことを盟友だと言ってはいるが、にとりのような例外を除いて基本的に彼らも人間を好いてはいない。
故に人間の里に住む人からしたら、決して好んで近づこうとはしない物騒な場所である。
「……まさかここまで山が人間達に恐れられているとは思いませんでした」
「はは……でもまあ、最近はマシな方よ? あんた達が来てからかしらね、山の連中がちょっとは解放的になったのって」
「それは霊夢さんのおかげかと思いますが……」
「そうかしら?」
「はい」
山の神やら天狗やら河童やらとスペルカードルールで対決し、その後に酒に誘ったのは霊夢である。
それまでスペルカードにあまり興味の無かった山の妖怪達も、霊夢がここまでやって来たことに慌て、急いで弾幕の練習をし始めた。何しろ巫女が乗り込んで来たときに弾幕勝負が出来なかったら無条件で負けが決まってしまう。
流行は広まり、今では妖怪の山でも毎日のように弾幕勝負が繰り広げられ、麓からは人間が見物していることもある、という具合に徐々に交流が広まっている。
きっかけは守矢神社であるが、やはり博麗の巫女のおかげという公算が高い。
「あ、でも最近山の妖怪達には信仰が広がっているんですよ? よく参拝に訪れてくれますし」
「そうなの?」
意外なことを聞き、霊夢はきょとんと目をしばたたかせた。
「はい。天狗や河童の方々が来て、世間話とかよくしますよ」
「へえ、妖怪がねえ。信じらんないわね。何か企んでんじゃない?」
あの自分勝手で自己本位の塊である妖怪達が真面目に神様を信仰するなどと、霊夢にとってはにわかに考えられないことであった。
しかし早苗は「いえいえ」とたしなめる様に首を振る。
「霊夢さん。無闇にそう人を疑ってばかりいてはいけませんよ」
「人じゃないけど」
「人も妖怪も区別なくお救いするのが八坂様なのです」
「はあ……」
守矢神社では現在妖怪を相手に信仰を集めている最中である。その目論見はどうやら達成できているようだ。
(うちの神社でも妖怪達に参拝させようかしら)
その思考はすぐに振り払った。毎晩のように飲みに来ることはあるが、彼女らが賽銭箱に何か入れていったことなど一度も無い。信仰心の欠片も無いような連中なのだ。
この前氷精に、あの箱ってなんのためにあるの? と邪気の無い表情で実に不思議そうに聞かれ、本気でへこんだ覚えがある。
「はあ……」
早苗はため息をつき、ぼんやりと前を見やった。そこには夫婦らしき男女と、その間で手を繋いで歩く七歳くらいの女の子の姿があった。
楽しそうに何やら話し合っている。父親は片手で食材の入った包みを抱えており、今夜の晩御飯はなんだろう、などと語らっているのだろうか。
ごく一般的な人間の里の家族である。家に帰れば祖父母が待っていて、一緒に夕飯を作ることだろう。
微笑む彼らは実に幸せそうであった。
「私、お父さんのことが大好きだったんです」
そんな夫婦と子供とを目で追いながら、ぽつりとどこかに落とすように早苗は呟く。
「優しくて大きくて……色んなことを教えてもらいました」
「……今はどこに?」
早苗の視線を追ってその親子を見ていた霊夢が問いかけると、守矢の風祝はふるふると首を横に振る。
「お父さんもお母さんも外の世界に置いて来ました。もう神主でも風祝でもなんでもありません。一般人として幸せに暮らしているはずです」
「そう……」
確かに早苗の親が守矢神社に住んでいるわけではない。何故いないのか特に疑問にも思わなかったが、幻想郷に来る時に置いて来たようだ。すなわち、自ら親元を離れたと言う事。
元から父親のいなかった霊夢からしたら、男の親がどんな感覚なのかは分からない。
しかし早苗がとても親のことを好いていたこと、そして別れがとても辛かったという事は分かった。
外と比べて幻想郷はどう? などということを聞く気にもなれない。
「よし」
と早苗は勢いよく立ち上がる。話をしたことでいくらか元気は戻ったようだ、その顔にはいつもの笑顔が見受けられる。
「すみません、愚痴を言ってしまったようで」
「いいのよ。そんなの妖怪共から聞き慣れてるし」
「そうなんですか……私、もっと頑張ってみようと思います」
妖怪達は博麗神社に飲みに来ては、その日あった嫌なことを洗いざらい吐き出していく。霊夢は適当に相槌を打って聞き流してやるのだが、そうして聞いてくれることで妖怪達は十分満足しているという事に、この博麗の巫女は特に気付いてはいなかった。
「月並みだけど、まあ頑張って」
「はい!」
早苗は今日はもう帰ることにしたのか、妖怪の山の方へ飛び立っていった。
それを見送り、霊夢はほうっと息を吐く。
「本気で結婚とか考えてるのね……はあ……」
別に結婚する気などないというのに、何故自分が気落ちしているのだろうか。
かぶりを振り、霊夢も立ち上がった。傍らには全く手を付けられていない団子が並ぶ。
それを皿ごと手に取り、店の奥へと呼びかけた。
「すみませーん。これ包んでくださーい」
博麗神社に帰る頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
とはいえ幻想郷全体が霊夢の庭みたいなものであり、人間の里から神社までは目をつぶってでも飛んでいくことが出来る。
そうして月明かりに照らされた境内に降り立つと、明かり一つ付いていない神社がひっそりと息を潜めていた。聞こえるのは周囲に広がる林の奥から響く梟の鳴き声と、時折弱く吹く風に煽られた桜の花びらが擦れる音くらいである。
今日は誰も来ていないらしく、本殿の中から酒盛りの音頭も聞こえてこない。妖怪共は霊夢がいようといまいと勝手に宴会を始めるのだから困ったものだ。無断で入るなといつも注意するのだが効果は見受けられなく、神社はほとんど私物化されていると言っても良い。霊夢も最近では諦めがちである。
「晩御飯作らないと……」
そうして中に入り、灯りをつけつつ居間に行くと、縁側に一人の女性が腰掛けているのが目に付いた。
八坂神奈子。
守矢に祭られる神であり、早苗の親代わりともなっている。時々背中に付けているしめ縄は今は無く、ほっそりした身体のラインを確認することが出来る。
「こんばんは」
にこやかに挨拶をされても呆気にとられるしかない。妖怪達であれば勝手に忍び込んでいても不思議ではないが、この神がこうしてやって来るのは珍しいことだ。
「…………」
どうやら霊夢を待っていたらしい。
「何の用よ」
怪訝な表情で口を尖らせると、神奈子はどこか言葉を濁しながら口を開いた。
「ええ……ちょっと早苗のことでね」
つい先ほど会ってきたばかりである。おそらく真面目な話なのだろう。
「…………晩御飯、食べてく?」
霊夢としても気にかかることなので話を聞くことにした。
「いいえ、帰ったら早苗が作ってくれるし」
「そう」
お茶を淹れ、霊夢は持ち帰った団子を振舞い神奈子と並んで縁側に腰掛けた。
三日月と星々が煌々と二人を照らす。
背後からは居間の雪洞が弱い光を湛え、境内に二人の影を薄く伸ばしていた。
風が吹いては桜の花びらを舞い散らせ、二人の足元を掠めて縁の下へと入り込んでいく。
掃除しにくい場所に行った物は今度萃香にでも集めさせようか、と霊夢は肩をすくめる。
「早苗、結婚する気みたいね」
どうせその話題だろうと切り出すと、神奈子は「ええ」と幾分気落ちした様子で頷いた。
「あんたはどうなの? 反対してるとか? いや、風祝の後継者が生まれるのをあんたが妨害するわけもないか」
丁度博麗の巫女と博麗大結界の関係に似ており、東風谷の家系は守矢神社とその神にとっても重要な存在である。
ちゃんと結婚して子供を作る事は絶対に必要なことなのに、まさか神自身がそれの妨げとなるようなことはするまい。神奈子がいくら早苗のことを娘のように大事に思っていても、神と風祝としての分をわきまえてはいるだろう。
「…………」
神奈子はいくらか陰鬱な面持ちでふうっと息を吐く。
「確かに反対はしないわね。結婚相手を見つけるって言ったって、ちゃんとあの子なりに選んでるわけだし。もう子供じゃないわ」
そう言った神奈子の表情は苦悩に満ちていた。結婚などと、と本当は反対したいのかもしれない。霊夢から見ても神奈子は早苗の親みたいだと感じていた。
「今日、早苗と会っていたみたいね」
「え? ああ、そうね。まさか監視してたの?」
「違うわよ。神は耳が早いの。巫女二人で茶屋に座ってる、なんて目立つのもいいとこよ」
「あっそ……」
早苗は巫女じゃなくて風祝じゃないの? とは思ったが案外どっちでもいいのかもしれない。霊夢も何が違うのか区別はつかない。
「何か、言っていた?」
「んー? うーん……男の人を守矢神社に招待してるけど上手くいってないとか、父親が好きだとか、そんなことは言ってたけど」
「そう……」
「まあ神社の場所が場所だしね。ここより人間の里に遠いわけだし、ちょっと縁を結ぶには障害が大きいかしらね」
「…………」
神奈子は何も言わずに湯飲みを手で包み込み、表情無くじっと地面の砂利を見つめていた。
今になって山の上に神社を持ってきたことを後悔しているのかもしれない。腰を据えた以上、今更動かすわけにもいかないが。
やがてぽつりと口を開く。
「私が心配しているのは、あの子が私達神のことばかり気にかけて、自分の幸せについて無頓着になってることよ」
「……無頓着」
言われてみれば確かに、と霊夢は合点する。
早苗は幻想郷の中では珍しく他人に気を配るタイプである。
若干思い込みの激しい所はあるが、大和撫子、とは彼女のような人を指すのだろうか。霊夢から見ても可愛らしい娘なのに、人間の男にもてないのは現人神という立場故か。
とにかく早苗は守矢神社のことを、いや、そこに住む神二柱のことを第一に考えている、というのは傍から見ても分かることである。それだけ大事に思っているのだろうが。
「私は一度早苗に大きな我侭を通したことがあるのよ。この幻想郷に一緒に来てほしいっていう我侭を」
「…………」
『お父さんもお母さんも外の世界に置いて来ました』
もちろん早苗は両親と別れたくなどなかっただろう。それでも同じく家族のように愛する神奈子と諏訪子のため、早苗は見知らぬ地、幻想郷へとやって来た。
一体どんな心境であったのか、霊夢には図り知る事などできない。
「だから結婚相手くらいじっくり早苗の好きに選んでほしい。他にも選択肢はあるわけだし、とにかくあの子の望むようにしてほしいのよ」
「他の選択肢?」
問いかけたが、神奈子は気落ちした様子で答えようとはしなかった。
「焦って探す必要なんてないんだって言ったんだけど、『早く探さないとあっという間に婚期を過ぎてしまいます』と言われてはね。強くは言えないってものよ」
「まあ……早苗自身の問題だしね」
家のために結婚するとは言っても、別にここ幻想郷でも外の世界でも悪いことでもない。完全な自由恋愛の中で運命の相手を見つけなければならない、などというアテのない夢を抱いたりはしない。
だから早苗が結婚相手を探すことは全く構いはしないのである。もちろん神奈子も諏訪子も、早苗の相手が決まりかけた時には厳しいチェックを入れるつもりだが。
「そう。だから私は出来る限りあの子の支えになれればと思ってる。霊夢」
そこで神奈子は居住まいを正して霊夢に向き直った。
「よかったらあなたも早苗の相談相手になってやってほしいの。お願いよ」
「む……」
そう改まって言われると困る。
なんだか照れくさくなった霊夢は視線を前へと向け、頬を人差し指でぽりぽり引っ掻いた。
「相談って言ったって、私には話を聞くくらいしかできないわよ」
「それでいいのよ。ありがとう」
そろそろ帰らないと早苗が心配する。
そう言って神奈子は挨拶の後、空気に溶け込むように掻き消えていった。
博麗神社の境内には守矢神社の分社があり、そこと守矢の本殿とを神奈子は瞬時にして行き来することが出来るのだとか。便利なものねと霊夢も感心したものだ。
「はあ……ここは相談所じゃないっていうのに」
結婚とか慣れないのよ、と霊夢は疲れた様子で息を吐く。
「さっさと食べて寝よ」
すっかり遅くなってしまった晩御飯を作りに、霊夢は台所へと入っていった。
それから三日ほどが経過した昼下がりの事だった。
早苗は相変わらず人間の里を回り、信者獲得へと動いているようだが収穫は無いようだ。妖怪の山の上にある神社に参拝に訪れようという者は、やはりそういるわけでもない。
桜の花びらはますます散り行く速度を速め、地面はピンクの欠片で埋め尽くされるほどである。
一人の老人がやって来たのは、霊夢がそんな境内の掃除をしている時のことであった。
男性で歳は六十過ぎといったところか、少々古臭い着物に草鞋を履き、口元はもっさりとした白い髭で覆われている。
気の良さそうな温和な顔立ちをしており、ここまで登って来た所為か、肩で大きく息をしていた。
「あ、里長さん」
里長と呼ばれた老人は、霊夢を見てにかっと溌剌とした笑みを零す。
「歳はいかんな。ここまで来るのにこんなに疲れるとは。それにしても元気にしとるか、霊夢ちゃん」
「はい、里長さんもお元気そうで。あと霊夢ちゃんはやめてください」
人間の里長であるこの老人は、霊夢がまだ幼い頃に先代を失くしてからは何かと面倒を見てくれたありがたい存在である。
霊夢が成長してからは会うことも少なくなったが、たまにお札を買ってくれたり旬の食材をおすそ分けしてくれたりと、色々世話を焼いてくれる。
「そうか元気にやっとるか。武勇伝は聞いとるよ。この前は地底に行ったんじゃってな」
「はは……まあ、おかげで境内に温泉が湧きました。入っていきますか?」
「それは興味深いが……今日はちょっと相談があってな」
「はあ……」
相談とは何だろう。またお払いの依頼だろうか。
立ち話もなんだということで、霊夢は里長を縁側へと案内した。
「相変わらずここは日当たりが良いな」
「もっと来て下さってもいいんですよ」
上等のお茶と煎餅を脇に置き、霊夢は里長の隣へと腰を降ろした。
「いやいや、毎日妖怪達と楽しく宴会をしているというではないか。人間の里長などが入ったら興がそがれる」
「そんなこと気にする連中じゃないと思いますけど……あと好きで宴会やってるわけじゃありません。あいつらが勝手に入り込んできて酒盛り始めるんです」
「はっはっは。平和で結構。わしもそんなに詳しくはないんじゃがな、霊夢ちゃんが考えたすぺるかーどのおかげで妖怪達と人間との仲もようなってきた。これからもっと良い方向で変化が起きると、わしはそう考えておる」
「……だといいんですけど」
霊夢は照れた様子ではにかんだ。自分の幼少期を知っている所為か、この里長にだけは突っ張らずに素直に接している。一緒にいるとどこかほっとするのも、きっとその所為だろう。
「あと霊夢ちゃんはやめてください」
里長ははっはっはと豪快に笑うだけだった。
「それで本題なんじゃがな」
散々続けた世間話の後、若干声の調子を低く変え、里長はおもむろに切り出した。
何事かと霊夢も緊張した様子で様子を窺う中、里長は髭もじゃの口をもごもごと動かして喋った。
「東風谷早苗と言ったかの、霊夢ちゃんは守矢の風祝とは知り合いじゃったな?」
「へ? はあ……」
意外に早苗の名前が出てきたので霊夢は怪訝な表情をした。確かに最近は人間の里に通っているようだが、あの子が何か問題を起こすようには思えない。
一体何があったのかと首をかしげて言葉を待っていると、やがて里長は難しい表情で呻るように言葉を続けた。
「最近、その娘が人間の里にやって来ては何か宗教の勧誘をしているみたいでな。あれは一体何を意図しているのか分かりかねるのじゃ。聞いてみても『信仰を広めるためです』などと言うばかりじゃよ」
「は……はは……」
霊夢は顔を引きつらせて目を泳がせる。
「まあ宗教は自由にやればいいのじゃが、危険な妖怪の山にある神社に行くよう勧めているのはどうにも放っておけなくてのう。霊夢ちゃんに何か考えはないかと来てみたのじゃが」
「は、はあ……」
冷や汗をだらだらと流しながら霊夢は顔を硬直させていた。
早苗は最終的に結婚相手を探しているのだが、人間達はどうやら本気で困惑している様子である。
ひどくいたたまれない気概に襲われ、霊夢は気まずい苦笑いが絶えなかった。
「あ、あの……里長さん」
「ん? なんじゃ?」
「ええとですね……」
しかしこれは好機かもしれない。
自分では早苗に何かしてやれることはないので、何か進展があればと、早苗が結婚相手を探しているという事を里長に話してみることにした。この人は信用できる存在である。きっと協力もしてくれるだろう。
「成程な……」
事情を聞き、里長はうんうんと大きく頷いた。
「確かに、人間の里に住んでいない、出会いの少ない娘にとって結婚は重大な問題じゃ」
「あの、何か考えが?」
「勿論じゃ」
里長は何やら張り切った様子ですっくと立ち上がった。
「わしが仲人を任されたことなど何度あったことか。里の三十組以上の夫婦はわしの紹介で一緒になったんじゃ。見合いの取り付けは任せてもらおう」
「はあ……」
まあ早苗の取り組みが徒労になっている現状、見合いを組んでくれるというのは何か前進になるのかもしれない。早苗が嫌がったら断ればいいことだし、霊夢は謹んでお願いすることにした。
「お願いします」
「うむ。同時に霊夢ちゃんの見合い相手も探しておこう。いかんぞ? 先代のように独身でいては」
「はい!?」
聞き捨てならないことをさらっと言われ、霊夢は慌てた様子で立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待ってください。いいですよ嫌ですよお見合いなんて」
「そう言って先代の博麗の巫女も見合いを断り続けてのう。全く、希望する男なら山ほどいたというのに……」
「え……」
先代がそんなにもてていたとは知りもしなかった。確かに美人だとは思っていたが。
「そうなん、ですか」
「そうじゃそうじゃ。あの頃はまだここが妖怪神社などと呼ばれてなくてのう。辺鄙な場所にある寂れた神社、そこに独りで住む若くて美人の巫女、ということに何やらロマンを感じたのか、妖怪に遭遇する危険を顧みずここを目指す男共は絶えなかったものじゃ」
「はは、はあ……」
先代の意外な過去について驚きながらも、今現在そんな男共は皆無であることについて霊夢は無性にやるせない気持ちに襲われたが、それはこの神社に妖怪がたむろしているせいだと自分に言い聞かせることにした。
「じゃがあいつは男慣れしてない様子でな。おく手だったんじゃな、要するに。全く、妖怪相手なら強気じゃったくせに」
「う……」
「周囲の同年代のおなごたちが次々と結婚していくのを見て、『博麗の巫女は養子でもいいですから大丈夫』などと逆に諦めて逃げおって」
「うう……」
「本当は内心焦っておったのが見え見えじゃったわい」
「うう、ぐう……」
里長の言葉が霊夢の心臓の奥の奥に突き刺さり、思わず胸を押さえて顔を歪めた。
「当時は博麗の巫女という特別な立場を考慮してわしもあまり強く結婚を勧めなくての…………今から思えば失敗じゃった。霊夢ちゃん」
里長は突然霊夢に向き直り、その細い肩をがっしと強く掴んだ。衝撃で霊夢が少し下にさがる。
「結婚はするものじゃ。結婚はしたほうがいい。わしが仲人を勤めた夫婦達も最初は色々と喧嘩をしても、一年経てば揃って結婚して良かったと言うものじゃ」
「は、はあ……」
「それじゃああの風祝と霊夢ちゃんの仲人はわしが引き受けた。安心して待っておれ」
そう言って何やら上機嫌で去っていく里長。
ひりひりする肩をさすり、我に返った霊夢は慌ててその後姿に呼びかけた。
「い、いやですから私はいいんですって! 里長さん!? お見合いなんてしませんからね! 聞いてますか!? 里長さーん!」
聞いていたのかいないのか、里長の姿はやがて見えなくなった。
「う……」
多分聞いていなかったんだろう、あの里長はのりのりであった。ああなっては自分では止められない。
霊夢は力を失った様子で縁側にがくりと腰掛けうな垂れた。
「なんでこんなことに……」
緩やかな春の空に、霊夢の深いため息が僅かに響いていった。
しかしその数日後、博麗神社の縁側には気落ちした様子でうな垂れる里長が腰掛けていた。
本日も晴れである。桜も勢いを弱めずに狂い咲き、境内の花びらは掃いても掃いてもきりがない。
当人のことではあるのだが、早苗には見合いのことをまだ言わないでいた。どうなるのか分からず、期待をさせておいて駄目だったらあれなので、相手が決まったら話そうと決めていた。その時に本人が見合いは嫌だと言ったら、霊夢と一緒になって断ることが出来るわけであるし。
「里長さん……あの、どう、なりました?」
この様子を見るだけで結果は分かりそうだが、霊夢は念のため問いかけてみた。
すると里長は難しい表情のまま首を振る。
「それが駄目なんじゃ。やはり妖怪の山の上にある神社で働く巫女さんと見合いをしたい、という者はおらんでな」
「そう、ですか……」
「霊夢ちゃんの方ならまだマシという者はおるんじゃが……」
「……マシ?」
半目になって目元を引くつかせる霊夢に対し、里長は慌てた様子でわざとらしく咳をついた。
「と、とにかく、わしはもう少し探してみる」
「早苗のお見合いが決まらないと私もしませんからね」
「分かっておる」
まさか早苗を差し置いて自分だけ見合いをするわけにもいかない。
と、そこで霊夢は我に返った。
「ちょっと待ってください。私はお見合いしないんですって」
「食わず嫌いはいかんぞ。会うだけ会ってみるんじゃ」
会うだけ会ってみろ。見合いを勧める上での常套句である。
「う。だ、第一うちの神社では毎晩のように妖怪共が宴会やってるんですよ? そんな毎日百鬼夜行のここに好き好んで来る人なんていませんよ」
しかし里長は腕を組んでいやいや、と首を振る。
「大丈夫。探せば世の中には物好きがおるものじゃて」
「……物好き?」
「う……ごほっ、ごほん」
そんな時のことだった。
神社に四十歳程の男性がやって来た。
慌てた様子で肩で息をつき、縁側に回りこんで来ると、二人を見つけて声を張り上げる。
「里長! 大変です!」
「む? どうした」
霊夢はやって来た男性にどこか見覚えがあった。確か副里長だったか。相当急いできたのか、額には汗がこびり付いていた。
男は里長の前にやって来てまくし立てた。
「さ、里に妖怪達がやって来て暴れてるんです!」
「ええ!?」
いきなりそんな事を言われ、霊夢はぎょっとして目を見開いた。里長も呆然とした様子だ。
「暴れてる? どうしてですか? どんな妖怪が?」
問いかけた霊夢に対し、男は若干落ち着きを取り戻した様子で首を振った。
「理由は分からない。天狗や河童といった山の妖怪達なんだが……」
「山の?」
霊夢は里長と顔を見合わせ、同時に首をかしげた。
山の妖怪達は組織の属している分、無闇やたらと人間を襲ったりしないはずだ。里に攻め入るなどもっての他である。
吸血鬼やらなんやらが食事のために気まぐれで攻め入ったのならまあ分からないでもないが、よりにもよって一番里を襲ったりしないはずの山の妖怪が暴れているという。一体何があったというのか。
「私、行ってきます」
「頼んだぞ。わしらも後から行く」
空に飛び上がった霊夢に対し、里長は硬い表情で頷く。
そのまま霊夢は人間の里目指して空を駆けていった。
「一体なんだっていうのよ……」
空を飛びながら霊夢は独りごちる。
人間と妖怪達は互いの領分をわきまえてこれまで平和にやってきており、人を襲い退治されるという形式的な行為も安全に執り行われてきて、スペルカードルールが作られてからはそれに乗っ取った戦いが主なものとなっていた。
そのはずだというのに今、里で山の妖怪達が暴れているという。
吸血鬼が暴れているならさっさと懲らしめて終わりだが、天狗達となっては話が別だ。まさか組織だって里を襲うなどと、何かとんでもない問題が発生しているのでは、という焦燥感が拭えない。
「うーん……」
妖怪の山には強力な妖怪達が多い。人間達の手には負えないだろう。
「大変なことになってなきゃいいけど……」
不安を抱えながら、霊夢は全速力で空を切り飛んでいった。
やがて人間の里に到着すると、そこには確かに大通りに数匹の妖怪達が立ち並んでいた。
天狗や河童。総勢六名程か。全員男だ。
周囲の商店や民家がいくらか壊れ、破片が通りに飛び散っているのが見受けられる。どうやら暴れた結果らしい。本当に里で乱暴を働いていたのだ。まあ見る限り本格的に破壊活動に走られているわけではないみたいだけど。
妖怪の数も少数なので霊夢もほっとする。天狗達が組織だって人間の里を潰しに来た、という最悪の事態ではないようだ。
妖怪達は今は破壊行為には及んでいないらしく、揃って前方に立つ人物と対峙していた。
上白沢慧音。
人間の里の守護者たる彼女は、妖怪達が暴れていると知らされ、寺子屋の授業を中断して駆けつけたのだろう。厳しい表情で睨み合いを続けている。
怪我をした人がいたのかどうかは分からない。
逃げたのか逃げるよう言われたのか、周りに人間達は見受けられなかった。こういう時に速やかに離れるのは幻想郷に生きる人間達の常識となっている。
「ちょっと何やってんのよ!」
声を上げつつ慧音の隣に降り立つと、彼女は博麗の巫女にほっとした様子で幾分表情を和らげた。こういう時には霊夢は頼もしい存在である。
一方の妖怪達は驚き、苦虫を噛み潰したような様子をする。異変解決でお馴染みの博麗の巫女に出てこられては分が悪いというものだ。
「霊夢。こいつらさっきから訳の分からないことを言っているんだ」
「訳の分からないこと?」
慧音の言葉に怪訝な表情をし、霊夢は妖怪達を見やる。
天狗が四人に河童が二人。普通山の妖怪といったら天狗は天狗同士、河童は河童同士でつるんでいるのが通常である。同じ山に住んでいるとはいえ、こうして種族を越えて共にいるのは珍しいことではあった。
すると霊夢に怖気づいていた天狗の男達の一人が、今度は開き直った様子で一歩前へ出た。この妖怪達のまとめ役らしき様子である。
「博麗の巫女。俺達を邪魔する道理は無いぞ。俺達はただ弾幕勝負を申し込んだだけだからな」
「弾幕勝負?」
「そうだ。断りやがったから暴れてやっただけだ」
訝しげに首をかしげる霊夢に対し、隣の慧音が声をあげた。
「こいつら里の男達に絡んでいたんだ」
「里の人に? どうしてよ」
「それは分からないが……」
ますます疑問が深まるばかりである。里の人間に絡んで何がしたいのか。
「あのねえ……」
霊夢は呆れた様子で妖怪達を見渡した。
「ただの人間が弾幕勝負を出来るわけないじゃない。なんでそんな事したのよ」
「なんで?」
すると天狗の男はふふんと鼻で笑ってみせる。
「そんなことは決まっている」
天狗や河童が人間の里で暴れるなど、一体どんな深刻な理由があるのかと息を呑む二人に対し、天狗は言い放った。
「俺達の早苗さんに手を出そうとしたからだ」
しん、と場が静まり返った。
風が吹いて埃が舞い、茶屋の軒先に飾られた大き目の風車をかさかさと回していく。
慧音も霊夢も呆然とした様子で口を半開きにし、互いに顔を見合わせてまた前方へと視線をやる。
この妖怪達が何を言ったのか分からなかった。なぜ早苗の名前が出てくるのか。というよりなぜ早苗がこの男達のものになっているのか。
霊夢は滲み出てきた冷や汗を流しながら問いかける。
「ごめん、聞き取りにくかった。もう一回言って。誰の誰だって?」
「俺達の早苗さんだ!」
今度は河童の男が声を上げた。
「俺達は“早苗さんを信仰する会”の会員だ。最近人間の里で早苗さんが信者を探していると聞いてな。余計な虫がつく前に当然妨害しに来たわけだ」
「早苗さんを信仰する会い?」
きな臭い単語を聞いて霊夢と慧音は声を合わせ、揃って顔を引きつらせた。
「何、それ」
「早苗さんは妖怪の山に湧いた心の住みか。まさに理想の女性なのだ。人間共が信仰するなどおこがましい!」
そう言って妖怪達は一同うんうんと深く頷く。
幻想郷ではその土地柄の所為か、女性達も良く言えばたくましく、別の言い方では図々しく自分勝手な者達ばかりである。人間達もそうだし、妖怪であれば特にその傾向が強い。
そんな中、外の世界からやって来た早苗は少々思い込みの激しい所はあるが、大人しくしとやかな上に慎ましい娘である。そういった新鮮な早苗の性格にほだされたのか、妖怪の山の男達には大いに人気が広がっていた。
参拝するという大義名分の元に堂々と会いに行ける上、早苗と世間話もできるので人気の広がりに拍車が掛かっていた。そしてとうとう愛好会みたいなものまで出来てしまったということらしい。
幻想郷に初めて作られたその集まりに、当初は懐疑的であった山の妖怪達も面白半分の軽い気持ちで参加していくうち、いつの間にか“そっち”の存在に染まっていったようだ。
「はあ……そんな事になってたのね」
霊夢は心底呆れた様子で息を吐いた。
重大な事件かと思って駆けつけてみればこれである。一気に脱力するのも無理はない。
最近守矢神社を参拝する妖怪達が増えていると早苗から聞いていたが、まさかそんな理由があったとは。おそらく早苗も知らない非公式のものなのだろう。
それも当然か、と霊夢はげんなりする。ここにいる妖怪達は皆若者ばかりである(霊夢よりは年上だろうが)。山の上層部の古株に目をつけられれば、なんとか会などというアホらしく妖怪としての誇りの欠片もない物は即刻取り潰されることだろう。
「全く……」
なんとか会についてはそれはそれで驚いたが、だからといって乱暴を許すわけにもいかない。
「弾幕勝負なら私が相手になるわよ」
睨まれ、妖怪達は思わずぐっと息を呑んだ。
博麗霊夢。
博麗神社の巫女であり、スペルカードルールの創始者。
数々の異変を解決してきた彼女は弾幕勝負では紛れもなく幻想郷最強クラスである。そこらのにわか弾幕使いが勝てる相手ではない。
しかしここで引くのも妖怪としてのプライドが廃るというものだ。元々山の妖怪達は自尊心が高い。
一体どうする? といった具合で互いに目を見合わせる妖怪達。
それを見て、霊夢は、ああこいつら駄目ねと嘆息するのだった。
弾幕勝負はやって楽しみ見て笑ってなんぼである。異変の折に弾幕勝負を嫌がる者は何人もいたが、この天狗達のように勝負を挑まれて怖気づいているような輩はいなかった。戦うのを嫌がるかどうかはともかく、負けることなど考えないようでないと話にならない。彼らよりは氷精の方がよっぽど霊夢と勝負になるだろう。
両者の睨み合いが続く、そんな時であった。
「面白そうね。私も参加させてもらおうかしら」
天狗達に追い討ちをかけるように突然現れたのはスキマ妖怪、八雲紫である。空間のスキマに腰掛け男達をじろりを見やる。
妖怪達が一斉に顔を青くしたのが見て取れた。
幻想郷最強の妖怪、八雲紫。スペルカードルールでなくとも万に一つも勝ち目はない。
「紫」
霊夢がほっとした顔をするのを満足そうに見ていた紫は、くすりと愉快げに微笑んでみせる。
しかし妖怪達に向けられた目つきは明らかに殺気を孕んだものだった。戦えばただで済ます気はなさそうである。
「ここでやるのもあれだからスキマで場所を移しましょうか。ああ、あなた達はじっとしていればいいわよ。なんてことないわ。すぐ、終わる」
威嚇するかのごとく、空間に不必要なほど大きな切れ目が生まる。
その時には、妖怪達は一目散に山へと逃げ帰っていくところだった。
流石は天狗、一気に姿が見えなくなる。しかし置いていかれた河童は必死に飛んでいくのが見て取れた。
「ふふ」
そんな後姿を眺めていた紫は、上機嫌に笑みを浮かべて扇子をぱちんと鳴らして閉じる。
「駄目ねえ。博麗神社に集まる妖怪達は誰だろうが構わず弾幕勝負を挑むのに」
「…………」
後先考えない馬鹿が集まってるからでしょ、という言うのはなんだか悔しいので霊夢は黙っていた。
紫が弾幕勝負で負けるところなど滅多に見られはしない。自分でも勝率は五割を切ってしまう。
「ありがとう二人共」
気を取り直した慧音に言われ、霊夢は「ううん」と笑顔で首を振った。
「人間の里が襲われてるって聞いたら放っておけないわよ」
そしてその顔がどっと疲れたものに切り替わる。
「……それにしても、昔から妖怪達は馬鹿やるもんだけど今回は飛びぬけてたわね」
「馬鹿というより馬鹿らしいわね」
「できれば二度と遭遇したくないわね、今回みたいなこと」
「同感だ」
三人とも呆れた様子で深いため息をつく。
とその時、慧音が斜め上を見上げておやと呟いた。
「天狗だ」
「え? まだ残って……」
面倒くさそうに霊夢が見上げた先には、カメラを構えて茶屋の屋根から顔を出している射命丸文の姿があった。見られてバツの悪そうな顔をする。
「ややっ、見付かってしまいましたか」
観念したのかばたばたと降りてきた彼女に対し、霊夢は呆れた様子で肩を落とした。
「あんたね……取材してないで止めなさいよ。身内でしょうが」
「いやあはは、記者としての本能でして」
とそこで笑って誤魔化していた文は途端に表情を落とし、不満そうに口を尖らせた。
「それにしても、同族の女の天狗がいるというのにあいつらは……」
心底疲れたり呆れたりした様子でため息をつく。
別に男が欲しいわけではないしあんな連中はごめんだけど、なのだけど何か無性に理不尽な気がしてむかつく。
茶化す気にもなれず、霊夢はぶつくさ文句を言う文の肩を優しくぽんぽん優しく叩いてやった。
「今夜うちに飲みに来なさい」
「うう……」
「それより、信仰する会? のことは黙っといてちょうだい。慧音と紫もお願いね。早苗が変な目で見られるから」
そんな怪しげな噂が広まったら早苗の結婚相手探しは難しくなるだろう。
「早苗には後から話しておくわ。知らないようだったし」
とその時、慧音はバツが悪そうに人差し指で頬を掻いた。
「霊夢。それなんだが……」
「……?」
怪訝な様子をする霊夢を見つめると、おもむろに横を指差した。
「何?」
不思議そうに一同が顔を向けたその先。
「あ……」
紫があらあらと肩をすくめ、霊夢が唖然と呟き、文が苦笑いを浮かべて顔を引きつらせる。
そこには、路地の中ほどに呆然とした様子で立っている守矢の風祝、東風谷早苗の姿があった。
今宵の博麗神社では普段のように宴会が開催されていた。
鬼から人からが入り乱れ、好き勝手に飲んでは突然歌い始め、唐突に眠りこけては笑い転げる。
博麗名物の百鬼夜行。
この神社が妖怪神社と呼ばれている所以である。決まった開催日時などなく、人が妖怪を妖怪が人を呼び自然と飲みが始まっていく。迷惑そうにする博麗の巫女もお決まりとなっては気にする者もいない。
やかましいので襖を締め切り、霊夢と早苗は揃って縁側に腰掛けていた。
時刻は草木もそろそろ寝る準備をし出す戌二つ時を過ぎた辺りか、梟の鳴き声が木々の奥の方からこだまする。
部屋から漏れる明かりにぼんやりと照らされた境内に目を向けると、綺麗に背を伸ばした桜の花びらが無数に散らばっているのが見受けられた。
(これは明日の朝から掃除をしないと駄目ね)
面倒くさいなあと霊夢は息を吐く。
中にいる妖怪共はその大体が朝までいるだろうが、掃除を手伝う者など皆無だろう。それに、下手に妖怪に頼っても良いことは無いと身に染みて分かっていた。
「びっくりしました」
早苗がぽつりと地面に落とすように呟く。その手には酒の注がれたお猪口が握られているが、口をつけてはいないようである。元々お酒は得意ではないようだけど、それとは別に今は飲む気がしないのだろう。
「まさか私に妖怪達のファンクラブが出来てるだなんて」
「……ふぁんくらぶ?」
聞き慣れない単語に霊夢が眉を寄せると、早苗は、ああ、と小さく首を振って言い繕った。
「外の世界で言う愛好会みたいなものです」
「ふうん……」
つい最近まで外の世界にいた所為か、この風祝はたまに妙な単語を口にする。
「さっき文が言ってたけど、天狗のお偉いさんに言えば信仰する会とかは簡単に潰してくれるんだって。あんなんあったら迷惑でしょ? 結婚相手を探すのにも邪魔だし」
潰しましょう潰してやりましょう、言ってくれれば私から上のほうに話を通しておきますよ。とは今神社の中で大酒をくらっている文の言葉である。
風祝が山の妖怪達をたぶらかしたなどと思われては心外なので、早苗の口から「迷惑ですからやめさせてください」と言うのが良いだろうということになった。
「…………」
とそこで、黙っていた早苗はふうと大きく息を吐いた。
「いえ、いいんです。もう決めましたから」
「へ?」
決めたとは何が?
首をかしげる霊夢に対し、早苗はにこやかに微笑んでみせた。
「結婚はしないことにします」
「……え?」
なぜ結婚を諦めるのか。今日までそれを目指していたというのに何故いきなり?
ぎょっとする霊夢を見て取り、早苗は穏やかに笑みを浮かべながら続けた。
「どういった形にしろ、その信仰する会とやらのおかげでうちの神社の信仰が増えたことには違いありません。ですから私が結婚したら彼らの信仰を失うことになってしまいます。松田聖子が結婚した時離れたファンも多かったですし」
「松……誰?」
「あ、こっちの世界のアイドルです」
「はあ……」
気を取り直して霊夢は疑問を口にした。
「でもそれじゃあ守矢の後継者はどうするのよ」
守矢の風祝は代々血縁によって受け継がれてきたものであり、それを絶やさないために結婚相手を探していたのではないのか。結婚を諦めるとなると守矢神社はどうなるのか。
しかし早苗は静かに首を振った。
「私は現人神ですから。実は正真正銘の神へと昇華する方法はあるんです」
「神に?」
そんなことが出来るとは知らなかった。
面を食らった霊夢に対し、早苗は若干得意げに頷いてみせる。
「はい。それによって守矢神社の三柱目としてずっと存在していくことが出来るんですよ」
「はー……」
霊夢は感心した様子でしげしげと早苗を見やった。
以前神奈子が言っていた別の選択肢とはこのことだったのか。
結婚せず子供ももうけず、その姿のままでずっと風祝兼神として信仰の続く限り永遠に存在し続ける。
「結婚して子供を作るのは昔から続くことですから。私もやっぱりそうするのが普通だって、そう思っていたんです」
「……そう」
「でも今日のことで分かったんです。私も神として信仰を集めた方が神社のためになると。守矢神社に所属する誰を信仰してもらっても神社全体の信仰度は上がりますから神奈子様も諏訪子様も安心です。ですから結婚相手探しはもうやめです。霊夢さんには色々と話を聞いてもらってありがとうございました。これからは山の妖怪達相手にばりばり信仰を増やしていきますよ。まあ、信仰する会とやらは解散してもらおうと思いますけど……」
「そっか……」
まさか神になる方法があろうとは。
早苗の結婚を巡る騒動も、これにて決着が付きそうである。
(後は私にお見合いをさせようとする里長さんをなんとかしないと……)
早苗に見合い相手を見繕う必要が無くなれば、霊夢に集中して見合いをさせようとするだろう。
(魔理沙を道連れにするのはどうかしら…………咲夜でもいいわね)
色々と今度のことについて頭を悩ませている霊夢を尻目に、早苗は「それでは」と縁側から立ち上がった。
「神社で神奈子様と諏訪子様が待ってますし、私はもう行きますね」
「飲んでかないの?」
「はは。私、お酒は苦手なんです」
縁側に置かれた早苗のお猪口に注がれた酒は、ほとんど減ってはいなかった。
「それではまた」
境内の中ほどまで進んだ早苗は、そう言って背を向け飛び立っていく。
「早苗」
霊夢が呼びかけたのはその間際のことだった。
今にも飛び立とうとしていた早苗が背中を向けたまま硬直する。
神社の中からは相変わらず妖怪達の騒ぎ声が洩れ出ており、どこか遠くに聞こえる彼女らの声が二人の耳を僅かに掠めた。
暖かな風がさっと吹き抜けると、早苗の緩くウェーブのかかった緑髪を小さく揺らしてから再び勢いを弱める。木々の葉が擦れる音がにわかに響き、それに譲るように鳥や虫の鳴き声がぴたりと止んだ。
霊夢の中には疑問が渦巻いていた。
「あんた、本当にそれでいいの?」
声をかけたが、早苗は背中を向けたまま振り向かないでいた。
「どういうことですか?」
「結婚を諦めて、本当にそれでいいのかって聞いてるのよ」
人であるならば、誰かと結婚して家庭を築いて子供を作ることは当然望むことである。
早苗の親も、祖父母も曾祖父母も先祖代々そうして東風谷の家を継いできた。
しかし神へと昇華するということはそういった人並みの幸せを絶やすということである。
それに、神話の時代から続く千年どころではない守矢の家系を彼女で絶つということだ。たった一人の少女がそれを決定するというのは並大抵のことではない。重圧を感じないはずがない。
「普通の人間と同じようにいい人と結婚して子供を産んで、その子を風祝の後継者として面倒を見ながら歳をとっていく。そんな生活をあんたは望んでいたんじゃなかったの?」
『私、お父さんのことが大好きだったんです』
以前、早苗はそう言った。
父親のことが好きだからこそ両親と同じようにちゃんと結婚して夫を作り、一緒に子供を育てて幸せにしたいと思っていたのではないのか。それが自分の幸せとなるのだと感じていたのではないのか。
神として顕現し子孫を絶つということは、夫の存在を、ひいては父親の存在を否定するということになる。果たしてそれでいいのかと霊夢は疑問を覚えずにはいられない。
現人神といっても彼女は人間だ。東風谷早苗という人物は、霊夢にとって全く想像の及ばない存在ではない。同年代の人間の女の子のはずだ。だからこそ気持ちが分かる所はある。まあ結婚をしたいとはあまり思わないけど、結婚を考えようという早苗の気持ちは魔理沙も咲夜も理解できたはずだ。
「あんたも人でいたいから結婚相手を探していたんでしょ? いくら神社のためだからって、そんなに身を犠牲にする必要があるの?」
結婚相手を探すと早苗が言い出した時から薄々感じていたことだが、本物の神に昇華すると聞いてそれは確信に変わった。
早苗は神社のために過剰に身を犠牲にしようとしている。自分の将来すらいともた易く棒に振るくらいに。
『あの子が私達神のことばかり気にかけて、自分の幸せについて無頓着になってることよ』
とは神奈子の言った事だが、確かにその通りである。
自己の幸せを考えようとしない節がある。
「…………」
しばし背を向けたまま押し黙っていた早苗は、やがて視線を落としたまま振り返った。
その表情は笑っているように見えたが、とてもではないが幸せそうではなかった。
「風祝が……神社のことを第一に考えるのは、当然のことです」
「そう、かもしれないけど」
神社のことを第一に考えている、とはとてもではないが言えない博麗の巫女の霊夢は、バツの悪い様子で声を上げた。かつて神奈子からも、神社は巫女のためにあるのではないと叱られたことがある。
「それにしたって、いくらかは自分の希望を通してもいいんじゃないの?」
それに対し、早苗は力強く首を横に振った。
「うちの神社には信仰が必要なんです」
この風祝は信仰を求める。何よりもそれを優先している。普段であれば早苗が真面目だからで済ませてきたが、今はどうにも分からない。
「どうしてよ。そこまでして――」
「神奈子様と諏訪子様が消えてしまわないためです!」
声を荒げた早苗に、霊夢はぎょっと体を震わせた。
目を見開き、強い眼差しで見つめてくる風祝の瞳をまじまじと見やる。
彼女はきつく眉を寄せていた。
「私は神奈子様と諏訪子様が大切なんです。大好きなんです。生まれたときから側にいて、親みたいな存在で…………知ってますか? あの方達がこの幻想郷に来る前のこと。体はほとんど消えかけて、力もほとんど失っていたんです」
その話は聞いていた。
信仰を失って消えかけた神奈子と諏訪子は外の世界での信心獲得を諦め、苦肉の策として幻想郷に移り住んできた。
今はある程度の信仰を獲得しているので存在が消えることはないが、早苗の抱く不安は拭えなかった。
「私達はやっとの思いで幻想郷にやってきたんです。私は二人を失うのは絶対に嫌です。だから絶対に信仰を集めないといけないんです」
怖かった。
生まれた時から共に暮らしてきた神奈子と諏訪子の体が徐々に消え行き、今にも消滅してしまいそうになり早苗はどれだけ不安を抱いたことだろう。
幻想郷に移り住むことを神奈子が提案して一緒に来てほしいと言われた時も、早苗は二つ返事で承諾した。二柱が消えてしまうなど絶対に嫌であったから、早く行きましょうとしきりに促したほどだ。
そしてここに来てからも、二度と二柱が消えてしまわないように早苗は信仰獲得に躍起になった。彼女らのためであれば自分などいくらでも身を犠牲にしようと誓った。
「私の一番大切な方は神奈子様と諏訪子様なんです。少しでも信仰を獲得するためなら、私は結婚なんてしなくていいんです」
言い放った早苗の表情は、必死に何かを堪えているように見受けられた。
しんと静まり返った境内に、神社の中から妖怪達の笑い声が一際大きく響いてくる。どんちゃん騒ぎの所為で、こちらでどれだけ大声を上げても聞こえはしないようだ。
雲一つ無い夜空では、その頂点近くで上弦の月が煌々と輝き、十歩ほどの距離を開けて向かい合う二人の少女を薄ぼんやりと照らし出す。消え入りそうなくらい弱い影が二人の足元から短く伸びていた。
風が吹いては木々を揺らし、桜の花びらが舞い散っては地面に落ちたものと混ざり合って二人を取り巻いていく。
「…………はあ」
霊夢はやがて大きく息を吐いてから閉じ、それからまた口を開いた。
「それで今のあんたの気持ち、神奈子と諏訪子に話した?」
言われ、早苗はぐっと息を詰まらせる。
「それは…………」
身を震わせる早苗に対し、霊夢はあくまで静かに、穏やかにしかし力強く話しかける。
「ちゃんと話し合いなさいよ。あんたがあの二柱のことを想ってるのと同じように、あいつらもあんたの幸せを望んでる。それなのに無理して神になって人間でなくなったりしたら、あいつら悲しむに決まってるわ」
『私は出来る限りあの子の支えになれればと思ってる』
神奈子は以前そう言った。
早苗を幻想郷に連れてきて、無理をさせて負い目がある、とも。
彼女も諏訪子も早苗のことを本当の娘のように慕っている。娘の幸せを親が望まないはずがない。
「全部を自分勝手にするべきだとは言わない。そんなことしたらあの迷惑な妖怪共と同じだしね」
そう言って神社の方をちらりと見やる。どうせ後片付けをする気のある奴はいないんだろう。朝になって逃げようとする連中を適当に締め上げて手伝わせるつもりだ。
「でも全部を他人のためにするべきでもないわ。加減が重要なのよ。あんたはそれが下手。だからまあ、ちゃんと自分のしたいことを言って、話し合うのは悪くはないんじゃない?」
「…………それは……」
早苗はどこか呆然とした様子で顔を落とした。
自分の希望。やりたいこと。
「…………」
どちらでもよかったから。
結婚して子孫を作って風祝を継がせるのも、神に昇華して永遠となるのも、信仰を集めるのにどちらでもよかったから前者を選んだ。自分のやりたい方を選択した。
しかし今日、里に乗り込んで暴れまわった妖怪達。早苗の信仰会とやら。
早苗自身が信仰を集めていると知り、では守矢神社の新たな神として信仰を集めた方が神奈子と諏訪子のためになるだろう、と思ったから後者へと切り替えた。全ては大切な二柱のために。
しかし本当は誰かいい人と結婚して子供を作りたかったというのは確かだ。神社のためとは別に、自分の幸せのために家族を作りたかった。新たな命を産んで、その子にも家庭を持ってほしいと思っていた。
神へと昇華することも、急いで結婚相手を見つけることも、早苗は無理をしていた事実は否めない。
神奈子と諏訪子の存在を保つために活動して、彼女達の望むことを考えなかった。
分かっていたのだ。
自分が無理をして人生を決定するのだと知ったら、あの二柱はきっと叱ってくる。
だから黙っていた。
急いで結婚相手を探すことが負担になっていることも、神へと昇華するのにためらいがあることも言わないでいた。
言ったら止められると思ったから。
何も言わないであの二柱のためになることをしようと思っていた。その身を犠牲にしようと思っていた。
「…………そう、ですね」
やがて早苗は笑みを零す。それは作ったような微笑みではなく、心の内から自然と湧いてきたような、見た者もいつの間にか笑顔にしてしまう柔らかな笑みであった。
自分の気持ちを吐き出し、霊夢にそのことを叱られ、早苗は自分の中の何か重たい物がすうっと抜け落ちていくのを感じた。
話し合うというのはこんなに良いことだったのだ。だから神奈子や諏訪子ともちゃんと話し合うのがいいんだろう。
「お二方と、話し合ってみようと思います。霊夢さんの言うように」
「そう」
安堵した様子の霊夢に対し、早苗は嬉しそうに微笑んだ。
「霊夢さんが妖怪達に好かれる理由が分かったような気がします」
「……そう? 妖怪共に好かれても嬉しくないけど。それに、無理してるみたいだから焦れったくなっただけよ」
別に自分は当然のことを言っただけなのに。
どこか照れくさそうに頭を掻く霊夢に対し、早苗は笑顔のまま首を横に振った。
「いいえ、参考になります。私も異変解決に参加することがあったらそうしてみたいと思います」
そう言われ、霊夢は恥ずかしそうに頬を人差し指で引っ掻き目を泳がせた。なんだか無性に照れくさい。
「はいはい分かったわよ好きにしなさい」
「ええ。ありがとうございます、霊夢さん」
「う……」
素直に礼を言われ、何だかこそばゆい心地のした霊夢は頬を赤らめ、戸惑った笑みを零した。
「それじゃあ、私は帰ります。本当にお世話になりました」
「うん。遠慮せず話し合うのよ」
「分かってます。でないと霊夢さんに怒られちゃいますから」
「あのね……」
頬をひくつかせた霊夢にぺこりと頭を下げ、早苗は山の方角へと飛び立っていった。
それを見送り、霊夢はほうっと息を吐く。
「まったく……世話を焼かせるのは妖怪だけにしてほしいわね」
「いいじゃない、人間の世話も焼いてあげれば」
いつの間にか縁側に腰掛けていた紫に対し、霊夢は怪訝な顔を向けた。
「あんたね……いつからいたのよ」
「あら、今来たばかりよ」
「……どうだか」
乱暴に紫の隣に座り込むと、酒の注がれたコップをすっと差し出された。
「ありがと」
「どういたしまして、霊夢さん」
「うっ」
やはり聞いていた。
「あんたは……」
紫相手に文句を言っても仕方が無い。
諦めた霊夢は、顔が赤くなったのを誤魔化すように酒を飲み干した。
「それにしても、結婚、かあ」
空になったコップを膝の上でいじくりながら霊夢はぽつりと呟く。
「ねえ、紫。博麗の巫女の中には、結婚して自分で子供を産んだ人もいたの?」
問いに、紫は空のコップに酒を注ぎながら静かに頷いた。
「何人かは、ね」
「そっかあ……」
霊夢は満天の星空をじっと見上げた。
「結婚、したい?」
紫に聞かれると、まあそんなことを問いかけられるんだろうなと何となく分かっていた霊夢は難しい表情をした。
「私にはお父さんなんていなかったし、いなくても十分だった。だから養子で子供を引き取ってもちゃんと育てていく自信はあるし。でも父親がいるのも悪いことじゃないし……」
とそこで、霊夢は、ああもう、と何かを払うように首を横に振った。
「そのうち考えるわよ、そのうち」
そう言ってまた一気に酒を煽る博麗の巫女を見て、紫はどこか嬉しそうにくすくす笑っていた。
「そうね、焦ることなんてないわ。これから考えていけばいい。無理をしないのが一番ね」
神社の中から聞こえるどこか小気味良い喧騒に耳を傾け、二人はしばしの間静かに酒盛りに興じていたという。
「それでどうなったの?」
翌日の博麗神社。
朝起きた霊夢は、居間にころがりいびきを掻く妖怪共を追い返し、桜の花びらが散りばめられた境内の掃除をしていた所、そんな朝早くにやって来た早苗に驚いてから縁側に招き、お茶と茶菓子を出してその横に一緒になって座っていた。
朝の陽射しが白い敷石に反射し、大瑠璃がにわかに鳴き始める。
あれだけ散ったのにまだ咲き足りないのか、狂い咲く桜は相変わらず隙間が見えないほど花びらの密度を濃く身にまとっていた。
霊夢の境内の掃除は当分の間続きそうである。
「あれから神奈子様諏訪子様とじっくり話し合いました」
湯飲みに舞い込んだ桜の花びらを微笑ましく見つめながら早苗は言った。お茶の水面に映った自分の顔はとても晴れやかである。
「それで、今度はのんびりともう少し結婚相手を探してみることにしました。神に昇華するのはどうしてもいい人が見付からなかったら、ということになります」
「そっか」
霊夢は満足そうに笑みを浮かべた。あの二柱と話し合ったのならきっと悪い方向には行かないだろう。
「今のままだと神社に来てくれる方もいないですが……そこは根気良くやっていこうかと思います。物好きな方もいるかもしれませんし」
「物好き、ね……」
と霊夢は苦笑いを浮かべる。
この幻想郷では、神社に参拝する者は物好きなのだという常識が出来上がっているのかもしれない。
もしかして自分の所為だろうか。という疑惑は考えないようにした。勝手に神社に来る妖怪共の所為である。
「まあ、里長さんも協力してくれるって言うし、見合い相手も見つけてくれるわよ」
すると早苗は感心した様子で霊夢をまじまじと見やった。
「そうですか……霊夢さん、人間の里長さんにまで話をしてくれたんですね」
「ええと、まあ……そうね」
冷や汗を浮かべた霊夢はたじろぎながらも頷いた。
里で勧誘をする早苗を不審に思い、里長の方からやって来たということは黙っておくことにした。知ったら早苗はショックを受けそうである。
「霊夢さんには随分とお世話になります」
「だから大したことしてないって」
「そうですか?」
とそこで早苗は境内の桜を楽しそうに眺めた。
風が吹いて花びらが空へと高く舞い上がっていき、所々に漂う白い雲が太陽の光を反射して眩しいくらいに輝いている。
「私、もう少し自分勝手に生きようと思います」
ぽつりと言った早苗に対し、霊夢はうんうんと大きく頷いた。
「それがいいわ。山の妖怪共に遠慮なんてすることないわよ」
早苗が多くの幻想郷の住人と同じように図太い性格になったとしても、その方がここでは上手くやっていけることだろう。
「ふふ。元から遠慮なんてしてませんよ。私はありのままを見てもらうまでです」
「そっか、それがいいわ」
「結婚もいいですけど、神へと昇華するのも別に嫌なわけではないですから。これから考えて、話し合って決めていこうと思います」
そう言って霊夢を楽しげに見つめる。
「その時は話を聞いてもらえますか?」
「いつでも来なさい」
「はい」
霊夢はどこか満更でもない様子でお茶を啜った。
頼りにされるというのもまあ、悪いものでもない。
と、そこで霊夢は考える。
結局早苗が里長に見合いをさせてもらうなら、自分も見合いを勧められるのではないのか。
会うだけとは言われてもやはり億劫なものである。
どうやって断ろうかしらね、と霊夢が悩んでいる時であった。
空から魔理沙と咲夜が揃って飛んできた。
ふらふらしている魔理沙を咲夜が支えてやっている形だ。
「ほら、しっかりしなさい。神社に着いたわよ」
「ううー……」
何事かと目を瞠る二人の隣に魔理沙を座らせ、咲夜は自分も縁側に腰掛けた。
「最近姿見せないと思ったら。魔理沙、あんた一体どうしたのよ」
霊夢の問いかけに、咲夜の方が呆れたように肩をすくめてみせた。
「ここ数日、図書館に魔理沙とアリスが泊り込んで何かやってるのよ。ろくに休んでない様子でこの有様よ。食事も睡眠も必要無い魔法使いに人間が付き合うものじゃないわよ」
「はー……」
しげしげと見つめてくる霊夢に対し、魔理沙は力無くしかし満足そうに微笑んでみせた。
「もう少しで捨食の魔法をマスターできそうなんだ。あ、でも食べるものは食べるからな」
すると霊夢は怪訝な様子で眉をひそめた。
「捨食? 魔法使いになるための魔法よね。あんたそんな事してたの?」
「私だって将来のことについて考えるんだぜ」
「ふーん……」
友人が将来の道筋を定めようとしているのにも今となっては特に驚きもせず、霊夢はそこで咲夜に視線を移した。
「咲夜、あんたお見合いする気ない? 今なら里長さんが面倒見てくれるわよ」
「里長さんが?」
咲夜は首をかしげ、しかしすぐに顔を横に振った。
「結婚する気は無いわね。私はずっと紅魔館で働くわ」
「……そう」
咲夜も自分の生きる道についてちゃんと定めているらしい。
というか咲夜を生贄に見合いを断れたらいいなと思っていたのに。
残念ね、と肩をすくめ、霊夢は境内をぼんやりと眺めた。
掃除をしたばかりだというのに、早くも境内は桜の花びらで埋め尽くされようとしていた。風が吹けば舞い上がり、はるか上空へと踊るように飛び立っていく。
早苗がここ博麗神社に結婚の相談に来てからの数日で、自分達は何かが変わってきているような気がする。
悩み話し合い、その結果として変わることを決めるにしろ、変わらないことを決めるにしろ、今よりは先へと進むのだろう。違う自分へと成長していくのだろう。
その結果、一人ひとり歩く道は別のものとなるだろう。
人でなくなる者がいるかもしれない。
ある者は歳を取り、ある者はそうでないかもしれない。
だけれども今この時、再び縁側にこの四人で座っている。
「咲夜さんもお見合いをしてみてはどうですか? 会ってみるだけでもいいじゃないですか。今なら守矢の縁結びのお守りがありますよ」
「だから結婚なんてする気はないって言ってるじゃないの」
「いや、見合いはするべきだぜ。結婚してお前がいなくなれば本を借りに行きやすくなる」
「余計したくなくなったわよ」
この先何が変わろうとも、こうして集まってしまえば共に和やかに過ごすのだろう。
それが何やら嬉しくて、霊夢は微笑みつつ茶を飲むのだった。
了
皆大切な友人同士であって欲しいし、こんな風に女の子っぽい悩みを話し合ったりして欲しい。
早苗みたいな器量よしな娘なら男なんていくらでもとっかえひっかえ(ry
結婚はもう少し精神的に大人になってからかなー。二柱を心配させないくらいには。
霊夢さんは紫に名づけてもらった子供を二人で育てるんですよねー。わかります。
早苗と比べて色々と達観してるところも見せるけど紫にはてんで敵わない。あと里長にも。
やっぱり博麗の巫女といえど一少女なんだなー。可愛いです。
ああ…霊夢をちゃん付けで呼べる里長になりたい…
何気に登場回数多いですよね
素敵なお話有難うございました。次も期待しています。
その舞台背景となる幻想郷に対する真摯な考察が、
物語に豊かな厚みを与えていて素晴らしかったです。
妖怪と人間の最大の違いは寿命に起因する変化の速さの違いかもしれません。
そうした人間である事の恍惚と不安がよく表現されていて‥、
特に突っ走り気味の早苗を諭す霊夢はその白眉でした。
後、本筋と別に散りばめてある上品な諧謔も素敵です。
その中でも、
> 神社というのはそこに住む巫女が妖怪達を叩きのめしてから取り込み、
> 夜な夜な化け物共が酒池肉林の宴会を繰り広げる魔窟のような場所である、
> というのが最近の里での常識である。
には、本気で吹いてしまいました‥賽銭箱が潤う可能性は限りなく低そうです。
様々に楽しめるよい作品をありがとうございました。
オリキャラ出てても話がぶれないから
安心して読んでいられました。
さて、ちょっと山の神社に結婚申し込みに行ってくるかな。
早苗さんには幸せになってほしいですねぇ。
なんせ結婚しようとしたら妖怪の男どもがおしよせて襲ってくるんだぜ?
そうか!霊夢と結婚すればいいんだ!
紫に境界弄ってもらえば男になれるだろうしな!
簡単そうで難しい、おおいに悩め乙女達。
ちょっと人生について考えました、面白かったです。
俗に言うサザエさん時空ですから、こういったテーマでキャラを想像するのもとても面白みがあります。
小難しくし過ぎず、セリフ・地ともに簡単な文章構成なのでテンポよく読めたのも非常に好感をもてました。
しかし所々ボケてるのは早苗だけじゃないんだなw
山の妖怪共とはいい酒が飲めそうだ(駄目人間的な意味で
もう、凄い良かった!!!!!
…あれ、東吾は?
霊夢は「あんたでいいわ。勘で」とかで決めそうですけどw
後、半分だけ人間+寿命が長いので別ケースかもしれませんが、
妖夢も跡継ぎで悩みそうだなぁ・・・西行寺家にお仕えする魂魄家という名をしょってますし。
そこには二児の母となった○○の姿が、で終わりそうなんだよな
サザエさん時空だからこそいつまでも少女同士の弾幕ごっこなわけで
本当の意味で幻想郷の時間が進めばいつの間にか皆別々の人物相関図を持ってるんだろなぁとしみじみ
あと
>>道具屋の主なら知っているがとてもお勧めはできない
合ってるけどひでぇw
難しそうなテーマのお話でしたが、山あり谷ありで面白かったです。
たくさんのキャラ(中には数行だけしか登場しない者も)が出てきましたが、なんか皆生き生きしていたように思います。
藤田東吾(仮)君とは、美味い酒が飲めそうです。
あんまり関係ないですが、求聞史記みると確かに咲夜さんの扱いがひどいですね…
シャンハイの「ヤメロォー」がかわいいなぁ
この雰囲気がいいなぁ・・・・。”霊夢が霊夢らしい”というか何というか・・・・これだと何かおかしい気もしますが、あれです。”いずれ訪れるかも知れない岐路”として自然に読むことが出来ました。
うん。
そうは言えど・・・・別の視点として百合もいいよn(スキマ送り
ありがとうございました。
それが出来ないのだったら、どうするだろうかなぁ。
自分の為だったり他人の為だったり、何にしてもその先にお互いの幸せがあるように考えるのが大事ですよね。
大変楽しく読めました。
幻想郷をより身近に感じられて嬉しかったです。
早苗の跡取り問題を軸に物語が淡々と、
でも読んでる者を飽きさせず、
人間四人の心理描写もうまく絡めていて
とてもすんなり読めました。
人里での、信仰する会(笑)との対決?のところが大好きです。
あなたの描くキャラ達はオリキャラも含め、とても魅力的です。
あ~、可愛いな~マジで。
ある意味で少女臭のするすばらしい作品でした。
クソッ、良妻賢母な美人嫁は既に幻想か!
こうして長い月日が経ってもすんなり世界に入り込めるのは良く出来た文章があるからこそ。
というか前半ゆかれいむ(?)のシーンが微妙に変わってますねw
前は前の出、これはこれでいいかも。
いい作品をありがとうございました
実にいい
ところで霊夢よ、ここに楽園の素敵な巫女と仲良くな、うわなにをsu
しかも、男オリキャラが嫌われる中、結婚という題材だし。
また早苗さんだけではなく、触発され四者四様に進む道を朧気に自覚し、いつかの別れ道を自覚しながらそれでも今共にある、というのは青春を感じさせられた。
いや、少女達の大人への一歩、よいお話でした。