Coolier - 新生・東方創想話

大型休暇の過ごし方 ~白玉楼~

2009/05/10 01:00:15
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 桜も散り、緑の比率が多くなってきた白玉楼。



 その主の西行寺幽々子は微苦笑を浮かべていた。
 理由は、庭師兼剣術指南役である魂魄妖夢が、先ほどから自身の前を何度も行き来しているからだ。
 その回数がちょっと尋常ではない。幽々子は十往復まで数えた所で諦めた。

 緑茶をすすり、あげた視界には、またしても忙しなくはしたなくスカートを翻し走る妖夢。

「これ、妖夢」
「――んでしょうか、幽々子様っ」
「ドロワが丸見えよ。もう少し慎みをもって見せなさい」

 駆けだしていく妖夢。聞いちゃいない。

 一瞬後、尻もちを吐く音と可愛らしい悲鳴が耳に入る。

「言わんこっちゃない」

 再び苦笑いを浮かべ呟くも、響きには嬉しさが滲んでいたのだった。





 ――数日前。



 永遠亭から帰ってきた妖夢が、神妙な顔つきで幽々子に願いを申し出た。

『いいわ、妖夢。元気でやるのよ。
 でも、偶には白玉楼に戻ってきてね
 あらやだ、私ったら嬉しい事なのに、涙が』
『まだ何も言っていません』

 幽々子の頭には既に白無垢を着た妖夢が浮かんでいたのだが、ばっさりと切り捨てられる。

『ウェディングドレスの方が良かった!? は、まさか、燕尾服……!』
『何がどうまさかなのか気になりますが、話をさせてください』
『あぁん、この頃、妖夢が反抗期ぃ』

 崩れる幽々子に半眼が突き刺さる。まだ刀の方が痛くないかもしれない。

 空咳を打ち、妖夢が口を開く。

『私は今日、永遠亭に呼ばれ、お世話になりました。其処で』
『お腹がすいてきたから、結論だけ言って頂戴』
『今、反抗したい気分が八分咲きです』

 満開になっていないだけ、妖夢はできた子である。

『では、率直に。――うどんげさんやてゐさん達を白玉楼にお招きしたいのです』
『おけ』
『無論、用意等は全て私がしますし、幽々子様にご迷惑は早っ!?』

 幽々子のお腹も八割方空いていた。午後六時のおやつは既に消化済み。

 勿論のこと、そうでなくても幽々子の返事は了承一拓しかなかった。
 自身が友人達を招く事は多けれど、妖夢からの申し出は珍しい。
 もしかすると初めてかもしれない。

 故に、幽々子は喜んで受け入れたのだった――。





『いっそのこと、霊夢や魔理沙も呼んでみない?』
『予定がかち合ってしまって。アリスとパチュリーさん、早苗さんを加えて、お買い物だそうです』
『あー、そっか。ダブルデートね。それは呼べないわー』
『行き先が団子屋や香霖堂では、そう呼べるかどうか……』
『うん、言ってみたかっただけ』





 それから、なんやかんやで数日が過ぎ、お招き前日の今日に至る。

 ――事前に準備しておけばいいものを。
 そう思った幽々子であったが、この件には一切手を煩わせないで欲しいと歎願されたため、口も出さなかった。
 主人に対する配慮とお招きを自身の手で全てこなしたいと言う思いであろう、と幽々子は考える。

 本当はいろいろと手伝いや助言をしたかったのだが、妖夢の願いを尊重しているのだ。

「あぁ、私、なんていいお母さもふぁ!?」
「も、申し訳ございません! 座布団が!」
「『も』があると言う事は、偶然だったのね……」

 何の事かと首を捻る妖夢に手を振る幽々子。

「――さてと。私はそろそろ寝るけど、いい、妖夢。此処にあるものなら、全て使っていいからね」
「ありがとうございます! あ、では、食糧庫にあるお菓子も宜しいんですね!?」
「わわわ私に、ににににに二言があると思って!?」

 本心、そう思っている。声が震えているのは不可抗力。

「――こほん。それと」

 咳の一つでカリスマを取り戻し、幽々子は真剣な眼差しを妖夢に向ける。

「はっ。できるだけ静かに準備を続けます」
「そうじゃなくて。今日の夜伽はしなくてもふぉ!?」
「申し訳ございません。ですが、その様な任は一度も受けた覚えがありません」

 『も』がない。
 けれど、幽々子に指摘はできない。
 何故か。座布団は今尚押しつけられている。妖夢、微かに反抗期。

 どうにか抜け出し、幽々子はその場を後にした。

 再び走り出す妖夢に、一つだけ疑問を覚える。
 戻って問うのも無粋かとそのまま寝室へと向かう。
 翌日になればわかるだろうし――欠伸と共に噛み殺した。



 ――どうして貴女はヨニンの為にそんな大がかりな準備をしているの。







 翌日。



「ん……な、何事!?」

 幽々子は、震えと共に目を覚ました。
 自身が震えている訳ではない。
 床が振動していたのだ。

 地震だろうかと考え、すぐに否定した。
 幻想郷ではなかなか起きない現象であったし、何より此処は冥界である。
 別の原因、天人の悪戯と言う線も浮かんだが、それにしては弱すぎる。

「あ……妖夢は!? 妖夢っ!」

 結局、幽々子は理解できず、寝巻のまま駆けだした。

 因みに。
 本日の寝巻は、所謂ネグリジェと言われている物である。
 通常のパジャマと違いワンピースなので着るのが楽と言う理由からだ。
 材質の所為か透けていて艶めかしく、それでなくても肌着がちらりちらりと見えるのが悩ましい。
 加えて。
 幽々子の肌着は晒しではなく、ドロワーズでもない。
 彼女の母性溢れる胸部には晒しが合わない。きついのだ。
 ドロワーズでないのは見栄えの為である。黒ではない。白い。小さな蝶のワンポイントが可愛らしい。

 一拍後、部屋に戻ってきた。素早く普段着へと着替える。何てことだ。

 ――幽々子は走った。
 走る内に、気が付く。
 揺れは未だ続いている。

「…………っ」

 妖夢の声がした。
 内容までは解らない。
 だが、幽々子はその方向へと全力で飛んだ。

 走った方が早かった。

 気配がする部屋に辿り着く。
 白玉楼で最も大きな部屋。
 大宴会場。

「――妖夢っ!」

 叫びながら戸を開き、幽々子が見たものは――。



「おいしです、うどんげさまっ!」
「もう、蒲公英、欠片を零しちゃ駄目よ」
「ちょうろぅ、これ、はじめてたべました。おいしぃ……」
「私も見覚えがないね。外のもんじゃないかな。……菫も、落ち着いて食べな」



 うさうさうさうさうさうさうさうさうさうさうさうさうさうさうさうさ。
 うさうさうさうさうさうさうさうさうさうさうさ。
 うさうさうさうさうさうさうさうさ。

 以下略。



 ――大宴会場に犇めくのは、可愛らしくも夥しい兎たちであった。



「まぁ! 今夜は兎な痛ぁ!?」
「申し訳ございません。鞘が飛びました」
「飛ばないでしょう! 変な技覚えないで!?」

 赤い瞳はまだあるか。

 駆け寄ってくる妖夢に、幽々子は額を摩りながら、この有様をまくし立てる。

「ちょっと、妖夢! 何よ、このバニートラップ! 地味に地響きまでしてるわよ!」
「……? 言いませんでしたっけ。うどんげさんやてゐさんたちをお招きするって」
「や、普通、ぱっと見いない輝夜や永琳の事だと思うでしょう!?」
「辞退されました。私、それならちゃんと主人の方から言います」
「流石妖夢、できた子ね!」

 寝起きの割にテンションが高い幽々子。上げないとやってられないと言う思いもあった。

 ぐるりと見回す。
 こっちを見ても兎。あっちを向いても兎。何処を視界に映そうと、兎。
 しかも、ただの兎ではない。永遠亭の兎達はみな、主人の愛を一身に受け、実に可愛らしかった。

 尻尾も毛も見事なまでに白く、ふわふわ。

「食べちゃいた――ち、違うわよ、妖夢、勘違いしないで!?」
「まず、口元から流れ落ちそうな滴をお拭きになって下さい」

 ごしごし。

「食べたいと言ったのは比喩。本心は悪戯したぃ痛い痛い痛い!?」
「はは、幽々子殿、逆刃刀ゆえ安心するでござるよ」
「嘘つけー!?」

 妖夢のテンションも高かった。昨日は今日が楽しみ過ぎて、ほとんど寝ていない。

 凹んだ帽子を戻しながら、幽々子は再度、辺りを見回す。
 一羽くらいなら気付かれないのでは……などと微かに思った。
 一瞬後、頭を振る。妖夢の殺気を感じたからではない。永遠亭の姫君が気付かない訳がないと諦めたのだ。

 ――数瞬後。
 幽々子は気付いた。気付いてしまった。
 兎達が口にしている物を。今も際限なく食べ続けている物を。

「……幽々子様?」

 故に、膝をつき、呆然と呟いた。



「私の……ルーベラ、が……」



「え、あ、出しちゃいけませんでした? 箱がダースであったので、つい……」
「……ふ、ふふ、まさかそんな、いいの、いいのよ、妖夢。
 ルーベラ……きゃつめはブルボン四天王の中でもまだ若輩者……。
 我が倉庫には、くく、ホワイトロリータ、バームロール、そして、ルマンドが!」
「全部出してます」

 幽々子は言葉なく、沈んだ。
 言葉の代わりに口から出ているのは半霊っぽいもの。
 その半霊でさえ、滝のような涙を流し続けていた――だばだば。

「それと、レーズンサンドも」

 妖夢、天然の気がある故容赦なし。

 虚ろな瞳の幽々子。
 今の彼女に普段の面影はない。
 視界に入ったものを見て、童の様な声を出す。

「あ!? 小さな子が笑ったり食べたりしてる。あはは……可愛い、バニーさんかしら。
 いえ、違う、違うわね。バニーさんはもっとバイーンって揺れるものね。
 ……暑苦しいわねぇ、此処。誰か―、誰か脱がして頂戴よー」

 是非。

 ――そう応える者はいなかった。



「えーと。うどんげさん、うどんげさん」
「あぁもう、がっついて食べるから――と、なぁに、妖夢?」
「幽々子様の様子がおかしいんで、ちょっと波長を弄って頂けませんか」

 妖夢の呼びかけに、幼兎の口を拭っていた鈴仙・優曇華院・イナバが初めて幽々子を認識する。



 焦点の合わない瞳で幽々子は独り言を続けていた。

 一瞬後、言葉が止まる。視界には兎達が映る。

 無数とも思える数の兎達。



「あ、幽々子さん、そだ、ほら、皆も――」
「あー、挨拶がまだだったね。あんた達、あのヒトが此処の主人」



 無数の二倍の瞳が、幽々子へと向けられた。



 そして、その全員が頭を下げ、言う。





「おじゃましています、ゆゆこさまぁ!」





 ――ズキュゥゥゥンっっっ。



「……今、何か、弾丸が撃ち込まれたかのような音が」
「え!? 私、まだ波長も何も弄ってないよ!?」
「そもそも、弾幕撃つ必要ないんじゃないかな」



 けれど、妖夢の言うとおり、幽々子は撃ち込まれたのだ。
 弾幕ではない。無論、弾丸でもない。
 撃ち込まれたのは、言葉。

 貫いたのは、心。

 白玉楼の主が立ち上がる。
 華胥の亡霊の背後に、扇が現れる。
 幽冥楼閣の亡霊少女から、全妖力が放たれていた。



 西行寺幽々子は今、覚醒めた。



 ――――BGM ボーダーオブライフ



「――って、幽々子様、いきなり全開ですか!?」
「ななな何か、私、粗相しちゃったかな!?」
「どっちかと言うと、妖夢な気がする!」



 少女たち、否、幽々子からすれば童たちが慌てふためく。
 視線を向け、童たちを捉える。
 幽々子は笑った。

 アルカイックスマイル。



「ひぃっ!?」
「よ、妖夢がガチ悲鳴をあげた!?」
「や、ちょっと待って、妖夢、てゐ。なんだか幽々子さん――」

 近づいてくる幽々子に腰を抜かす妖夢。
 てゐは妖夢と鈴仙の手を引き、引っ張る。
 鈴仙だけは、何処か憧憬にも似た響きで、静かに言った。

「――姫様、みたい」
「だったとして、どうだと言うんですかぁぁぁ!?」
「や、私、幽々子さんは師匠に似てるかなって思ってたのよ。胸もおっきいし」
「お願い。お願いだから、鈴仙、そっち方面に成長しないで」
「あんたこそ、そっちってどっちよ」

 永琳ルート。淑女へのフラグ。

 ともかく。
 この場においては、鈴仙の考えが最も幽々子を的確に掴んでいた。
 故に、近づき、伸ばされる手にも、彼女はくすぐったそうに目を細めるだけ。



「貴女から贈られる最大の讃辞ね。ありがとう、うどんげ」
「えへへ……はいっ」



 ――ズキュゥゥゥゥゥンっっっ。



 兎達の言葉が鈴仙の笑顔が貫いたもの。
 それは、幽々子のおっぱい、もとい、心。
 母性。



 つまり、幽々子が覚醒めたのは――『お母さん』。



「妖夢。出しましょう。ブルボンキング、エリーゼを」
「――なっ!? し、しかし、ソレは幽々子様の今日のおやつ!」
「ふふ……私はもう、お腹一杯よ。皆に、出してあげなさい――いえ」
「今日の為に楼観剣でさえ斬れぬ金剛鎖で縛っておかれた物を、あ、はい?」
「貴女は昨日一日、お友達を迎える為によくやったわ。だから、此処で待っていなさい」

 微笑む幽々子。余りにも落ち着いた雰囲気に、妖夢にして口を挟めない。



「――今からは、そう、是よりは、私が彼女達を、おもてなしするわ」



 言葉は静か。けれど、裏腹に瞳は熱く滾っていた――。



「あ、ママの味も出そうかしらん」
「ぶっ!? ゆ、幽々子様からはそんなの出ません!」
「へ? あ、今のはキャッチコピーで、深い意味はないのだけれど?」

 みょんっ!?
 悲鳴をあげ、顔を赤くする妖夢。
 幽々子は心底不可思議そうに首を傾げた。

 鈴仙も然り。

「ねね、何の事かな?」
「あー、鈴仙はわからなくていい。妖夢も意外と……」
「前半は同意ですが後半はどういう意味ですかっ、てゐさぁん!?」

 むっつり。



 食糧庫へと向かうため、幽々子は扉まで歩いた。
 そこで、振り向き、問う。
 可愛らしい童達へと。

「みんなー、飲み物はカルピスでいーい?」

 無論、濃い目。

 主の心意気に、てゐがタクトの様に耳を振り、応えた。

 多少恥ずかしそうに妖夢が、楽しそうに鈴仙が、無邪気に兎達が、答える。



「はーい、ゆゆこおかーさん!」



 ――ズッキュゥゥゥゥゥンっっっ!!



(あぁ! 今の私なら、母乳も出せそうな気がする! って言うかちょっと出た!)



 気の所為。



「み、みんなー、ゲームは一羽、三十分までよー!」

「はぁーい、ゆゆこままぁ!」

「あぁん!?」



 気の所為……?





 ともかく兎に角。妖夢が企画し、幽々子が覚醒め、兎達が楽しんでいる休暇は、今、始まったのだった――。






                      <了>
他所様の家で出して貰うお菓子美味しかったです。三十三度目まして。

大型休暇、如何過ごされたでしょうか。私は仕事。

はい、ともかく。
大人になった今では遊ぶと言えば外ですが、子どもの頃はよく友達の家に遊びに行ったり自宅に招いたりしたものです。
で、今回のお話は招く側の視点で書いてみました(幽々様よりの為、前半は傍観者っぽいですが)。
兎達の様に読まれた方も楽しんで頂ければ、より幸いです。

あと。タグに『乳玉楼』って心底打ちこみたかった。

以上。
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コメント



0.2060簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
――ズッキュゥゥゥゥゥンっっっ!!
俺も何かに目覚めそうです。

しかし亡霊の姫様も竹林の姫様も本気出すとやっぱり素敵ね!
2.100煉獄削除
ゆ……ゆゆこお母さん…とな…。
そりゃあ、あんな可愛らしい子兎たちの純粋な言葉などを受ければ母性全開でしょうねぇ。
母性に目覚めた幽々子さまも素敵ですし、子兎たちの可愛さも溜まりませんね!
すっごいニヤニヤしちゃうぐらい威力が凄まじく、彼女たちの会話などに和む面白いお話でした。
5.90名前が無い程度の能力削除
ルマンドはおいしいよ
6.100名前が無い程度の能力削除
そうかまだナビスコのチップスターは幻想入りしてないのか
17.100名前が無い程度の能力削除
ゆゆこままGJww

そして妖夢、NEET侍ワロタww
28.100名前が無い程度の能力削除
むっつり妖夢と幽々子お母さんの会話に和まされましたw
テンションあがった妖夢は剣心だったりむっつりだったりフリーダムで好きだわw

寂しい人生歩んできた幽々子様はもっと賑やかな所に住んでもいいと思うよほんと。
咳払い一つでカリスマになれる幽々子様が大好きです。
30.100名前が無い程度の能力削除
乳玉楼wwwwwwwwwww
31.80名前が無い程度の能力削除
嗚呼、妖忌にも見せてやりたい
32.100名前が無い程度の能力削除
これはヤヴァイぜ…
銃弾どころかミサイルがごとき衝撃がはしる…

幽々子お母様~!!
34.100名前が無い程度の能力削除
可愛すぎて魂出そうw
人様のお家で出されたお菓子はいつもより美味しく感じるから不思議
37.100名前が無い程度の能力削除
クソ!幽々子に母性なんて危険なものを持たせたら
俺がどうにかなってしまいそうだ!
38.100名前が無い程度の能力削除
やべぇ…最高だよ…
39.100名前が無い程度の能力削除
乳!玉!楼!

>>あぁ! 今の私なら、母乳も出せそうな気がする! って言うかちょっと出た!
ちょっと吸いに幻想郷に行ってきます
52.90名前が無い程度の能力削除
乳玉楼をタグで入れない意味がわからないww