初夏の日差しが降り注いでいた。
透き通るような青い空を霧雨魔理沙は箒を駆って疾走していた。
「暑いぜ~」
速度とは裏腹に言葉は弱々しい。
それもそのはずである。黒いローブに三角帽子といういでたちでは熱を防ぐどころか篭らせるだけだ。
抜けていく風は生暖かく、とても涼を取れるようなものではない。
「喉が渇いたぜ~」
たらたらと流れる汗を拭いながら呟く彼女の視界に、やがて映る人里。
喉を潤すために彼女は一直線に里へと向かい降下を掛けた。
人里は賑わっていた。
降り注ぐ日光を感受し人々は変わらぬ暮らしを続けている。
あちこちで立ち話をする人々や道端に並べられた商品を物色するもの。
守護者に守られて人々は平和を謳歌している。
そんな中を一人の女性が歩いている。
スタイルの良い体を緑を基調とした大陸風の衣装に身を続んでいる。
なかなかの美人で、腰まで伸ばした真紅の髪がミステリアスな雰囲気を漂わせている。
「ん、美鈴じゃないか」
頭上から彼女に呼びかける声が聞こえた。
美鈴の前に黒を基調とした衣装の魔女が空から降り立つ。
「あら、魔理沙。奇遇じゃない」
「たまたま知り合いを見つけたんでね」
魔理沙は箒を肩に抱えつつ美鈴に近付く。
「それより門はどうしたんだ? 勤務時間だろ」
紅美鈴は紅魔館の門番である。
いつもならばこの時間、ゆるい表情で門の前に立ってるはずなのだが。
「今日は休みなのよ、だから人里まで足を伸ばしてみたってわけ」
「ふ~ん、休みなんてあったのか」
「まあね、昔と違って平和だし、招かれざる客など殆ど来ないのよ」
さりげなく周りを見渡す美鈴。
そこにはいつもと変わらぬ人々の営みがあった。
「あんたは今から図書館へ?」
「ああ、そのつもりだぜ。でも、喉が渇いたからな、何か飲み物をとでも思ったら……」
「私が見えたのね、ならちょうどいいわ、付き合いなさい」
そういって美鈴は魔理沙の腕を掴む。
「お、おい?」
「ここであったのも何かの縁、こう言う時くらいは付き合いなさいよね」
にたりといたずらっぽい笑みを浮かべて美鈴ははそのまま近くの店へと彼女を引きずっていく。
蕎麦屋だ。
美鈴は食事が取りたかったらしい。
出された冷たい蕎麦茶を一気飲みし、魔理沙は一息ついた。
「まあ、ちょうど昼だしな」
せっかくなので一緒に食べていくことに決めたようだ。
美鈴は慣れた様子で店主のおじちゃんに何か頼んでいる。
「あんたもざる蕎麦でいいよね? 誘ったの私だし、奢っちゃうよ?」
「ありがたい、それでいいぜ」
奢ると言われて断る理由はない。
向かい合わせで席に着く。
「休みを貰ったときはいつもぶらぶらしてるのか?」
正直、いつも敵として出会うわけで、魔理沙は美鈴のことを良く知らない。
話題を振るにしても当たり障りの無いところから、である。
「まあね、後は花壇を弄ったりとか、部下の子に稽古をつけたりとかさ」
「そうか、てっきり寝て過ごすもんだとばかり」
「あはは、あれは仕事中だからよ」
美鈴は小さく笑った。
「眠気はどうしようも無いのよ、平和だとついつい、ね」
魔理沙が気のない返事をする。
「昔は平和じゃなかったのか?」
「ああ、昔、か。幻想郷に来る前のことだけどね」
そこで美鈴は言葉を切り、無造作に右手を肩の辺りまで持ち上げる。
不思議がる魔理沙に向けてにこっと笑って。
瞬間、風が吹いた。
ブロンドの髪が微かに靡いてふわりと降りた。
魔理沙の目の前に美鈴の拳があった。
美鈴をすぐ傍で見ていたのに繰り出されたことすら分からなかった。
「……っ!」
呻く魔理沙と澄まし顔で拳を引っ込める美鈴。
「私、弾幕よりこっちの方が得意でさ」
誰だって分かる。
見ていて、まったく反応できなかった事に魔理沙が驚愕する。
「それを使えば、私なんか軽く撃退できるんじゃないのか?」
暑さとは別の汗を垂らしながらそれでも魔理沙が笑う。
余裕ぶっているが実際は強がりの笑み、だ。
「必要ないわ、命の取り合いじゃないし。今は弾幕ごっこっていう、ルールがあるからね」
「つまり、昔は……」
「そ、これを振り続けないといけない相手ばかりだったの
教会やハンター、賞金稼ぎに他の吸血鬼の奴ら、四六時中ずっと気を張りっぱなしだったわ」
その時の事を思い出したのか、少し困ったような笑みを浮かべる。
「あの時は、咲夜さんも居なかったし、戦えるのは私とパチュリー様だけだったから」
「レミリアは戦えなかったのか?」
「ううん、当主を戦わせるのは門番の恥だからね。敵は常に私で食い止めなくちゃいけなかった」
今は違うけどね、と付け加える。
「そういうもんなのか……」
それほどの状況で戦い続ける状況。
外の世界を知らぬ彼女には到底想像できるものではなかった。
「幻想郷に来れて本当に良かった。正直ね、博麗の巫女には感謝してるわ。
スペルカードルールを制定してくれたおかげで、私達はもう、下手な事では命の取り合いをしなくて済むようになったのだから」
美鈴が静かに、嬉しそうな笑顔を浮かべる。
彼女にとってそれはとても長い間、魔理沙が想像もできないような長い地獄から開放された瞬間だったのだろう。
「想像してみて、それまで常に命のやり取りをしてなくちゃいけなかったのに急に敵が居なくなっちゃったら」
「つまり」
「やる事が無くなって、眠くなっちゃっても仕方ないでしょうが」
当然だ、と言わんばかりの美鈴に魔理沙は小さく笑みをこぼした。
「おまちどうさま」
二人の前に注文の蕎麦が運ばれてくる。
何の変哲も無いざる蕎麦。
「……いやいやいや」
「なによ?」
だが、魔理沙が驚愕し、美鈴が眉に皺を寄せる。
蕎麦の量だ。魔理沙の蕎麦は普通に一人前、少し多いかもしれない。
それに対し美鈴の蕎麦の量は軽く見積もって五倍ほどもあるのだ。
「いつもそんなに食べてるのか?」
「ええ、そうだけど」
舐めるような視線が美鈴を捕らえる。
「太らないのか?」
「妖怪だしね」
「理不尽だな」
「咲夜さんにも同じ事を言われたわ」
「そうか」
軽く笑って蕎麦に箸をつけた。
「ふぃ~ごちそうさん」
軽くお腹を叩きながら魔理沙が息を吐く。
一人前とはいえ結構な量があったのだ。
「どういたしまして」
会計を終えて出てきた美鈴が答える。
「それじゃ、私はそろそろ行かせて貰うぜ」
両手を空へと突き出し体を伸ばすと魔理沙は箒に跨ろうとして……
「まちなさい!」
美鈴がその首根っこを掴む。
「ちょ、こら!」
そのまま猫よろしく持ち上げる。
「付き合いなさいっていったでしょ~?」
慌てた様な声を上げる魔理沙を無視して、美鈴はにたりと笑うとそのまま歩き出した。
「あー待て待て!」
「痛い? 痛くないように持ち上げてるんだけど……」
「そうじゃなくて、離してくれ、自分で歩ける」
「逃げない?」
「逃げないぜ」
「駄目、あんた嘘つくの得意だから」
暴れる魔理沙を持ち上げたまま彼女は歩を進めた。
様々な着物が店内に飾られていた。
派手な物から地味なもの、魔理沙が興味深そうに見回している。
「なにか欲しいものでもあった?」
店のおばちゃんとなにやら話をしていた美鈴が不意に魔理沙に声をかける。
「私にこういうのは似合わないんだぜ」
少しだけ苦笑して魔理沙が答えた。
「案外そうでもないかもよ、あんたってば元はいいんだし」
そう言いつつ、幾つかの着物を手に取る。
あれやこれやと薦める美鈴に似合わないの一点張りで退ける魔理沙。
しばしのやり取りが続いた。
「ん、あんたそういえば……」
「なんだよ?」
「汗臭いわね」
ひくひくと鼻を動かす美鈴に魔理沙は少し顔を赤くする。
「しかたないんだぜ、今日は暑いから」
「まあ、そんな格好で居ればね」
店内とはいえ十分暑い。
よくよくみると汗の筋が何本か肌を流れている。
「よし!」
美鈴がわしりと魔理沙の首根っこを掴む。
「また!?」
「裸の付き合いしてきましょう」
「わ、私にそういう趣味は無いぞ!?」
「そういう意味じゃない、銭湯に連れて行ってあげるっての」
去り際に美鈴は振り返る。
店のおばさんにウインク。彼女がうなずくのを見て暴れる魔理沙をそのまま連れて行く。
理不尽だ、と魔理沙は思う。
横では完全にだらけきった様子で美鈴が湯船に使っている。
魔理沙は自分の胸元を見て、横を見る。
それが浮いていた。
見事なまでにひょうたん島ができていた。
胸と言うのは浮くのだと知った。
「理不尽だぜ」
「ん?」
呟きが言葉に出ていて、美鈴が反応する。
「あんたも胸を気にしてるのか。ちょうどいいと思うけどね」
美鈴が魔理沙の胸に遠慮なく視線を向けて、魔理沙がそれを両手で隠す。
「でかいからいえる台詞なんだぜ」
「でも、あんたに私くらい胸が合ったら逆に動きが鈍くなるよ」
「む」
「私はこの身長だから平気なのであってね、ま、体付きはスマートなんだから気にすることは無いと思うけど」
「納得いかないぜ」
困ったような笑みを浮かべる美鈴。
「あんたはこれから大きくなるかもしれないし。さて、温まったでしょ? 頭洗ってあげるから」
そういって湯船から立ち上がる。
水飛沫を上げてひょうたん島が浮上した。
体に布を巻いて、腰は手に当てる。
少々斜めに上半身を倒して、ビンを口に当てて一気飲み!
「ぷはーーっ!」
「ぷはーーっ!」
これが正しい牛乳の飲み方だ。
「うまいんだぜ」
「おいしいわねー」
脱衣場でのお約束を終えて魔理沙は上機嫌だ。
美鈴が着替えの籠に向かい服に手を通す。
「美鈴!」
魔理沙に呼ばれた。
「私の着替えがないんだぜ」
慌てる魔理沙に美鈴が指し示したもの。
飾り気の無い白いブラとショーツはまだいい。
「こ、これ?」
空色のかわいらしいの袖なしワンピース。
「あんたの服は汗臭かったからね、洗濯を頼んでおいた」
「か、勝手なことを」
困りきった顔の魔理沙に美鈴はにたりと笑う。
「いいじゃない、たまにはそういう服も着てみなさいよ」
「私には似合わないんだぜ」
「いいからいいから」
両手をわきわきさせて迫る美鈴にじりじりと後ずさる魔理沙。
「い、嫌だぜ。服を返してくれ」
「駄目、どうしても欲しかったら取りに行って来る事」
「どこにあるんだ?」
「さっきの服屋。でもどのみちすぐに行ける距離じゃないよね」
魔理沙の背中に壁があたる。
「何をする気?」
「おねーさんが着替えさせてあげる」
冷や汗を掻く彼女に美鈴が笑みを浮かべたまま手を伸ばした。
魔理沙が椅子に座っている。
心なしか、しょんぼりとしている分、縮んでしまったかのようだ。
「汚されてしまったんだぜ」
「ご馳走様でした」
彼女の髪を梳きながら美鈴が言う。
普段、あまり手入れのされていない癖っ毛は美鈴の手によって流れるようなストレートヘアに変えられていた。
無理やり着せられた空色のワンピースともあいまって酷く幼く見える。
「誰かに髪を梳いてもらうなん久しぶりだな」
「そう、髪質はいいんだから手入れはちゃんとなさいよ、結構痛んでるわよ?」
「やってるつもりだけどな」
「じゃあ、やり方を知らないのね、後で教えてあげる」
魔理沙の前髪を整えながら美鈴が言う。
「なんていうか」
「何?」
「美鈴ってこんなに強引な奴だったんだな」
「いまさら気が付いたの?」
くすくすとわらう美鈴に魔理沙が少々苦い顔をする。
「あんたみたいなタイプは…」
一通り終わったのか満足した様子で美鈴が言う。
「先手を取ってどんどん振り回さないとすぐ居なくなっちゃうでしょ」
そんなことを言いながら魔理沙の頭に何かをかぶせた。
「麦藁帽子?」
青いリボン飾りの何の変哲も無い麦藁帽子。
「そう、三角帽子の代わりよ」
ふむ、と呟くと感触を確かめるように何度が細かく動かした。
「さてとっ!」
「まてまてまて~~」
再度首根っこを掴もうとする美鈴を慌てて制す。
「ここまできたら最後まで付き合うよ、こんな成りじゃもう図書館にいけないしな」
「よろしい。それじゃあ……」
気取った仕草で一礼。
「不肖、この私めがエスコートさせて頂きます。お姫様」
伸ばされた手に魔理沙の手が重なった。
「あんたねぇ……」
「……」
美鈴が呆れた様な声を出す。
往来の真ん中、闊歩する彼女に隠れるかのように魔理沙が張り付いている。
「堂々と歩いたらどう?」
「皆が私をちらちら見てるんだぜ、やっぱり似合わないんだ」
落ち着きなさそうにきょろきょろしながら美鈴の服の袖を掴んで離さない。
「あんたはそういうの気にしないと思ったのに、ほら、堂々と歩く!」
普段とは到底かけ離れたその様子がなんと儚げか。
その振る舞いが余計に人目を引いている事に魔理沙は気が付いていない。
「無茶言わないでくれ、私だって人並みに羞恥心くらいはあるんだぜ」
やれやれっと、ため息をついた美鈴。
「美鈴?」
「おや……」
呼びかけた声は魔理沙ではない。
美鈴の視線の先には見知った人物がいた。
完璧で瀟洒な従者、十六夜咲夜だ。
「咲夜さん、買い物ですか?」
「ええ、そうよ」
彼女はやや不機嫌そうに近付いてくると魔理沙に視線を移す。
うひゃあ、と呟きつつ慌てて帽子のふちを下げて顔を隠す。
「あなたが女の子にもてるのは知っているけど……」
「はぁ……」
「休みだからってあんまり羽目をはずし過ぎないようにね」
「あーもちろんですって」
どうだか、と呟いて咲夜は去っていく。
「……むぅ」
呟く魔理沙。
「行ったみたいね」
「気が付いてなかった……のか?」
「そうみたい」
言葉に魔理沙は長い息を吐いた。
「助かったぜ、こんな格好見られたらどんな風にからかわれるか…」
麦藁帽子のふちを持ってかぶりなおしながら安堵する。
「でも、なんで気が付かなかったんだか」
「まあ、印象が違いすぎるしね。だれもこーんな可憐で可愛い少女が魔理沙だって気が付かないわよ」
「帽子で顔を隠してたからだぜ」
口をへの字に結んで訂正する魔理沙。
「あら」
美鈴がにたりと笑う。
魔理沙の頬が僅かに赤いのは暑さのせいだけでは無いと判断したのだ。
「可愛いのは本当よ、おねーさん、攫っちゃいたいくらいなんだから」
肩を抱き寄せて、その頬をつつく。
「よせって、そういうのは私のキャラじゃないんだぜ」
「あー可愛い、ほれぷにぷに」
顔を真っ赤にして抵抗する魔理沙とからかう美鈴をほほえましそうに通行人が眺めていく。
「これなんか綺麗だな」
道端に並べられた装飾品や小物を物色しながら魔理沙が控えめに笑う。
それを見守る美鈴の笑みは先ほどのものと違いとても穏やかだ。
美鈴は思う。
普段は勝気でまっすぐで男勝りで……
だが、実はこんな普通の女の子らしいところもあって、でもなかなか出せなくて。
それはおそらく皆が思っていて自分でも決めている魔理沙と言うイメージのせいで。
「似合うと思うわよ」
「そっか」
魔理沙がにへへ~っと笑う。
今は強引にでもそのイメージを引き剥がしたからこんな風になった。
不意に、なんだか急に嬉しくなって後ろから彼女を抱きしめてみる。
「なんだよ、急に」
「ん~なんとなく」
「変なやつだな」
せめて今日くらいはこのイメージが続くように守ろうと、心の中で決心をするのだった。
「美鈴じゃないか」
声がかけられる。
本日二度目の知り合いとの遭遇。
「あら、霖之助さん」
「買い物かい?」
ほかならぬ香霖堂店主森近 霖之助であった。
「いえいえ、今日は休みなんですよ」
朗らかに美鈴が告げる。
「ああ、それで……」
そこで霖之助は自分を見つめる視線に気が付いた。
美鈴に隠れるようにしてこちらを伺っている空色のワンピースの少女だ。
「あーもしかして……」
その少女の琥珀色の瞳にあるのは何か?
本人が意図しないそれは不安と期待。
「魔理沙か?」
そう告げた瞬間……魔理沙は麦藁帽子のふちを下げて顔を隠し、そのまま二人に背を向けると駆け去っていく。
「あー」
美鈴が声を上げて、霖之助が困ったように頭を掻く。
「いったい何なんだ?」
「恥ずかしかったんじゃないですかね」
あー本当に可愛いわ、と美鈴がにたりとしている。
魔理沙が駆けていくのを見ていた彼女が霖之助に視線を戻す。
「これから追いかけますけど伝言、何かありませんか?」
「ん~そうだね」
伝言を聞いた美鈴がうなずいて走り出す。
「ずいぶんと素直なんですね~」
「僕だってひねくれた言い回しばかり好む訳じゃないさ」
溌剌とした笑みを浮かべて、彼女は全力疾走の体制に入った。
-----------息が荒い。
分からない。
分からない、分からない。
何で逃げ出したのだろう。別におかしい事なんて無かったじゃないか。
香霖も分からないだろうと思ったのに、でもそれじゃ嫌で、自分だと分かってくれて、でも……
頬が熱い、いやこれは全力疾走しているからだろう。
頬が緩む、いやこれは疲れたからだろう。
胸の鼓動が速い、これも走ったからだろう。
でも、何だろう。この嬉しいような恥ずかしいような変な気持ちは。
いつも顔を合わせて、軽口叩き合っているときはぜんぜん平気なのに……
立ち止まる。
息が荒い、ふと両手を見る。
素肌の腕、視線をめぐらすと空色のワンピース。
頭を探ると、いつもの三角帽子じゃなくて……
ああ、違うんだ。
これはいつもの魔理沙じゃない。
香霖と軽口叩き合ったり、美鈴と弾幕張ったり、霊夢とお茶を飲んだり
パチュリーの図書館に乱入したり、アリスと競い合ったり。
そういう魔理沙じゃない。
美鈴の影に隠れて周りを伺ったり
綺麗な小物に瞳をきらきらさせたり
そういう魔理沙だ。
ならそういう魔理沙がどうして逃げ出したのか?
香霖に対してどう思ったのか……
「分からない、なぁ」
そう呟きが漏れて。
答えはすぐに返ってきた。
「なら、それでいいんじゃない?」
「いいのかな?」
美鈴は穏やかな笑みで、魔理沙の頭を撫でた。
ん、と声が漏れて。でもおとなしく撫でられる。
「今の自分は嫌い?」
「……ん、悪くない」
「それなら、それでいいのよ」
「そっか」
そういって笑った顔は自然な、年相応の幼い笑顔だった。
「さて、走って疲れたでしょ、なにか冷たいものでも飲もうかね」
「うん」
美鈴に手を引かれて、魔理沙が歩き出す。
きらきらとしたかき氷をスプーンで崩していく。
小豆と抹茶で飾り付けされた甘美な味わいは二人の喉を潤していく。
「うまいな」
しゃくしゃくと氷を削り口へと運ぶ。
幼い笑みのまま魔理沙は幸せそうだ。
「そういえば……」
魔理沙の顔を覗き込んでにたりと笑う。
「う……」
美鈴がこういう顔をするときは何かしら嫌な予感がする。
「霖之助さんから伝言ね」
耳に口を寄せてぼそぼそと呟く。
とたん魔理沙の顔色が変わっていく。
それはもう鮮やかに、耳まで真っ赤だ。
にたにた笑う美鈴に気が付いたのか誤魔化すようにかき氷を掻き込む。
「~~~ぅぅぅ!?」
かとおもえば頭を抱えて唸る。
言葉も出ない魔理沙に美鈴がたまらず爆笑する。
それをを恨めしそうに魔理沙が見上げた。
「踏んだり蹴ったりだぜ」
「~~くっはは……はは……あは……」
「笑いすぎ」
スプーンで美鈴の頭をひと叩き。
「ごめんごめん。でも、今日は楽しかったでしょ?」
不意に言われて、でも、ためらいも無く答える。
「ああ、たまにはこういうのもいいもんだな」
美鈴は満足そうな笑みを浮かべて人通りを眺めた。
「それでいいんだ、遊べよ乙女」
魔理沙が美鈴に顔を向けた。
「あっという間なのよ。人間が、あんたみたいな女の子として遊べる時間はね。
弾幕ごっこや魔法の研究も楽しいかもしれないけれど、それは後でもできるから」
彼女はどこか遠くを見ているような眼差しを人混みに向けている。
「もう何百年も人と関わって、多くの人間を見てきた私だから言えるの。少しは信用なさいな」
透明な笑顔を向けて軽く頭を撫でる。
暫し無言の時が過ぎる。ただかき氷を崩す音と雑踏のざわめきだけが過ぎる。
「さて」
食べ終わった美鈴が立ち上がる。
「エスコートしてくださる?」
魔理沙が彼女に手を伸ばす。
「喜んで、お姫様」
美鈴がその手をとって、歩き出した。
夜闇が辺りを覆う道を、美鈴は一人歩いていた。
(またな。……その、たまには付き合ってくれ)
去り際に残した、魔理沙の照れた笑みと言葉を思い出して頬が緩む。
普段見せない表情をあれだけ見せた魔理沙。彼女もまた根は女の子であったのだ。
個人的には強引にでも連れ回して正解だったと思う。
「次は……」
呟きが風とともに流れていく。
あの、常に瀟洒であろうとする彼女はどうだろうか?
どんな表情を見せてくれるだろうか。
主人の許しさえ得られたら今度は試してみようと思う。
なあに、口先三寸は自分の得意分野だ。
そんなことを思いながら、美鈴は紅魔館への道のりを一歩一歩確実に、歩いていく。
-終-
たしかにめーりんは宝塚的なプレイガールなイメージがw
そして求む、めーさく編!
咲夜さんも羞恥まみれにしてください><
ちくしょう、霖之助が良い役すぎる!!
あと後書・・・ホント、どういうことなの?ww
この美鈴はタラシだな
しかしおもしろかった
これは咲夜編を期待せざるを得ないッ・・・
が
あとがき自重せいwwwwwwwww
それと、咲夜編お願いします!11
読みやすくて魔理沙がいい味だしてましたね
次回に更なる期待を込めて
面白かったが……おい後書き!
どういうことなの?
公明の罠かッ!
誰も指摘してないけど舌先三寸だからね?
良い魔理沙
ワンピース姿のマリサを容易に想像できるわぁ
麦わら帽子ぎゅって下げる魔理沙とか容易に想像できますた!