八雲藍は九尾の妖狐である。その名の通りその妖力は絶大であり、頭脳、技術においても最強の妖獣の異名にふさわしい超一級品である。
並の妖怪では彼女のなを聞いただけで逃げ出すほどである。
「藍、今日の昼はきつねうどんが食べたい。それとお茶おかわり」
「藍、私の枕の近くに置いてあったCCさ○らの単庫本がないの。というわけで探しなさい」
「藍様、お手伝いいたしますか?疲れているみたいに見えますよ」
「橙、ありがとう。私は大丈夫だから気にせず遊びに行ってきなさい。友達をまたせてはいけないだろう」
もう一度、伝えておく。八雲藍は最強の妖獣の異名を持つ式神である。その事実に嘘偽り狂言は一切ない。
たとえ博麗の巫女に使い走りにされても、主にいいようにこき使われても、自身の式に心配されようとも藍は九尾の妖狐なのである。
どんな扱いであってもその美しく輝く九つのふさふさな尾は色あせないのだ。
さて、藍の苦労人具合はこの辺にしておき、今藍は妖怪の山に向かっている最中である。
結界の見回りを終え、主の部屋を片付けダブルベットを用意し、橙と一緒に残りの朝食の後片付けをしている最中に霊夢から夢想封印を浴び、立て続けに胸倉をつかまれもう抗議され、客室を用意し、今度は紫のスキマに落とされ、 主に説教をし、冒頭の要件をすべて行ってようやく作った自由なひと時。
厄払いとは妖怪の山付近にいる鍵山雛に厄を取ってもらうことであり、藍も定期的に厄払いにはいっているもののさすがに今日はひどいと感じ、向かっている。ちなみに藍以外にも常連は多々おり、今ではカウンセリングも行っているそうである。
そんな移動中、藍は見慣れた背中を目撃した。銀色の短髪にひょっこり浮かぶ霊魂、ほぼ間違いはないだろう。声をかけるとその少女、魂魄妖夢はこちらを振り向き、藍を見ると行儀よく挨拶をした。
妖夢の主である西行寺幽々子と紫が親友であるため、自然と藍と妖夢も互いをよく知るようになった。
まだ未熟な妖夢にとっては藍は姉のような存在であった。実際、藍自身も妹のように感じている。
「人間の里にかい?」
「はい。昼食と夕食の買い物に今から」
「つい一昨日に、一週間分の食料を買っておいたんじゃないのかい?」
ちなみに白玉桜の一週間の食費を一般家庭の一週間と同じと思ってはいけない。
その量の差は
察してくれたまえ
「この前の夕食の時に幽々子様が『限界に挑戦する』っていいだして、次の宴会までにはタイトルポーターをとか言い出して」
「ははは、それは災難だったね」
こういう場合は笑うに限る。
訂正、笑うしかない。下手に同情されたりされると泣くかもしれないからだ。
前に妖夢が白髪が増えたと嘆いたときなどは「藍さんは白髪とかなく綺麗な髪ですね」といわれ、実は数ヵ月毎に白髪染めしていることを告げたときなどはひきつった笑みでこれ完璧に同情してるだろう的な空気が流れた。
夜中に独りで泣いたことは秘密である。
お互いの苦労話に花を咲かせながら人里付近で妖夢と別れ、藍は目的地へと進んだ。
「で、なんでこんな真っ昼間からド派手に、見境なく、ハチャメチャに殺りあってくれているんだ貴様たちは」
そう、それは里付近に広がる竹林上空を飛んでいるときだった。
激しい爆音と爆煙が遠くに見えてしまった。
何処かで見たような不死鳥の炎やら、何処かで見たようなド派手なレーザー砲やら、何処かで見たようなまがまがしい剣やらが見えてしまった。
そう、見えちゃったんだ。
関わったらだめだろうなぁ、と大きく迂回しようと考えた時にはもう遅かった。
何処かで見たような三つが一斉に藍めがけて遅いかかった。いくら藍でも、これは無理。
だって、今日は厄日だもん。
直撃ではないにしろ被弾すれば只ではすまない代物ばかりを食らったもんだから、服の所々が焦げてたりもうボロボロ。
暫くお待ちください。
只今九尾の妖狐、乱心中。
そしてさっきの台詞へと繋がる。
藍の目の前にはそりゃもう藍にフルボッコにされた三人、フランドール、魔理沙、妹紅が綺麗に正座させられている。
九尾の妖狐、なめんなよ。
三人はそれぞれ下を向いたまま、だんまりをきめこんでいる。
「大体、なんでまたこんな時間にお前たちが? 特にフランドール。お前はレミリアと同じで吸血鬼なんだろう。それでなくてもレミリアが外出は禁止にしていたんじゃないのか?」
ちなみに今は日傘をさしている。
レミリアの名前が出たとたん、日傘をもつ手が強くなり、顔を上げ口を開くと荒々しく語った。
「だってお姉様ったらいっつもいっつも昼間は寝てるんだよ!しかも私が地下から抜け出した時に限って!『夜は優雅に過ごすものよ、フラン』とかいってずせっんぜん遊んでくれないし!だからって外に出ようとすると怒るし!だから昼なら遊んでくれるんだろうなって思ったら吸血鬼の癖に寝てるし!起こそうと思ってレヴァテインで叩いたら、ちょっと手が滑って壁に穴開けて、だからって日の光で火傷したくらいでメッチャおこるし!だからむしゃくしゃしてこの低脳カリスマブレイク!っていって家出してやったけどまだむしゃくしゃしてたら魔理沙とコイツが弾幕ってたから参加しただけ」
所々突っ込み所はあったが、取りあえず分かったことは、まず魔理沙と妹紅が弾幕っていてそこに家出したフランドールが参加、と。
状況を整理しながら今度は魔理沙と妹紅を見る。まだ下を向いたままだ。
「取りあえず、フランドールはわかったが、他の二人はなんでまた?」
藍が睨み付けると要約二人の重い口が開きボソボソと言った。
「………アリスと、喧嘩した」
「………輝夜と、喧嘩した」
「………痴話か」
「「違う!!」」
藍がボソッと呟くと即座に反応する二人。そして二人はそれぞれの主張を言った。
「今日も昼にアリスのとこで昼飯をご馳走になってやろうと思って中に入ったんだよ。まだアリスは上で作業してたから暫く待ってやったんだが腹がへって丁度テーブルの上にあった袋からクッキーを取って食べたんだよ。あ、クッキーは最高だったぜ。でだ、そうしたら上からアリスが下りてきて私を見るなり『何クッキー食べてくれてるの、せっかくパチュリーにって作ったのに』だってよ!第一声に言うセリフか普通!それからもことある事にパチュリーが出てきやがって!あんまりにもしつこいからクッキー全部食ってスターダストレヴァリエぶっかまして!………それでムシャクシャしてるとこに、こいつがいたから、その、流れで」
魔理沙は話が中盤に差し掛かるにつれて音量が上がり、終いには手振りも加わった。が、終盤一気にトーンが下がり上がっていた手も力を失いぶら~んと垂れ下がった。
魔理沙の話が終わると同時に最後の妹紅が口を開いた。
「弁解するが、喧嘩吹っ掛けてきたのはそいつだからな。それ以前に私は被害者なんだ。今日だって永遠亭に行って、いっておくが毎日じゃないからな!たまには、そうたまには私の方から出向いてやろうってな!そんで、近くの兎にあいつの居場所を聞いて向かったら珍しく何かしている後ろ姿が見えて、こっちに全然気付かねぇのに腹が立って、後ろから脅かしてやったら、あのバカ予想以上にビックリしやがって、近くにあった墨汁こぼしやがって、めっちゃ怒りやがって、こっちもついかっとなって、フジヤマヴォルケイノぶっぱなして、逃げた時に魔理沙と捌あったんだよ」
三人の話を聞き終えた藍の頭の中の三分の二では、夕飯は橙の好きな秋刀魚にしよう、と献立を考えていた。
藍的には痴話よりも橙の方が大事なのである。これ、藍の宇宙の真理。
ちなみに三人の会話のツッコミは画面の前で代わりにしてくれ。つかれた。By藍
だからといって、ここでサヨナラができないのは藍がお人好し、この場合はお妖怪好しであり、幻想郷随一の苦労人であるためであり、三人を見て今日何度目かわからないため息を吐いた。
「お前たちの辞書に謝るという単語と意味が乗っているのか不思議に思うな」
あの後、閻魔様並のお説教を聴かせ、自身が謝らないといけないことを解らせる。
三人とも急所ばかりを指摘され反論などさせてもらえなかった。ちなみにこの後、藍は三人のお説教怖いリストに四季映姫、慧音の次にランクインしたらしい。
お説教を言いかかせ終わるとその場に背を向けた。
が、飛べなかった。
決して、藍が重いとかではない。
尻尾に重りが付いていた。
ガッチリと掴んでいた。
振りほどいてみようと試みた。
フリフリフリ
取れない。
フリフリフリ
離れない。
フリフリフリ
外れない。
「これはまた、不思議な組み合わせだこと」
「私も切実にそう思うよ」
向かいに座る永琳は湯飲みを口元に運んで取りあえず聞いてみた。
ちなみに湯飲みは永琳専用らしく、大きく『八意』と筆書きされている。
藍が永遠亭にいるのには訳が、いや、もう言わなくてもわかるだろう。
三人とも、独りで謝るのは恥ずかしいらしいが、謝らなければならないことはわかっている。
で、藍の出番な訳である。なんだかんだで主人公+EXボス二人なのだから分が悪い。
ちなみに藍曰く、やってヤれないこともないらしい。
しかしながら、結局は引き受けてしまうあたり、藍は自分も丸くなったなぁと苦笑するのであった。
そんな訳での永遠亭である。
「ま、用件は言わなくても、解るけれど、心中、お察知するわ」
永琳は藍とその後ろに座る、ものすごい不機嫌そうな表情を作っている妹紅をそれぞれ一回みて呟いた。
「お互いに、な」
藍が苦笑いお浮かべそういうと、それもそうね、とまたお茶を啜った。
永琳の後ろでは、不機嫌が滲み出ている輝夜がむっすりとふてくされている。
「てっきり上白沢に説教されてると思っていたのに。こんなに早く、しかもあなたを連れて」
「私としては早く終わらせてしまいたいのだが、どうやらそんな空気ではないようだな」
藍が視線を後ろに向けると、敵意むき出しで睨みつけている不死鳥っ子がいた。ちなみにあちら側では威嚇をしている竹取っ子。両者の間には火花が絶えず鳴り響いているようなものだ。しかも部屋に入り眼と眼が合った瞬間からである。
これでは今すぐにでも殺し合いを始めそうである。
おもむろに袖にしまってあるスペルカードを確認していると、お茶を飲みほした永琳がすっと立ち上がった。
「それでは姫様、失礼します。ついでに妹紅もね」
「え! 永琳? 何? 」
永琳はどこからともなく縄を取り出すと華麗な手さばきで輝夜と妹紅をぐるぐる巻きにした。
その美しく、そして奇怪な行為の前にその場にいた全員、もちろん縛られた二人も含めてストップ状態になった。
最初に我に返ったのはやっぱり藍だった。
「永琳殿! いきなり何をしているんですか! 」
「こうでもしないと二人とも暴れちゃうでしょ。暴れるのは勝手だけど、屋敷を直すのも大変ですし、ぶっちゃけ今は手が込んでいるんです」
悪びれた様子もなくけろっと口に出す永琳。さすがは天才、なのだろうか?今の藍には理解できなかった。
そのあとすぐに全員我に返り、当の二人は必死に縄を解こうとしたが「それは特別製なので無駄ですよ」と永琳が言うようにまったく解けるようすはなかった。
「ま、ここは姫様たちに任せて、後ろの二人にはちょっと来てもらいたいんだけれど。できればあなたもね」
「………構わない。では行こうとしようか」
藍はスルーした。必死にもがく二人をスルーした。よくよく考えてみれば、これなら二人とも平和的な話し合いで解決してくれるだろう。そう藍は二人を信じよう。てかぶっちゃけ面倒くさいし。
そして完全に二人は放置プレイされた。
二人っきりになった輝夜と妹紅。最初こそ縄を解こうと頑張っていたが、永琳の言ったように全くの無駄な抵抗だった。結局はあきらめてしまい、無言で静かな時間が流れ始める。
空気が重い。妹紅はそう感じていた。
100歩譲って考えてみると、自分が悪いようにも思えなくはない。
だからといって、謝るといっても相手は輝夜。しかもものすごく怒っている。
いつもの済ましたり、相手の考えていることを全部悟ったような余裕あるものは今日はない。
こちらと目線を合わせようとはせず、現在進行形でふてくされている。
例えるなら親友の慧音が先生を務める寺子屋にいる、喧嘩した直後の子と同じ印象だ。
そう考えると、何のことはない。もともと猪突猛進な性格である妹紅はあれこれ考えるのが苦手であり、そんな時はいつも失敗する。
呼んでみると思ったとおり応答した。下を向いたままでが。妹紅はつづけて口を開いた。
「パンツ丸見えだぞ」
「!! 」
さっきまでの重い空気はどこえやら。すっかり壊された空気の中、顔が真っ赤な輝夜は急いで座り直す。実は見えそうになってただけで見えなかったのだが、自分のペースをつかむにはちょうどいい。まだ赤いが落着きを取り戻した輝夜に、妹紅は視線をそらさずに妹紅は言う。
「さっきは、すまなかった」
言い終わるとそのまま頭を下げた。思えば輝夜に頭を下げるなど出会ったころからは考えもしなかった。謝ることなんて問題外。
妹紅にとってはいまだに輝夜は嫌な奴のカテゴリーには入っているが、それでも変わったと思った。
頭を下げて2¸3分が経つころだろうか。何の反応もない輝夜にどうしたものかと思ったが、すぐに思いついた。
輝夜は自分のペース、または自分を保っているときは簡単にいえば気まぐれな高飛車だが、いったんペースを取られたりすると何もできなくなる。最も、輝夜のペースを崩すのは相当難しいわけで妹紅もたまにしかできない。
「いつまで頭は下げてればいいんだ? 」
こういう場合は妹紅が引っ張らないと会話すら成り立たない。まだ頭は下げているため見えないが、輝夜のおどおどした姿が目に浮かぶ。
「それともこのまま床に顔面を何度もぶつければいいのか? 」
「それじゃあ私が悪者みたいじゃない! 」
「なら私が悪者なのか? なんでまた」
「それは、妹紅が、悪いからで」
「理由もわからないで悪者扱いはないだろ。せめて理由くらい聞かせろよ」
実際、輝夜がなぜお怒りなのか妹紅にはその理由がわからなかった。考えはしたが思いつかず、てっとり早く聞いてみた。わからないことは人に聞けって慧音が言ってた。
輝夜は口ごもり、少し間を空けてから「とりあえず、顔あげなさいよ」と妹紅に言った。今度は二人とも視線が合い、そして輝夜は意を決したように口を開いた。
「この前、玄関にあった水墨画を見ていいなぁって言ってたから、せっかくだからって、妹紅の家にも飾ってやろうって、ちょうど水墨画を描いてたのよ」
「この前?あぁあの時の」
この前とはいつもの用に殺しあった後、輝夜を背負って永遠亭まで送った時だ。その時玄関に飾ってあった水墨画をみて確かにいいなぁともいった。
「ちょっとまて。あれは里で買ったんじゃないのか。それに平安時代には水墨画はないだろ」
「それくらい月の使者から隠れているときに覚えたわよ。それにあれは昔に私が書いた作品で、この前里に行ったら売ってあったから懐かしくなって買ったの。」
「それは、その、悪かった」
「あと少しで完成だったのに。結構時間かかったのに。疲れるのよ水墨画描くのって」
「だから悪かったって言ってるだろ。大体日頃の行いが悪いからあんなことになるんだ」
「いっつも野宿な妹紅に言われたくありません」
「野宿じゃない! そんなんだからあれは因果応報だ」
「この前竹林火事にしそうになった妹紅には言われたくない」
「あれもお前が先に仕掛けてきたからああなったんだろうが」
「責任転嫁」
「ちげーよ! この蓬莱ニート」
「野宿なもこたんよりはマシ」
「だから野宿じゃねーっていってんだろ、このばかぐや」
「じゃあ放火魔」
「じゃあじゃねーだろそれ! 」
「ところで、この二人に何か用事でも? 」
所変わって永遠亭廊下。永琳を先頭に藍、魔理沙、フランと続く。永琳の話では後ろの二人に用があるらしい。なら私はもう帰っていいのではと頭にはよぎるが、このまま見捨てることもできないので付き合っている藍。
普段、極上級の気まぐれ天上天下唯我独尊主人+その親友に振り回されているせいなのか、お人よしが根の奥底まで浸透したのだろう。
「そうそう。魔理沙と、確か、フランドール、さんであってました? 二人に用があるだろう患者がいまして」
「二人に? 」
そう案内されたのはとある病室。木造な造りである永遠亭に白を基調とした看板やらカーテンやらと何ともミスマッチな気もする。
そんなところは気にせずに藍たちは永琳が開けたドアの奥をのぞいた。そこにはベッドが二つ置いてあり、永琳の弟子でもある鈴仙が看護婦のコスチュームでカルテを片手に患者を診ていた。
大切なのはコスプレしている鈴仙ではなく、鈴仙が見ている患者にあった。
「アリス! 」
「お姉様! 」
そこにいたのは七色の魔法使いことアリス・マーガトロイドと紅魔館の主、レミリア・スカーレットが付き添いと共に横たわっていた。
ちなみにアリスには上海、蓬莱とパチュリー、レミリアには咲夜が付き添っている。
付き添いの二人は藍たちに気がついたようでこちらに向かってくる。
「二人とも、おんなじタイミングで搬送されてね。アリスは全身打撲、レミリアは全身火傷。ま、二人とも妖怪だから大丈夫だったんだけどね。詳しくは二人から聞いて」
「ん? 永琳殿はどちらに? 」
「そろそろ戻って縄を解かないとね。姫が不機嫌で爆発しちゃうかもしれないですし」
そうして永琳はすたすたとその場を後にした。
こうなると、この場を進行する役は藍しかいないわけで、とりあえず付き添いの二人に話を聞くことにした。
はじめはアリスから。
「今朝アリスの人形が借りていた本と手紙を持って図書館にやってきたのよ。全く、アリスくらいだわ、きちんと本を返しに来てくれる来客は。他の連中なんて借りっぱなしは当たり前。無断進入無断貸出無断延長。時には荒らすだけ荒らしてそのままにして帰ってくれる白黒も出没するし。わかる? あの後は小悪魔が必死に後始末してくれてるのよ。レミィのメイドたちは館内で精いっぱいだからこっちに回せないし。アリスが手伝ってくれなきゃとてもやってられない時だってあったわけだし。あら、ちょっと脱線したわね。それでその人形が図書館でいきなり糸が切れたみたいに動かなくなってね。少し調べたらどうやらアリスの魔力の糸が切れてたみたいで。おかしいと思ってアリスの家に行ってみたら案の定見覚えのある巨大な円形の穴と瓦礫の中に倒れてたアリスを見つけたわけ。急いでアリスを抱いて永遠亭に連れていって今に至るわけね。」
ところどころ、魔理沙が胸を押さえてウグッっとなっていたが自業自得ということにして無視をした。今の藍はもう細かいところを気にしないあきらめの心を身につけていた。
「ですから紅魔館にはいなかったんですね。小悪魔が心配していましたよ。お嬢様について? お嬢様は私の命の恩人であり私が心から慕うただ一人の主です。その姿は美しく、見る者を魅了し、一度羽ばたけば世界が止まったような、え? 違う? ここに運ばれた経緯? そちらでしたか。今朝、その時はちょうど洗濯物を干していた時で。あ、違います、決してお嬢様の下着をつかんで微笑んでたりなんて変態的なことはしてません。え? 魔理沙が言ってた? 「まtピチュ-ン」失礼しました。それにその時間は洗濯物を干しながら美鈴を影で眺める時間です。あら、話がずれてしまいましたね。それでその時に激しい音が館内から聞えてきたので急いでお嬢様の部屋に向かったら、お嬢様に太陽光が直撃してしまっていて、急いで日陰に移動しましてそのまま館内を美鈴に任せて永遠亭にむかったわけです。」
話が進むにつれ、フランドールの表情がころころと変化していった。どういった風に変化したかというと、オロオロ→激しく頷く→びっくり→あ...→トイレで紙がなかったと並みの絶望、といった感じである。
ちなみに魔理沙は一回ピチュリました。
そのあと藍がこれまでの経緯を話すと二人とも口をそろえてやっぱり、と呟いた。どうやら犯人は分かっていたらしい。
「それじゃあ魔理沙。さっさとこっち来なさい。それから妹様。そこの八雲の式と一緒にレミィの所に行きなさい。咲夜は、そうね、紅茶でも持ってきてちょうだい。台所の場所ならそこら辺にいる兎から聞けばいいし。できるだけゆっくりとね」
「はい、わかりました」
ちなみにここにも藍には選択権はなかった。藍も内心わかってたため、またか、程度のノリとなっていた。
噂で聞いていた藍の中でのパチュリー・ノーレッジは病弱で根暗、動かない図書館で他人に干渉しないというイメージであった。実際あたっていた部分も多いが、それでもこのように自ら率先して動く姿は驚くには十分だった。そして今まで抱いていたパチュリー・ノーレッジの情報を直すとともに心の中で頭を下げた。
なぜ、そこまでするのか。
単純である。身近に噂と現実に際立った差が顕著に見える人物がいたため、そのことを誰よりも理解していたと思っていたからである。
「ヘクチッ」
「あら、どうしたの紫。年? 」
「くしゃみと年齢に因果関係はないでしょ! 」
さて、そのパチュリーは魔理沙を無理やり引っ張ってアリスのベッドの前まで連れてきて突き出した。その際にベッドの角に当たったため眠っていたアリスは起き上がり、近くで尻もちをついている魔理沙を見つけると大丈夫、と声をかけた。
そんなアリスをみて、パチュリーは呆れながらもやっぱりかと呟いた。内心では魔理沙に怒りをぶつけるか泣き出すかなどと期待じみた予想もしていたというのに。
今の光景は、さながらやんちゃな妹をなだめる姉のようだ。
魔理沙自身も自覚はないものの、アリスのことは姉のように接している。
永遠亭に運ぶ際に、一度だけアリスが目を覚ましたことがあった。
大丈夫、と足を止めて聞いてみるとなんとかね、と作り笑みを向けた。何があったのか聞いても、最初こそ何か言おうとしたがすぐに口を閉めてちょっと実験に失敗してね、とばればれの嘘を吐いた。
(どうせ、私と魔理沙の関係が悪くなるとでも思ったのかしら。それとも魔理沙を悪く言いたくなかったのか)
パチュリーにはわからなかったが、それでもその時はそう、とそれ以上は言及しなかった。
そのあと、あとは任せるわね、ごめんね、とまた眼を閉じたアリスを持って再び永遠亭に向かった。
良くも悪くも、アリスは魔法使いらしくない部分が多いとパチュリーは思う。
優しすぎなのだ。それも無自覚に。
他人に干渉しすぎず、利用し、その価値がなくなったら捨てる。
魔法使いの基本、とまではいかないものの、大半の魔法使いはそうしたことを行っている。そして魔女へとなっていく。
かくいう私もそんなことを平気でしている。
要は、馬鹿なのだ。
「何かアリスに言わなくちゃいけないんじゃないの? 」
だからこそ、そんな未熟な魔法使いを導いてやるのも、先輩の特権なのだろう。
「な、いい今言おうとしてたとこだ! 」
魔理沙はアリスに向き直ると正坐に座りなおして深呼吸をした。
(レミィといい、こいつといい、アリスといい、何で私の周りにはこう、厄介な人が多いのかしら)
二人の魔法使いを見つめながら、魔女は今日も気だるそうに笑った。
「アリス、さっきは― 」
「あー、すまないがそろそろ先に進まないかね、フランドール殿」
反応なし。もふもふ。
フランドールを任された藍は、さっさとレミリアの所に連れて行こうとしたのだが当のフランドールは動こうとせずにもふもふ。
ちなみにもふもふとは藍様もふもふうゎっはーのことである。
「君だって、レミリアとは早く仲直りしたいんだろ」
もふもふ。
「まず、尻尾から離れることから始めないか」
もふもふ。
進展のない現状につい溜息がこぼれてしまう。さてさてどうしたものかと頭を悩ませる藍。
いっそ無理やり連れて行こうか。いやいや、そんなことしたら下手したら姉妹けんかで永遠亭終了、なんてことにもなりかねない。
ということは、説得しかないわけだ。
藍はフランドールに話しかける。もちろん、フランドールからの返事は返ってこない。相変わらずもふもふである。
「レミリアのことは、嫌いか? 」
しばらく間をおいて、返事がないことを確認すると藍は話を続けた。なるべく穏やかに、自身の式である橙に言い聞かせるように。
「レミリアのことが好きか嫌いかは置いて。今、この機会に行かなかったら多分、一生今日のことを謝る機会はないぞ。それはとっても悲しいことなんだ。わかるかい? 謝るということは、前に進むっていうことなんだ。前に進むということは、相手に自分のことをよく知ってもらうっていうことなんだ。今まで君とレミリアがどんな状態だったのか、どんな心境だったのかは私にはわからない。それでも、もしもレミリアのことを少しでも知って、少しでも前に進みたいなら今いかないと。謝るっていう行為は簡単に見えて実はスペルカードよりも難しいものなんだよ。しかも一人で、だなんてのはね。」
もふもふしていた手が止まった。藍は続けた。
「謝らなくても、周りは誰も君を怒んないだろう。でも、そうしたら、大きく遠回りする羽目になっちゃうんだ。それに、君もなんだかすっきりしない。今みたいにいらいらしたままだ」
「お姉様と、知り合い? 」
「ん? あぁ、昔ちょっといろいろとね」
ようやくフランドールから返事が返ってきた。
「まだ、イライラするかい? 」
「......うん、する」
「だったら、それをレミリアにぶつければいい」
「ぶつける? 」
「そう。ただし行動でぶつけるんじゃなくて、言葉でぶつけるんだ。暴言じゃなくてきちんと言葉にして。大丈夫、一緒にいってあげるから」
「ホント? 」
「ほんとだ」
もふもふしていた手に力が入った。藍は今度は大丈夫だろうとレミリアの待つベッドに向かった。
そこには包帯ぐるぐるのレミリアと思しき吸血鬼がいた。
「八雲の式ごときが一体何の用かしら? 」
本当に全身火傷だったらしく、文字通り全身包帯巻き巻き。それでも腕を組み、何の平然もないようにふるまっているあたり、さすがレミリアである。顔も包帯で隠れているので見方によってはシュールではあるものの、ここでもやはり藍はスルーした。
後ろに注意を向けていた藍に不思議に思ったレミリアは少し身を乗り出してのぞきこみ、そこに隠れていたフランを見つけた。
フランはというと、下をうつむいたままで藍の尻尾を握っていた。
一瞬驚いたレミリアであったが、すぐに落ち着き妹の名前を呼んだ。ビクッと肩を震わせ、モフモフを掴む手に一層力が入った。
「自分が何をしたのか、どれだけ迷惑をかけたのか」
「まあまて、レミリア 」
レミリアの話に待ったをかけた藍。ここで止めないとフランが話す前に逃げ出しそうになると悟ったためである。とはいえ、いきなり赤の他人に自分の話をぶった切られたわけであり、威嚇されるのは仕方がない。そこはきれいに受け流す藍である。
「そう威嚇するのは止めてくれ。またお前とやり合うのは簡便なのだからな。今は、妹の話を聞いてやってはくれないか? 」
そういってフランの両肩を持って前に送る。まだ視線を合わせようとしない妹を見ながら「どういう風の吹きまわし? 」と表情を変えずに呟いた。包帯巻き巻きでもわかるほど、不機嫌である。
「私にもわからんよ。どういうわけか気がつけばこんな状況になってたのだから。だから、せっかくなのでお前たち姉妹の関係でも進めてやろうとな。こうでもしないと進まんだろ」
「余計な御世話よ。それに他人の身内関係に土足で踏み込むなんて、八雲の式神は礼儀もわきまえない無礼ものなのかしら? 」
「残念ながら、私は巻き込まれたもので。被害者というのかな」
「無礼者の間違えじゃないの」
「なら、無礼な被害者だ」
「でも他人よね」
「関係者、ともとれる」
「言葉遊びはもういいわ。代わりに」
「あぁあぁ、その怪我で動こうとするな、いくら吸血鬼でもつらいだろ。さっきも言ったように私はただ妹の話でも聞いてやれと助言しに来ただけだ。少しからかったのも事実だが、そこは謝る」
慌てて謝罪する。ここで暴れられては本当にいろいろと面倒になってしまう。ここは早めに元の話題に移すべきだ。それに、確かに身内関係はやめておいたほうがいいだろう。藍自身、自分の身内で精いっぱいなわけであるし。
レミリアも不満はあるものの、場所や自分の体調的に、そしてとりえず謝罪ももらったので手に持ったスペルカードをしまった。
とりあえず、永遠亭崩壊とはならずに済んだので一安心である。藍は、フランの耳元まで下がると小さく語りかけた。
「いいかい。今どうしようとか、必ず何かしなきゃって考えなくていいんだ。自分が何であんなことをしたのか、本当はどうしたかったのかをレミリアに言葉で伝えるんだ。そうすれば、少なくとも前よりは前に進める。あせらないで、素直になって、ね」
言い終えると頭をポンとなでて、その場を後にした。あとは、身内の、姉妹の問題である。藍は確かに、他人だ。
そのまま廊下に出るとさっき紅茶を取りに行っていた咲夜と出くわした。
挨拶をかわし通り過ぎようとしたとき、お世話になりました、と言われた。振り返るがそこにはもう誰もいなかった。
あのメイドのことだ。きっとベストタイミングで紅茶を二人に出すのだろう。
紅魔館も、変わったものだ、とため息とともに吐いて、藍は廊下を進んでいた。
「ら~ん、今日の晩御飯はまだぁ~? 」
「霊夢。少しでいいから橙のように手伝うという世間一般でいう同居人に対しての最低限の礼儀をしようとしてくれないか」
「いや」
「きっぱり断るな。って橙! 鍋が泡吹いているって! ああ待ちなさい、今やるから。紫様! いい加減に離れてください! それ以前に夕御飯の前に酒飲まないでください! 萃香様も進めないで! ああ橙、あとは私がやるからテーブルを拭いていてくれないか。霊夢も手伝って、だから紫様ひっつかないで! うわどこ触っているんですか! 」
蛇足、ではなく主題なのだが、結局厄取りの時間がなくなり買い物をして帰るとそこには出来上がった隙間妖怪、鬼がいたわけで。霊夢もゆっくりとお茶を飲んで、洗濯物やらは全くとりこんではくれていない。このあと、さらに紫の知り合いが押しかけ、ますます厄がたまる藍であった。
後日、今度こそと思い妖怪の山に向かったものの、そこには一枚の立て札が。
本日より、厄取りは無期限で休業させていただきます。体調が回復次第、再開します。
余談だが、雛がこうなった理由は、半妖半人の厄を取ろうとしたためである。
謝るシーンのカットについて、あえてかかないことが表現上有効なこともありますよ。黙秘法といったか?
どつぼの日本語おかしくない?
藍の苦労人ぶりとか、きっちり解決していく有能さとかが良く出ていました。
ただ、何点か気になったことが…
>ツインベットを用意し
ツインだとベット二つ用意するので霊夢が怒らない気が。ダブルベットのこと?
>昼なら遊んでくれるんだろうなって思ったら吸血鬼の癖に寝てるし
吸血鬼なら昼間は寝ているのが普通では?
>日向に移動しまして
日向に移動したら余計大変なことに。日陰では?
>レミリアのことがス気か嫌いか
好き?
>レミリアのことがス気か嫌いかは置いて
レミリアのことが好きか嫌いかは置いて じゃないかな?
博霊の巫女→博麗
藍様に温泉旅行を差し上げたくなるぜ
藍しゃまの気苦労は痛いほど伝わってきたwwww
ちょwww誤字www
これに尽きる
転嫁な、頼むぜ…
あと誤字酷いね。漢字にするべき箇所が平仮名だったり。(例:ようす)
正直作品云々どころじゃない。
丁寧に書き上げる所から頑張って下さい。
今は訂正されてるからか、楽しく読ませてもらいました。
しかし誤字報告
>またお前とやりあうのは簡便
勘弁では?